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国務大臣(田中角榮君) 第四十八回国会に臨み、
昭和四十年度予算の御審議を求めるにあたり、その大綱を御説明いたしますとともに、
財政金融政策の
基本的な
考え方について所信を申し述べたいと存じます。
本年は、
昭和四十年代の始まる年であります。戦後二十年、新生日本は、荒廃の中から立ち上がり、急速に
経済の復興をなし遂げ、その後もたくましい
成長力をもって
発展を続けてまいりました。二十年のうち、初めの段階は、いわゆる傾斜
生産方式等によりまして窮乏
経済から脱却し、
生産及び
国民生活を戦前水準に戻すことを目ざして
努力した復興の時期でありました。それに続く段階は、
経済の拡大と
近代化を進めて、
国民総
生産が自由
世界の五指に数えられるようになった時期であり、同時に、貿易為替の自由化が次第に進み、
国際経済社会における地位が
向上してきた時代であります。
これから始まる四十年代は、
開放経済体制に本格的に移行した
わが国が、引き続き着実な
成長を続けつつ、先進
諸国に比肩し得るような質的強化をなし遂げ、
世界の繁栄にも一そう積極的な貢献をしていくべき時代であると
考えるのであります。
これに関連して、まず申し述べたいのは、
わが国が開放体制に踏み切ったことの意義を、あらためて明確に把握しておきたいということであります。
申すまでもなく、
わが国は、人口密度が高く、しかも資源に乏しいのでありますから、貿易、特に加工貿易によって国を立てなければなりません。そして、
わが国の貿易を伸ばすためには、
世界貿易が自由化され、拡大していくことが必要なのであります。近年、
世界貿易の自由化、国際
協力の緊密化は急速に進展しつつありますが、
わが国がみずからの門戸を開放することによって、この
世界の動きに伍し、これを積極的に
推進しながら、一部に残存する対日制限等の撤廃を求めていくことは、
わが国にとってきわめて重要なことであります。このように
考えてくれば、
わが国が開放体制への本格的移行に踏み切ったことは、過渡的には若干の困難を伴うとしても、結局は、前進を続ける
世界経済の中にあって、
わが国経済をさらに伸ばしていくため、みずからが選んだ道であったことは明らかでありましょう。
この開放体制への移行に伴い、
わが国は、
国際経済社会の有力な一員として活動することとなったのでありますが、
わが国が、その
国際的地位の一そうの
向上をはかっていくためには、国際的視野に立った健全な
財政金融政策の運用によって、通貨価値の安定につとめていくことはもちろん、常に
国際収支の
均衡とその
健全化に留意することが肝要となるのであります。このためには、海外市場の開拓をさらに
推進するとともに、
わが国の輸出力を一段と増強していくことが最も大切であります。近年、高度
成長の過程において、
わが国産業の輸出力は急速に強化されてまいりましたが、今後さらに輸出を伸ばしていくためには、
企業体質の
改善強化、
産業構造の高度化、
産業秩序の確立並びに
科学技術の
開発向上等について、一そうの
努力を積み重ねていかねばならないのであります。
次に申し述べたいのは、
経済合理性に徹するということであります。開放体制に移行することにより、貿易為替が自由化されることを契機として、自由な
経済原則が、
わが国経済の
運営の全面にわたって、より強く働くようになるのであります。
わが国企業が、今後、
世界市場における品質、価格の競争と
国際経済の波動に耐えて、一そうの
発展を期するためには、自由な
経済原則のもとに、効率を重んずる合理的な経営態度に徹することが最も肝要であります。いたずらに業容の拡大に走ることなく、過当な競争を排するとともに、
技術と信用の
向上をはかり、労使
協力の基調のもとに、真の競争力と抵抗力を涵養することが、みずから頼むところのあるりっぱな
企業に
成長する道であると申さねばなりません。私は、この際、
わが国の
企業が、広く国際的視野に立って、新しい
経済環境にふさわしい合理的な経営感覚を身につけ、収益を重視し、蓄積を厚くして、その質的
充実につとめられんことを、強く期待したいのであります。
以上、時あたかも
昭和四十年代を迎えた年の初めにあたり、
わが国経済の進むべき
方向と
課題について、所懐の一端を開陳した次第であります。次に、最近における内外の
経済動向について申し述べます。
昨年の
世界経済は、
米国においては一九六一年以来の拡大基調が続き、西欧
諸国においてもかなりの
成長が見られるなど、おおむね順調に推移をいたしましたが、特に
世界貿易は好調であり、その伸びは一〇%をこえているものと見込まれるのであります。しかしながら、年末に至り、英国の
国際収支改善対策、英・米・加の公定歩合
引き上げ等、注目すべき措置が相次いで行なわれました。本年の
世界経済及び
世界貿易は、昨年におけるような大幅な伸びを期待することはむずかしい状況にあり、かつ、米英の
国際収支対策をめぐる動きもあって、きびしさを加えつつあるものと思われるのであります。
一方、
わが国経済は、昨年一年にわたる調整の過程を経て、安定化に向かいつつあります。今回の調整措置は、直接には
国際収支の
均衡回復を目途としたものでありましたが、同時に、開放体制への本格的移行に備え、安定
成長の基調を
確保し、
国際経済の波動に耐え得るような、質的強化の地固めを行なうことをも意図したものであります。
調整の効果は、
経済の各分野に次第に浸透してまいりましたが、昨年秋以降、
生産の動向、設備投資の意欲、並びに
金融市場の動きなどには、おおむね平静な推移が見られるに至っており、
経済は自律的な調整過程に入ったものと思われるのであります。また、
国際収支も、輸出の好調、輸入の
落ちつきによって、その
均衡を回復しつつあります。昨年中の
わが国の輸出は、前年に比して二割以上も増加し、
国際収支改善の大きな要因となったのでありますが、これは、さきに述べたように、海外市況が好調であったことによるとともに、
わが国産業の輸出力が強化されたことにも基づくものであります。
本年の海外環境は、さきに申したとおり、きびしさを増すことが予想せられますが、
世界の
経済と貿易は、全体としては、なお着実な拡大を続けるものと思われるのであります。また、
わが国の輸出力は、ここ数年の
近代化、
合理化投資の成果に基づいて、年を追って強化されていくものと
考えられ、さらに今回の調整過程を経て、輸出意欲が増進されつつあるのであります。したがって、本年も、輸出を大きく伸ばし、貿易収支の黒字
確保を中心として
国際収支の
均衡をはかることは、一そうの
努力を前提とするならば、十分可能であると
考えるのであります。
このような
情勢にかんがみ、昨年十二月の預金準備率の引き下げに続いて、去る一月九日には公定歩合の一厘引き下げが実施されました。今後、
わが国経済は、落ちついた歩みの中で次第に明るさを増していくことが期待されますが、
政府といたしましては、この際、過度の安易感によって再び
経済に行き過ぎが生ずることのないよう、
財政面における健全
均衡方針の堅持と相まって、
金融政策においても、なお引き続き慎重かつ機動的な
運営を行ない、内外の
経済動向の推移に備える
所存であります。
さて、今回の予算編成にあたりましては、きびしい
国際経済環境の中で、通貨価値の維持と
国際収支の
均衡を
確保し、
わが国経済の長期にわたる安定
成長の路線を固めることを主眼といたしました。このため、
財政面から
経済を刺激することのないよう、引き続き
健全均衡財政の
方針を堅持するとともに、極力予算規模の圧縮をはかることといたしましたが、その際、特に意を用いたのは、次の諸点であります。
まず、安定
成長を前提とする以上、従来のような大幅な租税の自然増収を期待することはできず、他面、歳出増加の要求は依然として強く、
国民の要望である減税を行なうことには、かなりの困難があったのであります。しかし、種々くふうをこらすことによりまして、広く、
国民一般の租
税負担を
軽減するため、平年度一千二百億円をこえる
一般的減税を行ないますほか、当面の要請にこたえ、貯蓄の増強、
資本市場の育成等のため、政策的減税をも実施することとしたのであります。
私は、常々
財政事情の許す限り減税を行なうことが必要であると
考えているのであります。本格的減税の始まった
昭和二十五年度以降の国税の平年度減税額を単純に合計しましても、約一兆二千億円になり、しかも、そのうちの八〇%余は、
国民に最も関係の深い
所得税であったのであります。この減税が、
国民生活の
安定向上、
経済の
発展に与えた効果は、まことに大きなものがあったと思うのであります。(
拍手)
次に、歳出の面では、
わが国経済の長期にわたる
成長の基盤をつちかい、
国民生活の
向上発展に資する分野には、できる限りの
配慮を加えることといたしました。特に、
国民生活の
向上とその環境の
整備、低
生産性部門の
近代化、
地域格差の解消、
過密都市対策の促進等、
社会開発を
推進する重要
施策を積極的に展開し、
社会・
経済の各分野、各
地域にわたり、
均衡のとれた
発展、
開発を期することをもって
基本としたのであります。
なお、歳出に関しましては、この際、
財政需要の充足状況を勘案しつつ、その
合理化と重点化を一段と
推進することといたしました。このため、既定経費につきましても、その内容と効果を再検討して、非効率的な補助金の整理
合理化など、一そうその節減につとめるとともに、新規の経費は、特に重要かつ緊急なものに限定することとしたのであります。
私は、今後とも、
財政支出の対象が漫然と増大し、
財政に過度に依存する傾向が広がっていくことは避けなければならないと
考えております。したがって、
財政支出の対象とするについては、それが、個人や
企業など、私
経済の責任と能力をこえるものであるかどうか、
政府で行なうことが効率的であるかどうかを、十分吟味して初めてこれを取り上げるべきものと思うのであります。
次に、
財政と
金融を一体として
運営すべきことは、私が従来から申してきたところでありますが、このような趣旨から、今回の予算編成にあたりましては、
財政投融資
計画を通じて民間資金を活用することに一そう留意いたしました。このことによって、
国民の蓄積資金の適当な部分を、
社会資本の
充実等、公共部門の
整備に振り向け、資本形成における民間部門と公共部門との調和を保つことを期した次第であります。
さて、今回提出いたしました
昭和四十年度予算について御説明いたします。
一般会計予算の総額は、歳入歳出とも三兆六千五百八十一億円でありまして、
昭和三十九年度当初予算に対し四千二十六億円、さきに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しては三千百七十六億円の増加となっております。
また、
財政投融資
計画の総額は一兆六千二百六億円でありまして、
昭和三十九年度当初
計画に対し二千八百四億円の増加となっております。
政府が
昭和四十年度において特に重点を置いて措置した重要
施策につき、その大綱を申し述べます。
まず、減税を中心とする税制改正であります。減税の
考え方につきましては、さきに申し述べたとおりでありますが、中小
所得者に重点を置いて
所得税の負担を
軽減すること、及び、
企業の
体質改善、
国際競争力の強化に資するため、
中小企業の
負担軽減に
配意しつつ、
企業課税の
軽減を行なうことにより、平年度千二百四十億円に及ぶ
一般的減税を実施するほか、貯蓄の増強、
資本市場の育成等、当面要請される諸
施策に対応する税制上の措置を講ずることとしているのであります。
すなわち、
所得税におきましては、
国民生活の安定に資するため、諸控除を相当大幅に引き上げることといたしております。この結果、たとえば、
標準世帯である夫婦及び子三人の給与
所得者の場合、
所得税を課されない限度は、現在の約四十八万五千円から約五十六万四千円となり、中小
所得者の負担は相当程度
軽減されることとなります。
法人税におきましては、本格的な開放体制への移行に対処し、自己資本の
充実と
企業基盤の強化に資するため、法人の留保分に対する税率を、特に中小法人の負担の
軽減に重点を置いて引き下げるほか、同族会社の留保
所得課税の控除額の引き上げを行なうことといたしました。そのほか、貯蓄の増強、
資本市場の育成等、当面要請される諸
施策に対応する税制上の措置を、この際、思い切って講ずることといたしたのであります。
なお、地方税につきましても、地方
財政の苦しい実情にもかかわらず、個人
事業税の
事業主控除の引き上げ、電気ガス税の
免税点の引き上げ、その他、所要の負担の
均衡化、
合理化をかはることといたしたのであります。
また、関税率につきましても、最近の内外
経済情勢に応じ、所要の調整を行なうことといたしております。
国民経済の
均衡ある
発展を期するためには、
農林漁業及び
中小企業等、低
生産性部門の
生産性の
向上と経営基盤の拡大強化を
推進し、その
近代化、高度化をはかることが肝要であります。このため、まず、
農林漁業につきましては、
農業構造改善事業、
農業基盤
整備事業等を大幅に拡充して、
農業経営の
近代化、
生産基盤の強化をはかるとともに、新たに
農地管理事業団を創設して、自立経営農家の積極的な育成を助長することといたしたのであります。
また、
中小企業につきましては、
中小企業高度化資金等を飛躍的に拡充して、構造の高度化、経営の集団化・協業化を
推進するほか、
小規模企業共済事業団の新設、特別小口保険
制度の創設等、小規模
事業対策に特に重点を置いて予算を増額いたしております。
さらに、税制面におきましても、さきに申したとおり、
中小企業者の
税負担の
軽減に
配意いたしましたほか、予算及び
財政投融資
計画を通じ、
農林漁業及び
中小企業金融の
円滑化のため、
政府関係
金融機関等において、新規融資ワクの大幅な拡大をはかることといたしたのであります。
国民福祉の
向上をはかるため、
経済力と調和を保ちつつ
社会保障諸
施策を
推進することは、
福祉国家にとって重要な使命の一つであります。このため、
生活扶助基準の引き上げ、
福祉年金制度の
改善等を行なうとともに、低
所得階層の妊産婦・乳幼児に対するミルクの無償給付を開始して、低
所得者層に対する
施策について、その一そうの
充実を期することといたしたのであります。
医療保険につきましては、
国民健康保険の
世帯員に対する七割給付の着実な
推進をはかりますほか、既定の
方針に従い、
財政再建
対策を講じますとともに、
政府管掌健康保険等について、この
対策を円滑に実施するため、特別の補助を行なうことといたしたのであります。
恩給につきましても、民生安定の一環として、
昭和四十年十月から三カ年
計画で、恩給年額の改定等の
改善を行なうこととしております。
なお、
産業構造の変化等に即応いたしまして、
雇用対策を強化し、
労働力の流動性を高めることといたしております。
調和のとれた
国民生活と住みよい
社会を築くためには、衣食に比べ、従来立ちおくれをみせていた
住宅及び
生活環境施設を、すみやかに
整備することが当面の急務であります。
まず、
住宅につきましては、予算及び
財政投融資を大幅に増額して、
政府施策住宅建設の促進と質の
向上につとめるとともに、特に
勤労者持ち家住宅の
建設を
推進するため、
住宅供給公社の発足を予定いたしております。
また、
生活環境施設につきましては、上下水道、終末処理施設等に重点を置いて、その
整備を促進いたしますほか、
公害防止事業団を新設する等によりまして、公害
対策にも格段の
配慮を加えることといたしましたのであります。
文教を刷新して健全な
青少年の育成と
人的能力の
開発につとめるとともに、
科学技術を
振興して現下の要請にこたえることは、
政府の責務であり、従来とも最も意を用いてきたところであります。
これがため、
昭和四十年度におきましては、引き続き
教育水準の
向上と
教育環境の
整備を
推進するとともに、
父兄負担の
軽減にも
配慮を加えることにいたしました。また、
昭和四十年度以降に予想される大学志願者の急増に対しましては、国立大学の定員及び施設の拡充と私立学校
振興会に対する
財政投融資の大幅な
拡充等により、対処することといたしております。
さらに、最近の
科学技術の動向にかんがみ、原子力
平和利用、
産業公害
防止等の重要研究を
推進して、
科学技術の一そうの
向上を期することといたしました。
次に、公共投資につきましては、引き続き、
社会資本を
計画的に
整備し、
地域格差の是正につとめる等、その拡充をはかることといたしております。すなわち、道路
整備につきましては、新たに石油ガス税を創設して道路
整備財源の
充実をはかる等、道路
整備五カ年
計画の重点的かつ着実な
推進を期しております。次に、
治山治水対策及び港湾
整備につきましては、新たに
昭和四十年度を初年度とする新五カ年
計画を策定して、
事業の大幅な進捗をはかることといたしました。また、将来の航空機輸送の増大に対処して、新東京国際空港公団を設立することとしております。なお、日本国有鉄道につきまして、安全輸送の
確保と輸送力の増強をはかるため、工事規模を大幅に拡充するとともに、日本電信電話公社につきましても、電信電話施設の
整備拡充をはかることといたしました。
さらに、新
産業都市の
建設等、
地域開発の促進のため、予算及び
財政投融資の配分につき重点的に
配意するとともに、新たに新
産業都市等
建設事業に対し、特別の
財政援助を行なって、
事業の促進をはかることといたしておるのであります。
輸出の
振興等により
国際収支の
改善をはかり、また、
国際経済協力を
推進することの
重要性は、さきに述べたとおりであります。
このため、
企業課税の
軽減を行なうことにより、一般
企業の
国際競争力の強化をはかるほか、日本輸出入銀行を通ずる輸出
金融を大幅に拡充いたしますとともに、日本貿易
振興会等の
事業活動を強化すること等によりまして、一段と輸出の伸長を期することとしておるのであります。同時に、貿易外収支については、
外航船舶建造量の大幅な増加等をはかって、その
改善に資することといたしました。また、海外
経済協力基金に対し追加出資を行なう等、
経済協力体制の
整備充実につとめることとしております。
以上のほか、流動する
国際情勢に対応して外交活動の強化
充実をはかりますとともに、国力に応じた防衛力の自主的かつ
計画的な
整備につとめることといたしました。
また、法秩序の維持と交通安全の
確保に資するため、司法活動の強化、警察力の
充実等につきましても、相当の
配慮を加えておるのであります。
地方
財政は、しばらく良好な推移をたどってまいりましたが、最近、地方税収入等の伸びの鈍化、人件費等、経常的経費の増加等、悪化の傾向が見られるのであります。これが
改善は、歳出増加を極力抑制するなど、本来地方団体自身の
努力にまつべきものでありますが、国といたしましても、困難な財源事情にかかわらず、今後における地方
財政の一そうの
健全化をはかる見地から、今回特に地方交付税の率を現行の二八・九%から二九・五%に引き上げることといたしました。これにより、地方債の増額等と相まって、地方の行政水準と
住民福祉の一そうの
向上が期待される次第であります。
財政投融資につきましては、以上それぞれの項目においても触れたところでありますが、
計画の策定にあたりましては、
住宅の
建設及び
生活環境施設の
整備、
農林漁業及び
中小企業関係
金融の
充実に重点を置くとともに、輸出の
振興及び道路、鉄道等、
社会資本の強化等にも特に
配意いたしております。
次に、今後の
金融政策について申し述べます。
過去一年にわたる調整の過程を通じて、行き過ぎた
企業規模の拡大は必ずしも収益の
向上をもたらすものではないということが、広く
経済界に認識されつつあります。
企業の側にあっては、経営の重点を量的拡大から質的
充実に移して、資金需要を適正化しつつ、その体質の
改善を一そう
推進することを切望してやみません。
金融の側においても、過去の
金融緩和期に見られたように、積極的な貸し進みによってせっかく
落ちつきをみている
経済の基調をくずすことのないよう、慎重かつ堅実な融資態度を固めることを期待するものであります。
政府といたしましても、このように
金融情勢が落ちついていくことを見きわめつつ、
金融の
正常化の条件を順次整えてまいりたい
所存であります。
長期資金の
確保によって
企業の資本構成を是正することは、今日の急務であり、このため、貯蓄の増強と
資本市場育成をはかることの
重要性は、一そう高まりつつあります。この見地から、
政府といたしましては、今回、
企業及び投資家に対する一連の税制上の
施策を実施することとしておりますが、今後とも、
資本市場を拡大強化するため、公社債市場の育成、証券
金融の
拡充等、各般の
施策を積極的に
推進していく
所存であります。
なお、
資本市場の健全な
発展が、
企業、投資家及び証券業者の、それぞれの立場における、
努力とくふうにまつものであることは申すまでもないところでありますが、特に、証券業界の
体質改善とその機能強化が今日ほど急がれているときはありません。
政府といたしましても、証券業の登録制を免許制に切りかえて、その経営基盤と信用の強化をはかる等、所要の措置を講ずる
所存であります。
国際経済面におきましては、かねてより各国間に検討が進められている国際流動性問題は、先般のIMF・世銀の東京総会において、IMFの増資に関する決議が採択されたことを契機として、新たな進展を遂げたのであります。一方、先般来の英国の
国際収支危機に際しては、
世界の主要国は、英国のIMFからの資金引き出しにあたり、初めて一般借り入れ取りきめを発動し、また重ねて緊急借款を供与するなど、国際
金融協力はますます緊密となりつつあるのでありますが、
わが国としても、積極的にこれらの
協力に参加し、応分の寄与をいたしているのであります。
また、今日、
開発途上にある国々に対する
経済協力は、
世界経済の拡大
発展のためにますます重要となっております。
わが国としては、国連貿易
開発会議における諸決議において取り上げられているような諸問題、及び、ガットにおいて後進国貿易拡大のためにその規定と
機構を改正する問題等にも考慮を払いつつ、国力の許す範囲内で、
協力と援助を行なっていきたい
考えであります。ことに
アジア諸国は、地理的にも
経済的にも、
わが国とは最も密接な関係にありますので、援助を行なうにあたっては、これら
諸国を中心に
考えていきたいと存じます。
なお、かねて
懸案となっておりました、ガットにおける関税一括引き下げ交渉は、今般、例外品目表の提出を終わり、いよいよ本格化する運びとなっております。この一括引き下げ交渉につきましては、
世界経済の
発展と
わが国貿易の伸長という見地から、
わが国としては、かねて積極的に参加する態度をとってきたのでありますが、今後もできる限りこれに
協力していきたいと
考えております。もちろん交渉にあたっては、国内
産業に対する影響に十分
配慮するとともに、
わが国の受ける
利益と相手国に与える
利益の
均衡を
確保するよう留意する
所存であります。
以上、
財政金融政策の
基本的な
考え方と予算の大綱を御説明いたしました。
初めに述べましたとおり、本年に始まる
昭和四十年代は、
わが国が
国際経済社会の主要な一員として、さらに
経済力の
充実進展をはかり、
世界の繁栄にも一そう積極的な貢献をしていくべき時期であります。
日本国民が、この際、
決意を新たにし、戦後二十年にわたる
経済発展の成果とそれに基づく自信の上に立って真剣な
努力を続けるならば、
経済の一そうの
成長、及び、それと調和のとれた豊かな
社会の
建設は、必ず実現されるものと確信する次第であります。(
拍手)