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参考人(
前田信二郎君) 近畿大学の前田でございます。
京都府の売春対策協議会の会長をやらせていただきまして、長い間売春問題に、それだけじゃございませんけれども、つき合ってきたわけでございますが.この間なくなった近大総長の世耕さんが、「春情」という本を出しまして、
売春防止法は必ず失敗すると言ったようでございます。それ以来、元総長とあまり仲がよくなくなりまして、売春問題が学校の中にまで持ち込まれてはいけないと思ったのですが……。(笑声)ところが、
売春防止法というものが効果があったということは、これは赤線をなくした、公認の売春制度がなくなったという意味で大きな
意義がある。むしろこれは人身売買禁止法としての性格を強く出そうというのがわれわれの当初の考え方でございましたのですが、何と申しましても、
売春防止法というものが旧赤線を
対象にしたので、現在は
社会適応性がなくなってきた。業者から暴力団に業態が肩がわりし、しかも組織暴力団による組織売春と管理売春というものが潜在化しておったものが若干形をかえてあらわにあらわれてきた、こういう
段階で、ざる法といわれた
売春防止法の
改正がやはり必要になってくると思われます。ただ、売春問題に対してわれわれ男性はあまり関心がないし、おまえなぞ男性の敵だなどと言われて困っておるのですけれども、(笑声)ざる法であるというが、
売春防止法ができたら売春が全部なくなってしまうというようなことは、一部の人は考えるかもしれませんけれども、かりに
刑法ができたら犯罪が全部なくなってしまうというようなばかなことはフォイエルバッハ以外あるいは瀧川さん以外は考えないのじゃないかと思うのです。事実、選挙法があったって、選挙違反はなくならない。(笑声)ある限り違反が出てくる。
法律というのはざる法だということを、いやというほど
法律をやっております自分としては感じます。
そこで、お二人の
参考人の方からいろいろと御意見が出たのですが、
法律の立場から総論と各論に分けてお話し申し上げたいと思うのですが、これは
売春防止法であって禁止法または処罰法でないという
松原先生の意見、そのとおりでございます。禁止法でないという意味は、売春婦を保護更生せしめるという一つの大きな線と、それから業者、ポン引き、ヒモというようなものを規制するという二つの問題で、ちょうど、この行き方は、御存じのように、少年法に非常によく似ております。少年は、一応
原則として保護処分にする。重い場合には刑事処分にする。しかし、おとなたちあるいは不良環境等によって少年が非行を犯した場合には、おとなや不良な環境を少年法または青少年条例等によりまして規制していくという二通りございます。ですから、
売春防止法の
改正は、あくまでも少年法と同じような形で、
社会の犠牲者である者をさらに
法律特に刑罰の犠牲者にしてはならないというふうに思いますので、その線を守っていきたいと思います。
つまり、売春
事犯として考えられますのには、四つのタイプがございまして、私の考えます四つの類型は、まず、売春のじか引き犯という売春婦それ自体の
行為、売春の実行
行為。それから周旋犯、とれがポン引きであります。それから名前はおかしいですが、情義犯、これがヒモに該当いたします。それから管理犯といたしまして、これは業者でございますが、管理売春、この四つがございます。このうちの一番最初の売春婦のじか引き
行為、売春
行為というものは五条違反になりますのですが、これは一応
原則といたしまして、六ヵ月の刑罰の
執行猶予のその代用制度といたしまして補導処分を持つわけでございます。だから、補導処分という一種の保安処分的な性格、これは少年法の場合と同じような保護処分になりますが、これに重点を置いて、この点を曲げますと、せっかくの
売春防止法が売春処罰法になってしまって、いわゆるマッカーサーが考えておったような人身売買禁止という線から少しずれてくるのじゃないか、まずそういうふうに思います。
それから組織暴力団の制圧によりまして、暴力団の資金源の断ち切り、遮断ということによって、いまのところ、賭博、パチンコ、それから興行、債権取り立て、その他いろいろございますが、売春が、案外売春業というものが表看板でないだけに、バーとかクラブとかキャバレー、そういうところでの売春というものがある
程度公然と行なわれておる。これもやはり暴力団
関係の企業といたしまして相当資金源になっておるわけでありますが、最近の警察当局の頂上作戦あるいは底辺作戦によって組織暴力団の制圧が効果を奏してきて、だんだんと売春の問題もむずかしくなってきた、こういうふうなことになるわけです。
そこで、もう一度繰り返しますと、売春をやるというものと、それから売春をやらせるという
関係と、この二つがごっちゃにされているのじゃないか。売春をするという実行
行為というものが、この
売春防止法のどこをさがしましても処罰されておりませんね。ふとんの中まで
刑法が立ち入ることはできないと申しますけれども、立ち入り
調査、これは捜査の問題の刑事訴訟的な問題であるのか、あるいは、単に警察行政
行為としての立ち入りなのかという点で警職法との
関係で問題がありますので、犯罪でいえば窃盗なら窃盗した者はつかまりますけれども、売春
行為自体という現場はなかなか押えられない。だから、要するに、予備または未遂の
段階で第五条で勧誘
行為が処罰されております。予備でございますね。「ちょっとにいさん、いらっしゃい」と呼ぶ。だから予備
行為というわけにはいきませんけれども、(笑声)いわゆる予備で、そこで押えればいいわけなんですね。だから、これは結局実行という形に結びついてきます。何となれば、最近の東京都の都条例、それからそのほかの青少年条例を見ましても、あるいは迷惑防止条例等を勘案いたしましても、売春のチラシなどを配るという
行為、これは、売春を処罰しないのに、チラシだけ配る
行為は予備
段階だから、これだけ処罰するのはいかぬじゃないかという意見がございますけれども、これ自身は独立した
社会的な犯罪です。売春
行為というのはやはり個人的な非行なんですね。その点がごっちゃにされやすいというわけです。
時間の
関係で、総論はそれくらいにいたしまして、各論に入る前に、何でも処罰すればことがおさまるという応報刑主義というものは私は瀧川さんと意見が違うのですけれども、
裁判官が
有罪の判決をしてどっかにほうり込んでしまえばおしまいだというのでは、現在の
社会問題としての売春はなくならない。だから、処罰するよりも、何とか更生させていこうというような考え方が、これは長い努力でございますけれども、これは
国民の義務でもあると思うのです。
社会環境、衛生、
社会福祉、そういったものの関連がありまして、刑罰よりも、むしろ更生保護、法務省の問題よりも、むしろ文部省だの、労働省だの、厚生省だの、その辺の管轄の問題として大きな
意義があると思うのです。
さて、議題に戻りまして、本日出されました
売春防止法の一部を
改正する
法律でございますが、私はいろいろいままで
裁判官なり検察官なりと話し合って考えたのですが、申し込みをするという男のほう、それから単純売春、第五条にあらわれてきます単純売春処罰論、これは、先ほど申しましたように、女の子というのは処罰してはいけないので、少年法と同じように、
原則として、要するに、
有罪をもってしても、六ヵ月の
有罪判決、
執行猶予期間を含めて補導処分に付する。だから、あとで申し上げますが、
執行猶予期間中であるならば補導処分の期間を更新することができるというふうに考えるわけなんで、これは問題にはならないかと思うのですが、ただ、単純売春を処罰するということが特に女性側から多いという意見が不思議なんです。北と南と同じベトナムみたいなものですけれども、どうも婦人
団体、地域婦人会なんかから見ますと、単純売春は汚らわしいから、彼女たちの陥った経過というのは御存じなくて、とにかくめかけとか売春婦が憎いというのは女性の本能かもしれませんけれども、そういう御意見は間違っておると思います。やはり、単純売春というものが、第五条違反でやっていける、いま申しましたような理論からやっていける。それに、単純売春を警察のほうでやかましくいうのは、これはヒモやポン引きなどの、さっき申しましたじか引き犯、情義犯、管理犯、それの捜査のきっかけにしようというような形でやられますと、婦人相談所へ行くような女の子がすぐ捕えられちゃって、婦人相談所ががらあきになって、更生保護ができなくて、要するに警察でしぼられてくる。出てくるのはたいていIQの低い者ばかり。賢い者はつかまりません。ばかですから、つかまっても、「あら、ちっとも知らなかったわ」といったようなことになっておる。証言をとったって、IQが低いですから、ちょいちょい証言は変わります。これは業者としては作戦がうまいです。知能の低いのをつかまらしていくら調べたって、供述に矛盾がしょっちゅう出てきます。それで法廷がひっくり返っちゃうというわけで、実際の法廷作戦などを考えましても、単純売春処罰論というのは実益がないと思うのです。
それから申し込みでございますが、申し込みの立証をお考えになったかどうか。私何も男性の味方だから申し込みの側のほうに回るのではない。(笑声)一身上の弁明をしておきますけれども、申し込みの立証をどうするのか。これは物証があがらないのです。申し込みをしたということをテープレコーダーか何かでとって、申し込んだじゃないかと。そうすれば、これはどうしても人証でいって、売春
事犯がこうした形であとで申しますようにどんどん検挙されてきますと、
参考人だけでいいのです。検察庁で、
参考人でも、しまった――悪かったとは思いませんが、しまったと思う。良心の苛責にたえられないというのではありません、そんなことは。悪かったというようなことは決して思いません、男は。しまった、まずかったなと思います。だから、このまずかったというのは、やはり
社会人ですから、これで会社に知れる、官庁ですと汚職になりはしないかな、これは首があぶないから売春をやめておこう、こうなりますから、
参考人でけっこうなんです。
処罰へ持ってくるとなりますと、私少しおかしいと思うのは、両罰
規定になると、やはり売春処罰法になるおそれがある。売買というのは、売るほうがプロなんです。買うほうはノンプロなんです。だから、プロとノンプロを同じます目にかけて両罰するというのは少しおかしい。警察のほうでも、これは婦人警官が多ければあるいはあれですけれども、大体、申し込みの相手方というものはいろいろな
事情がありますから、そうだな、君、ほとんどのやつがやっておるのだからいいだろうというふうに、警察でも調書さえとればおそらく泳がしちゃうと思うのです。そういうことにもなりますし、
裁判所でも、人証でございますから、物証があがらないから、巧妙な弁護士にひっかかったら無罪になっちゃう。むだ足を踏みます。ですから、プロのほうは残して、ノンプロの申し込みのほうは、一応売春
事犯五条違反、六条違反の
参考人として呼び出すだけで十分だ。私は
刑法を教えていますけれども、刑罰というものは私はあまり好きじゃございませんけれども、やはり、改心させ、女を買うことはよくないのだ、かあちゃん一人でがまんしろ、こういうような足を大地に密着した常識論でもって解決したい。かりに私でも、処罰されるよりも、やはり
参考人として呼び出されたらぎくっとすると思うのです。それは男性の諸君は皆さん同じだと思う。両罰
規定というものは、これはちょっと無理じゃないか、こういうふうに思います。
それからその次に、「第七条第一項及び第八条第二項中「親族
関係」を「親族、
業務、雇用その他の特殊な
関係」に改める。」というのがございます。「親族、
業務、雇用」と、そこまではいいのですが、「その他の特殊な
関係」というのは
法律用語ではございません。僕と君とは特殊な
関係だと言ったらどういうことか。検察官が起訴状を書くときに、特殊な
関係ということを書きますと、弁護人というものは、「特殊な
関係とは何か、検事立証してくれたまえ」と言うだろう。特殊な
関係とはいろいろあります。セックスだけの
関係じゃございませんから。だから、これを、「親族、
業務、雇用」というふうなものとあわせまして、いまこちらからいろいろデータが出されたわけでございますから、重なるようでございますが、「身分または契約
関係」というふうにしたほうがいい。正式な親族
関係、あるいは正式な
業務、雇用
関係、こういったものでない、半契約的な、半就業的な、そういうふうな売春ですね、バーのホステスで、借金を取り立てに行ったら、借金を払ってくれないで、ややこしいからセックスを売ってしまう、そんな場合でもこれに該当できるような形で、「特殊な
関係」というものははずしていただいて、「身分または契約
関係」というふうなばく然とした形で出しますといいのじゃないかと思います。
それからその次は、第十二条中「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせること」という
現行法の条文を、
改正案は、「いかなる方法によるを問わず、人に売春をさせること」に改める。これはべらぼうな
法律でございます。「いかなる方法によるを問わず、」これを
法律文言としたら、世界に名を恥じますね、日本人というのは。警察のほうはいいかもしれませんけれども、これは
過失犯も入っちゃう、へたしますと。うっかりしておって、知らない間に売春婦を……これはいけません。結局、
裁判所の
裁判官に聞きますと、「管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、」という「居住」というものの立証が非常にむずかしい。コール・ガール制度などあったり、あるいは街頭ガールですか、昔の銀座のステッキ・ガールとはだいぶ趣が違いますけれども、居住の立証がむずかしかったわけでございます。だから、私は、簡単に、ここの「場所におらせ、」ということばに一字だけ変える。そうしますと、「いかなる方法によるを問わず、」というようなべらぼうなことを言わなくても、おらせるという立証があれば、それは
裁判所でも認定しやすいし、警察でも検察庁でも非常に楽になるのじゃないかと思います。これはつまり管理売春の問題でございますが、重ねて申しますと、「いかなる方法によるを問わず、」というふうなべらぼうな幅の広いばく然たるものは、これはやはり法の明確性――管理売春
行為という
行為のつまり違法性の明確な表示にはずれますから、この法案は憲
法違反なんです。ですから、これをこんなふうにしますと、せっかくいま第七条、第八条中「親族
関係」の
改正をいたしまして、ポン引きやヒモ、特にヒモのこまかな
規定を掲げたにかかわらず、十二条で一括されてしまいます。こういうことは、もう少し立法府の議員の方も
法律を勉強していただきたいと、こう思います。失礼いたしました。
それから補導期間の問題でございますが、これは、先ほど申しましたように、私の意見といたしましては、補導処分は、刑罰の代用物じゃなくして、刑罰の
執行猶予の代用物だと思うのです。ですから、
執行猶予期間中であるならば、この補導処分の期間を更新することをやってもかまわないと、こういうことは最初からの持論でございます。たとえば、これにつきまして、西ドイツの保安処分のアルバイト・ハウス、これは労作処分と呼んでいますが、これは、初犯は二年で、再犯は四年でございます。それで、この間の
刑法学会で、刑
法改正の第一小
委員会の意見でございますが、刑
法改正草案の保安処分の
規定が非常にルーズであるので、これをもう少し検討して考えたいと。その点で、
売春防止法の補導期間を、一応
原則としまして短期六ヵ月、
長期二年、こういうふうに改められるそうでございます。一応、この案が熟して落ちつきそうで、大体西ドイツのアルバイト・ハウスと同じ期間をやる。
長期二年というならば、一応、生活指導、職業補導、それから病気、それから男性禁断症状と申しますか、男がいないと寝られないという、男中毒といいますか、それもなおるだろう。こう思います。ただ、この場合には、補導処分が、もちろん仮退院制度などもできると思うのでございますが、こういう場合には、例のパロール・ボードと申しますか、仮退院
審査委員会というふうなものをつくりまして、
関係の機関及び学者、精神医学者が連絡をとる。現に、保護観察所だけでデータを握っちゃって、家庭
裁判所で、もちろん少年の場合に少女の売春非行もございますが、少しも
関係機関との横の連絡がないので非常に困っておる。どういう状況で更生されておるのか、ヒモがいるのかいないのか、こういうことが考えられずに、補導期間が終わってオートマチックに退院していくということはよくないというわけで、やはり仮退院も含めましてパロール・ボードというものをつくる必要があるのではないかと思います。
最後に、婦人相談所の更生保護の問題でございますが、これは京都でも三年ほど前に
事件がございまして、警察が強引に婦人相談所に送り込んで、そこで取り調べを継続したいという形で、警察の出先機関みたいな形になって、人身保護法による
事件が起こりました。私も立ち会いましたのでございますが、警察と婦人相談所との間の
関係をメカニスティックに運営するためには、やはり警察官の取り調べのところやあるいは警察署内にも婦人相談所の出張所を設けて、警察官ではなくて婦人相談員が婦人相談所に説得して連れ込んでくるというようなことも必要と思います。そのほかいろいろ問題点はございますのですが、一応いまのような形に若干改めていただきますと、
法律としての形が整い、捜査、検挙、起訴、判決、それから更生保護の実績というものがあがるのではないか、こういうふうに考えておる次第でございます。
どうも御清聴ありがとうございました。