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谷林参考人 私が
日本貿易会の
専務理事の
谷林でございます。
本日御
出席の、ほかの
参考人各位は、
日中貿易そのものに
関係しておられまして、対
中共貿易、対
中国本土貿易というのを非常に専門的に日夜扱っておられる
方々であります。私のほうの
貿易会といたしましては、単に日中のみでなく、
アメリカでもイギリスでも
西欧各国、つまり世界全体との
貿易に関しまして、いろいろ
会員諸君の希望をまとめて
政府に申し上げ、あるいは
政府から各
会員にそういうことを伝えるというようなことをやっておりまして、全般の見地から
日中貿易ということを若干考えてみたいと思うのであります。
日中貿易に関しまして
日本においていろいろ問題が起こっておりますが、
東西貿易というもの、つまり
中共あるいは
ソ連、東欧という、こういうものを入れました東側の国々、
西側いわゆる
自由圏諸国というものとの
貿易、この
東西貿易というものは最近非常な発達を見ておるのであります。一九六三年の
西側の
輸出は約五十五億ドル、
輸入は五十八億ドルになっております。六四年の数字はまだ私知っておりませんが、これも
アメリカあたりでは昨年末すでに数字を出しておると思います。相当これよりも進んでおると思いますが、とにかくこういうぐあいに、現在は約百十ないし百二十億ドルぐらいの
輸出入がございました。これは年々進んでおるのであります。
ただ、この
東西貿易というのを全体の見地から見てみますと、その中で東欧圏、
ソ連と
中共が占める位置が若干違っております。大体のところ、
東西貿易の約半分は東欧圏と
西側諸国との
貿易でございます。残りの二分の一の四分の三が
ソ連との
貿易、残りの四分の一が
中国との
貿易、こういうことになっております。なぜこうなっておるかと申しますと、それは地理的存在、おのおのの地理的地位というものが非常に大きな影響を持っておる。
東西貿易に最も力を入れております西欧諸国は、すぐ隣のやはり東欧圏というものに取引上の食指が動くのは当然でございます。次は
ソ連でありますが、
中共は何といってもそれらの国とは遠いということが
一つございます。もう
一つの問題は、
アメリカが
中共を敵視しておるということがもちろんございますけれ
ども、大きな
理由は地理的あるいは過去の歴史、伝統というようなものがそこに左右しておることは当然でございます。
そこで今度
日本の
立場というものを考えますと、これらの諸国とは大いに違う点があると思います。すなわち地理的の
関係からいいましても、従来の
関係からいいましても、一番その中で
関係の深いのはやはり
中国本土でございます。
ここで戦後の世界
各国がその
輸出入を伸ばしていく上において、外の国との
関係で特に強く考えておる点を申し上げますと、戦後にこれらの国が考えておるのは、従来、つまり戦前の本国と植民地というような
関係ではなく、やはり近いところにある後進地域と先進地域とが手を結ぶということによって、その国の
輸出を伸ばし
輸入を伸ばしたいということであることは御
承知のとおり。つまり西欧諸国はアフリカがその対象でございます。
アメリカは中南米がその対象でございます。
ソ連は東欧圏がその対象になっておるというような
関係からいうと、当然
日本は東南アジアというものをその対象にして、これと有無相通じ、そうしてその
輸出入を伸ばすということが必要だと思うのでございますが、ただ最近になりますと、こういうような
関係だけでは将来の人口増加あるいは経済程度向上に関してなかなかまかない切れない。これでは行き詰まりになるのだというような気が
各国にも一非常に起こってきたと思います。
そこで起こってまいりましたのは、
各国ともいわゆる
共産圏というものに対して、現在の国際的
約束ごとの許される範囲においてその相手を広めようということだろうと思うのであります。これが
西側から東側に対してその
輸出を伸ばし、その必要のために
輸入も伸ばすということだと思うのであります。一方、東側の国々の状態からいいますと、これは
一つは
ソ連それ自身の国内の経済向上、後進地域開発ということに伴いまして、外からいろいろな物資を入れたい、
設備その他のものを入れたいというときに、なかなか
ソ連圏の中ではまかない切れない。そこでこれは
西側から入れようというのが
一つ起こってくる。これが最近
ソ連が非常に外から物を買うということが起こってきたことであります。もう
一つは、いわゆる
ソ連、東欧圏と合わしたコメコンの中におきまして、最初は
ソ連というものを中心にして、その他の東欧圏はこれの
一つの
計画のままに動いていくというような体制であった。いわゆる
ソ連は工業国としてだんだん発展していくけれ
ども、その他の国のあるものは長らく農業国というような地位にとどまらざるを得ない。あるいは工業としても軽工業品をつくれというような
一つの
計画の中にいたのが東欧圏諸国としては非常に不満になってきた。われわれもやはりある程度の国としての
やり方を考えなければいけないというようなことで、そういうような東欧圏諸国はやはり西欧に対して
関係を結んで、これらとの
輸出入によって
自分の国自体の経済の向上をはかろうとしたのであります。
第三の
理由、これ以下が
中共取引との
関係になりますが、いわゆる中ソの
関係でございます。中ソの
関係は御
承知のように数年来悪くなっている。悪くなってから、従来
中共に対して
ソ連からいろいろ経済援助をしてもらう、あるいは
中共のものを
ソ連のほうで買うというようなことがだんだんなくなるし、薄まったのであります。そのときに、
ソ連も
西側に呼びかけていろいろ直接物を買い売りする。
中共のほうも外に対して
関係を持とうとする。それが当然中ソの
関係の牽制にもなるというようなことで、
貿易がそこでふえてきた。
それから第四は、先ほど
西側諸国で申しましたと同じであります。市場の拡大のためには、
ソ連圏だけでやるということは非常につまらないことであるから、それと同時に外にも出ようというようなことがございまして、
東西貿易というものはだんだん進んできたのであります。こういう中にありまして、西欧諸国がいろいろとこれに売り込みをはかっておるというようなことで、最近一番大きな問題となりましたのは、昨年の九月、イギリスが
ソ連に対し三千万ポンドの
設備を売り込むにあたりまして十二年のクレジットを置いたということでありますが、そのようなものを契機といたしまして、西欧諸国はいろいろそういうことを考えておるというようなことで、西欧諸国が
東西貿易に対する熱意というものは非常に強いのでありますけれ
ども、ただ先ほ
ども申し上げましたように、その強さは東欧圏が第一であり、
ソ連は第二であります。
中共は何といってもそれほど強いものではないかと思うのであります。
そこで、問題は
アメリカでありますが、
アメリカは御
承知のようにココムというようなものを各西欧諸国にも呼びかけて、そうしてそれによって
ソ連圏あるいは
中共へ物を売るということにいろいろ規制をしておる、あるいは
中共との
関係は特に敵国
関係で非常に厳重にしておるというようなことで、
アメリカの
東西貿易のほうは非常に進まなかったのでありますが、国際収支が悪くなるにつれまして、一昨年あたりから
アメリカにおいても強く、
共産圏貿易を進めようじゃないかという話が起こってまいりました。ただ
アメリカにおいて起こってまいります場合には、どうしてもその
共産圏貿易というものは、北鮮とかあるいは
中国本土であるとか北ベトナムであるとかキューバというようなものは除いたその他の
共産圏貿易に対して、われわれはもっとこれを促進することを考えてもらいたいというようなことでありました。一昨年夏に開かれましたワシントンにおける
貿易促進
会議においても、非常に強くこれに対する要望が出たのであります。ところが、それからだんだん
たちまして昨年になりますと——その前に、昨年の初めに全米商業
会議所は決議を
政府に出しまして、やはり同様に今後
東西貿易をもっと進めるべきだということを言ったのであります。その場合にも、先ほど申しました
中共、北鮮、キューバ、北ベトナムは除いております。そこで、そういうような熱意が非常に強く、
アメリカ政府としても
東西貿易という対
共産圏貿易をどうやって進めようかということが非常に強くなりました。昨年の六月に
アメリカでは民間の
代表者、銀行の
代表者、学識経験者を集めまして公聴会を、
アメリカの議会の国際
関係委員会が開いております。で、これは昨年の十一月にレポートを出しておりますが、そのレポートによりますと——その前に
政府関係者これは
関係各省の大臣つまり長官それから
輸出入銀行の総裁を個々別々においでを願って、そうして
政府としての
意見を聞くヒヤリングを求めた会でございます。ただ、それだけでは十分でないので、ここで民間及び銀行家あるいはいまの学識経験者から
意見を徴するということであります。それを見てみますと、その中に、もちろん
ソ連とやる、東欧とやるというような
意見は非常に強いのでありますが、やはり
中共とやるべしというような
意見もそこに出ております。今後いろいろなことを考えますと、そういう
意見がだんだん強くなるのではないか。ただ
アメリカにおいては、国民感情としてそこにいろいろ乗り越えられない感情がございますので、そこに問題はあるかと思いますが、いろいろそういう点が今後進展してくるのではないか、こう考えております。
日本といたせば、そういうような世界の考えがある、
日本も
輸出を伸ばさなければならない、経済協力もしなければならないというときに、やはり一番大事なのは、
日本に近いマーケットというものを確保するということでありまして、東南アジアも必要であるけれ
ども、
中国本土も必要である、
台湾ももちろん必要である。ただそういうようなところと
貿易を進めるにあたりまして何としても必要なのは、やはり摩擦が起こらない
やり方だと思うのであります。その点で私は非常に遺憾に思いますのは、昨年以来
中共との
関係において、いろいろな点で、摩擦が起こらなくてもいいように私
どもが考えておる事柄に、両方から摩擦が起こる。そこにいろいろな問題——実は政治的な問題もございますから、
関係者の御苦心のほどは重々お察しできるのでありますが、何かその話し合いをするときに、もう少し各般の情勢をよく考えて、あとでこういうことが起こったらこういうことは考える、あるいはこういうことを言われたら、これまでは言ってもしょうがない、この点はわれわれも覚悟しようというような点に、もう少ししっかりした考えを持ってやっていただきたい。
それからもう
一つは、これは民間の御
関係者でもありますが、事がはっきりきまらないうちに、あまり外にいろいろなことを騒ぐ——騒ぐおつもりはないと思いますが、これが公表される。実はそれが、十のうち九はきまっておったが、最後の一がきまるところに非常に問題があるのだというような場合には、そこまでもきまったところで外に出るというような御配慮が必要かと思うのであります。そういうような御配慮をここに加えられまして、そうして、ココムできめられた国際的
約束の中で私
どもがやるならば、これは
台湾はもちろんけっこうでありますが、
中国本土とのわれわれの
貿易も一進める必要があると思うのであります。
最後に一言、私は簡単に申し添えたいのは、
日本としてあるいは世界として、先ほ
ども申し上げましたように、
貿易の分野を広げるという必要性についてであります。それについて非常に大きな必要性は、人口の増加ということを私
どもは考えなければならないと思うのであります。昨年の夏に、国連において世界人口統計が出たのでありますが、そのときの統計によりますと、紀元二千年に至りますと世界の人口は倍加するということであります。たとえば、現在三十二億五千万ぐらいの人がいるとしますと、これが倍になる。六十五億あるいは六十八億というような世界人口が、いまから三十四、五年の間にここに出現するということであります。その大半は後進地域であります。東南アジアのエカフェ地域において、その間に増加する人口は二十億といわれているのであります。こういうように増加する人口に対して、食糧はどうするか、あるいは生活程度はどうするか、生活必要物資はどうするかということで、必ずそこに物資というものの必要性がある。たとえば
アメリカ農務省で研究いたしました、紀元二千年における世界の食糧需給はどうするかという文章を見ますと、その中にこういうことが書いてあります。東南アジア地域では、今後必要とする米麦などの主要食糧、こういうような食糧を供給するためには、現在程度の割合で外から
輸入する、この
輸入量は非常に多いけれ
ども、現在東南アジア地域で自給しているその率は九五、六%と書いてございますが、それをそのまま続けて、紀元二千年のときにそういう程度であり得るためには、現在東南アジア地域が
輸入しておる
肥料の二十倍の
肥料が要る。こう書いてある。二十倍の
肥料を東南アジアに供給する国はどこであろうかというようなことを考えますときに、やはり
日本というものが相当大きくそこにクローズ・アップされる。もちろんこれは
肥料のみではありません。いろいろな物資がそこに行く。そうすると、そういう物資を
後進国に供給し、そのためにいろいろな物資の生産の必要性が起こるときに、やはり
輸入源として、大きなソースをさがしておくことが必要だ。その場合に、何といっても
日本に最も近い
中共、あるいはそれは
ソ連でもよろしゅうございますが、そういう国の重要性というものが非常にある、私はこういうように考えますので、やはりこの際
中国貿易というものは、摩擦の起こらさないような
やり方でだんだんと進めていただきたい、こう考える次第であります。