○八木
政府委員 私も実は今度の日韓交渉に、突然参りまして、まだ二、三カ月で非常に……。
率直に申しますと、韓国人と申しますか、在日朝鮮人の一番大きい関心は、自分たちは日本に
生活の根をおろしているので、できるだけ日本に居続けたい、自分一代のみならず、子々孫々に至るまで日本に居残りたいという気が非常に強いわけであります。これはいわゆる南鮮の韓国系とそうでないもの、北鮮系なりあるいは中立的な連中とを問わず、
共通した非常に強い希望でございます。ところが、われわれの立場から今度はそういう人たちの永住という問題を取り上げることになりますが、永住というのは入管令に規定してございます外国人の永住ということについては、取得するための前提要件であるとか、それからたとえ取得した後でも一定の事由によって、たとえば犯罪などを犯しますとそれが取り消されるという非常に厳重な条件がございます。これは御
承知のとおり日本は非常に狭い国土で、そこに大ぜいの人間がひしめいているものですから、できるだけ外国人は、日本が必要とする者あるいは日本が利益を受ける者以外はなるべく日本には住まわせたくないというのが、
根本的な
法律の思想になっておるようであります。したがいまして、入管令の規定は非常に厳重でございまして、いろいろな退去強制の事由が非常にございます。ですから、永住を認められた外国人であっても、いろいろな点で入管令にひっかかると退去になります。朝鮮の人たちもその点が非常に頭にあるものでありますから、今度の協定で絶対に日本から退去をさせられることがない保障をつけてもらいたいというのが、韓国
政府というよりも、むしろ在日韓国人の非常に強い要望のようでございます。ただ問題は、日本にはいま六十万前後といわれている朝鮮人がおるわけでございますが、日本で交渉をやっておりますと、この人たちの法的地位の協定に対する関心というのが非常に強いことは当然でございますが、ただ韓国の
政府の立場から申しますと、自分の本国にいる人間ではなくて、日本に住んでいる同胞ということになりますので、その辺に在日朝鮮人、韓国人を含めてそういう人たちは、韓国側の要求というものに対してあらゆる機会をとらえて支援すると申しますか、激励すると申しますか、われわれに対する韓国側の
提案を非常に強く支持しておる。
ことしの一月の半ばから会談を何回か重ねましたけれ
ども、日本側の立場というのは、端的に申しますと、この朝鮮の人たちというのは、本来必ずしも本人が自分の意思で日本に来た人ばかりではない、むしろそういう人は少ないので、来ざるを得なかった人のほうが多い。しかも普通ならば、先ほ
ども大臣が申しましたように、終戦と同時に、もし日本にいたければ日本の国籍を取るという機会を与えられたはずでございますが、今度の平和条約では全然そういう規定がございませんので、平和条約発効の日に自動的に日本の国籍を失うということになったわけでございます。そういう立場を考慮いたしまして、しかも平和条約まではとも一かく日本人であったわけでございますので、なるべく日本に安心していられるようにしてあげたい。ただ同時に、彼らは平和条約発効以後外国人でございますから、外国人が日本に永住するためにはやはり入管令の
適用を当然受けることになります。
そこで、そういった両方の矛盾をいかにして調整するかという点から考えられて、いろいろ過去十年余の交渉の間に常に取り上げられた問題の一つが退去強制事由という議論であったわけでございます。そしてこの一定の退去強制事由に当たる者でなければ退去をさせられないという一種の保障を与えるということで過去十年以上交渉を続けてまいりましだ。現在も目下この退去強制事由の論争中であります。これは先ほど
大臣も申しましたように、非常に微妙な段階、と申しますのは、ざっくばらんに申しますと、韓国の人というのけ非常に交渉がじょうずでございまして、私
どもいままでたびたびそういった経験をしまして、一回大体話がついたと思うと、また今度別のことを言い出して次にひっかけて、初めに了解したことがまたもとに戻るというようなことがたびたびございましたので、現在どういう点でどんな条件で話をしているということの
説明は、ちょっとしばらくごかんべんを願いたいと思います。ただ、この退去強制事由の論議と申しますのは、もっと具体的に申しますと、出入国管理令の二十四条に、外国人が退去を要求される事由が十幾つ列挙してございます。その中には非常に簡単なといいますか、軽い罪状での在留取り消しもございますけれ
ども、そういうものをなるべく減らして、簡単なことでは——端的に申しますと、たとえばどろぼうして執公猶予になった、執行猶予にならないまでも、非常に軽い刑を受けたというような人間まで、それを
理由に退去させるというのはあまりに酷だというような点から、一定の重大な点だけに、違反事件だけに、退去の事由をしぼっておるというのが退去強制の事由でございます。