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国務大臣(
高橋衛君) 今日まで、特に
昭和三十五年を境にして
昭和三十六、七、八と三カ年度間、毎年六%台の消費者物価の上昇を示したわけでございます。しかも、その以前におきましても相当な高度成長でございましたけれ
ども、その間においては消費者物価の上昇がほとんど〇・九%
程度しか上がっておらない。それで一体その原因がどこにあるかという問題について、私
どもいろいろと研究を進めておるのでございます。それで、その問題は、これはいろいろ学者によっても議論がございます。また決定的にこれだという結論を出すことは非常にむずかしい問題ではございます。が、しかし、一つにはいわゆる成長があまり急過ぎたという点、これがつまり国民総需要を非常に大きくした。したがってコストが上がった場合に、そのコストが直ちに価格に転嫁できるような体制をつくるということも一つの原因であったと思います。もちろん半面において、高度成長が今日の開放経済体制に入っても、なおかつ、
日本が外国にどんどん輸出を伸ばしていけるという状況をつくったという長所もあるわけでございますが、そういうような点があったことは、これまた見のがすことのできないことであろうかと思います。しかし同時に、コストも相当上がってきておる。コストの中心になっているものは賃金でございますが、賃金が相当に急速に上昇しているという面も、これは看過すべからざる事実であろうと思います。同時に、この賃金の問題に対しましては、いわゆる大企業と中小企業、または農林
漁業、その間に相当大きな
開きがございます。
御
承知のとおり、ここ数年間賃金、所得の平準化が急速に行なわれてまいっております。そこで、それらの
数字を
——年度でございますけれ
ども、少し
数字のことを申し上げたいと思いますが、私
どものほうで
調査いたしました製造業についての問題でございます。製造業、しかも確実な資料で得られるところの、三十人以上の製造業だけでございますが、これを
昭和三十年から三十九年まで暦年でとっております。それで、これを三十五年を一〇〇といたしました場合に、現金給与総額、これをひとつ一番確実な資料として労働省の「毎月勤労統計」、これをとってみたわけでございます。指数で申し上げますと、
昭和三十五年を一〇〇といたしました際に、
昭和三十年は七四・五、
昭和三十九年は一四九・三と、こういうことに相なっておるのでございます。同時に今度は、労働生産性の問題も労働生産性本部で
調査したデータでございます。ここでもまた同様に、三十人以上の製造業だけをとって
調査いたしているのでございますが、これが三十五年を一〇〇といたしました際に、三十年におきましては六四・五、それから三十九年は、これは十二月の
数字がまだとれておりませんので、多少の差はあるかと存じますが、一四一・七ということに相なっております。それでおわかり願えますように、三十年から三十五年の間に現金給与のほうは二五・五%上がったわけでございます。ところが、この間に労働生産性のほうは三五・五%上がっておるわけでございます。ところが、その三十五年を一〇〇といたしました際の三十九年の
実績をとってみますと、三十九年におきましては四九・三の賃金の上昇に対して生産性の上昇は一四一・七、こういうことに相なっておるわけでございます。
しこうして、私
ども付加価値をどういうふうに労働と利潤と、それから価格の面は要するに消費者に対する分配でございますが、そういうふうな方面にどういうふうに分配するのが妥当か、分配されておるかという問題も同時に検討を要する問題だと思いますが、こういうふうに物価をそのままな状態に置くと仮定いたしました際におきましては、賃金と生産性がバランスがとれれば、それで価格は同じでも、その企業は従来と同じ利潤を続けていくことができると、こういうことになろうかと思いますが、その際に考えなければならぬことは、外国の企業と
日本の企業とは体質が相当変わっております。御
承知のとおり自己資本比率というものが、外国の場合には六〇幾つまたは七〇というふうな状況になっております。
日本の場合には今日二二とか三。したがって借り入れ資本によるところの部分が非常に多い。それはどういうことを意味するかと申しますと、労働生産性の上昇というものは、これは労働強化という形によって今日行なわれるものではございません。今日はどうしても設備の合理化、近代化、要するに労働節約的な設備改善によって労働生産性の向上が行なわれている、こう見るのが常識的であろうと存じます。しこうして、その労働節約的投資が自己資本によって行なわれている場合におきまして、または会社の留保された所得から行なわれた場合におきましては、これは当然に利潤に返っていくのでありましょうが、これが銀行からの借り入れという面から来ておるとするならば、これは当然にこれに対するところの利子と償却というものは支払わなきゃいかぬ、言いかえれば、その部分だけは労働生産性の上昇分からこれを差っ引いて、そうして差っ引いた労働生産性の上昇分と賃金とがバランスがとれた場合に、はじめてその製造業においては価格を上昇させなくても利潤は従来の
程度を保ち得る、こういうふうに考うべきであると、かように考えておるのでございます。これは最も生産性の上昇のやりやすい製造業の三十人以上をとった場合の
数字でございます。それが三十五年を境として、初めのほうのそれよりさかのぼっての五年間というものは生産性のほうが、ただいま申しました借り入れ金に対するところの資本費を除くという計算をかりにいたしました場合におきましても、生産性の上昇が一〇%高くなった、後半期においてはそれが一〇%低かったということが、これが消費者物価に大きく影響したものと私
どもは
——程度の問題はいろいろあるでありましょうが、これが一つの原因であったということは、これは否定すべからざる事実であろうかと存じます。
なお、いま一つ申し上げたいと存じますのは、これはいわば中小企業も含んでおりますけれ
ども、最も生産性の上昇のやりやすいところの製造業についての問題でございます。そこで、生産性の上昇が非常にむずかしいところの中小企業等において一体その実態がどうなっておるかということを、先般の中小企業白書において
政府から発表になっております。その
数字もついでに申し上げておきたいと存じます。これは先般発表になった
数字ですでに御研究になっていると存じますが、この特殊分類によるところの消費者物価指数というものを、ずっと私
どものほうで検討してみたわけでございます。要するに総合物価指数としては昨年、暦年一年間において三・八%の上昇に相なっております。そのうち中小企業が、どの
程度これについてウエートを持っているかという
調査をしてみたのでございます。まず第一に、加工食料品、これが上昇寄与率のうち二八・九%を占めております。その加工食料品のうち大企業性製品と中小企業性製品、これを分けて考えますと、中小企業性製品の寄与率が、二八・九%のうち実に二六・九%を占めているのであります。しこうして、その次には、その他の工業製品を調べてみますると、中小企業性の製品がその他の工業製品におきまして九・九を占めております。さらにまた、対個人サービスの面において、中小企業の部分でございますが、これが三六・五%を占めている。それで、それらを合計いたしますと、結局中小企業によるところの物価に対する寄与率というものは、一〇〇に対して実に七三・三というものを占めている。この中小企業性の製造工業またはサービス業等におきましては、ここにおきましては生産性の上昇というものは、どうしてもおくれがちでございます。中小企業白書等におきましても、生産性の格差というものを、はっきりと
数字をもって出しているわけでございます。なかなかその生産性の格差が縮小してまいっておらぬということが実態でございます。これがやはりコストの上昇という面を通じて、消費者物価に相当影響いたしておると、かように私
どもは判断いたしているのでございます。
なおまた、経済の成長を安定的な基調に持っていくということのために、総需要が漸次落ちてまいっているのが最近の実態でございます。したがって、私
どもはよく中小企業の倒産等につきまして、構造的な要因が相当あるのじゃなかろうかということを言っているのは、その意味でございまして、要するにそういうふうにコストはどんどん上がりますけれ
ども、そのコストを価格に転稼して消費者物価を押し上げるというだけの、つまり総需要の伸びがないというところから、結局、人件費等の増加が、そういうふうな倒産に追い込まれるところの一つの要因になっていると、かように見ているわけでございます。
なおまた、農林
漁業等について申し上げますれば、たとえばお米の値段、これにつきましては、よく御存じのとおり、生産費及び所得補償方式という方式を今日用いているのでございまして、この生産費及び所得補償方式というのは、言うまでもなく都会の給料所得者の賃金、これと米をつくった場合におけるところの、必要な労働時間におけるところの時間当たりの収入というものをバランスさせようということが、根本のものの考え方です。したがって、農業等においての生産性の上昇が十分に見込めないというときにおきましては、どうしてもそこに生産者米価というものは引き上げざるを得ない。しかも食管制度を維持するためには、消費者物価もある
程度の上昇はやむを得ぬということになる、そこに私
どもは消費者物価の上昇の原因がある、かように判断をいたしているのであります。したがって、中期経済計画において申し上げておりますことは、まず第一に、経済の成長を安定的な基調に持っていく、そうして総需要、総供給の
関係でもって、価格上昇が安易に行なわれるという環境をまずなくするというのが一つ。いま一つは、一番の大きな原因であるところの中小企業、農林
漁業等におけるところの、生産性の格差の存在いたします部面に対するところの生産性の上昇に対して、あらゆる力を尽くしていく。もちろんその他流通部面の問題、労働の流動性の問題、その他今春物価対策として決定いたしましたような各般の施策を必要とするのでございますが、そういう点に重点を置いて物価対策を実行していきたい、そうしてしかも、それが私
ども政府が意図したほどに急速にはまいらないことは、これは認めざるを得ないのでございまして、そのために
昭和四十年度におきましても四・五というふうな
——私
どもとしては、何とかもう少し低い目標を持って、そうしてそれを実現するということができないかという非常な苦労をいたしましたけれ
ども、四・五というような率を掲げざるを得なかったという実情である、さように存じておる次第でございます。