○北村暢君 私は、
日本社会党を代表して、本
法案に反対の討論をいたします。
反対の第一の理由は、
政府は本法の食料品総合小売り市場の設置をもって物価
対策の一枚看板としていますが、ほとんどその実効は期待できないからであります。
その一は、提案理由の
説明によると、
政府は、生鮮食料品の
生産面における各般の施策を推進するとともに、出荷の安定と計画化、中央卸売り市場の
改善、整備等の
措置を講じてきたが、流通面の小売り段階の経費が最も大きいので、本法の実施によって食料品総合小売り市場のモデルを設置し、小売り
業者の
合理化、
近代化を促進しようというのであります。しかし、今日の生鮮食料品の値上がりが、いかにも小売り段階にのみ問題があるような
説明には納得がいきません。たとえば、最近の野菜の値上がりには、家庭の主婦は悲鳴をあげております。東京都の標準
小売り価格について、昨年四月十六日と本年同期とを比較いたしますというと、ジャガイモ一キロ当たり二十二円が六十九円で約三倍、新キャベツ十一円が百円で約九倍となっており、他の野菜もこの間で値上がりしています。この驚くべき値上げ幅は、
小売り価格の一割程度の
引き下げで解決できる問題ではないことは明らかであります。しかも、標準
小売り価格は
政府みずからが指導しているのであって、小売り
業者の
責任ではないのであります。
政府は、野菜指定産地の安値補てん制度など諸施策を実施してきたにもかかわらず、その実効があがらず、農民の相変わらずの投機的
生産と、気象による豊凶も手伝った野菜の激しい
価格変動を繰り返していることに、最大の問題があるのであって、
政府の
農政の貧困を暴露したものであり、
政府の
責任であります。
その二は、
流通過程の
合理化で
消費者物価の値下げをしなければならないことは当然であります。しかるに、畜産物、水産物の産地における旧態依然たる取引
方法、その機構の複雑性の問題は、一向に解決しておりません。また、
政府の直接監督している中央卸売り市場において、仕切り改算などの不正行為が日常茶飯事のごとく行なわれている事実は、
政府の重大なる
責任であるといわなければなりません。これら流通
改善上の重要問題に根本的なメスを入れることなく、
合理化の名のもとに、末端小売り
業者にしわ寄せし、その
責任を転嫁することは、私の断じて容認できないところであります。
その三は、生鮮食料品小売り
業者は、東京都では一万五千店、全国では十三万一千店に及んでおります。これらの小売り
業者は、その大部分が零細
経営であり、高度成長のひずみのもとに苦しい
経営を続けているのが実態であります。
政府は、本法の実施によって、差しあたり東京都に二十カ所の食料品総合小売り市場のモデルをつくり、小売り
業者の
経営合理化の参考にしようというのでありますが、資本力の弱い一万五千店の小売り
業者にとっては高ねの花にすぎません。このモデル市場に入居できるものは、比較的信用のある、ごく限られたものであります。入居できない大部分の小売り
業者に対する手厚い施策があって、初めて小売り段階の経費節減による
消費者価格の
引き下げが全地域に実施できるのであります。農林省の何らの裏づけのないモデル市場の設置は、かえって付近の小売り
業者を圧迫するだけで、弊害のほうが多く、物価
対策にはならないのであります。
反対の第二の理由は、本法の実施は流通行政の混乱であり、地方公共団体の自主性を無視することになるからであります。
その一は、
昭和三十八年に出現したスーパーマーケットは、その後、目ざましい
発展を遂げ、最近では、大資本の進出に加え、有力スーパーのチェーン組織の拡充などから、小規模スーパーの整理倒産が目立ち始め、
日本的スーパーのあり方に転機がきたといわれております。このようなスーパーマーケットの進出が小売り商
業者に与える
影響は甚大であり、通産省は、これらの
対策として、
昭和三十八年度より、小売り商業店舗共同化資金を都道府県を通じて貸し付け、小売り
業者の協業によるスーパーマーケット、寄り合い百貨店等の設置を実施しているのであります。したがって、本法施行によって、農林省の監督のもとに官営のモデル・スーパ−マーケットをつくることは、明らかに行政の混乱であります。
関係業界は、農林省の監督のもとに一カ所一億円で二十カ所のモデルをつくるよりも、通産省の指導のもとに一カ所一千万円で二百カ所の公設スーパーマーケットをつくってもらいたいと、強く要望しているのであります。
その二は、市場の設置は地域商店街と密接な
関係があり、その協力がなければ成り立たないことは言うまでもありません。したがって、地域の総合行政の観点から、モデル・スーパーマーケットの設置は、
農林大臣の監督下に置くことは不適当で、地方自治体に権限を委譲することが適切であると思うのであります。通産省所管の小売り商業店舗共同化はこの
趣旨ですでに実施されており、さらに一歩前進して、公共的性格を強めようとするならば、大阪市の公設市場が成果をあげている例にならい、これを一そう
近代化した公設スーパーマーケットに国が助成をするという
方式をとるべきであります。
反対の第三の理由は、性格のあいまいな管理会では行政効果を期待することができないからであります。
その一は、臨時行政調査会の答申によれば、人事管理の行き詰まりなどの理由から、
政府関係機関が無秩序に乱立する傾向にあることを指摘し、これの整理統合を全面的に検討し、その改革の実施を早期に実現することを強く勧告しているのであります。その具体的例として、各省を通じ十八の例示のうち、農林省
関係は八つを占めているのであります。しかるに農林省はこの答申を無視し、整理どころか、次々と
事業団や特殊法人を新設させているのであります。その無軌道ぶりにはあきれるほかはありません。臨時行政調査会の答申の
趣旨を尊重する意味からも、管理会は設立すべきでありません。
その二は、管理会の役員人事並びに
業務の監督権は一切
農林大臣が握り、地方公共団体の長はわずかに意見を述べることができることになっております。したがって、管理会は、独立法人としての期待される能率発揮は不可能となり、農林省の出先機関化し、古手役人のうば捨て山となることは、従前の例に徴し、疑う余地のないところであると思うのであります。
その三は、生鮮食料品の販売業は長い経験と鋭い感覚を必要とします。その上、協業スーパーの
経営は、
関係者の人的協調と周密なる計画と、完ぺきな管理組織が絶対の要件でありますから、管理会の役人上がりの未経験者が指導監督し、
業務の一部を担当することは、初めから無理な相談であります。すでにスーパーが
過当競争のために倒産が続出し、転換期にきたといわれるときに、官僚支配の手かせ足かせの
状態で入居小売り
業者の
経営が順調にいくかどうか、はなはだ疑問であります。
その四は、入居小売り
業者は、いままでの自営業を廃業して協業スーパーに参加するのであるから、もし万一失敗した場合、一体どうなるのでしょう。
法律には何らの保証
措置もないのでありますから、小売り
業者をモルモットにした生体実験以外の何ものでもありません。
以上、反対理由を申し述べましたが、最後に、本
法律案に対する反対運動の
現状について若干触れてみたいと思います。
本
法案の
内容が質疑を通じて明らかになるに従い、
関係業界の反対運動が日増しに高まってきたことは、御存じのとおりであります。青果
関係は、卸、仲買い、小売りの各団体が反対であり、特に全国青果小売商組合連合会が、総会の決議により、わずか数日のうちに数万の反対署名を集約し、
政府与党に陳情したこと、あるいは、中政連など九十二団体の参加する反対期成同盟が激しい反対陳情を重ね、四月二十八日には、ついにたまりかねて、都内の魚屋さん、肉屋さん、八百屋さんなど食料品
関係小売り
業者二千人以上が、生まれて初めての都議会と
国会に対する請願行動を敢行したことは、いかに本
法案に対する反対が激しいかを物語っていると思うのであります。また、東京都は、三十九年度の本法
関係予算は他に組みかえ、四十年度は内部の反対のため
予算を計上するに至っておりません。以上のごとく、かりに本
法案が
成立しても、東京都に受け入れ態勢がなく、入居者にはボイコットされるような
状態であります。
政府は、このできの悪い
法案の通過を断念し、再検討して出直すことを強く要望をいたしまして、私の反対討論を終わります。(
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