○福永(一)
委員 去る八月二十三日より五日間の日程で、本
委員会の所管になる公共
事業につきまして、大阪、京都、奈良、和歌山の各
府県下を
調査いたしてまいりましたので、その
概要について御
報告申し上げます。
本
調査は、主として近畿圏
整備法に基づく保全区域、淀川水系の桂川、由良川水系等の
河川の治水
対策の実情、並びに新大阪駅周辺土
地区画整
理事業の実情を中心に行なってまいりましたので、まず、近畿圏の保全区域の実情に関して申し上げます。
御
承知のとおり、近畿圏には史跡、文化財、国立公園その他自然的風致が数多く存在しております。これらは
わが国の長い歴史の中につちかわれた貴重な民族的資産であり、広く一般に認識されるとともに、長く後世に伝承されるべきものであります。
近年、
わが国経済の目ざましい
発展に伴い、企業の設備投資が盛んになり、これに従いまして、土地の価格が急騰し、ために、土地の開発が都心部から急速に近郊にスプロールし、各地に土地開発ブームが生じ、他方、国民所得の向上とともに国民の生活水準も高まり、消費景気となり、いわゆる
レジャーブームを生じ、
観光開発もまた盛んとなったため、史跡、文化財、自然的風致などが荒廃し、損傷し、各方面から憂慮されるに至ったのであります。
史跡、文化財、自然的風致の保全と
観光開発とは微妙な
関係にありまして、原形を保存する必要のある場所などはまた同時に観光資源として価値のある場所でもあるため、かかる場所は、昔日は徒歩、手弁当に精神修養の意義を認めたと思いますが、近時は、乗用車などで保養する傾向となってきて、そのための施設も次第に大規模化、高級化してきております。したがいまして、保全を要する自然的風致なども、観光用の
道路、建造物の
建設のため地形が変化するなどの損傷を受け、その他これらに
関連する公共施設にも直接間接の影響を与える結果となっております。
近畿圏
整備法には「文化財を保存し、緑地を保全し、又は観光資源を保全し、若しくは開発する必要があると認める区域を保全地域として指定する」制度があり、これに基づきまして現在、二十区域、約四千四百八十平方キロメートルが保全区域の指定を受けております。この面積は、近畿圏全域の約一二%に相当する広範なものであります。しかしこの指定は、単なる指定に終わるものであったため、去る第四十六
国会においてわれわれはその一部を改正して、「保全区域の
整備に関し特別の
措置を必要とするときは、別に法律で定める」ことができることといたしたのでありますが、法律の制定にはまだ日時が必要のようであります。現在、文化財保護法、都市
計画法、特別都市
計画法、自然公園法がわずかにそれらの損傷に対処しておりますが、これをもってしては、貴重な民族的資産を保全するにはあまりにも消極的であるといわざるを得ません。
われわれは、このため、修学院離宮周辺、比叡山周辺、奈良公園周辺、吉野熊野国立公園等を視察いたしてまいりましたが、修学院離宮におきましては、宮内庁が
計画的な入場制限によってその保全につとめていますが、総面積八万数千坪に及ぶ広大な管理は、予算その他の
関係で十分とはいいがたく、離宮内は別といたしましても、京都に普通見られる借景の構想は、周囲の開発されていく現状には無意味なものとなりつつあります。かつては上の茶屋から淀の川筋が望めたという優雅な離宮の周辺も、借景はおろか、次第に箱庭と化していくのではないかと思われます。
古都の保存ということから最近世論となりました京都駅前の京都タワー、奈良公園の奈良県庁塔屋等があげられますが、それは別としまして、奈良公園そのものにつきましては、公園の中には古くから市民の生活がありますので、将来市民の生活とは何らかの形で区画することを考慮する必要があるほか、公園の入り口が不明確であったり、公園の中に
国道が通っていたりしていること等、保全の上に数多くの問題を含んでおります。保全のため公園の区域を
買収するといたしますと、それには約三百億以上の経費が必要とのことでありますが、保全は反面現状維持でありますので、開発は
促進されません。したがいまして、
地元は経済的に大きな
負担となりますので、これに伴う補償
措置といたしまして、環境の
整備、
道路整備等は国において
措置することが必要ではないかと思いますが、それらを含め、今後の保全区域の
整備に関しましては法的
措置を早急にとることが必要ではないかと思います。
修学院離宮に隣接する比叡山は、西の四明岳、東の叡南岳、北の釈迦ケ岳、水井山を含め、その周囲十数キロメートルに及ぶ天台宗の霊山であります。
昭和三十三年に山中越より田の谷峠を経て尾根伝いに比叡山頂に達する約八キロメートルのドライブウエーが開通し、京都から五十分、大阪から一時間半で到達するようになり、比叡山はいまや関西の箱根といわれるほど変貌しております。現在このドライブウェーの終点から、釈迦堂、横川、仰木に至る
延長約十二キロメートルの奥比叡ドライブウェーが開発されつつあります。このルートはいまなお修験僧の道場となっている秘境でありまして、開発には一部識者の反対もあったと聞いておりますが、かつては皇室を檀家として一般庶民を近づけず、長く女人禁制を守っていた霊山も、宗教界の変遷によりまして、宗教と観光の二筋の道を歩んでいるわけであります。奥比叡ドライブウエーは、その企業内容から、文化財保護法や自然公園法、
道路運送法等の許認可が必要であり、以前、
建設省、
日本道路公団がマイクロウェーブ用のアンテナを
設置する際、京都側におきまして文化財保護
委員会で問題になったことがあるほどで、風致の保存につきましては考慮が払われていることと思いますが、他方、この有料ドライブウェーは
府県道に取りついており、その通過
交通のため
府県道は拡幅修繕等を余儀なくされております。また、奥比叡ドライブコースが開通いたしますと、県道仰木−雄琴線、
国道第一六
号線を経て琵琶湖大橋に至る観光
道路となりまして、
自動車等の通過
交通量の増大が考えられます。このドライブウエーは
日本道路公団の施行する
有料道路と異なりまして、
建設費の償還が終了しましても、一般
道路になったり料金の逓減は行なわれません。比叡のドライブウェー以外にも
道路運送法による
有料道路はありますが、これらの
道路は
府県道等、公共施設に及ぼす影響は大なるものがあります。したがいまして、
道路行政の見地から適切な
措置を講ずることも必要と思われます。また、当然のことながら、
道路建設の過程に生ずる多量の土砂については、砂防の見地から適切な
措置がとられるよう、行政指導等について万全を期すべきであると考えるものであります。
なお
道路運送法による
道路で、和歌山県
白浜町に明光
バス専用
道路がありますが、本
道路は、いまから約三十年前に沿道の土地開発を条件として
白浜町から借地したものであります。本
道路は、明光
バスの専用
道路のため、一般には
供用されておらず、また平草原という名勝地を独占しております。現在借地期限の問題で
白浜町と話し合いが進んでいるようでありますが、借地返還に対する補償問題が難点とのことでありました。しかし名勝地を
バス会社が独占することは、いろいろと問題もあるところで、かかる
道路は許可の際の条件として、ある期間がきたら公開
供用させる等、適切な
措置をすべきであると考えるものであります。
次に、治水
対策について申し上げます。
まず、当
委員会におきましてしばしば問題となりました淀川水系の桂川について申し上げます。
本川は京都市の北端大悲山山中を水源とし、京北町、亀岡市を経て保津峡より山城盆地に入り、南流して大山崎
付近で木津川、宇治川と合流し淀川となり、
延長約百十キロメートルを流下しております。本川は保津峡
付近に狭窄部がありまして、記録によりますと、上流地域に百ないし百五十ミリメートル
程度の降雨がありますと、そのつど狭窄部のため桂川が逆流し、亀岡市
付近の盆地に湛水するため、大きな被害が出ております。もちろんこの狭窄部を除却すれば被害はなくなりますが、下流部の京都市その他で桂川の水位が上昇し、下流部に被害を及ぼすことになります。
この
対策としまして、京都府では
昭和三十六年ごろ上流の天若にダムを築造する
計画を立てましたが、
地元の反対がありましてダム
予定地点の
調査もできない現状であります。われわれは
現地におきまして
地元民から実情を聴取いたしましたが、それによりますとダム
予定地点は天若のほかに二、三あるようですが、ダム
計画のための水没
予定地には約二百戸の住家があり、水没すると移転先がないという理由が反対のおもなものであります。しかしこうした動きのため、
地元民には精神的にあせりと不安が見えておりますので、
建設省としましては
地元住民の不安を一刻も早く除去するため、生活再建のための適切な
措置等を提示して理解と
協力を求め、早急に一貫した治水
対策を樹立するようつとめるべきであります。
次に、由良川水系の治水
対策について申し上げます。
由良川は、京都、滋賀、福井の三
府県境、三国岳を水源とし、美山町、綾部市、福知山市と約百キロメートルを西流し、土師川を合わせて約四十キロメートルを北流し、日本海に注いでいます。本川は上流部は渓谷、中流部の綾部−福知山市間はゆるやかな勾配、下流部は河口まで狭窄部となっております。
由良川水系は、最近に至るまで治水面の
対策がなかったといわれ、下流の洪水調節のため
昭和十八年に着手された大野ダムが、
昭和三十八年に
完成したという
状態であります。しかしこのダムによりまして、福知山市の
計画高水量を定め、
河川改修の
促進につとめていますが、福知山市から下流につきましては狭窄部となっているため、流域の住民は毎年水害を受けるに至っております。しかし上流部で洪水調節を行なうということは、地形その他から現状では困難なことでありますので、下流部の治水といたしましては、流量調節、河積の拡大、築堤等による一貫した治水
計画が必要であると思います。現在
建設省の直轄改修といたしまして、綾部市から河口までの改修が行なわれておりますが、綾部市から福知山の間及び人家の密集しているところは築堤により、その他はかすみ方式あるいは河道の掘さくによる
計画となっております。現在の低水路では毎秒三百立方メートルぐらいしか流れませんので、これを掘さくし拡大しまして毎秒五百ないし八百立方メートルぐらいを流し、浸水を防除しようということであります。
由良川水系の治水
計画の確立は、相対的に立ちおくれを見せている京都府北部の産業
発展、地域住民の生活水準の向上がはかれるものと考えられますので、地域格差の是正の点からも一そうの
促進が望まれるものであります。
次に、新大阪駅周辺土
地区画整
理事業の実情について申し上げます。
この
事業は大阪市が東海道新幹線新大阪駅の
建設に伴いまして、新大阪駅と都心部を結ぶ都市
計画街路御堂筋線の築造をはじめ、公共施設の
整備を行ない、駅周辺の宅地利用の高度化をはかり、副都心にふさわしい健全な市街地を造成するため約二百九十ヘクタールの区域について、都市改造を
目的とし、百四十七億の
事業費をもちまして
昭和三十六年から七ヵ年
計画で始めたいものであります。前年度は減歩緩和のための
用地買収を終え、本年度は仮換地指定を行なうとともに、建物移転、街路築造
工事等を実施し、都市
計画街路御堂筋線及び歌島−豊里線の
整備を進める
計画になっております。
この
計画に対しまして、
地元住民の一部から反対運動が起こっておりますが、反対運動の主たる内容は、施行区域には過小宅地が多く現に建物が建っておりますので区画整理方式による減歩が困難であります。したがいまして減歩相当分を金銭で清算することになりますが、貸家経営者はその清算金を家賃に転嫁しようとするため、借家人にしてみれば居住環境がよくなったり通勤途上が若干楽になる
程度で直接恩恵もないのに家賃が値上がりすることに反対し、小住宅の所有者は、新大阪駅ができても、御堂筋線が通っても、地価の値上がりという潜在的利益は別として、いますぐ直接的利益がないのに経済的犠牲をしいられるところにあるようであります。その他、
地区のきめ方に疑問を持ったことも反対の理由となっているようであります。
これらの諸点は今後の都市再開発に大きな問題を投げかけたといって過言ではありません。財政
負担が可能であれば
買収方式もよいと思いますが、これが万全というわけのものではありません。区画整理方式による場合は区域が過密
状態に至らない前に
事業を施行すべきでありまして、その時期と方法を誤るならばいたずらに反対と犠牲を生ずる結果となります。第二阪和その他の公共
事業が遷延しているのも同じ理由によるもので、人家の密集している区域の都市改造には、住宅政策、
道路政策等をあわせて
計画すべきであると思います。
最後に、大阪府の
道路関係につきまして、若干申し述べたいと思います。
大阪府はその面積が全国の都道
府県中最小でありますが、人口密度は平方キロメートル当たり三千五百四十人と
東京都に次ぐもので、これらの人口分布は大阪市より衛星都市への集中が激しくなっていく傾向にあります。
一方、
道路交通事情特に自動車
交通量の
増加は目ざましく、例を大阪市営
バスの平均運行速度で見ますと、年々下降をたどっており、現在平均時速十二キロメートルといった徐行並みの
状態となっております。大阪府ではこれらの
対策といたしまして新十大放射線、三環状
路線を
計画してその
建設の
促進をはかっております。
われわれはそのうちの
中央環状線を視察いたしましたが、これは現在の主要幹線がすべて都心部へ集中した放射
路線であるため、これら集中
交通を軽減し、都心部の通過
交通を迂回させる等、将来の
交通需要の見通しの上に立って対処したものであります。すなわち、大阪市周辺部の都市相互の
交通の円滑をはかるため、大阪国際空港、千里丘陵ニュータウン、名神高速茨木
インターチェンジ、国鉄新貨物駅、八尾空港、堺・泉北臨海工業地帯を有機的に連携させております。この環状線は起点を
池田市、終点を堺市とし、
延長五十五・八キロメートル、
事業費四百六十八億となっており、鉄道、
幹線道路との交差はすべて立体交差としております。また、
道路用地には八十数億の先行投資を行なっており、
全線開通の暁には直接間接の経済効果ははかり知れないものがあろうと思いました。一日も早く
完成を見たいものであります。
なお、視察日程中聴取いたしましたおもな陳情を申し上げますと、京都府下におきましては淀川水系上桂川の浸水常襲地帯の基本的
計画の早急樹立について、由良川水系の内水排除と下流の改修
促進について、
国道一
号線つけかえ
道路の新設について、
国道二四
号線宇治、城陽町地内
バイパスによる再改修について、
主要地方道園部−平屋線の全面改修
工事早期実現について、近畿縦貫高速自動車道
建設について。奈良県下におきましては、
国道二四
号線奈良
バイパスの早期
建設について、
国道一六五
号線大和高田
バイパス及び橿原
バイパスの早期
建設について、
国道一六八
号線の
建設省直轄
路線昇格及び
全線改修と完全
舗装の早期実現について、第二阪奈
道路の早期
建設について、室生ダムの
促進について、奈良国際観光都市
建設事業近鉄奈良駅−油阪駅間の
改良について。和歌山県下におきましては、第二阪和
国道の
早期着工について、
国道二六
号線バイパスの
早期完成について、
国道四二
号線白浜−新宮間一次
改良の
早期完成について、及び和歌山市内、海南市内、新宮市内二次
改良の早期実施について、
国道一六八
号線、同一七〇
号線の早期改修について、県道田辺−本宮線、並びに瀞公園線の
国道への早期昇格について、奥地等産業開発
道路の指定
路線の拡大と基準の緩和について、
昭和四十一年度以降
地方道路
整備国庫補助
事業費の大幅増額について、紀の川等
河川改修
事業及び砂防
事業費大幅増額について、公営住宅の超過
負担解消について、近畿圏
整備建設計画に基づく
事業について国の財政援助、補助率の増大について。大阪府下におきましては、国際博覧会について、過密都市
対策について、近郊
整備区域の
整備推進について、
道路整備事業の
促進について、琵琶湖淀川水系の総合開発について、淀川、大和川、猪名川の改修と高潮
対策事業について、寝屋川水系の改修について、大阪市内
河川高潮
対策事業について、下水道
事業について、工場等の疎開地の先行
取得について、公園緑地の
整備促進について、住宅
対策について、大阪港湾総合庁舎の
建設について。古都保存連絡
協議会から、古都の歴史的風土の保存に関する立法化の要望がありました。それらの多くは近畿各
府県の経済
発展に大きな影響を持つものでありまして、地域格差の是正あるいは後進性の打破に必要なものであると思いますので、
当局におかれましては、十分御
検討の上、善処するようお願いするものであります。
以上、要点のみを申し述べて、御
報告といたす次第であります。