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1965-02-02 第48回国会 参議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年二月二日(火曜日)    午前十時十六分開会     —————————————    委員異動  一月二十一日     辞任         補欠選任      中村 順造君     千葉  信君      大和 与一君     柳岡 秋夫君  一月二十九日     辞任         補欠選任      増原 恵吉君     石井  桂君     —————————————    委員長異動  一月二十九日木島義夫委員長辞任につき、そ  の補欠として石井桂君を議院において委員長に  選任した。     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         石井  桂君     理 事                 後藤 義隆君                 迫水 久常君                 稲葉 誠一君     委 員                 植木 光教君                 木島 義夫君                 鈴木 万平君                 宮澤 喜一君                 柳岡 秋夫君                 岩間 正男君                 山高しげり君    政府委員        法務省刑事局長  津田  實君        法務省人権擁護        局長       鈴木信次郎君        外務政務次官   永田 亮一君        外務大臣官房長  高野 藤吉君        外務省アジア局        長        後宮 虎郎君    事務局側        常任委員会専門        員        増本 甲吉君    説明員        外務大臣官房書        記官       奈良 賀男君        外務省アジア局        南西アジア課長  穂崎  巧君        外務省条約局法        規課長      中江 要介君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (マレーシア大使館員による人権侵犯事件に関  する件)  (受刑者の刑の執行停止に関する件)     —————————————
  2. 石井桂

    委員長石井桂君) これより法務委員会を開会いたします。  議事に先立ちまして、一言ごあいさつを申し上げたいと存じます。  このたび、私、法務委員長の御指名をお受けいたしました次第でございますが、私は、従来建設委員をつとめておりました関係上、この法務委員会のことは全くふなれでございますので、先輩の皆さま方の御指導にあずかりましてあやまちのないように期したいと存じます。何とぞ最大の御同情と御鞭撻を賜わりますようお願い申し上げまして、ごあいさつにかえる次第でございます。
  3. 木島義夫

    木島義夫君 簡単にごあいさつを申し上げたいと思います。  私、今回法務委員長を終了したのでありますが、在任中は皆さん方の非常な御指導御協力によりまして、ことに理事の諸君からは格別なお世話になりまして、大過なく任を果たすことができたのでございます。また、委員室法務省関係の方にも非常にお世話になりました。この際、あらためて御礼申し上げます。おかげをもちまして大過なく任務を果たし得たことをたいへんしあわせと存じております。  今後とも一委員として尽くしたいと考えておりますが、何ぶん御援助のほどをお願いいたします。     —————————————
  4. 石井桂

    委員長石井桂君) では、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、マレーシア大使館員による人権侵犯事件に関する調査を行ないます。稲葉君。
  5. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 きょう通告しておきましたのは、マレーシア大使館員による人権侵犯事件等に関する件としてございますが、本題に入る前に、一般的な問題、特に外交官特権と称せられるものについて概略お聞きをして、それから入っていきたいというふうに考えます。  そこで、いわゆる外交官特権というもの、これは法律的な用語ではないかもしれませんが、これはどういうふうなものなのかというところからひとつ御説明を願いたいと思います。外務省関係のどなたでもけっこうです。
  6. 中江要介

    説明員中江要介君) お答え申し上げます。  外交官特権というものは、いままで学説上もいろいろ根拠その他説がございますが、国際法の中で国際慣習法として最も確立されたものの一つというふうにいわれております。したがいまして、成文の条約その他によって新たにつくられたというものではなく、長い間の外交国際関係の中から慣習として生まれてきて、それがいまや法的拘束力を持つようになった、そういうように考えられております。  どういうわけで外交官にそういう特権免除が認められるようになったかということは、古くは、外交官というものが一つのそれぞれの国家を代表する機関であるから、したがって特権免除が認められなければならないというような考え方もございましたし、あるいは、外交官がその職務遂行する上には最小限度をその程度特権免除が必要だというような考え方から認められたというふうにもいわれますし、また、国際礼儀上の問題として、お互いに外交使節を交換している以上、相互の相手国外交官にはそれ相応の待遇をしなければならないというふうにもいわれ、いろいろそういう長い歴史的な慣行の中から徐々に確立されてきて、いまほぼ国際社会では外交官特権免除というものは法的拘束力を持つものとして確立されております。  この慣習法内容をこの際法典化しようじゃないかということで、国際連合中心となりまして、ウィーン外交関係に関する条約——この条約は国会の御承認を得まして日本加盟国になっておりますが、それによって成文化されておるわけでございますけれども、これは、いま申し上げましたように、長い間の慣習としてでき上がった外交官特権免除を成文化したものというふうに考えられておるわけでございます。
  7. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 経過はよくわかりますが、いまのウィーン条約の問題その他はあとからお聞きするわけですが、いわゆる外交官特権というものの具体的な内容ですね、これはどういうふうに分けて考えたらいいんでしょうか。
  8. 中江要介

    説明員中江要介君) これは結局ウィーン条約がそういうことで法典化しているという意味で非常によくまとまっていると思うのですが、大きく分けますと、身体財産不可侵という問題と、それから裁判管轄権からの免除という問題、それが一番中核となっているのではないかと思うのですが、もちろんその身体財産不可侵裁判管轄権からの免除というものには相関関係があるわけでございますが、そのほか税金の問題その他いろいろございますわけでございますが、一番中心となっておりますのは、外交使節についてはそういう問題があります。それからその職務遂行する上の考慮から主としてあるのだと思うのですが、外交使節の公館の不可侵という問題、あるいは文書の不可侵、通信の自由、その他こまかい問題が発生してくるわけでございますけれども、中核をなすものはそういう身体財産不可侵、それからそれとも関連がございます民事刑事裁判管轄権からの免除、そういう点があるように思います。
  9. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまのウィーン外交官会議には、日本からはどなたが参加されたのでしょうか。私は横田喜三郎さんが参加されたようにお聞きしたわけですが、参加されて、特にこの中で交通事故に関する損害賠償請求の問題、訴訟の問題、これについては、一九六一年三月−四月、この中でオランダから修正案が出ているわけですね。それがどういう修正案であって、日本側はこれに対してどういう態度をとったのか、そこら辺のところからひとつ御説明を願いたいと思います。
  10. 中江要介

    説明員中江要介君) ただいまの点について御説明申し上げますと、ウィーン外交関係条約のための会議は、これは外交会議でございますので、政府代表が出席したわけでございます。当時は、オーストリア駐在内田大使日本政府代表として参加されたわけでございます。いま御指摘横田喜三郎先生代表をされたというのは、これはこの条約草案をつくります作業を委託された国際連合国際法委員会委員として横田先生が当時委員でおられたわけであります。この国際法委員会委員と申しますのは、御承知と思いますけれども、個人の資格で参加されたものであって、したがって、横田先生は、国際法委員会委員として条約草案の作成の作業に参加された、その国際法委員会で作成された草案国際連合が妥当なものとして認めて、その草案を基礎として外交会議を招集したのがウィーン会議だと、その外交会議政府代表会議でございますので、日本政府としては当時のオーストリア駐在内田大使政府代表として派遣したと、こういうことになろうと思います。  次に、交通事故に関してオランダ修正案という問題、これはこういう修正案が提出されたと承知しております。それは、民事裁判管轄権からの免除を視定しております条項に関連して出された修正案でございますが、民事裁判管轄権からの免除は、交通事故に関する損害賠償訴訟に関する限り、この訴訟保険会社を被告として接受国裁判所へ直接に提起され得ることを条件とする、そういう修正案であります。それは外交官であるために民事裁判権から免除される。したがって、外交官を直接訴訟当時者として訴訟を提起することができないので、それにかわるものとして保険会社相手訴訟を提起し得るようにしたらどうだというような修正案だと承知しております。その修正案に対していろいろ賛否両論あったわけでありますが、その精神についてはほとんど反対する発言はなかったように聞いておりますが、ただ、それをその条約の中に成文化することにはやはりいろいろ問題かあったようでございまして、スイスは、それに対する再修正案といいますか、そのオランダの意図を含んで、運転免許証の発行と撤回に関する行政訴訟については外交官免除されない、免除例外の中にそういうものを入れてはどうかという修正を出したり、あるいは、これにはまっこう——まっこうといいますか、全然反対で、成文化すべきではないというような発言はチェッコスロバキアだとかフィンランドあたりからも出ておるようでございます。その成文化する必要はないではないかという議論は、すでにウィーン条約規定の中に民事裁判管轄権からの免除例外が列挙されておりまして、その列挙されておる事項との均衡上、交通事故に関するものだけをさらに例外として列挙するのは、条文化といいますか法典化作業として若干つり合いの問題としておかしいではないか、その気持ちはよくわかるけれども、それは別途裁判権免除放棄規定もあることであり、その外交官を派遣しておる国の政府考え方にまかしておけば足りるではないかというような議論だったように聞いております。  結局、採決になりましたときの結果は、オランダ修正案は、賛成は九票で、反対が三十七、棄権二十五ということになっております。それからスイス修正案も、賛成は四、反対三十八、棄権二十八ということで、両案とも否決されまして、結局、ウィーン条約の中には入るに至らなかったわけであります。  そのときに日本代表がどういう投票をしましたかという点につきましては、ちょっと私よく調べておりませんので、はっきり申し上げられないので残念でございますけれども、いずれも調べましてお答えさしていただきたいと思います。
  11. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 日本代表がどういう投票をしたかということをそれだけ聞けばいいわけなんで、これはそれが調べてないのは——調べてないものをいま答えろと言っても無理なんですが、その資料には書いてないのですか。
  12. 中江要介

    説明員中江要介君) ちょっとこれには出ておりませんのですが、当時の議事録を……
  13. 石井桂

    委員長石井桂君) 中江さんにちょっと御注意しますが、発言するときには委員長の許可を求めてください。
  14. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それじゃ、いま質問しているうちに連絡して調べてくれませんか。すぐわかると思いますから。  そのあとで、これは否決されたけれども、イギリスの代表から、こういうような交通事故の場合には派遣国外交官裁判権免除放棄するように勧告する決議を採用したらいいじゃないかと、こういう意見が出てきて、イスラエルから決議案が提出された。それで、これはまあ義務的な性質のものではなくて、道徳的義務を設けるにすぎないというふうな意味だと、こう思いますが、そういうような形でイスラエルから決議案が提出されたはずですね。この結果はどうなったんですか。これは、賛成五十で、反対が二かな、棄権が十八ということで可決されたわけですが、日本はこれに対してどういう態度をとったんですか。
  15. 中江要介

    説明員中江要介君) ただいまの民事請求権放棄に関する決議は、まず御参考までに全文を読んでみますと、「民事請求権審議」という名前がつけられておりますが、「外交関係及び特権免除に関する国際連合会議は、会議で採択された外交関係に関するウィーン条約が、派遣国外交使節団構成員に対し接受国裁判管轄権からの免除を定めていることに注目し、前記の免除派遣国により放棄されうるものであることを想起し、さらに、同免除の目的が個人に利益を与えることにあるのではなく、外交使節団任務の能率的な遂行を確保することにあると条約の前文で述べていることを想起し、外交特権に基づく免除の主張は、若干の場合においては、接受国にある者が法律により受けることができる救済をその者から奪うものであるとの会議審議中に表明された憂慮に留意して、派遣国は、自国外交使節団任務遂行が妨げられないときは、接受国にある者の民事請求権について自国外交使節団構成員免除放棄するよう、また、免除放棄されないときは、同請求権の正当な解決をもたらすことに最善の努力を払うよう勧告する。」「千九百六十一年四月十四日第十二回全体会議」「で採択された決議」、こういうふうになっております。この決議にはもちろん日本賛成しておるというふうに聞いております。
  16. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 もちろん賛成しているように聞いているというんじゃなくて、これは反対が二だから、おそらく賛成したんだろうと思いますが、その点をはっきり調べていただけませんか。ぼくはウィーン条約のことを中心に質問するというふうに言っておいたものですから、そこまであなたのほうで調べが十分でなかったのかもしれませんけれども、具体的にいうと、いまのこれは「民事請求権審議」に関する決議となっておりますが、外交官交通事故を起こした場合のことに関連をしてこの決議が出てきたわけじゃないですか。形は民事請求権となっておりますけれども、本旨は外交官交通事故を起こした場合の問題なんじゃないですか。
  17. 中江要介

    説明員中江要介君) ただいま稲葉先生の御指摘のとおりでございます。
  18. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ここまでお聞きしていきまして、それで問題に入っていきたいと思いますが、去年の二月十七日の午後九時四十分ごろに、東京都内文京区の駒込上冨士前町七十三番地先において、駐日のマレーシア大使館員の二等書記官ウォルター・Tアヤトリですか、この人の乗っていた自動車が早稲田大学三年生吉野順博君をひき殺したということですが、この事故関連をして、外務省としてはどういうふうなことからこの事故が起きたのだというふうに実情を把握されているのか、そこら辺のところからお聞きしたいと思います。これは政務次官でもどなたでも……。
  19. 永田亮一

    政府委員永田亮一君) 吉野順博君御一家皆さまのこの事件に関する御不幸に対しまして、政府といたしましてもまことに御同情にたえないのでございますが、いま稲葉先生から御指摘のありましたおりに、昨年の二月の十七日に、文京区の上富士前町におきましてアヤトリ二等書記官使用車にはねられまして、不幸吉野さんを死に至らしめたということは、まことに御同情にたえず、また遺憾でございます。外務省といたしましても、さっそくマレーシア大使館に対しまして、これは先ほど来御議論もございました外交上の特権であるとか免除であるとかそういうことば別としましても、人道上の問題といたしまして、何とか善処するようにということを申し入れておったのでございます。一時、御遺族の方々アヤトリ書記官それから保険会社のほうとの間の話し合いにおきまして、陳謝の問題あるいは補償の問題、こういうものの話し合いが進んでおったのでありまするが、不幸にしてただいまは中絶をした形になっております。しかし、外務省といたしましても、できるだけすみやかにこの解決のために御納得のいく解決を望みまして、あっせんにこれつとめている次第であります。  なお、事件経過の詳細につきましては、儀典室のほうから御説明をさせていただきたいと思います。
  20. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) ただいま稲葉先生が御質問されておりまする、事件直後に外務省はどういう把握のしかたをしたかということでございますけれども、事件は昨年の二月十七日夜起こりまして、一日おきまして十九日にマレーシア大使館から外務省あて口上書を受領いたしました。その中で、自分の館員がこういう状況のもとに事故を起こしたという詳細が述べられておりまして、それから二月の二十日に、警視庁外事課長から、警察立場から調べた事件の概要が外務省に接到しておるわけでございます。
  21. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま外務政務次官が言われた、マレーシア大使館に対して善処をするように申し入れたということですが、これは抽象論としてはそのとおりだと思います。具体的にはどういうことですか。ただ善処するようにということだけでは私は話がわからないと思うのですが、その点はどうなんですか。
  22. 永田亮一

    政府委員永田亮一君) それは、いま儀典室のほうから経過の御説明をいたしましたが、この事件が起きたときの状態について警視庁のほうから、また、マレーシア大使館のほうから外務省あて口上書が参りましたので、それに従いまして、外務省のほうから、これは少し後になりましたが、六月の三十日でございます、儀典長からマレーシア大使館カウという書記官を招致いたしまして、そうして、先ほど申しましたような法律上あるいは外交官特権がどうであるとか免除がどうであるとかということにこだわらずに、人道上の問題としてマレーシア大使館が誠意をもって自動車保険会社その他に対して強くあっせんをしてもらいたい、こういうことを申し述べたのでございます。
  23. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはそれとしてまたお聞きしますが、いま、マレーシア大使館から二月十九日に口上書が届いたということですが、その「こういう状況のもとに事故を起こした」というこういう状況というのはどういうふうにマレーシア大使館側では説明をしているわけですか。それが一つと、それから二月二十日に、警視庁ですか、外事課長から、警察立場から調べたものが届いたというのですが、それは具体的にどういう内容ですか。それと、マレーシア大使館のほうからの口上書日本警察が調べたものとの間に違いがあるのか違いがないのか、この点はどうなんですか。質問を三つに分けますが。
  24. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) マレーシア大使館口上書最初のほうは、その事実、すなわち、二月十七日の九時四十分に大使館の一館員アヤトリという館員上富士町の道路の交差点の交通事故に巻き込まれたということを——巻き込まれたというのは英語の言い回しでございまして、その事件を起こしたということ。その説明が第二段に掲げてございまして、アヤトリ書記官は、大使の公邸における夕食会の帰途、ちょうどその事件現場道路に差しかかった。車のヘッドライトは完全につけておったけれども、道路の街灯はきわめて薄暗い状態だった。大使館の知ったところでは、被害者たる吉野順博さんは突然暗やみの中から——ショット・アウトということばを使っていますから、飛び出すと訳して適当だと思いますけれども——飛び出された。直ちに警察とそれから救急車が呼はれ、大使館館員——これは大使館カウという書記官サイードという館員も含めた大使館側館員——は、警察とそれから救急車を呼び、そのあと処置最大努力をしたと、概略そういった事情が大使館からの口上書に付されております……
  25. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで一たん切ってください。いまのことばが、その口上書の中にあるアヤトリ二等書記官交通事故に巻き込まれたということは、英語で言うと、何と言っているのですか。
  26. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 「ザ・エンバシー・オブ・マレーシア・ハズ・オナー・ツー・インフォーム」と言って、そのあとです。その二月十七日の日に、「ア・メンバー・オブ・ザ・スタッフ・オブ・エンバシー・ミスター・アヤトリ・ウォズ・インボルブド・アクシデント・アット・ロード・ジャンクション・アット・カミフジチョウ」と、こういうふうに言っております。
  27. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 あくまであれですね、ウォズ・インボルブドというような形で、受け身な形ですね。巻き込まれたという形でトーキング・べ一パーはできているわけなんですか。受け身なんですね。これはパッシブな形ですね。そうとっていいんですか。
  28. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) この交通事故一つの客観的な事実として、アヤトリ書記官がその加害者でありますけれども、その交通事故当事者だったというような意味からこういう「ウォズ・インボルブド・アクシデント」という使い方をしたと思いますが、私の最初に申し上げた訳のしかたが適切を欠いたといえばそうかもしれません。
  29. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 このアヤトリ二等書記官が何かレセプションか何かがあって酔っぱらっていた、酒を飲んでいたという点は、それはそのトーキング・ペーパーには出ていないんですか。
  30. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 出ておりません。
  31. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それからこれは吉野君が歩いていたところをうしろから追突したのじゃないですか。その点は追突ではないと、こう言っているわけですか。
  32. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 大使館からの口上書では、そういうニュアンスは出ておりません。
  33. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それから警察救急車を呼んで何か最大努力をしたというんですけれども、だれがそういうような努力をしたというんですか。そのアヤトリ二等書記官なりそこにいたカウとかサイードとかという人がそういう努力をしたと、こういう意味ですか。
  34. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 「エンバシー・オフィッシャルズ・インクルーディング・カウ」それから「サイード」、こういうふうに書いてありますので、アヤトリ書記官カウ書記官サイード雇員、こういう方々警察を呼んだりあるいは救急車を呼んだりすること、またはその後の処置に協力したととれます。
  35. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 じゃ、警察のほうで外事第一課長警察立場から調べて外務省報告してきたと、こういうのですが、この報告内容はどういうものですか。
  36. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 「マレーシア大使館二等書記官交通事故について」という見出しのもとに、通常の警察交通事故報告書ていさいをなしておりまして、まず「発生日時」、「発生場所」、「第一当事者」、「第二当事者」−「第一当事者」は、マレーシア大使館二等書記官ウォルター・Tアヤトリ」となっております。「外交官身分証明票その他の参考事項」も含めております。  それから「第二当事者」は、被害者の学生の方でございます。  それからそのあと被害程度」が、第一が「前面ガラス破損右前部フェンダー凹損、一万円位」、第二が「死亡」。ここで被害者の方がどこどこの鵜沢外科病院前額部骨折で入院後死亡したということが書いてあります。  それから「事故状況」は、「第一当事者は外四三八二号に、日本人五名を乗せて、巣鴨方面から、駒込富士前町方向に時速三十五キロ位の速度で運転進行中、事故現場道路歩車道の区分がない)の左側を同方向に歩行していた(帰宅の途中)第二当事者に気付かず、左前部フェンダー付近で衝突し、第二当事者をボンネット上にはね上げ、さらに、左前方へ約十四米はね飛ばしたものである。なお、その際、第二当事者は、左前方のブロック塀(自宅の塀)に強く打ちつけられ、前記の傷害を負うたものである。」と、こういうぐあいに書いてあります。
  37. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは、あなた方が警察ではないし、外務省の方ですから、ちょっとお聞きするのは的をはずれているかもわかりませんけれども、そうすると、要点は、マレーシア大使館からの口上書警察からの報告書というか、それは、具体的には重要なポイントにおいてどことどこが違うのですか。
  38. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) このような事故があって、何らとがのない人が一人亡くなったということにつきましては、両方の報告書は相違しておりません。ただ、マレーシア大使館口上書は、道路が薄暗かったということ、それから被害者たる吉野さんが暗やみから突然飛び出してきたということを言っておりますのに対して、警察報告では、道路の左側を前向きに歩いている人を第一当事者うしろからはね飛ばしたというふうになっております。
  39. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 さっき、外務政務次官が、六月三十日ですか、マレーシア大使館カウという書記官を招致して、人道上の問題だからということで誠意をもって保険会社との間の話し合いなどをあっせんしたということを言われましたが、六月三十日まで二月の十七日から相当——三、四、五、六と約四カ月あるわけですが、その間に御遺族のほうから外務省に対していろいろ交渉なんかあったのじゃないのですか。その約四カ月の間の外務省のとった行動というのはどういうことなんですか。なぜこういうふうにおくれたのか、その理由はどこにあるのですか。
  40. 永田亮一

    政府委員永田亮一君) いま稲葉先生から御指摘を受けて恐縮いたしておるのでありますが、この事件の起きた直後からしばしば口頭では同じような点を申し入れております。先ほど私が申し上げましたのは、正式に覚え書きを取りかわして申し入れたということでございまして、ちょっとことばが足りませんでした。
  41. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その口頭で申し入れたというのは、これは記録があれば記録ですけれども、どの程度あるのですか。で、向こうはどういう返事をしていたのですか。
  42. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) マレーシアから当時国賓が六月ごろ来るということが、前からわかっておりまして、通常、国賓を迎える際には、三、四カ月、長くて半年前からいろいろ準備をいたします。この場合、アヤトリ書記官大使のすぐ下の地位にあられまして、まあいわば大使館側として国賓の来日に際してのプログラムとかそのほかいろいろ儀礼面の打ち合わせの責任を持っておりまして、事件が起こったあとも前もしょっちゅう外務省にはアヤトリ書記官がその仕事の問題で顔を出しておりました。そういう機会をとらえましては、こういう事件が起きたので、早くひとつ片をつけるようにわれわれとして希望するからやりましょうということで、本人もたいへん忙しい仕事を持ってはおりましたけれども、われわれに対しては誠意がうかがわれる返答をしておりました。これはあとから知ったのでございますけれども、事実、二月から三月にかけまして数回の遺族側及び保険団を交えた和解の話し合いをしておったということは事実でございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 外務省のとった態度は、結局、前に言ったウィーン条約のときに、「民事請求権審議決議が道徳的な義務として出て、日本賛成しておるようですが、これに基づいてマレーシア裁判権特権放棄するようにとか、あるいは、「正当な解決をもたらすことに最善の努力を払うよう勧告する。」というのが決議の趣旨になっておりますが、これに基づいてそのようなことを外務省としてやったわけですか、あるいは、これの前の事件として、ウィーン条約日本として発効する前の事件ではあるわけですが、ですけれども、本件はこの精神をくんでやったというふうに承ってよろしいですか。
  44. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 事実問題といたしましては、私どもアヤトリ書記官といろいろ話しておる際には、民事請求権日本側が提起した場合に、それに応じなさいという言い方の交渉はいたしませんでした。というのは、かわりばえもいたしませんけれども、まず、第一段階、第二段階としてアヤトリ書記官側でやるべきことがたくさんあるわけでございます。すなわち、保険の問題、それから保険にプラスアルファすることができるならば、アヤトリさんのいわば涙金を出すか出さないかという問題、そういった問題を詰めたあとでないと、かりに問題が法廷とかそういうところに行きましても、何らやるべきことをやっていないじゃないかということでそのあと処置が進まないということも考えられましたので、とりあえず、全く月並みではございましたけれども、やるべきこととして保険の問題、あるいは本人のそれにプラス誠意の問題ということで来たわけでございます。ところが、その保険の問題自体が進展しないままにこのような時間がたってしまったということでございます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、保険の問題になるわけですけれども、外交官の持っている車といいますか、これは自動車損害賠償保険法との関係はどうなっているのですか。これは強制締結の義務はないわけですか。
  46. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 一般の日本市民が強制されておる責任保険は、外交官は課されておりません。自動車損害保険法上免除されております。しかし、これは国としても政府としても困りますし、また、本人自体が事故を起こした場合に非常な苦境に立つということもございますので、外務省に車を登録する際に、必ず保険をかけているという証拠を保険証を見せてもらいます。で、現在は、普通一般の市民は百万円が最低限度の責任保険になっていると聞いておりますけれども、外務省の場合は、外交官に対する場合は百八十万円を最低線にして、みなそれ以上のものをかけてもらっております。
  47. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの、外交官には責任保険の強制締結の義務はないという根拠はどこにありますか。
  48. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 条文を申し上げられないのはちょっと申しわけないのですが、自動車損害賠償法の一条文にうたっております。
  49. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 本題でありませんから、この程度にしておきますが、そうすると、その保険はどこへかけることになっているのですか、外交官の場合は。どうもよくわからないのですがね。現実にこの場合にはどういうふうになっていたのですか、本件の場合は。
  50. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) アヤトリ書記官の場合は、第三者の生命に対して三百六十万、それから第三者の財産に対して百八十万の保険をかけたというふうにわれわれは了解しております。相手は英国保険団と聞いております。
  51. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ことばじりをとらえるわけじゃないのですが、かけたと了解しているとかなんとかというのは、何だか話がはっきりしませんね。かけたということを確かめているのですか、確かめてないのですか。
  52. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 私ども英国保険団と電話では何回も、私自身も一、二度会っていろいろ資料を入手したいと思いましたのですが、通常、保険量さんとしましては、外務省は第三者である、保険の契約をしたアヤトリさんあるいはその代理人とならば契約書の内容その他は教えることはできるけれども、われわれはそれは困るということで断わられてきております。しかし、保険をかけておるという事実はわれわれは承知しております。
  53. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのイギリスの保険団というのに問い合わせたが、保険契約の内容は秘密とかなんとか言って答えなかったということですけれども、外務省として、あなたが個人としてそういうふうな交渉をしたのですか、外務省代表してというか、外務省として交渉したのではないのですか。どっちなんですか。外務省として交渉したのに、なおかつそういうふうな保険に幾らかかっているかということまで明らかにしないのですか。これが金融関係ならば、銀行に金を幾ら預けてあったということならば、これはまた別かもしれません。個人の秘密かもしれません。しかし、こういう現実に事故が起きて、保険に幾らかかっておるかということを秘密にするのはおかしい。いわんや、私人でなく、外務省代表して交渉しておるのにそれを明らかにしないというのは、ちょっと理解に苦しむのですがね。
  54. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 私どもが知りたいと思いいましたのは、保険の契約の中で免責条項がどういう契約のしかたになっておるかというようなこまかいことでありましたので、保険屋としては、いまの段階ではちょっとそれは知らせられないということで断わられたわけであります。その保険金額とかそういうことにつきましては確認しております。私の先ほどの言い方はちょっとまずかったと思いますが……。
  55. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、保険金の支払いの交渉をしていた中で話が決裂したようですね。どういう理由でその保険金の支払いに関連して話が決裂したんですか。それはどういうふうに把握しておられますか。
  56. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 昨年の三月の末に、被害者それからアヤトリ書記官それから保険団が集まりまして、ほとんど示談の線ができて、皆さん握手して別れた。その後二日ほどたって、アヤトリさんから、この間の話はないものとして了解してほしいと、こういう電話が、まず保険屋さんから吉野さんに、それから大使館から吉野さんにかかってきたということで、吉野さんはそのアヤトリさんの変心がどこにあるかということでたいへん疑問を持たれたわけであります。その当時聞きましたところによりますと、外務省の人に相談した結果、外交官はお金を払わなくてもいいというふうに言われたので自分は払わない、保険屋さんの払う金額だけでがまんしてほしい、したがって、今後は保険屋さんとだけ吉野さんは話してほしいと、こういう趣旨のことだったと吉野さんは言われるわけであります。そこで、私ども外務省の人間といたしまして、こういう問題が当事者間で円満に解決をみることを望みこそすれ、それに水をさすようなことは絶対あり得ないということで、もし万が一あるとすればたいへんけしからぬことであるということから、いろいろ調査いたしました結果、外務省には全くそういうことばない。また、一方、保険屋さんと、それから大使館の電話をかけた日本人に、事務長でございますが、どういう電話をかけたのかということを聞きましたところ、外務省の人に相談した結果ということは言っていない。大使館の電話をした人は、アヤトリさんは外交関係の友人二、三と相談した結果ということばを使ったので、自分はそのように吉野さんに電話したと、こういうことがわかりましたので、吉野さんが、外務省の人が指導してアヤトリを変心さしたということは若干の誤解があったということで、われわれは現在その誤解を解いていただくという意味で、吉野さんに申し上げたこともございます。
  57. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 握手して別れた、別れた後に急にアヤトリという人が取り消してきた、変心したというのも、だれかに相談した、だれかに知恵を借りたんだということになるわけですが、でも、やはり外務省関係の人が知恵を貸して、そうして、そんなに払う必要はないとか、あるいは払わなくていいんだとかということを言って、そのために変心したんだと、こういうふうにいわれているわけですね。あなたも調べたというんだけれども、だれだれを調べたのですか。
  58. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 外務省の中は、当時の関係の事務官——関係の事務官と申しますと、私の籍を置いております儀典長室と、それから当時マレーシアを地域的に管轄しております南西アジア課の関係者にいろいろ聞きました。その前に、吉野さんに電話をした当事者、すなわち保険団の方とそれから大使館の方は、外務省とということばを使っていないということをその方々は申しております。
  59. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこが一つの誤解といえば誤解になるか、あるいはあれになってきたんだと思いますが、いずれにしても、一たん話がきまって、後に二日ほどたって変わったのですが、だれかにこの話を聞いたのか、日本のことに詳しい人に話を聞いたか、それで非常に変わってきて吉野さんの家族が憤慨されたということは明らかなんです。その関係はまああなたの言われるような外務省関係ではないと言われればそれまでかもわかりませんが、どうもそういう点が釈然としないわけです。  それから別のことになりますが、この車に外務省の人が乗っていたのですか。ひいたときの車にだれが乗っていたのですか。
  60. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 二人事務官が乗っておりました。一人は斉田守という名前で、一人は村岡某であります。
  61. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 某……村岡邦夫だろう。
  62. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 村岡邦夫であります。
  63. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その人たちが乗っていたのは、そのほかにも乗っていたのでしょう、女の人たちが。何で女の人たちが乗っていたのですか。
  64. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) 警視庁からの報告によりますと、五人乗っておったとありますので、二人のあと三人いたんですが、これはマレーシア大使館日本人職員だと私ども聞いております。
  65. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それらの人も、大使の公邸でパーティがあって、そこで外務省の人も当然なことながら酒を飲んだり何かした、こういう事実はあなたのほうでわかっているのですか。
  66. 奈良賀男

    説明員奈良賀男君) マレーシアは、宗教上、一月から二月にかけまして断食といいますか、何か行事がございまして、断食明けのお祝いのパーティ、食事を大使が主催されて、館員、及び外務省の二人の事務官も常日ごろ仕事の関係が深いものですから呼ばれたのが実情でございます。
  67. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのひいたときに、一緒に乗っていた外務省の職員が、その学生さんが頭が血だらけになって虫の息で、そうして早く救急車を呼んでくれとおかあさんが、言っているときに、日本人の一人が、逆にそのおかあさんに向かってばかやろうと言った——これは酔っぱらっておったのかどうかわかりませんが、ばかやろうと言って、そうしてそのまま行ってしまったという事実は、外務省として、外務省の職員がそういうようなことを言ったと伝えられているのですから、その事実についてはどういうふうに調べられているわけですか。そうして、確認をされているのですか、これをだれか。
  68. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 外務省の職員がそういう暴言を吐いたということにつきましては、私が本人に聞きましたところによりますと、本人はそのときによく覚えていない、いささか酒を飲んでおったせいですか、そのときのことはよく覚えていないということでございました。
  69. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、それは、あなたは、だれですか、斉田という人に会って聞いたわけですか。いささか酒を飲んで覚えていないというのは、具体的にそういうようなことがあったかもわからない、なかったかもわからない、よくわからないと、こういう意味なんですか。で、あなたは、あなたというか、あなたに聞いても悪いな。もっと上の人に聞かなくちゃ悪いな。アジア局長でも官房長でもだれでも、そういう事実があったかないかということは非常に大きな問題ですわね、外務省にとって。それについて、本人だけじゃなくて、その他の方、特に吉野さんのおかあさんとか、おかあさんがかけつけたときの話ですから、そういう人に対していろいろお聞きをして、事実関係がどうなのか。学生さんをひいてしまった、そうしておかあさんが泣きすがっているのに対して、酔っぱらってばかやろうというようなことを言ってそのまま行ってしまった、こういうふうに伝えられているわけですから、そういう事実については、外務省としては責任をもって詳細にやっぱり調べなければならないと、こう思うわけですがね。それは本人に会って聞いたら、いささか酒を飲んでいてよくわからない、この程度しか答えが出てこなかったのですか。それ以外のいろいろなことは外務省としては調べなかったのですか。
  70. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) いま御指摘の点につきましては、こういう経緯がございます。私が斉田事務官を連れまして吉野さんのおかあさんに会いに参りました。そのときに、おかあさんからその問題を指摘されまして、その場のやりとりは、おかあさんは、あなたですかと、おかあさんも夜のことでよくわからなかったようで、あらためて見直しまして、あなたがそういうことを言ったというこということを斉田君に指摘したわけであります。斉田君は、そのときに、私はよく覚えておりませんでした、もしそんなことを申し上げたとすればとんでもないことを申し上げました、おわびいたしますということを申し上げた経緯がございます。で、それ以上に事実をさらに調べるということはしないで、その場は一応そういうおわびのことばを申し上げたということで済んだのであります。それで、そのときに、とにかくおかあさんとしては、何と申しますか、そういうことがあったということでなくて、まっ正直にといいますか、すなおにあやまってもらいたいということで、ちょっとそこで両方の行き違いがございました。
  71. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、そこでばかやろうというようなことを虫の息になっている学生さんやそのおかあさんに言ったかどうか、これははっきりしないというのですか。言わないと断言はしないのですか、その人は。
  72. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 本人は言わなかったとは断言はしておりません。自分でも覚えがないことでもありますし、そういうことがありましたら非常にすまないことをしたというふうに申しております。
  73. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、その学生の人が虫の息になっていたと。それを外務省の人も二人乗っていてそれを見ていて助けようとしなかったのですか、あるいは、それを警察へすぐ通報するとか、そういうふうなことはしなかったのですか。そこはどうなんですか。
  74. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 私たちが聞きましたところでは、ちょうど事故の直後にうしろから来ておる車がございまして、その車の運転手が降りてきて、それでどうしたのだということで、これはたいへんなことだというので運転手がすぐみずから救急車を呼ぶとか警察に連絡することはやってくれたというふうに聞いております。それから本人たちは、すぐに、何か被害者の方がみぞのほうに頭が落ちて、これはいかぬということでみぞのほうから頭を上げて、こういうふうにして、それで救急車の来るのを待っておったというふうに聞いております。それから二、三十分たってからというふうに言っておりますが救急車警察が参りまして、すぐに病院に連れていった、それで外務省のいま申しました本人が一人残りまして、それであと警官が来たからいろいろ話をいたしましたあと、すぐ病院に彼は行ったということでございます。
  75. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、自分たちが乗ってひいたということは外務省の二人の人は認識したのですかしないのですか。
  76. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 認識したと申しますのは、ひいたということを知ったかということでございましょうか。
  77. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そう。
  78. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) それはそのとおりでございます。少なくとも一人のほうは知っておったということでございます。
  79. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 知っていて、ちょっとはっきりしなかったのですが、そうすると、その被害者の人を病院に運んだりすることについては、ちょっとあなたの言われたことがよくわからなかったのですが、どの程度協力したのですか。何かそのまま行ってしまったようにも一部伝えられているわけですよね。ひいちゃって、そしてばかやろうというようなことを言ってそのままほかへ行っちゃったというふうにも伝えられているわけですから、その間のあなたのほうの調べられた真相というものをこれは明らかにしていただきたいと思うのです。ちょっといま言われましたけれども、どうもはっきりしない点があるものですから。
  80. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) いまの一人のほうはそういうことをやったわけでありますが、もう一人のほうは、あまり酔っておるので、ほかの人間が帰したということでございます。
  81. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 一人残ったというのは、残ったのはだれですか。あまり酔っているので、ほかへ帰したというのはだれですか。
  82. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 残ったのは村岡でございます。帰されたのが斉田でございます。
  83. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、斉田という人はあまり酔っているのでその場から帰したというのですが、その人は何かふだんから非常な酒飲みだということじゃないですか。何か酒乱ぎみだったらしい話も伝えられているのですが、これはまあ個人のことですから、これ以上あれしませんが、何かちょっと酒の好き過ぎる人じゃないんですか。
  84. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) あまり個人的なことで、私よく存じません。
  85. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、なぜ斉田という人もそこに一緒に残っていろいろな手当てをしなかったのか、こういうことに対してはどうなんですか。手当てをするほどの、何といいますか、もう手当てをしたりいろいろ被害者の救急措置といいますか、することができないほど酔っていたということですか。それはそういうふうにとっていいのですか。
  86. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) そのあたりは、私の聞きましたところでは、まあそのいまの程度でございますけれども、被害者の手当てができないほど酔っていたかと言われると、まあどの程度であれば手当てができるかできないか、これはきわめて判断のむずかしい問題でございますが、私が申し上げたかったことは、これはたしかそういうふうに新聞に書いておったかどうかわかりませんが、もし間違っておりましたらお許しいただきたいのですが、本人が逃げたというふうにもし言われているとしますと、それは逃げたのではなくて、ほかの人間が、おまえ酔っているから帰れ、あとはおれがあれするということで帰したということを申し上げたかったわけであります。
  87. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、その斉田という人は、最初のあなたの話だと、まあことばじりみたいで恐縮ですけれども、いささか酒を飲んでいたという程度の話だったですね、ことばの修飾は別として。あとになると、あまり酔っていたので、その場から去らしたというのですが、そこで暴言を吐いたりなんかして収拾がつかないので、とにかくそこにいちゃまずいというので帰したというのじゃないのですか。真相はそうじゃないのですか。
  88. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 私の聞いているところでは、そのようには承っておりません。
  89. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この斉田という人は今度訴えられたというのじゃないですか。どういう形で訴えられていますか。
  90. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 暴言によって遺族が、おかあさんですか、非常に精神的なショックを受けたということで、慰謝料の請求とそれから新聞に対する謝罪広告の件を求められたということを聞いております。
  91. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、その斉田という人は、そのときの事故の模様はほとんど覚えていないというのですか。
  92. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 最初から最後まで覚えていないという意味ではございません。後半のほうは多少覚えている、事故があったあとだいぶたってから覚えているということであります。
  93. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これらの外務省の人は、この被害者が亡くなってからお通夜にもお葬式にも行かなかったというのですが、これは事実ですか。
  94. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 事実でございます。
  95. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この事故が二月十七日の晩ですが、亡くなられたのがあくる日ですね。で、こういうふうな事故を起こしたということについて、その乗っていた二人の人から外務省の直属上司に対して報告があったのは一体いつですか。
  96. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 当時の課長は私ではございませんので、私の聞いたところを申し上げますと、翌日の朝報告があったことを聞いておるということでございます。
  97. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 どういうふうな形で報告しておりますか。どういう事故があったというふうに報告しておりますか。で、自分はどういう行動をとったと、どういうふうに報告しているのですか。
  98. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) その点、こまかい点になりますと、私よくわかりませんが、いまのアヤトリ書記官の車が吉野さんの御長男をはねたという事実に関することだと思われます。
  99. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 車に乗っていた人が「レッツ・ゴー、レッツ・ゴー」というふうに言って行ってしまった、こういうふうに伝えられているわけですね。「レッツ・ゴー、レッツ・ゴー」というのだから、これはだれが言ったのかはっきりしませんけれども、これは外務省の人が二人のうちだれかがこういうふうなことを言ったのじゃないですか。その点は調べておりませんか。
  100. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) われわれの聞いておる限りでは、外務省の人間が言ったというふうには聞いておりません。
  101. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それじゃ、その「レッツ・ゴー、レッツ・ゴー」と車の人たちが言ったというふうに伝えられているのですが、だれがそういうことを言ったというふうにあなた方外務省のほうでは聞いているのですか、あるいは、そんなことはなかったのだというふうに聞いておるのですか。そこはどうですか。
  102. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) その点は、残念ながらわれわれのほうで聞いておりませんし、したがって、わからないわけでございます。
  103. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 アヤトリという人が、八月に帰ったのですか七月に残ったのですかちょっとはっきりしませんが、帰国したわけですね。これは事実ですから、いつごろどういうふうなことから帰国したのでしょうか。
  104. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 八月の十何日ですか、二、三日ごろではなかったかと思います。もちろん本国からの命令を受けて帰国したわけでございます。
  105. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その人は、帰る前に、外務省に対して何かあいさつがありましたか。この事件関連してのあいさつがあったのですか。
  106. 穂崎巧

    説明員(穂崎巧君) 私のほうとしまして、ちょうど私は留守ちゅうだったのでございますが、彼があいさつに来たということを聞いております。それからなお、私からも、そのときのマレーシア大使館館員に対しまして、いまの本問題の解決につきアヤトリ氏の帰国後といえども責任者を呼ぶということについては申し入れをし、現実に責任者は置かれているわけであります。
  107. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのアヤトリという二等書記官が帰るときに、外務省に来てどういうあいさつをされたのでしょうか。そうすると、だれにお会いになったのですか。アジア局長か、あるいはその他の官房長か次官か大臣か、そういう人がお会いになったのですか。二等書記官だから、そこまでのことはないといえばないでしょうが、会って、そうしてそのことについて責任を感じているというのか感じていないというのか、一体どうするというのか、日本政府にどういうふうにしてくれというのか、その点はどういうふうになっているのですか、そのときの話は、この点は、政務次官でも局長でも、大事な点ですから答えていただきたいと思いますが。
  108. 永田亮一

    政府委員永田亮一君) 実は、私、昨年の七月の末に政務次官を拝命いたしまして、当時は外務省におりませんでしたので、よく存じておりませんから、アジア局長から……。
  109. 後宮虎郎

    政府委員(後宮虎郎君) 主管課長からの報告によりますと、ちょうど課長が外出のときにアヤトリ書記官が南西アジア課に参りまして帰国のあいさつをいたしまして、特にこの問題が片づかないうちに帰ることになって遺憾であるけれども、あとマレーシア大使館カウ書記官というのがこの問題についての特に連絡官になるということを申して、そうして今後はカウ書記官を通じてこの問題の解決に折衝なさってほしいということを申したそうでございます。  なお、アヤトリ書記官は、帰国の前に吉野さんのお宅にももう一度伺いましてごあいさつをし、弔意を表明したというふうに聞いております。
  110. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、今後はカウ書記官という人が責任者になってやるということになっているわけですが、外務省としては、なるほど外交官特権というか、いろいろな法律的な問題は別として、人道上の見地から、日本人の一人の学生が罪もないのに交通事故によって亡くなった、しかも前途ある青年が亡くなった、おかあさんもそのことを心配して亡くなられたわけですが、これについて今後どういうような前向きの姿勢といいますか。そういう形でこの問題に処して遺族の方を慰めるような形で解決をしたいというふうに考えておられるのか、その点の考え方、あるいは、何といいますか、今後の外務省としてのとる態度といいますか、そういうふうなものをひとつ明らかにしていただきたい、こう思います。
  111. 後宮虎郎

    政府委員(後宮虎郎君) こういう問題が起こりましたことは、非常に残念でございます。外交官交通事故は大体年に百六十ぐらいにのぼっておりますが、そのうち人命等に関係するものがわりに少ないのでございますが、やはり毎年若干は起こっている状況でございますので、こういう外交官特権を持ってある者の交通事故に関する救済措置一般といたしましては、別途主管の儀典室のほうで、保険金額の限度が適当かどうかその他について、この事件一つの契機と申しますかになりまして一そう研究を進めている段階と承知しております。  なお、一般的なそういう問題を離れまして、このアヤトリ事件につきましては、先ほどから御説明ございましたように、各担当部局長課長等からマレーシア大使館に対してあるいは大使に対しても早急解決方を注意を喚起してきておったわけでございます、さらにことしに入りましては、黄田事務次官が特にこの問題についてマレーシア大使を呼びまして、こういう問題のために両国間の関係について悪化する、悪い雰囲気になるということは、そういう点からも非常に残念なんで、至急大使みずからの責任においてこの問題の早急解決方を要請いたしまして、その後聞いておりますところでは、マレーシア大使もむろん承知いたしまして、さらに本国に帰っておりますアヤトリ書記官にも連絡いたしまして、お見舞金の問題等について善処方を勧告している、そういうふうに伺っております。
  112. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまアジア局長から外務省代表してのそういうふうな答弁があったわけですから、私はこの問題についてこれ以上こまかい点を追及するというのは避けたいときょうは思います。実は、まだ問題があるんですよ、これは。いまのアヤトリという二等書記官が非常に問題なことばを言っているわけです。たとえば、日本は人口が多いから一人くらい死んでちょうどいいんだというふうなことを言っていると伝えられているんですよ。これは非常識きわまりないことばだし、こんなことを言ったということもちょっとおかしいといえばおかしいかもわかりませんけれども、あるところからはっきり聞いているわけです。こういうふうなことはほんとうに私どもは何といいますか、外交官特権の乱用で、きわめてよくないとこう思うのですが、いずれにいたしましても、いまこの事件でも言われたように、一般的にもいろいろな面でと救済を研究すると同時に、本件については特にいま言ったような形でマレーシア大使なりあるいは本国に連絡するとか、あるいはこのアヤトリ書記官とも連絡をして、外務省が仲に立って積極的に解決をして遺族の方を慰めてやってあげていただきたいと、こういうふうに思うわけです。これは日本人の人権の問題にも関係することですし、実はこの問題が取り上げられるということになりましてからもいろいろな面で、私のところなどにも激励の投書なり意見なりがずいぶん来ているわけです。ですからぜひこれは早急に熱意をもって積極的に外務省が仲に立って遺族の方の御満足のいくように、日本人の感情がまた満足のいくような形に処理をしていただきたいということを特に最後に申し上げます。  これについて結論だけをもう一ぺん今度は外務政務次官のほうからお答えを願いたい、こう思います。
  113. 永田亮一

    政府委員永田亮一君) ただいま稲葉先生からお話のございましたのは、全くそのとおりだと思います。外務省といたしましても、吉野さん御一家の御不幸についてはほんとうに心から御同情を申し上げておりまして、今後も外交官特権であるとかあるいは外交官としての免除などの問題を離れましても人道上の問題として極力外務省といたしましては吉野さん御一家の御満足のいくように誠意をもって努力をいたしたいと考えております。御了承願いたいと思います。
  114. 石井桂

    委員長石井桂君) 本件に対する質疑は本日はこの程度といたします。  ちょっと速記をとめて。   〔午前十一時四十四分速記中止〕   〔午後零時一分速記開始〕
  115. 石井桂

    委員長石井桂君) それでは速記を始めて。     —————————————
  116. 石井桂

    委員長石井桂君) 岩間君から発言を求められておりますので、これを許します。岩間君
  117. 岩間正男

    ○岩間正男君 村上国治君の母親のセイさんが非常に最近病状が悪化しまして危篠な状態におちいっている。これに対して現在網走刑務所に服役中の村上国治君の刑の執行を一時中止して母親に会わしてほしいと、こういう要請書がいままで二回にわたって出されているのですが、この問題で私はこの前法務大臣に会いました。法務大臣は、この問題をいいほうに解決する、そういう方向でもって善処したいという答弁をされた。実は、きょう法務大臣の出席を求めてその後の経過を明らかにしてほしいと思ったのですが、予算委員会の都合で見えられません。そこで、私は、これに関連した二、三の問題を刑事局長から明らかにしておいていただいて、あらためて法務大臣に質問したい、こういうふうに考えております。もっとも、問題は、人命に関する、しかも非常に危篤な問題ですから、私がきょうここで質問しないと、この次の質問まで待っているとその間に不幸な事態が起こるということでは非常にまずい。したがって、なるべくこの問題を解決する、そういう立場で質問したいと思います。  第一にお聞きしたいのですけれども、刑訴法四百八十二条に刑の城行停止の問題が規定されておるのですが、それはどういう精神で出されたものなのか、それからこれの運用はどういうことになっているのか、この点をお聞きしたいと思うのです。
  118. 津田實

    政府委員(津田實君) 御承知のとおり、ただいま御指摘刑事訴訟法四百八十二条によりますと、懲役、禁錮あるいは拘留というような自由刑の言い渡しを受けた者につきまして、ここに掲げてあるような事由があるときは、検察官の指揮によって執行を停止することができると、かようになっておるわけであります。  その第一号には、「刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞があるとき。」、このようなことにつきましては、これはもう当然のこととして、むしろ物理的な事由ということになると思います。それからその次の「年齢七十年以上」あるいは「受胎後百五十日以上」あるいは「出産後六十日を経過しないとき。」という点につきましては、これは一般論としては必ずしも物理的に刑の執行が不可能ではない、それに応じたところの処遇をすればよろしい場合もあり得るわけでありますけれども、さような処遇をすることが適当でないというような場合には執行停止をするということで、その適当でないと申しますのは、さような処遇をすることによって拘禁すること以上に本人に苦痛を与えることが適当でないというような場合というふうに判断されるわけであります。  それから第五号の「刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずる処があるとき。」これにつきましては、非常に解釈がむずかしいのでありまして、通常の場合は、いまだ服役していない者の場合にかようなことが起こる場合があり得るかと思うのでありまするけれども、具体的実例につきましては、必ずしも、いままではっきりいたしておりません。それから第六号でありますが、「祖父母又は父母が年齢七十年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを保護する親族がないとき。」これは、本人の事情と申しますよりも、むしろその被保護者の事情によるわけでございまして、これもやはりその事情があれば本人以外には保護者がないという事態を考えて、むしろ非常に物理的に近い事情であるというふうに考えるのであります。第七号の子供の場合にも同然であります。最後に、「第八号にその他重大な事由」というのがございますがこれもやはり全体を見渡した場合の重大な事由ということでありまして、特別にここに規定することができない場合で、しかも、重大な事由があるときということを考えて規定したものと解しております。したがいまして、現在の第八号で執行停止を行ないました事例といたしましては、たとえば、受刑者が、入所後、不具廃疾になった、あるいは失明をしたというようなことで、本人に対してもはや刑を執行してもその目的を達せられないという場合でありますとか、あるいはまたそのほかの事情でありますが、他の刑の執行のために停止する。すなわち、自由刑と罰金刑とあわせ科せられたような者につきまして、そのまま自由刑の執行を継続しておりますと罰金刑の時効が完成するというような場合に、一時自由刑の執行を停止して今度は罰金刑の執行をするというような場合も実例としては第八号によって行なわれるということでございます。
  119. 岩間正男

    ○岩間正男君 その前に議事の運営についてお願いしておきたいのですが、法務大臣が予算委員会の発言の時間で、もしも手がすけば、こちらにちょっとでもいいから、質問ははあまり長くありませんから、やっているときに時間があいたらこちらへ回るように連絡してもらいたいと思います。
  120. 石井桂

    委員長石井桂君) そういうように取り計らいます。
  121. 岩間正男

    ○岩間正男君 いま説明がありましたけれども、その五号ですね、あるいは第八号は、これは村上君の場合には適用される条項じゃないかと思うのですが、どうでしょうか。母親の危篤で、許可を受けて生前に会っておきたい。特に十三年もこれは未決を通算するといままで獄につながれておったわけです。しかも当人はあくまでも無罪を、確信しているということで、しかし、刑は二十年の判決を下された。その判決には、とにかく決定はそれを尊重して服務をやっておるわけですね、十三年間というものは。突然逮捕されてから母親に正式には会っていないわけですね。ところで、このような刑の執行停止がなされないと、老齢ですから、それでもしものことがあるという事態が起こったら、当然これは取り返しのつかない「回復することのできない不利益を生ずる」という条項は最も適応する条項のように思われるのですが、この点はどうお考えですか。
  122. 津田實

    政府委員(津田實君) 具体的な事件につきまして具体的の事情により検察官の判断によりまして執行停止をすべきものといたした場合にこれをするということに刑事訴訟法はなっておるわけであります。したがいまして、抽象的な問題としてこの第五号あるいは第八号の解釈といたしましてかくかくの場合がなるかどうかというお尋ねでございますが、これは非常にお答えするのに判断がむずかしいと私は思うのでございます。したがいまして、やはり具体的な事件につきまして具体的な場合においてその検察官がどう判断をしたか、その判断が相当であるかどうかということを判断してお答え申し上げたほうがよろしいと思うのでございます。
  123. 岩間正男

    ○岩間正男君 この条文とからみ合わせてでなくとも、これはどうですか。とにかく生前に母親に会いたい、しかし身柄が拘束されておるからそれはできない。しかし、会う道はないのかというと、会う道は、法の適用がうまく運用されれば会うことができる可能性はある。で結局、これが会えないで亡くなってしまった、親の死に目に会うことがでなきかった、そういう事態というものは回復できますか、できる状態でしょうか。私は一般論でいいと思うのですよ。この条文に適するかしないかということをさっき質問しましたけれども、そのことは一応おくとしても、いまの判断はどうですか。その点についてのあなたの常識での判断でけっこうだと思いますけれども、どういうふうに考えられますか。
  124. 津田實

    政府委員(津田實君) 一般論としてはやはり申し上げにくいのでありまして、その受刑者と当該親族との具体的な関係、あるいはそれまでの具体的な接触状況等を判断いたした上でないと結論は出ない問題であるというふうに私は考えます。
  125. 岩間正男

    ○岩間正男君 法の運用にあたって、自分が最初から一つの感情、予見をもってじゃなくて、だれが考えても、親の死に目に会えないでしまった、会いたいという非常に大きな望みを持っていながらそれを会えないでしまった、これは回復できないですよ。これははっきりしている。あなたはそれが条項との関連でおっしゃりにくいということだけれども、これははっきりしておる。  私はこれと関連して聞きたいのですが、いままでどうですか、第五号の適用例というものはあるのですかないのですか。あるいは、第八号の場合でもいいのですが、第五号、第八号の場合、この条項の適用を受けて刑の一時執行を停止された例というものは、これはどうなんですか。
  126. 津田實

    政府委員(津田實君) 第五号は、第一号と非常にかぶる場合が多いわけであります。第一号とかぶる場合は第一号によって処理されておると思いますので、第一号のケースはこれはかなりあるというふうに私は考えておりますが、第五号そのものによって執行停止をしたケースについては、私はいまのところ承知しておりません。  それから第八号につきましては、先ほど一般的の御説明のときに申し上げましたように、受刑中に本人が失明をしたとかいうようなことによって執行停止をした、これはございますし、また、先ほど申しました自由刑の執行中に罰金刑の時効が完成するおそれが出てきたというような場合に執行停止をする。これはあるいは執行の技術上の事由かもしれませんが、そういうのはやはり刑の執行は裁判によって命ぜられておるものでありますので、その執行を無にするような受刑のしかたはできないという意味の重大な事由として執行停止をするというようなことが第八号の例でございます。
  127. 岩間正男

    ○岩間正男君 これは資料としては実は要求したいと思うのです。まあ各号の件数でいいですけれどもね。それで、第五号の場合はほとんどないといいますか、あなたの御記憶ではそうらしいですが、これも詳細に調べてほしい。それからないということがこれはやはり問題があるだろうと思うのですね。わざわざこういう第五号がちゃんと規定されておる、この精神にのっとって法の運用の面でこれをやはり適用させる、そういう条件というのはないかというと、あると思うのですよ。そういう条件が一方的な解釈か何かで非常に狭められたりあるいは拒否されるというようなかっこうで実際は運用されない、こういう事態が起こっているのです。私は当時この刑訴法が国会に出されてどういう審議をされたかまだ調べておりませんけれども、わざわざこのような四百八十二条というものが規定された精神というものはほんとうに生かされているかどうか、この点は非常にやはり問題じゃないかと思うのですね。  それから、取り返すことのできない不利益を生ずる場合というのはいろいろあると思います。しかし、最大のものじゃないですか。人間が自分の肉親に生前に会いたい、ところがそれが全然いれられない、こういう問題ですからね。私はここに規定された「回復することのできない不利益を生ずる」場合というものの最たるものがこの今度の村上君の場合に適応するのじゃないかと思うのですがね。そういう点からの法の運用の面からのこれに対する検討が一体なされたことがあるのか。私は関係者に二、三お会いしましたが、どうもそういう面から法の精神をほんとうに生かすという立場から運用されて検討されていないように思うのですがね。こういう点はどうでしょうか。これはあなたの立場として検討する当然の課題だというように思うのですが、これは検討する考えがあるのかどうか、この点をお聞きしたいと思います。
  128. 津田實

    政府委員(津田實君) この第五号に該当する事柄につきまして、本人あるいは関係者から事実上の刑の執行停止の申請がある場合、あるいは検察官がみずからそういう場合に当たりはしないかというふうなことを刑務所その他の情報によって承知する場合等はもちろんあると思います。したがいまして、第五号該当であるかどうかについていままで判断を検察官がしたという場合はおそらくあり得ると思うのであります。しかしながら、この四百八十二条は、あくまでも「執行を停止することができる。」という裁量規定になっております。その裁量規定となっておるゆえんのものは、刑の執行そのものは、判決により、あるいは遠くは法令によって当然なさねばならぬ事柄である。したがいまして、将来の執行そのものに差しつかえがあってはならないということは当然第一義に考えなければならない。それと本人側における事情というものを彼此判断いたしまして、そこの均衡を考えて結論を出すという趣旨と、四百八十二条の「できる」。という趣旨とは同一である。したがいまして、その彼此判断いたしました場合に、やはり執行を停止することはできないと判断した場合はおそらくあり得ると思いますし、この法律の解釈としても当然そう判断をしなければならぬ場合にはしなければならないと思うのであります。したがいまして、先ほど来申し上げましたように、具体的事案によりましてその判断が適切であるかどうかということを判断する以外にはないと申し上げておるのは、その点を申すわけでございます。
  129. 岩間正男

    ○岩間正男君 非常にこれは一般論になって抽象論になるわけですけれども、あなたの立場としてはあるいはやむを得ないかもしれないし、また、この問題について詳細な報告を受けておられないのかもしれないが、そういうことでは、いまもう間近かにもしものことがあったらたいへんだ、そういう事態ですね。そういう事態で法の運用からいっても、もしもそのとき十分な手を尽くしていなければ怠慢のそしりは免れない。それから法の精神そのものは没却されてくる事態が起こるわです。だから、そういう点からいえば、これは急速にあなた検討してほしい。実は、これは、当該の「地方検察庁の検察官の指揮」、「それから刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官」この判断で決定していいことになっておるわけですよ。ところが、実際は、こういうところにいままで折衝してみるというと、ここだけではきめられない。結局、最高検まで現在行っているような実情です。これは非常にいままで世の中で騒がれた問題ですから、大事をとられているという気持ちはわかりますけれども、この問題を早急に再検討をして、正しい法の運用というものをやるべきだと、こういうふうに考えるのですが、この点はいかがですか。
  130. 津田實

    政府委員(津田實君) ただいまお尋ねの事件につきましての申請は、当該本人が受刑しております釧路地検綱走支部検察官に一月十四日、それから本人の関係者から一月二十一日に検事総長及び札幌高検検事長に、第三に本人から札幌高検検事にそれぞれなされておるわけであります。これに対しましては、いずれもその申請を認められないということを本人に通知されておるような報告を受けております。しかしながら、具体的なさような判断をした事情並びに資料につきましては私どもはまだこれを承知いたしておりせん。したがいまして、御質問の趣旨もございますので、至急に検討いたしたいと思います。
  131. 岩間正男

    ○岩間正男君 急いでやってほしいですね、人命に関することですから。ここでじんぜん日を送っているうちに不幸な事態が起こったということでは、まことに話にならぬと思う。私はいままでの経緯について詳細はまだ申し上げておりませんけれども、とにかくその関係者に何回か、これは当人からも折衝しただけじゃありません。村上国治君を守る会というのは、全国で何十万の人たちが関心を持って、そうしてこの問題をいままで戦ってきたわけであります。この内容そのものの無罪かどうかということをここで私は論議するつもりは少しもない。問題は人道上の問題です。人道上の問題で、しかもそういうふうに刑訴法に規定がある。その精神というものを見れば、やはりこれは一つの救済規定みたいな性格を持っておるものですね。そうすると、それをできるだけ適用していくことが血もあり涙もある法のたてまえだと考える。ただ法律を過酷に、最も受刑者に不利益な、そういう立場からだけこれを適用して、そうして先に行ってほんとうにこの法の精神そのものをも没却するような事態におちいったら、私はたいへんなミスだということを考えるわけです。ことに佐藤内閣は人権尊重などということを盛んにうたっておる。人権尊重の立場からいったら、当然こういうようなものは、もう当人は無罪を主張しており、しかもちゃんと服役しており、しかも模範囚だ。ちゃんと義務だけは果たしているのです。ですから、そのことについてこの法律の適用の関係で問題を決定すればいいと思うのです。ところが、いままで何か却下された理由というのを聞くというと、どうも法の精神とは必ずしも合っていない、こういう点が非常に痛感されるわけなんです。ですから、この点は、法務省として検察当局を指導する、そういう立場から再検討を必要とするのじゃないか。法務大臣は、そのことをこの前私たちが面会しまして要請したときにも申しましたように、この問題を解決する方向で善処したいという答弁をされておりますから、これについて大至急これはあなたの立場として大臣を補佐して検討してほしいと思うのです。  大体そこが私のきょうあなたにお聞きする一番重要なところなんですが、いままで報告はいろいろ受けておられるでしょうね。たとえば、村上セイさんの病状についてはどういうふうなあなた報告を受けておられるか、その点からお聞きします。
  132. 津田實

    政府委員(津田實君) この問題の受刑者の母親の病状についていまお話がございましたが、そのことにつきましては、その内容等はいま承知いたしておりません。ただ、その母親の病気が問題であるということは承知しております。
  133. 岩間正男

    ○岩間正男君 これは大臣に聞く予定で、あなたに事前に通告をしなかったからこういうことになると思うのですが、これは御承知にならなければしょうがないわけなんですけれども、脳血管硬化症、糖尿病、高血圧、胃かいよう、これは皆併発しておるわけですね。そうして、現状は、言語障害が出ている、大小便の感覚もない、食事もとれない、移動させることもできない。食事がとれないので、一日七本のリンゲル注射をやって命をつないでいる。一本の注射に看護婦が二人がかりで四十分もかかるほど衰弱している、あすも知れない状態で、医学的治療が全くできない、こういう実情なんです。これはいま初めてお聞きになるかもしれぬが、こういう事態で私は質問しているんですよ。ですから、この問題は、この次の委員会などというのでは私は時間的に間に合わないような感じがするのです。そういう焦燥感に襲われるのですけれども、このことについてどうなんです、これはあなたの立場としていろいろあるだろうと思いますけれども、再検討の問題を急速にやって、そうしてこれに対する検討の結果というものを、委員会を通じてもいいし、それから直接でもいいんですけれども、これを報告してもらうような、そういうことはできますか。
  134. 津田實

    政府委員(津田實君) 先ほど申し上げましたように、その病状についてのお話はただいま承ったわけでございます。先ほども申し上げましたように、至急検討をいたしまして、その検討の結果に基づいてどういう措置になるかということになると思うのであります。その最終的な結果が出まして外部に申し上げるときには当然御報告申し上げることといたしたいと思います。
  135. 岩間正男

    ○岩間正男君 これは時間があまりかかってはしようがないんですが、大臣にこの前面会してこのことを要請したりしてからもう一週間近くになっておりますが、いまだに返答がないものですから、実はきょう委員会においでを願う、こういうことだったのですが、どうですか、大臣はまだ……。
  136. 石井桂

    委員長石井桂君) ちょっと速記をとめてください。   〔速記中止〕
  137. 石井桂

    委員長石井桂君) 速記を始めて。
  138. 岩間正男

    ○岩間正男君 そういうことですから、これは大臣にも相談して急いでほしいと思うのです。この前は、竹内事務次官にも一番最初に半月ほど前に私も参りまして多くの代表たちと要請してある問題です。  それからもう一つは、あなたのほうでは報告を受けておられると思うのですが、なぜ却下されたか、却下の理由については御存じでしょうか。
  139. 津田實

    政府委員(津田實君) 却下の理由と申しますると、これはいわゆる検事として認められた申請ではありませんので、別に理由を付しているわけでもございません。本人にただそういう事情を伝えるということになっておるわけでございますが、その理由は総合して判断して相当でないということであるということは承知いたしておりますが、どういう資料によってそういう判断をしたということはこちらにはわかっておりません。
  140. 岩間正男

    ○岩間正男君 これも早急に調べてほしいですね。まるで切り捨てみたいなものですね。ちゃんと法の規定があるでしょう。その法の規定によってこういう条項の適用をしてほしい、こういう点を要請しているわけでしょう。ところが、いろいろ総合したけれどもだめなんだということで、理由はない、こういうことではおかしいと思うんですが、全然お聞きになっていらっしゃらないんですか。これはどうなんです。一体この法を適用して母親に会わせる——網走から比布までは半日もかからない行程でしょう。私たちも昨年参りましたけれども、そこのところで刑の執行停止をしても、だれか付き添ってくるわけでしょう。どうなんですか。いままでの慣例があるでしょう。付き添って母親の死に目に会わせる、それだけのことをやって、何か非常に行刑行政というのですかな、この面に非常に不利益というものが考えられますか。何か却下の理由の中に逃亡のおそれがあるとかなんとかいうことがいわれておるというふうにも聞いているんですが、もっとも正式に私は聞いておりませんし、これはこの次の委員会にできるだけ早い機会にこういうことを調査してここで答弁をしてほしいんですけれども、逃亡のおそれというのは、これはあなたたちの判断ではそうだろうけれども、これはまあないということをはっきり言えると思うのです。だから、私はそのとき言った。これはギリシャの昔の話にもありますけれども、もう死刑執行をされる。ところが、母親が危篤になった。それで、その執行される男が何とか母親に会いたい。ところが、友人がいて、かわりに自分を獄に入れてくれ、もしも間に合わない、逃亡したという場合には自分を処刑してくれ。それでそれが許可されて、母親に会いに行った。ところが、帰りに自然の嵐か洪水かにあって、刑執行の時間まで間に合わなくなった。そこのところをほんとうに無理をして、そうして刑執行のまぎわになってから、ほんとうに間一髪というときにかけつけた。抱き合った泣いた。それを王様が見て、あまりの友情の美しさというものに感動して、それで死刑の執行を中止して許した、こういう話があるわけです。むろんいまの場合に身がわりになるなんということはできないでしょう。しかし、気持ちからいえば、それほどこれは何十万の人たちが考えているんです。そんな逃亡のおそれがあるというのなら、身がわりになってもいい、そうして母親に会わせる、こういう人道上の要求を果たして何が悪い。人間尊重というようなことを口に言っていながら、しかも法律のちゃんと規定がある。その法の適用を血も涙もある生きたものにして、ほんとうに血の通ったものにするなら、会わしたって何一つ失うものがない。かえって得るところが多いんじゃないか。法律そのものは生きているんだ、こういうことになる。ところが、かたく自分の立場から、もしも逃亡した場合にはどうなんだ、責任はどうなんだ、そういうことが非常に大きな問題になっている。  それからこの前最高検の次席検事に会ったときも、そのときの話では、白鳥事件のこの問題はほかの問題とやっぱり少し違うというようなことを言うんです。なぜ違うかというと、これはあくまでも無罪を主張している、無罪を主張しているのはどうもたてつくような形だ、そういうような形のものをこういう一つのものに当てはめていくことはできないんだ、こういうことで非常に一つの根拠のように話すのです。私は一時間ほどほかの代表たちと行ってあすこで会ったときに話をしたところが、それをたてにしている。そういうことはあり得るのですか。それでいいんですか。そうじゃないでしょうか。ちゃんと服務しています。ちゃんとりっぱに規則を守って、しかも模範囚だといわれているような、ちゃんと義務を果たしているのです。その人についてのこれは適用規定なんじゃないですか。当人がこの事件についてあくまで主張を変えない、あくまで主張を変えないからけしからんというような形で追い込んでいくような形でこの法の適用というものを考えるというのは正しいでしょうか。この点は刑事局長としてはどういうふうにお考えになりますか。  この二つの問題、逃亡のおそれがある、あるいはまたあくまでも無罪を言い張っておる、こういうような形では非常に望ましくない。こういう圧力が加えられてきた。この問題は私は切り離さなくちゃならない問題だというふうに思うのですがね。あくまでもこれは人道上の問題として、しかも法の生きた運用の問題としてこの問題は取り上げていいのじゃないかと、こういうふうに思うのですけれどもこれはどういうふうにお考えになりますか、御意見を伺っておきます。
  141. 津田實

    政府委員(津田實君) 第一の逃亡のおそれがあるかどうか。これはこの具体的事件について申し上げるわけじゃございませんから、具体的事件については、先ほど来申し上げましたように、私として判断をする資料を持っておりませんので、具体的事件について申し上げるわけじゃないのですが、一般論として申し上げますと、逃亡のおそれがあることが四百八十二条の執行停止をすることに妨げになるかどうかという点につきましては、これはやはり妨げになり得るというふうに私どもは考えております。四百八十二条を裁量規定にしておりますゆえんは、そういうおそれがあることの有無も裁量の一つの標準にするということであると思うのであります。それで、その理由は、申し上げるまでもなく、すでに確定判決によってきめられた刑の執行をすることは行政権としてはその任務でございますので、逃亡のおそれがあることを知りながらこれを釈放することは当然できないというふうに言わざるを得ません。したがいまして、逃亡のおそれがあるときは当然判断の材料になるわけであります。また、この執行停止期間中は、全然監視拘束はいたしません。したがいまして、全然もう自由の身になるわけであります。そういう意味におきましても、その間に逃亡を防ぐというような手段は少なくとも持っていないと
  142. 石井桂

    委員長石井桂君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  143. 石井桂

    委員長石井桂君) 速記を始めて。
  144. 津田實

    政府委員(津田實君) ただいまの第二の問題につきましては、本人がその無罪をあくまでも主張しておるということは、これは本人の主張でありますが、別にそのことによって本人に苦痛を与えるということはすべきではないと思います。
  145. 岩間正男

    ○岩間正男君 そうすると、二つの問題について事由としていままであげられている問題についてお聞きしたのですが、逃亡のおそれがあるというそういう条件が全然なくなっていると考えられないから、そういう場合には却下の一つの理由になると。第二の問題は、あくまで無罪を主張している、その主張しているそれによってこの問題に影響を与える、苦痛を与えるというようなそういうようなことはあり得ないと。この点は私も確認しておきたいと思います、最後のほうは。  第一の問題ですが、逃亡のおそれがあるというようなことですが、これはいままでの行状、それから刑務所における彼の態度、もし村上君のような人が逃亡のおそれがあるといったら、もう逃亡のおそれがない人は一人もないというふうに言い得る問題じゃないかと思うんです。しかし、ここのところは、あなたたちの立場ではあるのだあるのだ、こういうふうに言われればそれまでのことですけれども、こういう点はもう少しやはり当人のいままでの服務の状況とか、それから彼がいままでずっと十三年間貫いてきたそういうものから、ほんとうに人間的信頼というものを置かない限りは、この法の規定というものは、村上君を逃亡のおそれがあるというとするならば、逃亡のおそれのない人は一人もないというふうにさえ判断されますよ。そうして、これは全国の何百万の人が信じていると思うんです。だから、ここのところでそういう議論をしてもしかたがないかもしれないけれども、こういう点についてはもっと率直にこの事実というものを検討してほしいと思うんです。それから何ぼでもこれに対する保証はあります。逃亡のおそれがあったら、絶対にそういうような事態については責任を負う——といっても法律的には成り立たないかもしらぬけれども、しかし、これは信頼の問題ですから、ここまでつまり言いがかりというような形で理由にならないことを理由にどこまでもやっていったのでは、これは法の適用はあり得ないとさえ思うのです。  それから第二の問題については、これはわれわれがこの前検察当局と会ったときとあなたのいまの御意見というのは相当食い違いがあると思います。当然あなたのいまはっきりここで言われたことが正しいと考えるわけです。  大臣が来られないそうですから、大臣にも十分これは相談してほしいのですが、あらためてお願いしたいことは、この四百八十二条の適用を受けたいままでの件数、それからことに第五号の場合の例があるかないか、第八号の場合の例があるかないか、こういうような要求の問題も、ありますならば、いままでそういう願いが出たのか、それが却下されたのか、ほかのケースで、却下されたとすれば、どういう理由で却下されたのか、その点。それからこの事件に対する却下の理由というものをもっと明確にしてもらいたい。これをあらためて要求したいと思います。大臣にはこれは私たちこの委員会で会えなくてもまた会いたいと思うし、それから法務省としてもこの問題を十分に検討して、また近いうちに質問をしたいと思います。しかし、時間的に間に合わない問題ですから、先ほど申しましたように、あとでこの法の適用が正しくなかったというようなことで実は問題を起こさないように私は措置することを特に刑事局長に要請したいと思います。  大臣が来られませんから、これで終わりたいと思います。質問を打ち切ります。
  146. 石井桂

    委員長石井桂君) それでは、本日はこれをもって散会いたします。    午後零時四十六分散会      —————・—————