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政府委員(高島節男君)
予算の御
審議の御参考といたしまして、三十九
年度の
経済情勢と四十
年度の
経済運営の基本的態度、いわゆる
経済見通しにつきまして若干御
説明申し上げます。
お手元に「
昭和四十
年度の
経済見通しと
経済運営の基本的態度」としました横書きの印刷物が配付いたしてあると思いますが、これに即しまして御
説明いたしてまいります。
まず、三十九
年度の
経済情勢でございますが、御承知のように、三十八年の末以来、
国際収支が悪化いたしまして、これの
改善と、また、数年来続いた消費者物価の安定ということをはかっていく基調に立ちまして、
経済を引き締めぎみに
運営いたしてまいりましたが、その効果は漸次
経済各分野に浸透いたしてまいりまして、国内
経済は漸次落ちつきを取り戻してまいりました。また、
国際収支も、
輸出の好調を主たる原因といたしまして、大幅に
改善の
方向に向かっているわけでございます。
このような
経済情勢の動きを背景といたしまして、三十九
年度のわが国の
経済の実績
見込みというものを見てまいりますと、まず、鉱工業の
生産でございますが、前
年度以来非常に高い水準で推移いたして三十九
年度の前半を過ごしてまいりましたが、この秋以後、引き締めの
措置が浸透いたしてまいりました結果、
伸び率は鈍化いたしてまいっております。それでも、前半における上昇率が高かったために、前
年度に比べまして一五%程度の
増加ということにはなるのではないかという見通しでございます。他方、こういう
生産活動をささえております需要面のほうの状況は、個人消費支出、あるいは
政府支出、あるいは個人
住宅建設といったような面は、引き続き堅調であります。在庫投資は、前
年度の水準をむしろ下回るのではないかという見通しであり、問題の
国際収支とからみまして議論されました
設備投資も、三十八
年度以来上昇をいたしておりましが、三十九
年度に入りまして特にその下期において鎮静化のきざしが見えてまいりまして、機械受注統計その他でも、弱含み、横ばい状態になってきたように感じられるのでございます。大体、
年度間で四兆六千五百程度のところにとどまるのではないかと見ております。
こういう国内
経済の裏をなします
国際収支の状態は、輸入は、この鉱工業
生産を反映いたしまして高水準ではありますが先行き落ちついてまいる見通しが出てまいりまして、六十六億五千万ドル程度で
年度内におさまるのではないか。これに対する
輸出は、世界環境が非常にによかったこと、また国内の
産業が数年間にわたる
設備投資、
合理化投資の効果もあらわれて相当の競争力をたくわえておったこと、さらに、国内の
経済が引き締めぎみに
運営されまして
輸出意欲が相当かき立てられておったという情勢を反映いたしまして、予想以上に
増加いたしました。その結果、貿易収支は
年度間で一億五千万ドル程度の黒字という
見込みに相なってまいっております。ただ、貿易外の収支の赤字が逐次
拡大の
傾向にございまして、三十九
年度においても五億ドル程度の赤字が出てまいるのではないか。結局、経常収支として三億五千万ドル程度の赤字は避けられない状態でございます。他方、資本取引の面での資本の導入がございますので、これがございますために、
年度間の総合収支としてはまずとんとんで
均衡するというところに落ちつくかと見ております。
また、物価のほうの動向でございますが、これは卸売り物価は落ちついた推移を見せております。問題の消費者物価は、三十八年の十月以降、生鮮食料品あるいは冬物衣料というものが一時値下がりの
傾向、落ちつきを見せてまいっておりまして、概して落ちついた基調が出かかっております。ただ、その間にも、住居費とか雑費とかいうものが依然として根強いじりじり上がりの
傾向を示しております。そこに、三十九
年度の秋口、三十九年の十月あるいは九月といったころから野菜の価格が夏の干ばつやあるいは例年よりも秋冷が早かったという点を反映して、相当の急騰を示しました。これがためにかなりまた高い水準に上がっておる。十一、十二月には季節的なこういうものの出回り期でございますので、若干価格が下落いたしてまいっておりますが、前
年度の同期間に比べますと、前年が非常に落ちついた時期でございましたために、相当の高水準にございます。このような情勢のために、本
年度の消費者物価の対前
年度値上がり率は、大体四・八%程度というところにいくのではないかと見通しを持っております。
以上のような
経済情勢のもとで、三十九
年度の
国民総
生産はほぼ二十五兆三千六百億円という
規模になりまして、
経済成長率としては、実質九・四%、名目で一二%・九%という程度のところにいくのではないかと、こういう見通しを持っております。
それで、二ページ以降に、そういう三十九
年度の
現状を基礎にいたしました四十
年度における
経済運営の基本的な態度及びその間の
前提となる情勢判断を掲げてございますが、まず、
わが国経済をめぐる最近の国際
経済情勢を見渡してみますと、イギリスにおいてポンドの防衛
措置が強く打ち出されて、公定歩合も二%
引き上げということがあり、アメリカ、カナダ等にこれが波及いたしてまいっておりまして、わが国の国際市場における立場というものはまことに楽観を許さぬものが出てまいっております。
他方、国内的には、すでに申し上げましたように、消費者物価に騰勢気配が続いております。さらに、若年労働者、技能労働者を
中心にします労働力の需給の逼迫という大きな
構造的な変化も進んでおります。あるいは、
中小企業、
農業といった部面の低
生産性部門の
近代化のおくれや、
住宅や
生活環境施設の不足、あるいは地域間
格差の問題といったような各種の不
均衡が生じていることは御承知のとおりでございます。
したがいまして、四十
年度の
経済運営といたしましては、
財政金融政策を
中心にしたいわゆる
安定成長路線というものは
経済を導くことを第一義といたしまして、
国際収支の
均衡と消費者物価の安定という二本の柱をねらって
安定成長路線に努力をいたしてまいりたい。したがいまして、
経済各分野における
生産活動を慎重ならしめてまいりますと同時に、質的な
充実に意を用いて、
経済の
均衡ある成長と、それと調和のとれた
社会開発というあたりに大きな
重点を置いてまいることといたしたわけでございまして、その内容は三ページから四ページにかけまして政策の柱数本を打ち出しておりますが、要するに、
輸出の
振興と物価の安定、第三に
農業、
中小企業の
近代化、第四に
社会開発というものが大きな柱となっておりますが、先刻来
予算の内容としてるる御
説明がございましたので、内容については省略さしていただきたいと存じます。
四ページに参りまして、こういう
運営態度で臨みました場合の四十
年度の
経済の姿というものが3のところ以下に想定してございますので、これについて若干御
説明いたします。
国民総
生産の
規模といたしましては、二十八兆一千六百億円、先ほどお話がございましたように、名目で一一%、実質で七・五%という程度の
経済成長を予定いたしました。
国民各層の慎重かつ健全な態度が定着してまいりまして
安定成長路線に乗っていくことを基本の姿勢として期待いたしておるわけでございます。
これに伴いまして各主要項目ごとの内容に若干触れてまいりますと、まず、個人消費支出でございますが、
経済がこのような安定的な推移をたどるならば、各種の所得の
伸びの全体が落ちついてまいることも期待できますので、名目
伸び率、個人消費としては一二、三%程度のところを見通しといたしております。
設備投資につきましては、最近若干鎮静化の
方向にございますが、他面、
農業、
中小企業といったような低
生産性部門の
近代化の必要や、あるいは基幹
産業における日進月歩の世界情勢、技術革新等に伴う
国際競争力の
強化や、あるいは
構造的変化でございます労働コストのアップに伴うそれが節約のための
合理化、
近代化等、各般に政策的に考えましても
設備投資の必要性というものも認められるわけでございまして、
企業及び
金融機関の従来のような慎重さを欠いた態度は今回の引き締め
措置に伴って鎮静いたしてまいっておるわけでございますので、それとこういった必要性と結びつきまして、投資
規模全体としてはおおむね五、六%程度の
伸び、四兆九千億円——五兆円に達しない程度のところにおさまっていくのが妥当な姿ではないかと考えられます。
それから在庫投資につきましては、鉱工業
生産はもちろん若干ともしり上がりに上がってはまいりますが、その上昇テンポはゆるやかでございます。一方、製品在庫投資の若干の下がりもありますので、この間、在庫関係においては、プラス、マイナスいたしましておおむね前
年度の横ばいという程度のことになるのではないかと見ております。
それから
政府の財貨サービス部門の今回の
予算との関連でございますが、先ほど来御
説明のありました
一般会計三兆六千五百、財投の一兆六千二百という数字を基礎にいたしまして、地方まで含めまして六兆三百億円という程度に整理をいたしております。おおむね一〇%程度の増と相なります。
それから個人の
住宅建設につきましては、三十九
年度においても大きく
伸びておりましたが、二〇%をこす大幅な
増加を期待いたしております。
このような諸要素に対応いたしまして、五ページの下から鉱工業
生産の活動状況の予想を立てておりますが、上昇のテンポは現にすでにこの第四四半期にかけましてきわめてゆるやかになっております。十一月、十二月の水準は横ばいぎみに相なりつつありますが、そういうテンポを受けまして、第四四半期、続いて第一四半期あたりは、上昇がかなり鈍化するのではないかと見ておりますが、
年度間を通じまして対三十九
年度おおむね一〇・五%という程度の上昇にとどまると見ております。
農林水
産業の関係につきましては、米の高水準の
生産、あるいは畜産物、果実、野菜等の需要の強調という辺に順調な
生産の
伸びが期待されますので、大体三%程度の
増加というように見ているわけであります。
こういう国内活動の裏打ちになります、むしろ
前提にもなってまいります
国際収支でございますが、
輸出につきましては、三十九
年度におけるような対三十八
年度二二%の
増加というような大幅な
増加を期待することは、世界情勢の変化その他にかんがみきわめてあぶないわけでございまして、来
年度としては大体一二・五%ぐらいの見当の
伸びを見まして、三十九
年度に比べて
伸び率としては相当鈍化するというように見ております。しかも、先進諸国間の
輸出競争は、国際情勢を反映してきわめて激化してまいるかと存じます。このような情勢のもとで、日本の
輸出がどう
伸びていくか、非常に予測も困難でございますが、情勢楽観を許さない——
政府、民間の一致
協力した
輸出努力でやってまいりまして大体七十六億五千万ドルという程度の
輸出達成を可能とし、また、そこに努力を集中するということで、これがむしろ
経済の
規模を決定するものとして描いているわけでございます。
一方、輸入のほうは、国内
経済活動が、鉱工業
生産一〇・五%程度の
伸びということを
前提にいたしてはじいてありまして、大体一〇%程度の
増加というように予測をいたしております。その結果、貿易収支は三億五千万ドル程度の黒字が出てまいる予測になるわけでございます。他方、
貿易外収支の赤字はなかなか
改善がむずかしく、赤字幅の
拡大をある程度とどめるという
方向でおさまっていく性質のものでもございますので、三十九
年度よりやや
増加いたしまして六億ドル程度の赤字があるかと思われます。したがって、経常収支全体としては、三十九
年度よりやや
改善されまして、二億五千万ドルぐらいの赤字にとどまると考えております。
一方、資本取引のほうは、いろいろと情勢が悪いことは御承知のとおりでございますが、健全な
長期外資の導入促進を
中心にいたして見てまいりましても、三十九
年度の水準をかなり下回る二億五千万ドル程度の受け取り外貨という辺ではないかと思われますので、結局、
国際収支としては経常収支に資本取引の導入分を加えましてバランスをするという程度のところが
見込みであろうかと思われます。
次に、物価の関係では、卸売り物価はほぼ横ばい状態で推移してまいるかと思っておりますが、消費者物価については、先ほど申しましたように、非常に楽観を許さない要素が多いわけでございます。しかし、
経済の
運営基調を
安定成長の路線に乗せまして、それを逸脱しないように慎重な
配慮を行なってまいりまして、かつ、先般閣議においても総合物価
対策十項目の御決定がございましたが、こういった各種の実効のある物価
対策というものを強力に
推進いたすことによりまして、三十九
年度に比較いたしまして四十
年度の消費者物価の上昇程度を四・五%程度というところにおさめてまいりたい、そこに努力を結集していきたい、こういう考え方でございます。
以上、簡単でございますが、四十
年度の
経済見通しにつきまして御
説明申し上げました次第でございます。