○金丸徳重君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案されました
治山治水緊急措置法の一部を改正する
法律案につき、首相並びに
関係閣僚に若干の
質問をいたしたいと存じます。(
拍手)
去る三十四年、岸
内閣当時制定せられました本法は、当時頻発しました狩野川台風はじめ伊勢湾台風等による大惨害によりまして、はしなくも暴露せられた国土保全
政策の一大欠陥に緊急対処せんといたしたものであったことは申すまでもありません。すなわち、戦中、戦後を通じて長い聞捨ておかれた山地、渓谷地帯、海岸地帯等の弱点をつかれて、思いもかけないほどの惨害をこうむったのに対し、世論きゅう然としてこれが緊急にしてかつ強力なる
対策を求めたからにほかならなかったのであります。したがいまして、本法は、名は緊急
措置法ではありまするが、実態は国土保全の根本法であり、しかも、その
実施が緊急かつ強力でなければならないという
意味において、一そうその重要性を持ったものであります。本法によって策定された治山治水十カ年
計画もまたその
趣旨に沿って、当然に恒久的、総合的なる国土保全の
基本計画でなければならなかったのでありますが、当時、相次いで起こりました風水害等の
対策に忙殺されてその機を逸し、当面を糊塗するおざなりの案で出発せざるを得なかったことは、われわれの深く遺憾といたしたところであります。その
意味におきまして、本法の改正は、第一に、この立法の
趣旨と沿革にかんがみ、制定後五年にわたる調査と経験の上に立って、今度こそ真に国土安定への巨歩を進むべき決意と用意がなければならなかったのであります。池田
内閣の高度成長
政策の強行によりまして、国土安定、国土
開発の上に多くのひずみが生じてまいった今日におきましては、一そう真剣にかつ早急に
計画の立て直しをすることがその
内容とされなければならないものと信じます。
以上のような見地に立ちまして、まず
総理大臣にお伺いいたします。
総理は、その組閣の第一声において、人間尊重、
社会開発をうたい、高度成長
政策によるひずみの是正を当面の急務とせられたのでありますが、人間尊重も
社会開発も、国土の安定、国土の普遍的
開発がその基礎的条件となるべきことは申すまでもありません。また、国土そのものの上に絶えず災害の心配があるような中からは、経済のひずみの是正も、民生の向上も、しょせん砂の上の楼閣にすぎないことは申すまでもありません。(
拍手)ところが、過日の施政方針演説において示された国土保全に関する
総理の見解は、わずかに一行にも足らないものであり、その声もまた、まことにかぼそく聞こえたのであります。この重要問題に処する、あらためての決意というものは何らうかがい知ることができなかったのであります。
建設当局がとりまとめておるところの治水
対策費の合計は八兆六千億の
巨額にも達しております。また、農林当局が集計するところの治山費も。大づかみにいって二兆以上が想定せられておるのでありますが、これに対して、
中期経済計画において治山治水に割り当てられたるものは、その中のわずかに九千億にすぎません。われわれは、新五カ年
計画に盛った一兆二千八百億円の
数字さえも少なきに失すると
考えていたのでありますが、
総理は、はたしてこれで満足しておられるのでありましょうか、お伺いいたしたい第一点でございます。
第二点といたしましては、治山治水の一貫性についてであります。
いままでわが国の国土保全
政策は、河川法、砂防法、森林法の三本の柱を主軸として
推進せられてきたのでありますが、この三法とも相互に脈絡なく、また森林法といい、河川法と申せ、森林経営や河水利用に重点が置かれて、国土保全という大事な目的はいつの間にか第二義的に押しやられておるのであります。この長い間続いてきた前近代的な弊害から脱却することは、わが国の国土
政策の根本課題でありまして、この問題解決のためには、
内閣の首班たる首相の勇気ある決断と指導力が必要とされていたところであります。
佐藤総理は、治山治水五カ年
計画策定という、まことに絶好な機会をとらえて、この大事な問題解決に踏み出される御
意思ありやいなや。以下
関係閣僚にお伺いいたす具体的な問題と合わせお聞き取りの上で、御所信のほどをお聞かせいただきたいのでございます。(
拍手)
そこで、
建設大臣にまずお伺いいたすのでありますが、本法案提出にあたりまして、
大臣は、新五カ年
計画の策定を機会に、本法に恒久的生命を吹き込んで、国土保全、国土
開発の上に一大時期を画されるお
考えがなかったのかどうか。元来、わが国の治山治水
対策は、
建設、農林両省に分かれ、中央、
地方の分担も複雑でありまして、
事業遂行に一貫性を欠くばかりでなく、とかく
財政上の制約に災いされて、その日暮らしのびほう策におちいらざるを得なかったのであります。このことは、大事な国土が、いつになっても安定し得ない大きな原因の一つでもあったのであります。したがいまして、治山治水の総合法とも申すべき本法の改正を企図せられるにあたりましては、まず、この根本的問題から取り組まなければならなかったのでありますが、改正案のいずこにも、それらしい意欲が盛られておりません。今日ただいまの時点において、いたずらに字句の修正などに満足しておるときではないと思うのでありますが、いかがなものでありましょう。
大臣の御所見を伺いたいのでございます。
第二点としては、昨年も、新河川法
審議の過程において、
建設当局は、国内の重要水系百本
程度を一級河川に
指定する
考えある旨を明らかにいたしておりました。しかるに、今回提案された案によりますれば、わずかに十五水系のみその対象となっておるのでありますが、これは、一体いかなるお
考えに出たことでありましょうか。百水系
程度が対象になるとされるならば、まずこれを国民の前に提示し、国民に希望と張り合いを持たせつつ、あわせてその協力を得る態度をとるこそ賢明であり、親切であり、また、本法の
趣旨にも沿うゆえんと思うのですが、いかがなものでありましょう。
財政上あるいはその他の都合などによって、とりあえず十五水系を
指定するとするならば、残りは一体いつどういう形でお示し願えるのか。
これに関連して、さらに一点
お尋ねいたしたいことは、従来から、わが国の治水
対策には二つの大きな欠陥がございました。すなわち、その一つは、
財政上の都合によって、災害が出てから、たいへんな金をかけてこれが
対策を講じるということであります。口さがない人は、これを一文惜しみの百損などと酷評いたしております。また、もう一つの欠陥は、治水の重点が、大河川もしくは利用価値多い河川あるいは
地域に偏重せられて、中小の河川や奥地、渓谷または当面利用度の低い
地域などは顧みられなかったことでありまして、このために、一たび集中豪雨でもありますと、ほっておかれた名もなき小河川が荒れ狂って、流域
住民の生命財産の上に思いもかけない惨害を及ぼし、さらに、下流の大河川にまでおそるべき災害を及ぼした例が枚挙にいとまないほどであります。
したがいまして、治水
対策の完ぺきを期そうとしますならば、まずこれらの欠陥を除去してかからなければならないのでありまして、新河川法が水系一貫主義を採用したことに国民が多くの期待を持ったのもまたこのゆえでありますが、新五カ年
計画においては、はたしてどういう現実性を持って国民におこたえになるお見込みなりや、承りたいのであります。
また、国内には、災害常襲地帯とも申すべき不幸なる
地域が少なくありません。地況や海流の状況などから、わずかの気象異変でもたちまち災害に見舞われるというような、いわば国土の病弱地点であります。この弱点をほったらかしておくととが国土
開発のひずみを大ならしめる原因にもなるのでありまして、新河川法
審議の際にもこの点が強く主張せられ、新五カ年
計画の際にはこれをはっきり打ち出すことが約束されていたのでありますが、この点いかなる
措置を講じられておりまするか、明瞭に
お答えを願いたいと思います。
なお、災害常襲地帯に関連をいたしまして、特に顕著なる例は、いわゆる天井川であります。すなわち、上流における山腹または渓谷の手当て不十分のために、砂れきや泥土の流出はなはだしく、ために河床が上がってしまって、堤防は、天井どころか、雲にも届くようなありさまとなって、交通は阻害され、風致は台なしになり、災害時において両岸
住民を脅かすはもちろんでありますが、平常時においてさえ、伏流水が日夜にわたって付近の農地や宅地に浸出いたし、その惨状実に見るに忍びないものがあるのであります。最近、
公害ということばがしきりに各所に用いられるのでありますが、天井川の被害のごときは、その
公害の最も大きなものと数えてよろしいのではないかと思うのであります。このような状態というものは、砂防
対策に遺憾がなく、被害地の復旧工事がすみやかに行なわれていさえするならば、起こるべき現象ではありません。しかも、これが国内のそちこちに存在し、なお発達しつつあるというようなことは、まさに治水
対策の不在を雄弁に証拠立てているものといわなければなりません。新五カ年
計画は、第一に、この種天井川の解消に乗り出すべきではないかと思うのでありますが、
建設大臣の
考えを明瞭に
お答えいただきたいと思います。
次に、農林
大臣にお伺いいたしますが、端的に申しまして、わが国の山は、はたして安定の方向へ向かっているのでありましょうか。戦争中、また戦後のある期間を通じまして、山は捨ておかれ、いな、積極的に荒らされさえもしたことは、いなみがたき事実でございます。最近、水資源
開発等に刺激されて、副次的に山に関心が注がれるようになったのでありますが、一般的に申して、労力や資材の不足に災いされて、わが国の山は荒廃の方向へと、残念ながら、進んでいるやに心配されるのでありますが、いかがでありましょう。ことに、ここ数年来、一そう顕著になってまいりました農村の人口減少は、山地地帯の人手不足をますますひどいものとし、山を守るために山に残る青年のごときは、全く影をひそめるに至っておるのであります。国破れて山河ありとは、昔の詩人の衷情でありますが、いまや、わが国は、山河荒れて国土を守る人なしとまでいわなければならないと思っております。(
拍手)
このような事態に処して、治山の責任をとられる農林
大臣は、いかなる所懐を持っておられまするか、新五カ年
計画の中に盛り込まれている
程度の
対策で、はたしてよしとされておるのでありましょうか。また、労力不足などの新事態に処して、抜本的、画期的なる方策を必要といたしますが、その具体策について
お答えをいただきたいと思います。
次に、
自治大臣に
お尋ねいたしますが、わが
地方自治体の中には、僻地、荒れ地をかかえて、これが改善策を講じようにも、
財政難のためにどうにもいたし方がないようなところが少なくありません。
地域格差のひどくなるゆえんでもあるのでありますが、こうしたところは、また、えてして災害に弱いのであります。世に、泣きつらにハチという言いぐさがあるのでありますが、まさに悪循環を繰り返しつつ、貧困自治体は、ますます貧困への道をたどっていかなければなりません。もとより、これが改善救済策といたしましては、平衡
交付金や特別
交付税の制度はあるのでありますが、一たび悪循環におちいったこの事態は、
通常の
対策をもってしては解決さるべきものとも思われません。ことに、治山治水五カ年
計画においては、
地方団体施行分として千三百億が予定されておるのでありますが、こうした
地方に、はたして
負担能力ありとお
考えになっておられるのでありましょうか。この
事業は、従来、とかくに軽視されていたところの僻地や山間部の小河川を対象とさるべきものと信じますがゆえに、こうした
地域を擁する
地方自治体が、財源なきのゆえをもって、せっかくの
計画を高ねの花に終わらせることのないように、あらかじめ特別の
対策を練っておかなければなりません。
自治大臣は、
計画の策定にあたって、
地方自治体の実態を把握しながら、どの
程度本
計画に参画なさっておられるのか、また、特別の
財政措置につきましていかなる用意をお持ちになっておりまするか、お示しが願いたいのであります。
最後に、
大蔵大臣にお伺いいたしますが、私が
大蔵大臣への
質問を最後にいたしましたのは、究極するところ、この問題は、
大蔵大臣の特別財源
措置をわずらわさなければならないと思ったからであります。時間がきておりますので結論だけを申し上げるのでありますが、災害国日本で国土の安定をはかるためには、豊富にしてかつ恒久的なる財源的
措置を必要とすることは申し上げるまでもありません。これがために、公債発行論な
ども根強く行なわれておるところでありますが、私は、これについて一つの
考えを持っております。
さきに、
大蔵省の発表するところによりますと、わが国主要会社の使うところの交際費は、一年に四千五百億円にもなんなんとしておるそうであります。このような
巨額の交際費を使うわが国
産業経済のあり方の中には年額、一千億や二千億の公債に応募する余裕は、十分にあるのではないかとにらんだのでありますが、いかがなものでありましょうか。道は近きにありなどということばを思い出しながら、会社交際費から治山治水公債へ応募され、それで、料理屋などではなしに、山や川が安定して、そこから公災——公の災害が救われるということにでもなれば、まことに一策ではないかと思うであります。(
拍手)
あえて
大蔵大臣の勇気ある英断を期待いたしまして、私の
質問を終わることといたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕