○重盛寿治君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
政府提案の
公害防止事業団法案について、若干の質問を行ない、あわせていまや大きな社会問題となっております公害問題全般につきまして、
政府の施策の基本的な考え方をお尋ねいたしたいと思うのであります。(
拍手)
四ヵ年にわたる高度成長政策の矛盾は、
国民生活の至るところに深刻な形でのしかかっており、単なるかけ声だけのひずみ是正では解決されない社会不安となってあらわれておるのであります。私がお聞きしたいと思う大気汚染、水質汚濁、騒音、地盤沈下などの公害もまさにその一つであります。
特に指摘しておきたいのは、こうした公害が高度成長政策とともに一そう累積してきているということであります。ちなみに、大気汚染が問題になっているのはほとんどが工業都市であります。とりわけ四日市に典型的に見られるごとく、今後石油コンビナートが推進される中で引き起こされていくところの公害は、非常に大きなものになっていく傾向があるのであります。
池田前内閣時代から、
政府は社会保障、
減税、会共投資を国の政策の最重点項目に掲げてきたが、社会保障、
減税はおざなりにして、
政府が特に力を入れたのは、公共投資であった。しかも、ここでいう公共投資というのは、鉄道、産業道路、港湾、工業用水、用地造成といった大
企業の間接費用を引き下げるものに集中しており、
国民生活に最も
関係の深い社会投資はほとんど増額されておらないのであります。たとえば、大
企業の間接費用を引き下げるための公共投資は、予算の中で一八%である。だが、生活環境
整備のための公共投資はわずかに一・二%にしかすぎないのであります。また、本年度の厚生省予算の中で、公害対策費として掲げられた費用がわずかに一億七千万円に満たないというありさまです。さらには、本年度の通産省の予算を見ても、公害防止技術開発研究費に二億二千万円、新産業都市の公害事前防止対策費に至っては、わずかに三千五百万円が計上されておるという微々たるものにすぎないのであります。
かかる
政府の方針は、地方自治体にも及んでおり、多くの地方自治体では工場誘致令をつくり、
企業誘致に狂弄しておるが、その反面、住民への
影響については何ら顧みられておらないのであります。地方自治体が工場誘致をする場合、固定
資産税の減免
措置や、土地を安く提供するなどの
優遇措置をとり、
企業の超過利潤は保証せられておるのでありますが、誘致のための費用は、結局、住民負担となり、しかも、公害という副産物まで住民に襲いかかっておるのであります。四日市の場合のごときは、町の中に工場が乗り込んできたということが言えるでありましょう。県や市が工場誘致をする場合に、都市計画を怠ったこと、住民のための公共投資が足りなかったこと、工場側が公害防止の設備を用意しなかったことなどを指摘できるのであります。
国民を無視し、資本家の利潤を保証しようという自民党内閣の政策が、公害に典型的にあらわれたのであって、新産業都市と公害の
関係がこのことを端的に物語っているといわなければならぬのであります。(
拍手)
そこで、総理にお尋ねいたしますが、第一に、かかる事態を放置してきた
政府の責任を、総理はどのようにお考えになっておるのか、明確にお聞かせを願いたい。
第二に、人間尊重が総理の政治目標である以上、何よりもまず公害の実態を明らかにし、諸外国の実例に基づいて、公害問題の抜本的解決をはかり、あなたの力説するところの社会開発政策の主要の一環として、公害を絶滅することが総理の任務であると私は考えますが、御決意のほどをお伺いいたしたいと思うのであります。(
拍手)
第三に、公害防止には
政府の財政政策の転換が必要であります。独占資本の間接コストを引き下げるための公共投資から、
国民生活を守るという文字どおりの公共投資へ重点を置きかえるべきであると考えますが、総理のこの点における決断のほどをお聞かせ願いたいと思うのであります。
第四に、公害対策を抜本的にやるためには、地方自治体をその本来の任務であるところの福祉行政の推進に返すということが最も必要であるのであります。ちなみに、東京の下水道の普及率は二五八%であり、し尿処理なども不完全であり、公共用水の大腸菌の許容数は一立方センチ中二百五十以下が通常とせられておりますが、東京の多摩川下流では実に驚くべき十三万、神田川では約六万、目黒川では約四万になっておるといわれておるのであります。さらに隅田川に至っては悪臭を放ち、この流域に住む三百三十万人の都民は、せきやぜんそくが慢性化し、ラジオやテレビ、ステレオなどの金属
部分は、購入後二週間くらいで腐食するという実態が明らかになっておるのであります。この地方には、メッキ、皮革など約一万の工場があるが、その九〇%以上が零細
企業で、自力で必要処理施設を設置することのできないまま放置されておるのであります。水飢饉、交通地獄、公害放置等の首都に対して、池田さんは東京都には都政がないんだと言われた。もちろん、知事選挙のスローガンであった福祉都政の確立を忘れた知事にも大きな責任がありましょう。言うならば、地方自治体にすべて責任を押しつけて、
政府はみずからなすべきことを何一つやってこなかったところに、その重大な責任があるといわなければならぬのであります。(
拍手)国と地方自治体が一体となって、都市計画の
整備、工場の配置規制、下水道清掃施設の完備など、生活環境の
整備につとめなければ公害は断じてなくなりません。この点について、総理のお考えをお聞きしたいと思うのであります。
さらに、この際、厚生大臣にお尋ねするが、四日市ぜんそく、横浜ぜんそく、隅田川沿岸の人々の呼吸器系の疾患、さらに鉱毒による発病者など、現に公害のため病気になっている
国民が多数あるのでありますが、これらは
政府の責任で療養さすべきだと考えるが、大臣のお考えをお聞きしたいと思うのであります。
次に、
政府の行なった公害調査についてお尋ねいたします。
政府は、前工業技術院院長黒川武雄氏を団長とする調査団を派遣したが、その結論は一体どうなっておるか。また、その結論に基づいて、どのような一体施策をとられたのか。さらに、富士石油、住友化学を中心とする三島・沼津地区に、事前に調査団を派遣したが、住民を説得できずに工場誘致は失敗しておる。このことは、公害のおそるべき現実に不安を持つ住民の要求を尊重できなかったところに原因があると思うのであります。
公害対策の樹立も必要であるが、この根幹となるべき公害絶滅のための科学技術の研究、開発が重視されなければならない。生産第一主義の考えが先に立ち、
企業も国も、公害の防止技術の研究、開発に力を入れておらないのではないでしょうか。もっと大幅に予算
措置を講ずるなど、抜本的な対策が必要だと思いまするが、以上の点について、大蔵、通産、厚生、三大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。次に、公害の法的規制について、通産、厚生、両大臣にお尋ねいたします。現在、水質保全法、工場排水法、ばい煙規制法、工業用水法をもって、それぞれ規制を行なっておりますが、率直に言って、
効果はあがっていません。その原因は、結論から言うならば、
政府が大
企業に非常に気がねをして、ざる法になっておるからであります。たとえば、ばい煙規制法を見ても、第一に、大
企業の圧力によって基準があいまいになる可能性があります。第二に、地域指定についても、
企業の抵抗で地域指定をのがれる余地が十二分にあります。第三に、地域指定を受けたとして、知事が勧告を行なうのであるが、処罰が非常にゆるやかなため、罰金だけ払っておけばよいではないかということになりかねないのであります。第四に、現実に大気汚染の被害を受けた人に対する補償が全くございません。第五に、大気汚染の監視に住民参加が必要だが、その
規定がございません。第六に、工場から発生する有害物質の種類は多く、その発生原因も多様であるのに、本法では、適切な規制を果たし得ない。公害対策を一歩進めるためには、
現行のばい煙規制法、水質保全法、二法の
改正が必要だと考えるが、どのようにお考えになりますか。
同時に、わが
日本社会党は、近く公害排除基本法案を提出する予定であるが、少なくとも法的規制の
内容は、一、公害除去の義務を
企業に与えること、二、
企業または施設が公害を引き起こしたときは、無過失賠償の責任をとること、三、公害除去の義務を果たさない
企業は、操業停止処分にすること、四、公害の許容度は、人間が疾病になるところできめてはならず、われわれの生活の妨害の線できめなければならないこと、五、公害対策の
国民の立場に立った一元化ができることが含まれなければならないと考えますが、厚生、通産、両大臣の御見解を承りたいと思うのであります。
最後に、公害
事業団法案について質問いたします。
今回の
政府の熱意は認めるが、いままで私が指摘いたしました多くの問題点を抜きにした対策では、その実効はあがりません。そこで、本案に対して、
政府の考えをただしておきたいと思います。
第一に、
事業団の
事業費は、当初百億円の要求が出ていたはずであります。ところが、折衝の過程で二十億円に削られた。鉄鋼業などの大
企業を見ると、公害防止に十億円
程度の設備投資をしているではありませんか。二十億円で一体何ができるのでありましょう。
政府は、これで十分だと考えられますか。今後増額する考えがありますか。さらに、資本金として、
政府が出資し、必要に応じ追加出資する考えはありませんか。以上、予算が少ない上に、総花的にやろうとするところに、この問題の根本的な無理があろうと思うのであります。
第二に、この
事業団は、
政府の公害対策全般の中で、いかなる役割りを果たすのか、お聞きいたしたいと思うのであります。
第三に、工場移転、グリーンベルトの設置について、地価対策が必要であるが、その具体策はできておりますか。また、工場移転、工場の集団設置等については、労働問題、配転などが伴うのが当然でありますが、しっかりした対策があるかどうか、以上の点について明確なお答えをいただきたいと思うのであります。
きれいな水、清浄な空気、さらには健康なからだと不安のない生活を守ることこそ、人間尊重の政治であって、終戦以来すでに二十年たって、経済のひずみを直すだけでなく、国家全体のひずみ是正が必要なときに、
政府は、産業公害のおそるべき実態に着眼し、抜本的な施策を講ずるよう重ねて要望いたしまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕