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1965-03-17 第48回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年三月十七日(水曜日)    午前十時三十六分開会     —————————————    委員の異動  三月十七日     辞任         補欠選任      鳥畠徳次郎君     丸茂 重貞君      二木 謙吾君     鹿島 俊雄君      木暮武太夫君     川野 三暁君      大森 創造君     小柳  勇君      田畑 金光君     高山 恒雄君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         平島 敏夫君     理 事                 大谷藤之助君                 迫水 久常君                 日高 広為君                 村山 道雄君                 中村 順造君     委 員                 植垣弥一郎君                 植竹 春彦君                 江藤  智君                 太田 正孝君                 鹿島 俊雄君                 川野 三暁君                 久保 勘一君                 草葉 隆圓君                 郡  祐一君                 佐野  廣君                 白井  勇君                 田中 啓一君                 竹中 恒夫君                 野本 品吉君                 前田佳都男君                 丸茂 重貞君                 森 八三一君                 山崎  斉君                 木村禧八郎君                 小林  武君                 鈴木  強君                 鈴木  壽君                 瀬谷 英行君                 羽生 三七君                 松本 賢一君                 浅井  亨君                 中尾 辰義君                 高山 恒雄君                 佐藤 尚武君                 岩間 正男君                 市川 房枝君    政府委員        大蔵政務次官   鍋島 直紹君        大蔵省主計局次        長        中尾 博之君        大蔵省主計局次        長        澄田  智君    事務局側        常任委員会専門        員        正木 千冬君    公述人        一橋大学教授   木村 元一君        京都大学教授   桑原 正信君        日本労働組合総        評議会政治局長  安恒 良一君        日本医師会常任        理事       川合 弘一君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和四十年度一般会計予算内閣提出衆議院  送付) ○昭和四十年度特別会計予算内閣提出衆議院  送付) ○昭和四十年度政府関係機関予算内閣提出、衆  議院送付)     —————————————
  2. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  まず、委員の変更について御報告いたします。  本日、鳥畠徳次郎君、二木謙吾君が辞任され、丸茂重貞君、鹿島俊雄君が選任されました。     —————————————
  3. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 公聴会の問題は、昭和四十年度予算でございます。  本日、午前はお二人の公述人の方に御出席を願っております。  これから順次御意見を伺いたいと存じますが、その前に公述人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙にもかかわらず、本委員会のために御出席いただきまして、まことにありがとうございます。委員一同にかわりまして厚く御礼申し上げます。  当委員会は、昭和四十年度予算につきまして、本月四日から慎重なる審査を重ねてまいりました。本日及び明日にわたる公聴会におきまして、皆さまから有益なる御意見を拝聴することができますならば、今後の審査に資するところまことに大なるものがあります。  それでは、これより公述に入りますが、議事の進行上、お手元にお配りしてございます名簿の順序に従いまして、お一人三十分程度で御意見をお述べ願いまして、そのあとで、委員から質疑がありました場合、お答え願いたいと存じます。  それでは、まず木村元一公述人にお願いいたします。
  4. 木村元一

    公述人木村元一君) ただいま御紹介いただきました木村元一でございます。きょうは一橋大学教授として意見を求められておりますので、そのつもりでお話しいたします。別に政府関係では税制調査会の一委員でございまして、昨年の暮れに長期税制に関する答申を取りまとめるというようなことをさせていただきましたので、若干、どういう立場で述べるべきかということを思案したのでございますが、本日は個人として、主として意見を述べさしていただきたいと思います。で、時間の関係もありますので、昭和四十年度予算につきまして意見を述べますにあたりまして、大きく、予算規模の問題とそれから税制改正の問題、この二点に大体しぼりたいと思います。時間がございましたならば、若干、公債の問題について、私の考えを述べたいと思います。  まず、規模の点でございますが、ことしの総予算の案を拝見いたしますと、三兆六千五百八十一億でありまして、三十九年度の当初予算に比べて約四千二十六億円の増加比率が一二・四%であります。この比率だけで申しますと、皆さん御案内のことかと存じますが、例年に比べて増加率は小さくなっております。昨年は一四・二、それからその前が一七%、三十七年は二五%、三十六年は二五%、これに比べますと相当低い増加率で押えてある。また、国民所得に対する歳出比率で申しますというと、国民所得の一六・一%に当たっております。この数字は三十七年の一六・二、三十八年の一六・七に比べて若干小さく出ておりますが、これはあとでまた追加補正がありますと少し変わってまいりますので、確実なことは申せませんけれども、昨年の一六・四に比べて、まあまあ横ばいないしは少し低下の姿勢にあるようであります。  で、経済成長率は、最近の日本の十年来をとりましても非常に高うございまして、ある資料によりますというと、物価の騰貴を考慮いたしましても、ここ十年間平均して約一〇%程度経済成長を遂げておりまして、この数字はおそらく世界でも例がないたいへん大きな数字でございます。このような背景におきまして、予算規模が対前年比一二・四%の増に押えられたということは、ことしの編成方針に出しております健全均衡財政を堅持しつつ予算規模圧縮をはかるという趣旨に照らしまして、ある程度忠実であったように見えるのであります。当局でもずいぶん苦労をされたことでございましょう。しかし、一応そういうふうに見えますけれども、ここで注意しなければならぬ点が一、二、目に立ちします。  その第一は、列国の予算内容に比べまして、わが国の場合には国防費予算というものが非常に小さい。私は大きくなることを望むというわけでは決してございませんけれども、現実の問題といたしまして、ことしの予算では総予算の八・二%程度国防費で済ますことができるという事情にある。よその国の予算膨張、あるいは戦前の日本予算膨張に一番大きな影響を持ったのは国防費増加圧力であります。こういう圧力日本の場合にはないという事情がある。つまり予算圧縮をはかろうと思うならば、比較的に、相対的に容易な状況にあるという事情一つあります。  それから第二番目には、一般会計規模膨張を抑えるという予算編成方針にのっとることをまつ正直にやったかといわれると、少し疑問が出てくるという点があります。つまり、ことしは財政投融資計画膨張一兆六千二百億、対前年比約二割一分、二〇・九%の増、それからいろんな計画が、あとで述べますように、ことしは頭だけを出しておりまして、地方財政その他にかなり大きな圧力がかかるような形になっているんではないか。少し横道へそれますが、予算規模圧縮するために、特別会計をつくってそちらで経理をする、一般会計から落としてしまって、規模が小さくなったようにするといいますか、結果としてそうなるといいますか、ということ、あるいはまた起債という形の調達について政府めんどうを見て上げて、場合によりますと、利子補給をするとか、あるいは政府保証をつけて調達を容易にするとかいう方式は、実はいままでも健全財政主義というワクの中で、おいおいに拡張されてきたのでありまして、これをことしの予算についてのみ言うのは少し間違っているかもしれませんけれども、しかし、昭和四十年度予算につきましては、この傾向がひときわ顕著に出てきているように見えるのであります。  なお、ここで少し横道へ入りますけれども、大体予算規模を測定するということは、私ども数字を幾らか取り扱おうとか、あるいはよその国と比較しょうとかいう立場で見ますときは非常にむずかしい問題でございまして、書類になった総予算という形のものだけでは予算規模の測定はできないのでございます。さらに、その予算規模が適正であるかどうかということを判断するということになりますというと、これは、ある意味では非常に困難な問題であり、高度に政治的な判断の問題でございます。したがって、財政学を学んでいるから適正な財政規模指標なり、何か基準を示すことができるかと言われましても、お答えがなかなかできないのでございます。ことに個々の歳出予算の中身に入りまして、この経費が多過ぎるとか、この経費が少な過ぎるとかいうことをかりに申しましても、やはりある程度政治的な立場に立った判断にならざるを得ません。しかし、全体としての財政規模をはかり、かつその適正、非適正を考えていきます場合には、幾らか指標を使い、数字を使うこともできようかと思うのであります。元来、財政規模というものを問題にする趣旨は、政府民間との間で資源の配分関係をどういうふうにしていくかという問題に帰着するかと思うのであります。それが適正であるか、あるいは大きいか、小さいかということは、いま申しましたように、非常に政治的な判断要素が含まれてはおりますけれども、たとえば一例をあげますと、最近のように自動車が非常にふえてきている。民間自動車産業がふえる、またオーナー・ドライバー、あるいは商店の自家用車というものが非常にふえてきている。その活動民間活動と見合いに、今度は道路状況を見てみると、これは道路のほうはパブリックセクターというのですか、公のほうで仕事をしているわけです。これとのアンバランスがだんだん目立ってくる。そうすれば自動車事故がどの程度発生するか、交通戦争といわれるような状況で、毎日死ぬ人が五十人も六十人も出てくるというような指標からして、これはパブリックセクターのほうが少しおくれているとか、足りないのだというようなアンバランスが目立ってくることになるのでありますし、また、国民所得の総体をとりまして、それと財政規模との比率を当たってみる。じゃあ財政規模比率というその規模は一体どうしてはかるのか、それが私どもの一番関心が深い問題でありますが、土台にはいま言ったパブリックセクター活動というんですか、あるいは行政水準といってもよろしいかと思いますが、そういうものがございまして、それをどうするかということはかなり政治的な要素が入ってくるのであります。  これがそのままでは財政の問題にはならないんで、行政活動をやっていくにつきまして資金が必要になってくる、それを予算面に反映させる仕事が中に入ってくるんでありますが、しかし、ある行政水準があればそれに対応して必ずある一定額財政支出が伴うかというと、これは御案内のとおりそうじゃございませんので、その財政需要金額に反映いたします中間にいろいろな要素がある。その第一は行政能率ということで、同じお金を使いましても相当にやれるやり方もありましょう。これは行政改革その他政府行政担当者のモラルの問題、いろいろあろうかと思うのでありますが、能率の問題が一つそこへはさまってまいります。それからさらに、需要を発現させる。発現というとことばがちょっとわかりにくいかもしれませんが、これだけの仕事をするについてこれだけの金額になるという、持っていき方がいろいろあろうかと思うのであります。  まず、ある仕事をするにいたしましても、実質的な経費といいますか、お役人を雇い、品物を使って、財なりサービスを使って仕事をして、行政水準を維持するということもありましょうし、あるいは他に補助金を出すとか、移転的な経費を出すことによって、つまりお役人のほうの給料とかあるいはこれに要するいろいろな物的な資財というものは使わないで行政水準を達成していくという道もあります。さらに、移転的な経費の中にも、いま言ったような目で見てまいりますというと、平素あまり気づかないようなこともこの中へ入ってくるのでございます。  その一つは、税金を取らないという形でもって行政水準を維持していくということが考えられる。いわゆる税の特別の措置というものは、こういう目で見ますと、一種の補助金支出と同じことになる。あとで触れますけれども資本の蓄積が必要である、輸出の振興が至上命令である、そういう政策目標に対して政府が何かするというときに、積極的に補助金を出す、あるいは積極的にジェトロを活躍させるために政府お金を出すというのではなくて、税の減免を行なうという形で行政活動を維持していくということも一つ含まれてくると思いますし、それが移転的な経費の範疇で考えられる限界の非常に遠いところでありますが、一つございます。  それから、先ほどちょっと触れましたことでございますが、市中金利で借りれば一割なら一割、八分なら八分の利子が必要であるときに、政府めんどうを見て、極端な場合にはただの資金を提供するとか、あるいは利子補給をしてやるとか、こういう形で、お金が出ないような形ではあるけれども——出ないといいますか、使っている。やっておる行政水準を維持するために、普通ならもっとたくさんかかるであろうと思われるようなものを、いま申しました利子補給のような形でやれば、ある程度能率の高いといいますか、その場限りで見ますと非常に能率の高い支出になってまいります。ですから、単年度だけで見れば予算規模が縮小しておるように見えておっても、これを五年なり十年なりの間で考えていきますというと、実は予算規模、つまり行政活動というものは非常にふえているというところでつかまえた予算規模というものは大きくなっていることになります。  それから、第三番目は、これもたいへんいま問題になっておることでありますが、政府公益事業企業を営んでいる、公営企業を営んでおるという場合に、コスト以下の料金をきめまして、その差額をいろいろつじつまを合わせていく。ある場合には借金のこともありましょうし、ある場合には予算に計上された形で、補給金ということで一般会計から持ち出すということもありましょうが、いずれにいたしましても、低料金であるがためにコスト以下の公共料金の定め方による予算規模の隠れた膨張といいますか、そういうものが考えられるのであります。  そういうわけでございますので、去年と比べてことしが先ほど申しました一二・四%の膨張ほんとうに済んでおるのかどうかということは、もっと詳しく計算をし直してみないというと何とも言えないのでありますが、こういうわけでありますから、単に一般会計だけがある程度押えられたからといっても、すぐそのままこれを額面どおりに受け取るわけにはいかないのであります。この点はあとでもう少し触れることにいたします。  次に、予算圧縮をはかりながら実はなかなか圧縮ができないというこの今日の状況というものを考えてみますというと、池田前首相のときから高度成長政策がとられまして、これのひずみが、あるいは貿易面に、あるいは金融面に、あるいは社会面に、いろいろ出てきておりまして、内閣の更迭と同時にこの是正ということがだいぶ強く主張せられるようになりました。予算を編成いたしますときに、抑制方針にもかかわらず、いろいろな要求が出てこざるを得ないのであります。首相がおかわりになりましてから急なことでもありましたので、十分な検討が足りなかったのかもしれませんが、ただ、私ども今度の予算を見ておりまして、何か場当たり的な、あれもこれも必要だという形でいろいろな経費が頭を出してきておるという感じを持つのであります。これも従来からしきりにいわれておったことでありますが、公共事業にいたしましても、あるいは給与ベースや恩給の改定、さらには災害の復旧とか環境衛生社会保障、こういうものの計画がどうも財政上の十分の考慮を行なうことなしに計画が立案され、それが実行の段階に来て大蔵当局との交渉がうまく進まないので削減された形で、しかし頭だけは出す。頭を一たん出しますと、それに応じて法律ができまして、その法律に基づいて経費膨張がだんだん目に見えた形になってくるということは、これは従来もしきりにいわれたのであります。これがほんとう意味での財政運営弾力性というものを失わさせている。  その点が先ほども触れて、前置きの形でいろいろと申しましたことと関係があるのでありますが、ことしの来年度予算では、いま申しました傾向が非常に強くなってきておるように見えます。なるほど初年度負担ということだけで申しますというと、予算上たいした金額ではございませんけれども、これを、この支出を基礎づけるような法律ができますと、将来大きな負担となってくる、こういう性質のものが相当多く出ておるのであります。  一例をあげますと、新産業都市建設のために、これも御案内のとおりかと思いますが、ことしの予算では、起債利子補給はわずか八千百万円でございます。けれども、いろんな新産都市の建設に必要な事業に対する補助金であるとか、それにくっついてくる起債であるとかの増加していく姿というものはかなり急激でございまして、ある計算によりますというと、昭和五十年には利子補給だけで七百億円になるのではなかろうか、こういうことがいわれております。さらに、農地管理事業団であるとか、八郎潟の新農村建設事業団であるとか、あるいは住宅供給公社であるとか、やはり初年度に頭を出した分というものは非常に少ないのでありますけれどもあとをしばるような形の予算がここに出ておるということを、私どもは何か少し危惧の念をもってながめているのであります。  確かに利子補給政策というものは非常に便利でございますが、危険でございます。もし利子補給の形というものが便利であるということで皆様方が安易におたよりになりますと、おそらくは、単にいま申し上げた項目のみならず、鉄道の料金を決定する際にも利子補給というようなことを考えようではないか、石炭対策についてもそういうことを考えようじゃないかというふうに流れていくどうも心配があるのであります。これは杞憂であれば幸いだと思います。  要するに、昭和四十年度財政規模は、行政活動の大きさを財政需要に表現するにあたってかなり無理をしておる。率直に一般会計増加させるならさせる、そのために増税が必要であるならば必要であるということを天下に公言してしかるべきであるのを、何か糊塗している。そのために、表面上ある程度膨張が押えられたように見えるけれども、実質は相当大きな膨張になっておる。これは注意すべき点ではないだろうかと思います。これが財政規模に関して私の持ちました意見でございます。  次に、財政需要が表現されてまいりますと、それに見合うだけの財政の収入が獲得されなければならなくなってくるわけであります。これについても、いろいろ申し上げたい点があるのでありますが、先ほど申し上げましたように、時間の関係がありますので、税制改正について若干申し上げます。  税制改正も、これまたいろいろな方面にわたっておりますけれども、ごく大まかに、今度の税制改正意味といいますかを申しますと、税制調査会長期答申を出したときに考えておりましたことは、財政規模増加というものをある程度認めていこう。従来は租税負担率国民所得の二〇%という線でくぎづけにしておる。したがって、財政需要の税による調達というものは、国民所得が伸びた、その伸びた割合だけしかふえないような形で考えておったのであります。けれども、これは社会保障とか、公共事業民間公共とのバランスの問題を考えていくというと、相当程度までは税をふやしても財政規模を少し膨張させることを認めるべきである。かつまた、同じ租税負担率でございましても、インドのような非常におくれた貧乏な国では、一割の租税負担でも非常に過酷であるけれども日本であれば、二割が二割一分になっても二割二分になっても、そう心配する必要がないであろう。最近の経済成長状況を考えてみると、少しはふえてもいい、しかし無制限にふえては困るというようなところから、自然増収の、大体当初予算で二〇%、それがいままでの経験では、大体決算ベースでいきますと二五%くらいになりますが、その程度減税をしていくことをめどにすべきである、こう考えたのであります。  しからば、どの税金もすべて自然増収分の二割ずつを減税するかというと、それは税の本質から考えておかしいことなので、やはり税ごとにいろいろ考えなければならぬ。その場合に一番大事なことは、やはり租税負担の公平ということであり、租税負担の公平というのは担税能力に公平だということであります。これを幾らかでも実現していかなければいけない。一部の人々の間では、学者や税制調査会というものは租税の公平、租税の公平と十年一日のごとくつまらぬ議論をしておるということをおっしゃる人がおります。そういう方々にも申し上げたいのでありますが、一体租税から公平ということを抜きにした場合に税金たり得るであろうか。それでなくてさえいろいろな事情租税の公平が無視され続けておるのでありまして、私どもまでが、いやもう税金は取れるところから取ったらよろしいのでございますというようなことを主張するような状況になった場合を考えますと、私は日本資本主義体制社会秩序も大きくくずれていくのじゃないかと考えております。  少し口幅ったいことを申し上げて恐縮でございましたが、で、自然増収がどこから出てくるかということをしさいに見てまいりますと、大体が所得税。これは累進税になっておるために、非常に強くふえてくる。自然増収の、いま正確な数字は忘れましたが、六割とか七割分は所得税関係税金自然増収が埋められておる。これをほうっておくならば、おのずから非常に高い租税負担になってしまう。そこで、税制調査会では、所得税につきまして、平年度千二十五億円、初年度八百九十億。それから、私は法人税減税には個人的には反対でございますが、税制調査会では、平年度二百八十億、初年度百六十億、こういう減税案を出したのであります。しかるに、他方、先ほど申しましたような特別減税措置というのは、ある意味では財政規模膨張と同じ意味を持つ、補助金支出と同じ意味を持つ、こういう考え、といって、私が税制調査会でそう主張したわけではございませんが、そういう観点から見まして、税制調査会が特別措置圧縮をはかったということは、私の気持ちから申しましても、大いにわが意を得たところであったのであります。ちょっと話がごちゃごちゃしましたが、一方で所得税減税をやり、他方では租税特別措置の廃止または縮小ということを答申しております。それによりますと、利子のほうの源泉分離一本やりというものをいままで五%でやりましたものを、これを一〇%にいま戻す、それが増収になって出てまいりまして、初年度三百三十五億、平年度四百億の増収になる。配当につきましても、源泉課税分を五%から一〇%にするということその他によりまして、これは初年度のほうが多いのですが、百六十億、それから平年度四十五億の増収をはかる。いろいろ他に答申の中に盛られておりますが、一番大きな、また、問題になりました改革案はこの点にあったと思うのであります。ところが、これがいろんな経過をたどりまして、自民党の税制調査会あたりでは、まだかなり筋の通った議論がされておったようでありますけれども、どこか上のほうにいきましてたいへん何か様子が変わってしまいまして、利子のほうでは、平年度四百億の増収のかわりに二十億の減収になるような案をとられる。それから、配当につきましても、平年度四十五億円の増収になるはずのものが、むしろ百億円の減という形になって出てきたのであります。このしわ寄せがある程度所得税のほうへまいりまして、税制調査会答申案よりも低目の所得税減税案が出てきておるのであります。どうもだいぶ時間が超過しておりますので申しわけありませんが、これはもう何度も言うことでありますが、租税特別措置にしても補助金にしても、それ自体をとりますとそれぞれやはり意味がございます。決してもうそれがなくてもいいのだということは一がいに言えないのでございますけれども、ただ、それあるがために他の納税者の負担増加させておるのだという意識がどうも少ないように思う。そういう意識というものは、政治的にはいろんな経路を通って反映されてくるのでありますから、声の小さいところは何かちっとも負担金を重く感じていないような錯覚に見舞われる。ですから、もしそういう租税特別措置による減収あるいは減税がなければ、他の納税者の負担を軽くするとか、あるいは他の重要な行政活動をささえるための経費としてこれを支出するか、そのいずれかが可能になるのでありますが、そのいずれにも優先して補助金的な減税措置をする必要があるかどうかということになりますと、三つの基準というものが必要になってくるのであります。それは掲げた政策が合理的なものであるかどうか。それから、その政策を達成するのに補助金的な減税が有効であるかどうかということ。第三には、その有効な効果を達成するためにいろいろな弊害が出てまいりますが、その弊害よりもその効果のほうが大きいかどうか、その三つのテストが必要だと思うのであります。このテストにかけてみますというと、多くの特別措置というものは私はなかなかこのテストに合格をしない、資本蓄積のための減税ということは、私どもの分析では資金の流れる方向を変える効果はある、銀行のほうを優遇すれば銀行預金のほうにくる、株のほうからそちらへ回ると、まあまた逆にすれば逆の関係になる。こういうことはあろうかと思うのでありますが、貯蓄の総量はむしろ国民所得との相関関係にあって、決して租税的な措置によって特に貯蓄がふえたとか減ったとかいう事実はどうしてもつかめないのでございます。そういうわけで、私は今度の税制改正は、眼目の点において税制調査会答申から大きく離れておるし、また、私個人の立場から申しますと、税制調査会答申自体が、当時の政府筋の意向をある程度そんたくしながらこんなにドラスチックな案をつくったのでは通らぬだろうから、ここはここまで引き下がった形にしておきましょうという、ある程度の妥協が加わったものであった。そういう点を考えると、せめて調査会の答申程度のところを採用していただければよかったのではないか、このように考えております。  もうほんとうに時間をつぶしまして申しわけありませんが、公債についてはついにお話をする時間がございません。私は公債発行論者でございます。しかし、誤解のないように申しますが、公債発行をするためには売れる公債を出さなければいけない。そのための準備がどうも十分できていないように現在私が考えますので、ただ公債を発行したらいいという議論とは違うので、その点をちょっと申し上げて私の公述を終わりたいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
  5. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ありがとうございました。  それでは木村公述人に御質疑のおありの方は、順次御発言願います。
  6. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 非常に貴重な御公述をいただきまして、ありがとうございます。御礼を申し上げますが、大体木村先生の御公述の点、財政規模税制、まあ公債についてはまたいろいろとあると思いますが、大体においてわれわれの納得し得る御公述だと思うのです。特に税制については非常に遠慮されて御発言なされていると思うのです。それで、たくさん質問したいのですが、時間の制約がございますから、焦点をしぼってなるべく簡潔に御質問申し上げたいと思うのですが、第一は、財政規模の点で、先生の御所見は大体私は納得のいく理解を得たのですが、その中で、特に三十九年度、また、それ以前の財政規模と四十年度財政規模を比較する場合に、非常に一つ違った点があるわけです。これはまたあと税制改正とも関連があるのですが、特に四十年度は食管会計ですね、食糧管理特別会計で大体消費者米価一四・八%上げまして、三十九年、四十年通じまして千五百三十八億ですね、国民負担をふやしているわけです。これはまあ増税とは違いますけれども、やはりそれだけ節約したわけなんです。財源難をそういう国民に転嫁することによって。それから医療費の九・五%の引き上げによって、これは政府委員に聞きましたら、大体四百億ぐらい国民負担がふえる、私はもう少しふえるように思うのですが、それだけで大体約二千億近い一種の増税みたいなものですね。先ほどの先生のお話で、いろいろ三点ばかり指摘されまして、実際の表面の財政規模だけでは正確に行政水準の把握はできないのだと、実際にはもっと膨張しているのだと、増税をやるならはっきり増税をやってまかなうべきだ。ところが、いまお話をしたような形で増税を私はやっていると思うのです。この点が一つです。これはひいては税制改正とも関連があるわけですが、消費者米価の引き上げ、あるいは医療費の引き上げをやらないように、たとえば租税特別措置のほうを勘案できなかったかどうか、それは全然消費者米価を上げない、全然医療費も上げない、それで二千億全部まかなうということになると、租税特別措置を全廃すれば約二千百億くらいの財源がありますけれども、そう極端なことを言わないまでも、租税特別措置のほうにつきまして、少なくとも税制調査会答申どおりの税制改正をやれば、政府案より大体初年度四百億くらい、平年度六百億くらいよけい収入がとれるのですから、それを私は非常に問題にしたわけです。その点が一点。  それから、第二は税制改正の問題ですが、先生は自然増収の大体二割程度、まあ初年度、平年度二五%程度減税が至当であるというお話でしたが、これは物価との関係をどういうふうにお考えになっているか、お聞かせ願いたいのです。昭和三十八年に中山会長のときのいわゆる物価調整の問題ですね、あれですと、大体あのときの所得の伸び率、税の弾性値、それから物価の伸び率、この三つを合わして二九・八になる、約三〇%になる。ですから、物価の値上がりいかんによっては二〇%では物価調整にも足りない、こういう場合も私は生じてくるのではないか。ですから、税制調査会が御答申なさるときに、物価の問題についてどういう御見解を持たれるか。ですから、物価がどんどん上がれば単なる名目的減税になってしまいまして、実質的減税になかなかなりませんから、物価は大体横ばいと前提するとか、また、この程度上がったときにはこのぐらいの物価調整が必要であるとか、これだけの何か御配慮が必要じゃないかと思ったのですが、この物価との関係とあの自然増収の二〇%の減税、これを一つ。  それから第二は、法人税につきまして、先生はさっき、日本の場合、税制調査会としては減税する必要はないというお話でありましたが、私は、大法人につきましては確かにその必要はないと思いますが、この実効税率について諸外国と日本と比較した場合に、日本のほうがかなり国税、地方税を通じまして、非常な租税特別措置がございますので、諸外国より日本のほうが安いように思うのですが、その点の御所見承りたい、法人税につきまして。  それから第三点は、所得税のほうは八百九十億の減税答申されたわけです。四十年度税制調査会は。政府は八百二億にしてしまった。これがやはりさっき先生のお話の租税特別措置のほうで、利子、配当のほうで税制調査会答申よりは増税分を少なくしてしまった、そのはね返りが所得税のほうにきてしまった。その差額約九十億、八十八億、これは実は大蔵大臣に質問したところが、大体九十億程度は——八百二億も八百九十億も大体同じくらいじゃないか、こういう御答弁なんです。それで税制調査会答申を尊重しているかという質問に対して、政府は、唯一の根拠は、大体四十年度減税規模自然増収の二〇%近い一九・何%で、それが税制調査会答申を尊重した、こういう理由になっておるのですが、しかし、この点所得税利子、配当の減税措置によって減らされておるという点ですね、これは非常に問題だと思うのですが、もう一度この点先生にひとつはっきりお伺いしたいのです。  それから、租税特別措置につきましては、税制調査会の基本現制のあり方につきましての答申は私はよく読ましていただきました。非常に私は読ましていただいた範囲ではいい勉強をさしていただきました。特に先生はそこの委員をやられておるわけですね。長期税制のほうの委員であるわけです。私は、先ほど先生が公述されましたように、特にこの租税特別措置の点については、政府税制調査会意見を尊重しないどころか、逆行しておると思うのです。逆の方向に行っておると思う。利子につきましては、税制調査会答申では、一応五%を一〇%に源泉で上げて、それで源泉選択の場合には二〇%ということになっておるわけです。これは私は基本税制のあり方に対する一歩の前進だと思うのです。経過的措置として。ところが、政府のほうは全然そうではなくて、ただ五%を一〇%に源泉徴収率を上げて、しかも、非課税限度を五十万円から百万円に上げておるのです。私は、非課税貯蓄の一人当たりの資料を見ましたら、大体十四、五万円なんです。したがって、五十万円あれば私は十分だと思うのです。それをなぜ百万円に上げたか、この点についても先生の御所見を伺いたいと思うのです。  それから、特にこの配当につきましては、私はこれは少し極論かもしれませんが、憲法十四条にも違反するんじゃないかと思うのです。憲法十四条は、もう御承知のとおり、政治的、経済的、社会的に差別されないということで、特に一銘柄について五万円まで確定申告しなくてよろしいというようなこと、それから一五%で源泉選択にしまして、とうとう分離課税を導入してしまった。これなどは、私は非常にこれは税制調査会の基本税制のあり方に対する答申ですね、見ますると「利子配当課税の特例等資産所得に対する租税特別措置は、一部の高額資産所得者を著しく優遇するものであって、この措置に伴って生ずる弊害が大きく、しかもその弊害を償うに足るほどの政策的効果も実証し難いので、これを廃止すべきものと考えられる。」と、非常にはっきりと答申されておりまして、しかも、いまの先生の公述によりますと、政策的効果も実証しがたい、こういうことになっておる。私は何回も大蔵大臣にこの配当、利子減税したときに、ほんとう資本蓄積に役立つのか、実際にその効果があるのかどうかを証明する資料があるのかと言いましても、全然お話にならず、受け付けない、ただ、自分は、そういう、どうしてもそれに反対だ反対だというだけで、実際的には出されておりません。先生も御存じのように、大蔵省で非常に長い間かかって、利子課税と貯蓄との関係、必ずしも関連がない。ただ資金の移動には影響があるけれども、やはり貯蓄の増加は可処分所得増加に比例している、そういうことを幾ら言っても、政府が、納得できる答弁をしていないわけですよ。そこで、その点、これはいろいろな新聞の論説等見ましても、それから新聞の投書等拝見しましても、この配当の分離課税に対して、非常な大きな不満を一般の人は持っていると思うのです。これは、今後の納税モラルに非常な悪影響を及ぼすと思うのですね。この点について、私は、税制調査会委員でも先生あられますので——税制調査会は、何のために税制調査会をおつくりになったのか。政府答申を尊重しないどころか、それと反対のことをやるのでしたら、全部税制調査会委員はおやめになるべきじゃないかと思うのですね。私は、そのぐらいの決意をされなければ、税制調査会の権威は全く無視されたものだと思うのです。われわれ国今としましても、税制調査会つくって、政府答申を得てそれを尊重すると、しかしそれが、政府は尊重をしないで、まるで逆のことをやるのだっから、われわれも税制調査会を必要としないように考えられるのですね。せっかく私は、税制調査今は、こういういい基本的税制についての答申を去れ、これに基づいて四十年度税制改正も経過措置的に——一挙にはまあこの答申どおりいきませんが、とにかく、私は、非常に妥協点がたくさんあって不満ではありますけれども、とにかく一応——一応、筋を通された。所得税については、中堅所得者の税率につきましても軽減すると答申されている。私はこの点については、先生はかなり遠慮された御発言のように思うのですけれども、これは私は非常に問題ではないか。今後の日本税制について最も重大な問題だ。  それから最後にもう一つ。間接税につきまして、田中大蔵大臣は、日本の税体系として必ずしも直接税中心に固執する必要がないのだ、やはり間接税というものをその中心的な税制として考える必要がある。あるいはフランスの例等欧米の例をあげていわれましたが、税制調査会答申では、日本の基本税制のあり方としては、大体所得税中心が理想であると。それから間接税は現在程度が妥当であるという、こういう答申になっております。この点につきまして最後に御質問をいたします。
  7. 木村元一

    公述人木村元一君) 質問が七つほどございましたようでございます。むずかしい問題が多いので、簡単に言えるかどうかわからないのでありますが、この食管の赤字あるいは医療費の問題、これは私個人の考えでは、米価の決定の問題であり、もし米価が一石について一万五千円の価値があるものならば、消費者に対して一万五千円徴収して赤字を解消するというのは当然ではないかと、まあ私は個人的にそう考えております。ただその米価の決定の過程において、どういうことがあったかということについては、私は疑問がありますし、他の公共料金につきましても、これはほんとう税金を持ち出してでもやるべきものであるかどうかということについて、もう少し判定をよくやっていただきたいと、こんな感じでございます。無理に赤字を押えながら、公共料金なるがゆえに上げないという形は、資本主義経済を前提とする限りですね、ちょっとおかしいんじゃないかと、したがって、このほうの赤字埋めのために米価を引き上げたことが、国民負担増加を来たしたのではないかというお話ですが、これはもしその米価が不当にといいますか、市価以上のものであれば、これは国民の一方からとって、農民のほうに分配しているという形の食糧政策が行なわれておるのでありまして、特に国民負担がそのために——もう一度申しますが、米価が正しいかどうかというところに私は問題があると、もし正しければ、値上げをするのは当然と言ってもいいくらいに私は当然だと、私個人はそう思っております。  それから自然増収の二〇%ということは、一体物価騰貴というものを考えておるのかどうかと、これは物価騰貴が所得のほうにどういう形で表現されてくるか、それがまた課税所得となり、税収となっていく過程において、いろいろなファクターがございますから、物価騰貴が、たとえば日常生活品のみについて物価騰貴が起こっていると、しかし、国民所得のほうは、その人たちはあまり伸びないで、ほかのほうで伸びているという問題が起こってまいりましたときには、確かに問題なんでございまするが、しかし、私どもの考えましたところでは、二〇%減税に回していけば、正確な数字は覚えてないのですが、五年ぐらいたちましても、租税負担率としましては、せいぜい〇・何%かふえる程度計算が出ておりまして、それじゃ物価がうんと騰貴すればどうなるのかと言われますと、その反映の問題といいますか、騰貴した物価がどこへよけい行っておって、所得として把握される課税所得税金で徴収される過程でどういう税制であるかということで関連があるのでありますが、もし物価騰貴が、国民所得増加という形でそのまま現われてくるといたしますと、それならば、自然増収額も大きく出てくるはずでございます。大きく出てきた分のまた二割を戻せば、まあまあそう不合理なしにいくんではなかろうかと、こんなふうに私ども考えたと思います。  それから第三番目は、法人税が安いのではないかという御質問だったと思いますが、それでよろしゅうございますか。——私も実は法人税は、特には、日本法人税がいまのままで高過ぎるという感じは全然ございません。しかし、最近まあ私どもがわからない問題が一つ出てまいりましたのは、法人税が転嫁しておるのではなかろうかという問題、この実証研究が、実は相当専門委員の方をわずらわしまして調査を進めたのでございますけれども、どうも会社ごとの調査では、大体法人税の、調査対象の二五%程度の会社では、法人税を転嫁させているような、暫定的な調査結果が出てまいりました。しかし、アメリカ等の研究によりますというと、意見がいろいろあるのですけれども、場合によりますと五〇%、一〇〇%転嫁しておるというふうな調査も出ております。そこで、私自身もいま結論がなくて、非常に困っているといいますか、研究しなきゃならぬ問題だと思っていることでありますが、もしかりに、ある程度でも転嫁するのだということでございますと、法人税の引き下げというものは、国民全般に及んでくるのだと、そうなると、一体配当控除はどうするのだという、また問題にひっかかってまいりますのでございますが、そのような意味合いを込めまして、まあ、ことし程度に一%、ほかの事情、対外競争力その他の事情から考えて、特別の何か業種、業態、あるいは特殊な人にのみ特別措置でやるくらいならば、むしろ一般的に法人税減税もこの際意味があるだろう、こういうふうな妥協的な考えを持ちました。  それから第四番目は、所得税減税の中からわずか数十億減っただけなのだから、答申とそんなに違いはないじゃないかと、大蔵大臣が言われました。それに対して木村はどう思うかという御質問かと思います。たいへんむずかしい御質問なのですが、ただ、こういうことだけはちょっと申し上げたいのであります。それは、課税所得計算の順序から申しますと、まず基礎控除、扶養控除、何控除、何控除と出てまいりまして、最後に税率緩和の措置がどのくらいになるかという計算をいたします。したがって、初めのほうは引いていって引いていって、残りについてかけますから、もとが小さくなっておりますから、税率緩和の措置の効果というものは非常に小さく出てくるのでございます。しかし最初に、いまそういうことはできないのですが、最初に税率緩和でぽっとやってみたらどうかというと、数百億の減税になっているかもしれません、計算のしかたによりまして。ただ所得を算定する順序、徴収する順序からいえば、大蔵省の発表しましたように、五十数億の減税分にしかならないようなことになっておりますが、しかし、従来の所得税減税というものが、大体基礎控除というものあたりを動かしているばかりであって、税率というものも、所得がふえ、物価が高くなったときには、三十万円から四十万円までの幅と、四十万円から五十万円までの幅とは、そこできざみを高くしていくということの意味が、私はだんだんなくなっていると思います。そういう意味で中間の層、たしか二百万円以下ぐらい、百五十万円ぐらいのところに相当効果が及ぶような減税をやるということが、たまたまきょうもちょっと話が出たのでありますけれども、教育費控除の問題や何かと引っかかりましても、非常に重要な問題ではなかったかと、したがって、税率緩和も見送られたことに対しては、私も不満を持っております。  それから特別措置で、特に税金の問題、この利子の問題でいろいろ御質問があったのでございますが、非課税限度の五十万円から百万円の引き上げが不必要ではなかったかという御質問でございます。税制調査会答申では、百万円に引き上げるということは出しておらなかったのでございます。その理由は、五十万円程度の貯蓄ができる所得階層というものを調べてみますというと、かなりもう高いところにきておる。その数字も手元に持っておりませんので正確には申し上げかねますが、預貯金の関係で申しますというと、八十万円年収がある程度のところで、たしか五十万円になるかならぬかというぐらいのことだったと記憶しております。まあ八十万円の所得層といっても、小さいといえば小さい。しかし、まあその程度のところで非課税の限度を置いておけばいまの段階では十分ではなかろうかと、こういうふうに考えた次第であります。私個人も現にそのように思っております。いろいろな貯蓄形態がありますのでそれを合わせますと、八十万円のところでは八十万円の貯蓄になっております。預貯金だけをとりますと、そこまでいっていないのでございますが、ただ数字で扱うという話になりましたときに、絶えず言われましたことは、長期答申は、日本経済が開放経済を乗り切って安定した姿になったときのことを考えて、五年、十年の先を考えている理想案を出したのだ、現実のマインドの問題ということになると、また別の考慮が必要になるというアンタントはございました。それに、特別措置というものも私ども一ぺんつくりますとなかなか廃止できない、非常に惰性的な姿になるので困るということを、長期答申でも述べておりますけれども、しかし、また長年のそういう制度でありますと、これを廃止したときに、いわゆる心理的な効果ということを強調せられますと、私どももちょっと心理的効果ということになると、私どものように世間のものごとを知らぬ人間が、そんなものはありませんよと言えませんので、要するに、心理的効果に負けておるという姿でございます。  それから第六番目の点は、税制調査会答申が、まるで無視されているからやめたらいいのではないかという御勧告のようでございます。私もそれを考えたのでありますが、実はもう税制調査会、去年十二月に答申を出しまして開店休業なのでございまして、どこへ辞表を持っていったらいいか、お教えいただけたらそのとおりしたいということでございます。  それから第七番目は、間接税について蔵相が、イタリアとかフランスの事情を考えて、むしろ間接税のほうにいくべきであるということをおっしゃった、これに対して君はどう思うかということでございます。これにつきましては、簡単に申しますと、イタリアとかフランスという国は、まねすべき国ではないのだ、とにかく切符でも何でもごまかせば喜んでおるという、切符というか、汽車に乗りましても、切符きりが来ないで、その切符を持っていかれたら、知らない同士がうまいことをやったなと、にこにこしている国であります。そういう国で直接税が取れない、所得税はありますけれども、半分以上も会社が負担している所得税でございまして、日本のようなりっぱな所得税のない国であります。それをいまさらまねする必要はなかろうではないかということが一つ。それからなお、誤解があるといけませんが、私は十年前から間接税は逆進的であるからということを非常に強く主張してきた一人でありますけれども、最近所得階層別の租税負担率を調査、いままでなかったものでありますが、調査した結果によりますというと、こういう形で逆進になるのでございます。つまり、ある最低限度が、一番低いところが高い税金を納めているのではなくて、いまで申しますと、所得四十万円のところの租税負担率が一番低くて、所得が三十万円、二十万円になりますと租税負担率はずっと上がってくるのです。それから四十万、五十万、六十万円になってくると、こう上がってくる、ただし上がり方は非常にゆるいカーブでございます。これをどう解釈するかという問題です。一つの解釈は、四十万円以下の層がそんなに税金を納めているような逆進的な税金は悪いという従来の考え方が一つあると思います。もう一つの考え方は、ほんとう担税能力の低いところは、四十万円の層が実際に低いのではないか、それより低い所得を取っている人というのは、どういう人か、いろいろ調べてみると単身者が多い、単身者というか子供がいない、自分で親元から働きに出て所得を取っている、あるいはもっと低い所得層になりますと、退職金が入っているのです。貯金があってそれを引き出しているという人で、とても年収十万円で暮らせないような人が、実は家計調査を見ると、たいへん大きなお金を動かしておる、引き出しがあり、預け入れがあるという状況であります。そういう点を考えますというと、やはり間接税にはある程度の選択制があるのではないか、現在の日本の間接税は、個別消費税体系をとっております。一番問題になるのは砂糖だと思うのでございますが、それ以外の酒にしても、たばこにしても、通行税、その他にしましても、ほんとうに困っておる人は負担しないで済むような形が幾らかあるのではなかろうか、ことにたばこなどは、十年前にも四十円のたばこがいまでも四十円であると、そうすると、その当時二十五円のそばがいまは六十円していると、それに比べてたばこなどは——私もたばこのみですから、たばこの増税にはたいして興味がありませんけれども、しかし、葉たばこの収買価格が上がってきておるというような状況コスト高ということを考えますと、税率で考えたときには、たばこなどは下がっているのではなかろうかという感じをしておりますので、間接税が逆進的であるからどうかという問題については、若干もう少し考えなければならぬということを思っております。ただそれを、それでは一般消費税体系といいますか、一般的な取引税にするということはどうかということになりますと、二つの点で私は問題があると思います。一つは、これこそもう選択の余地のない逆進性をもたらす可能性が一つある。それからもう一つは、皆さまは、徴税機構の点で非常に便利で、抵抗なしに税金が入るということをおっしゃいますが、徴税の過程においては、これはなかなか高い租税モラルがないと取れない税金でございますので、よほどお考えになっていただきたいと、こんなふうに思っております。  どうも十分ではございませんが……。
  8. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 木村さんにお願いします。なるべく簡潔にして、自分の御意見は御遠慮をお願いしたいと思います。
  9. 木村禧八郎

    木村禧八郎君 それでは私の意見は差し控えて、所得税の最低課税限につきまして、特に基礎になりましたマーケットバスケットの、ことに食糧費ですが、あれについて政府が、二千五百カロリーで百六十七円四十八銭ですか、自衛隊が三千三百八十カロリーで百六十三円でできるのだから、決して低いものではない——最低課税限について最後に御質問します。  それから、これは希望ですが、法人税の転嫁の問題は、これまで答申でいつでもございますが、非常にむずかしい問題だと、これは研究中研究中とあるのですが、これはぜひ研究して成果をまとめていただきたいと思います。
  10. 木村元一

    公述人木村元一君) 課税最低限の問題についても、私は折衷主義といいますか、まことにどうも先ほど申しましたことと少し矛盾することを申し上げます。課税最低限というものをこういうふうに金額で出すこと自体はあまり意味がないと私は思っております。その証拠には、国税のほうでは最低限百六十七円のあれでできるかできないかが問題になっておりますが、しかし、そもそも所得税というものはそういうことに対して無力な税金である。つまり最低限以下は取れないという、その最低限までは取らないようにできる税金かというと、できないのじゃないか。それはなぜかと申しますと、同じ三万円であっても、社宅のある人の三万円と、社宅のない人の三万円とでは給与生活でも違う。東京で三万円と、島国のほうで三万円とでは貨幣価値が違う。そうなると、所得税というものはやはり平均的な線をとらざるを得ないことを、具体的にある方が、これじゃやれませんという人が出てくるのはこれは当然だと思います。それからもう一つは、これも国税——所得税についてはこういう議論が盛んでございますが、地方住民税についてはこの議論が当てはまらなくなる。それじゃ地方住民税もこの議論からいけば、夫婦、子供三人で五十五万円以下の人は取っていけないのか——私は取っていいと思う。そういうことでございますので、この議論はジャーナリズムをだいぶにぎわしましたけれども、私はあまり重要視しておりません。  それから、最後の希望条件は、ことしから少し予算をつけていただくことに大体なりそうでございます。
  11. 鈴木強

    鈴木強君 時間の関係がありますから、それにまだ質問があると思いますから、私は簡単に二つだけお尋ねします。  一つは、四十年度の税の自然増収の見込みについて先生は、政府が考えておりますような三千九百九十六億七千百万円ですね、それと、税制調整等によって最終的には三千百八十三億八千六百万円、こういうことで税の前年の伸びを考えて予算を組んであります。この点はもう少し伸びがあるかどうか。  もう一つは、地方財政の面で、非常にこの予算地方財政を圧迫すると、こう先生はおっしゃいましたが、ちょっと抽象的ですから、その点は〇・六%の交付税の増額等によって政府は何とか切り抜けようとしておりますが、この〇・六%では少し少ないのではないかという御意見もあるようですから、具体的な問題がございましたらその点をお聞かせいただきたい。二つだけ御質問します。
  12. 木村元一

    公述人木村元一君) 自然増収の見込み額が、今度の減税を実施した後にたしか三千何百億の増収になるが、これが将来もっとふえるかどうかと、こういうことでございますが、この点は、学者、学者って私どもの仲間のほうでも、いろいろデータ、やってみておるのでございますけれども、ちょっと国際貿易上の事情とか何とかが変わりましても動いてくるものですから、どうもやはり官庁のほうでこういうデータでございますと言われると、それを打ち消すほどの何かデータをなかなか持ち得ないという状況で、はなはだ残念でございますけれども、いまの段階でちょっと、予想は言えるかもしれませんけれども、どうも自信を持って言えるようなものが何もございませんです。  それから地方財政圧迫の問題は、何か法律ができまして、補助金をつけた仕事ができますというと、必ずそれが地方にいって補助金の単価が少ないということと、それから補助対象が少ないということと、さらに補助条件というものがいろいろございまして、それに合ったような仕事をやろうと思いますというと、地方の持ち出しといいますか、これが非常に多くにもなる傾向にある。で、社会開発その他の関係仕事というものは、従来にも増して地方にやらせるというか、地方にやってもらわなければならぬものがたいへん多いのでございますので、それがふえてくるということは、地方財政を非常に圧迫することになる。それで〇・六%で、金額にして百五十億かそこいらの交付税がふえたからといって、とてもそれでは焼け石に水じゃないか。地方財政自体には、人件費その他につきまして国の場合とまたちょっと違った問題がありますので、その点をほっておいて、ただ、地方は金が要る要るというだけでも困るのでございますけれども、どうも地方へ持っていく補助金や何かがふえてくる形が、少しやっておいてこれだけの仕事をと、こういうことになる可能性が多いので心配しておるわけでございます。
  13. 鈴木強

    鈴木強君 ちょっと委員長、もう一つ。  おそれ入りますが、先生は、公債のほうは発行賛成論者ですか。——  それで、私は、地方債のことですが、たいへん地方の起債が多くなりまして、借金がふえておると思うのです。こういうものは一体、先の見通しを立てずにやっているとは思いませんけれども、結局は借金財政地方財政が圧迫されているということになるので、その点の、地方債の発行について御所見ありましたらそれだけお答えいただきたい。
  14. 木村元一

    公述人木村元一君) 地方債に二つ発行要因がございます。一つは赤字の補てんでいくのと、一つは公営事業資金としての起債とございます。公営事業的なものでも、採算ベースに乗せてしかるべきものと、採算ベースになかなか乗せにくいものとございます。それで、採算ベースにちゃんと乗っているものであれば、地方債がふえても、地方債である限りにおいてはこれはあまり心配しなくてもいいと思います。ただ、問題は、先ほどの食管会計の場合と同様でございまして、公共料金なるがゆえに安くてもいいのだというその気持ちが、私はどうも少し一般に多過ぎはせぬか。そのために、東京都で水道を上げるというと皆さんは反対なさる。でも、地方へ参りますと、いまの東京都の水道料金の三倍も五倍も払って、まだ水道がほしいといっているところもある。その水道はどこに使うかというと、自動車の車体を洗うために水道を使っておる、そういう場合でもやはりほんとう料金を採算ベースに乗せるようにすることがいけないのかどうか。私は、一般会計から持ち出したり赤字をどんどんやっていっていいものかどうか、そこには非常に問題があると思います。お答えになりましたかどうか。
  15. 松本賢一

    ○松本賢一君 いま地方交付税の〇・六%の引き上げは焼け石に水だという先生のおことばがございましたけれども、そうすると、先生のお考えは、もっと大幅に引き上げるべきだというお考えなのか、それともほかに何かお考えがあるのか、その点をお聞きしておきたいと思います。
  16. 木村元一

    公述人木村元一君) これは私一個の考えでございますので、どういうことになりますかわかりませんが、私は、地方交付税はもっとふやすべきだと思っております。しかし、それには前提がありまして、いまの国税三税の二九・五%の率をそのまま三〇%にしろ、四〇%にしろというのではございません。補助金で流れているものを交付税のほうへ持ってくるという形でやるべきであると、これが一つ。それから、地方財源の強化については、どんな税金を地方に差し上げても格差が生ずるという問題がありますので、たいへんむずかしい問題で、こうしたら必ずいいというような対案はございませんけれども、ただ一つ府県につきましては、現在の事業税を付加価値基準にするということが一つ。それから、市町村段階におきましては、固定資産税をもう少し合理化して増収をはかる道が残されておりはしないか。ただ〇・六%の交付税率を上げたからそれで地方は楽になるということは、どうもちょっと私には予想がつきかねるわけで、そういうふうには考えられないわけですから、ついそういうふうに申し上げました。
  17. 松本賢一

    ○松本賢一君 いま補助金で出されておるものを相当大幅に交付税にしていくという御意見でございましたけれども、それは具体的に言いますと、たとえばどういう方法でやれるということになりますか。
  18. 木村元一

    公述人木村元一君) 具体的と申しましてもあれですが、いままでの経過から申しますと、教員の、義務教育費の国庫負担金といったようなものを、いまは補助金の形でいっておりますが、こういうものは研究して、交付税で持っていく形にすることができるんじゃないか。そのほかこまごました非常にたくさんの補助金がございまして、ひどいものは、同じ省の同じ局の同じ課の中で、係ごとに違った補助金が出ておるというようなものもございます。そういうものは、一方統合していくなり、あるいは地方へ交付税の形で回すようにするか、財源を与えることのほうへ持っていくか、つまり国のほうでそれを出さないで済むというようなことじゃなくて、ルートを変えるというような形にするということが考えられるのじゃないかと、こういうふうに思っております。
  19. 松本賢一

    ○松本賢一君 もう一つだけ。先ほどの補助金によって仕事をすることが地方の持ち出しが生ずるという、そういうお話ですが、事実そういうことはあるわけでございますけれども、それが非常に大きく地方財政を圧迫している。補助金政策というものを何らか変えていかなければ、地方自治というものの確立は期せられないというように感ずるんでございますが、その点についてもう少しわかるようにお話ししていただけたらと思います。
  20. 木村元一

    公述人木村元一君) これはほんとうにむずかしい問題でございますが、ちょっと差しさわりがあると困るのですけれども、たとえば県に参りますと、知事さんがこういうことをおっしゃいますね。県というものは何々アパート経営株式会社だと、つまり県知事なら県知事が自由になる行政分野なり、予算の配賦分野というものは非常に限られている。それはいろいろ意味がございますが、法律によってやらにゃならぬ仕事がもう押しつけられているものもありましょうし、それから、たとえば道路補助金をよけいにしたいと思うと、建設省なら建設省のほうに関係のある方を、その県に呼んで来て土木関係仕事をしていただくというような形になってくると、県知事自体の意思とかというものが、何かそこでゆがめられていく。よく言う縦割り行政と申しますが、それがたいへんある場合には弊害を持っている。他の場合には、全国的な視野でもって計画が立つという意味ではいい面もございますが、他面においては悪い面も出てきている。それはもう非常に末端までいきまして、これは架空の例でございますけれども、鶏にも補助金がきているし、豚にも補助金がきているというような、いやそういう事実があるというのではございませんが、というようなことになりまして、鶏は鶏で考えていく、豚は豚で考えていくというのではなくて、むしろ県のほうで一つにまとめて畜産ということで考えていく必要のほうが強いのが、なかなかうまくいかない。それにいまの持ち出しの問題があるということです。
  21. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  22. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 速記をつけて。     —————————————
  23. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 次に、桑原正信公述人にお願いいたします。
  24. 桑原正信

    公述人(桑原正信君) 農業の問題というのは、非常に広範にわたりますが、国際的に見ますと開放経済の問題、国内的にはいわゆる国民経済的な経済成長の中で、農業、中小企業がいわばその発展の桎梏になっているというような問題が出ているわけでありますが、それらのことは、一言で申しますと、農業の生産性が低い、言いかえればそれをどうして生産性を高めるかということが、農業問題の核心ではないかというふうに考えます。そういう視点から昭和四十年度予算案を——農林関係のものを拝見いたしますと、きわめて特色のある問題が一つ打ち出されているわけであります。それは農地管理事業団の問題であります。かつて政府のある審議会で、現在行なわれております構造改善事業が初めて論議されましたときに、私はいわゆる構造改善をやらないで、構造改善事業促進対策をやるこの手順というものは、たとえて言うならば、「名月や池をめぐりて夜もすがら」というような古句にもなぞらえられるようなものではないかということを申したのでありますが、結局この場合の池は、いわゆる構造改善、そして私の理解では土地問題だと思うのであります。その問題に手をつけずに、その池をめぐる、いわゆる周辺をぐるぐるしていることではおそらく農業問題の根本的な解決の方向には向かえないんじゃないかという意味でありまして、そういう考えを持っておりました私としましては、この農地管理事業団というものは、いわばようやくにして池に飛び込んだとは申しませんが、池に手をつける段階に至ったのだという意味で、農政上かなり注目するに値する問題じゃないかというように考えております。しかしこうは申しますものの、これは質の意味でありまして、以下述べますような点、いわば量的な面においてこれの弱さというものがかなりあるのではないかというように思うのであります。  若干の条項を申し上げますと、まずこの問題については、おそきに失しているという認識が非常に重要ではないかというように思うのであります。早いおそいというのは、私は一方で自由化を着々と進めておられまして、しかもそれに対応する生産性の向上の態勢がととのっていないという意味で、おそきに失するという考え方をしているわけであります。この認識は、私はこの問題を予算的にも今後処理する上においてあるいは非常に重要なことになるのではないかと思います。  第二の点は、四十年度はいわば一種の試験的であって、四十一年から本格的にやるということでありますけれども、示されております予算あるいはそれの構想などを拝見しますと、いま申しましたような客観的情勢とは必ずしも合っていないんじゃないか。もし自由化という問題に対処して農業の生産性の向上を考えるというならば、予算規模相当大きなものを考えていかなければ、それに対処することはできないんじゃないかということであります。  第三点は、四十年度は買ったり売ったりはしないようでありますけれども、まあこれがやはり、この事業の核心になると思うのであります。時価で買って時価で売るというのでありますが、しかしこれはよほど注意いたしませんと、いわゆる「君の名は」ではありませんが、すれ違い取引になる、言いかえれば売り手あっても買い手なし、これは悪い土地であります。それから買い手あって売り手なし、これはいわゆるいい土地であります。結局すれ違いが起こって、目的を達しない場面が出てくるのではないか、そういうことになりますと、いま木村先生のいろいろの御意見もありましたけれども財政負担が可能ならば、やはり二重価格制度というものも考えていかなければ、所期の目的を達することはできないじゃないかということであります。  それから四番目に、農業の性質上、買い入れ資金は低利長期でなければならないのは論を待ちませんが、私どもは新聞ぐらいでしか存じませんけれども、初め政府が考えた二分四十カ年というようなものが、なぜ現在の線まで後退しているのか、私はせめて——いわばアット・リーストだと思うのでありますが、せめてこの程度のものは確保する必要があるんじゃないか、しかも現在の農地価格というものは、決して農業の収益価格そのものではなくて、かなりそれを上回る種々のファクターが入っているのでありますから、そういうことを考えますと、いまの低利長期の問題というのは、当然にもっと突っ込んで考える必要があるのじゃないかという点であります。  最後に第五番目は、農地管理事業団の問題に離農対策がないというのは、たとえて言えば、さしみにしょうゆがないみたいなものではないかというように考えるのであります。かつて私は、現在の基本法が審議されました段階で、衆議院の大阪聴聞会で基本法についての率直な意見を述べたことがありますが、結局現在の基本法というものは、兼業農家の実態から出発して、いわゆる理想とする自立経営というものへの接近の方法を考えていない。言いかえれば、自立経営というものは打ち出してあるけれども、それは川の向こう岸の話であって、こちら側と川の向こう岸をつなぐ橋が何であるかということは示されてない。それが示されてない以上は、一つの幻想に近いものじゃないかという意見を持ったのであります。したがって、これにはやはり離農対策の問題が取り上げられなければならない。これに対して、離農対策というと、すぐ首切り論というのがつきまとって出てくるのでありますが、これもまた実に、私に言わせれば妙な議論でありまして、食えない農民よりも私は食える労働者であることが、その人人にとって望ましい状態ではないかというふうに考えております。食えない農業の状態であくまで農業にとどめておこうとする態度は、きわめて保守的な考え方だと言わざるを得ない。離農対策の意義は、やはり筋道を通して食える労働者にするという手順でありますから、したがって、これをもっていわゆる首切りというような議論は、私は納得できないのであります。以上が農地管理事業団についての問題点でありますが、しかし、現在示されてありますもの、あるいは構想として描かれておりますものを考えますと、あるいはこれだけで当面の重大な問題を解決する力は、私はないのではないかというふうに考えます。  そこで、生産性を高めていく根本問題としては、やはり経営の基盤の拡大ということでありましょうが、そうなりますと三つの手順があると思います。一つは、いま申し述べました管理事業団、これは直接的方法でありまして、自作農的拡大の道と言ってもいいかと思います。それから第二番目は、借地農的拡大の道というものが私はあると思います。それから三番目に、協業経営的な、協業的な拡大の道、まあこの三つを、日本の場合はやはり並行的にとらざるを得ないような、複雑かつ困難な事情にあるのではないかというふうに思われるのであります。この中で、三につきましては従来いろいろ言われておりますので、触れませんが、一については、先ほど申し上げたとおりであります。したがって、残る借地農的拡大の道というものをやはり考えていく必要があるのではないかというふうに思うのです。これは現実に、請負耕作あるいは代理耕作というふうに名称はいろいろ地方的に違っておりますけれども、農民の地位と、あるいは追い詰められた立場において、これを現実に行なっているわけであります。政府にもそういう調査は、あるいはないのじゃないかと思います。したがって、われわれは全国的にどういう規模で行なわれておるかはわかりませんが、相当のものがあるのではないかと思います。しかし、これは言いかえますならば、現代農政の私生子でありまして、これに関係している農民諸君のやり方を見ておりますと、一昨日も総理府の農政審議会の委員数名で四国のこういう現地の視察をやったのでありますが、それに携わっている人たちの努力を見ておりますと、いかにして農地法違反とならないようにするかという、その点にほとんど全神経を集中していると言っても差しつかえないのであります。で、こういうことは、規模拡大というものを、いわば借地農的な拡大というものに生産性向上の意義を認めるならば、一つ法律的な処置として解決される問題であって、これらの点は現在の現実に即して処理すべきものではないかというふうに考えるのであります。  それから関連しまして、私は、この規模拡大の視点からの価格政策の必要ということを申し上げたいのでありますが、これは予算にもきわめて多方面に農産物の価格政策が取り上げられておるわけでありますが、しかし現状で見ますと、おそらく農民の最も深刻な悩みは、現在、構造改善などでいわゆる成長農産物といって示されているものが、はたして成長農産物であるのか、それをたよって進んで間違いないのかという点についての危惧であります。で、ある意味では、構造改善事業による選択的拡大あるいは主産地形成というようなものは、全体としての需給のアンバランスを強める結果を生み出しているのではなかろうかというふうに思うわけであります。言いかえれば、きわめて小さな地域において成長可能だという観点のもとに奨励され、また生産者が取り組む。しかし、それが全体としてどのような供給量になり、それに対する需要がどうであるかという見通しがない。そのことのために、すでに豚、卵、あるいは一部の蔬菜、また今日では最も成長株であるとされるミカンなどについても、現在の新植が盛果期に達した以後においてはどうだろうかという危惧の念などを抱かれておるのは、そこにあると考えられるのであります。したがって、これらについては、単に全国一本の需給見通しじゃなくて、地域的な見通し、しかも十年というような長期のものではなくて、もっと現実的に経営に適用し得る見通し、そういうものが早急に立てられる必要があると思うのであります。しかし、それにいたしましても、やはりある種の価格安定というものは、決して全部とは申しませんけれども、少なくも大局的な立場で考えた需給の考え方の上に立って、主要のものについては必要になってくると思うのです。で、そのことは従来もやられておったわけでありますが、しかし、私はこれをやはり規模拡大ということと関連づけた価格政策というものが必要になってくるのじゃないかというふうに考えます。ということは、どのように小さな規模において生産されたものであっても、あるいはどのような大きな規模において生産されたものであっても、とにかくそれは一つのものとして、たとえば卵なら卵、豚なら豚、そういうものとして処理されておって、その背景となるいわゆるコストの問題というものは、そこには入ってきておらないわけであります。しかし、これはいろいろの生産費調査などの示しますように、規模の大小はかなりの程度コストの差を示しているわけです。したがって、そういうコストの差があるという事実をふまえて、いわば一定規模の経営、それにおけるコスト、そういうものを一つの安定価格の基盤として、そしてその線以上に規模自身を拡大していけるような一つの刺激を価格の側から与えていくということが、必要なのではないか。少なくも現在のところでは、価格政策はありますけれども、私が考えます農業の革新的な問題である規模拡大、いわゆる生産性向上の基本的な問題と結びつけた形での価格政策になっておらないのじゃないか。でありますから、いろいろな価格政策はあることはあるのでありますが、いまの点に焦点をしぼって、合わせていくということが必要になってくるのじゃなかろうか、こういうふうに考えるわけであります。  それからなお、いま一つつけ加えますけれども、今後の日本農業は、従来に比べまして、いよいよ資本投下をしなければならぬと思うのでありますが、それに対していろいろ制度融資なども行なわれているわけでありますが、そういう場合においても、やはり規模拡大の刺激となるような、言いかえれば、ある規模的な条件を備えたものに対しては優遇的な措置を講ずるというようなことで、金融の面からも、また、先ほど申しました価格の面からも、それらが呼応して、いわばこの規模拡大という焦点に合致し得るような、効果をあげ得るような方向に持っていくことが、同じ政策をとりながらも、なおその効果の点においてかなり変わってくるのではなかろうかというふうに考えるのであります。とにかく、政策に一つの焦点を与えるということ、これはこまかいことを申しませんけれども、いろいろの予算があるわけでありますが、それらの予算をとにかく生産性向上という、そして、その具体的な問題としては規模の拡大、もうひとつこまかく言えば、私はむしろ自立農業というような考え方につながると思いますけれども、そういうものを育成し、造成していくという、その点にすべての政策を合わせていくということが、必要なのではなかろうかというように考えるのであります。  なお、最後にいま一点だけ追加いたしたいと思いますが、これは私が近畿圏整備などという、一つの地域経済問題に多少の関連を持っておりますために、特に感ずるのかわかりませんけれども、しかし、必ずしもそういう近畿に限ったことではないと思います。とにかく現在の全く無計画なこの国土利用の状態については、十分に反省を加える必要があるのじゃなかろうかという点であります。  で、先ほどのようなことで、いろいろ自立経営あるいは自立農業的なものを育成するといたしましても、今日非農業的な面からの農地の改廃、これがきわめて無計画的に行なわれている。そのことによって、農業のように土地を基盤としてやらなければならぬ生産業においては、非常に大きな打撃を受けているというのが現実であります。考えますと、土地のように有限であり、しかも再生産が一応不一能と考えられるようなものについては、やはり大局的にある利用計画というものを確立していく必要があるのじゃなかろうかというふうに思うのであります。しかし私は、その場合に、農業地域を設定するという考え方が一部にありますけれども、農業地域を設定するよりは、むしろ非農業地域を指定し、設定するということがスムーズにいくのではないかというふうに思うのであります。と申しますのは、非農業地域の土地の利用というのは、これは農業に比べれば、何と申しましても、狭い限られた面積になるわけでありますから、やはり、農業地域というものを積極的に設定するのじゃなくて、工業地域あるいは住宅団地地域というようなものを指定し、設定して、それ以外には一定規模以上の工場なりあるいは住宅団地というようなものはつくらないというような計画をあらかじめ持った上で、先ほど申しますような近代的な経営の確立という方向に集中していくべきものでなかろうかというように考えるわけであります。  申し上げたいことはたくさんありますが、いただいた時間がもうございませんので、一応これで終わります。(拍手)
  25. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ありがとうございました。  それでは桑原公述人に御質疑のおありの方は順次御発言願います。
  26. 田中啓一

    ○田中啓一君 非常にお忙しい中をさいておいでを願いまして、ただいまは農地管理事業団を中心にいたしまして、非常に貴重な御意見を拝聴いたしまして、まことにありがとうございました。おっしゃることは私どもことごとく同感でございまして、しかも、いささかめくらさぐりしておったようなことも確固たる基礎がございまして、非常に勇気づけられたということでございます。御注意がありましたところを、ひとつできるだけ今後推進をいたしたい、かように思うわけでございますが、ひとつ、これらの背景となっております農業生産性につきまして、先生の御意見を伺ってみたいと思うのでございます。  それは、農業基本法成立以来、農林大臣は毎年国会に農業動向の報告書を出しておるわけでございますが、その中におきまして、農業生産性は非農業の三〇%か二〇何%だという数字を出しておるのであります。はたして一体、現在の日本農業はそのような低い生産性であろうかどうか、こういうことであります。今日、農業就業者の数を千二百万前後という数字を出しておるのでありますが、それらを含めました農家の所得は、むしろ農業所得よりも非農業所得のほうが大きくなっておるということでありまして、現実に一戸一戸調査をしてみましても、私ども生まれは百姓家でありますから、なお自分の家といえばいえぬこともないようなものがあるのでありますが、実は、たんぼを一町五反つくりまして、二人で一年に百日しか仕事がない、しかし、それでけっこうめしは食っていけるので、まあやっておる、そのうちにだんだん、どうしたらいいかということも明らかになってくるだろうからやろうか、こう思っておるのだ、というようなことをのんきに申しております。  私はどうも、実際は農業に従事しておりもしないものを勘定して、あるいは一年にわずか農業をやるものまで勘定して、千二百万というような農業就業者の数を出して、そうしてそれによって農業生産額を割るのでありますから、これはどうしても、非農業よりもたいへんに少ない数字が出るのは、もう当然なことだと思うのであります。漏れ承りますと、農政審議会におきましても、何かそういうことにお気づきになりまして、農業従事の時間数で出すわけにはいかないのかというような、そういう統計はつくれないのかというようなお話も出たやに聞いておるのでありますが、どうも、他の産業で相当所得を得ておる者も農業をやっておるかのごとき統計のとり方をして、そうしてそれでもって農業生産額を割っておったのでは、これはいつまでたっても、ムード的に知っておって、お使いになる方はごくわずかだろうと私は思うのです。この生産性の数字を。国民一般は、農業というものは宿命的に非農業に比べて三〇%足らずのものだ、これでは規模を大きくしても、しれておるじゃないかというようなことで、とても力は入らない。ここらのところをひとつ、先生の御見解をこの点で伺ってみたいと思います。
  27. 桑原正信

    公述人(桑原正信君) 生産性が低いというのは、生産性の算定の問題があるんじゃないかというお話でありますが、これは田中先生のほうがよく御存じなので、農業側の統計あるいは計算というのは非常にむずかしいわけであります。しかし、とにかく、従来やられておりますやり方でやると年次報告に示されておるようなものが出る。しかし、あの場合でも、数字をはっきり覚えておりませんが、農業所得の多い側をとってみても、なおかなり格差があるということは事実示されておるようでありますが、そうなりますと、問題は、一体いまのような議論の対象となる農民とは何ぞやということが、実は問題になると思うのです。この点が、私は今後の農業の進め方の中では突き詰められなければいけないと思うのであります。  たとえば協同組合などにいたしましても、農民をもって組合員とするといって、その具体的な規定は定款にまかしてありますけれども、しかし、多くのものがきわめて零細な、とうていその農業所得では立ち行かないことはわかりきったようなものを、なおかつ組合員とし、農民であるという認め方をしておるのでありますが、これらの点が、やはり生産性を考える場合の農民であるかどうかという、その立場から、はっきりさせられなければいけないし、また、農民としていわゆる農業政策の対象となるものは、全部とは申しませんけれども、農業所得が全体の所得の中で相当ウエートを占めておるようなものをやはり対象とするという、その点の焦点をはっきりさせなければいけないじゃないかというふうに考えますが、生産性そのものの計算については、いまいろいろ御注意もいただきましたので、私も今後自分でもやってみたいと思っております。
  28. 田中啓一

    ○田中啓一君 どうか、農政学を御担当の方々も、ひとついまのところを突っ込んで御調査を願いまして、おっしゃるように、将来自立経営農家にしていこうと思われるような農家の、一体農業の現在の生産性はどのくらいになっておるのだということをひとつ明らかにして、そして旧態依然たる非農業に対する三〇%だということを、ばく然と農業におっかぶせておったのでは、実は先生のおっしゃったような、いよいよこれから農業に対する資本投下の急を要するときでありまして、大蔵省のほうでも、この点に自信を得られたならば、もっと金を出されるだろう、こう思うのでありますが、とかくその辺がばく然としておるのでありまして、たいへんに私は、農業投資はおくれておる現状だと、まことに先生の御指摘のとおり、同感にたえないわけであります。  それから次は、国土の利用計画のことでございます。  これもまあ根本に、農業は非農業に対して三〇%だということを言うておったのでは、農業に土地を利用さすことはまことに能率が悪いから、そこで農業はなくなってもいいというような暴論まで実はなくはないと私は思っております。しかも、そんなことをすれば、国土は荒廃に帰してしまうことになると思うのでありますので、これはどうしても、先生のお話のとおり、三千六百万町歩くらいのわが国土で、農業に利用し得る土地は、決して現在の六百万町歩ではなくて、まだまだ広範にあり得る、こう私も、ばく然ではありますが思うのであります。何かひとつ、そういうようなことで、国家として一大調査をやる必要があるのではなかろうか。これまでも、ちょくちょくと農林省がやったこともございますし、ときには日本の被占領時代には、連合軍に示唆されて、まことに大きな数字をつくったこともあるのでありますが、そういうようなものにはとらわれないで、ひとつ、ほんとう日本経済の成長、ことにその中における農業の成長という観点から大きな調査機関をつくる。これには、農政審議会が相当意見を出されるということは、私は非常に有力なきっかけになると思うのでありますが、いかがでございましょうか。
  29. 桑原正信

    公述人(桑原正信君) 私、農林省の関係のものでありませんので、農林省内部でどういうあれをやっておられるかわかりませんが、もしそういうあれがないといたしますならば、おそらくこれは単なる農林省の問題ではないと思いますので、そういうものはぜひ必要でないかというふうに考えますし、同時に、いまお話しの点は、いわば農業の立場から見れば、未利用あるいは可能的な資源をも含んでのお話のようでございますが、もちろん、それを含めて調査をやっていくことは必要でありましょうが、私が先ほど申し上げましたのは、現存するものについての、ある計画的な利用ということを考えていってはどうか。それはもう、こうしている瞬間にも、どんどんと虫食い的に、きわめて無計画的に農業用地が非農業的な利用にさらされているわけで、そういう意味で先ほどのことを申し上げたわけでありまして、田中先生の御趣旨の点については、私は全く同感でございます。     —————————————
  30. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ただいま委員の変更がございました。  田畑金光君、大森創造君が辞任され、高山恒雄君、小柳勇君が選任されました。     —————————————
  31. 高山恒雄

    高山恒雄君 ちょっと先生にお聞きしたいのですが、私は農業のことはしろうとで、何もわからないのですが、しかし、いろいろ見てみますと、きょうの先生の御公述にあった数寄屋橋ではないけれども、買い手があって売り手がない、売り手があっても買い手がないという、この表現ですね。これは簡単なようですけれども非常にむずかしい問題だと私は考えるのです。と申しますのは、いま政府がとっておりますこの農業全体の政策の中で、いわゆる自立経営農家を育成するために、土地の、つまり管理事業団というものを設けて育成していこう、こういう考え方ですが、一体、日本の農業の立場からいって、この第一種兼業者ですね。これが、戦後ものすごくふえてきた。こういう事態の中で、ほんとうに手放しができる状態にあるかどうかということは、非常にむずかしい問題だと思うのです。私が考えますのに、むろん首切りに反対するとかしないとかという問題ではなくて、国民の不安があるわけです。農民の不安があるわけです。それは、兼業農家は、ある一定の年齢まで工場につとめる。そうしますと、定年がございます。日本の場合には、五十五歳ないし六歳、その定年を終わると、自分の退職金では食っていけない。さっき税金の問題が出ましたが、そうしますと、結果的には、零細な農業でもやって日を送らざるを得ないという層が、私は農村の七〇%もあろうかと思う。こういう日本の、その社会制度の完備していない事態の中で、先生の言われるような管理事業団をつくって、土地を、農業をやりたいというものに対して求めさせてやろう、こういうことがほんとうに実現できるかどうかということを私たちは考えるわけですが、この点、先生のお考えをお聞きしたいと思うわけであります。  もう一つは、協業あるいはまた、借地農業、これをやるにいたしましても、農業改善事業相当機械化してくる、そうすれば余剰の人員が出てくる、選択的拡大に基づく酪農をやる、養鶏もやる、あるいは養豚もやるというようなこともあり得るでしょうけれども相当の人員がそこから浮いてくるわけです。これらの職業を並行的に持っていかなければ、とうていこれまた困難な事態が起こるんじゃないかと思うのですが、それには、地域産業の開発、これをまず前提にしない限り、この問題の成功はできないんじゃないか、こういうふうに私は考えるわけですが、先生の御意見をお伺いしたい。
  32. 桑原正信

    公述人(桑原正信君) 第一の点は、いまのような管理事業団で十分な操作が行なわれるかということでありますが、この点については、私も先ほど申し上げましたように、いわゆる政策の質としては私は非常に注目するけれども、裏づけとなる量の側からすると、非常に問題点が多かろうというので幾つかの点を申し上げたわけであります。したがって、私はその点にかなり見通しのつきかねる点がありますので、ただ管理事業団の事業でだけ考えていくということは、おそらく現実問題としては困難ではないか、だから、やはり借地農的な規模拡大というような問題もあわせて考えなければいけないのじゃないかということで、三つの手法を申し上げたわけであります。  ところで、それらにつきまして、なぜ農家が土地を手放さないか、兼業農家となっていながらも土地を手放さないかという点について、将来の生活に対する不安というような問題があるんだという御指摘は、そのとおりだと思います。私はこまかく触れませんでしたけれども、現在の基本法が成立しますときの聴聞会では、それらの点を詳しく述べたのであります。言いかえれば、それに対する対策としては、社会保障制度というものが拡充されなければ困難であろうという点を述べたわけでありますが、しかし、二番目に御指摘のありました借地農の問題というのは、私はある意味でその点をカバーするのじゃないか。それは、土地は手放したくないが、しかし現在の段階では耕作する希望を持たない、いわゆる所有と経営というものを分離するという考え方が、今日安定的な兼業地帯にはかなり出ておるわけで、これは一概に兼業地帯にだけ出ているとは私は申し上げません。安定的兼業ということが重要なことで、安定的兼業を一方で持っているところでは、いま言ったような請負耕作的なやり方がかなり進んでいくということであります。したがって、そういう地域においては、先ほど申しましたように、むしろそれを認知するという態度、むしろそれを育成して、おかしな、ゆがまった形で進まないような策をとるということが妥当ではないかというふうに考えます。  もちろん、そのことに関連しまして、地域産業の開発が重要だという御指摘は、そのとおりだと思いますが、この点も、しかし、地域産業をどう考えるかにいろいろありましょうけれども、私も先年、依頼を受けまして、新産都市指定地域の農業構造改善の問題を調査いたしましたけれども、いわゆる新産地域なるものの多くが、まことに、はたして新産業がいつの日に出てくるか疑われるようなところもございまして、某県のごときは、一県の面積の五二%が新産地域に指定されている、その中には、山村の構造改善をやるにふさわしいようなところが幾らも含まれているような現状であることを見ますと、この点は、必要であることには私は十分同感でありますが、これにはよほど積極的な処置を講ずる必要があるんじゃないかというふうに考えております。
  33. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 桑原公述人は乗車時刻の関係がございます。御質疑はこの程度にしていただきたいと思います。  木村公述人、桑原公述人には、御多用中有益な御意見を承りまして、ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。  午後二時三十分再開することにいたしまして、これにて休憩いたします。    午後零時五十四分休憩      —————・—————    午後二時四十六分開会
  34. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) これより予算委員会公聴会を開会いたします。  午後は三人の公述人の方に御出席を願うことになっておりますが、近藤公述人の御意見は都合によりこれを明日にいたし、安恒公述人及び川合公述人お二人の御意見を先に承ることにいたしたいと存じます。  その前に、公述人の皆さまに一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中にもかかわらず、本委員会のために御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員一同にかわりまして厚く御礼を申し上げます。  それでは、これより公述人の方々に順次御意見をお述べ願うのでありますが、議事の進行上、お一人三十分程度でお述べ願い、お二人の公述人の方々の御意見開陳が終わりました後、委員の質疑を行なうことにいたしますので、御了承願いたいと存じます。最初に安恒良一公述人にお願いいたします。
  35. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) ただいま御紹介にあずかりました安恒であります。  本予算委員会から私に求められております公述は、医療保険関係でありますが、予算総額と社会保障関係費並びにこの中に占める医療費、医療関係保険費の割合は、これから述べますところの医療保険関係予算案に重要な関係を持っておりますので、私はまず最初にこの点について意見を述べさしていただきたいと思います。  政府並びに自民党の皆さん方は、一枚看板といたしまして社会開発や人間尊重という政策を表明されております。しかし、今度の予算案では、私はこれらの問題はほとんど具体化されてないのではないかというふうに大きな不満を持っております。特に社会保障関係費は約一二%程度の増額でありますが、前年度予算総額の伸び率一四・二%を下回っております。このために予算案全体は、公共料金の引き上げや地方財政補助の圧縮などを前提として編成され、財政投融資計画と国庫債務負担行為を大幅に織り込んでおります。すなわち、財政投融資計画は本年度よりも二〇・八%もふえています。政府はこの投融資で住宅建設とか農林漁業中小企業などの対策を強めると言っておりますが、そもそも、この財政投融資資金は、私たち労働者の厚生年金など社会保険の積み立て金や、国民の郵便貯金などでありますから、その運用については労働者や国民の生活向上や福利増進に使用されるべきであります。しかるに、投融資ではいわゆる産業の基盤強化のためと称して道路、運輸、通信、地域開発、輸出振興など、独占資本に対して全体の四四%も支出されていることは、政府の施策の誤りであります。また私は御都合主義とでも申し上げたいと思うのであります。このことは、私たちにとっては絶対に賛成のできない予算編成のやり方であります。  さて、以上のような前提のもとに医療保険について申し上げてみたいと思います。まず、今度の予算案の中で、なるほど政府管掌健康保険には三十億円の金が仕組まれております。いままで五億円しか出してないことでありますから、これはたいへんな増額のように言われるかもしれません。しかし、厚生省当局ですら、当初予算編成の大蔵折衝の過程の中で百億円の金を要求しているのであります。でありますから、私はこの三十億円程度の金ということでは問題にならないと考えます。このことは、いま非常に世間を騒がして大問題になっている医療費の急増、医療保険の赤字問題が制度そのものをも破壊してしまうほど重要な状態になっていることを物語っているのであります。厚生当局の説明によりますと、政府管掌健康保険は六百五十九億円、日雇い健保は八十五億円、船員保険は一億七千万円、国民健康保険は三百六十億円の赤字が昭和四十年度で計上されるということであります。私たちは、こういう数字は何もいまになって出てきたものではないというふうにまず考えます。たとえば、大きな問題になりましたところの御田厚生大臣の答申無視の九・五%の医療費引き上げが行なわれました当時から、このことははっきりしておったことであります。さらに、ここ数年間総医療費の上昇傾向からも当然予測されていたことだと私は思います。このような状態に対しまして、私たちはいろんな審議会が開かれるたびに、また直接厚生当局にも再三このことを指摘をし、必要な財政効果を考えるように意見を述べてまいりました。私たちは、医療保険をほんとう意味社会保障とするようにというふうに繰り返し繰り返し主張してきたのであります。これは何も私は労働組合の代表でありますが、観念的なことを言っているのではなくして、資本主義というワクの中では、労働者や国民の低賃金、低所得水準のもとにおいて保険料を引き上げることには、おのずから限界があるということを身をもって体験をしているからであります。このことは、ここ数年間の被保険者一人当たりの保険料と保険給付費との比較をして見ますと、保険料を保険給付がはるかに上回っているということを歴然として証明することができると思います。たとえば政府管掌の場合は、昭和三十八年度の一人当たりの保険料は一万五千三百十八円、給付費は一万六千三百四十六円、三十九年度は保険料が一万七千三百四十七円、給付費は一万九千八百三円、四十年度では保険料は一万九千四百三十九円、給付費は二万三千五百十五円となっています。しかも、これは医療費の改定を見込まない場合の推計であります。こういう赤字の傾向アンバランスの状態というものは、健康保険組合共済組合などの場合でも例外ではありません。たとえば政府管掌健康保険の料率は千分の六十三以上も保険料を取っている健康保険組合は、昭和三十五年度末には六百六十六の組合でしたが、三十八年度にはそれが八百五十九の組合にふえています。さらに三十九年四月に保険料率を引き上げた組合数は、驚くなかれ千百九十七組合のうち七十八組合がその上に保険料を引き上げております。その中でも保険料率の最高、すなわち千分の八十まで引き上げた組合が四十三組合もあるのであります。ことし九・五%の引き上げに伴い、さらに料率の引き上げが各組合に提示されておりますが、私たちはこれより以上保険料率を引き上げることについては反対だという態度をもって組合を指導いたしておるところであります。また、共済組合の場合におきましても、たとえば公立学校では四十年度四十億の赤字のために、千分の二十四から三十三に、国鉄共済では三十九年度の赤字が十二億のために千分の二十六から三十五に、郵政は赤字八億のために千分の二十九から三十五に、それぞれ労働者の負担料率が引き上げられています。  さらに、大きな問題といたしましては、四千四百万の被保険者をかかえている国民健康保険の場合であります。これは皆さんも御承知のように、対象が農漁民、零細自営業者で、しかも、三千五百以上に分かれた地域保険であります。でありますから、状態はより一そう深刻であります。国民健康保険中央会の資料によれば、国民健康保険財政への市町村の一般会計からの繰り入れ額総額は三十八年度には六十五億、本年度は百二十億にも達するものと推定されております。実際の赤字は三十八年度で四十億、本年度は七十八億で、全国の市町村の半数は赤字だといわれています。しかも、今年度には過半数の市町村が昨年度より三〇%以上も引き上げを行なっております。その値上げの率は全国平均で二七%にのぼっておるのであります。この状態で四十年度を考えますと、さらに相当な引き上げを余儀なくされているのであるということがわかるのであります。たとえば、東京都では均等割り五〇%を含む平均二〇%の保険料の引き上げ、京都では一二・三%、大阪では六〇%もの大幅な引き上げがやられようと今日しております。これらの国民健康保険の被保険者は、大体年収三十万円未満の世帯が全体の八一%も占めているのであります。しかも、その上長期疾病にかかりやすい六十歳以上の高年齢者の比率が非常に高いのであります。でありますから、これだけでも相当財政負担になっていることがはっきりいえると思うのであります。でありますから、すでに国民健康保険については、多くの市町村が政府にこれを返上するという状態が今日の状態であるというふうにわれわれは考えております。  次に、日雇い健保について申し上げてみますと、三十九年度に、百三十八億の赤字を理由に、この制度そのものをやめてしまうという検討が一部厚生省でされたのであります。私たち労働者にとっては、それは生活と生命の大問題として、これを重視をし、反対闘争をしたところであります。  以上、これらの経緯について考えてみますと、中医協における私たち労働者や支払い八団体の意見を想起していただきたいのであります。さて、こういうふうな現状に対して、政府のとった措置は、初めにも私が述べましたように、政府管掌健康保険に三十億、日雇い健保にはたった三億円しか出していないのであります。そして、一連の赤字対策の解決のためにという、あの有名な悪名高いいわゆる薬代の本人半額負担と総報酬制の改正案を持ち出し、もっぱら赤字対策を労働者、国民のふところから穴を埋めようとしているのが今日の状況であります。  これについては、いま私たちは、いわゆる支払い八団体と政府及び自民党代表との間に取りかわしました了解事項に基づいて、社会保険審議会で審議中でありますけれども、一言だけ、これによって、いかに私たち労働者や国民負担増になるかということ、生活をどれだけ脅かすかということについて申し述べておきたいと思うのであります。たとえば保険料についてみますと、総報酬制で年間四カ月間の期末手当と本給の二割の諸手当があると想定いたします。これまで二万円の標準報酬の人では、これが一カ月間に二百五十九円よけい保険料を納めることになりますし、二万八千円の人では、三百六十三円、三万六千円の人では四百六十七円、五万二千円の人では六百七十四円、七万五千円の人では、一カ月に千六百九十七円の増加となります。このほかに、御承知のように、厚生年金法の改正案が本国会に上程されております。これは大体、いまの私どもの掛け金の約倍額の掛け金増になるのであります。そういたしますと、私たちが、これを、二つを平均をしてみますと、実に、月々に千円から千五百円の健康保険料の増加となるのであります。  これに加えて、皆さんも御承知のように、今日の物価高というものがありますので、私どもは、現在の賃金水準、生活水準を考えますと、とうていがまんのできるものでない大きな改悪案であるというふうに思うものであります。この上に、薬代の本人半額負担がしいられようとしております。常に二千円程度の貯蓄がなくてはお医者にかかれません。労働者は事実上お医者から見放されるような事態も起こりかねないと思うのであります。ある診療所で調べたものを見ますと、かぜで一剤四日分をもらいますと、患者の負担は三百八十三円、胃腸炎で一剤四日分をもらいますと、千四百四十円、それから関節リューマチで、専門的な薬でありますが、ハルドロン錠三十日分、それからザルソテラモン週二回分をもらいますと、五千四百七十円になるということが計算されております。二千円以上は払い戻すということがいわれていますけれども、現金を用意しなくては、お医者にかかりにくくなるということは明白であります。  厚生省は、これによって乱診予防をやるのがねらいだと言っています。しかし私どもは、今日の医学が進歩をしたときに、できるだけ早期に労働者や国民がお医者にかかり、適切な治療を受けるというのは、人間の権利として当然なことだと思います。このことをもって乱診予防などということはもってのほかだというふうに実は考えているところであります。でありますから、これらの二つの方法で、厚生省が考えているいわゆる財政効果を計算をしてみますと、まず、政府管掌健康保険で二百五十三億の財政効果をあげるつもりだと言っています。なお、総報酬制による増収は三百十八億、これによって計上できるということを言っております。しかし、こういうやり方、つまり医療保険の赤字をあくまでも労働者や国民負担に押しつけるというやり方は、国際的に見ても全く逆行しているものだと考えます。事業主や国庫負担増加させていくのが、私は、国際的な趨勢であるというふうに思います。残念ながら最近の新しい資料を入手することができませんでしたので、少し資料は古いのでありますが、一九五八年のILOからの「社会保障の費用」という調査が出ています。これによりますと、日本の被用者本人の負担は三六・八%、事業主は四三・四%、国の負担分は一一・六%であります。イタリアでは、本人は六・二%、事業主は八二・二%、国が七・四%であります。フランスでは、本人が一九・七%、事業主は六九・二%、国が二・七%。西ドイツでは、本人は三六・五%、事業主は三八・六%、国が一五・六%と、いずれも本人負担が著しく軽減されているのであります。私は、この点については、最新の資料によってもこれが明らかに裏づけできるものだというふうに確信をいたしております。私どもは、社会保障を西欧並みの水準に引き上げるという政府、自民党の皆さん方の公約を実際において実行をしていただきたいと考えているものであります。  さらに、現在審議中の社会保険審議会で神田厚生大臣は、薬価基準の引き下げは四ないし五%程度であるのではないかということを述べております。これは、いまの赤字の穴埋めに使う用意があるということを表明しております。これはたいへんけっこうなことだと私たちは思います。しかし、薬業メーカーの利潤というものは、業界でも非常にこれは評判になっているほど大きなもうけをしているのが、今日の現状であります。皆さんも御承知のように、テレビ、ラジオ、新聞などの広告を見ただけでも、このことは想像できるというふうに考えます。すなわち、薬業メーカーが保険システムを悪用し、一部の医者の階層と一緒に仕組んで、やたらに高い薬とか新薬をつくり出し、被保険者に高く売りつけるというやり方、こういう問題については、私たちは大いに規制をしてもらわなければならぬと考えているところであります。そうして私どもは、そういうようなやり方でもうけているところのこの薬業メーカーの問題については、もっともっと基本的なメスを入れ、いずれも税制等においては、税金等を多くやはりかけていく、そしてそれらの税金が医療費に支出されるような支出状態にすべきだというふうに考えているところであります。  ちなみに、製薬独占資本の生産額というものについて触れてみましょう。昭和三十七年度は二千六百十五億でしたが、三十九年度には三千三百六十三億円にのぼっています。三十八年度の九月期決算で、利益率一〇%をこえているのは、製造業では製薬業界だけだということであります。武田製薬の売り上げの中を見ますと、アリナミンというビタミン剤だけで十五億円にのぼっているといわれています。こういうことを考えますと、薬価基準の引き下げというのは、まだまだ可能なものであるというふうに思います。そして薬価基準の引き下げにより財政効果をあげることも必要な手段の一つであります。しかし、基本的には、私どもは、医療問題の解決のために、支払い側八団体より提出された事項について、支払い側代表と官房長官及び自民党代表との間に取りかわしました了解事項、すなわち、第一は、「当面の措置」といたしまして、「今次医療問題の収拾の取扱いについては佐藤首相に預ける。」、(2)といたしまして、「各種医療保険財政の健全化に資するため、財政事情の許す限り、極力国庫負担の増額等必要な措置を講ずる。国保、日雇健保等の医療保険財政については特段の配慮をする。」、(3)、「保険三法の改正については政府は審議会の答申を待ちこれを尊重する。」、(4)、「政府は薬価基準の引き下げについて早急に努力をする。なお昭和四十年度以降毎年薬価実態調査を行ない必要に応じ改訂を行う。」、(5)、「医療費の改訂は医業経営実態調査に基づいて行なう方針の下に、その円滑な実施方法について検討する。(6)、「保険医療機関の監査は励行する。」  第二、「恒久措置」といたしまして、(1)、政府は、医療問題調査会(仮称)を設け、医療支払制度の合理化等を含む医療制度全般について調査研究し、その根本的解決を図る。」、(2)、「中医協の運営の円滑かつ公正を期するため、その改革を行なうこととし、新設される医療問題調査会において検討する。」を、私は、政府並びに自民党の皆さん方が忠実に実行されることが、当面の財政効果をあげるためにきわめて必要な事項だというふうに考えるものであります。さらに、基本的に重要なことは、国民の生命と健康を守るために、政府といたしましては、他のことは何をさておいてでも、必要な金額をきちんと予算案に計上することが本来の道筋ではないかというふうに私どもは考えるのであります。  初めにも述べましたように、予算案そのものが、私たちの国民の生活向上に十分寄与するものとなっていないのでありますから、医療保険予算だけを取り上げて、その額の劣悪なことを取り上げてみても始まらないものでありますが、事は国民の生命にかかわる問題であります。医学、医術の進歩は日ごとに高まっているのでありますから、それにふさわしい予算を計上することは、政府にとっては、何をさておいても実現をしなくてはならない重要な課題であるというふうに考えます。  私は、推定される医療費総額一兆円をもとに——四十年度でありますが、もとに、九・五%の引き上げに対しまして、とりあえず一千億の国庫支出を要求いたしました。なお、いわゆる「了解事項」を取りかわす時点において、もっと詳しく財政的な数字をあげましたのは、すなわち、六百億の国庫支出と現在までの保険の累積赤字約一千数百億については、厚生年金資金から借り入れ運用する、そして利子補給の形において政府がこれを償還をしていく、こういう点を政府並びに与党に善処を要求しております。また、この大筋については、了解事項の中で、政府並びに与党の代表から了解をいただいているところであります。さらに加えて、社会党からもすでに衆議院予算案を審議する際に、これらの問題が提出をされております。その上に、私どもは社会党を通じて、共済組合には一銭の国庫負担もない現状を改善するために、二割の国庫負担改正法案を早急に実現するようにということで、国会審議をお願いをいたしております。私は、このことが本国会の中で成立をするようにお願いをしたいと考えているところであります。また、一千数百万の労働者が加入しておりますところのいわゆるこの健康保険には、三割の国庫負担をわれわれは実現するように要求をいたしております。それから日雇い健保などは、本来健康保険の中にこれは吸収すべきものであるというふうに考えます。しかし、当面は制度が別になっておりますから、私どもは、厚生当局が主張しておりますように、六ないし七割の国庫負担を要求しているものであります。  なお、この機会に、私は、いまのようにばらばらになっている保険制度で給付の格差が非常に著しいということについては、早急に統一をし、一本化するように希望をいたします。もっともこれは、厚生当局が考えているような、いわゆる総合調整や財政プール案などとは、およそかけ離れて、本質的にも違ったものであります。また、日本医師会などが言っている地域保険への統合ともまたその立場を異にしているものであることを、念のために申し添えておきます。  保険料についていえば、私たちは、西欧並みに、国と事業主の負担をより多くするということ、特に現在は労使折半という方式がとられておりますが、これがすみやかに変更されることを要望いたします。また私たちは、給付については、どのような管掌の——本人、家族であろうとも、いわゆる無制限、無条件に十割給付、そうして病気にかかったならば、それがなおるまで保障されるというような制度へと前進をしていただきたいと思っております。また、現金による諸手当の給付につきましても、私どもは六割では十分な生活を確保することはできません。でありますから、これまた、給付内容と同じように、いわゆる現金給付の場合にも、十割保障ということについて要求をしたいと考えているところでございます。  最後に、私は、今回の医療費問題ということが非常に国会の外におきましても大きな問題になりました。率直に言って、私は、医療費問題についての政府そのもの、また、国会における関心というものが、いままで薄かったのではないかと思います。しかし、今回これだけの大きな問題となり、国民全体はこの問題がどのように解決をされるかということを注目をして見ているところであります。私は、われわれ支払い八団体と政府、自民党において約束をされたことが、すみやかに実行され、そうして医療費問題については、すなわち、世間によく言います雨降って地固まるということで、今後このような争いが、国民の生命と健康を守るという問題において起こらないような政治の姿勢を特に要望したいと考えているところであります。  以上です。(拍手)
  36. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ありがとうございました。
  37. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 次に、川合弘一公述人にお願いいたします。
  38. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) 私の御意見を申し上げるのは総論と各論に分かれておりますので、この点よろしくお願いいたします。  まず総論を申し上げます。現在の健康保険財政赤字の原因は、いろいろ言われておりますが、究極するところ、場当たり行政の結果にあるものであるということを結論的に申し上げます。今日の医療問題が混迷いたしておりますのは、何も最近に始まったことではございません。この原因は、相当健康保険ができまして以来そのようなことになってきたということを御承知願いたいおけでございます。で、なぜかと申しますならば、少し財政に余裕ができますと、昔は入れておりませんでしたところの家族までも保険に入れるといったような手を打ってみる、赤字が出てまいりますと無理な締め方をする、絶えずこう薬ばりのやり方でやってきた、こういったところにそもそもの赤字の原因があるというのが私の意見でございます。特に、医療保険をながめます際に、労使の立場だけでながめられ、労務対策の被用者健保としてしか考えないところの百年前のドイツの古い考え方から一歩も前進いたしておりません。だから、既得権だとか、企業ぐるみのエゴイズムを捨て切れない、全国民的な視野に立って考えようといたすことは少しもされておらない。口には社会保障、福祉国家建設国民皆保険を唱えておられましても、全国民的なしあわせのためにといった気持ちがないというのが私の結論でございます。だから、いつまでたちましても保険制度のもとにおきまするところの医療問題が混乱するばかりであるのは当然でございます。こういったところに今日におきますところの赤字の原因があると思います。  それでは、各論について申し上げます。まず第一に、今日におきますところの政府管掌健康保険をはじめといたします各種保険制度が赤字を出し財政危機におちいっています直接の原因は、これまた行政の失敗にほかならない。その二、三の点について私はここで指摘いたします。  その一つは、日本におきますところの賃金の特色といたしまして、何々手当とかあるいはボーナスとか臨時に支給されます給与が外国に比べまして異例に高率でございます。それが最も経済成長に対応して大きく伸びております。それなのに保険料は、それらの特別手当とか臨時給与を除いた毎月きまって支給される給与を基礎といたしまして計算いたしますところの標準報酬方式を採用いたしております。しかも、現在五万二千円で頭打ちといたしておるわけでございます。そのために、経済成長に対応しない仕組みになっておるわけでございます。だから、保険財政経済成長に追いつけないで、すぐ破綻するのがあたりまえでございます。保険料算定のもとになりますところの標準報酬は、実際の給与の約七〇プロ以下といわれております。また、厚生省の調べましたデータによりましても、賃金のベースアップの六〇プロの伸びしか示さないということは、社会保険審議会でも当局から説明されたところでございます。  次に、昭和三十五年に、被保険者代表や一部の公益委員——私らでございます——が反対いたしましたのに、無理やりに保険料を千分の六十五から千分の六十三に引き下げました。この際は、労働者代表、私ら公益委員が、必ずこういったものは医療内容の向上に充てるべきである、給付水準の引き上げに充てるべきであると言ったのでございます。それなのに、引き下げを行なった上で、給付期間の延長、継続給付の資格を取りますところの期間を有利にするといったようなことをやりましたために、これは赤字ができるのは当然でございます。そこで、私らがこれを昭和三十五年以来千分の六十五から六十三に下げました千分の二というものをかりに置いておったらどうなるかという計算をいたします。昭和四十年度までに政府管掌健康保険は、もし引き下げを行なっておらなければ、私の計算では二百九十六億円という金が余っているわけでございます。この点は、どうぞ御記憶願いたいと思います。これは昭和三十五年のできごとでございます。そして、われわれが反対し、労働組合も反対いたしましたことを御記憶願いたいと思うわけでございます。  次に、私ら日本医師会がたびたび警告いたしましたことは、このまま健康保険組合をつくりまして、被保険者、すなわち政府管掌健康保険から給料のいい元気な達者な人たちを引き抜いてまいりますと、必ずその穴ができますよということを注意いたしました。健保組合の乱設を戒めたわけでございますが、それでも耳をかさず、どんどんつくってまいりました。そのために、昭和三十二年度新設分から昭和三十九年度新設分までについてさっと計算いたします——ざっとじゃなく、正確に計算いたしております。それは、その健康保険組合から出ております資料を一々追求いたしました、これを計算いたしました。そういたしますと、大体昭和四十年度までにどうなるか——昭和三十九年までの新設分でございますが、どうなるかと調べてまいりますと、これまた約四百九十億円以上の損害を政府管掌健康保険に与えておったということがわかったわけでございます。この両者だけを合わせましても、優に七百八十六億円余になります。本年度は、健保すなわち政管健保の赤字——先ほどもお話がございましたが、六百五十九億円で大騒ぎしておるわけでございます。七百八十六億円を、こういったよけいなこと——と言っては悪いですが、私に言わせれば、よけいなこと、行政が正しくやっておれば、本年度は百数十億の黒字が出て、左うちわであるわけです。この点はどうぞ御記憶にとどめていただきたいわけでございます。もし乱立いたしておりますところの各種医療保険を一本にいたしますならば、これは先ほど安恒公述人から、日本医師会の主張というものが国保並みにするというような御発言に聞こえる向きがありましたならば、われわれがここで申し上げたいのは、一本にするためには、少なくとも現在の健康保険並みの給付に国保も引き上げるわけでございます。引き上げて統合いたしましても、少なくとも一千億以上の黒字になることは私ら計算終わっております。ところが、いまの乱立のままで置いておくと、個々の医療保険は赤字になるのは当然でございます。よく一人世帯では食えなくても二人世帯なら何とかやっていけるというたとえがございます。何と申しましても、大規模経営は有利でございます。保険には大数有利の原則があるということも聞いております。さいふを一つにいたしまして所得再分配を十分に行ないますならば、うまくいくのが当然でございます。このような論理が、一部のエゴイズムと思われるところの理由で、乱立のままで放置されることによりまして、このようなあたりまえの論理が打ち消されておるわけでございます。もっと全国民立場で考え直すべきときがきておるのではないか、これが第一でございます。  次に、今日多くの人々が医療費の増加を赤字の原因だと誤解されておるのですが、医療費増加を犯人扱いされておるような向きがございますが、これはとんでもない誤りでございます。医療費の増加は、国民皆保険実施に伴う被保険者数の増加によるものでございまして、それに伴う受診件数の大幅な、すなわちお医者さんにかかる人たちが非常にふえてきたということによりますところのもので、これがすなわち各政党、政府がお掲げになりましたところの国民皆保険政策がりっぱにその目的が達成されておるという証拠でございます。まさに国民のしあわせ、福祉が向上したわけでございまして、医療費増高万歳と言ってもらいたいくらいでございます。  私が開業をいたしました当時、お医者さんになりまして、スラム街で私は開業いたしました。その当時、夜呼びに参ります——参りますと、見たことのない患者、どうしたのだと言ったら、死んでおります。ただお医者さんを呼ばぬことには死亡診断書に書いてもらえない、要するに火葬場送りができない、だから呼んだというものが実態でございました。事実でございます。わずか十六、七年前でございます。このように、日本におきましては、終戦後貧しい人々は、医者を呼ぶときは死ぬ前か死んでから、このような哀れな状態がございましたが——私は健康保険の悪いところばかり申し上げません——ところが、今日は非常にそのような悲劇がなくなってきたということを私は申し上げたい。また、医療費の増は薬が原因だとよく言われます。医学、医術の進歩に伴うところの新しい薬の開発が医薬品原価の増加をもたらすのは当然でございます。平均余命の延長すなわち長生きしてまいる、悪疫の撲滅すなわち悪い伝染病がなくなってくるなど、すべて国民のしあわせに還元されていると思います。  もう少しこの点につきまして具体的に申し上げますならば、昔は自然治癒を待つというのが私ら内科医の名医たるゆえんだという教えが昔の本にはございました。しかしながら、今日は、学問の進歩によりまして、医療の構造改革が非常に行なわれてまいりました。いろいろ高度の、エレクトロニクスを使いますところの診断方法とか、臨床検査の励行で、非常に病原が突きとめられたり、積極的にこちらからアクチブに進んで病気を退治するという医療が行なわれておるわけでございます。したがいまして、人類にとりましては、非常に乳幼児の死亡も減り、老人も長生きしていただくといったように、非常にしあわせになった。この点は、私は特に強調いたしたいと思うわけでございます。たとえば、昔は死に病と言われました肺炎も、抗生物質——ペニシリン、オーレオマイシン、クロロマイセチン、いろいろございます——などのおかげで、死に病と言われました肺炎は、入院しなくてもなおるようになってきました。場合によりますと、外来でぴしゃぴしゃっとなおってまいります。チフスも、昔はかかりますとまず三カ月ぐらい寝込んでたいへんなんです。これは私も経験ございますが、私がみておる患者でも、これはチフスになったらもう死ぬんじゃないかとたいてい心配したものでございます。現在は新薬のおかげで、一日ないし二日で何とか峠を越すというようなありがたい世の中を迎えております。コレラなんか、もうかかったらだめだ、これがもうけろっとなおるというようなことは、抗生物質のおかげでもあるわけでございます。また最近は、昔はばかにつける薬はないと言いましたが、気違いにつける薬ができました。人間の精神状態をコントロールできるところの世の中になっているわけでございます。昔は大手術をしたバセドー、——ここがはれるわけです。これは血が非常に出ますのでたいへんなことです。私らは、別府に名人がおりまして、私が大学当時に、この手術は非常にむずかしい手術だということで、私も見たことがございます。ところが、そんなのを最近、これくらい小さいカプセルを五ミリキュリー、七ミリキュリー、これをぽっと飲みますと、これはすばっとなおってしまう。ぼくはそれを非常に得意にいたしておりますけれども、おかげで、宣伝しては悪いですけれども、わずか七ミリキュリーのI131カプセル三個で済むのです。ほんまにすっとしてしまって、びっくりしてしまう。こんなのが現在の世の中でございまして、あげれば、宣伝をいたしますれば数限りございません。とにかく人間にとってこんなしあわせなことはないと、私医師の端くれとして考えておるわけでございます。いますぐガンもなおるようになります。今日の医療費の増加など、このように人間の命に貢献していることを思いますならば、命が助かるのですから、まことに安い費用だと私は言いたいのでございます。老齢人口の増加は、お年寄りがふえていくということは、これはもういまの定説になっております。これは生命延長の結果で、まことに喜ぶべきことでございます。しかし、老人ほど疾病にかかりやすいのは、これはあたりまえでございます。病気になる割合が多い。また、年寄りの病気というのは、非常に医療費の、銭のかかるものなんです。だから、年寄りがどんどんどんどんふえてくれれば、これは大いにけっこうなことですから、先生方長生きしてもらうことはけっこうなことなんです。しかしながら、ちょこちょことからだが痛む、そういうことで医療費がよけいかかるのは、私は全体として喜ぶべきことであるので、また当然であると思います。で、工業化——最近インダストリアリゼーションというようなむずかしいことばで言いますが、工業化に伴いまして公害が非常に起こってまいっております。たとえば、大気が非常に汚染する、亜硫酸ガスがぽっぽっと自動車から出される、そのために、御承知のように、四日市あたりでは、すなわちぜんそく、公害ぜんそくというのが出るのです。また、酸素が減ってまいりますと、これは高血圧が非常にふえるわけであります。これは学問的にもはっきり証明されております。空気中の酸素が減ってまいりますと、高血圧がどんどんふえて、心臓の非常に悪くなってくる人が多くなる。だから、治療としましては、酸素テントと申しまして、酸素の中に一日二時間くらい入れておけばぐあいがいいというような治療が最近できてきた。要するに、これはだれの罪でもない、工業化が進んで空気がよごれる、国民にとっては非常に迷惑千万である。しかしながら、非常に目に見えないところのことによって、われわれはからだをいためているわけでございます。自動車の運転手がよく胃がすぐ悪くなります。これは、ああいう混雑した道を走っておっていらいらしておる、これは必ず胃かいようになってしまう、これは脳からの作用なんです。胃かいようが多いというのは、自動車の運転手にとってはほんとうに非常に気の毒な宿命でございます。その他あれやこれや、もう医療費問題もさようでございますが、複雑な世の中の騒ぎのために、メカニズムが入り乱れてまいりますと、人間はストレスのためにほんとうに神経がすり減らされる、これが近代人の特色でございます。したがって、非常に新しい病気が出てきた。騒音、ザッと自動車が通る、汽車が走る、ジェット機が飛ぶ、それから非常に川がくさい、そういったような点、非常に人間の神経はいらいらさせられます。自律神経や新陳代謝機能など狂わしております。最近、新陳代謝の病気で薬を使い過ぎるとえらいおこられますけれども、片一方で、ガンガンジャーッとやって、くさいにおいを出しておいて、新陳代謝おかしくなれば、新陳代謝の薬を飲むのはあたりまえなんです。そういったことをひとつ御承知願いたいと思います。  それから農業改革と申しまして、御承知のように、昔私ら子供のときには、そういったことはなかったけれども、最近は農薬が発達したわけでございます。そういたしますと、洗うことその他のこと等もやっておりますけれども、野菜、くだものを通じてのこういったものが、間接的に、知らず知らずのうちに肝臓を痛めてきておる。肝臓疾患の増加ということは、厚生省にもデータが出ております。ガソリンの中に、特に印刷工場等では、手を洗うためのガソリン——業者のガソリンも入っておるそうでございますが、一種の鉛化合物、鉛が入っております。そうしますと、中毒しますと、精神状態がおかしくなる。それから食料品の中には、いろいろきれいな色がついております。これは厚生省では十分取り締まってはおりますけれども、とにかく、食料品添加物の中には、ガンとか肝臓とかいうことと密接不可分のものが、近代的なかん詰めが進んでまいるということによって、いろいろなことが起こってくるわけでございます。人造繊維の乳児に対する害、あげれば数限りがございません。これは世界的に指摘されておるところのものでございます。  このほか、病気の形は動いております。今日、結核、肋膜炎が非常に少なくなってまいりましたが、しかし、それらの病原菌を殺すところの薬のもとであるカビが、逆に人間のからだに取りついて、カンジダといったものを起こすおそろしい病気もございます。昔はペニシリンというものが十万単位で私らきいたといったものでございますが、現在では五十万、百万単位でもなおらないといった場合も、今日あるわけでございます。このように疾病の姿、構造が世の中の動きとともにどんどん動いてまいっております。世の中の進歩とともに生まれる新しい病気に対しまして、新しい薬が出てまいるのは、これは当然でございます。これはすべてりっぱな学術的根拠のあるものでございますので、よろしくお願いいたしたいと思います。  このように老齢人口の増加、工業化に伴いますところの公害など、社会環境の変化は、疾病増加、疾病構造の変化を必然的にもたらすわけでございます。これに対しまして、近代的な医学医術による積極的な治療が行なわれるのも、これは国民のしあわせ向上のために当然のことでございます。そのために医療費が増高をするのは、私は必要やむを得ないものだと考えております。医療費は決して物の動きに並行して動くものではございません。疾病の動き、疾病構造の変化に応じて動くものでございます。このような医療費の増高を物の価格のみによってはかろうとしたり、抑制したりしようとしたりすることは誤りであると私は申したいのでございます。医療費の増高、特に医薬品費の増大は、日本における医療保険のみの現象ではございません。健康保険以外の診療においても、その傾向が顕著でございます。また、諸外国におきましても、むしろ日本を上回る状況でございまして、世界的趨勢と言わねばなりません。  ただ、医療費増加の中で考えねばならない点は、入院料の問題だと考えております。入院料には、めし代、寝具代、部屋代等、生活費相当部分が入っております。医療費に占める生活費相当部分の割合は、大体甲表にとりまして四六%、乙表で三〇%、そのうち、給食代は一〇・一四%、入院料の医療費の伸びに対する寄与率は、ここ六、七年の間、最高四四・五%で、大体一〇%を下回ったことがなく、相当大きい割合を占めております。アメリカでは、人口千に対し、一般病床二・五ないし五・五、精神病床五、慢性疾患病床二でございます。これは日本でも十分考慮されなければならない問題で、ございます。アメリカでは、今日、従来の病院計画を捨てまして、地域社会との関連を重視する計画を打ち出してきております。これはアメリカの経済の繁栄をもっていたしましても、入院医療費をささえ切れないことを物語っているわけでございまして、今後のわれわれの一つの問題点を提起いたしているわけでございます。医療費の増高を言う前に打つべき手を行政、政治等で忘れられておるのではなかろうか。この世の中とともに移り変わりますところの疾病構造及び発病に対する対策を怠っておりながら、これに対し必死になって国民の生命を守っているところの医療費の増高を犯人扱いし、これを責めるのは間違いだと思います。  このような疾病対策は、地域社会単位に立てなければだめであると存じます。日本では、この考え方はまだあまりございません。出てきた病気だけ、それの医療費だけ追いかけているというのが現状でございまして、世界の医療体制は著しく進歩いたしまして、行政の学問として発展いたしておりますが、日本では、伝染病予防をはじめとし、明治、大正の残存状態であると思わざるを得ません。これが予算面にもそのままあらわれていると思うわけでございます。このような状態に放置されておりますところの医療制度、保険制度は、百年前のドイツ方式による労働対策のままで、近代化されておりません。このような医療制度と保険制度の間にはさまれましたところの医療保険は、まるでばらばらのごみ箱化されております。そのごみ箱がてんでんばらばらに大きくなってきた。これが今日の日本の悲劇ではなかろうか。科学的な基礎に基づいて解決策を打ち出さない限り、結果だけ、現象面だけ見て継ぎはぎするような対策はいけません。したがいまして、これを批判しているだけでは、問題は解決しないと思うわけでございます。  それではどうすればいいかということにつきましては、地方分権の精神を十分に生かされまして、国民健康保険を根幹とはいたしますが、給付は国民健康保険並みにせよというのではございません。はるかにレベルアップした高水準のもので、いま一度、地域社会を中心とした医療保険制度に一度すっきり立て直す必要があるのではなかろうか。その場限りの赤字行政だけに追い回されないで、混乱で何が何だかわからないようなことは、一応この際やめて、新しい再出発ができるようにすべきである。医療保険制度も、既得権益とか企業ぐるみのエゴイズムといったようなことは捨てまして、国民全体の立場で考え直す。これに対して、私らの医療体制のほうも、地域社会におけるどのような疾病構造の変化に対応いたしましてもやっていけるような、すなわち、医療制度調査会の答申に示すところのことを実践していく必要があるのではなかろうか。こういったことに対して、政府はいまだ手をつけようといたしません。こういった点は特に注意せねばならないと思うわけでございます。  次に、今回出されようといたしておりますところの薬剤費一部負担、及び歯科の補綴一回につき二百円の自己負担につきましては、私らは、医師独自の立場で、労働者諸君とは別の角度から反対いたしておるわけでございますので、十分御理解願いたいわけでございます。  その最も大きな理由は、病気が非常に多い低所得階層が、これでは薬も飲めないということになれば、これは国民の生命を、貧富によって差別待遇するということになりますので、医師として、とうていその良心が許されません。これは、医学医術の進歩が国民の福祉に直結することが望ましいとする私ら医師の願いが、ますます不可能になるからでございます。  第二の理由といたしましては、もし薬剤費一部負担ということが行なわれますと、事務が非常に繁雑になります。現在でも、毎月の終わりと初めには、相当事務の繁雑のために悩まされておりますが、これから、患者さんが参られますと、使った薬を一々全部計算し、処方内容を計算して、そのうちから五割、そうして二千円にいつなるかとひやひやしていなければならない。これは、私らでやってみますと、一日の作業が、患者一人の薬の内容を、一番あたりまえの内容でやってみましても、六十秒はかかります。したがって、毎日の事務や請求の事務は、約三倍になるだろう。これでは、医師の本来の仕事であるところの医療はおろそかになり、事務ばかりやっていなくてはならない。こういうことから、医療に対して責任が持てないという悩みが出てくるわけでございます。  次に、自由経済社会におきますところの医療制度は、自由主義を基調といたしまして、福祉国家建設の中で、できる限り医学的な創造力と人間尊重の精神が発揮されるように配慮されなければならないというのが、私らの考え方でございます。そのためには、まず自由経済社会にふさわしい技術評価の国際水準への発展を必須条件といたします。このためには、医療制度調査会答申に示されておりますところの医療の近代化、国民医療の体質改善及び医師の専門職、すなわち、プロフェッションとしての社会的地位の確立が必要でございます。  その第一歩として、私ら再診料設定を要求いたしておるわけでございまして、その果たす役割りは非常に大でございます。現在の薬剤に依存した診療報酬のあり方は、あらゆるチャンスをとらえ、医師の技術評価に切りかえていくべきだということが、われわれの強い主張でございます。その一環として、再診料十点設定を誠心誠意要求してまいりました。現在もその要求はごうも引き下げてはおりません。中央医療協議会において、開会冒頭、御田厚生大臣は、再診料の問題は文字どおり今回の緊急是正に引き続くものとして解決していきたいと、先般の中医協の冒頭におきまして、はっきりと文書をもって確約いたしております。また、昭和三十九年四月の中央医療協議会の有沢答申の根幹でありますところの公益委員意見として、一、薬価基準の適正化はすみやかに、できるならば緊急是正と同時に改定する。二、薬価改定によって、現在診療報酬から生じた余裕は技術料部分に振りかえる。三、薬価改定及び振りかえの技術的方法につきましては、本協議会に専門部会を設けて検討する。以上三点につきまして、答申意見としておるわけでございます。これから見ましても、中医協の答申尊重を云々する限り、少なくとも、このことは十分に尊重されなければならないと存じております。  薬価基準引き下げは、今日、診療報酬とは切り離して考えることのできない重要な問題でございます。薬価基準の引き下げにつきまして、とやかく言われておりますけれども、現在のような低医療費のもとでは、薬価基準を技術料に振りかえしないで、たとえ一・五%でも引き下げられるようなことがございますならば、これは実質的には診療報酬の引き下げになることは言うまでもございません。再診料十点をかねてより私らは要求しておるにもかかかわらず、九・五%しか引き上げられなかった。これだけではどうしてもやっていけない。現在、薬価基準と実質価格との差額で医療機関がようやくやりくり算段していることの実態は確かでございます。これはそのままで十分であると言っているのではございません。まだまだ診療報酬を大幅に引き上げてもらわなければやれないことはもちろんでございます。また、国家公務員のベースアップ、一般企業の労働者のベースアップ、そういったものが行なわれてまいりますならば、医療従業員の待遇改善もしなければなりません。そのような現実を無視して、実質的な診療報酬引き上げになりますところの薬価基準を医師の技術料に振りかえないで、たとえ一・五%でも引き下げが行なわれますならば、勢い医療従業員三十万のほうに、それだけのしわ寄せをせざるを得ない。で、夜間看護婦の問題などについて、いろいろ御心配を賜わっております。私らも悩んでおります。御承知のとおりでございます。それにようやく九・五%かろうじて上げていただきました。医業をささえるもので医学の進歩に対応する医療の改善は不可能でございます。かろうじて医業をささえることができる。しかも、これ、すべてその従業員の賃上げに回したあとでございます。そこで、一・五%を実質引き下げよということになりますと、医療従業員三十万の待遇をそれだけ下げよということになります。そのようなことを労働団体の幹部が自民党首脳部及び政府に要求され、了解事項になったということは、三十万の医療従業員のことをどう考えておられるのであろうかということを、私どもとしてはまことに理解いたしかねているわけでございます。  薬価基準一・五%を医師の技術料に振り向けないで、そのまま下げますならば、国民負担は百五十億円軽くなる。だから、これは赤字対策に充てなさい——それなら、一億の国民の側から見ましたら、一人当たり百五十円でございますけれども、三十万の医療従業員のほうから見ましたならば、一人当たり五万円の損失になるわけでございます。一億の国民負担ができないとおっしゃるものを、わずか三十万の医療従業員の肩に、犠牲となって負担せよというのは、それはあまりにも殺生じゃないか。むちゃだということを申し上げたい。とにかく、診療報酬の値上げを要求している際に、逆に実質的な値下げをすれば、労働組合の場合、どうなるか。片方で賃上げをやっているのに、片方は賃下げだ、こうなったらどうなるか。こういう点は十分に慎重に考えてもらいたいわけでございます。  薬価基準引き下げに対するこのような保険者の皆さまの考え方は、医療支配のみならず、将来薬価まで支配しようというのではないかと勘ぐらざるを得ないのでございます。保険者が一方的に薬価の決定権を持とうとすることは、いまの日本の国家体制の話とは私は思えません。身の毛のよだつような気が私自身はいたすわけでございます。一方では賃上げ、一方では医療従事者の犠牲をしいる低医療政策をさらに推進しようとするのにほかならないと私は思わざるを得ません。  医療費を安くするために、製薬資本を締めつけるということを平気で言われる向きがございます。製薬事業は自由企業でございます。自由社会における価格決定につきましては、私は専門家でございませんから、とやかく触れません。ただ、われわれ医学の専門家としての医師といたしましては、最も心配いたしております点は何かと申しますならば、安かろう悪かろうということは忘れないでほしい。十分注意しない価格のダウンというものは、結果的に品質の低下になります。世界的な視野で考えた場合、新しい薬の開発がわが日本中におきましては非常におくれてまいることを忘れないでほしい。いまの行政や政治は、とかく金額や量ばかりいわれまして、品質の低下を忘れるということは、医療の場合と同様、薬の場合にも同じような失敗を繰り返さないでほしい。  もし、あまり値段を締めつけますと、必ず純度の低い製品が出てまいります。医療品の中に含まれておりますところの不純物は、また不純物ほど、これは何回か飲んでおりますと、抗原抗体反応という、最近の自家免疫という理論がございます。証明もされております。たとえば、ここに純粋の薬液と、それから不純物の製品と二つある。これを皮内反応をいたしますと、不純なものは、皮膚がまっかになる。同じ製品でも、そうでないものは何の反応もない。これが積もり積もりますと、結局、その不純物が抗原の作用をなしまして、世にいうショック事件を起こすわけです。いま騒がれておりますところのアンプル禍を私は事新しく取り上げたくないのでございますが、私ら医師の立場、医師会の立場として、その一つのよい例があれだということを申し上げたい。  質を忘れた医療というものは、いかに国民の生命に危険なものであるか。医療は、薬品をただ経済的な物の値段だけの立場だけで、質のことを忘れておりますと、学問を否定した姿で判断されてまいりますと、国民の生命に重大な影響を与えることを忘れないでほしい。厚生省にいたしましても、安ければよいということで奔走されておるようでありますけれども、薬を締めつけたらどうなるか。このことを私はここにおいて警告いたしたいわけでございます。  次に、社会保険審議会は改組せられるべきであります。社会保険審議会は支払い団体、すなわち労使が話し合いされる性格のものでございます。私はこれを否定しようとは思いませんが、百年前のドイツ方式の労務対策としての被用者健康保険としてしか考えない立場に立っておられます。現在は国民皆保険の世の中でございます。全国民立場で考えられねばなりません。社会保険審議会には、国保その他多くの国民の代表は入ってはおりません。したがって、社会保険審議会は、社会保障国民皆保険の今日、時代にマッチした性格のものに改組せらるべきであると思います。
  39. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 川合公述人に御注意申し上げます。大体予定時間を経過いたしましたので、簡単にお願いいたします。
  40. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) あとははしょります。もうちょっと……。したがいまして、医学専門的なことは、学術専門団体の意見を聞いた上で、法律改正していただきたい、かように申し上げたいわけであります。  その他ございますが、これでもって終わります。(拍手)
  41. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ありがとうございました。     —————————————
  42. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 次に、ただいまの公述人の方々の御意見に対しまして、御質疑のおありの方は、順次御発言願います。
  43. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 まず、両公述人に、本日はまことに御苦労さまでございました。厚く敬意を表します。ただいま御発言の内容につきましては、それぞれきわめて傾聴に値するものがあったと思います。二、三私はその中で、お尋ねをしたい点がございます。  まず、川合公述人にお尋ねをいたします。  最近におきまする医療費の増高が叫ばれております。このよって来たる原因は、医療内容の向上によるものであるといまお述べになりました。また私どもは、この際、これに関連いたしまして、保険医の生計基準の内容等も承知をいたしたい、かように考えます。今日医療担当者側の中に、現在の医療費はきわめて低医療報酬に失するというような切実な叫びもあることを聞いております。大体現在高度経済成長下におきまして、医師の実質所得成長倍率と実質国民所得成長倍率の割合の推移等はどうなっているか、こういう点、お調べになっておりましたら承知をいたしたいと思いますので、お尋ねいたします。
  44. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) 大体実質国民所得成長倍率に対します医師実質所得成長倍率の割合の推移というものは、私どものほうで調べたものがございますので、これを申し上げます。  昭和二十七年を大体一〇〇にいたしますと、ずっと下がってまいりますが、大体三十六年度では七五、三十七年度七六、こういったような姿でございます。
  45. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 大体ただいまの御答弁によりますると、この割合の推移が非常な低位に移りつつあるということは、これはまことに意外な数字と存じます。なお、これに関連いたしまして、最近におきまする社会保険診療報酬の上昇推移、これと他の比較例にいたしまして妥当を欠くかどうかわかりませんが、国家公務員あるいは民間給与ベース、消費者物価指数等との上昇指数の対比等につきまして、おわかりでございましたら、承知をいたしたいと思います。
  46. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) ただいま御質問なさいましたいわゆる社会保険診療報酬の指数といったものでございます。なお、念のために申し上げますが、これはいわゆるあくまで非常に医者が労働強化、医療従業員が労働強化した、そういうケース——条件を除いたところの指数でございますので、念のために申し上げます。  二十三年度を一〇〇にいたしまして、昭和三十八年まで私らは調べておりますが、大体四八・一——大体五割増でございますね。国家公務員の給与でいきますと四六七 一——四倍半で、民間給与は六八六・一、消費者物価指数では二二〇、鉄道料金では四五〇、なお、新聞料金は一三七七・九、それから理髪料金指数は九六八・二、こういうことに私らの調べではなっております。
  47. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 ただいまの御説明によりますと、これまた非常に上昇指数というものが低いということに驚くばかりでございます。つきましては、今日さような社会保険医療機構の中で、非常に保険医の方々が努力をされてまいられました。先ほども、新たなる医療、医術の進歩によりまして、不幸なる方々の数が非常に減ってきた、平均寿命も相当に伸びたと言われました。私のほうではその数字を持っておりません。最近におきまする平均寿命の推移——どのような状態になっているか、お調べでございましたら、承知をいたしたいと思います。
  48. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) 私の手元にございます資料によりますと、女と男のいわゆる生命というものの長さというものは、若干違いますので、申し上げます。昭和二十二年におきまして、男のほうは五十歳というのが、三十八年度では大体六十七歳というような伸び、女性のほうは五十三から七十二に伸びているという調べでございます。
  49. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 了承いたしました。続いてこの際、社会保険医療のいわゆる根幹を審議するといわれておりまする社会保険審議会のあり方でありまするが、この点について、いろいろ批判の声も私、聞いております。この運営が一体どのように行なわれているか、特に医療担当者側の委員の川合公述人の御意見を承りたいと思います。(「両方から聞かなくちゃ」と呼ぶ者あり)それでは、ごもっともでございます。後ほど安恒公述人にもお尋ねをいたします。
  50. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) 私の存じている限りでは、社会保険審議会におきましては、私は公益を代表する委員の一人として出ております。で、公益委員は九名、被保険者を代表するというところが九名、それに対立しまして九名がいわゆる事業主のほう、結局九対九という、労使おもな話し合いの中には九名の公益委員がおるという姿でございまして、ただ今回の健康保険法の法律改正におきましては、御承知のように、先ほども申し上げましたように、薬剤五割負担と申しますと、薬の内容、処方その他医療の根幹に触れる問題でございます。また、歯科のほうでは、歯を補綴するといったような場合には二百円ずつ取るということでございますので、医師、歯科医師、薬剤師というもののいわゆる専門的な根幹に触れる問題が法律改正の内容であるわけでございます。そういった場合には、少なくとも私の意見としましては、純経済的な立場よりもむしろ国民の生命が大事でございますから、専門家の意見を十分聴取した上で法律改正を行なうべきだ。そういたしますと、現在の社会保険審議会は少なくともそういった性格のものではない。この点ですね、率直に申し上げて。
  51. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) それでは私から申し上げますが、社会保険審議会は、いま川合さんからも言われましたように、私は三者構成の原則は守られていると思います。すなわち公益代表とそれから労働者、これは被保険者代表といっておりますが、それと事業主、これは保険者代表であります。こういうものが、三者構成の原則が守られておりまして、いわゆる、たとえば今回問題になっておりますところの薬価の問題につきまして私ども被保険者代表は反対であります。ところが、事業主代表は一部薬価負担やむなしという意見等もすでに建白書として日経連から自民党に出ている。こういうことで、それぞれ意見の違うものが集まって最終的にいわゆる九名の公益委員の中には、お医者さんの代表も、学識経験者の代表も、また、いわゆる建保連等の保険組合からも公益委員として出ています。そういうことからいって、非常に公正妥当な運営がされているというふうに思っています。なお、非常に専門的なことについて、私どもはすでに公益委員の中にそういう専門的な方がお入りでありますが、足らぬということであればそういうものを、専門家の意見等を審議会として徴するという運営方法等はあるというふうに考えております。
  52. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 まあただいまの両公述人のお答えでございまするが、まず川合委員のお答えの中で、医療の根幹を審議する、医療制度の根幹を審議するというまあ私は解釈をいたしておりまするが、そうなりますると、この審議会の中に医療の専門家の立場で当然相当数のものが入らなければ妥当な審議はできないのではないか。私はあえて数的なものですべてを律するわけではございませんが、そういった点につきましては、これは非常に不合理な面を含んでおるように思われると私は考えます。この点安恒公述人意見がございましたら承りたいと思います。
  53. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 私どもは医療制度の根幹を審議するものについては、今回自民党の皆さん方や政府の代表とお話し合いをしまして申し上げましたところの、各界の代表が入ったところのいわゆる医療問題調査会、こういうものが設けられ、そこで医療制度の根幹についてやればいいという考え方であのような約束をし合ったことであります。そこで問題になることは、その薬価の五割負担という問題が医療制度の根幹に触れるものかどうかということについてでありますが、私どもが反対をいたしておりますものは、そういう医療制度の根幹ということよりも、当面の赤字対策として薬価の五割負担が社会保険審議会にかかっておりますから、私は社会保険審議会の審議で十分に審議ができ、私どもはこれを尽くしていこうと実は考えておるのです。
  54. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 関連。ただいま社会保険審議会の構成ないし運営の問題について鹿島委員から御質問があったようですが、これに対して、安恒、川合両公述人からお答えがありましたが、中で安恒公述人にお答えいただきたいのは、大体社会保険審議会というのは、政府管掌健康保険の運営の大綱あるいは企画、立法について定めるというふうになっておりますね。そこでそういう重要な任務を持っておる社会保険審議会が、いま両公述人御指摘のごとく、三者構成になっておる。一は被保険者代表であり、一は事業主代表であり、一は公益委員の代表である。その公益委員の中にそれぞれ医師、歯科医師、薬剤師が専門家として一人ずつ入っておる。その他は御指摘のように健康保険組合の保険者の方々が入っておる。これはまあ公平な構成だというふうに安恒先生、仰せられたんですが、企画、立法、運営というふうなものは、当然医療担当者にとってもこれは大きな利害関係があるはずですね。そういう大きな利害関係のある問題を審議する社会保険審議会に数の云々ということはともかくということは、私はちょっと言えないと思うのです。なぜかならば、こういう委員会は多数決があるなしにかかわらず、やはりその選出する数によって大きな意見というものが力を持つということがあり得ますから、そこで私らの考えでは、どうも密接な利害関係を持つところの医療担当者を専門家としてまとめあげて一人しか入れないということは、これは非常にその公平を欠く構成じゃないかという感じがいたします。なお、いま安恒さんは、そういう問題の改正等についてはいまできる医療問題懇談会等でやっていただきたいというふうに私は聞いたんですが、さような御意見だったんでしょうか。
  55. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) ちょっと丸茂先生が社会保険審議会の性格について誤解があるんじゃないかと思いますが、御承知のように、社会保険審議会は政府管掌健康保険を中心にやることは事実であります。しかし、その中では日雇い健保の問題ですね。それから私たち労働者にとっては大きい厚生年金というものがあります。それから船員健康保険、こういうものすべて、社会保険審議会が公正であるということをまずお考えをお願いしたいと思うのです。そこで私は、医療の問題について根幹に触れるようなものであれば、いままですでに政府は医療制度調査会というものの中で、この中にはかなりお医者さんの代表をたくさん入れて一つ答申が出ております。それから医療費の問題については、医療費基本問題研究会というものが一昨年発足をして、今日まで医療費の問題についてはいろいろ検討されております。それから現実の医療単価をどうするかということについては、いわゆる医療協議会というものがございます。でありますから、私どもはこういうところでいままでは十分にこれらの問題は議論をされてきておるわけです。ところが、今回それでもなおいろいろ問題がありますから、抜本的に日本の医療制度、支払い制度その他を洗う必要があるということで、設けられようとする仮称の医療問題調査会ということで、これには各界の、もちろん私たちも入れていただきますが、各界の代表を入れてやろうということでございますから、私が申し上げましたのは、私ども政府の説明ではそうではありませんが、今回薬価の五割負担とか総報酬制度というものについては医療制度の根幹であるとか、社会保険制度の根幹の前進というふうに考えておりません。そういうふうに政府側は特に医療制度とは申しませんが、社会保障制度の前進だと申しますが、私どもはこれをあくまでも赤字対策に出てきたものと考えておりますから、そういうものを審議するのでは社会保険審議会で十分であると思います。ただ、私が申し上げましたように、これは医療制度そのものをいわゆる根幹から変えるということであれば、その問題はそれを審議するにふさわしい審議会がいろいろあるのでありますから、その中で審議すればいいという考え方を持っているわけです。
  56. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 私が先ほど政府管掌健康保険の運営の大綱、企画、立法について審議するんだと言うた中に、あなたが御指摘になった厚生年金その他みんな含まれているわけです。私は個々の問題についてこれにからませて言っているのじゃありませんで、社会保険審議会という諮問委員会の構成のあり方、基本的な問題点についていま申し上げていたわけで、当然あなたの言われたようなことも含まれておるわけなんですが、これを結果的に見ますと、いつでも医療担当者あるいは医療に従事する者にとって非常に重要な問題点が大体において社会保険審議会を無視しては行なわれないようなかっこうになっておりますね、これは。そこで、そういう意味からすると、少なくとも三者構成の公益委員の中にたった一人入っているのだというその構成自体がいかにもして密接な関係のある医療担当者を軽視するかっこうになっておる。したがって、私はもしそれ政府管掌健康保険の運営の大綱あるいは企画、立法というふうな大切なことをこの審議会が諮問を受けてやるとするならば、それにふさわしい構成をあらためてつくり直さなければならないという意見をひそかに持っておるんです。これは無理にお答えをいただかなくてもよろしいんですが、これはさような公平な構成にしませんと、いままで蒙昧な時期の健康保険はやり切れたでございましょうが、あなたのおっしゃる今後近代的な保険にしようとするならば、そういう点からも近代化しなければとうていやっていけないだろう、こういうふうに考えまして、その点について被保険者代表としてはいかがでございますか。
  57. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 医療費の問題であるとかそれから保険の基本に触れる問題について審議をする場が、どうも丸茂さんは社会保険審議会のみに限定をしてお考えではないかと思います。たとえば一番大きな問題を申しますと、医療費の問題は、何といってもこれは医療協議会で私どもは審議をしております。その場合、私どもはすでにいま脱退をして空中分解になっておりますけれども、そこの構成を見ますと、いわゆるお医者さんの代表が八名であります。これは薬剤師の代表も入っておりますけれども、八名であります。医療担当者、それに公益が四名、それからあとのいわゆる保険者と被保険者合わせて八名、こういうことで、私どもは——前回の現在の医療協議会ができる際に、昔はいわゆる保険者代表、被保険者代表、お医者さんの代表、公益の代表というのが同数であったわけです。その点についてたいへん激しく私たちは抵抗いたしましたが、残念ながらそのような形において医療協議会というものが設けられたわけです。しかし、私どもは、やはり医療協議会でありますから、それらの医療の根幹に触れる問題ということで、その法律が設定されて以来、設定されるまでは反対をいたしましたが、その中で医療問題の解決にいろいろこれは努力をしてきておるわけです。それとやはり社会保険審議会とのいわゆる関連をするものもあります。それから社会保険審議会独自で審議しなけりゃならぬものもあります。そういうことを私ども考えてまいりますと、社会保険審議会の中にお医者さんの代表が、まあいまのところ川合さん一人でありますが、だから不公平になるということは考えていないわけです。社会保険審議会のいわゆる使命というものは、いま丸茂さんが言われましたように、一応諮問委員会として企画それから立法、運営等についていわゆる諮問案を建議することができます。しかし、一方においては、いま言ったように、医療協議会というものもございます。また、一つ社会保障制度審議会というものがあります。社会保険審議会と医療協議会等で、特に社会保険審議会等で審議をしましたものは、またその上でこれは十分に御議論を願うことになっております。そうするところによりますと、これは学識経験者ということで総理直接の諮問機関が社会保障制度審議会でございます。そういうふうに、わが国の審議会制度というのは、二重にも三重にも構造的に組み立てられておって、公平の原則を期されておるものだというふうに私どもは考えております。
  58. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 私先ほど、医療費とからませてというふうな再三のおことばですが、さようなことはないんだ、運営の大綱、企画、立法をやるんだというふうに申し上げておるのは、さようなこととは無関係なんだということを申し上げておるわけなんです。それで、医療協議会がそのためにあることも私承知いたしておりまするし、あなたは社会保険審議会と言いましたが、社会議制度審議会ですね、これがその上にあるということも十分承知しておるのです。ただ、昭和三十一年でしたか、健康保険法の全面改正、あるいは昭和三十四年の国民健康保険法の全面改正、こういう問題は、医療担当者あるいは医療機関にとって非常に密接な関係を持っておる法律なんですよ。これはもうあなたも否定されないと思う。そういうふうな密接な法律がどこをまず通るかというと、社会保険審議会を通らなければ場にのぼらないということを考えるならば、まあお答えはもう要りませんが、私はこの辺から民主化しなければいかぬというふうに決心を固めなければ健康保険の近代化はできない、こういうふうに考えておるということです。
  59. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 次に、両公述人にお伺いをしたいのでありまするが、まず、川合公述人にお伺いをいたします。  いわゆる医業経営実態調査——先ほど安恒公述人がお答えになりましたが、この医業経営実態調査を前提として医療費の是正をはかる、こういうことであります。これに対して医療団体の意見を徴してみますると、医業経営実態調査そのもののやり方がきわめて合理的である、民主的である、ああいう場合におきましてはこれを妥当とする向きもございます。医療費を改定する前提としては、単に医業経営の実態だけを調査するということではどうも片手落ちのように思われる。この場合、やはり保険者側の経営実態というものも十分につまびらかにしなければ結論において納得のいかないものが出てくるのではないか、かように考えますが、この点について川合公述人の御意見を伺いたい。
  60. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) ただいま医業経営実態調査の点に触れられましたが、先ほど安恒公述人からお話のございました点で、それについて私の意見を言います前に、聞くところによりますというと、きょうはもう安恒さんがはっきり言われたのですが、中医協をボイコットしておるということが適当か、私はそう思います。支払い者側と官房長官及び自民党首脳部がある種の了解事項を行なったといわれておる。その中にも医業経営実態調査のことがあるようであります。これは、予算審議の関係上、支払い者側がどうしても社会保険審議会に帰ってこないということを慰留するというために、社会保険審議会に出席させて健康保険法改正案を軌道に乗せるための工作であると私は聞いております。その了解事項の中に、先ほども触れましたところの薬価基準の問題、医業経営実態調査の問題、その他いろいろあるわけでございますが、これらの問題は私は中央医療協議会で当然審議せねばならない問題だと思っております。ただ、残念なことには、このような医療協議会自体で審議されない状態が、いまだそういう状態が戻してもらってない。早く私たちは中医協を開いてほしいわけでございます。したがいまして、灘尾厚生大臣のときにも、医業経営実態調査については、保険財政の面、あるいは被保険者の負担の面、こういった面についてやりましょう。あとはやり方が残っておるわけです。これは中医協で私はじっくり話し合いすべきものだと、こう思うわけでございますが、それが残念なことに中央医療協議会を出ていかれて帰ってこられないところの人たちが自民党の首脳部と官房長官と会って、話し相手である私らをほおっておいてかってに取引されたわけです。よく支払い者側なり大臣なり自民党首脳部なり官房長官あたりは、中医協の答申を尊重しろとしきりに言うわけです。政治性のあることはまかりならぬ、そういうことは絶えず言われるわけです。ところが、それもよりによって、先ほど安恒君が医療調査会かなんかをつくってやるって、私ここへ来て初耳なんですけれども、中央医療協議会の存在自体を否定しようというような議論があるのじゃなかろうか。あるいは、中医協で当然審議すべき立ち入ったことまで予算審議を進めるためとか称して官房長官あるいは自民党の首脳部が支払い者側のみと一方的な約束をなさったことは、私は信じられない、ほんとうは。ところが、現実にあるそうでございます。少なくとも、現在は、支払い者側と医療担当者側と相互信頼のもとでないと保険はつぶれます。そういったところから言いますならば、今回とられたことはまことに不明朗千万、この問題は必ず将来に禍根を残すことになるものだと思います。このように、公益委員の人事を当国会で承認された、法律ではっきりきまっておるところの中医協の存在を否定して、中医協で託し合うべきことまで中医協以外の場で取引の具に供せられたということは、これ以上のやみ取引はないと私は思います。したがいまして、問題は、そういうばかなことをしないで、早く中央医療協議会に——官房長官なり党三役が、むしろ社会保険審議会よりも、中医協に帰ってくれと。そこで十分話し合いをすれば、話はつくわけです。安恒君とぼくらのところで話し合いすればいいことを、安恒君がほかのところで話し合いをしてそれできめたということは納得できない。率直に申し上げます。
  61. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 参議院はまことに良識の府ということを誇っておられますから、あまり私はどろ仕合いをここで演じたくないと思っておりました。しかし、川合さんからあのような激しいことばで私たちのとりました態度——まあ質問の要点に最後にお答えにならなかったようでありますけれども——ということでありますから、ちょっと申し上げますが、まず第一に、私どもは中医協の存在は否定をいたしておりません。中医協の運営の円滑公正を期するためその改革を行なおうじゃないかということを約束をしています。  それから私どもは、中医協に復帰をするためには、今回の医療問題の混乱の責任について佐藤総理にお預けをしております。佐藤総理がすみやかにこれを解決していただければ、いつでも私たちは中医協に復帰をするという約束をしているということをまず明らかにしておきたいと思います。しからば、私たちがいま一時的にボイコットしている状態が過去において日本医師会になかったかと言ったら、幾らでもあります。そういうことは言わなくて、今度だけえらいことを言われると、やはりちょっと困ります。これが一つでございます。  それから第二番目には、何か私どもが自民党の代表の皆さんや政府の代表の皆さんと中医協の場で審議をしなければならないような問題についてやみ取引をしたようなことを言われますが、決してそういうことはございません。これは私どもはかえってそのことばは医師会にお返しをしたいんですが、武見さんがときどき総理その他にお会いくださって、ぼくの政治性によって問題の解決をするということで、いままで何回となく中医協の答申が無視をされ解決をした事例があるわけなんです。たとえば今回の場合でも、私どもが佐藤総理に会いたいというときに、先に佐藤総理と武見さんがホテルでお会いくださってたいへんな問題になったこともあります。こういう点がありますので、まあこういうことはお互いにここで言い合えば私はどろ仕合いになると思って、これ以上申し上げません。  それから、さて中医協の場で相談をすべきものかどうかということについて、薬価基準の引き上げについては、これは議員さんですから法律は詳しいと思いますが、厚生大臣が毎年のように調査をし、適当な時期にやはり薬価基準を引き下げるというのが法のたてまえでございまして、引き下げることそのものを中医協にかけるという法律一つもございません。問題は、いま中医協に三%かかっておるのは、これを技術料に振りかえるために中医協にかかっておるだけでございますので、この点も間違いのないようにしていただきたいと思います。  それから有沢答申を盛んに引かれて、まあお医者さんは有沢答申には八票で反対をされたんですから、あまり答申尊重を言われると迷惑をしますけれども、私どもとして有沢答申一つの問題である意見書の中で薬価基準の引き下げについては、ひとつすみやかにやろう、そうしてそれを技術料に振りかえようという点については、私、支払い者側を代表してその点だけは残念ながら保留をしております。そうしてそのこと以外を賛成をしてあの答申はできたという事実もこの際明らかにしておかないと、何か私どもが有沢答申についていいとこどりをしておるように思われると迷惑をします。  それから医業の実態調査についてでありますが、私どもは今度の中医協においても実は昭和二十七年の資料を使ってやったわけです。今日、非常に科学が幾ら発達をしておるといっても、約十年前の資料をもとにしてそれを数学的に補正をして出すというやり方よりも、私どもは医業経営実態調査というものが行なわれることが必要だろうというように思いました。しかし、今回は緊急是正ということでありますから、あえてそのことはがまんをして、十年前の資料を使って私どもはやったわけであります。これは公的病院の資料はありましたけれども、一般開業医の方の資料がないわけであります。特にこの問題については私どもはすでに政府与党との間に何回となく約束がしてあります。まず第一は、昭和三十二年十二月の中医協の答申に書いてあります。続いて、昭和三十六年七月の中医協の答申の中でもこのことが明らかになっています。さらに、三十六年の八月から九月に至る医療懇談会の了解事項でも医業経営実態調査が決定をされております。さらに、昭和三十八年の四月、現在の中医協発足の前提条件として、西村厚生大臣との公約もございます。それから政府は、すでに昭和三十四年と三十九年度予算の中に医業経営実態調査の費用が予算措置として講じられております。にもかかわらずになぜ今日までされなかったかということであります。ただ、私どもは、日本医師会の皆さん方の意見の中で、厚生省の官僚にまかせるとかってに調査をし、かってに分析をするという点については、私は労働者の一員とし、支払い者側の一員として、賛意を表しておりますから、やり方についてはみんなでよく関係者が相談をする、そうしてお医者さんの理解と納得のいく方法を考えながら医業実態調査をやろうということを中医協の場においても何回となく実は主張をしてきたところであります。でありますから、今回ここで政府と約束をしましたことについては、薬価は、いま言ったように法律のとおりのことであります。経営実態調査については、その円滑な実施方法についてお互いに話し合いをしようということをわざわざ一項目入れてあるわけです。それは私どもは中医協なら中医協という場でけっこうでございますから、円滑な方法について関係者みんなで話し合ってすみやかにやっていきたいというのが私ども趣旨でございます。  それから質問の最後の点でありますが、私どものいわゆる健康保険組合の財政というのは、それぞれこれは明らかにされております。たとえば、政府管掌は政府管掌、共済組合関係は共済組合関係、それから一番まあわからないとおっしゃるところの組合管掌につきましても、この点につきましては御承知のように理事は労働組合の代表と経営者側の代表とが出ております。でありますから、その中においてそう隠しごとは、まあ経営者の皆さんはされるかどうか知りません。これは経営者の方がたくさんおいでになるのですから失礼でありますけれども、事私ども労働組合の代表が健康保険財政を経営者と一緒になって粉飾をするなどという考え方は持っておりません。これは明確に申し上げておきます。そういう点からいつでも私は健康保険財政の実態というものは明らかになっておるというふうに思いますから、そのことで十分であろうと考えております。     —————————————
  62. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 委員の変更がございました。  木暮武太夫君が辞任され、川野三暁君が選任されました。     —————————————
  63. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 大体御答弁で了承いたしましたが、ただいま安恒公述人の後段の御答弁のうち、保険者側の財政状態、これがまあつまびらかにどうもなっておらぬというようなことは、特に医療団体側の声でもあります。そういった点も公正にやはりやって、そこで、はじめて納得のいく線が出てくるのではないか。したがって、単に医業経営実態調査のみを行なうことによって医療費の助成を行なうというふうなことは妥当ではない、かように思うわけでございます。御答弁はけっこうでございます。  続いてもう一点。これは実は医療機関の監査に関することでございますが、これは両公述人にお尋ねいたしますが、現在私どもの承知しておるところでは、行政機関並びに保険者は、この指導監査等に関しましてはその権限も持ち、また適正な方法をもって指導監査等も行なわれているはずであります。にもかかわらず、今回どうも医療監査というものが特に取り上げられて、励行をするというようなことが著しく経営側の気持ちを刺激しておるということも私は承っております。元来、医療の本質というものは人間対人間のつながりであり、患者の医師に対する尊敬と、医師の患者に対する無限の愛情と、こういったものによって医療の本質が築き上げられるものでありまして、したがって、医師の人格を傷つけ、疑いを持って対処するというようなことになりますると、医療の本質がくずれる。そこに完全な医療の実施は不可能となってまいります。私はこの点を憂い、まずこの保険医療機関の監査の励行ということについてどのような御解釈をされておるか、川合公述人にお尋ねをいたします。
  64. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) 最近、保険診療に対する監査が骨抜きにされているということが流されております。私はこれはデマだと、なぜならば、昭和三十三年当時、保険医に対する行政監督は、主として監査によって行なわれておりました。ところが昭和三十四年度には、不当な監督権の乱用のために二人の医師を死に追いやった事件があったわけでございます。そこで、監査を行なうにあたって、その前に個別指導を十分にやれば、行政監督の目的が十分に達せられるではないかというので、次のようなことで話し合いがわれわれはできているわけであります。一つは、医師の自主的指導を認めて、これを徹底的にやる。第二の問題は、行政監督はもちろんやりますが、個別指導によりまして一そう強化する。これは監査というものは処罰が目的ではないのだ、あくまで改善を目的とするんだということに発っするわけでございますが、個別指導を行ないまして、さらに必要のあるものはどんどん監査を行なっております。この監査はあくまで改善が目的でございまして、人を罰するのが目的ではないということで、非常にこの点は関係がうまくいっているわけでございます。昭和三十三年当時三百件にすぎませんでしたところの行政個別監督というものは、最近では約二〇倍個別的な行政監督が行なわれているわけでございます。このことは、当局側の資料をもって見られてもそのとおりでございます。また、私ら自身は、どうしてもこの際、自主的な範囲内において個別指導を積極的に行なうということで、これの回数は、毎年これを集めますと五千数百回以上になっております。したがいまして、昭和三十三年当時に比べまして数十倍に及びますところの個別的な行政監督、自主的指導等が保険医の上に加えられておりまして、非常に円満にいっておる。これは監査をやっておらないということは私は絶対にない。監査も行なっておられます。この点はどうぞ間違いないようにしていただきたいと思います。
  65. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) お断わりをしておきますが、支払い七団体というものは、それぞれの団体の性格があって、あのような最大公約数的な約束をしておりますから、私は、きょうはその中のいわゆる被保険者という立場公述に出向いておりますから、そういう前提でいまの問題について申し上げたいと思いますが、私どもは決して政府が言っておられたりいろいろの方が言っておられるように、制限診療を奨励をするとか、いわゆる低医療費という考え方は持っておりません。私は患者代表でありますから、病気にかかればすみやかにいい薬を使ってなおしてほしいというのが国民の心理であります。でありますから、そういう角度から、いわゆる保険医の監査の問題を取り上げたわけではないということをまず明らかにしておきたいと思います。ただ残念なことでありますが、いま川合さんが言われたような事件が起きて、昭和三十五年に医師会と厚生省との間に行なわれましたところの保険の指導監査に関する申し合わせというのができました。それ以来、これがどうなっているかということを言いますと、私はこれはほんの——全体のお医者さんということは決して申しあげません——やはり一部の不心得なお医者さんがおられるのだと思いますが、残念ながら、ことしの中医協の一月十二日の総会の公の席上でも、中医協の会長の磯部さんすら、現在医療上一部不必要と思われる機関検査などをやり、医療費の増収をはかるという不当な行為があるということを指摘をされました。そうしてまた、これがびまんするおそれがあるということを言われております。それからまた昨年の春、高知では架空請求や水増し請求などによって、ついに警察権が医療費問題に介入するというような、まことにいまわしい事件等が起きているわけであります。そういう点をとらえますと、私たちは決して制限診療とか安上がりの医療ということではなくして、やはり私は、むしろ全国の正しいお医者さんのためにも、いま言われましたように、お医者さんと患者というのはいわゆる人間対人間のつながりでありますから、そういう角度からも、そのような不正なことについては、私どもは、これはやはり断固としてはねのけていかなければならない、こういうような考え方から、私どもとして医療機関の監査は励行するということに賛意を表し、このような取りきめをしたということであります。
  66. 鹿島俊雄

    鹿島俊雄君 ただいまの両公述人の御意見で、大意はよくわかりましたが、要は、監査そのものは正当な形において行なわれている、ただ、その一部に心得違いの者もなきにしもあらずということは認めざるを得ません。少なくとも大多数のまじめな善良な医師の正しい気持ちを傷つけ、診療意欲を阻害し、あるいは受診の公正な実施に障害があってはならぬ、かように考えまして申し上げたわけであります。ただいまの御答弁によりますと、決してそういうことではない。しかし、この際、監督の励行というようなことを唱えられますことは、一面に、私が危惧するような感覚を医療担当者は持たざるを得ない。これは究極におきまして社会保険医療行政運営の上においてあやまちが生ずる、かように考えましてお尋ねしたわけであります。
  67. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 私、まず安恒公述人にお尋ねをしたいと思うのですが、きょうはいろいろ社会保障全般あるいは社会保険の現況あるいは将来にわたって、いろいろ詳しい御説明をいただきまして、たいへんありがとうございました。ついては、お聞きをしておりまする過程において私が持ちました疑問等をこれから少しお聞きしたいと思うのですが、まず第一に、冒頭にあなたは、厚生大臣が答申無視をやったために混乱が起こったということがございましたが、この点はどういう点が答申無視であったか、ひとつ教えていただきたいと思うのですが……。
  68. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) これは何か中医協の再来をやるようなことになると思いますけれども、御承知のように、今回の医療費の改訂は一昨年にお医者さんの皆さん方から再診料十点設定という問題が出ました。これと相前後いたしまして、ときの厚生大臣小林さんから、いわゆる国民所得の上昇に伴なうもの、それから物件費、人件費、いわゆる物価高騰に伴う医療費の緊急是正をどうしたらいいだろうかという諮問が医療協に起こったことから始まったわけです。そういう中で、私どももいろいろ医業経営実態調査がないとか、いろいろな問題の困難を排除しながら、年末から年始にかけて非常に努力をいたしまして、御承知のように四月の十八日の日に答申案を出しました。この答申案は、いわゆる大きい問題として医療費の引き上げ、それから引き上げをやる項目の内容、それからそれに伴う財政措置、こういうものを含めた答申でございました。それと同時に、答申と、いま一つ答申をささえますところの公益委員意見書というものがございました。こういう中で問題になりましたのは、いわゆる医療費の引き上げの幅をどうするかということで、A案、B案というものが当時当局側からも提示されました。A案は、私はこまかい数字は、ちょっと答申書をいまここに持っておりませんが、四・五%という案でございました。これに対してB案が八%という案であったわけです。私ども支払い者側としては、A案を支持したのでありますが、公益委員からいろいろ説得をされ、説明を受けた中で、A案八%ということを、私たちはいわゆる引き上げの率としてこれを支持したのであります。ところがその答申については、お医者さん側は、これは八名とも反対をされましたから——まあ採決をしたわけではありません、手をあげて。しかし、少数、多数が明らかになりましたので、私ども答申というものは、いわゆる多数であるところのいわゆる有澤答申というものが答申案になったというふうに私どもは考えております。でありますから、本来であれば小林さんがさっそくそのことを実施をされれば、何ら私は今日のこのような大きな医療行政の混乱は起こらなかったと思うのであります。ところが、それを四月の十八日に出しておきながら、実施をされようとしたのでありますが、まあこれから申し上げることは、いろいろ皆さんのかんにさわるかもしれませんが、ちょうど池田さんが三選をされるという状況の中で、医師会の皆さん方のいろいろな抵抗等がありまして、これが実施をされないまま小林厚生大臣がおかわりになった。そうしていまの神田さんがなられたとたんに、答申尊重と言いながら、一二・五%とか、すでに緊急是正の問題としては話し合いがついている再診料にかわるものとして、一カ月に一回再診料的なものを取るというようなこと等を出されたわけであります。そこで私たちは、それは答申尊重の精神じゃないじゃないかということを抗議をしながらも、早く四月十八日の答申がそのままで実施できるようにということで、厚生省にもたびたび伺ってそのことを要請をしたわけでありますが、そういう中で、今度は池田総理が不幸にして御病気になられるという状況が出てまいりました。現在の佐藤総理の誕生という形になって、また神田さんが厚生大臣になられたわけです。ところで、一番私どもが不可解に思っておりますのは、そこで神田さんが幾らを中医協に最終的に諮問をするかということに——いわゆる今度は配分としてでありますが——そのときに去年のたしか十一月か十月だったと思いますが、世に言ういわゆる神田さんと田中大蔵大臣、自民党の政調会長のメモの問題である。このメモは、すなわち田中さんはその当時私が聞きますところ八%説、神田さんは一二・五。そこでいろいろ中をとって九・五にするということまできめられたんですが、その赤字対策として薬価の一部負担の問題であるとか保険料の徴収方法の検討というもの、それから自民党内に医療調査会を設けるというようなもの、これらのことこそ、川合さんの意見を借りても、当然私はいわゆる保険審議会の議を経なければならないものが、三人の間で結ばれて、それがマスコミの皆さん方から天下に報道された、こういうような状態の中から今度の医療費問題の大混乱が起こってきたと私は思います。そういう中で、御承知のように十二月の二十二日の日に、いわゆる中医協に、九・五%の値上げ案というものと、それに伴う配分の諮問がありました。しかもそのとき、われわれが急げ急げというときには全然やらないで、十二月の二十二日に出しておきながら、一月一日実施のためには二十六日一ぱいに上げなければ無理だ、こういうことを時の公益委員に神田さんがお願いをした、こういうような状態の中で、皆さんも御承知のように公益委員の辞任という問題が出てきたわけです。それはなぜかというと、私どもは神田さんから三十日の日に呼ばれたときに、公益委員がやめたのだ、中医協は分解するから、何とか中医協に復帰をするために、あなたたちは復帰をするために御協力願いたいということを言われましたから、私どもが言いましたことは、まあ経過は申し上げませんが、そういうような経過の中から、私どもは四月十八日に出されておったところの答申がそのまま実行されれば、こういう大きな混乱は、まあ赤字対策の問題は、これは八%でありましても起らなかっただろう。ところが、それがいろいろその後政治的にゆがめられたところに、またその後、とうとう中医協の答申が出ないまま神田さんが職権によって九・五%、少なくとも中央医療協というものは、お医者さんの代表と被保険者の代表者と保険者の代表とが公的に医療費をどうするかということを相談する場であり、しかもそれだけではきまらないときに公益委員等の意見を聞いてきめる場でありますが、私たち八名が一致して、あと二、三日間待ってもらいたいという状況の中で強引に一月十日の日に実施をされたというところに、私は答申尊重でないということを申し上げるのであります。
  69. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 最初お断わりしておきますが、いま経過をるる御説明伺いましたが、これは私のほうから順を追ってお伺いするつもりですから、ひとつ簡便にお答えいただきたいと思います。  そこで、今のお話で、私の質問の第一の点の、緊急是正の上げ幅八%が四月十八日答申趣旨だった、この八%の答申を神田厚生大臣は九・五%と言って一・五%破ったじゃないか、これが答申無視だという御議論と承りましたが、よろしゅうございますか、簡単にひとつ……。
  70. 安恒良一

    ○参考人(安恒良一君) その点が一つあります。それからいま一つは、いわゆる赤字対策の問題ですね、これは四月十八日の答申のときにこういうことでありました。平年度は健康保険料は上げないということ、それからいま一つは、本年度についても、いま出されているような手荒い方法をしなくて、これはベースアップもありますし、等級を若干引き上げるというような、こういうような問題、これは答申の本文には抽象的な文章になっております。しかし、内容的な話し合いは、そういう話し合いをしたのにもかかわらず、いま申し上げたような、お医者さんも反対をされているような、手荒い薬価基準の五割とか総報酬という問題が一つあります。それからいま一つは、配分につきましても、当時私たちが調査をいたしましたところの病院と診療所の間の赤字については、厚生省提出資料では、赤字の幅が一・九倍でございました。そういう点から、傾斜をつけて配分をするということであったわけです。ところが諮問されましたものは、その後ちょっと手直しをされましたが、九・五%については全然といっていいくらい傾斜がついていなかった、こういう点を私は四月十八日の答申からはずれているということを申し上げたわけです。
  71. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 経過からいたしますると、まず支払い側が九・五で非常に御不満があったというふうにお聞きしましたのです。一々長い御答弁を承っておりますと、時間切れになるので、私も簡単に質問しますから、ひとつ簡単に御答弁いただきたいと思います。そこで、四月十八日の答申が、まず緊急是正の上げ幅については、八%だったという点は、一体答申のどこにありますか、それをひとつ明示していただきたい。なお、この点が今回の医療費に関する大混乱の基本的な問題だったろうと思います。したがって新聞、ラジオ、テレビ等も中央医療協の詳細な経緯がわからないものですから、八%は絶対に答申にあるのだというふうな取り扱いで、いろいろの議論をされておりますわね。ところが、私らが答申を見ますと、どこにも八%という数字はない、いま御指摘の公益委員意見要旨にもない、公益委員意見要旨から出ております算定の基礎的な考え方A案、B案の中にもない、そうすると、一体この八%というものは、医療協の答申として、四月十八日に出されたという根拠は一体どこに置いておられるか、それを明白にひとつ。
  72. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 簡単にと言われますが、丸茂さんもかなり長々しゃべられましたが、これはやはり国民がたいへん重視している問題でありますから、あまり誤解を与えるといけないと思いますから、御了解を願いたい。  そこで、いま言われましたところのいわゆる八%の問題については、これは中医協のいわゆる最終的な答申案を出すところの議事録の中で、私が再三この話をしております。いま私は手元にちょっと議事録を持ちませんが、この点については、その後の中医協で医療団体の代表の方と私たちとの間には見解の相違があることは事実であります。私は、その点について最終的にその八%という数字も出し、最後にはB案ですねという念を押しましたところ、B案です。こういうお答えをいただいておりますから、そういうことが一つ。  それから、第二番目にお答えしたいのは、今回の医療費のいわゆる大混乱が一・五%、百五十億の問題で大混乱だというふうに丸茂先生がお考えになっておれば、これはたいへんに大きな相違であります。なるほど、一・五の問題も争いの焦点の一つであります。しかし、一番大きな焦点は何かというと、率直に言って、私は、場合によれば、九・五%についてわれわれはすでに現在払っておるわけですから、支払ってもいいわけです。問題になっていることは、私どもとしては、いわゆる九・五なら九・五をきめるやり方、ルールの問題で、これは一つあります。それからいま一つは、問題は、九・五を上げたときに、だれがどう負担をするか、赤字の問題、この点が大きな一つの問題でありますから、こういう問題を無視して、ただ単に、何か私どもが一・五%上げたとか上げないからといって、経営者から、労働団体から保険者団体まで一緒になって騒いでおるように思われたら、これはまことに迷惑しごくでありますから、それらが総合的なことで今回の混乱が起きたということです。
  73. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 いまのお話の中で、中央医療協議会で、算定の基礎的な考え方をもとにしてあなたが再三念を押されて、八%だということを議事録にとどめられたというのは、十七回の医療協議会だと思います。念のためにそこを読んでみます。八%が出てまいりましたのは、十七回の医療協議会の速記録の十五ページに初めて出てきている。安恒委員として、「まず、公益委員意見要旨について御質問いたしますが、それは、二枚目の(六)に引き上げの幅といいますか率が出ているのですが、「B案の考え方がより望ましい方法と判断する。」ということは、約八%、こういうふうに判断をしていいのかどうかということが第一点です。」。  それから第二点目の質問は、薬価基準が出てきますね。それに対しまして、まず寺尾委員から、こういう答えがあります。「B案というのは、具体的にはほぼ八%というのが当局から示された案です。」。続いて有澤会長が、「それは平均ですね。はっきりは言えませんけれども、おおむね一〇%以内ということになりましょう。」。そうすると安恒さんが、「平均八%ということですね。」。そうすると有澤会長が、「まあ八%ときっぱり言われると、八%を上がったり下に下がったりしても問題ですから……。」。そうすると安恒さんがおっつけて、「おおむね八%ということですね。」。これに対して寺尾委員が、「まあ、B案を基準にしてというのがわれわれの考えです。」。こういうふうに答えているわけですね。これ以外には、どうも議事録を私全部調べましたが、八%のやりとりはないようでございます。したがって、これが、緊急是正の上げ幅は八%だと支払い者側が言われる一番の準拠しているところじゃないかと思いますが、いかがですか。
  74. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 私は、ちょっとこの議事録をいま川合さんからお借りしたのですが、実はきょうの公述で、いわゆる中医協の経過を一々聞かれるというなら、そういう御注意をいただいておれば、全部用意しておったのですが、ちょっとそういう私の公述したことにお聞きくださると思っておりましたから、こまかい経過の資料を持っておりませんけれども、大体いま読まれたことは、議事録そのとおりでございます。そして、私たちはそこでお断わりしておきたいことは、やはり最終的にB案ですねということが、その前に、B案というものは、ほぼ八%ということが言われておりますから、それをそう主張しております。それから、この争いについては、その後再開をされた中医協の中でも、B案が八%であったのかどうかということについては、これは厚生省の保険局長等からも八%であったということも明らかにされております。また、大臣も、その八%ということは認めております。そして、その上に一・五なぜ補正をしなければならなかったかということについて、大臣の説明について私どもが了解をできなかったので、非常な争いになったわけです。それから、お断わりしておきますが、私たちが八%にあまりそんなにこだわらないということは、その後私たちが一月九日の日に出しました配分案の中では、八%を上回るものを私たちから出して、これでどうですかということを中医協では私たちは言っております。そういうことから、何か丸茂さんは一・五の問題をたいへん重視されますが、決してそういうことではなかったということを申し上げておきます。
  75. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 そうすると、少なくとも有澤会長……。
  76. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) ちょっと丸茂君この問題についてはたいていのところで、結末をつける必要はないと思いますので、たいていのところで御質疑を打ち切ってもらいたいと思います。
  77. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 委員長のおことばですが、実は九・五がきまる瞬間に、前にたいへんな騒動があって、これが答申無視だという非難が非常にあったわけです。これについては、新聞、マスコミ等でも、非常に政治的なやりとりで一・五がふえたのだ、したがって、これは中医協の答申無視なんという御議論が非常にされたわけです。これは大臣にとっても非常に、何といいますか、私から考えてみれば、この答申の解釈の問題であろうということで、非常に答申無視というお話があった。そのことに関してお尋ねをしている、こういうことなんです。ですから、ひとつこれはお許しいただきたいと思います。
  78. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) なるべく簡単にお願いいたします。
  79. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 四月十八日の答申は、いまのようなかっこうで、必ずしも八%でなかったのだというなら了承いたします。そこで、四月十八日の答申は、非常にわれわれが見ると変則的なんですね。一号側と三号側の意見は一致したが二号側の意見は全然別なんだということで列記されておりますね。そこで、支払い側と診療担当者側の意見というものは、これはいつも対立しますね。これはいままでそうであったと思うのです。そこで、その対立した両者の意見の仲立ちをする公益委員意見というものが、私が見ますると、非常に一号側意見のほうに偏している。上げ幅の問題にしても、あるいは配分の方法にしても、配分の方法を見ますと、医療担当者側は、再診療というかっこうで配分してくれ。ところが、公益委員のお扱いの、一号、三号側のほうの初診料を中心にしたというふうなかっこうになっておりますね。これは現実的にはどうもその辺がいろいろあとで問題を起こす発端になったような印象がないわけでもない。この点について、あとで、後ほど川合委員にも聞かなければなりませんが、この間の問題はどうなっておりますか。
  80. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) ちょっと、私は四月十八日の答申が必ずしも八%であるということを認めたわけではありません。私はやはり四月十八日の答申は八%であったと思います。ただ、私どもが、何か八%に一・五積むことのみが今回の医療費問題の大きな混乱の最大の原因のように言われますから、その後の経過の中から八%にそういう上積みをしたこともあるということを申し上げた。  そこで、いま質問されましたことでありますが、私どもは、中医協という場について、そうあまり支払い者側委員とそれから医療担当者側委員の間に大きな意見の食い違いがあってはいけないのじゃないかと実は基本的に考えている。なぜかというと、支払い者側、支払い者側と俗にいわれますけれども、被保険者側と保険者側があるわけですから、私どもは患者の代表であり、国民の代表であります。そういう意味であります。でありますが、それでもいろいろ一生懸命にやっても意見が合わないときには、やはり公益委員という方がおいでになりますから、その公益委員を中心にまとめる努力をすべきだろう。そういう意味で、私どもは公益委員を中心にまとめる努力をしましたので、むしろ、公益委員が私どもに片寄ったのではなくして、私どもが公益委員意見のほうに片寄って問題をまとめる努力をしたのでありますから、あのまとめ方は妥当だったと思っています。
  81. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 川合君に簡単に。いまの中でね、四月十八日の答申の中に、診療担当者側の意見というものは扱いがちょっと異なった扱いになってますが、ああいうかっこうであっても、答申を出されたという診療担当者側の気持ちはどういうことだったんですか。
  82. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) これは、医療担当者側の立場を率直に申し上げますならば、答申が出されなければ引き上げできないというのは、これは常識でございます。したがいまして、昭和三十八年十二月以来、これは中医協始まったごろでございますが、それより前、すなわち八月時分から再診料の問題では懇談会を開いて協議しておる。十二月にようやく正式の協議会に切りかえした。その後四月十八日に至りますまで、私らから見ますならば、引き延ばしに引き延ばして、もうじりじりして、がまんできないというところまで来ておったわけでございます。要するに、まあ弱い立場とつくづく感じたんでございますが、答申が出なければ引き上げはしてもらえないというようなことで、四月になりまして、やむを得ません、とにかく答申を出したいという気持ちから、支払い側の御賛成になりました公益委員意見と私らの医療担当者の意見と併記する。少数、多数の差はございましても併記するということで、私らはこの答申をのんだわけでございます。その際、有澤会長は、率直に多数決できめよう、議事規則八条から十一条によって多数決できめようということがあったわけですけれども、結論は、先ほど安恒公述人から言われましたように、これは多数決にしなかったことは事実で、採決しなかったということは事実でございます。と申しますと、結論的に、私らの考えとしましては、この二つの、多数、少数の差はありましても、医療担当者側は、全員の意見を並べて載せておけば、厚生大臣が行政的にちゃんとこの点はやってくれるであろうということでございます。それから、八プロということの公益委員意見に対しましては、反対はいたしたから発言権はないということをよく中医協で言われたのでございますけれども、私はこれはこれなりに上げ幅は何ぼだということをしきりにB案の考え方については存じておりますので、したがいまして、八プロではないということで私判断しております。したがいまして、私らは二〇%上げておる。片方はB案の考え方でパーセンテージが私らとしてははっきりしない。したがって、厚生大臣としては、当然、間のものを出されるだろうと思うという希望をつなぎながら、実は不満足ながらあの答申を出した次第でございます。
  83. 丸茂重貞

    丸茂重貞君 これで終わります。  安恒公述人に最後にお願いしたいんでございますが、政府管掌健保の赤字、社会保険全般の赤字、これはまことに同憂の立場なんですが、政府管掌健保の赤字六百五十九億にしてからが、ことし政府が対策を立てたにしても、これは一年もつか二年もつか、やがて同じ運命が出てくる、そこで、どうしてもこういう問題は基本的に何とか永続性のあるかっこうをとっていかなきゃならぬ。これはわれわれも安恒さんと同じだろうと思うのですが、そこで、国保と、代表的なものは、政管と組合管掌ありまするが、それで、そうすると、あなたが御指摘になるように、国保はもう貧乏になるべくして貧乏になっているので、国保から政管健保に上がるのは、五人以上になると上がる。ほぼこれが二万二千円ベースぐらいなんです。そうすると、今度は政府管掌健保から三百人以上になると組合管掌に向けていく。これが大体毎勤統計によると三万八千円ぐらいです。そうすると、いいのがどんどん抜けていくわけですね。この穴をふさいでおったのでは、とうてい赤字の恒久対策は立たぬというわれわれ見方をしているのですが、その点について、一体、たとえば組合管掌健康保険、さっき御指摘になりましたが、五万二千円以上の人が六百五十万人のうち七十八万人いるのですよ。こういう方々がやはり零細な標準報酬の方々のために自分の力をさいてやるのだという相互共済の気持ちが打ち立てられるということが、社会保険の中でも、あるいはひいて国庫負担を社会保険の中にたくさん導入する上でも、一番大事じゃないかと思うのですが、この点について御意見どうですか。
  84. 安恒良一

    公述人(安恒良一君) 私は、その問題の解決は二つの方向から取っ組んでいかなきゃならぬと思います。私も、ことしだけの問題をこの国会で御決定願っても、来年度また問題が出ます。ですから、それは現在すでに総医療費というものが一兆億であります。いわゆる国民生活所得水準に占める割合は約五%ということでありますから、この点については、その総医療費が、お医者さんから言わせると、非常に低医療費——低いとおっしゃいます。しかし、一般の国民が受けるのはかなり先進諸国並みの総医療費という考えを持っております。この問題をやはり解決するためには、総医療費がやはり効果的に使われなきゃならぬという角度から、私が申し上げましたような、いわゆる医療問題調査会などを設けて、たとえば一つの問題からいえば、医薬分業の問題であるとか、それから、医療機関のいわゆる無医村の解決をどうするかとか、それから、お医者さんのいわゆる専門医制度をどうするか、これはいろいろあります。そういうものを、一つは基本的に、これはおそらく二、三年かかるでありましょうが、やらなきゃならぬだろうと思っています。  それから、第二の問題は、いま御指摘がございましたとおりに、保険の総合調整問題であります。この問題について、私どもとしては、私どもは組合管掌健康保険に私は所属しておるわけでありますが、それだけが高い給付水準をもらっていいなどという考え方は決して持っておりません。ただ、問題になるのは、私どもはそれがために総合調整も必要だろう。ただ、総合調整についてはいまこういう水準があるわけです。そうすると、国保が一番低い。これをここまで上げるために、上から削って下に回すというやり方じゃなくして、問題はやはり一番高い水準に全体を上げるやり方をしなきゃならぬのじゃないか。そこが、厚生省なり政府がお考えになっていることと違います。そうすると、この全体を合わせるということになるとどういうことになるかというと、やはりいまの低い国民健康保険なり日雇い健保なり、政府管掌に対する国家の財政支出を大幅にふやして給付水準を引き上げていくということにしないと、上を削って下につけるということでは、私どもは現在の健康保険は保険でありますが、保険ではいけない、社会保障制度として国民すべてが機会均等に医療問題の恩恵を受けるべきだ、それがためにはどうしても国家財政支出という形の中において社会保障に一歩ずつ、資本主義の世の中でありますから、一ぺんに私は行くと申しませんが、近づいていくようにすべきだと、こういう考え方でございます。
  85. 鈴木強

    鈴木強君 私、議事進行について一言先にお願いしておきます。これは公述人の方々においでいただいて、たいへんお忙しい中、私ども貴重な意見を拝聴するわけです。それで、いろいろと委員は質問があると思います。そこで、あらかじめ、あすもあることですから、大体の質問者の割り振りと時間等についてもお打ち合わせいただいて、そうして議事進行をうまくやるようにしませんといけませんので、その点ひとつあらかじめお願いしておきます。  私は、川合公述人の先ほどの御意見を承りまして、実は七つほど疑問の点があります。しかし、もう時間もおくれておりますし、他にまた発言もあるといけませんから、私はたった一つだけお尋ねをしたいと思います。  それは、あなたが非常に現在の政府の医療行政に対して、具体的には場当たりであるとか、こう薬ばかりであるとかいう、鋭く批判をされました。いろいろと私どもも現在の医療行政の足りない点については、幾多の問題を持っておりますから、御同感に感ずるところもあるのでありますが、そういう上に立ってあなたが論述をされ、最後に、一つには診療報酬の大幅引き上げをお述べになりました。もう一つは、薬価単価の引き上げについて労働組合の幹部が引き下げをすることに対して賛成をしていることはどうもけしからぬというようなお話もございました。それは要するに、三十万の医療従業員の犠牲の上に立っていま医療が進められているからむちゃだ、こういうふうにおっしゃいました。そこで、そういう御論議がそのとおりであるかどうかについても、ちょっと問題がありますのでお尋ねいたしますが、現在の一体医業の経営の実態はどうかということですね。これが明確に、経営困難であるという具体的な事実を国民の前に示すならば、国民はおそらくそのことに賛成すると思うんです。しかし、先ほども安恒さんの五つの政府側との了解事項等についても、医業経営の実態調査についてはすこぶる御不満の御意見もあるようでございます。したがって、何か聞いておりまして、そういう点にまいりますと、じっと中に閉じこもってしまって、ただ三十万従業員の犠牲だということ、薬価は下げてはたいへんだ、こういう点に力点が置かれておりますから、もう少し基本になる経営の実態ですね、これがわれわれに理解できるかどうかですね、この点を一つだけ私は伺っておきたいと思います。
  86. 川合弘一

    公述人(川合弘一君) ただいまお尋ねのところ、おっしゃるように、非常に時間も迫っておりますので、私が一番力を入れて、実はその実態について訴えたいところでございますが、データその他等はたいへんなことでございますので、この点あれでございますが、ただ一点申し上げておきたい点は、医業経済実態調査を私らが拒否しているがごとき、もし私の受け取り方が間違っておれば、私これは取り消しますにいたしましても、私ども昭和二十七年から毎年、われわれみずからの力で実態調査を行なっておるわけでございます。実は。これは中央医療協議会におきましても、このような調査を行なっているんだということを、たまたまこの間、安恒さんが入院されていたときであったのであれですが、これは相当詳しく説明いたしました。したがいまして、医業経済実態調査というものは、この自由経済社会のもとにおきましては、権力のもとに行なわれるべきじゃない、私、この点につきましては特に主張いたしたのでございますが、少なくとも医業とかすべてのものが、労働者のほうで賃金センターをつくっておる。これが資本家のほうの手でみずから調べるものなのか、そういったことなら、おそらく大騒ぎだろうと思う。したがって、実態調査は、総評の資料並びに地方の労働組合の資料を見ましても、これはみずからの手で行なうのが常道でございますが、したがいまして、私らは実態調査のやり方その他については、いろいろ意見もあるところでございますが、実態調査は二十七年以来、おそらくこういったものはこれだけ大規模のものはないと思います。したがいまして、毎年行なっておりますので、この点誤解のないようにしていただきたい。もしそろったものを数字を示せと言われるならば、それはとうていこの時間でいけませんので、別の機会を設けていただきますならば、私一時間でも二時間でも資料を持ってきて説明いたします。
  87. 鈴木強

    鈴木強君 私も社会労働委員会に席がありますから、丸茂先生その他、平素いろいろと伺っております。しかし、もう少し具体的な自分のほうでおつくりになりましたデータがあるなら、もう少しそういうものも拝見させていただいて、やはりわれわれはお医者さんと共同闘争しなければいかぬ、やはり仲よくやってもらわぬと、やはり一大事のときには、どうしても先生のお世話になるわけですから、そういう意味において、私たちはお医者さんが成り立っていけるようにしなければならぬと思います。しかし、現在私は世田谷に住んでおりますが、私の近くなんか百メートルおきぐらいに内科のお医者が三軒もあります。それではとてもたいへんだと思います。その経営は。また、ところによっては非常にうまくいっているところもあるでしょうから、だから画一的な判断はできないと思います。そういった個々の経営の実態というものをつかむことによって、初めて川合さんの言われた主張というものが裏づけられると思う。ですから、ひとつお話も時間もなければできませんから、できるならば、資料等をいただければ幸いだと思いますから、後ほどでもけっこうです。そういうふうにしていただきたいと思う。これで終わります。
  88. 平島敏夫

    委員長平島敏夫君) 公述人の各位におかれましては、お忙しいところまことにありがとうございました。厚くお礼申し上げます。  本日の公聴会はこの程度にいたしまして、明十八日午前十時から公聴会を開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十五分散会