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政府委員(
鈴木信次郎君)
資料の
説明に入ります前に、ごく簡単に
法務省の人権擁護局の機構と、それから人権侵犯事件処理手続の概要を御
説明いたしますのが好都合かと存じます。
お
手元に配付いたしました人権擁護
機関系統図という半ページの
資料がございますが、これをごらん願いたいと思います。その図面にあらわしましたとおり、中央
機関といたしましては、
法務省の一部局として人権擁護局があり、
地方機関といたしましては
全国八カ所の法務局内に人権擁護部、それから四十一カ所の地
方法務局に人権擁護課というのがございます。またそれらの法務局、地
方法務局の支局、これは
全国で二百三十八カ所ございます。この支局には人権擁護事務を取り扱う係が配置されております。そうしてこれらの人権擁護
機関の専従職員は、地
方法務局以上に置かれておりまして、合計百七十八名というふうになっております。これとは別に、
全国の各市町村に、市町村長の推薦によりまして、一定の手続を経て法務大臣から委嘱されました人権擁護
委員が本年二月一日現在で九千二百十一名ございまして、主として所在地区における人権擁護の活動に従事しております。そうしてその組織体といたしましては、これまた、そこに書きましたように、
全国三百カ所の地区に人権擁護
委員協議会、それから各都道府県、それから北海道はちょっとふえますが、四十九カ所に都道府県人権擁護
委員連合会、さらにそれを一丸といたします
全国人権擁護
委員連合会が結成され、人権擁護局及びその下部
機関と提携いたしまして人権擁護の活動をいたしております。
次に、人権侵犯事件の
調査、処理について
一般的な手続を申し上げます。人権侵犯事件の
調査、処理は、人権侵犯事件処理規程、これは
昭和三十六年
法務省訓令第一号ということになっておりますが、この人権侵犯事件処理規程に基づきまして行なわれております。この人権侵犯事件には、特別事件と
一般事件がございまして、そのうち特別事件は比較的重要な人権侵犯事件でございます。その受理及び処理につきまして本省人権擁護局、すなわち私
どものほうに報告を命じておるものであります。そうして、この処理規程は、具体的にその類型を定めております。特別事件以外の事件が
一般事件ということになっておるわけでございます。いわゆる
公害事件につきましては、すでに早く
昭和二十六年以来取り扱っておりますが、
昭和三十四年以降その取り扱い件数が毎年百件をこえるに至りましたので、
昭和三十六年、右の処理規程の改正に当たりまして、新たに
騒音、
ばい煙その他による
公害という人権侵犯事件の類型を設けまして、しかも
公害事件を原則として特別事件として取り扱っておるのであります。なお人権擁護
機関が受理しております
公害事件の大部分は、ただいまここで御指摘の
産業公害に関するもの、すなわち近代産業と結びついたものでありまして、
産業公害以外の
公害といたしましては、たとえば交通
機関によるもの、あるいは農村地帯におきまして家畜の飼育に伴うもの等がありますが、その数は年間わずか数件をこえるに過ぎないのであります。
事件の
調査は、主として被害者その他の申告によって開始いたしますが、新聞、ラジオ、テレビ等の情報、あるいは先ほど御
説明いたしました人権擁護
委員の通報によって開始することもあります。
調査の結果、人権侵犯の事実が認められる場合には、右の処理規程によりまして、
勧告、通告、説示、援助、排除
措置、処置猶予等の
措置をとることになっておりますが、これらの
措置には何ら法的な強制力がないということに御留意を願いたいと思います。
次に、前にお
手元に配付いたしました「
産業公害に関する
資料」についての
説明に移りたいと思います。
まず、事件の手続に従いまして、受理
状況から御
説明いたしますと、この
資料の第二ページをごらん願いたいと思います。第二ページに「
産業公害に関する人権侵犯事件受理、処理件数表」というのがございます。その左側の欄が受理のほうでございます。
昭和三十七年、八年、九年、最近三年間の事件数をあげたわけでありますが、その受理の
原因となりますのは、やはり
発生源となる
企業体等の付近の住民からの申告によるものが最も多くなっております。次いで、新聞、テレビ、雑誌等による情報、それから人権擁護
委員の通報というのが、これに次いでおります。次にその内容でありますが、
昭和三十九年度の総計は、まだここには——現在その全体の
数字がやっと出たところでありまして、個々の詳細の
数字が出ておりませんので、三十八年度の、しかも先ほど御
説明いたしました、私
どものほうに報告のあった特別事件のみについて申し上げます。その特別事件の全事件、目録、これは
資料の三ページと四ページになっております。
昭和三十八年度の事件につきまして、これを種類別に分けてみますと、第五ページ以下の表になります。この表につきましてちょっと御注意願いたいのは、五ページの第二というところに書きましたように、同一の事件が数種の
公害を含む場合——たとえば、
建設業が
騒音と振動の源となる場合など——及び同一事件において相手方が数種の処置をとった場合、たとえば操業時間を調整するとともに
工場の一部を移転させる場合等が多いので、この以下の
数字は必ずしも事件数とは一致しない。事件数よりも多くなっているということを御注意願いたいと思います。
この五ページの一番下の「
産業公害の種別件数表」というところにございますように、一番多いのは
騒音によるものでございまして、三十九件、四一・六%となっておりまして、次いで振動十五件、一六・一%、悪臭七件、七・五%、以下、廃液、汚水、
ばい煙、
粉じん、
有毒ガス、その他、こういう順序になっております。それから、そのおのおのにつきまして、八ページ以下にさらに詳細な分析表をつくっております。すなわち、
騒音につきましては、八ページに掲げましたように、よって生ずる被害といたしましては、安眠の支障、会話・ラジオ等の聴取不能、勉学にも支障を来たす、病人の安静に障害を与える、精神に不安定を与える、幼児保育に障害を受ける、家畜に被害をこうむる、営業に障害を及ぼす、平穏な生活に支障を来たす、頭痛を感ずる被害。それから戸数、それはそこに記載されているとおりでございます。業種、そこに書いたとおりでございまして、大部分は
工場の機械から発するものでありますか、採石作業、ビルの建築作業に伴うものも若干受理されております。振動によるものにつきましては九ページ、やはり同様に、被害、戸数、業種というふうに記載しております。それから悪臭につきましては十ページ、廃液・汚水につきましても、やはり十ページの下のほう、それから
ばい煙につきましては十一ページの上のほう、
粉じんにつきましては十一ページの下のほう、
有毒ガスにつきましては十二ページの上のほう、その他が十二ページの下のほう、というふうになっております。
そこで、これらの事件を
調査いたしまして、そり事実が認められました場合の処理をどうするかといいますと、またもとへ返っていただきまして、第二ページをごらん願いたいと思います。
第二ページの右のほうの欄に「処理」として、最近三年間の総計が記載してあります。この処理のうち、排除
措置というのが三年とも一番多くなっております。この排除
措置と申しますのは、事件
調査の結果、人権侵害の事実が認められました揚言、
関係者に人権を尊重すべきことの意義を認識させるための説得を行ないますとともに、問題解体のための勧奨、あっせん等を行ない、相手方に自主的に、侵害の停止、回復その他必要の
措置をとってもらうものであります。
具体的にどういう
措置をとってもらうかといいますと、その総計が七ページに出ております。すなわち、七ページの一番上のほうの
事項といたしまして、
設備、技術改善によりほとんど被害がなくなるというのが、件数にいたしまして四十件、四五・五%、
工場を他に移転いたしましたものが十件、一一・四%、和解が成立したもの、損害の補償をして和解が成立したというものが十件、一一・四%、以下、そこに記載したような
状況になっております。先ほ
ども御
説明いたしましたように、人件侵犯事件の
調査処理には何らの強制権限もないのでありますけれ
ども、それでも、この
資料が示しますように、相当の効果をあげることができたと私
どもは信じておるのでございます。
次に多いのは処置猶予となっております。また第二ページの総計をごらんになると便利かと思います。この処置猶予と申しますのは、侵犯の事実は一応認められますが、侵犯者の性格、年齢及び境遇、侵犯の軽重及び情状、侵犯後の
状況並びに被害の
程度、被害者の
状況等によりまして処置を猶予するのが相当と思われる件であります。それから左側のほうにいきまして援助というのがございますが、これは、被害者を救済いたしますために司法的あるいは
行政的救済の手続によるのが相当と認められます場合、
関係官公署その他へ連絡したり、あるいはいわゆる
法律扶助
機関へのあっせん、
法律上の助言等を行なう
措置をいうのでございます。
なお、このほかに、
勧告、通告等の
措置をとることもできるわけでありますけれ
ども、
産業公害事件につきまして
勧告、通告等をいたしました例はあまりないのでございます。そこで最後に、私
どもの将来の
対策といたしまして、以上のように、
一般的に申しまして
公害による人権侵犯の救済につきまして相当の効果をあげているものと私
どもは思っておりますが、しかし、近時、産業の発達に伴いまして、その
公害の
程度、範囲はますます増大する傾向にあり、しかも、法的
規制も不十分な分野の多い事件と、しかもわれわれは強制力もなく取り組んでいるものでありまして、これは容易なことでは、その
目的を達することができないということを痛感しておるのであります。また、その
調査処理にあたりましては、科学的な技術と専門的な知識を要することが多く、ますますその困難を感じているのであります。また、
公害事件はこれを強制的に解決するためには、現在のところでは、どうしても裁判手続に乗せなければならないと思われるのでありますけれ
ども、裁判手続に乗せたといたしましても、まず第一に、その立証に相当の困難がある。それから、
結論を得るまでには相当の日時を要する実情から見ましても、どうしても、やはりこれは先ほど来しばしば他の官庁の方から御
説明があったわけでありますが、全般的に
行政上の予防あるいは排除
措置をとることができるような法制を
整備する必要があろうと考えるのであります。われわれ人権擁護局といたしましては、機構の
整備充実をはかることはもとより、
一般住民に対する人権尊重の
啓蒙活動を、より一そう徹底させるとともに、
関係官公署等と連絡協調をさらに緊密にいたしまして、
公害の排除と、その発生の予防に、さらに一そうの努力を重ねたいと、このように存じておる次第でございます。