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竹本孫一君 私は、民主社会党を代表いたしまして、
中小企業の
倒産等当面の
経済危機の諸問題について、
政府のお
考えをただしたいと思います。
池田内閣の
高度成長政策をある外国人が批評いたしまして、「日本の
政府はとまることを知らない馬に乗って走っているようである」と言ったのであります。全くそのとおりで、毎年実質九%に及ぶその
高度成長政策の失敗は、昨年からきわめて顕著になってまいりました。それを象徴的に示すものは、物価高と株の暴落と
中小企業の
倒産であります。物価は、
昭和三十九年度においても四・八%の上昇を示し、株は四千億円のてこ入れをしてもなお千二百円の大台を守ることができないのであります。
中小企業の
倒産は、本年に入りましても三月末までにすでに千四百三十件、
負債総額千八百六十九億円、いずれも昨年の二倍でありまして、まさに史上最大の記録を示しておるのであります。
高度成長に伴う過剰生産、過剰設備にこりた
佐藤内閣は、政権担当以来
安定成長を唱えてまいりましたけれ
ども、
日本特殊鋼、サンウエーブ、さらには山陽特殊鋼等の相次ぐ
倒産は、
政府の安定
政策が口先だけのものであって、何らの実体を伴わないことを暴露しておるのであります。
経済の不況感は、いまや薄らぐどころか、逆に一段と深刻化し、定着化しつつあるのであります。
経済界には、昨年度七十億ドルをこえ、本年度八十億ドルが期待されるという輸出の好調以外には、明るい情報はほとんどないのであります。
私の
質問の第一は、この深刻な
経済不況に対する
佐藤内閣の
安定成長政策の中身についてであります。
日本の
経済は、終戦以来、成長することが安定への道でありましたけれ
ども、いまや安定することが成長のかぎであります。しかるに、
佐藤内閣は、
池田内閣の
閣僚だけではなく、
政策までもそのまま引き継いで、いまだに独自の性格をほとんど打ち出しておらないのであります。政治のスローガンは、寛容と忍耐が寛容と調和へ、
経済政策は、
高度成長から
安定成長へ、いずれも半分ずつ
池田内閣の亡霊を引き継いでおられるのであります。かつて
池田時代は終わったと喝破された
佐藤総理は、一体いつになったら、また、いかにして独自の政治性格を打ち出されるお
考えであるか、
池田内閣以来の破産
経済学は、この際、はっきり清算していく御決意はないか、承りたいと存じます。
大蔵大臣に伺います。
「初めに
銀行ありき」ということばが最近使われております。毎年四兆円から五兆円に及ぶ
設備投資は、
銀行の
貸し出し競争に重大なる
責任があります。日本には
融資ルールも増資
ルールもほとんどなかったのであります。すべてが無軌道無
責任であり、ついには吹原
産業事件にまで吹き上げて、常識では
考えられない通知預金証書の作成や、ポーリングヘの
融資等、「終わりにも
銀行ありき」という事態に発展しておるのであります。あなたは、この投資、
融資、増資の無軌道性をいかにして抑制し、克服せんとするのであるか、具体的にお示しを願いたいのであります。
また、
日銀法、
銀行法の
改正は見送られておるようでありますけれ
ども、
中小企業を守る立場からも早急に
政府の御決意を願いたいと思いますが、お
考えを承りたいと思います。
経済企画庁長官に伺います。
経済の量的拡大のみを急いだことこそが今日の破局の最大の
原因であります。
中期経済計画は、
一つには、この重大なる構造的、体制的欠陥を
是正するために、二つには、
佐藤総理の言われる社会開発を具体的
日程にのぼして、
経済政策の中に織り込んで生かしていくために、この際、抜本的に再検討すべきであると思うが、大臣のお
考えを承りたいと思います。
ドイツその他の先進国におきましては、最近、
経済は量よりも質である、人間性の尊重と自由の擁護のためには、鉄や石炭の生産トン数や
経済成長率のパーセンテージは、場合によってはこれを犠牲にしなければならないと主張されるに至っております。日本の
中期経済計画は、社会開発とはほとんど無
関係に従来のまま推し進めるお
考えであるかどうか、大臣の所見を伺いたいと思います。
第二に、
政府の
施策と並行して重要な問題は、経営者の社会的
責任感、そのモラルの問題であります。
最近の
倒産の実態を見ておりますと、会社の
社長、重役は、一体何を
考えていたのか、
銀行は
貸し出し競争や、でたらめな通知預金証書の作成以外に一体何をしていたか、全く憤りを感ぜざるを得ないのであります。(
拍手)シュンペーターは、「
経済発展の起動力は
企業者の精神である」と言いましたけれ
ども、今日の経営者の、特に大
企業や
金融機関の社会的
責任はきわめて重大であると申さなければなりません。この経営者の社会的
責任、新しい経営倫理の
確立について、
政府はいかなる
措置を講じているか、ここで明らかにしていただきたいと思います。自分はひそかに私財をたくわえながら、かってに会社をつぶして、その
従業員を路頭に迷わしめたり、あるいは関連
下請企業を無慈悲に
倒産せしめておる経営者のごときは、
経済的、社会的には、一つの不作為による殺人罪、傷害罪を犯しているものでありまして、この際、これを取り締まり、その反社会性を徹底的に追及するために新たなる社会的な
経済特別刑法とでもいうべきものを
制定する必要があると思いますが、お
考えはいかがでありますか。(
拍手)
私の
質問の第三は、
会社更生法に関する問題であります。
最近
倒産いたしました山陽特殊鋼の負債は、借り入れ三百十億、買い掛け金二百十五億、合計五百二十五億であります。日特鋼の負債は三百億、サンウエーブは百七十億、富士車輌は百二十八億、いずれも
資本金の五倍から七倍の負債を背負っております。現在の
会社更生法の精神を一口で酷評すれば、これらの負債を一応たな上げにして、自分だけの会社の再建をはかろうとするものであります。しかし、現在のこの
会社更生法におきましても、自分かってな計画
倒産は許されないと思いますが、
政府の見解はいかがでございますか。(
拍手)
山陽特殊鋼の場合は、会社の一部の幹部が、まじめな労働者の知らない間に、自分だけ社内預金を引き出したり、協調
融資を断わられると、待っていましたとばかりに更生法の手続開始の申し立てをしたり、
倒産の前日に三井物産、三菱商事、伊藤忠の三大商社に百億円の担保設定をしてみたり、どうもこれは計画
倒産の疑いが多いが、
政府はいかに見ておられますか。(
拍手)私は、三月十日、
荻野社長にも面会をいたしましたが、との
社長にはどこにも反省の色はありませんでした。彼が傲慢不遜なる態度の中で強くきらめかしていたものは、この会社は必ず更生法の適用になるのだという、更生法の上にあぐらをかいたふてぶてしい自信のみでありました。われわれは、
会社更生法がこうした反社会的経営者の隠れみのになることは断じて許すことができないのであります。(
拍手)
次に、同法を
改正して、関連
中小企業の一定期間内の債権を
共益債権として認めるとともに、
共益債権とならない部分の債権については更生計画の中で優先的取り扱いができるようにし、さらに、更生手続開始の申し立てがあった場合には、
政府は、関連
中小企業に対し
金融機関をして緊急
融資をなさしめるよう、一連の
金融措置を法的に規定すべきであると
考えますが、
政府の態度を明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
これを要するに、
経済の量的拡大のみを追及して、その社会性を無視すること、並びに
企業の自由なる活動の美名に隠れて放漫無計画な
経済の暴走を続けることは、いまや社会倫理的にも、
経済政策的にも許されなくなったのであります。ロンドン・エコノミストは、保守的な立場に立ちつつも、さすがに今回の山陽特殊鋼問題を鋭く批判しております。いわく、「要するに、山陽特殊鋼の破綻の
原因は、過大なる
設備投資、不振なる市場での猛烈なる
競争、拙劣なる経営である。」というのであります。全くそのとおりではありませんか。同誌のいうごとく、この事件の教訓ははでであったが、事態はこれで終わったわけではありません。一体、
政府は、二回にわたる
公定歩合の
引き下げと
金融の若干の緩和基調のみで、
経済のこの破局的な危機を乗り切る自信があるのでありますか。
私は
政府に伺いたい。
一つ、
日本経済の今日の不況は、秋までに一応克服できる見通しを持っておられるかどうか。そのためにはいかなる
施策を用意しておられるか。特に、
公定歩合の水準を日歩一銭三厘に置くことをめどにした大幅
引き下げ論もありますけれ
ども、そうした低
金利政策と現在の構造的矛盾克服のための体制的な再建
政策と、いずれに重点を置かれようというのでありますか。
二つ、
中小企業のこの上の
倒産は、今後さらにあるのかないのか、伺いたいのであります。
三つ、特に外務大臣に伺いますが、日韓仮調印によりまして、繊維製品の委託加工貿易をやる、いうことが伝えられまして、これがために国内の中小加工業者は非常な不安を持っておるのであります。一体真相はどういうふうになっておるか、伺いたいのであります。
四つ、この際、
中小企業の
倒産を救い、
経済不況を打開するためにも、中共その他共産圏貿易を大いに推進しなければならないと
考えるが、
政府のお
考えを承りたいのであります。
確かに、ロンドン・エコノミストのいうごとく、「日本の驚くべき成長は、奇跡でも何でもたく、日本の
産業家が通常の安全装置と資金調達
方式をすべて無視してきたことの結果にすぎない」のであります。現在、
資本主義でありながら、
資本主義の基本原則すら無視し、
ルールを無視してまいりましたこの日本のつくりものの繁栄は、いま終わるべくして終わりつつあるのであります。
粉飾決算は、ひとり山陽特殊鋼のみの問題ではありません。物価はいまや戦前の四百五十四倍、会社の発展は著しく、
資本の蓄積は大きく見えますけれ
ども、五百で割ってみれば全く問題になりません。しかも粉飾決算までいたしておるのであります。この脆弱なる基盤の上に、財政は、年々十数%ずつ膨張させてまいりました。
企業間信用を二十三兆円にまで膨張させて、昨年度でも生産は一三・八%の増加である他面、会社の社用族的な浪費はいよいよ激増して、交際費は五千億になんなんといたしております。
国民大衆もまた、消費は美徳であるというかけ声のもとに、レジャーだ、バカンスだと打ち興じて、第四次
産業、ボーリングのごときは、正確にはマイナス第一次
産業というべきでありますが、これらのものは、年とともにいんしんをきわめつつあります。
銀行は、一部政治家と組んでこれを応援しておる。今日、ゆがみの最も大きいものは、指導者のものの
考え方のゆがみであると申さなければなりません。(
拍手)
いまや、この国では、理想の輝きも希望の星も見失われつつあります。
経済の折り目も節度も失われ、そろばんすらも忘れられようというのであります。これで日本がどうして先進国として進んでいけますか。どうしてアジアの後進国の先頭に立ってこれを導き、これを援助する道義的風格と社会的エネルギーを造成することができますか。すべてが偽りであり、ごまかしであり、粉飾であります。
中小企業の
倒産、それは小さな割れ目であるかもしれません。しかし、問題は、それが大きく広がって、
日本経済の全面に、いな、日本政治の全体に黒い大きな霧が立ち込めようといたしておる点であります。これが打開に関する
佐藤総理の断固たる御決意のほどを伺いまして、私の
緊急質問を終わりたいと存じます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕