○
芹澤公述人 私には物価の問題とそれから中小企業の問題について報告をせよとのお話で、実は物価問題というのはたいへん大きな問題で、もちろんあらゆるところでもう問題にされておりまして、それに、私の申し上げることがお役に立つかどうか自信はないわけでございますが、ただ、念のために、きょう、時間があまりありませんでしたが、いろいろ新聞の切り抜きをつくってみまして、非常におもしろい——おもしろいと言っては失礼ですが、二月の十三日の読売ですか、IMFのほうで、各
理事国が
日本の例の対日年次協議の報告に対する
理事者の批評ですけれ
ども、その中に、消費者物価の安定を考えるべきことというようなことがある。外国まで
日本の物価騰貴がかなり有名になっておるらしいのです。しかも、IMFの関係で、要するに八条国に入れば自由化いたしますから、そうしますと、国際収支が困難になった場合に、
日本のいわゆるそういう通貨の、前のような外貨割り当てみたいなことはできなくなる、そうしますと、物価が騰貴したとき
日本がお困りだろうということらしく思います。
それほど大きな問題でありますし、もちろん
政府におかれましても、幾たびか物価対策を考えられましたし、ことしも物価対策は、一月の二十二日ですか、閣議了承でいろいろ対策を立てられております。そして、一々ごもっともなことでございますが、それじゃ具体的に物価を押えるにはどうすればいいかということで考えますと、学者の間にもいろいろ
意見の違いもある。それから、現実に物価と申しましても、いろいろ品物によってみな原因が違う上がり方をしております。それをまとめて何か一本で言えないかと言われると、私
ども実はよくわからない。ただ、大体こういうことが言えるのじゃないかと思いますが、第一の問題は、現在よくいわれておりますが、生産性が低い産業部門のほうの物価がこういう
段階には上がってくるのだ、これは、現時点といいますか、現在の
状態だったら、確かにそうだと思います。現実に人手不足が起こってきた。これは、高度成長の結果のいい面であるか悪い面であるか、いい面でもありましょうし悪い面でもある、まあ両方ございますけれ
ども、事実としては人手不足が起こってくる。人手不足が起こってきますと、一般の現象としまして、いままで
日本にあったところの、これも
日本独得の傾向だといわれておりました賃金格差がなくなってきて、そのために一般のいわゆる生産性の低い産業でも賃金が上がってくる。そのために生産費が上がってくる。これは、賃金コストといわれておりますが、そのために製品価格が上がる。あるいは小売り商
あたりで従業員の待遇をよくしなければならぬ。そういうことから、流通費用と申しますか、要するにマージンでございますね、これがどうしても高くなる。そのためにいろいろ物価が上がる。これは、ほとんど常識的にも感じられていることでございますが、いま消費財に関係する品物のほうが生産性の低いものが多いわけでございます。早い話が食料でございますね。肉類なんかも、二、三年前から
政府のほうでもたいへん問題にされておるようでございまして、これは当然そうなるし、一般的に言えば農産物、それから中間マージンとしては小売り商の収益率の問題。もとの原価がたとえば百円しても、小売りの場合には二百円になる。高過ぎるからという議論がずっと毎年行なわれておりますけれ
ども、高過ぎるといいましても、実際に小売り商も生活をしていかなければならぬから、そういうところに値段が落ちついてくるわけであります。もちろんこまかい点については私もよく知りませんけれ
ども、たとえば牛肉の場合なんか、大体小売り価格は五円刻みで上げたり下げたりするという話でございます、小売り商の方に聞きましたのですけれ
ども。そういう場合には、五円の間では上がらないけれ
ども、五円すぽっと上がる。だから、そのかわりに、下がっても五円下がらなければ下げないといわれておりますが、おそらく下がるときにはなかなか下がらないのじゃないかと思います。そういうこまかい問題もございますが、一般にやはりそういう生産性の問題が影響するために、消費者物価、特に食料品関係が上がるだろうということ。これはもう皆さん方も御
承知でございましょうけれ
ども、農業について特に大きな問題があります。これは、私よりか、また別に
公聴会でどなたかお話しになると思いますが、しかし、今度の近代化の問題についても、中小企業、これはあとで触れたいと思いますが、と同時に、やはり農業の近代化という問題を考えなければならない。しかし、これは大内力さんが非常に詳しいようでありまして、大内力さんとせんだって会いましたが、農林省のやり方には協力できないと言っておられました。これは、学問的にはむずかしい問題でありますが、
政府だけの問題ではないのでありまして、おそらくは米の価格
あたりは、外国の輸入価格に匹敵するくらい下げるのだったら、専門家のほうで見ますと、三十町歩ですか、そのくらいで機械化しなければとてもやっていけないのじゃないだろうか。ところが、あそこの八郎潟なんかは十町歩に切られておる。今度は地元
あたりでは五町歩にしろというような要求があるようであります。それは、まわりの大きいところでも一町五反、一ヘクタール半くらいですから、それに対して三十町歩なんていったら、これは企業格差でございます。であるから、従来の農業の方々の反感が起こるという非常にむずかしい問題があるようでございます。だから、政策的にいけない。だがしかし、結果といたしましては、たいへんな問題が起こると思います。これは農業問題で、特に専門の方にお聞き願いたいと思います。しかし、これもやはり生産性がおくれてくるために上がってくる。米価問題に非常に困難が起こってくるのはその点だと思います。それで、今度のことしの
予算なんかにも、そういう生産性のおくれているのは中小企業関係が多いので、それの近代化の
予算をお入れになって、これはふやされておる。けっこうなことだと思います。それがどの
程度効果があるかということは、中小企業問題としてあとで触れたいと存じます。
その前に、一般的な物価につきまして何か具体的な施策があるかどうかということでありますが、これについて二つの問題があります。その
一つは全般的な通貨価値の問題、それから、いま申しましたように生産性と、二つありまして、近代化云々というのは生産性を上げるということだろうと思います。
しかし、もう
一つの通貨問題が非常に重要なことになります。これは、よくコストインフレ論というのがありまして、結局、最近人手不足で賃金が上がっておる、賃金が上がってくれば生産費が上がる、生産費が上がるから物価一般が騰貴する、したがって賃金を押えなければならぬという議論が相当広く行なわれております。さっき申しましたように、生産性のおくれた産業においてはそういう現象が起こっていることは事実でございますが、全般的にすべての物価で一斉に上がるかどうかというと、必ずしもそうではない。これについては、学説もあるし、いろいろ問題がありまして、私もここであまり深入りはしたくないのでありますけれ
ども、やはり問題になっているので、ちょっとめんどくさいことでありますけれ
ども。実際生産性が上がらないから物価が上がるというなら、生産性が上がったら物価は下がるかというと必ずしも現在はそういうふうになっておりませんので、これが
一つ問題であります。これについてはちょっと原則的なことに触れたいと思いますが、経済学者のほうではどの学派でもほとんどこれは
意見が一致していると思いますけれ
ども、純粋の資本主義というか、自由経済という
条件ならばそういう現象は起こらないということは、これは、いろいろ学派がございますけれ
ども、大体
意見が一致していると思います。ただし、それには
条件があるわけでございまして、
一つは完全な自由競争が行なわれるということ、それから、もう
一つは金本位制度をとるということです。ところが、この二つが現在行なわれておるかどうかということになりますと、ここに非常に問題があるわけでございます。御
承知のように、大体一九二九年から三〇年、いわゆる戦間期間、第一次大戦から第二次大戦の間に
世界的な大恐慌がございまして、そのあと自由主義諸国——
社会主義諸国も同時でございますが、金本位制というのは放棄してしまった。それ以後は管理通貨制度の
段階だといわれております。現在ももちろん管理通貨の
段階であります。この管理通貨の
段階になりますと、通貨価値の安定が非常にやかましく政策の中に入ってくるわけであります。金本位制の場合ならば、金と中央銀行のお札は兌換いたしますから、当然に絶えず金の値打ちで貨幣価値が落ちつけられる。それができなくなったということは、御
承知のように、非常な不景気があって、国際収支の問題からついに金の兌換ができなくなった。それじゃ現在金本位制を完全に
世界じゅうが放棄しているかというと、必ずしもそうではない。たとえば
アメリカは、国内においては兌換いたしませんけれ
ども、国際的にはやはりよその銀行が
アメリカの金を要求すれば渡す。このことがいまのドルの危機の原因になっておりますが、いずれにいたしましても、金本位制は国内的にはどこもとっていない。そういう
条件が第一の問題になります。そこで、そういう
状態においては、ことしの
予算編成方針、十二月十八日閣議決定にちゃんと通貨価値の維持云々ということをうたっている。これは毎年のことだと思いますが、実際はなかなか維持できない。維持できないことがやはり徐々に一般的な物価騰貴の原因をつくっているのじゃないだろうか、これが通説でございます。また、事実、数字をあげましても、たとえばこれは経済企画庁がお出しになっている経済月報がございますが、これを見ましても、一体どこに問題があるかというと、そのものずばり申し上げますと、やはり
日本銀行の貸し出し残高がふえておるということ。これは非常に大きな問題だと思います。この古い数字はここに出ておりませんので、ちょっと調べてまいりましたが、
昭和三十三年ごろの貸し出し残高は三千七百億くらい。三十四年はむしろ下がりまして三千三百億くらい。それが三十五年、つまり池田内閣ができた前後からでございますが、大体三十五年の十一月ごろからだんだんと貸し出しがふえまして、十二月はすでに一兆二千億円。その後は一兆二千億円から一兆一千億円の間をずっといっておる。つまり、これだけ焦げつきということになっておるわけです。つまり、前から見ますと三倍か四倍くらいに日銀の貸し出しがふえたまま来た。と申しますのは、三十六年以降の高度成長は少し行き過ぎだったということ。これは、皆さん御
承知でしょうが、あの当時所得倍増
計画をつくった大来佐武郎さんが、たしか三十六年の春です、自分が中心になって
計画を立てたのだが、その初年度においてすでに十年後の
設備投資四兆八千億になろうとしておる、これであとはどうしてくれるのだという論文を書いて問題になったことがございますが、そのあとからどういう現象が起こったかというと、同時にそのころから消費者物価指数が上がり始めております。これは事実でございます。なぜそうかということは、またいろいろ議論がございましょうが、
政府でお調べになった数字から見ましても、この三十五年まではむしろ消費者物価は、たとえば三十四年から三十五年には少し下がっております。大体横ばいである。三十五年以後じわじわと上がり始めております。ちょうど偶然と申しますか、何と申しますか、とにかく日銀の貸し出し残のふえ方とほぼ同時にそういう現象が超こっておるわけであります。でありますから、これは非常に大きな問題じゃないだろうかと思います。なぜ大きな問題かというと、どうすればいいかという場合に、当然でありますが、そういう
段階になると、いつでも輸入がふえて、それから国際収支が悪くなって、金融引き締めということが繰り返されておるわけですが、金融引き締めがされたならば、いままでだったら大体そこで物価が落ちつくという
段階になったのが、引き締めても下がらないという
段階に入ってきたわけであります。これは非常な広い範囲に広がっておりますので、病気で言うと、かなり重症な第三期症状になっておる。荒療治をしないとなかなかなおらない。これもちょっと参考に、私が申すのではなくて、新聞に記事が出ておったから、それを引用するわけでございます。別に皮肉るわけじゃございませんけれ
ども、一月五日の朝日新聞でございますか、「見当らぬ特効薬、物価対策」とあって、その中に、ただしある、大平自民党剛幹事長は「特効薬はやろうと思えばある」とおっしゃる。「イタリアは物価対策のための増税をやった。」、これは田中さんです。それから、大平副幹事長は、「国の
予算をめっぽう小さくして枯木
財政をやり、日銀のカネを極端に締めるのさ」と言っている。これはほんとうにそのとおりなんです。それをやられれば物価は確かにとまります。ただ、実はその問題で去年
あたりは問題が自然中小企業の問題に移っていくわけでございます。それをある
程度でもやられますと、どこかにしわが寄っていくという現象がいま起こっております。それは、去年の秋ごろから中小企業倒産が激しくなってきて、現にこの二、三月危機というのが毎日の新聞に出た。ここにも念のために持ってまいりましたが、かなり新聞紙面をにぎわしておるわけでございます。そういうような形でしわ寄せがどこかにいく。ですから、確かに物価を押えることは押えられるのでありますけれ
ども、ひどい出血をしなければならぬ
段階に来た。このことをお答えいただきたいと思います。学者はそういうときに非常に簡単に、それはもう資本主義の持って生まれた運命だからしようがないと言われるかもしれません。そう言えばそうであります。ですが、とにかく曲がり角に来たといわれることは、おそらくはそこにあると思います。これは、私が申すのではなくて、基本的な問題でございまして、これも大内力さんの
日本経済論というのにある。これは非常に興味のある問題です。これは、全部の学者じゃないかもしれませんが、一部の学者の間ではいわゆる国家独占資本主義という名前が使われて、非常に議論されたのでありますけれ
ども、国家独占資本主義の特徴をどこに求めるかということになりますと、これはお聞き捨て願っていいのですが、ただ、理論的な問題でありますが、大内さんはこういうことを言っておるわけです。つまり、管理通貨制度は、資本の労働に対する関係を、国家権力によって媒介される関係に転化する、たいへんむずかしい
ことばでありますが、労使の間の賃金決定に関して、管理通貨制度の
段階では、物価一般を上げることによって実質賃金が下がる、こういう傾向を生み出してくる。意識的にやる場合もあるし、意識的にやらない場合もありますが、少なくとも前総理大臣の池田さんは十分それを御
承知だったと思います。でありますから、高度成長の
段階において、ある
程度物価が上がる、それから名目賃金が上がるのは当然じゃないかということを言われましたのは、大体管理通貨の政策としてそういうことをとらざるを得ない。そのおかげで絶えず労資の分配率、これは近代経済学で言う
ことばでございますが、資本のほうの利潤部分、つまり企業の収益分の分配率というものがまた押し戻されるということになるわけです。絶対的にふくらんでくるわけです。そういう現象は、つまり全体として現在の自由主義経済の土俵というものが徐々にふくらんでおりまして、それで自由主義経済というものは成長ができる、そういう考え方が私
ども基本的にあるのではないかと思います。ですから、適当にやっておれば、幾らか物価は上がりますが、たいした問題は起こらない。ですから、これは
アメリカあたりの近代経済学、ケインズ系統の経済学者でありますけれ
ども、そういうのをクリーピング・インフレ、忍び寄るインフレというのですが、そうしますと名目賃金が上がる。しばらくたつと物価が上がる。また、名目賃金は上がったけれ
ども、実質賃金はもとに戻る。
アメリカはそういう
段階であります。むずかしいのは、そういう
段階ではかなり成長率が低い。成長率というものをどう見るか、またいろいろ問題がありますけれ
ども、普通少なくとも四%から五%くらいの成長率でなければならないと近代経済学で言われております。それをこしてきますと、クリーピング・インフレでなくなるということが言われておる。それが、たまたま
日本では
昭和三十五年以降の政策でその
段階が変わってきた。これが現在の問題を非常に困難にしたことじゃないだろうかと思っております。それは、いまの大平さんとか田中大蔵大臣が言われているように、
財政規模をぎゅっと締める。
アメリカなんか減税政策というのをやっております。一応の安定をさせるということができるのでありますが、
日本では、現在
財政一般の一体どこを締めるんだという問題がいつでも問題になるわけでございまして、なかなか締められないだろう。締められれば、またいろいろどこかにしわが寄ってくる。ですから、これはお考え願いたいのですが、しいて締めるとすれば、これはある場合におしかりを受けるかもしれませんけれ
ども、やはりおもに公共事業の土木事業、これを締めるよりほか
方法はないだろうかと思います、当然増のものが非常に多いものですから。
財政政策としてはほかに
方法がない。
それから、もう
一つは、物価一般の点について、現在でもこれはもうすでに
政府のほうでもお考えになっていらっしゃって、これはぜひひとつやっていただかなければならぬ問題と思いますが、例の地価対策であります。これも大体着々とお考えになっていらっしゃるようですから、ぜひこれはやっていただきたいし、これは、新聞記事を読むまでもなく、皆さん方のほうがとくと御存じでしょうから、引用いたしませんが、これは相当思い切った対策をされる必要があると思います。農地改革が行なわれて、耕作地は小作がなくなりましたけれ
ども、宅地関係というものは自由にされておる。これが一番困るんで、物価騰貴と申しましてもいろいろあるので、結局、物価騰貴は、一般の
国民生活、特に勤労者に響いてくる場合には、やはり地代、家賃、これが一番大きく響くと思います。しかも、たとえば日常の食品その他の値上がりをとめろといっても、一般通貨対策でなければ片づかぬということになっておりますが、これはあとの中小企業問題でちょっと触れさしていただきますが、一般的には土地というものは独占でありますから、これをどんどん値上げをされていったらどうしようもない。何も経済学でなく、常識で皆さん方お気づきと思いますから、この際これは思い切って何か手を打っていただきたい。どうするかということになったら、空閑地税とか、去年からいろいろ問題になっておりますが、やはり、できたらある
程度目的税みたいなもので空閑地税をかけて、その空閑地税は別にプールいたしまして、それで、そういう土地をどんどん買い上げるというような考え方、別にこれは新しい考えじゃない。
イギリスの昔の有名な文士の方、ちょっと名前は、年をとると忘れますが、そのうち思い出しますけれ
ども、その人が言ったように、土地の値段が上がることは
イギリスでもやはり問題だったのです。そのときに、自分も地主だ、だから国に無償で取り上げられるのはいやだ、税金をかけてくれ、税金をかけてもらって、みんなその税金で買ってくれればいいのだ、こういうことを言われた人があります。空閑地税なんかの考えもそうでしょうが、いずれにしても、現在あっちこっちが行き詰まっておるときに、とにかく一応やれるのはそこだ。ただ、この点も、具体的に申しますと、非常にたくさん金融機関のほうで土地をお持ちになっていらっしゃる。それから観光事業、この辺から猛反対があるのじゃないかと思います。しかし、最近はかなり問題が切迫してまいりましたので、地価だけでも押えようじゃないかという政治的な御
意見が強くなっておるのは非常にけっこうだと思います。これはぜひとも何とか一般のやり方としてやっていただきたい。
それから、片方の通貨政策のほうでございますが、これは非常にむずかしい。というのは、ちょうどゴム風船みたいなかっこうになりまして、オーバー・ローンといいますが、一兆二、三千億円になっておる日銀の貸し出しを、つまり市中銀行に対する貸し出しですから、これを引き揚げる。引き揚げると、市中銀行はまた産業界に対する貸し出しを引き揚げる。そうすれば企業倒産が起こるだろうという問題でございます。それがあらゆるところに響いておって、これもすでに過去の既成の事実になっております。これはひどいものでございまして、現在は、いわゆる金融費用、つまり銀行から借りた金に対する利息あるいは社債発行の手数料、そういうものが
人件費に非常に接近してきております。ですから、各企業があんなに借金をしなければ、収益率はほんとうなら高いはずなんですが、最近は幾らかせいでもみな銀行に払うということになっておる。そこで、
人件費を切り下げようとする。
人件費を切り下げるためには
設備を入れなければならぬ。
設備を入れるためには借金をしなければならぬ。こういう悪循環がいま起こっております。しかし、これも必ずしも全部がそうだとは言えない。これはある学者が調べたので、ここへ持ってこなかったのですが、一般的にはその傾向があるけれ
ども、非常に高度成長を遂げた個々の会社、個々の企業については、必ずしもそうでない。たとえば、具体例を申しますと、日産、トヨタというような自動車会社なんかは、資産
状態は非常によろしいわけでございます。どんどん売れていて、しかも借金はふえていない。むしろ鉄鋼関係とか——鉄鋼関係は横ばいとも言えません。成長しておりますが、それ以外のわりあいに成長しない産業は借金が多いわけでございます。これはいま既成の事実、つまり
昭和三十年以後そういう既成の事実が積み重なったので、この解決は急にはできないと思います。もしあれだとするならば、その問題はたな上げでございますか、前からオーバー・ローンたな上げ論が何度も金融界あるいは財界のほうにも出ておりますが、くぎづけしてしまう。現在その問題が、実は風船玉の横のところをぎゅっと押えられて金融引き締めをされますから、会社は苦しまぎれに増資と来る。増資と来ると、今度は証券界に増資株がぱっと出てくる。そこで株ががたっと落ちてしまう。さあたいへんだというので、今度は共同証券をつくる。そこに
日本銀行がてこ入れをする。今度は株が上がった。下がらない。下がらなければ買い手がないだろう。こういう矛盾がいま起こっておるわけです。インフレ的傾向の解決策をこう薬ばりでやると、こういうふうにだんだん広がっていっておりますので、この際急の引き締めをすれば、中小企業問題がすぐ起こる。これも、新聞なんかで二、三月危機が問題になっておりますのは、そういうことになるわけでございまして、実は、この関係につきましても、
政府側もずいぶん注意されたり、去年の十二月には、商工中金とか、中小企業金融公庫、あるいは
国民金融公庫
あたりからたくさん金をお貸しになっておられる。それが大体この三月ごろ返済期になる。返す見込みがない。それでどうしようかという問題でありますから、今度の
予算で切りかえということで何とか救済をされることと思いますけれ
ども、しかし、民間の間で起こっておる問題があるものですから。それは企業間信用ということで、きょうの新聞にも、二、三の新聞に出ておりました。
日本経済新聞に一番詳しく出ておりますけれ
ども、前から言われておったのですが、日銀の吉野さんが調べたものらしいですが、大体会社と会社の間の信用がいま二十兆くらいになっているだろう。日銀の貸し出しが一兆何千億と言いますけれ
ども、それから見ると、二十兆というのはたいへんなものであります。つまり、Aの会社がBの会社から品物を仕入れた分を借金にする。そうすると、今度は売ったほうのBの会社はまたCの会社に借金をする、堂々めぐりであります。だから、どっかで支払いができなくなると将棋倒し。連鎖反応、連鎖倒産と言われているのがそれになりますが、そのうち、つまり融通手形はおそらくは四兆円くらいあるだろうと専門のほうの人たちは言う。これははっきりわからぬですけれ
ども、それがちょくちょく顔を出してきた。融通手形が表に出ますと、その会社がつぶれるという現象が去年の秋ごろからずっと広がっておるわけであります。これにてこ入れをしなければならぬですが、そういう場合に、銀行が親会社のほうに金を返させますと、今度はその親会社は下請会社のほうの支払いを延期する、こういう現象が起こる。これも一般にすでに認められておるが、なかなかつかまえられない。ですから、立ち入り調査までやったらどうだろうかということが、公取委
あたりを中心にして、あるいは議会でもおそらく問題にされておると思います。とにかく下請をしぼるという形をとってくる。つまり、そういうものは高度成長のひずみで、引き締めが行なわれて物価騰貴を押えようとすれば、そういうふうに大企業が下請企業にしわ寄せをやっていく。それからもう
一つは、全体として今度はいわゆる不況カルテルというもの、この不況カルテルはやむを得ないとは申しますけれ
ども、景気のいいときには物価が上がる、これは当然であります。そして、景気の悪いときには物価が下がって売り上げ高が減る、収益率が落ちる、これがノーマルな形である。いままでの行き過ぎ、金融引き締めのサイクル、
昭和三十五年くらいまでの動きでは、大体会社の経理
状態を調べましても、そういうふうに景気のいいときにもうけはうんとふえる、景気の悪いときにはある場合には赤字まで出る、これを繰り返してとにかく現在まで続いております。それが現在の場合では、引き締めをやると、倒産までいってしまう。ということは、さっき申しました借金がふえ過ぎておる、どうにも処置ない。つまりゴム風船がふくらんだまま縮まらなくなったということです。それで、引き締めをやっても、ある
程度ちょっとやりかけますと、すぐ中小企業にしわ寄せがいく。現に、片方のほうでは不況カルテルをつくる、片方のほうでは系列の切り捨てをやる、つまり注文をだんだんと減らされていきます。それで、いわゆる下請系列がつぶされていく。これはしかたがないといえばしかたがないでありましょうし、てこ入れしたらどうかという問題もございますが、いまのところは、徐々にてこ入れを進めていってやりながら、片方のほうで何か転業する人は転業してもらうということよりほかにいい知恵はないのじゃないか。でなければ、さっきの田中大蔵大臣の言われるような思い切った政策をとる。しかし、実際それができなければ、様子見と、それほどむずかしい問題が起こっております。それで、もちろん中小企業については選別融資をされる。大企業のほうへなかなか
貸し付け金の引き上げはできないでしょうが、少なくとも中小企業のほうには、やはり特に当分の間、そういう
事情でございますから、重病がなおるまで安静
状態ということで、かなり巨額の
資金をつぎ込む必要があるだろうと思います。その点がことしの
予算の中小企業対策の中に出されておりますが、
財政関係の金庫及び公庫
あたりから二千億円くらいの金も出される。つまり去年貸し出したものを引き揚げないで、そのまま続けていくということをやられる。それから、ある意味ではやはりそういうものの利子の補償をする。これについても、銀行との間で歩積み、両建てというやかましい、つまり実質上の金利引き上げをやっておるが、これをやめろ。去年のもう夏ごろから問題でございましたが、これは、ラジオなんかの放送で中小業者の
意見が出ても、それをやめられたら困るんだ。たとえば、私のほうは銀行に百万円借りに行ったら二百万円貸してやる、そのかわり百万円を預けろ、そうすると、利息はその分だけ高くなります。そういうことをされておる。だから、それを
政府が取り締まる。公取委のほうでも考えられた問題ですが、取り締まろうとしますと、そのためには結局は借りたほうが報告しなければならぬ。ほんとうのことを言わなければならぬ。そうすると銀行は貸してくれれない。困る。こういう事実がございますので、たいへんむずかしいのです。むしろ私は、一般の公共企業その他
政府保証債の利子を補償するというやり方をやっておられますが、中小企業金融についても利子の補償をされたほうがいいのじゃないかと思います。結局、それは銀行は歩積み、両建てでもうけるからよくないという御
意見もあると思いますが、それは、倫理的な道徳的な批評としてはそうでございますけれ
ども、実際はなかなかそんなことはできない。できないことを要求してもできないでありますから、むしろ公庫関係を通じまして金を出される。それから、そういうことをなさらないでも、実際いま中小企業は二つに分かれている、どんどん下向きになっていく企業と、それから成長する企業に分かれておるようでございます。だから、それもいまの
状態ならば安静
状態にしておいて、だめなものはだめ、もはや資本主義というものはしようがないといえばそういうことでございましょうが、そして職業をかえてもらうとか、そういうことを考えなければどうもほかに
方法がないだろう。
私の報告は、実にお役に立たぬ
ことばかり申しまして申しわけないのでございますが、これは、企画庁
あたりがさんざん御
研究なさってもなかなかいい知恵が出ないので、一人の人間に出せといってもこれは無理でございます。
そういうようなことで私の報告を終わらしていただきたいと思います。(拍手)