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東島参考人 私は、
紙パルプ連合会の
公等対策委員長をしておりまする
東島でございます。本日は、私
どもがかねてから本問題についていろいろと考えておりましたことを、議会の
先生方に対し開陳する機会を与えてくださいましたことは、まことにありがたく、厚くお礼申し上げる次第でございます。
私
どもは、
公害対策の
重要性というものを深く認識しておりまして、従来も誠意をもって、できるだけのことはやってまいりましたし、今後も前向きの姿をもちまして一そうこれを強く推し進めていく覚悟ではおりますが、何ぶんにも、
紙パルプの
工場は
全国に約六百以上もございまして、そのうちには
中小企業に属する
工場も多々ありますので、なかなか思うようにはいかぬ事情もありまして、一部には世上の批判を受けておるものもあるかと存じますが、
政治家の
皆さま方におかれましては、どうぞ
全日本国民経済の
発展と
国民生活の
質かさという二つの高い見地に立たれまして、よろしく御
指導、御施策くださいますようお願い申し上げる次第でございます。
排水の
公害という問題のうちで、
紙パルプの
排水というものが非常に大きく取り上げられておる現状でございますので、話の順序といたしまして、まず
紙パルプの
業界というものがいまどういうふうにあるのかということを、本論に入ります前に、一応御
参考までに申し上げたいと思います。どうぞその点だけはお許しを願いたいと思います。
紙パルプ産業は、
わが国の
産業のうちでも、私たちとしては
重要産業の
一つだと確信をいたしております。大正の初めごろまでは、
日本の紙というものは輸入したのでございますが、漸次これが発達してきまして、
自給体制がとられ、さらに最近になりましては、
輸出国にまで
発展してまいりまして、その
発展の速度並びに度合いというものは、まことに目ざましいものがございます。昨年度、これは暦年でございますが、紙の
生産高は七百三十七万トンでございまして、これは
世界の第三位に位しております。アメリカ、カナダの次が
日本でございます。また
パルプの
生産は五百三万トンでございまして、これも
世界の第五位という非常に高い
位置におります。またその出荷しております金額について見ますと、
紙パルプの
加工品を含めまして、年間約一兆円の
数字でございます。そのうち紙だけでは約四千億でございます。全
鉱工業の比率を見ますと、これは約六%の
位置を占めております。さらにまた
雇用人員を調べてみますと、
原木関係も含めまして約四十九万人という人がこれに従事いたしておるのが実情でございます。
次に、
紙パルプ産業として
公害問題に一番
関係の大きいのは
排水問題でございますが、
紙パルプ産業というものは、非常に水をよけい使います
用水型産業と申すのでございます。皆、
皆さま方も学校でお習いになったことと思いますが、
水戸光圀公が、寒い水の中で紙をつくっておるのを女中に見せまして、紙は非常に大切なものだということで節約をせよと言われたことは御存じのとおりでございまして、これは昔もいまも紙は水でつくるといわれるほど水をたくさん使う
工業でございます。たとえばさらし
パルプ一トンをつくりますのに、水はその約五百倍、五百トンの水が要ります。また紙一トンをつくりますのにも、三百倍の三百トンの水が使われておるのが実情でございます。したがいまして、
紙パルプの
生産高が増大するにつれまして用水は増大し、川水の増大の結果は必然的に
排水壁が増加してくるのは当然でございます。これが
紙パルプ産業の宿命的な問題となっております。
その
対策といたしましては、一ぺん使った水を再用水するとか、また再用することによってなるたけ水を少なくするということに努力いたしますと同時に、各種の
排水処理設備をしておりますが、何ぶんにも大量の水のことでございますので、なかなか完全無欠とは言いかねると思います。今後一そう
研究努力していくつもりでおります。
ただ、
紙パルプの
排水で一番困る問題は、色が非常に悪いのでございます。この色の悪い点が非常に問題になるところでございます。
紙パルプの
排水というものは、洗うということが主でありますので、強い有毒性のものではないのでございますが、見ばが非常に悪いために、一般に非常に悪い
排水だといわれておりますが、われわれとしてこれは非常に困っておる問題でございます。色がないとそれで一応有毒じゃないように見えますが、御存じのとおりメチルは色はきれいでございますが、たいへんな有毒性のものでございます。また、コーヒーは色が非常に悪うございますが、皆さまも非常に好んで飲んでいらっしゃる。こういう点で、
紙パルプの色の悪いのは、必ずしも色のように悪いものではないということを、私たちは常に申し上げておる次第でございます。
さらに、
対策として
関連します
関係上、
紙パルプの現在置かれています
位置、実情を簡単に申し上げてみます。
紙パルプの主要
原料は木材でございますが、その木材の原価に占める割合は約四割ないし五割となっております。最近
わが国の原木は、
外国の原木に比しまして非常に高くなっております。特に針葉樹においてはひどく割り高になっております結果、
外国で割り安の原木を使って
紙パルプを
日本に持ってこられますと、たいへんな
日本の脅威になります。それで、われわれといたしましては、自由化
対策としまして、針葉樹から広葉樹や廃材チップに転換するために、ここ数年間、その設備の改善のために毎年約四、五百億の投資をして、合理化につとめてまいった次第でございます。その結果といたしまして、広葉樹、それから廃材チップの使用の割合は全
原料の約七〇%というまで、非常に改良されてまいりましたが、これが他の
産業と同じように、
設備投資が非常に多くなりました結果、その金利償却の負担が加重になって苦しんでおります。反面、各社とも、高度成長、シェアの競争というようなことで、
生産が非常に過剰でございます。過当競争のために市況が悪化して、採算が非常に悪いのが現在の実情でございます。
この間、行政
指導によります
設備投資の規制——これは現在も生きております。あるいは勧告操短——これは昨年三月でなくなりました。いろいろそういう手を打ってもらいましたが、依然として不況のうちにある
産業の
一つでございます。三十八年度の決算を見ますと、総平均で、利益はわずかに三%というような非常に貧弱な
産業でございます。したがって、この際わずかでも原価の
要素が高まりますと、
企業努力や合理化面で吸収する余地がほとんどないというような実情でございます。
以上のごとく、紙の
生産高では
世界第三位だといっていばっておりまして、外観ではたいへんな偉容に見える。
外国から見た場合、
日本の経済の
発展というものには非常に驚いておるようでございますが、一度その内容についてみますと、すこぶる不安不況のものでございます。以上が、
紙パルプ産業の概況でございます。
次に、
公害対策の本論に入りたいと思います。ただいま
黒川先生からいろいろとお話がございましたのとかなり重複する点もあるかと思いますが、どうぞあしからず御了承をお願いいたします。大体五つ六つ考えておりますが、ほとんど重複する点もあると思います。
第一は、総合的土地の利用計画や
都市計画の整備確立。先ほ
どもございましたが、これはわれわれとして非常に重要に考えております。
最近、
工場や民家が密集混在して、
公害問題が急激に発達しておる状態でありますが、これは総合的土地の利用計画や
都市計画が不備であったというのが
一つの
原因であると考えられます。今後、新
産業都市や
工業整備特別地域における
工業開発に際しましては、事前に総合的土地の利用や
都市計画を十分に整備してもらいますとともに、
公害防止
対策を確立し、
工場ができた後において再びかかるごとき
公害問題が起こらぬよう御処置をされたいということを、お願い申し上げておく次第でございます。
第二の問題は、
公害防止の
技術の
開発の問題でございます。
これもただいまお話がございましたが、
紙パルプ産業も同様でございます。われわれ
業界におきましても、常に
公害防止に対しましては大いなる関心を持って、
技術的経済的可能の範囲で水質の改善に努力してまいっております。たとえば水を可及的に回収いたしまして、これを循環して使用したり、また、最後に出てまいります
排水の中から繊維などの浮遊物質を分離いたしまして、さらに副産物といたしましては粘着剤、タンニン、アルコール、イーストなどをとりまして、適当に処理した上で
河川に放流し、
河川の
汚濁をなるべく少なくするように努力はいたしております。
しかしながら、
公害防止
技術の
開発は
生産技術と異なりまして、われわれとしましては、利益向上に直接
関係がないばかりでなく、非常に多額の経費を要しますので、民間の
研究に対しましても国の一そうの御助力をお願い申し上げる次第でございます。
なお、
公害防止
技術の
開発には、大規模な
工業試験や各
方面の学問分野にわたる
技術の総合的活用が必要でありますので、民間
企業のみでなく、国の
研究開発の
強化によりましてこの積極的な御援助を願いたいと思います。今般通産省におかれまして
産業公害研究部が新設されましたことは、全く御同慶に存ずるところでございます。
第三の問題は、
下水道に対する社会
資本の不足の問題でございますが、これはわれわれとして非常に大きな
関連のある問題であります。
この
下水道に
関係しましてまず第一に考えられますこととして、非常に密集しております
都市における
工場排水の問題を取り上げて申し上げたいと思います。
密集
都市における
排水処理については、かりに隅田川を例にとりまして、水質基準が荒川の水域で指定されておりますが、基準によりますと、PH——これは水素の指数でございますが、これが五・八から八・六と指定されております。五・八ないし八・六というのは大体中性の点でございます。上になりますとアルカリ性になり、下になりますと酸性になることは御
承知のことと思います。それからBODの日間平均二〇PPM以下という指定になっております。BODということは、御存じと思いますが、これは生物
化学的に酸素を要求する量でございまして、腐敗有機性の物質が非常に多いのと少ないのを示す
数字でございます。BODというのは、今後の
排水対策をなさる場合に非常によく出てくる事項でございます。この
数字が多ければ多いほど
汚染の度合いが高く、低ければ低いほど水の質はいいということであります。これが日間平均二〇という非常にシビアーな点できまっております。その次はSSと申しまして、これは水中にあります浮遊物質のことでございますが、これが日間平均約七〇PPMと指定されております。これは
数字が低いほどいい
排水ということになります。この水質以下ならば放流していいということになっておりますが、この水質までに処理するには、たいへんな設備とたいへんな費用が要ります。また、その敷地も
相当広い敷地を要しまして、この線では実際はほとんど不可能といえるように私たちは考えております。
それから、
下水道に
関連しまして、第二の問題は、
公害防止は国、公共団体及び
企業の共同の責任であるという確信を私たちは持っております。
工場や家庭からの
排水がいま
下水道の未整備のままで
河川に放流されておって、著しく
汚濁しておるのであります。
東京都の
下水道は、先ほど申されましたように、いま約二四%しか完備しておりませんので、その他のものは無処理のままで
河川に放流されております。隅田川の水質基準審議中にも、
汚濁の全責任がいかにも
産業の
排水のみにあるかのごとく報道されまして、私たち非常に迷惑したのでございますが、必ずしも
工業排水だけの責任じゃございません。家庭
排水その他も
相当の
部分を占めております。したがいまして、
公害対策の
解決には、国と公共団体とわれわれ業者、三位一体となってこれをやっていかなければならぬ、こう考えておる次第でございます。
その次に、また、
下水道に
関連します第三の点に考えられます問題は、
下水道整備が非常に緊急の問題であるということであります。
わが国においては、従来下肥が肥料として使用されておりました
関係上、
わが国における
下水道の整備というものはたいへんおくれておるのでございます。最近、
化学肥料が広く使われるようになりました結果、ふん尿は遠く海洋などに投棄されておるような、非常に不衛生な処理が行なわれておるばかりでなく、家庭下水のほうは無処理のままで
河川に放流されており、これが非常に
汚濁の
原因になっておると考えております。特に隅田川のように
工場と民家が非常に過度に密集しておるところにおいては、
下水道の完備なくしては
河川の浄化はほとんど期待できないと考えております。
また、この
下水道に
関係しまして第四に考えられますことは、公共
下水道のあり方の問題でございます。
わが国の
下水道は、家庭下水処理を大体目的としていままでつくられてきておりまするために、
産業排水については
下水道へ流入する水質を規制することができるということに法律ではなっております。しかるに、諸
外国においては、
産業排水はほとんど無処理でそのまま
下水道に受け入れてくれるか、または
日本よりはるかにゆるい受け入れ基準でこれを受け入れてくれております。したがって、
わが国の
下水道も、今後は
産業排水も家庭下水同様に処理することを前提として施策せねばならぬものと考えております。このためには、
下水道流入に先立って前処理を求めることができるという従来の規定は全面的に改正してもらいたいと思います。特に有毒物質だとか、非常に下水処理設備をこわすと思われるような
排水は別としましても、その他の
排水はそのままで受け入れてもらいたい、これを私たちは心からお願いする次第でございます。
それからまた、
関連いたしまして第五番目に考えられますことは、
下水道料金の問題でございます。
東京都におきましては、
産業排水は現行料金は一立方メートル五円となっております。これは大阪その他の
都市に比べまして非常に割り高になっております。またさらにこの四月一日からこの五円を一挙に倍額の十円に上げるという案が現在出ております。ところが、
紙パルプ産業は、前に申しましたように非常にたくさんの水を使いますので、十円にされたのではたいへんな影響があるのでございます。かりにこれを
東京周辺の
工場の例をとってみますと、一立方メートル当たり五円の
下水道料金としましても、原価にはね返ってくるのは二・五%というアップになってまいります。それで、先ほど申しましたように、平均利益が大体三%くらいしかないところに二・五%のアップとなったのでは、どうにもこれはやっていけない。それがさらに十円になったのでは、都内の紙パ
産業というものは全く存立ができない、こういえるのじゃなかろうかと考えております。どうぞ
工場が存立できまするように、
工場排水に対しましては逓減の料率を使うとか、あるいは特定料率を制定してもらうとか、適当な施策をしていただきたいとお願い申し上げるのでございます。
また、
下水道に関する第六番目に考えられます問題は、共同処理方式の促進でございます。ただいまお話にございましたが、われわれといたしましても共同処理ということを考えております。たとえば北区あたりでは各個々ではなかなかできないのでございます。これを
工場の立地条件によっては、付近の数カ
工場が共同処理したほうが、各自で処理するよりも非常に有利な場合も
相当多いと思います。今回
公害防止事業団というのができまして、これらの
公害防止に対し重点的に財政投資をしてくださるということになりましたことは、
業界としては非常に喜んでおるところでございます。
以上をもちまして、
下水道及び社会
資本の不足の問題について
関連した事項を申し上げて、卑見を申し上げた次第でございます。
次に、第四番目の問題は、
産業の協和と公衆衛生の向上という問題でございます。
水質保全法は、
産業の相互の協和と公衆衛生の向上に寄与するということを目的として制定されたものと存じます。また、水質保全法においては、
工場、鉱山及び公共
下水道または
都市下水路から出される水の基準も定めることができることになっております。しかるに、実際はどうかと申しますと、従来の水質基準の設定の結果を見ますと、
工場排水の処理については非常にきびしい規則が加えられておるにもかかわらず、
都市下水の処理については、処理場のないものはそのままであり、処理場がいま計画中のところはその完成までは規制が行なわれない等、きわめて寛大な処置がとられております。これは法運用上の片手落ちとわれわれは考えておる次第でございます。
都市下水による
汚濁を
産業排水にしわ寄せさせることは、われわれはとてもたまらないと考えております。すなわち、法の運用面において立法の精神を生かされまして、どうぞ今後この法の運用を御配慮願いたいと思っております。
次に、第五番目の問題、
公害防除施設への助成のお願いでございます。
従来、
公害関係の一般助成制度としましては、
中小企業近代化資金によりまする無利息の貸し付けや開銀融資などの制度がありまするが、この密集
都市の
公害問題が最近非常に問題になるわけでありまして、早急にこれは改善を要請せられております。そのためには、どうぞいままで以上の長期低利の資金の貸し付けとか融資の制度をさらに必要と考えておる次第でございます。
以上、長々と申し上げましたが、最後に私は特に二つの点だけを、
政治家の皆さんにお願い申し上げたいと思うことがございます。
その
一つは、数十年前に
工場をつくったときは、その辺は田畑だったようなものがございます。そのときには水もきれいであり、川に流してもたいして問題がなかったのでございますが、その後あとからあとからと人家ができて、
稠密になり、したがって、自分が使っておった水は悪くなる、公衆衛生の
立場から
排水対策についていろいろ設備をしなければならぬ、負担は非常に過重になってまいります。極端な場合には、もうそこにおってもらっちゃ困る、よそに行ってくれと言われるような結果も起こり得るかと考えております。だから、観点を変えてみますと、何十年前につくった
工場側から言わせれば、むしろ自分たちは
被害者の
立場である、私はそう思っております。そこで、かりに移転をしなければならないようなことが起こりました場合には、第一番に移転先のごあっせんを願う。また、それに対する助成をひとつお願いしたい。それから、一番問題になります移転の後のあと地の問題でございます。なかなかこれの処理がむずかしいと思いますので、国家または公共団体で適当な値段でこれを買い上げてもらうということになりますと、ほかに移転するのにしやすいのじゃないか、こういうことを考えております。この点は、ぜひひとつ御考慮をお願いしたいと思います。
それから、最後のお願いの第二は、これはまことになまいきな言い方をするなとおしかりをこうむるかもしれませんが、とにかく
日本の一億の人間がたった四つの島に生活している、しかもわりかた恵まれた生活をやらなければならぬというようなこと、これは
日本の最高至上命令だと思います。それには
産業の発達なくしてはとても達成はできないと思います。現に昨年政府から
調査を発表されましたものを見ますと、
調査したときに約七割の人たちは、大体自分たちは中流生活をしておるというような回答があったという御発表がございました。これはおそらく
日本の
産業が非常に発達したおかげだろうと考えております。しかし、
産業が出てまいりますと、これは
あかが出るのが当然でございまして、これに対して
公害はつきものでございます。もちろん
産業側といたしましては、もう最大限に
公害防除に対しては施設をするべきはずのものでございまするが、そのために
工場なり会社がぶっつぶれるようなことになっては、これは角をためて牛を殺すということになりますので、その辺は、お互いの
環境も大事でございますが、また
企業の側としても大事な問題でございますので、どうぞその辺の度合いということを御考慮くださいまして、お互いに譲り合っていくような
方法でいければ、非常に
日本の国のためになると私は考えております。
どうも長々とありがとうございました。