○赤松
委員 法務
大臣にお尋ねするのですが、弁護権の及ぶ範囲さらに
捜査権の及ぶ範囲、その限界はどうであるか。この民主
憲法の精神から申しまして、ウエートは当然弁護権の尊重に置かれなければならぬ、こういうふうに考えておるわけであります。その点について
検察庁のとっておる行動について幾つか疑問があるわけであります。これは重大な弁護権の侵害である。特に平沢貞通が死刑囚として仙台の刑務所におる。このいわゆる偽証と称する
事件に関連して弁護人が家宅捜索を受け、身体検査を受け、そして特別抗告に必要な補充書を作成することができない。それは証拠品としてすべて押収された。そういう場合に一体人権はどうして守られるのですか。もし補充書ができない、簡単な抗告
理由書の一片で最高裁が却下をした場合、死刑が執行される、はたして人権が守られますか。しかも、この件に関しましては、世間で非常に重大な問題として扱われておる。これは単に帝銀
事件のみならず、広く
国民の人権を守るという観点から、今日弁護士の諸般の活動について。その活動を阻害する、もしくは著しく規制する、制限する、そういうような行為に対しまして、私は断固抗議すると同時に、この問題については徹底的に本
委員会で追及せんとするものであります。しかし、本日は法務
大臣都合があるようでありますから、次の機会に譲りまして、この点についての法務当局の見解も統一して発表していただきたい。ことに日本弁護士連合会は非常にこの問題を重要視して、直ちにこの問題を取り上げて、そして
検察庁に対して抗議をしておることは御承知のとおりであります。弁護士会としましては、ひとり磯部弁護士あるいは鈴木弁護士の問題ではない、全弁護士間にわたる、しかも人権侵害という重大な問題だということで決意を固めて立ち上がっております。今日法曹界と
検察当局とがこの問題について
意見を異にし、相対立をするというような不幸な事態を招来いたしますと、これは日本の
検察行政あるいは
裁判制度に重大な影響をもたらすという観点から、私は特に法務
大臣に今度のこの
事件に関しまして注意を喚起しておきたいと思います。
次に、先般前代議士であり、前法務
委員であります猪俣浩三弁護士が、あなたに対して死刑執行停止の嘆願書をお出しになった。私は猪俣弁護士からその嘆願書をいただいたのでありますが、ただいま横山
委員が
質問中でございますから、私、この点につきまして一点だけ
質問をしておきたいと思います。
死刑執行停止の嘆願書
一、帝銀
事件の犯人とされている平沢貞通に対する強盗殺人等被告
事件は、確定してからすでに約一〇年になろうとしています。その間、いろいろな
立場の人々から種々の
意見や証言や或いは又証拠が出され、右
事件の真相につき、引いては右
裁判そのものについてさまざまな疑問が提起されて来ました。そして昭和三七年七月一〇日には、「平沢貞通を救う会」が発足し著名な
政治家や文化人を始め多数の
国民がその
趣旨に賛同し、右
事件の真相の究明に努力を傾けている事は衆知のことであります。
二、「平沢貞通を救う会」の事務局長森川哲郎、事務員山本晃重朗、元事務員柳寿美恵等は、約一年間にわたるたゆまぬ努力によつて、野村晴通、泉田賢一、石橋進等を探し出したのであります。右三名は、平沢が
事件直後所有していた金銭の出所を証明できる証人であります。金の出所のあいまいさが平沢を有罰と認定させた重要な状況証拠の一つであると推定される右
事件では、右三名の発見は重大な事実であります。そこで平沢貞通は、昭和三七年
東京高等
裁判所に再審の申立をした。右
事件は昭和三七年す第七号、八号、一〇号
事件として
東京高等
裁判所第六
刑事部(
裁判長 兼平判事)に係属したのであります。
三、右
裁判所は、森川哲郎、山本晁重朗、柳寿美恵、野村晴通、泉田賢一、石橋進等及び平沢貞通を証人として尋問しましたが、結局昭和四〇年三月十一日再審請求は
理由がないとして棄却
決定をしました。その
理由は、要約すれば昭和二二年一〇月頃平沢が自作の絵画十五、六点を代金十五万円で野村に売却したという平沢と野村の証言は虚偽で信用できないという事であります。そして更に救う会の職員である森川、山木、柳等が右事実を予め平沢に伝達して野村の証言と一致させたものであるといつています。
四、ところが右再審請求棄却
決定の告知後間もなく右野村、石橋を始め、森川山木、そして柳までが右
裁判所において共謀して偽証文は偽証教唆したという嫌疑で逮捕され目下勾留されて
取調べ中であります。そして近日中に
刑事訴追を受けることは明らかであります。平沢貞通を救う為に献身して来た人々が、いまや一転して自ら訴追を受ける
立場になって了つたのであります。森川、山本、柳、或いは石橋、野村等が果して共謀して偽証或いは偽証教唆をしたか否かという事が今後問題とされるわけであります。そうしますと、先ず第一に、平沢が野村に絵を売つて十五万円を受取つたか否か、即ちそれは客観的事実であるか虚偽であるかという事が問題になり、第二に、平沢はそのことを真実であると信じていたか否か、及び第三に右
関係人と平沢との間に虚偽の事実をあたかも真実の如く証言しようという共謀があつたか否かという三点が最も重要な争点となる筈でありますそして、右三点については、平沢貞通は最も重要且最良の証人であることは明らかであります。
五、ところが、平沢貞通は死刑囚であります。
本件によつて死刑の執行は近いのではないかという
新聞の論調も認められる位であります。そして平沢の死刑の執行を停止する
法律上の手段はない現状であります。然しながら今、若し平沢の死刑が執行されますと、右に述べた森川、山本、柳、野村、石橋等にかかる偽証、偽証教唆被疑
事件について、右
被疑者等は、最も重要且最良の証人を失う事になります。かくては公共の福祉の維持と
個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明かにすることを目的とする
刑事訴訟法の目的に違背するばかりか、「
刑事被告人はすべての証人に対して審問する機会を充分与えられ……る権利を有する」という
憲法三七条、及び「何人も
法律の定める
事項によらなければ、その生命、若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」という
憲法三一条の
趣旨に反することになります。よつて、平沢貞通の死刑の執行を当分の間停止される様嘆願致します。
昭和四〇年三月 日
被疑者 森川哲郎 山本晁重朗
右弁護人 猪俣 浩三
同 藤木 時義
同
高橋 利明
法務
大臣
高橋 等殿
こういう嘆願書をお受け取りになりましたかどうか。受け取っておられるとすれば、この猪俣浩三弁護士の嘆願書に対してどのような見解を持っていらっしゃるか、この際明らかにしていただきたいと思います。