○猪口説明員 この八月一日から二日にかけまして、大阪港並びに相模湾で海難事故が二件ございました。これにつきまして御報告申し上げたいと思います。
お手元にあります資料に基づきまして御報告申し上げます。
最初、
大阪港内におきましての「やそしま」と芦屋丸の衝突事件について御報告申し上げます。事件の概要は、八月一日、
大阪港内におきまして、大阪通船運輸所属の「やそしま」(二十二トン、乗組員四名、乗客五十五名)が、港内遊覧を終え、天保山桟橋に向け六ノットで航行しておりましたところ、たまたま、日立造船所所属引き船芦屋丸(百四十九トン、乗組員十名)が「やそしま」の左舷後方約二十メートルを桜島造船所に向け八ノットで航行中、突然右回頭を始めまして、午前十時四十五分、安治川信号所の二三九度、四一〇メートルにおいて「やそしま」の左舷後部に追突し、「やそしま」は瞬時に横転沈没いたしました。その際海上に投げ出されました乗客等は、芦屋丸及び付近船舶等によりまして四十二名、乗客三十八名、乗り組み員四名が救助されましたが、現場に急行いたしました大阪
海上保安監部巡視艇は地元の警察船、消防艇、大阪府警のアクアラング隊等と
協力いたしまして、行方不明者十七名の捜索等に当たりました結果、行方不明者は二日午前三時五十五分までに全員が死体となって揚収されました。死亡者は二十名でございます。乗客の五十五名中四十九名は、和歌山県橋本市菖蒲谷小学校の児童及びその家族で、犠牲者二十名中十九名までが同関係者でありました。これにつきまして
海上保安庁でとりました措置は、大阪
海上保安監部は一日十時五十分ごろ、情報を入手するや全所属艇に出動を指令するとともに、第五管区
海上保安本部に対しまして隣接
海上保安本部から応援を要請いたしました。大阪
海上保安監部巡視艇「しまかぜ」は一日十一時零分、また消防艇「しらいと」は十一時十分にそれぞれ現場に到着、直ちに捜索を開始し、自後次々に合計十一隻が現場に到着、捜索、現場の警戒、
調査等に当たりました。
大阪港長は潜水夫、アクアラング隊の水中捜索とクレーン船による「やそしま」の引き揚げの警戒のため、一日十一時以降、現場付近の交通の制限を行ないましたが、行方不明者及び「やそしま」船体の揚収によりまして、二日四時十分、制限を解除いたしました。
本件の捜査に当たりましては、大阪
海上保安監部が主体となりまして、大阪府警と合同捜査することとし、両船の船長その他関係者の取り調べを開始するとともに、芦屋丸及び「やそしま」の実地検証を実施しております。芦屋丸船長は、舵取り機及び機関の遠隔操縦装置の故障を最初は申し立てておりましたが、八月二日に行なわれました芦屋丸の実地検証におきましては、上記の故障が認められなかったので、同日午後七時四十五分、船長を業務上過失艦船覆没同致死傷罪容疑で逮捕し、引き続き厳重にその原因を究明中でございます。
これにつきまして本日までわかりました
状況をつけ加えて御説明申し上げますと、芦屋丸の船長については、まだはっきりと船長の操船のミスであるということを確認するに至っておりません。なお厳重に追及しておりますので、そのうち船長のミスであるかどうかということも、早晩はっきり判定できるようになると思います。
次に、大島付近海域の濃霧による海難について、お手元にある資料について御説明申し上げたいと思います。
八月一日及び二日両日の夜間から払暁にかけまして、太平洋高気圧から吹き込んでまいりましたあたたかい南風によりまして、伊豆大島及び銚子東方海域一帯にかけ濃い霧が発生し、このため一日早朝には、東海汽船会社の旅客船橘丸が、大島の岡田港口に乗り上げ、翌二日早朝には米国の貨物船アリゾナ号と油送船明興丸との衝突事件、またほかに衝突事件が二件、乗り上げ事件が一件発生いたしました。
そのうち貨物船のアリゾナ号と油送船明興丸の衝突事件につきまして詳しく申し上げますと、お手元の資料にもありますとおり、事故の発生いたしました日時は、二日の午前二時九分ごろでございまして、場所は大島と下田を結ぶ、ほぼ中間の場所でございます。「アリゾナ号」は
アメリカのステート・スチーム・シップ・カンパニー所属の一万二千七百十一トン、乗組員が五十七名、旅客十二名、雑貨等七千二百トンを積載いたしまして、横須賀からマニラに向かう途中でございます。片や明興丸は、横浜市の明和
海運会社の所属でございまして、総トン数九百九十五トン、乗組員十九名、お手元の資料に十八名と書いてございますが、その後判明したところによりますと十九名でございます。これは空船のままで四日市から千葉に向かう途中でございました。
この事故によりまして両船の被害
状況は、アリゾナ号は船首部両側に擦過傷がある
程度でございますが、明興丸は船尾部の約四分の一を切断されまして、船首部は転覆漂流し、現在サルベージ会社の手によりまして館山に曳航されて、本日はそれを巻き起こす段取りになっております。その結果、乗組員は一名救助されましたが、一名は死亡、それからけさまでにそのほか二名死体となって発見されております。行方不明が現在十五名になっておるわけであります。
事件の概要、救難措置等につきましては、二百午前三時三十八分、アリゾナ号が前記日時場所におきまして、漁船らしきものと衝突し、捜索中なる旨の緊急通信を発しました。その緊急通信によりまして、第三管区
海上保安本部及び下田
海上保安部は、直ちに巡視船「げんかい」及びビーチクラフ5〇2号機に捜索救助を指令するとともに、管下部署に該当漁船があるかないかという情報収集を指令したわけであります。巡視船「げんかい」は二日午前五時三十分下田出港、午前八時現場に到着いたしまして捜索を開始、またビーチは現場付近の濃霧の晴れるのを待ちまして、午後一時羽田を出発して捜索に従事いたしました。
その間、下田
海上保安部は午後二時三十分、大島警察署から警視庁を通じまして、伊豆箱根
鉄道所属の熱海−大島間の定期船伊豆箱根丸が午後十二時三十五分ごろ大島元町西方二・五海里付近におきまして、明興丸の二等航海士町田末義を救助し、大島に上陸せしめ、同人は岡田病院に入院、加療中である旨の情報を得ました。その後、昨日でございますが、この二等航海士につきましても、当時の
状況聴取を行なっている次第でございます。
その後、三管本部におきましては、明興丸警備救難対策本部を設け、本部長直接指揮のもとに事件の処理に当たり、巡視船「げんかい」「しきね」「むろと」と
航空機ビーチクラフト5〇2号機をもって救助船隊を編成し、捜索救難に現在も当たっております。
午後二時、巡視船「しきね」は、大島風早崎から二百六十九度、三・二海里におきまして転覆漂流中の船体及び無人転覆漂流中の救命艇、第一明興丸と記入いたしてあるものを発見、船体をハンマーでたたき、生存者の有無を確めましたが、何らの応答もございませんでした。なお、引き続き船隊による捜索を続行中でございます。
二日午後三時ごろ漁船第八上次丸が大島乳が崎西方三海里付近において水死体一体を揚収、大島警察に届け出ました。この水死体につきましては、巡視船が明興丸の乗組員の家族を現場まで運びまして、その水死体の確認に当たっております。
三管本部は午後三時アリゾナ号の代理店を通じまして、事情聴取のため本邦もよりの港に入港するよう該船に
要求いたしました結果、八月三日午前十時四十分横浜に入港いたしまして、自後三管本部におきましてこの間の事情を調べておる次第でございます。
転覆漂流中の船体は、先ほど申し上げましたが、甘糟サルベージの妙見丸によりまして館山まで曳航され、本日巻き起こす段取りになっております。
その他の海難は、別表のとおり五件ございますが、いずれも人命には異常ございません。ただ、橘丸及び第二日東丸につきましては、若干船体に損傷がありました。
このアリゾナ号につきまして、現在まで判明しております取調べ
状況につきまして御報告申し上げますと、まずアリゾナ号は、先ほど申しましたように、昨日の十時四十分に横浜に入港いたしましたので、直ちに実況見分を開始いたしました。損傷個所あるいは船首についておりますペイント等を採取いたしまして、その鑑定を警察に委嘱しておる次第でございます。また、直ちに船長、二等航海士、操舵手、見張り員につきまして、米人の弁護士、それから米国のコーストガード司令官の立ち会いのもとに、現在取り調べております。また明興丸につきましては、生存しております二等航海士につきまして取り調べておりますが、現在まで判明しております両関係者の供述によりますと、ア号につきましては、濃霧中でございましたが、十七ノットで走っておった。それから観音崎からずっと霧中信号は継続しており、また船首に見張り員を立てておった。前方にあかりを認めた瞬間には、もうすでに船首にショックを感じて、先ほど申しましたような大きな事故を引き起こしたわけでございます。レーダーは常に使っておりましたが、その明興丸らしき船影はレーダーには認めていなかったということが、アリゾナ号の船長につきましては取り調べで供述されております。明興丸の二等航海士につきましては、当時の当直は二等航海士と甲板長、それから甲板員、この三名でございましたが、たまたま濃霧のために船長は船橋をおりないで、そのまま船橋で指揮をとっておりました。そのため二等航海士自体は、船位またはコース等につきましては全然船長から話を聞いていないので知らない、ただし、その当時の速力は十ノットだつたということを申しております。明興丸は霧中信号を行なっておったようでございます。また衝突の直前におきましても、何回か他船の霧中信号は聞いておるようでございます。おそらくアリゾナ号の霧中信号だと思います。現在までわかっておる両船の関係者の衝突に関係いたします供述
内容は、以上のとおりでございます。なお、本日も引き続き両船の関係者につきまして取り調べを続行、責任の所在を追及する段取りになっております。
以上、大阪港及び相模灘付近の海難事故につきまして御報告を終わります。