○大森創造君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
議題に供されました漁業の動向等に関する
年次報告について、
総理、
農林大臣及び
大蔵大臣に対して若干の
質問をいたしたいと思います。
今年度の
報告は、第三次漁業センサスの成果を取り入れたためか、なかなか内容も多岐にわたっており、触れていない問題はないといわれております。しかし、少し注意深く読むと、案外そうではなく、
政府にとって都合の悪いことは用心深くこれを避けていることがわかるのであります。だれかがいみじくも申しましたように、何が書いてあるかではなく、何が最いてないかを見ることによって、
日本漁業の真の問題点が明らかになるといってよいかと思うのであります。
私は、まず、
政府がきわめて用心深く避けている漁業における階層分化の問題についてお伺いいたしたいと思います。昨年の
報告と違って、ことしは、大資本の営む漁業についても、その他の漁業として若干触れていますが、このように平面的に、大資本漁業、中小漁業、沿岸漁業を並列しただけでは、真の問題点は出てきません。中小漁業及び沿岸零細漁業が、生産及び流通の場で、どのように大資本漁業によって圧迫収奪されているかを具体的に分析することなしには、中小漁業や沿岸漁業の真の
発展の道を求めることは不可能であります。そこで
総理大臣にお伺いいたしますが、ますます開いてくる傾向にある漁業内部の格差を縮小するため、大資本漁業の活動を、中小漁業に対する圧迫と収奪を押える
意味において、その限りにおいてある程度規制する意思が、そして勇気がおありかどうか。それをあえて行なう意思と勇気がなければ、中小漁業の活路はないのではないかと信じますが、いかがでしょう。どのような具体的
施策によって、漁業と他産業間及び漁業内部における格差を解消しようと
考えているかを、率直にお示し願いたい。私がここでちょうちょう申し上げるまでもなく、聡明な
総理は事態をおわかりのはず、ただ、それを実行に移す勇断をお持ちかどうか、念のためお伺いいたします。
次に、
報告は、沿岸漁業における所得格差に触れているが、それによると、機船漁業では、北海道海区、中区太平洋海区及び瀬戸内海区が全国平均を越え、ノリ養殖では、有明海、東海海区及び瀬戸内海区、カキ養殖では、瀬戸内海区の所得が圧倒的に大きいと述べております。しかるに、
政府は、一方で沿岸漁業の振興を唱えながら、他方では、これらの優良な漁場が、工場汚水の流入や埋め立てによって失われていくことに対して、目をおおっていることは納得できないところであります。わが党が提案した水質汚濁防止
法案を、独占資本の要求に基づいて骨抜きにし、いわゆる水質二法を衆を頼んで成立させたようでありますが、これが、ざる法にすぎないことは、二法の実施以来かえって汚水による被害が激増していることによっても明らかであります。そこで
総理に伺いたいが、水質二法の効果が、事実によって、ほとんどないことが示された今日、この二法を抜本的に改正強化する意思がおありかどうか、また、このような沿岸漁業にとっての優良漁場を次々に荒廃させておきながら、なおかつ、沿岸漁業の振興を言い得るために、一体どのような
施策をとろうとするのか、具体的にお示し願いたい。
次に、
農林大臣に
お尋ねしますが、
大臣は、沿岸漁業の
発展のために重要なこれらの漁場を資源保護水域として指定、同水域において漁場を荒廃させ資源保存の妨げとなるごとき汚水の流水等を阻止し、あるいは漁場の埋め立てを規制する措置をとる決意を持っておられるかどうか、さらにまた、沿岸漁業におけるかかる地域差をなくすために、生産性の低い
地区に対してどのような
振興対策をとろうとしているのかをお伺いいたしたい。
第三点として、漁業金融の問題について伺っておきたいのであります。白書は漁業金融に触れて、漁業では自己資金が少ないために借り入れ金が多く、
経営を圧迫していると述べております。事実、中小漁業では過剰投資の傾向が著しく、資源との
関係で
経営がますます困難になってきています。たとえば、きのうまで中小漁業の花形としてうたわれていたマグロ漁業も、今日では、資源を無視して行なわれた
政府の許可の乱発と漁業者の漁船大型化競争によって、著しい過剰投資を招き、その結果として資源条件を悪化させ、漁獲率の低下、漁場の遠隔化による操業経費の増大等によって、
経営状態を悪化させているのであります。このため、一時、トン四十万円以上もしていた許可の権利が、今年は十万円近くまで下がり、許可を担保とする金融を困難とするに至り、必要資金を手に入れるために、従来にもまして不利な条件を押しつけられております。金利負担の増加——はなはだしきは水揚げ総額の三割近くも金利負担に取られる者もあるように聞いておりますが——その金利負担の増加によって、中小漁業の
経営はいよいよ困難となっております。また、十トン以下の漁家の借り入れ先を見ると、有利な
政府資金はわずか全体の一割に満たないのに、個人その他からの借り入れ及び漁協からの借り入ればそれぞれ四割近くに達しております。そこで
大蔵大臣及び
農林大臣にお伺いするが、
政府は、中小漁業及び沿岸漁業の金利負担を軽減することと、漁業
経営の立て直しをはかるため、少なくとも漁船漁具の建造資金については、年利三分五厘以下、償還期限三十年以上の長期低利の
政府資金を大量に供給することを御提案申し上げますが、お
考えのほどを一お聞かせいただきたいのであります。また、十トン以下の漁家漁業の金融の
円滑化をはかるため、制度金融の中に沿岸漁民用の特別資金ワクを設け、個人や漁協からの高利の金を借りなくても済むようにする
施策をいたす意思がないかどうか、明確な
お答えをいただきたいのであります。なお、固定債務のたな上げについても、この際お
考えを聞いておきたい。
第四点として、水産資源の問題についてお聞きしておきたい。最も重要な資源の問題がことしも全く触れられていないことは、納得できません。歴代
政府の怠慢によって、資源の動向に関する研究が十分ではないため、完全に科学的な分析をあらゆる分野にわたって行なうことは困難ではありましょう。しかし、いやしくも漁業白書が水産の動向を正しく把握し、それに基づいて適当な
施策を打ち出すものである以上、たとえ十分なものでなくとも、生産の基礎となる資源の動向をつかんだ上でなければ、権威ある
施策とはなり得ないのであります。そこで
農林大臣にお聞きしますが、あなたは、来たる四十年度の白書では、資源の動向、特に漁業
経営の面から見た資源の動向について
報告する用意があるかどうか、率直にお示し願いたい。
次に、国際漁業の問題に関連して、
総理並びに
農林大臣に
お尋ねしたい。白書によれば、従来、
日本漁業の
発展をささえてきた国際遠洋漁業の伸び悩みによって、
日本漁業の生産量が全体として低下したことが示されております。国際遠洋漁業の漁獲が減少した理由には、資源条件の悪化によるものも含まれているが、同時に、
日本漁業に対する国際的な規制によるものが大きいことは、
政府といえども否定できないと思います。しかるに、
政府の
態度を見ていますと、どこまで真剣に国際漁業の
発展に努力しているかを疑わしめるものがあることは、きわめて遺憾であります。たとえば、昨年六月
条約期間の満了した
日米加漁業
条約の改正問題についても、わが党のたび重なる要求を無視して軟弱な
交渉に終始し、ついにその廃棄通告すらなし得ず、いまだに不平等
条約改正の目途さえも立っていないありさまであることは、周知のことであります。現在行なわれている日韓漁業
交渉についても、同様の感がいたすのであります。国際法を無視し、広大な公海に一方的に設定された李ラインの無条件撤廃の要求さえも、日韓
会談の早期妥結の妨げになるとの
考えによって放棄し、韓国側が公然と、李ラインは漁業保護ラインとしてもあくまでも守ると主張していることを知りつつ、漁業
交渉が妥結すれば李ラインは自然に消滅するかのように
国民を欺いております。
総理にお聞きするが、李ラインの問題についてどのような保障の確約を得ているかを、この際あらためて、はっきりと、この本
会議において
国民の前にお示しいただきたい。
以上を要約してみますと、いずれにせよ、現在は
日本漁業の一大転回期と言えましょう。この転回期にあたり、
日本漁業の向こうべき方向を
政府が示すべきであり、そのあるべき姿を明示するため漁業
基本法を提案し、その実態を明らかにする意思があるかどうか、伺いたいのであります。わが党は、この白書の基盤となった沿
岸漁業等振興法が提案された
昭和三十八年、第四十三回通常
国会に、同
法案とともに漁業
基本法案を提案し、漁業に関する新たな
政策の目標とその原則を明らかにしているのであります。漁業界にありましても、白書に言う「その他の漁業」業界においても、
基本法を制定すべしとの声の高まりを聞くのでありますが、
総理のお
考えを承りたいのであります。
また、
沿岸漁業等従事者の労働条件と海難について伺います。労働力の不足、漁業労働従事者の賃金引き上げ要求の激化等を
考えますときに、漁業労働賃金の支払い制度の旧態依然たるを感ずるのであります。このことは、漁業
経営の近代化が進んでおらないことに根本問題があるのであって、
経営者自体が、賃金には歩合制をとって漁夫のしりをたたき、かつ、その資本装備を惜しみ、おのずから漁夫をして他産業へ追いやるのみならず、ひいては経験不足の船員を雇い、海難事故を招く結果となっていると
考えられるのであります。昨一年間で、北海道だけでも沈没した漁船七十四隻、死亡、行くえ不明百七十九人になっております。海難事故防止のため諸種の規則等がありますが、しかし、漁獲物の限度以上の積載、船員の無資格、救命艇等の欠除など、人災とも言える事故が多かったのではないだろうかと私は
考えます。私は、少なくもこの冬期間に起こった海難事故の直接間接の原因を究明して、来たる四十年度に講じようとする
施策に再々検討を加え、早急に少なくも来たるべき冬までに万全の措置をとるべきと
考えるが、
農林大臣のお
考えを承りたい。
水産物の輸入について、
農林大臣に
お尋ねします。
その輸入額は二百十四億円で、輸出額の二一%にすぎないが、今後も輸入の増加が見込まれるだろうと白書は述べています。輸入品目の大半は、中小漁業者の漁家経済に影響するものが多いのであります。わが党の漁業
基本法案では、「国は、水産業の安定に資するため、国内水産物と競合する外国産水産物について、関税の適正化、輸入制限その他必要な措置を講じなければならない。」としておるのであります。したがって、貿易自由化のあらしが
わが国経済の底辺にある沿岸漁民にまともにおおいかぶさってくることは必至であります。最近輸入の急増をみております魚粉、高級魚にしても、しかりであります。
農林大臣は、この沿岸漁民の貧困さを思うとき、貿易自由化あるいは国際友好の美名に迷わされることなく、
わが国の水産物の生産量と需給、また、その価格の動向により、漁家経済の安定を第一として輸入量を
決定されると
考えますが、その決意のほどを承りたいと存じます。
なお、韓国ノリの輸入については、本院の農林水産
委員会の決議もあることでありますのに、今回の日韓漁業
交渉において二億枚以上の輸入を認められておるようでありますが、その
交渉の
経緯をお聞かせいただきたいのであります。
以上御
質問申し上げた点について、誠実かつ明確な
お答えをお願いするとともに、来年度の
報告においては、階層分化の問題及び資源の問題について、避けて通る
態度を改め、科学的分析を加えるよう努力するとともに、価格の問題についても、価格の値上がりによって漁業所得が増大したと、全階層を楽観一色に塗りつぶしてしまうのでなく、階層別に見た価格の推移、及び、三十七年以来実施している沿岸漁業構造
改善事業の成果と欠陥についても
報告するよう、重ねて要望して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕