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赤松委員 彼が過酷な
拷問を受け、そのために
自供したのではないかというように
判断をされますことは、この
動静報告書を一覧いたしまして十分考えられることであります。これは
事件を究明する上に非常に重大な問題であると思うのでありますが、特に
被告が老齢であるとか、あるいは健康、
睡眠時間、
自殺未遂など、こういうことを無視いたしまして、連日にわたって長時間の
取り調べを行なっております。
その事実を申し上げますと、まず
自殺未遂の
事件でありますが、八月二十五日の
鈴木芳三巡査の
報告によりますと、
同房者から、午前五時十分ころ
平澤の
毛布を取ってみると、手先から血液をたらし、
昏酔状態におちいっておることを発見した。そうして、
板塀には「祈清栄の父母、
首実験の結果犯人に非ずと判りけむ」こういうように血書してあったそうであります。これは
鈴木芳三巡査の
報告で明らかになっております。それから、
医師の
診断によりますと、
ガラスペンで
左手首の
橈骨動脈を切り、また突きさしたものである。しかし、これだけではこれほど重体にはならぬ、毒でも飲んだのではないかと
診断書に現に
医師が記載をしております。しかも、そういう
状態の中でその翌日も
取り調べを受けまして、十七枚の
検事聴取書ができているのであります。そうして、その日の
報告書が、これまた重要な
報告書でございますけれ
ども、この
部分がなくなっている。この
医師の
診断は、毒を飲んだ疑いがある、こういうことを言っておりますけれ
ども、
動静報告書がないためにその辺のことが十分判明しないのでございますが、これは
事件の真相を究明する上に重要な問題でございますから、ぜひ出していただきたいと思うのであります。
それから、当時
取り調べ中の彼の
睡眠状況はどうであったかと申しますと、たとえば八月三十一日には、
被告は頭から身体全体が苦しいと
看守に訴えまして、そうして頭をかかえ、寝かしてくださいと言うのに、係の
巡査はすわらしたままにして、そうして寝させない。また
平澤は
医師に、毎晩一時間ないし二時間くらいしか眠れない、眠ろうとすると
ピストルで撃たれたような気がして眠れない、こういうことを訴えておる。また、二、三日続いて覆面の男が
鉄棒越しの窓から
ピストルを突きつけて
自分をねらっている夢を見るということも当時訴えております。九月四日にも、九時から就寝に入りましたけれ
ども、寝つかれない。十時まで読書をし、十一時
小便に立ち、三時ごろ起き、五時十五分から、眠れないので清掃さしてください、こう言って掃除をしております。こういうような
報告が随所に見受けられるのであります。
こういうように当時、精神的に肉体的に通常な
状態ではなかったということは、彼が
自供するというその
環境そのものが非常に重大な点ではないかと思うのであります。
しからば、
健康状況はどうか。九月四日、
膀胱結石があるので興奮すると
小便が出なくなる、こういうことを訴えております。これも
動静報告書に載っておる。その他、痔の出血があるので、九月十四日には、
健康診断の結果、痔のため
毛布を敷いて寝るようにと命ぜられております。九月十九日には、
取り調べ中
たばこを二十一本続けて吸わせる。そうすると、もう頭がふらふらになりまして、
留置場におりまして
禁煙生活をしていますが、
取り調べのときには、そういうように無理に
たばこを立て続けに吸うように命じまして、そうして頭が
昏酔状態になる。でありますから、
たばこの中毒の夢を見るということも
看守に訴えておるということが、この
動静報告書に明らかになっております。こういうように、
自分自身の正常な意思でものごとを
判断する
判断力を失っておったのであります。また、九月二十九日には、痔のため非常に苦しがっていると
報告されております。
しからば、
取り調べの
状況はどうか。そういう肉体的あるいは精神的な最もひどい条件の中で非常に過酷な
取り調べが行なわれた。一例をあげますと、九月の二十四日には、きょう九時間も
取り調べを受け、
労働基準法違反です、こう
看守に言っておるということが記載されておる。九時間というと相当長時間であります。長時間にわたって
取り調べを受けた。それから、その夜八時十分、また
取り調べのため呼び出され、それから十一時に
取り調べが終わっておるのであります。はたしてそういう
取り調べというものが、客観的に見まして正しいかどうか、正しい
自供ができる
状態にあったかどうか、このことも非常に問題であると思います。二十九日には、午前十時から午後の十一時半まで
高木検事が
取り調べております。午前十時から午後十一時半までであります。はたして人間としてその
取り調べに耐え得るものかどうか、こういう中で彼は
自白を強要されておる。三十日には、午後の四時からさらに十一時半まで
取り調べを受け、十月二日には、午後十一時、
高木検事が
取り調べのために呼び出したが、終わった時間はこの
動静報告書には記載されていない。十月三日も、夜の十一時四十分に
被疑者を呼び出して、そして
取り調べをしたが、それが何時まで続いたかということはこの
動静報告書からは削られておる。
なお、
自供を始めたころから急に
検事は美食責め、つまりうまいものを食わして、そして
検事の
取り調べを当時
平澤は楽しみにしているということがやはり
動静報告書に載せられておる。これは
異常心理でありまして、こういう
状況のもとで
自供したと申しましても、その
自供は無
価値である、こういうふうに私は
判断するのであります。なお、九月の三十日、きのう
取り調べに出た際、
検事さんからコーヒー、イモのきんとんをごちそうしてもらった。
たばこもやはり相当吸わしていただきましたと言っていることもここに書いてある。つまり、
自供以前はほとんど
拷問状態、
自供後は
自供以前とまるで違う取り扱いがされておるのであります。
こういうように、現在この
動静報告書その他の材料に基づいて、
精神医学の
権威者に
自供の
価値その他の
重要点の鑑定をただいま依頼しておりますが、明瞭にこれは
拘禁反応が見られ、そのため
自白に追い込まれていったということが裏づけられるというように私
ども判断せざるを得ないのでございまして、私は、
刑事局長に対しまして何もとやかく抗議をしておるのではないのであります。
刑事局長は当時何も
関係のない
立場におりましたし、そのことを云々しておるのではなくて、その重要な
動静報告書の中の
部分が何ゆえか削り取られておるということをこの際指摘しておきたいと思います。
先ほどから申し上げましたように、この
部分に関しましては十分に
取り調べて、本
委員会にぜひ
報告していただきたい。もし、いや、それは
裁判所にあるんだ、
裁判所に聞きますと、いや、それは
検察庁にあるんだ、こういった両方が全然隠しておる——どちらの言うのが正しいかわかりませんけれ
ども、そういうことで、くさいものにふたをするような態度をおとりになりますと、ますます
帝銀事件、
平澤のこの
事件というものは、一そう
疑惑を増すことになるのでございまして、幸いただいま
再審のための
証拠調べも進んでおるようでございます。私は、
裁判官の良識と
勇気を期待し、かつ、
検察当局も、これは
中垣法務大臣の当時、私の
質問に対しまして、
再審が決定しても
検察当局はこれに対して妨害をしない、こういう明確な
答弁もいただいております。したがって、こういう
疑惑に包まれた
事件については、
検察当局のためにも、あるいは
裁判の
権威のためにも、ぜひ
再審をしていただきたい。かって
吉田石松の
事件につきまして、私は当時
植木法務大臣に対しまして、これを押し隠すよりも、
勇気をふるって
再審をすることによって、
裁判の
権威は一そう高まるだろうということを申し上げました。まさにそのとおりに相なったのであります。これは終戦直後の、しかも
占領軍が
日本を占領しておった当時のできごとでありまして、いろんなやむを得ない事情もこの
事件にからんでおると思うのでございますが、どうぞ
日本人という
立場を忘れないで勇敢に、
下山事件が迷宮に入った、これまた
帝銀事件もうやむやに彼の
死刑の執行が行なわれたということになりますというと、
裁判所並びに
検察当局に対する国民の
疑惑が高まる一方でございまして、特にこのことを付言をいたしまして、
検察当局のほうから至急、ただいま要求いたしました
資料の
提出をしていただきたいということをお願いして、私の
質問を終わります。
なお、
法務大臣に対する
日朝貿易並びに
日朝間の
往来に関する
質問に対しましては、これを留保しておきます。