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佐藤尚武君 どうも二十年という年月が、たいへんにぐあいの悪いことになるような気がいたしますので、第一次大戦の際に、一九一九年にベルサイユ条約ができ、それによって
国際連盟が結成されたわけでありまするが、その後二十年たちまして、一九三九年にはヒットラー・ドイツのポーランド侵入となってしまったというようなわけで、それが第二次世界大戦のきっかけとなったようなわけでございます。今度
国連が結成されてから満二十年になりまして、
先ほど来申しましたような種々な重大なできごとが起きまして、そうして
国連の根底をゆさぶるようなことに相なりましたのは、まことにどうも歴史は繰り返すというのが事実になってあらわれてきたような気がいたします。そうでありますれば、なおさら、ただいま
総理が言われましたごとく、
国連に対して強力な
協力を与えるというようなお考え、ぜひそういうお考えをもってやっていただきたいということを、繰り返してお願いするわけでございます。
ベトナムの問題につきましては、すでに多くの同僚の議員たちから
質問がありましたので、私自身の
質問もかなりの程度重複するおそれがあります。そういう点で、なるべく重複を避けて、そうして
政府のお考えをお伺いしたいと思うのでありますが、現在の調子でまいりまするというと、
中共をはじめ北
ベトナムないしはソ連のごとき、南
ベトナムの問題に関しまする限り、非常な強気でもって臨んでまいっている。また
アメリカの
態度も、それに負けず劣らず強気のように察せられておるのであります。こういうようなやり方が今後長く続くといたしまするならば、世界情勢の上に大きな不安を投げかけるばかりでなく、それが高じて、ついに取り返しのつかないできごとにまで発展しないとも限らないようなわけでありまして、したがって、極東に存在しております日本の
立場からいいましても、たいへんこれは不安、心配な問題であるわけでございます。何とかしてあのみじめな敗戦の経過並びに結果を味わった日本といたしましては、ぜひとも第三次大戦などが起こることを防止しなければならないようなわけでありまして、そのためには、いまの南
ベトナムの問題は非常な大きな課題を日本に投げかけておるようなわけだと思うのでございます。いろいろな
情報、私はあまりたくさんの
情報は持ちませんが、それにしましても、南
ベトナムの情勢を見てみまするというと、
アメリカに対しての不満、批判が非常に強く持ち上がっておるように私にも見えるのであります。
アメリカの帝国主義、
アメリカの行動はみな
アメリカの帝国主義というふうに非難されておるわけでありまして、ごうごうたる非難が上がっておる。その反面に、ベトコンに対しましての同情ないしは彼らの行動を是認するような批判もまたかなり根強いものがあるように見受けられます。南
ベトナム自身、一般の民衆はもう戦争に飽き飽きしておるのは、これは当然でありましょうが、その結果、民族解放運動と目されておるベトコンの
態度、攻撃は、一般の民衆からむしろ是認され、かつまた、これに対して大きな同情を注いでおるというふうに見えるのでありまして、
アメリカの
ベトナムにおける地位というものは、それだけに非常な不利な
立場に立ち、また困難がわいてまいっておるというふうに見えるのであります。しかしそれにもかかわらず、
アメリカは断固として、
ベトナムに対して、このままでは譲れないという
態度をとっておることは周知のとおりでございます。
アメリカの
態度は、私から申しましても、きわめて牢固なものがあるように見えるのでありまするが、それは何のためか。その根本をただしまするならば、いま
アメリカが
国際会議とかなんとかいうことでもって手を引く、漫然
国際会議に臨むというようなことであったならば、南
ベトナムは、これは共産主義に逸してしまう、共産主義のほうに投じさせてしまうということになるのである、それは自由国家としてとうてい認容することのできない問題であるという点に、非常な大きな理由を持っておるわけでありまして、このままで手を引いたならば、
ベトナムは即刻にも共産化されてしまうという、そういうおそれでございます。したがって、その点で
アメリカが安心を得るということでなければ、
アメリカは手を引かない、こういう
立場に立っておるかのように私には見えるのであります。そこにもってきてフランスのドゴール大統領の
国際会議の提唱があったわけであります。この提唱は、武力をもって南
ベトナムの問題を
解決するということは不可能である。自分自身が、フランス自身が、もうすでに十年も前に経験をしたところであって、とうてい、武力
解決は望むことができないのだ、しからば、
国際会議を開いて、そしてそこで
話し合いによる平和をもたらす以外に方法はないじゃないかと、こういうのがドゴール大統領の強い主張のように見受けられるのであります。私は、何も
アメリカびいきをする
立場にもおりません。漫然
国際会議に
ベトナム問題を持ち込むということは、私自身もどうもふに落ちかねるのであり、賛成は軽々にできかねるという考えを持っているものでございます。というのはなぜかと申しまするならば、
先ほども申しました共産化から救うだけの保障がないことには、この
国際会議を、よしんば開いたところで
意味をなさないことに相なるというふうに思われるからでございます。フランス自身も、自身苦い経験をなめた国でございまして、八年も長い間べトミンと
ベトナムで交戦を続け、そうしてこのゲリラ戦によってフランスは非常に苦難をなめたというので、その結果一九五四年の
ジュネーブ協定ということになり、その協定でもって休戦に持ち込んだということに相なったわけでありますが、その休戦協定を見まするというと、いま申しましたように赤化から
ベトナムを守るという点については、きわめてばく然とした規定しかないのでありまして、的確な保障、強力な保障というものはどこにも見当たらないというのが
ジュネーブ協定の大きな私は欠陥であったろうと思うのであります。それゆえにこそ、この協定が五四年に締結されましてから十年足らずの後に、再び依然フランスがベトミンと苦しい戦いを続けてまいって八年もかかった、そうしてとうとうきわめて不利な
ジュネーブ協定に到達したというようなことが繰り返されんとしているような情勢でございます。それをまたドゴール大統領が提唱しているというところに、私は非常にふしぎに感ずるのでありまして、ドゴール大統領自身の代表しているところのフランス自身が、すでに大きな苦い経験をなめて、そうして協定締結後十年足らずのうちに再び現在のような混乱を来たし、まさに
ベトナム全土赤化されんとしているような危険に
ベトナムをさらしているというようなことに相なっているのでございまして、そういうことを知っているフランスといたしまして、なおかつ何らの保障に関しての
意見の交換もなしに
国際会議を提唱するということは、どうも私には
了解しがたいのでありますが、この問題につきまして、私から見まするならば、きわめてふしぎな応答がなされたように見える節がございます。それは、ある刊行物に記載されております一学者のまじめな研究でありますが、私はこの研究の
内容につきまして、これを確認するだけの資料は持ちませんけれ
ども、しかしまじめな研究としましてこれを見るときに、あるいはそういうこともあり得たのではなかろうかというような疑いを持つ問題がございます。それはボール国務次官がドゴール大統領に対して、ドゴール大統領の
国際会議開催の提唱に関して反論をしたということでありまして、こういう
国際会談というものは、東南
アジアに対して共産化を招くという大きな危険があるのではないかということをボール次官が述べたそうであります。どういう
機会に述べたか、ここには書いてございませんが、それに対してドゴール大統領の考えとして述べられているところが非常にどうもふるっているのでありまして、それは、ドゴール大統領もその危険は甘受しなければならぬ、そういう危険は当然あるのだ、これは甘受しなければならない、そうして今度は米国が甘受すべき番に当たっているのだ、こういうことを述べたという話でございます。フランスは東南
アジアに軍隊を持っていないので、ただ自分たちがなし得ることは知恵を借してあげることだけのことだ。実力をもってそういう赤化の危険から
ベトナムを守るというようなことは、これはフランスの役目ではない。フランスは
国際会議の招集ということをそれほど火急な問題とは考えていないが、しかしながら、だれにとっても早ければ早いほどいいに違いないということを言ったそうでございます。これから
あとは、この研究者の
意見でありますが、これは暗に、フランスが十年前に立たされた地位に
アメリカが現在置かれているのであり、十年前にフランスが
ジュネーブ会談を甘受したように、今度は
アメリカも
ジュネーブ会議の開催を甘受すべきであるという論法だというふうに、ここに研究者の
意見が付記してございます。私は、このボール国務次官とフランスの大統領との間の応答が、はたしてこのとおりであったのかどうかということを調べるだけの資料を持ちませんが、しかし、ドゴール大統領のいままで多くの
機会に述べたところから推測いたしまするというと、大統領の考え方は、やはりこういうことではなかろうかと私にも思われるのであります。自分自身は極東に軍隊を持っていない、したがって、武力をもってこの
国際会議の協定を保障する
立場にはいない、むろん
国際会議の結果、東南
アジアが赤化されるというような危険はある、それはドゴール大統領も認めていることになりまするが、しかし、その危険はフランスが負担するのでなくて、今度は
アメリカの番だ、
アメリカが負担すべきものだ、もう自分たちは十年前にえらい経験をなめたのであって、今度は
アメリカの番だと、どうもこれでは東南
アジアの平和というものは、そういう
意味での
国際会議によっては持ち来たされないということになる、それは初めからわかっていることであります。
ジュネーブ協定が
先ほども申しましたが、的確な、そうして強力な保障の規定を欠いておったがために、今日のようなまことにみじめな結果をもたらしておることを考えまするという、ドゴール大統領のいま頭の中に考えておるそういう
国際会議を提唱して、それでもって一時はしのげるかもしれませんけれ
ども、十年もたたないうち、あるいは五年のうちに、またベトコンの勢力が浸透していく、ないしは北
ベトナムの勢力が南へぐんぐん伸びてくるというときに、だれが一体平和の維持を保障してくれるのかという点になりますというと、全く心もとない提議だといわなければならぬように私には思われるのであります。スイスの中立条約などでは的確に中立の保障、スイスの
独立、中立の保障を規定しておるわけでありまして、もちろん第一次、第二次大戦を通じてスイスが中立を守り通したにつきましては、利害関係国がスイスを侵すということは結局自分のためにならないという見地に立って、この
独立を事実上承認したというようなこともあったのでございましょうが、しかし、中立条約それ自身的確な規定を持っておるということが何よりも力強いスイスの中立維持の理由であったといわなければならないのであります。
しかるに、
ベトナムの
国際会議、ないしはもうすでにできておりまする一九六一年のラオスの中立に関する条約などを見ましても、そういったような的確な規定はどこにも見当たらないというのが私は大きな欠陥であったろうと思うのでありまして、それを再び繰り返すというようなことは、まことに危険千万なことでなければならないように思うのでございますが、
政府はその点に対してどういうお考えをお持ちになっているか、
総理もしくは
外務大臣からお伺いすることができれば幸いだと思います。