○平島敏夫君 ただいま
議題となりました
昭和四十
年度予算三案の
委員会における審査の
経過及び結果を御
報告申し上げます。
昭和四十
年度予算の内容につきましては、すでに本議場における財政演説において、田中大蔵
大臣から説明が行なわれたとおりでありますので、省略させていただきます。
これらの予算三案は、去る一月二十二日に
国会へ
提出されたものでありますが、予算
委員会におきましては、一月三十日に大蔵
大臣から提案理由の説明を聴取し、三月三日衆議院よりの送付を待って、翌四日から
質疑に入り、自来、本日まで
委員会を開くこと二十回、その間、三日間にわたり分科会、二日間にわたり公聴会を開いて、慎重に審査を進めてまいりました。以下、
質疑のおもな点につきまして、その要旨を御
報告申し上げます。
まず、外交問題では、主としてベトナム紛争の解決策、日韓交渉等に
質疑が集中されました。ベトナム問題については、「ベトナム紛争の激化は、日米安保
条約の
当事国として、日本にも重大な影響があると思うが、
政府は、ベトナム紛争に対し、どのような考えを持っているか。最近における米国の攻撃は報復の限界をこえており、日本が戦争に巻き込まれる心配がないとは言えないのではないか。
政府は、中ソの介入はないと考えているのか。米国から安保
条約による事前協議があった場合、どうするのか」等の
質疑がありましたが、これに対し、総理及び外務
大臣から、「ベトナムにおけるアメリカの行動は、南ベトナム
政府の援助の要請に
基づくものである。アメリカの北ベトナム爆撃は、北ベトナムからの浸透作戦に対する防衛的反撃であると言っており、やむを得ないものかと考えられるが、日本としては、一日も早く平和のくることを念願している。解決のためには、双方がその分を侵さないという保証が必要であり、双方不信の
現状では困難と思う。また、
わが国が何らかの呼びかけをすることも、まだ時期尚早と思う。中ソの介入については、第三者として何とも言えないが、今日までの情報では、あり得ないと思われる。米国の北ベトナム攻撃が日本の基地から行なわれるとすれば、安保
条約の事前協議の対象になるが、日本の意思に反して戦争に巻き込まれることは絶対避けたい」との答弁がありました。
また、日韓交渉につきましては、特に予算
審議中に進展をいたしましたので、そのつど交渉の内容につき
質疑が行なわれましたが、最後の総括
質疑におきましては、「専管水域を十二海里と認めたことは、領海との
関係でどうなるのか。今後他国との交渉にあたって悪例を残すことにならないか。また、李ラインにより受けた日本漁船の損害賠償を韓国の置籍船舶の請求権と相殺するのは筋が通らない。漁民に対する補償をどうするのか。民間借款の一億ドル以上を三億ドル以上としたことも、大平・金了解の逸脱ではないか。竹島問題の
処理はどうするつもりか」等の
質疑に対しまして、総理及び
関係大臣から、「十二海里は領海とは
関係なく、専管水域として認めたもので、国際先例もある。今後他国との交渉にあたっても、場合によっては話し合いに応ずることもあり得る。韓国の置籍船舶請求権は大平・金了解で消滅したと解しているので、日本漁船の損害賠償との相殺ではないが、政治的考慮からこれを放棄することによって最終的解決をはかる方針である。漁民に対する補償は別途考えたい。大平・金了解の(ハ)項は、民間の信用供与であり、具体的な
計画があれば、三億ドル以上になることも期待される。竹島問題については、国際司法裁判所に提訴することで解決のめどをつけ、一括解決としたい方針である」との答弁がありました。
第二に、経済運営の基本方針につきまして、「
政府は経済の基調を長期にわたって安定させる方向に持っていくと言っているが、中期経済
計画は依然として設備投資の比率が大きく、設備投資主導型の所得倍増
計画と基本的性格は変わっていない。これで、はたして高度成長のひずみを解消し、経済を安定的基調に持っていけるかどうか。また消費者物価については、
公共料金値上げストップの解除等による新たな段階を迎えているが、三十九
年度及び四十
年度は
政府見通しのとおり、おのおの四・八%、四・五%の上昇にとどめ得るのかどうか。さらに中期経済
計画の五カ年間においては、消費者物価の上昇率を年平均二・五%にとどめることになっているが、三十九
年度及び四十
年度における値上がり分を引けば、四十一
年度以降は年平均一%強の上昇にとどめねばならないことになるが、このようなことがはたして可能なのかどうか」等の
質疑がありましたが、これに対し、
政府から、「中期経済
計画は、経常収支における国際収支の均衡と、消費者物価の安定を基本的な政策目標としており、設備投資は過去十年間の年平均増加率の半分、個人消費支出も過去十年間の年平均増加率をわずかに上回る程度にすぎない。成長率八・一%は欧米に比べ高いとしても、生産性の上昇により経済を安定的基調に持っていけると考えている。また、消費者物価については、
公共料金値上げストップは一応解除したが、抑制の基本方針には変わりなく、生鮮食料品等も落ちついているので、三十九、四十
年度は
政府見通しのとおりおさまると思う。中期経済
計画期間の消費者物価上昇率については、
計画が決定されたとき、三十九
年度はすでにほとんど過ぎてしまっていたので、四十
年度以降の四年間において年平均二・五%の上昇にとどめたいと考えている」との答弁がありました。
第三に、減税につきましては、「四十
年度における所得税の減税額は八百二億円になっているが、所得税中心に三千億円の減税を行なうという総理の昨年七月の公約はどうなったのか。また、税制調査会の
答申における所得税の減税額は八百九十億円となっているが、どうしてこれより少なくしたのか。さらにまた、物価上昇により名目所得がふえ、その結果、増税になる分を差し引けば、実質的な減税額は、国税で百九十四億円、地方税で八十八億円にすぎないではないか。消費者米価と医療費の引き上げによる国民の負担増を考えれば約二千億円となるが、これでは、減税どころか、大衆増税ではないか。租税
特別措置についても、税制調査会の
答申は廃止が望ましいとしているのに、配当所得については、かえって強化しているが、これは一部資産家の利益を守ろうとするもので、不公平ではないか。」などの
質疑がありましたが、これに対しまして、総理及び大蔵
大臣から、「三千億円の減税と言ったのは、減税に対する姿勢を示したもので、今後ともその方向に努力することに変わりはない。所得税の減税額が税制調査会の
答申より少なくなったのは、自然増収が少なく、他にも減税すべきものがあったからで、やむを得ない。実質減税の額が少ないと言われるが、物価調整を必要とするのは所得の低い層であり、総体としての数字で論ずることは適当ではないと思う。また、消費者米価や保険医療費の値上げにより国民の負担は確かに増加するが、租税とはたてまえが違うので、同一に論ずべきではない。租税
特別措置は日本経済の長期安定につながるもので、一部の利益のためではない」との答弁がありました。
第四に、社会保障
関係費につきましては、特に医療保険財政につき
質疑が多く行なわれました。その要点は、「健康保険の赤字をめぐる紛糾の
責任は、一方的に赤字の負担を保険者・被保険者に押しつけようとする健保三法の
改正を
政府と自民党の間で決定したり、厚生
大臣の職権告示など、ルールを無視した
政府側にある。医療費九・五%引き上げを撤回して出直すべきではないか。
政府と支払い七団体側と約束した国庫負担の増額、医療の実態調査その他諸事項を、
政府は忠実に実行するか。薬価基準をさらに一・五%引き下げることによる財源は、保険財政に入れるべきではないか。また、国民健保の財政は重大な危機に立っており、保険料引き上げにも限度があり、国保返上論さえ起こっているが、国庫負担を大幅に増加する意思はないか。当面の事態収拾もさることながら、医療制度、医療保険全体を前向きに再検討すべきではないか」等でありました。これに対し
政府から、「九・五%は有沢
答申のおおむね八%に、
実施段階までの物価情勢を事務的に考慮してきめたもので、撤回は考えていない。衆議院における約束は、健保三法の
改正については社会保険
審議会の
答申を待ち、それを尊重するということである。薬価基準引き下げ一・五%は、有沢
答申以後
合理化等により生じたものであるから、これは保険財政に入れたい。医療実態調査は、
関係方面の円満なる了解のもとに
実施したい。国保の財政は悪化しているが、保険制度のたてまえ上、国庫の負担、保険料の負担、自己負担の割合はあらかじめきまっており、そのたてまえの上でまかなっていくということにならざるを得ない。緊急是正に見合う国庫負担は、前回の補正と合わせ、予算で二十七億円を計上したが、これは
地方公共団体が予算
措置をとるまでの準備期間を見るという従来の例によった。なお、今回の医療問題の紛糾を契機とし、
政府に医療制度調査会を設け、医療制度、医療保険等、全般を再検討する方針である」との答弁がありました。
第五に、文教
関係費につきましては、「
大学生急増対策は、
国立大学の増募数が少ないため、私立
大学に依存するような
計画となっているが、私大も受け入れ態勢が不十分なため思うように増募ができない。これでは
大学生の急増に対処することができないではないか。財政難にあえぐ私立
大学に対しては、低利の財政
資金を大幅に出すべきではないか」などの
質疑があり、これに対し、
政府側から「
大学の増募
計画は、今明
年度の
関係では、四十
年度に大体四ぐらいを、四十一
年度に六ぐらいを解決しようと考えていたが、三と七ぐらいの割合にせざるを得なくなったが、これはどうしても解決しなければならぬ問題であるから、今後覚悟を新たにして取っ組んでいくつもりである。私学の財政難に対しては、真剣に努力しており、四十
年度は私学振興会に対する融資を昨
年度の倍の百五十億円にふやし、うち六十四億円は急増のための施設費に充てることになっているが、今後の対策については、私学振興方策調査会を設けて検討したい」との弁答がありました。
第六に、農業政策につきましては、「所得倍増
計画における自立経営農家百万戸育成をはじめ、少なくとも農業面に関する限り、所得倍増
計画は破綻したのではないか。兼業化と労働力の流出、農作物の自由化等を前にして、今後の農業政策をどう進めていこうと考えているのか。農業と他産業との格差は拡大するばかりであるが、四十
年度予算は、このような情勢に十分対処できるのか」などの
質疑がありましたが、これに対し、
政府側から「自立経営農家の十年間百万戸育成の目標が達成困難になったことは率直に認める。中期経済
計画においては、これを所得の面からとらえ、六十万円以上の農業所得を得られる農家というふうに、自立経営農家に対する把握のしかたを変えているが、しかし、経営
規模拡大の方向は変わっていない。兼業化、労働人口の流出等の状況に対しては、一方において協業を促進するとともに、他方、社会保障、地域開発等によって、安定的職場の確保に努力したい。四十
年度の農林予算は、社会開発の観点から特に重点を置いて編成したものであり、食管会計繰り入れ等を除いた予算額では、予算全体の伸び率をはるかに上回っている」との答弁がありました。
第七に、中小企業対策については、「過去一年間における中小企業のおびただしい倒産については、
政府の政策の誤りにその基本的な原因があったのではないか。中小企業対策費は、
一般会計予算のわずか〇・六%にしかすぎない。これではあまりにも少なすぎるではないか」等の
質疑がありましたが、これに対しましては、
政府から「昨年一年間の倒産件数は四千二百十二件、負債総額は四千六百三十一億円であるが、この原因は、生産性の低いこと等の構造的な要因と景気調整とが重なったためである。中小企業対策は、一般会計における対策費だけで律せらるべきものではなく、むしろ、税制と金融を主としたものであり、この三面を合わせ考えなければならぬ」との答弁がありました。
第八に、地方財政につきましては、「
政府は地方財政悪化のおもな原因として人件費の
増大をあげているが、決算の実績を見ると、歳出中に占める人件費の割合は変わっていない。赤字の原因は、委任事務を含む地方の事務に対する国の財源
措置が不十分な点にあるのではないか。
地方交付税率〇・六%の引き上げで、はたして地方行政水準の維持ができると考えているか。地方における超過負担の
現状並びにその対策はどうか」等の
質疑がありました。これに対しまして、
政府側から「いままでは人件費の構成比は横ばいで推移してきたが、財源の伸びが鈍化する今後においては、人件費の比重は変わってくると思われるので、この際、地方財政の健全化に乗り出さざるを得ない。
交付税率の〇・六%引き上げは、これで十分だとは思わないが、国の財政も非常に苦しい状況のもとでは、この程度でやむを得なかった。超過負担の額は、一般会計、特別会計を合わせて八百六十三億円に上っているが、この数年来、補助単価を実情に合うよう是正するなどの
措置により、できるだけこれを解消していく方向で努力してきたし、今後も努力してまいりたい」との答弁がありました。
第九に、自衛隊の統合防衛図上研究が問題になりましたが、これについては、「三十八年に行なわれた自衛隊の三矢研究には、海外派兵、核兵器の持ち込み、国家総動員等の事項について記述されており、憲法、自衛隊法に違反する疑いがあるが、事実を明らかにするため、これを資料として
提出すべきではないか」との
質疑がありましたが、これに対しまして、
政府から、「自衛隊の図上研究は毎年行なっているものであり、三矢研究は、三十八年に例年のものより少しく大
規模に行なわれた図上演習で、二十四の課題に対し幕僚たちが答えた答案を集めたものであり、これは
政府が
責任の持てるものではないので、資料として
提出することはできない」との答弁があり、三矢研究についての説明資料は
提出されましたが、三矢研究そのものは
提出されませんでした。
このほか、
質疑は、沖縄の施政権返還、中国貿易、佐藤
内閣の政治姿勢、金融政策、住宅対策、公営企業の赤字対策、海運収支の
改善対策、高速自動車道の
建設促進、ILO
条約批准の問題港湾労働対策、
公共企業体当事者能力の問題、厚生年金法の
改正、学校給食の問題等、広範にわたりましたが、その詳細は
会議録によって御承知を願いたいと存じます。
かくて、本日をもちまして
質疑を終了し、
討論に入りましたところ、
日本社会党を代表して中村委員が反対、
自由民主党を代表して日高委員が
賛成、公明党を代表して鈴木委員が反対、緑風会を代表して佐藤委員が
賛成、民主社会党を代表して向井委員が反対、日本共産党を代表して須藤委員が反対の旨、それぞれ意見を述べられました。
討論を終局し、
採決の結果、
昭和四十
年度予算三案は、多数をもって可決すべきものと決定いたしました。
以上御
報告申し上げます。(
拍手)