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芳賀貢君
牛乳法案につきまして、
提出者を
代表してその
趣旨を御説明申し上げます。
最近における
わが国の農業は、高度成長政策に災いされて、農業
基本法に掲げる生産性の
向上と所得の確保は単なる題目にとどまり、農業就業入口の都市への大量流出、兼業農家の急増等によって農業生産は停滞し、
国民食糧の供給に不安を生じ、今後の農業発展に対し、まことに憂慮すべき事態に立ち至っていることは御承知のとおりであります。
この際、酪農の現況について申し上げますと、
昭和三十年の乳牛の頭数は四十二万一千頭であったのが、三十九年には百二十三万八千頭と、十年間に三倍に増加し、今では四十万戸の酪農家が平均三頭の乳牛を飼育しており、したがって、牛乳の生産についても、
昭和三十年には年産百万トンであったのが、三十九年には三百四万トンと、生産量も三倍に躍進しているのであります。また、これに対して、飲用牛乳及び乳製品の
国民消費は毎年二二%ないし一五%と順調に伸長を示しておるのであります。
かかる生産と消費の動向にもかかわらず、酪農政策については、今日、多くの矛盾と欠陥が起伏しているのであります。
最近、
政府は、社会開発の推進によってひずみ是正をはかり、明るい農村を建設すると宣伝してはおりますが、依然として貿易自由化を促進し、食糧自給体制を放棄し、安上がり農政を強行しておりますことは、各方面から指摘されているところであり、まさに自民党
政府に農政なしの感を禁じ得ないのであります。(
拍手)
しかして、
政府は、ここ数年来、農業
基本法にのっとり、畜産、果樹等の成長部門に対して選択的
拡大の路線を推進してまいりましたが、この施策と並行して実行されるべき飼料資源の開発及び流通管理対策、あるいは牛乳、乳製品の生産と価格及び流通対策が、独占的な乳業資本または飼料会社の
利益本位に進められているため、酪農民の適正な労働報酬すら確保されず、毎年のように生産者と乳業者の間に乳価問題をめぐって紛争を生起させ、結局、生産者には低乳価をしい、消費者には生産者乳価の三倍にものぼる高乳価を押しつけているという矛盾をもたらし、いまや、酪農民は
政府に対し強い不信の念すら抱いているのであります。
まさに農民不在ともいうべき
政府の農政に対して、わが
日本社会党の酪農政策の
基本方針を申し上げまするならば、すなわち、
わが国の食糧自給体制を確立し、食
生活の消費構造の質的
向上をはかるため、農業発展
長期計画に基づいて、牛乳、乳製品の生産を確保し、酪農の発展と農民所得の増大を期することとし、国の
責任によって、草地の開発造成を行なって、自給飼料の増産等、生産条件を整備し、酪農経営の近代化、共同化を促進するとともに、牛乳の生産、加工、流通、価格、消費等の対策については国の管理を強め、特に、価格対策、流通対策については抜本的な改革を行なうこととし、この
基本方針に基づく重要な柱として今回
牛乳法案を
提出いたした次第であります。
したがって、本法案の
目的といたしますところは、牛乳及び乳製品の生産の確保、価格の安定、消費の増進等をはかるとともに、酪農及びその関連
産業の健全な発達と農家所得の
向上を促進し、あわせて
国民食
生活の
改善に資するため、生乳についての交付金の交付、牛乳及び乳製品の販売に関する基準価格の設定、乳製品の
政府の買い入れ及び売り渡し、学校給食用牛乳及び母子保健牛乳の給付等の
措置を講じようとするものであります。
以上が、本法案を
提出した理由であります。
次に、法案の内容について申し上げます。
第一に、農林大臣は、毎五カ年を一期とする牛乳等
長期需給計画を定め、これに基づき、牛乳等年度需給計画を定めて公表することとしております。
年度計画の内容は、生乳の生産数量、飲用牛乳、乳製品の需給数量、
政府の買い入れ及び売り渡し見込み数量及び生乳の遠距離輸送に関する事項等であります。
第二に、農林大臣は、牛乳年度の開始前に、一、生乳の保証価格、二、生乳の販売基準価格、三、飲用牛乳の販売基準価格、四、飲用牛乳の小売り基準価格、五、指定乳製品の販売基準価格を定めて告示することといたしております。
まず、一の生乳の保証価格は、食管法に基づく生産者米価と同様に、生産費・所得補償方式によって算定された生乳の生産者価格であり、同時に、
政府の保証価格であります。また、保証価格は、一物一価の原則により、全国同一価格をたてまえといたしております。
二の、生乳販売基準価格は、農業パリティ指数、物価及び消費者の家計費等を参酌して定めることとし、この価格は、生産者団体が乳業者に生乳を売り渡す場合の最低販売価格のことであります。
三の、飲用牛乳の販売基準価格は、生乳の販売基準価格に飲用牛乳の製造及び販売に要する標準的な費用を加えたもので、卸販売価格のことであります。
四の、飲用牛乳の小売り基準価格は、飲用牛乳の販売基準価格に小売り販売に要する標準的な費用を加えたもので、飲用牛乳の消費者価格のことであります。
五の、指定乳製品の販売基準価格は、生乳の販売基準価格に乳製品の製造及び販売に要する標準的な費用を加えたもので、乳製品の卸売り価格のことであります。
第三は、生産者団体による生乳の一元集荷多元販売についてであります。
生乳の生産者が構成員となっている農業協同組合または農業協同組合連合会は、生乳生産者団体として、生産者から生乳の販売の委託を受けて、生乳の一元集荷と販売の事業を行なうとともに、全国を区域とする農業協同組合連合会は指定生乳生産者団体として、
政府からの交付金を生産者に交付する業務を行なうことといたしたのであります。
第四は、生産者に対する交付金の交付についてであります。
まず、生乳の保証価格から生乳の販売基準価格を控除した額が交付金の基礎となるのであります。
政府は、生産者団体が一元集荷して乳業者に販売した生乳の総数量に対し交付金を交付するものとし、その場合の指定生産者団体は、農林大臣が指定した全国を区域とする農業協同組合連合会とし、交付金は農協系統を経由して生産者に交付することといたしたのであります。
第五は、指定乳製品の
政府買い入れ及び売り渡しについてであります。
政府は、乳製品の需給及び価格の安定をはかるため、指定乳製品を生産者団体または乳業者からの申し込みを受けて買い入れるものとし、買い入れ価格は、販売基準価格によることといたしたのであります。
次に、
政府が買い入れまたは輸入した乳製品の売り渡しについては、その時価が販売基準価格の
水準に安定するようにつとめることといたしております。
第六は、乳製品の輸入についてであります。
政府は、牛乳等年度需給計画に基づいて需給上必要な乳製品を輸入するものとし、輸入については、
政府がこれを行なうことといたしております。
第七は、学校給食用牛乳の無償給付と、母子保健牛乳の給与についてであります。
わが
日本社会党は、すでに第四十六回
国会において学校給食法の一部
改正案、及び学校給食牛乳の供給に関する特別
措置法案を
提出し、今
国会において、目下継続審議中でありますが、両法案の
趣旨は、義務
教育諸学校の児童、生徒に対し、牛乳の学校給食を無償で給与することとし、これが実施に必要な
措置を内容としたものであります。したがって、本法案においても、学校給食牛乳を無償で給付する旨を明らかにいたしたのであります。また、妊産婦及び乳幼児の健康の保持増進をはかるため、母子に対して牛乳、乳製品の摂取に必要な費用の全部または一部を国が負担する旨を明らかにいたしたのであります。
第八は、牛乳審議会の設置についてであります。
審議会は、農林大臣の諮問に応じ、牛乳等需給計画、生乳の保証価格、飲用牛乳及び乳製品の販売基準価格その他重要事項を調査審議し、あわせて農林大臣に対し建議するものといたしております。
第九は、生乳の遠距離輸送に関する施策についてであります。
政府は、牛乳等年度需給計画に基づき、牛乳の流通の円滑化をはかるため、牛乳の遠距離輸送に必要な牛乳専用貨車または牛乳専用船を建造して、これを指定生産者団体に無償貸し付けを行ない、公共的な牛乳の輸送が期せられるようにいたしたのであります。
第十に、
政府は、生乳の価格安定をはかるため、生産者団体の飲用牛乳または乳製品の製造施設等について経費の一部を補助することができることとし、また、乳業者に対しても、それらの製造施設に要する資金の融通、あっせんを行なうものといたしたのであります。
第十一に、農林大臣または都道府県知事は、飲用牛乳または乳製品の製造または販売業者に対し、流通経費の低減をはかるため、経営の
改善、合理化等に関し、必要な勧告を行なうことができるものといたしたのであります。
第十二は、交付金の対象となる生乳の集荷及び販売の適正を期するため、指定生産者団体及び乳業者は、農林省令で定めるところに従い帳簿を備えつけること、農林大臣または都道府県知事が必要とする報告、または立ち入り検査に応ずる義務を明示いたしたのであります。
第十三は、附則におきまして、農林省設置法、酪農振興法、畜産物価格安定法についての
改正及び諸規定の整備を行なうことといたしております。なお、この
法律の業務及び会計については、牛乳管理特別会計によることとし、別に定める
法律案を
提出することにいたしたのであります。
以上、
牛乳法案につきまして、その
趣旨を御説明申し上げた次第であります。(
拍手)
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加工原料乳生産者補給金等暫定措置法案(内
閣
提出)及び
牛乳法案(
芳賀貢君外十一名
提出)の
趣旨説明に対する質疑