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参考人(
阿部康二君) 今度の
証券取引法の改正は、
証券業を
免許制に移すということが大きなねらいになっているわけでございまして、この方針はすでに昨年の十二月に
証券取引審議会から答申がございまして、今度の改正もそれに基づいたということでございます。それから、その
証券取引審議会には
証券界の代表も参加いたしていることでございますから、その方針については、われわれも何ら異論はございません。賛成いたします。
ただ、その方針が
法律の条文になってあらわれたのを見ますと、率直に申し上げまして、非常にきびしい感じを受ける、それから何か非常にえらい感じを受けることは事実でございまして、また
法律の条文の解釈等について疑義がないでもございませんので、また、この今度の改正はこれからの
証券取引法のいろいろな改正、あるいはそれは
日本の
証券市場の今後の方向に大きな
関係があると思いますので、国会においては十分ひとつ御審議をいただきたいと思うわけでございます。
また、今度の改正法によりますと、政府の裁量の余地が非常に大きくなりますので、運用いかんによりましては、われわれが念願いたしておりますような
証券市場の拡大
強化とはならない、あるいはマイナスにならぬとも限らないのでございまして、運用についてはさらに十分検討をしていただきたいと思うのでございます。
私自身がいま一番、きょうの
参考人の中では
証券市場に直接タッチしておりますので、具体的の問題につきまして、五つほど改正法の内容に関連しまして
意見を申し上げまして、審議の御
参考にしていただきたいと思います。
第一点は、
職能分化の問題でございます。で、もともと
日本の
証券業は、戦争前も実は
免許制であったわけでございまして、それが
昭和二十二年の最初の
証券取引法のときにも
免許制であった。それが二十三年の改正のときに登録制に改められまして、それから十七年間登録制のもとで
証券業は今日まで営業をやってきているわけでございまして、この登録制が今度もう一ぺん
免許制に逆転するわけでございますけれども、戦争前の
免許制と今度の
免許制の間には大きな相違がございます。それは二十二年の
証券取引法ではいわば包括的の
免許制でございました。今度はそれを
職能分化の
考え方を入れまして、
業務別に分けて
証券業者を免許する、こういうようなことになるわけでございます。ですから、今度四つに分けるという、たとえば
ブローカーであるとか、あるいは
ディーラーであるとか、
アンダーライターであるとか、セーリングであるとか、そういうような分かれた仕事を将来やるものが出現することに今度の
法律が備えるという
意味であるならば問題はございませんけれども、現在ある
証券業者をこういう何か四つの
業務に分けて
行政指導をされる、あるいはなるべくそういうふうに分けて
証券業が営まれるようにもっていかれるというならば、これは実は私は危険なことだと思います。
と申しますのは、現在の
証券取引法では、四十六条をごらんになってもわかりますように、
証券業者がお客さんから
注文があった場合には、
自分がその相手方になりまして
売買を成立させるか、あるいは
媒介であるとか取り次ぎであるとか、代理であるとか、つまり
委託でその商いを処理するか、それをはっきりしろという
規定はございますけれども、もともと両方やってもいいことになっておるわけでございますし、現実にいまの
証券業者は
ブローカーが主な
業務であるか
ディーラーが主な
業務であるかわからぬものも実はたくさんおるわけでございまして、ですから、それが今度
法律が変わってみな何か分けられるのかというようなこと、あるいはどっちかに重点を置いて考えなくちゃならないのかということになりますと、指導のしかたいかんによっては業界に思わぬ混乱を起こすと思うのでございます。ですから、
職能分化の問題はあくまでも
分化する方向で御指導いただくことにお願いして、無理に
職能を分離するような
政策は慎重にやっていただきたい、こういうことでございます。
それから、第二番目の問題は、
引き受け会社の資本金の問題でございます。今度の改正では、
証券会社の資本金につきましては、一般的には
法律で改正に合わして資本金を改訂するということにはなっておりませんけれども、その中で
引き受けをする
会社についてだけは資本金を上げると、こういうふうになっているわけであります。そこで、問題になりますのは、一体
引き受けとはどういうことかということだろうと思うのでございます。
日本の
法律では、たとえば商法で使っている
引き受けと、あるいはわれわれがいま
証券取引法でいっている
引き受けとは、内容が違うと思うのでございます。ここで問題になっている
引き受けはいわばアンダーライテングの
意味であって、商法で使っているようなサブスクリプションの
引き受けではないのであります。ですから、
証券を
引き受けて大衆に売っていく、売れ残った場合にその
証券会社がそれをしょい込むというような
意味の
引き受けでございます。その
引き受けは、別に
引き受けた
証券会社がその
証券を
保有することが目的ではなくて、その
証券はあくまで消化していくことが目的なのでございます。初めから全部取るような
意味で
引き受けるということはあり得ませんし、あれば間違いだと思うのでございまして、そうなりますと、
引き受け会社の資本金だけを何かことさらここで大きく上げるということにどういう
意味があるのかということでございます。また、現に
引き受けの仕事をやっております
証券会社の中には、いままでの
行政指導によって昨年の暮れようやく資本金二億円になっている
会社がたくさんあるわけでございます。そういう
会社が今度はまた一挙に
自分たちの手の届かぬほど大きな資本金に引き上げなくちゃならないのか、あるいは引き上げなければ
自分がいままでやれた仕事がやれなくなるのかというような不安を持っているわけでございまして、ですから、
引き受けという仕事が何だろうかということをお考えいただきたい。
それから、現実の問題になりますと、いま、ある
会社の
社債を
引き受けるというような場合でも、十の
会社とかあるいは十五の
証券会社が組んで
引き受けをします場合に、その
発行される
証券全額に対して共同で
責任を持っているのではなくて、
自分の分に応じてその一部を
引き受けるような形で
引き受け団に参加している
証券会社があるわけでございます。それは
自分の力に応じて
引き受ける分には差しつかえないのじゃないかと思うのでございます。ただ、
引き受け団をつくります場合に、
発行会社とその
証券の
発行について直接交渉をするようないわゆる幹事
会社ですね、また、幹事
会社は同時にシンジケートの
内部を固めていかなくちゃならない
責任もございますから、そういう幹事
会社について十分相手から信用を得られるかどうかという問題もからみますけれども、やはり相当の資本金でなくてはならないということは常識だろうと思います。しかし、それをどこまで上げるかという問題になりますと、あまり大きな数字になりますと、一般の
証券業者が、これからは
自分たちで努力し
引き受け業務でもやっていきたいというような
会社が、何か特定の大きいものだけしかそういう幹事
会社の仕事はできないのだということは、やはり業界全体からいいますと、一部には若干の抵抗があると思うのでございます。
それから、もう一つ、今度は、
引き受け会社の関連の事項の中で、
引き受けを専門にする
会社が出現することも可能のようになっておりますけれども、これは率直に申し上げまして、いま
証券業務と
銀行業務を分けてやるというような間隙を縫って、
金融機関が何か
引き受けだけをやるような専門
会社をつくるというようなことがもしあるとしますならば、それは
証券界としてはおそらく賛成できない問題ではないかと思います。
それから、第三番目に、今度の
法律で
証券会社の内容をよくするためにいろいろ保全是正の命令が出されることになっております。まあ五十四条
関係ではたとえば健全性の基準というようなことがございますけれども、その内容がどうもよくわからないために、いたずらに
証券界では不安に思っている向きもあるわけでございます。それから、もともと
証券会社の内容が健全になることは
証券業者自身も決してこれは異論を申し上げることはないわけでございますけれども、ただ環境をよく見ていただきませんといけませんのは、
証券会社ですから、たとえば
証券の
引き受けをやった場合の
金融であるとか、あるいは
売買の過程でやはり
資金は要るわけでございまして、そういう
証券金融が円滑であるか円滑でないかということで、
証券会社の財務
状況は非常に違ってくると思うのでございます。一流の
社債を
引き受けて残って持っておって、それが
資金化できないとか、あるいは
市場で非常に自由に売り
買いできる株券があっても
銀行の担保にかりにならないというようなことになりますと、それはその
証券会社の経営には非常に大きな圧迫になるわけでございますので、ですから、
証券会社の
企業内容をよくするということは、同時に少なくとも
証券金融についてはもっと円滑に、また必要な
資金は正常なルートで正常な金利で流れるようにしていただくことが同時に必要だろうと思います。
それから、今度の改正で、それに関連しまして、三つの準備金が
規定されてございますが、利益準備金については商法の
規定の特例を設けて
銀行並みにたくさん積むようにということでございます。これはもう積めれば非常にけっこうでございます。そうなりたいと思ってはおりますが、そのほかの二つの準備金のうちに
証券取引責任準備金というのがございますが、これは実は
皆さま方の御配慮によって現在税法上では特別
措置法によって損金処理を認められておりますから、問題ございません。もう一つ新しくつくられます
売買損失準備金につきまして、これはやはり税法の上で損金処理を認めていただきませんと、せっかくの準備金も生きてこないと思うのでございます。むしろ欲を申し上げますならば、この
法律は通していただきまして、むしろこの次の国会で
売買損失準備金の損金処理を認められるというようなことが通ったときに実施していただきますと、非常にいいわけでございますが、そうまいらなくとも、少なくとも次の国会ではわれわれもお願いしたいと思っておりますけれども、
売買損失準備金はぜひ損金処理を認めていただきたいと思うわけでございます。
第四点は、
外務員についての問題でございます。この
外務員は非常に広く、社員の外交もおりますし、いわゆる外交もおりますけれども、全体を通じて、
外務員の質を向上したいということは、
証券業者自身も常々考えている点でございまして、しかし、今度の条文はなかなかきびしい
条件でございまして、まあしかし、
証券事故といったようなものが非常にたくさんございまして、あるいはここにお集まりの皆さん方の中にもそういうような問題を訴えられた方も相当いらっしゃるのじゃないかと恐縮いたしますけれども、故そのものは実際は、
外務員だけが悪くて起きるとか、あるいは
外務員と
証券会社の
関係があいまいだから起きるというだけのものでは実はないのでございまして、一般の
投資家にもかなり不注意なりあるいは十分行き届いた注意をされないために、事故が起きたり、あるいは起きたその事故の処理がうまくいかなかったりするケースが実はたくさんあるのでございまして、
証券業協会とかあるいは
証券取引所が実は連合いたしまして、ずっと前から毎月相当の金を使って事故防止について
投資家に注意を喚起しておるわけでございまして、かりに過去一年間の数字を申し上げても、去年の一月から九月くらいまでは毎月新聞では二つないし三つ、あるいは四つ、九月くらいまでに八百万円くらいの金をそれに使っております。その後
不況で、十月以降新聞のそういう広告は中止しておりますけれども、やはりそのほかには文書によって、ビラとかポスターとか、あるいは小冊子等によりまして、常々働きかけておるわけでございまして、年間で千四百万くらいそういうものを使っておるわけでございますけれども、実は
投資家にも過失がないとはいえない場合もございますので、これは
外務員のほうの
関係をきびしくすると同時に、やはり
証券の知識全体について何か国民の水準が上がるように今後しむけなければならないのではなかろうかと思うのでございます。
ここで思い起こしますのは、戦後、
証券民主化運動というものが行なわれましたときに、これは一つの国民運動にまで展開したわけでございます。あの当時は、
証券の本質、そういうものを国民によく理解をしていただくという運動でございまして、その場合に、国会の
皆さま方からは、党派を超越した
民主化議員連盟というのがございまして、非常な
バックをいただきましたことを記憶しておるのでございまして、
日本経済がここまできまして、大きな転換期といえば転換期に差し当たっているときに、
証券の正しい知識をやはり持ってもらうということが必要じゃないか。そういうものと相まって
外務員の問題も考えていく、その間における
証券会社の
責任も考えていかなければならないのでございまして、少なくとも相手方に悪意ある場合はもちろんでございますが、やはり重大な過失のあるような場合も、すべて
証券会社の
責任に帰せられるということは、おそらく業界の
実情からいいまして、重過ぎる荷を負わされることになりはしないかと心配いたします。
それから、第五番目に、
投資家の保護ということについてでございますけれども、
証券の投資になりますと、
公社債から
株式まで、あるいはその間に投資信託がございまして、その投資信託の中にも、
公社債の投資信託と
株式の投資信託とそれぞれ性質は違います。違いますけれども、かりに
株式投資と
銀行預貯金と比べて考えた場合に、預金者保護ということと
投資家保護との間には、私は
根本的に相違があると思うのでございまして、預金の場合には、一万円預けて八千円になることはない。そのかわり一万二千円にも三千円にもなることはない。
株式の場合には、一万円で買ったものが八千円にもなれば六千円にも五千円にもなる。そのかわり一万五千円にも二万円にもなる。そういうのが
株式でございます。ですから、その値段をどうこう保護するわけにはまいらない。
株式に投資される場合に、
証券業者としては
投資家に対して、
投資家が投資をする判断をするに必要な
資料を間違いなく提供する、正しい
資料を提供する、そうして実際の売り
買いをされる場合にその値段が公正に行なわれる、そういうところが
投資家の保護の眠目であって、預金者保護との間にはどうしても相違があるわけでございます。それを、かりに
投資家の保護と預金者の保護が一緒のような形で考えられて、これから
行政が行なわれるとするならば、やはり直接投資と間接投資との、あるいは預貯金と
株式投資、それに対するそれぞれの妙味というものがなくなってくる。やはり
日本の
経済のような体制をとる国では、リスクを負っているやはりキャピタルが必要なんでございまして、そのために、
株式投資を取り扱っているほうからいっても非常に問題が多いことは確かにございますけれども、どうかその辺で
投資家の保護ということについてはひとつ広い立場でお考えになると同時に、
株式投資の本質ということも同時に一般にわかるような形で指導していただきたいと思うのでございます。
申し上げたい点は以上の五点でございまして、要は、今回の
法律の運用にあたりましては、
証券市場の拡大
強化の線に結びつくように運用していただきたいということを結びに申し上げまして、私の説明にかえさしていただきます。