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1965-04-13 第48回国会 衆議院 法務委員会 第21号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十年四月十三日(火曜日)    午前十時四十五分開議  出席委員    委員長 加藤 精三君    理事 大竹 太郎君 理事 草野一郎平君    理事 小島 徹三君 理事 細迫 兼光君    理事 横山 利秋君       唐澤 俊樹君    木村武千代君       四宮 久吉君    千葉 三郎君       中垣 國男君    濱野 清吾君       早川  崇君    森下 元晴君       井伊 誠一君    長谷川正三君       田中織之進君  出席国務大臣         法 務 大 臣 高橋  等君  出席政府委員         法務政務次官  大坪 保雄君         検     事         (刑事局長)  津田  實君  委員外出席者         検     事         (刑事局刑事課         長)      伊藤 栄樹君         専  門  員 高橋 勝好君     ――――――――――――― 四月十二日  民法第二百三十三条の改正に関する陳情書  (第一六号)  広島高等裁判所松江支部存置に関する陳情書  (第一〇八号)  改正刑法準備草案第三百六十七条に関する陳情  書  (第一〇九号)  未墾地買収売渡登記の促進に関する陳情書  (第一三六号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一〇  二号)      ――――◇―――――
  2. 加藤精三

    加藤委員長 これより会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の通告がありますので、これを許します。大竹太郎君。
  3. 大竹太郎

    大竹委員 前会に引き続いて、この業務過失致死傷の刑の引き上げについて刑事局長に御質問をいたしたいと思います。  前会、この罰金刑罰金だけを引き上げないのはどういうわけかということを御質問申し上げました。そこで時間がきて切れてしまったわけでありますが、続いてお聞きしたいのでありますが、御承知のように今度の改正では、いままでの長期三年の禁錮刑になっておったものを五年に延ばして、禁錮刑のほかに懲役を加えたわけであります。御承知のように、現在の刑法を見ますと、いろいろ過失についての罪があるわけでありまして、たとえば百十七条の業務上の失火激発物に対する取り扱いについての過失重過失、また百二十九条の過失往来危険を引き起こした罪等がございますが、いずれもこれには懲役刑がないのでございまして、こういうような面から考えますと、今度の改正は、当初に申し上げましたように、ある意味においてはこの刑法体系をくずす、率直に申し上げて、そういうようなことばが当たるかどうかわかりませんが、刑法体系をくずすというようなことにもなりかねないのでございますが、そういう点についてのお考えをまずお聞きいたしたいと思います。
  4. 津田實

    津田政府委員 今回の改正法案によりまして、新たに刑法の二百十一条に懲役刑選択刑として加えるわけでございますが、すでに申し上げましたように、近時におきますところの自動車運転に伴うところの業務過失致死傷及び重過失致死傷事犯のうちには、傷害罪あるいは傷害致死罪等いわゆる故意犯とほとんど同程度社会的非難に値するものが相当数見受けられているのであります。たとえば相当多量の飲酒をした上での酒酔い運転運転技術の未熟な者の無免許運転、はなはだしき高速度による運転等のいわゆる無謀な運転に基因します事犯のうちには、きわめてわずかの注意を払えば人の死傷等の結果を容易に避けることができたのにもかかわらず、それさえも怠ったために重大な結果を来たした事案が相当数見受けられるのであります。これらの事案は、故意犯に属するいわゆる未必の故意事案と紙一重のような事案でありまして、人命を軽視することがはなはだしい態度で自動車運転した結果人を死傷にいたした、しかしながら、これが単に故意犯という範疇に入らないというだけの理由で、罰金刑あるいは禁錮刑によって処罰せざるを得ないということは、国民の現在の道義的感覚から申しまして、むしろ非常に不自然に感ぜざるを得ないところであります。したがいまして、この種の事犯中のきわめて悪質重大なものに対しましては懲役刑をもって臨むことが相当と考えられたからでございます。元来この禁錮刑と申しますのは、政治犯等いわゆる非破廉恥罪について適用される刑罰として考えられているわけでございますが、先ほど申し述べましたような態様はきわめて破廉恥的であるともいえるわけであります。この意味におきまして、懲役刑選択刑に加えることは決して不当ではないと考えるのでございまして、すでにお手元にお配りいたしております諸外国の立法例に徴しましても、懲役刑というような形、正式な日本のいわゆる懲役刑にぴったり当たるともいえない場合もありますが、懲役刑範疇に属する刑をもって臨んでいる例が多々ありますので、それらの点も考えました上、なおかつ、すでに公表されております改正刑法準備草案におきましても、すでに懲役刑を採択すべきものという内容になっております。それらを彼此勘案いたしまして懲役刑選択刑に盛る改正を提案いたした次第でございます。
  5. 大竹太郎

    大竹委員 それでこの懲役刑選択刑に加えるということになりますと、業務過失犯というものについても累犯対象になると考えるのでありますが、そういたしますと、おそらくこの道路交通法、たとえばよくいわれるひき逃げ、このほうは道路交通法違反懲役三年ということになっているようでありますが、そういたしますと、これを併合罪といたしますと七年半ということになりまして、累犯ということになりますと十五年以下の懲役刑をもって処断することができるというふうに考え累犯の場合には、ごく重い殺人罪にもひとしいような処罰ができるということになると思うのでありますが、これはいかがでありますか。
  6. 津田實

    津田政府委員 ただいま御指摘の点は、そのとおりになるわけでございまして、今回の改正によりまして、刑法第二百十一条の法定刑懲役刑が加えられますと、累犯対象になり得ることとなるわけであります。したがいましてこの累犯加重併合罪加重が行なわれます場合には、最高が十五年というごとになることは御指摘のとおりでございます。しかしながら、現在でも他の事例から申しまして、累犯併合罪加重をいたしますと、懲役十五年というような重い刑が出てくる事例もあるわけでありまして、たとえば、例はよろしいかどうかわかりませんが、懲役刑執行を終わってから五年以内に選挙に関しまして運動報酬買収資金等の供与を受けて数人を買収したというような事例におきましては、累犯加重併合罪加重の結果、やはり処断刑上限懲役十五年ということになる。累犯加重併合罪加重をいたしますと、一般的に考えられている場合よりも非常に重くなるわけでございますが、それは刑法総則を適用した形式的な結果そうなるわけでございまして、実際は、さようなものについて懲役十五年が実際に科せられたということもなく、またこの懲役十五年を求刑したという事例ももちろんありません。したがいまして、この累犯加重の結果生ずる最高限と申しますのは、実際問題としては最高限が適用されるというような事態はほとんど起こらないのみならず、はるかに最高限より下において刑が量定されるという事情でありますので、それらの従来の——現行刑法の一応の計算上から出てくる最高限としては御指摘のようでありますが、運用は、さように厳格と申しますか、さように重刑が科せられるという事例はないというふうに、私どもは従来の例に徴して考えておる次第でございます。
  7. 大竹太郎

    大竹委員 それでこの横の資料の第八表を見ますと、最高限三年の刑を言い渡された者を傷害または致死の面で見ますと、私のいままで考えておりましたところからいって非常に少ないというふうに考えられるわけでございまして、さらにこれを禁錮のみならず懲役を加えて五年に引き上げられるわけでありますが、常識的に考えまして、いままで三年の禁錮にされた者は、法律では三年になっておるから、これ以上科したくても科せられないということで三年になっておったことだろうと思うわけでございまして、かりにそういたしますと、非常に少ない対象になるわけでございますので、せんだっても申しましたように、やはり非常に悪質なものは未必の故意ということで、いわゆる故意犯としてお取り扱いになればよいのではないかと私は考えるわけであります。そういうような面からいたしまして、私自身もおそれるわけでございますし、この自動車運転手等もひとしく危惧いたしております点は、この最高が五年に引き上げられるということからいたしまして、総体的に、たとえば一年のものは、最高が三年から五年になったわけでございますから、その割合でそれぞれ引き上げられる。罰金も、これはもちろん最高はたしか五万円になっておりますからそれ以上はないわけでありますが、最高が引き上げられたことによって、それほど情状の重くないものまでも引き上げられるということになるのじゃないか。ことにせんだっても申し上げましたように、運転手というものは行政処分によりまして相当の期間就業停止がされるというような面からいたしまして、特に運転手その他が総体として刑が重くなるのじゃないかということをおそれておるわけでございますが、それらについてお考えをお聞きいたしたいと思います。
  8. 津田實

    津田政府委員 ただいま御指摘の、お手元にお配りいたしております「刑法第二百十一条関係統計資料」というものについての御質問でございますが、御指摘のとおり、この第八表によりますと、二百十一条前段あるいは後段を通じまして、禁錮刑の者の数は昭和三十七年におきましてもそれほど多くはない、禁錮三年のいわゆる極刑に処せられたのはそれほど多くないということは御指摘のとおりでありますが、これは司法統計関係で、実は三十八年と三十九年とがわかっておりませんが、その点は三十八年、九年につきましては、もっと多くなっておるのではないかというふうに考えられます点が一つ。  もう一つは、そのあとの一五ページ以下の表をごらんいただきますと、同じく業務過失往来妨害あるいは業務失火というようなものは、二年以上の禁錮に処せられた事件が皆無になっておるわけであります。それから虚偽診断書作成というようなものにつきましては、一年以上の事件が皆無に近い。一年以上は若干ございますが、非常に少ない。これから見ましても、業務過失については、すでに極限まできておるという一つのあらわれともいえるわけでございまして、ここに出ておる数字がきわめて少ないからと申しましても、必ずしも頭打ちではないといえないというふうに私ども考えております。  なお、法定刑上限を上げますことによりまして、一般的に刑が重くなるのではないかということでありますが、たびたび申し上げておりますように、本件につきまして少なくとも懲役刑を選択いたしまするゆえんは、非常な高度の社会的非難を加えるべき無謀運転に基因するものということをねらっておるわけでございまして、それはむしろ、破廉恥罪よりも人命軽視という点については悪いのではないかというようなことが考えられるわけであります。そこで、そういう意味におきまして考えまするので、このことによりまして通常の起こり得るほんとうの意味過失についての刑が直ちに引き上がるというふうには私ども考えておりませんし、また、そういう目的でないということは、この法律の提案の説明から申しましても、そのとおりであろうと思うのであります。なお、ただいま御指摘の表をごらんいただきますと、おわかりいただけると思うのでありますが、業務過失傷害禁錮刑につきましては、総数が千二百八件のうち八百九十五件というものが執行猶予になっておるわけです。これは三十七年でございます。それから業務過失致死のほうでございますが、二千五百六十二件のうち千八百四件というものが執行猶予になっておるわけです。したがいまして、全体としては、従来ともになるほど禁錮は言い渡されておりまするけれども、実刑による率というのは非常に低いということは、やはり具体的事案に即しての量刑をした結果に基づくものだと思うのでございます。したがいまして、もちろん五年というような懲役刑になりますと、執行猶予の余地はないわけであまりすけれども、それはきわめて限られた極端な事例に当てはめられるものであるというふうに私ども考えるわけです。  なお、先般もお尋ねがございましたし、ただいまのお尋ねに関連するわけでございますので、交通事犯故意犯に扱った事例というものについて調査をいたしました結果をこの際申し上げますが、故意犯として扱われている事例は、やはり単純な過失でないことはもちろん当然でありまするけれども未必の故意からもかなり離れておる、もう少し程度の進んでおるものというふうな事例がきわめて多いようであります。  二、三の例を申し上げますると、これは懲役六年になった事例でありまして、殺人公務執行妨害等になっておりますが、これは警察官職務質問のため停車を求められたところ、それを振り落とすために速度を増して進行して振り落として警察官を死亡させた。それから、これは酒酔い運転でありますが、婦人をひっかけたところ、そのまま逃走しようとして婦人が車体の下に倒れておるのにかかわらず、それを知りながらそれをさらにひいたという事例、これは懲役五年なんです。これはいずれも殺人罪であります。これは新潟県であります。それとやはり同じような、逃走を企てるために、路上に横たわっている婦人の上を乗り越えた、これは懲役八年になっております。これもやはり殺人です。それからあと二、三の例は、やはり傷害あるいは傷害致死になっておりますが、これはある程度の、自動車故意に接触させるようにした——いろいろしゃくにさわった原因があるとか、いろいろなことで故意に接触させて、それをあやまって衝突させたというような事例でありまして、通常業務過失、これは未必の故意範疇に属するもの、あるいは純粋の故意犯に属するものといえるわけですが、その程度未必の故意よりもかなり進んだ事例が多いのでありまして、単純に未必の故意というもので故意犯を認定した事例はきわめて希有であろうというふうに考えられる次第でございます。
  9. 大竹太郎

    大竹委員 それで最初の趣旨説明のときにもおっしゃったのでありますが、現在の刑法規定は、現在のように自動車というようなものがこれほど数多く走り、そして運転者事故を起こし、そうして処罰対象になるというような事態を予想されなかった当時のいわゆる処罰規定でありまして、主として鉄道、軌道あるいは船舶というようなものの運転者対象としての規定であったわけでありまして、現在のように街頭の自動車運転者、ことに悪質な運転者というものを対象としての規定ではなかったわけであります。そういうようなことからいたしまして、やはりこういう自動車運転者の悪質なものを対象とするというようなことからいたしまして、これはやはり特別な規定というものを考えなければいけないのではないか。ことに前回以来申し上げておりますように、自動車運転者に対しましては、やはりある期間ハンドルを持たせない、また悪質なものについては一生涯ハンドルを持たせないというような行政上の処分も、これは非常にむずかしいことになるかもしれませんけれども、一貫してやはり刑事裁判対象にすべきものであり、そういうようなことからいたしますと、やはり特殊の交通裁判というようなものもつくらなければならないかとも存じますけれども、そういうようなものをつくり、またこういうような自動車の悪質な運転者に対しては特別の処罰法規をもって臨むというような機構にすることが、やはり必要なんじゃないかというふうに考えられるわけでございますが、これについてのお考えはいかがでしょうか。
  10. 津田實

    津田政府委員 この改正法の立案を考慮いたします際におきまして、問題は、ただいま非常に多数にのぼってまいりますところの悪質な自動車事故に対処するということが改正の主たるねらいであるという点から考えますと、自動車に関する、つまり道路交通に関して特別の構成要件を設けて、それによって対処すればいいではないかという考え方もあったわけです。しかしながら、これを道路交通の問題として考えまする場合は、自動車を無謀に操縦しまして、その結果死傷を起こしたというような構成要件考えるわけでございますが、そういたしますると、それはいわゆる結果的加重犯の問題になるということになる。そういたしますると、その原因になります自動車無謀運転という行為自体は、無謀に運転するという意識があるわけでございまするから、これは故意犯になりまして、過失犯ではなくなるということになります。したがいまして結果的加重犯というふうに構成要件を設けますと、これはやはり懲役刑を選択しなければならないということになります。ところが、自動車無謀運転という概念はきわめて広いのみならず、非常にあいまいな概念でございますので、そういたしますと、およその自動車事故はみなこちらのほうに入ってくる。そういたしますと、現在通常起こりがちな、普通の悪質でない業務過失、あるいは過失重過失というようなものにつきましては、これは自動的に懲役刑になるということになる欠陥が出てくるというでわけございます。ところが、その無謀運転ということは、構成要件をこまかく規定することはきわめて困難な要件でございますが、きわめてあいまいだということで、そういうあいまいな無謀運転という行為から傷害あるいは致死の結果を生じますと、その構成要件で当てはまるということにいたしますと、一体刑法傷害罪なり傷害致死罪とどういう違いがあるかということになる。御承知のように傷害罪につきましては、暴行の意意を持ってし、傷害の結果を生ずれば傷害罪になるということで、暴行いたしますということと無謀操縦をするということとはきわめて似た概念である。そういたしますと、刑法傷害罪あるいは傷害致死罪とどういう関係に立つかというきわめて困難な問題が出てくる。したがいまして、道路交通法中にさような規定を設けることは、現行刑法典との関係解釈上の難点がきわめて多くなってくるというようなこと。同時に、明治四十年以来、業務過失というものにつきましては、これは刑法犯として長い歴史を持ってきておるという点を考えますと、自動車に関する限りは特別法であるということは、刑法典全般体系から申しますときわめて奇妙なことになるということを考えまして、自動車だけについて道路交通法的な構成要件を設けるということは相当でないという結論になってしまった。そういう意味におきまして、実体的な事案に対しまして、従来から判例等で積み重ねてきました業務過失あるいは重過失という概念をもとにいたしまして構成要件をきめていく、刑についてはきわめて弾力的な量刑ができるというふうにするというこの案がよろしいという結論になったのであります。
  11. 大竹太郎

    大竹委員 先ほどこの資料について御答弁をいただいたわけでありますが、この資料は遺憾ながら昭和三十七年までしか出ていないのでありまして、私も多少輸送業交通業というようなものに携わっている経験に徴しますと、最近こういうことが非常にマスコミその他でも重要に取り上げられますし、社会問題として大きく取り上げられるということからいたしまして、一口にいうと、最近の二、三年以来非常に刑が重くなってきたようにも何となしに考えられるわけでありますが、できましたら八年、九年の資料もひとつ出していただけないものでしょうか。
  12. 津田實

    津田政府委員 私どもも実はこの刑事統計の問題につきましては、いろいろ古い統計を使わなければならぬという問題に逢着しているのでありますが、実はこれはもちろん科刑統計でありますので、最高裁判所統計なんでありますが、三十八年度はことしの夏ごろでないと集計ができないというように聞いております。ところが、これは個別調査をいたしますことは非常に困難でございまして、やはり正式な統計調査でないとできないわけでございますが、そういう意味におきまして、重くなっておる傾向にあるということは、一応私どもは推定的には申し上げられるわけでありますが、具体的な数字をちょっといまのところはお出しできないわけであります。
  13. 大竹太郎

    大竹委員 それでは、私、質問を申し上げたい点は終わったわけでありますが、ちょうどいい機会でもございますので、二百十一条の条文そのもについて多少疑義のある点を御質問いたしておしきたいと思うのであります。この条文にあります業務ということばでございますが、これについては判例学説ともに大体確定しているようにも考えるのでございますが、具体的な問題といたしまして、いわゆる無免許運転は、業務過失に当たるものとしては非常に悪質なものであるわけであまりすが、どうも判例学説等を見ましても、はたして無免許運転がこの項に当たるのかどうかということに相当疑問があるように思うのでありますが、その点はいかがですか。
  14. 津田實

    津田政府委員 お手元にごく簡単な「自動車運転刑法第二百十一条の罪」について簡単な一枚紙がございますが、これは必ずしも正確というふうに——大体の御理解を得るためのものでございます。これを御参照いただきまして、その刑法二百十一条にある業務解釈といたしましては、判例がただいま御指摘のとおり確定いたしております。それは、人が社会生活上の地位に基づいて継続して行なう行為でありまして、他人の生命、身体に危害を加えるおそれのあるもの、こういうのが大体判例を集約したものでございます。しかしながら、それは本来のその人の業務であると、あるいは兼ねてやっておるものと、あるいは補助的な付随的な業務であるとはもちろん問いません。また継続して行なう意思を持ってなされます場合には、第一回の行為でもまた業務であるということになっておりますし、また行為者がそれによって収入を得るとか営利の目的があるということには関係がございませんし、またその業務自体が適法であるかどうかということも問わないというのが大体学説判例の大勢でございます。でありまするから、運転免許を取って運転に従事して、そのことを職業としているバス、タクシー、トラックの運転手、それから会社、官庁、商店の運転手、これは当然業務でありますし、それからまた運転免許をとってオーナードライバーをやっておる一般のサラリーマンあるいは医師、商売人、こういうような人はもちろん業務、さらに免許を持たないでも、事実上反復して自動車運転をやっている者は業務という解釈になる。先ほど、業務が適法であるといなとを問わないということはここのところであります。そういう意味におきまして、業務上という業務はきわめて広い範囲でございますが、しからばこの二百十一条の後段にあります重過失致死傷というのは何かということでありますが、これは自動車の場合におきますれば、つまり反復継続するのではなくて、たまたま自動車を無免許運転したというような人に当たる場合がきわめて多いのでありまして、したがいまして、技量未熟のまま運転する者が該当するということになろうかと思います。ただ実際問題として、この無免許運転手事故を起こしました場には、前に反復継続してその行為を、無免許運転をやっていたかどうかということはきわめて立証しにくい問題でありますし、また重過失致死傷罪として考える場合には、業務性をそれほど明らかにする必要もないというような見地、あるいは犯人はそれを秘したがるというようなこともありまして、重過失致死傷で処断する場合がかなりあるというふうになると思います。
  15. 大竹太郎

    大竹委員 それでは大体この二百十一条の点を終わりまして、併合罪の問題について二、三お聞きしたいと思うのでありますが、この四十五条の改正についての御趣旨の説明によりますと、率直に申し上げまして、非常に最近道交法違反による罰金刑によって処断されるものがふえてきて、なかなか一々調査するということは事実上不可能であるというような実務上の必要からこういうことに改正したいという御趣旨のようにとれるわけでありますが、この改正は、裁判所の実務上の必要によるものだというふうに端的に解釈してよろしいのでありますか、その点を伺いたいと思います。
  16. 津田實

    津田政府委員 この四十五条につきまして、今回御提案申し上げております改正は、この改正が施行されました暁におきましては、実務上きわめて事務の簡素化がはかられるということは事実でございますが、その目的とするところは必ずしもそればかりをねらっておるわけではないのであります。刑法第四十五条の確定裁判を経ない数罪がございました場合、それは当然併合罪になりますが、その間にある罪について確定裁判がありますと、その確定裁判の罪と、その裁判確定前に犯した罪とが併合罪になるわけであります。その裁判確定後に犯した罪は併合罪にならないという規定でございます。  そういたしますと、A、B、Cと三つの犯罪が順に行なわれまして、A、B、Cはそのままの形で同時に裁判される場合は当然併合罪になりますが、そのうちB罪が何らかの形において中間の罪が発覚いたしておりました場合は、発覚してB罪について確定裁判がありまして、B罪とその前のA罪とが併合罪であり、C罪とA罪あるいはB罪とは併合罪関係はないということになります。そういたしますと、後にA罪とC罪が発覚いたしました場合は、同時に裁判をいたしましても、A罪について懲役何年、C罪について懲役何年というふうに判決の主文が二つになりまして、併合加重によって一罪として処断されることがないわけです。その理由といたしますところは、要するにB罪によって確定裁判を受けたにもかかわらず、さらにC罪を犯した者について、A、Cを併合して、いわば犯人に利益に処断するということは至当でない、これはいろいろいわれておりますが、B罪の確定裁判の感銘力、つまりその者の人格に対して確定裁判があったということが影響を与える力というものを無視することはできないのであって、その後にやった犯罪というものは人格がかわった者の犯罪だというふうにいわれることも、そういう説明をされることもあながち不当ではない、もちろん相当だということであります。そういう意味におきまして、B罪の確定裁判を受けたということはきわめて重大な事柄になってくるわけであります。ところが、そのB罪につきましての確定裁判が禁錮以上の刑に処するものであるときは、もちろん当然そうあるべきで、罰金あるいは科料の刑に処するものであってもしかくあるべしということが現行法の刑法四十五条でありますけれども罰金、科料のものにつきまして、その感銘力あるいは人格形成上の影響というものがしかくきびしくあるかどうかという点はやはり問題であり、やはり罰金、科料でも刑であるからそうあるべきだという主張もこれはあるわけでありますけれども、しかしながら、罰金、科料については必ずしもそうでなくてもいいではないかという議論もあわるけであります。現に公表されております改正刑法準備草案におきましては、罰金以下の刑につきましては併合罪を遮断しない。すわち、B罪が罰金以下の刑に処するものであれば、併合罪を遮断しないという態度をとっておるわけであります。そういう意味におきまして、この両方の関係はやはり刑法に対する考え方の問題から出発しておりますが、どちらもとり得るということでございます。そういたしますると、先ほど来御指摘があるましたように、この併合罪の中途にある、つまりB罪の罰金あるいは科料というものにつきまして、これを把握する事務というものはきわめて膨大な量にのぼっておりまして、昭和三十八年におきまして考えますれば三百数十万ということになるわけであります。そういたしますると、これの把握については、もちろん検察庁においてこれをいたし、裁判所にももちろんその資料を提供しておるわけであります。この調査の錯誤というようなものの結果、お手元資料を出してございますが、第二審におきまして判決が、つまり併合罪について主文を二つにすべきを一つにしたという理由によって破棄されるという例は相当出ております。この面におきまして裁判の遅延、複雑を加えておるということも事実であります。しかし、そういうものと、その罰金あるいは科料についての先ほど申しました感銘力というものを考えました場合に、しかく厳格にしなければならぬかということになると、刑法のたてまえ上どちらの考え方もとり得るとすれば、この際罰金あるいは科料については確定裁判で遮断しないというふうにしても差しつかえないというふうに考えられましたので、かような改正に踏み切った次第でございます。
  17. 大竹太郎

    大竹委員 変な理屈を言うようでありますが、とにかくこの罰金刑が非常にふえたということが一番の原因だろうと思うのでありますが、この罰金刑がふえたということは道交法違反が一番多い。もちろん、さっき問題になりました過失致死傷の問題もあるでありましょうが、いずれにいたしましても、自動車事故というものから罰金が多くなってくるということで、それを基礎にしていろいろ考えた末、一応の理屈がそういうふうについたのだろうと思いますが、一面、自動車事故を非常に重く考えるというものの考え方があるわけであります。三年じゃ足らぬから五年にして、禁錮でも足らぬから懲役も加えるということにしたわけでありますが、もちろん禁錮懲役になれば、いまの条文の適用はないわけでありますが、少なくともこの自動車事故、しかもそれで罰金を取った者等、自動車事故に対しては重く考えるのだというような思想からいたしますと、いままででさえそうでなかったのを、今度は一面においては重くし、一面においては自動車事故等で処罰された者を、この条文によって遮断されず、結局は軽くなるということになるので、その点ある意味においては矛盾したものの考え方になるのじゃないかと私は思うのですが、その点はいかがですか。
  18. 津田實

    津田政府委員 ただいまの御指摘の点でございますが、中間にある先ほどの例で申しましたB罪が罰金あるいは科料の場合は併合罪関係を遮断しないという問題でございます。ところが、御承知のように罰金につきましでは、たとえばさっきの例で申しますと、A罪とC罪がそれぞれ罰金に当たる刑だといたしますと、罰金はそれぞれに言い渡されても、合算額の範囲内で言い渡されても、その点は刑事上はほとんど出てこないという意味におきまして、罰金相互間におきましては、中間のB罪で遮断してもしなくてもそれほどの違いは出てこないわけであります。問題はA罪とC罪がそれぞれ懲役または禁錮の場合に、B罪で遮断されていないと併合加重が起こり、遮断されておると各別ということで、各別のほうが比較的重くなるということは出てまいるわけであります。したがいまして、道路交通あるいは業務過失致死傷の軽度なものにつきましては、罪金刑が選択されておりますけれども、これは遮断しても遮断しなくてもそれほどの違いは生じない。問題は、禁錮あるいは懲役相互間の場合はやや軽くなるということによって犯人に有利になるのではないか、こういう問題になります。そうしますと、その犯人に有利になる原因は何かと申しますと、今回の改正によりまして罰金または科料によって併合罪を遮断しないということから起こる問題だということになるわけであります。ところが実際の裁判官の刑の量定を考えてみますと、A罪とC罪についてそれぞれこれは一年、これは八月というふうに考えるのではなくて、全体を大体一年半なら一年半と見て、それを半分ごとに九カ月、九カ月と分けにくいから、六月と一年と分けるというような操作をしているのでございます。全体を見て一年に処すべきものを六カ月、六カ月に分けるというようなことが、通常裁判官の刑の量定で行なわれておるので、実際は四十五条で遮断して、遮断したがゆえにこれは重くいくべきだというふうに考えることは、この法律の抽象的な立場はそうでありますけれども、具体的の事例は、全体として見てやはり刑の量定をしているというのが実情でございますので、ここで遮断してもしなくてもそれほど実務上の影響はなく、したがって罰金刑をもってしては遮断しないことにしても、従来よりこういうものについて軽く考えるということには必ずしもならないというふうに考えておるわけでございます。
  19. 大竹太郎

    大竹委員 次にお聞きしたいのでありますが、昔、刑を受けますと戸籍がよごれる、こう言ったもので、いわゆる前科は戸籍に表示されておったわけでありますが、最近は人権上の問題もあるのでありましょうが、そういう戸籍の上に前科というものは表示されなくなったのでありますが、どうも私不勉強で、現在のいわゆる前科というものはどういう方法で整理されており、そしてどういう方法で、何といいますか、裁判言い渡しのときに調査をされるようになっておるのでありますか、その点をちょっとお伺いしたい。
  20. 津田實

    津田政府委員 判決が確定いたしました場合は、その確定した内容につきましてこれを検察庁において整理をいたします。その者の本籍地を管轄している地方検察庁に、その県内に本籍を持つ者の言い渡しの事実等を集積いたしまして、それで明らかにいたします。したがいまして、ある者がおりました場合に、その者がいかなる者であるかということを確定いたしますのは、これは指紋その他の方法によるわけであります。その者が戸籍上いかなる者であるかということを確定すれば、あとはその本籍所在地の検察庁において、その者の前科が全部わかるということになっております。
  21. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、たしかこの前の説明のときに御説明になったかと思うのでありますが、禁錮刑以上の者について特別に整理をしておく。罰金刑以下の者は別にするということを御説明になったようでありますが、そういたしますと、いままで一冊の帳面で済んだものが、今度は禁錮刑以上の者については、また別の帳面をつくっておかなければならぬと、かえって繁雑になるように思うのでありますが、その点はいかがでありますか。
  22. 津田實

    津田政府委員 これにおきまして、いまの前科、つまり犯歴の調査をしないわけではございませんので、本籍の調査、本籍地の地方検察庁におきましては、それは全部わかっておるわけであります。ただ、その整理の方法といたしまして、交通事件罰金以下のものにつきましては特殊の整理方法をとるということになるわけであります。しかしながら、交通事犯でも、業務過失傷害、つまり刑法犯になります場合は、全部同じ形式の、禁錮以上も罰金もみな同じ形式の集積のしかたであり、道路交通につきましては別種の集積方法をとるということであります。したがいまして、その道路交通について集積いたしましたものについて前科を調査することには、従来の刑法犯一般の前科の調査方法よりは、数が多いから手数がかかるということになるわけであります。そういう意味の違いを生じておりますが、全部調査をいたしますれば、全部把握ができておるということにはなるわけであります。
  23. 大竹太郎

    大竹委員 それで、これも非常に不勉強で、この際お聞きしたいと思うのでありますが、いまの名簿の作成その他は、法的根拠と申しますか、法律でありますか規則でありますか、わかりませんが、これは何という法律によっているのでありますか。
  24. 津田實

    津田政府委員 これは将来の、将来のと申しますか、すでに過去においても、あるいは将来におきましても、判決が確定したものを検察庁がどういうふうに把握するかということは、そのものの一番法律的に問題になるのは、累犯加重のため必要なのであります。しかしながら、この犯罪歴というものは、ほかの方法でも立証できるわけでございますので、別に法律上それを集積すべき根拠というものはございませんが、これは法務省におきまして、従来から検察庁をしてその検察事務の遂行上必要であるという意味におきまして行なわしておるわけであります。現在といたしましては、法務省の刑事局長通達の犯罪表事務取り扱い要領というものがありまして、それによって行なっておるわけであります。
  25. 大竹太郎

    大竹委員 いまのお話で、実務上の問題はわかりましたが、極端なことをいいまして、いまのように市町村役場に対する通達で、市町村役場でそういう名簿をつくっておるのでありましょうか。いまのようなお話だと、市町村役場で別に何も法律的な、通達くらいなら名簿なんか、事務が繁雑で困るから、そんなものはやらないというようなことになりかねないように思うのでありますが、その点いかがですか。
  26. 津田實

    津田政府委員 このただいま申し上げました刑事局長通達でやっておりますのは、法務省部内、つまり、検察庁の関係で、将来の検察事務を行なうために必要、あるいは裁判事務のために必要上行なっておるわけでございます。しかしながら、犯罪表というものをつくりませんでも、ほかの方法で立証できるわけでございますから、その点は法律上の規定は何も要しない、実際の便宜上つくっておるということになるわけでございます。ところが、市町村におきまして、住民の身分証明を行なう関係上、一体どういうことをやっておるかという問題でございますが、これは地方自治法の第二条第三項第十六号には、「住民滞在者その他必要と認める者に関する戸籍、身分証明及び登録等に関する事務を行うこと。」ということになっております。身分証明事務は普通地方公共団体の事務となっているわけでございます。その事務に検察庁、つまり法務省といたしましては、これに協力いたしますために、各検察庁におきまして、有罪の確定裁判を受けた者の犯歴事項をその者の戸籍を管掌する市区町村に通知をいたすことにしております。市区町村では、その通知に基づいて犯罪人名簿を作成しておるわけでございます。
  27. 大竹太郎

    大竹委員 最後に附則の二項の中にあるのでおりますが、「犯人に不利益となるときは、」云々、この「犯人に不利益となるとき」というのは、具体的に例でもあげて御説明をいただきたいと思います。
  28. 津田實

    津田政府委員 具体的例で申しますると、確定裁判前にABの二つの犯罪を犯し、確定裁判後にDの犯罪を犯した、つまりCが確定裁判である、こういう例でございます。最初にA、Bとあり、それからCの裁判が確定裁判で、その後にDを犯した、こういう場合、各罪がいずれも懲役であるといたしまして、Aが二年以下の懲役、Bが三年以下の懲役、確定裁判後に犯しましたDが十年以下の懲役というそれぞれ法定刑を持っておる刑だといたしますると、新しい法律によりますと、AとBとDが併合罪になります。したがいまして、その処断刑はDの長期に半数を加えました、すなわち十五年以下の懲役で処断されるということになるわけでございます。ところが旧法、つまり現在の四十五条によりますると、ABを併合罪とする、その法定刑は、Aが二年以下、Bが三年以下でありますので、Bのほうが重いわけでありますから、Bの長期に半数を加えたものになりますと、四年六カ月以下の懲役ということになります。またDは別個に十年以下の懲役とすることになりますので、これを合算いたしますと、十四年六カ月以下の懲役ということになります。そうしますと、新法を適用いたしますと、十五年以下の懲役で処断されることになり、旧法でABとDとを合算をいたしますと、十四年六月以下の懲役で処断されるということになりますので、旧法のほうが新法より軽いということになります。それを救済するための規定であります。
  29. 大竹太郎

    大竹委員 質問を終わります。      ————◇—————
  30. 加藤精三

    加藤委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。  すなわち、先ほどの理事会で申し合わせましたとおり、ただいま審査中の刑法の一部を改正する法律案について、来たる二十日午前十時三十分より参考人の出席を求め、その意見を聴取することとし、参考人の人選につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  31. 加藤精三

    加藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。  次会は来たる十五日午前十一時より委員会を開会することとし、これにて散会いたします。    午前十一時五十分散会