○
中井徳次郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
政府原案に
反対し、わが党の
組み替え案に
賛成の
討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
昭和四十
年度予算の
課題は、
高度成長政策によって拡大された
経済的、
社会的の
矛盾をどう
是正していくかということであります。また、
一般国民は、
社会開発、
人間尊重を表看板とする
佐藤新
内閣が、
社会のひずみをどう
是正するかを注目していたのであります。しかしながら、はなはだ残念、かつ、当然のことではありまするが、この
国民の
期待は裏切られ、この
予算によっては、
矛盾は縮小するどころか、逆に拡大されることは、いよいよ明らかとなってまいりました。(
拍手)
高度成長政策は、
生産が
上昇し、
経済が
成長すれば、それに伴って
一般の
所得も向上するかのごとき幻想を振りまいたのでありまするが、冷厳な
経済の法則は、そのような旨い
期待を完全に打ち砕いたのであります。
すなわち、非常なテンポの
生産の拡大、
経済の発展にもかかわらず、
成長を遂げたのは一部の大
企業のみでありまして、
弱小企業と大
企業との
格差はますます拡大するばかりであります。したがって、昨今のように一たび
金融引き締め等の
措置がとられますると、基盤の弱い
中小企業の
倒産が相次いで起こりまして、その趨勢は、ことしに入ってもちっとも衰えず、二月は実に五百二十件と、昨年十二月に次ぐ数字を記録しているのであります。もちろんこれらの
倒産の最大の犠牲者は、働く人たちであります。(
拍手)賃金の遅配、欠配のあげくの果てに街頭にほうり出されているのは、この
弱小企業に働いておりまする労働者であります。
次に、おくれた
産業部門である
農業は、ますます取り残されております。都市と農村との地域
格差、
所得格差は、はなはだしくなる一方であります。
農業だけで生計を維持し得ない大部分の農民は、膨大な
産業予備軍を構成し、離農あるいは出かせぎが激増いたしております。特に、百万をこえると推定される農民の出かせぎは、それ自体農村の生活を破壊する最も過酷な現象である上に、本人たちは、労働者としての
法律上の保護をほとんど受け得ない最も下級の労働者として、旧態依然たる資本家の搾取と収奪に甘んじている状態でありまして、これこそ高度
成長をささえる現代の残酷物語といわねばならぬと思うのであります。(
拍手)
さらに、大
企業その他の比較的に
所得の高い労働者といえども、絶えずその生活は物価騰貴に脅かされております。しかも、昨今は、不況である、会社の利益が減った、賃金の
上昇がインフレのもとであるというような独善的な見解によりまして、わずかな賃金の
上昇さえ
抑制される傾向にあるのであります。
消費者物価の高騰は、
消費者米価の
引き上げをはじめ、生鮮食料品その他の生活必需品の
上昇率が高いため、逆比例的に低
所得者の家計ほど影響が大きくなっております。したがって、低
所得階層は、
所得のアンバランス拡大と物価騰貴によめまして困窮度が倍加しているといえましょう。
このように高度
成長は、
経済面において種々のひずみ、摩擦の増大と並んで、
社会生活の面においても貧富の差の拡大をもたらしておるのであります。すなわち、一方における膨大な資本の蓄積及びそれに伴う一部富裕者の富の蓄積と、
他方における都市と農村での大衆の貧困の蓄積、これが高度
成長の帰結といわねばなりません。もしも、
佐藤内閣が本腰を入れてひずみの
是正、
社会開発、
人間尊重の政治に取り組もうというのならば、こういう現実を直視して、その基本的理解の上に立って
施策を講ずるのでなければ成果をあげ得ないことは言うまでもないのであります。
しかるに、
政府は、依然として安易な認識の上に立っているのか、見て見ぬふりをしているのか、とにかく、上と下との
所得格差が縮小しているというような白書を出してみたり、
所得が平均して何%上がって、物価
上昇が何%であるから、
実質的
所得はどうこうであるというような統計数字で満足しておるのであります。しかし、金持ちと貧乏人の
所得の平均数字を求めてみても、
所得のアンバランスの拡大、生活の苦しさの増大が、ちっとも把握できません。(
拍手)しかも、新しく
中期経済計画においては、従来の倍増計画の数字をちょっといじくっただけで、基本的には相変わらず同じ線を進もうといたしておるのであります。ここに問題があるのであります。このような不徹底な認識からは、決してひずみ
是正の方策が生まれようはずはありません。それは、結果においてごまかしに終わり、逆にひずみの拡大に寄与することとなるのは当然でありまして、私は、以下、これらの事実を四十
年度予算に即して明らかにしていきたいと思います。(
拍手)
まず第一の問題は、
減税の問題であります。
およそ、税の問題ほど、
政策の階級的
性格を露骨にあらわすものはないといわれております。(
拍手)
政府は、
一般会計で、初
年度八百十二億円、平
年度千百五十一億円の
減税を行なおうとしております。これは、数字的には税制
調査会の
減税答申を若干上回っているようではありまするが、内容的には
答申と全く違っておるのであります。そうして、
国民大衆の利益に反し、一部の富裕階級の利益に奉仕する内容であります。(
拍手)われわれとしては、大体税制
調査会の
答申そのものが、初めから
政府側の受け入れを考慮した、非常に妥協的なものにすぎないので、その内容には大いに不満なのでありまするけれども、その
答申のささやかな大衆
減税さえ、さらに値引きをされておるのであります。(
拍手)すなわち、基礎控除の二万円
引き上げは修正されました。あるいは、二百万円以下の
所得階層に適用される税率の緩和
措置のごときは、全く無視されておるのであります。(
拍手)
他方、これに引きかえまして、
配当所得に対しては、
答申になかったような
源泉選択制度を創設し、あるいは、確定申告不要限度を
答申以上に
引き上げるなど、必要以上の保護
措置を講じております。この結果、
勤労者と
配当所得者との間の納税のアンバランスがどのように拡大されるかにつきましては、すでに
予算委員会において、堀委員をはじめ各委員から、何回か指摘されましたので、ここに繰り返すのは避けたいのでありまするけれども、この
施策を是認するただ一つの大義名分は、資本市場の育成ということであるらしい。しかしながら、株価というものが、個々の会社のみならず、一国の資本主義
経済全体の収益予想に対する評価を端的にあらわすものでありまする以上、このようなこそくな手段は何の役にも立たぬ。ダウ平均は少しも上がってはおりません。結局は、今回の税制改正は、物価高にあえぐ大多数の
国民の利益を守らずに、一部の階級を不当に優遇し、
所得格差を拡大し、
勤労者に勤労意欲を失わせる最悪のものであると断定せざるを得ないのであります。(
拍手)
われわれは、このような税制改正に
反対し、基本的には、大
企業ないしは大
所得者を優遇する
租税特別措置は、これを全面的に廃止することを
原則とする立場に立っておるのであります。
減税の次に問題になりまするのは、いわゆる
社会開発であります。
政府の言う
社会開発は、概念それ自体がはなはだばく然としております。言う人によりまして、それぞれ内容も範囲も違っているようでございます。特に総理の施政方針演説では、
社会開発の中に、
農業が入り、
中小企業の
近代化が入り、さらには、治山治水、港湾、道路等の公共投資まで全部含まれておるのであります。これでは、
社会開発を重視したとかなんとかいっても、一向にその内容がつかめませんし、結局はことばだけに終わってしまいまして、一種のごまかしであるといわざるを得ないのであります。(
拍手)現に、われわれの見解によれば、
社会保障
制度の確立こそ刻下の急務であると思われるのでありまするけれども、この
予算では、
医療保障を中心にして
社会保障
制度は大幅に後退いたしております。(
拍手)すなわち、
各種医療保険の
赤字一千億円を、ほとんど一方的に被保険者の
負担増加によって切り抜けようとしておるのであります。このような暴挙は、支払い者側の反撃によりまして、当初の計画どおりには実施できなくなりつつありまするが、いずれにいたしましても、
さきの
医療費値上げの
職権告示の不手ぎわに続いて、こういう
社会保障の基礎をゆるがすようなことでは、
社会開発の看板を掲げる資格は全然ないと断定せざるを得ないのであります。(
拍手)
これに対しまして、わが党の
組み替え案は、四十一
年度以降は抜本的な改革を講ずることにいたしまして、さしあたり、当面、薬代の
患者負担、
保険料の
値上げ、総
報酬制の
採用等は取りやめまして、
各種医療保険に対する
国庫負担を
増額しようというのでありまして、私といたしましては全面的に
賛成をいたしたいのであります。(
拍手)
次に、
政府は、
社会開発の一環として、生活環境施設の整備、特に住宅対策などに力を入れたことを強調しております。もちろん、
政府施策の住宅戸数をふやしたり、庶民が持ち家をつくりやすくするように何らかの
措置を講ずること自体は、われわれも
反対する必要はありません。しかし、何といっても、住宅対策のガンは土地の値段であります。地価であります。そうして、歴代
内閣の無策と一部富裕階級の財産隠匿の手段に使われました結果、地価が諸外国に類を見ないほど値上がりしていること、また、数年来の公共投資の増大も地価
上昇に寄与しておりますることは非常に多いのであります。こういう条件をよく認識して、手おくれながらこの面の対策に着手すべきであると思います。(
拍手)この面の対策に着手しないのでありまするならば、住宅その他の
社会施設の整備などといいましても、それはむだ金をどぶに捨てるようなものであるといわねばなりません。(
拍手)
社会開発に続いて問題になりまするのは、この
予算は、インフレを促進し、一そうの物価騰貴々呼び起こすという点であります。
政府は、物価騰貴が
高度成長政策から出たものであること、大
企業の
設備投資や
生産増大に伴う
資金を日銀の信用
膨張によってまかなうというインフレ
政策が、物価の高騰を呼び起こしたものであるという点に関する正しい認識を持っていないようであります。それゆえ、
予算編成は従来どおり安易な態度をもって貫かれております。
一般会計の
予算にしても、既定の
経費はそのままにして、真剣にそれにメスを入れるというようなことはいたしませず、ただその上に新しい
経費を上積みしているので、総額は
膨張するのはあたりまえであります。また、弾力性は全然ありません。
しかし、特にインフレとの関連で重視すべきものは
財政投融資であります。
財政投融資計画は、前
年度比二〇・九%増と、
一般会計に比べて大幅な増加であります。問題はいろいろあるが、特に民間
資金による
公募債借入金が、前
年度の二千五百億円に比べて三千二百六十億円と、実に七百六十億円の増加をいたしております。しかもこのはかに、隠れた
財政投融資ともいうべき縁故債の先行があります。私の計算によると、国鉄、電電、地方債等を合わせた縁故債の発行総額は、前
年度の八百八十一億円から、四十
年度は一挙に千九百六十億円と、実に千百億円近く増加しておるのであります。このようなインフレ要因がある上に、さらに
政府は前
年度剰余金の国債償還率を
引き下げました。これは将来の
公債発行の準備であります。また、消極的なインフレ要因であります。将来にわたってまことに重大な点であることを私はここに指摘いたしておきたいと思います。(
拍手)こういうやり方では、いよいよインフレの促進は必至ではありませんか。しかも、
公共料金に対する
政府の態度は、
さきの
消費者米価の
引き上げ、
医療費の
引き上げ、あるいはバス料金など、基本的には
引き上げるという態度をしょっちゅうもって今日までまいっておる。また、
地方公営企業の
赤字に対しても救済策を講じないのでありまするから、東京、大阪の二大都市を先頭に、
水道等の料金の
値上げは次々に起こりつつあるのでありまして、こういう
政府の態度は、物価の値上がりに拍車をかけるものといわざるを得ません。(
拍手)
われわれは、
政府のインフレ的
財政金融
政策の転換を
要求し、
物価値上がり抑制の一助として、
地方公営企業の料金
抑制のために、
臨時特別交付金を
支出する案を
提案するものであります。
なお、
予算の
膨張、弾力性の喪失と関連して一言申し上げますると、既定の
経費、既定の業務、機構等は全くそのままにいたしまして、新しく公団、事業団、特殊法人を次から次に乱設いたしておるという事実であります。(
拍手)これらがすべてほとんど自民党びいきの独占人事に終始いたしておりまして、
国民の監視が届きにくいところから、官庁的非能率的な業務
運営を拡大する結果をもたらしておるのであります。臨時行政
調査会の
答申のうち、官僚機構の拡張に都合のよい部分だけを
採用しようとする
政府のやり方は不当であります。われわれは、こういう新しい機構の乱設に対し重大な警告を発したいと存ずるのであります。
最後に、
予算に関連して述べねばならない重要な問題は、国内で貧富の対立が激しくなるにつれまして、その原因である
社会的不
均衡を縮小し、この摩擦を緩和しようとせずに、力によりまして大衆を取り締まろうという、旧
憲法時代の考え方なりやり方が台頭し、あるいは依然として強力に残っておるとさえ言うてもよいと思います。これは警戒をしなければなりません。組閣わずかに四カ月の
佐藤内閣がそういう道をたどっているとは、いま直ちに私は断定したくない。しかし、
佐藤首相の登場は、一部の人たちにそういう
期待をもって迎えられておることは事実であります。事実、危険な徴候がないわけではありません。しかも、重大なことは、国外での緊張増大、すなわち、
日本の場合なら、ベトナム、中国、朝鮮などにおける情勢が急変して国内に
危機感が起こる場合には、それを契機として、極端な民族主義、あまりに偏狭な国家主義が横行するきざしが見えてきたのであります。
特にわれわれが最もおそれておりまするのは、国内で最大最強の力を持りている
自衛隊の動きであります。
さきに
予算委員会の
審議において、三矢事件を通じて、
自衛隊が、日常、明らかに新
憲法に反し、旧
憲法十一条にありまするところの、天皇は陸海軍を統帥するとか、十二条の、天皇は陸海軍の編制や常備兵額を定めるとかいう、いわゆる旧統帥権の思想をそのまま踏襲した、ほんとうに思い上がった危険な
研究が行なわれているということが暴露されたのであります。(
拍手)このことは、われわれのみならず、
一般国民に非常に大きなショックを与えました。このような事実に直面いたしましては、私は、党派を離れて、
国会の名において、その事実を徹底的に究明し、災いを未然につみ取るという厳粛な態度こそ最も必要だと思うのであります。(
拍手)しかるに、これに対する今日の
政府の態度は、私は糾弾されていいと思います。(
拍手)
以上申し上げましたような
諸点に関しまして、
政府は責任のある処理を明確にせずに、ここに、こそこそと逃げるがごとく四十
年度予算を通過させようとしておるのであります。私は断じて容認するわけにはいかない。わが党は、今後とも、
国会の内外を通じて、
政府予算の悪質かつずさんな本質を徹底的に批判糾弾することを宣言しまして、私の
反対討論を終わる次第であります。(
拍手)