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三宅参考人 三宅でございます。
きょうは当
委員会において
放射能による
汚染の問題について話をする機会を与えられましたことを、たいへん光栄に存じております。
いわゆる
環境の
放射能汚染と申しますのは、現在のところでは主として
核兵器の
爆発の結果生じたものであります。もちろん一部には
原子炉施設からの
汚染もございますけれども、それはごく局地的なものでありまして、いわゆる
地球的な
規模で
放射能汚染が起きておるのは、
核兵器による
ウランあるいは
プルトニウムの
核分裂生成物の散布の結果であります。
現在
核兵器として用いられております
原子力というのは、これは大体
二つに分けることができまして、
一つは、いわゆる
核分裂、
つまり原子核の分裂であります。それから
一つは、
核融合、
原子核を融合して別の
原子核にする、そのときに生ずる
エネルギー。
つまり核分裂エネルギーと
核融合エネルギーが
核兵器の物理的な
エネルギーとして使われておるわけでございます。
ところが、このうち
核融合のほうは、その結果として有害な
放射性物質を誘起いたしませんけれども、
核分裂のほうが
人間にとって最も危険なる各種の非常にたくさんの——非常にたくさんのということは非常に種類の多い、しかもまた量的にも、
かなりの量の
放射性物質を放出するわけであります。
最初一九四五年に広島及び長崎で落とされましたいわゆる
原子爆弾というのは、この
ウラン及び
プルトニウムのそれぞれ
核分裂を用いたものでありまして、それを物理的な
エネルギーに換算いたしますると、その当時の最も強い
火薬、
TNTという
火薬がございますが、それの二万トン分に当たるといわれておるわけでございます。ところが、その後開発されましたいわゆる
水素爆弾、これは元来なれば
水素あるいは
重水素をヘリウムあるいは三
重水素という形に
核融合させて、そのときの
エネルギーを用いるものでございますけれども、同時に非常に
多量の
天然ウランの
核分裂の
エネルギーをそれに加えて、非常に強力な
爆発物をつくったわけでございます。そのために
物理的エネルギーとしては一挙にして、
TNTに換算して百万トン、
つまり一メガトン以上のものができるようになったわけでございます。
ところが、そのうちにどのくらいの
核分裂の
エネルギーが分け前をとっておるかといいますと、これはいずれも兵器でありますから公表はされておりませんけれども、
科学者たちの観測の結果から推定いたしますと、
最初のころの
水素爆弾では、大体半分が
核融合エネルギーであります。
つまり半分が
核融合エネルギーということは、たとえば百万トン
TNT換算、一メガトンですね——百万トン
TNT換算の力を持った
爆発物のうち、五十万トン
TNT分だけは
核分裂生成物である。
つまり原子爆弾に換算すれば、一メガトンの
水素爆弾というのは二百五十個分の
原子爆弾に
相当するわけであります。
つまり二百五十個分の
原子爆弾から出る
核分裂生成物に
相当するわけであります。したがって、現在の
地球上の
汚染というのは、ほとんどすべて
水素爆弾の
爆発によってもたらされたものといっても過言ではございません。
現在までに、では一体どのくらいの
爆発をしたかと申しますと、これは主として
アメリカ及び
ソ連でございますが、ほぼ五百メガトン分の
火薬に
相当する
爆発を行なっております。そのうちそれでは
天然ウランの
核分裂によってどのくらいの
エネルギーが出されておるかというと、現在の推定では、その半分より少し少ない値、二百メガトンくらいが
水素爆弾によって
核分裂を起こして、そうしてそれだけの
核分裂生成物が
世界中にまき散らされていると考えられております。
先ほど申し上げました
核融合と
核分裂との比は最近になって次第に小さくなってきておりまして、
最初は大体五十対五十くらいだったものが、最近では六十対四十、あるいは七十対三十というように、だんだんといわゆる彼らのいうきれいな
爆弾に向かっておりますけれども、しかし全体の
爆発の
規模が大きくなっておりますので、決してきれいということはできません。
そのような
核分裂生成物が一体どういう経路で
地球上にまかれておるかと申しますと、ほとんどそのすべてが一度空高く
成層圏まで打ち込まれております。
成層圏と申しますと、大体高さにして八キロメートルから十二キロメートルくらいのところに
対流圏と
成層圏の境がありまして、それより上を
成層圏と申しますが、最近では次第に
成層圏の非常に高いところに
核分裂生成物が打ち込まれておるような形跡がございます。ところで、
成属圏に打ち込まれた
核分裂生成物は、次第にまた
対流圏に戻って、
対流圏の中で雨に洗われたり、あるいはちりにくっついて落ちたりいたしまして、次第次第に
地上に
降下するわけでありますが、大体
成圏層に一年ないし三年くらいとどまって
地上に落ちてまいります。
それで、
地下に落ちてくるときに非常におもしろい
現象がございまして、その
一つは、いわゆる春の
極大といわれておる
現象であります。年々三月ごろから六月ごろにわたって
降下の
極大が見られます。これは必ずしもそのころに雨が多いからたくさん落ちてくるというわけではないのでありまして、大体
世界じゅう、
世界じゅうといいましてもこれは
北半球の話ですけれども、
北半球ではちょうどいまごろ、四月から五月ごろに
降下の
極大がございます。
それから、もう
一つおもしろい
現象は、いままでの
実験というのは、主として
北半球の低
緯度地帯から
高緯度地帯にわたって行なわれておりますが、
北半球の中
緯度地帯、
北緯三十度から
北緯六十度くらいの間に
降下の
極大があらわれます。ところで、大体その
付近に
文明地帯がずっとありまして、
世界人口の大部分がそこに集まっておりますので、これは
世界の人類にとって非常に憂うべきことではないかと思います。
それで、もちろん
降下は
陸地ばかりではなくて、海の上にも行なわれておりますので、これから
陸地の問題、海の問題に分けて考えてまいりたいと思います。
最近
日本あるいはヨーロッパ、
アメリカ等で観測されましたところでは、先ほども
原子力局長からのお話もございましたが、現在までの
ストロンチウム九〇の
蓄積量と申しますか、
降下しました総量というのは、
東京あたりで一
平方キロメートル当たり大体六十五
ミリキュリーくらいの値になっております。
日本でも
裏日本は特に多いのでありまして、
秋田地方では一
平方キロメートルあたり百
ミリキュリーをこえるような値が出ております。これは
裏日本では特に冬の積雪が多いということが、
相当に
ストロンチウム九〇の
降下を大きくするのにきいておるようでございます。
セシウム一三七のほうは、大体
ストロンチウム九〇の二倍から二倍半くらいの
降下量を示しております。これらはいわゆる
長寿命核種と申しまして、
ストロンチウム九〇が
半減期が大体二十八年くらい、それから
セシウム一三七が三十年くらいでありまして、これらのものが植物、動物を通じ
食品となって
人間のからだに入ってまいりますときには、特に
ストロンチウム九〇のようなものは
かなり長期にわたって
人間に
影響を与えるということが考えられております。
その
食品のほうでございますが、現状では一日一人
当たり、これは
日本人の場合でありますが、
ストロンチウム九〇の場合は四十ないし五十マイクロ
マイクロキュリーぐらいのものを
食品からとっておるようであります。
セシウムのほうは大体その倍ぐらい、一日一人
当たり百マイクロ
マイクロキュリーの摂取があるようでございます。このような
放射性物質を摂取した場合にどのような
影響があるかということにつきましては、これはまだいろいろむずかしい問題がありまして、正しい値は出ていないと思いますけれども、大体のところ、
天然の
放射性元素からくる放射線の数%ぐらいはもうすでに人工のものによってもたらされておると考えられております。数%といえば少ないようではございますけれども、
天然の
現象を数%変えるというのは、これは
かなり大ごとではないかというのでありまして、今後またそれがどのようにふえていくかということをわれわれとしては注意していかなければならないのではないかと思います。
一方、海のほうの
汚染でありますが、これは一九五四年にいわゆる
ビキニ事件というのがありまして、遠洋でとれました魚の非常に強い
放射性汚染のために、一部分の魚を廃棄したことは皆さんも御
記憶に新しいことと思います。そのときには、
ビキニ及び
エニウエトク環礁で非常に大型の
水爆実験が行なわれて、しかもそれが
環礁の上で行なわれましたために、
多量の
放射性物質が
海水中に流れ込んで、そしてそのために間接的に魚を
汚染したものであります。しかしまた、一部には、直接的に船の上で
放射性落下じんが落ちてきて、それによる
汚染もございましたけれども、これはそれほど
多量のものではなかったわけであります。
ビキニ及び
エニウエトク環礁で非常に
多量の
放射性物質が海の中に放出されましたために、いわゆる
北太平洋、赤道より以北の
太平洋の西側ですね、すなわち
日本が位しておる側の
海水の
汚染が非常に高くなりまして、
北太平洋の東側、
つまりアメリカ側に比べて数十倍から数百倍の
汚染をもたらしたのであります。もちろんこれは
大西洋に比べても、
大西洋ではそのような直接的な
汚染がなかったために、
大西洋に比べて
太平洋の
日本側のほうはやはり数十倍ないし数百倍の高い
汚染がございました。それは次第に現在では一様に拡散して薄まりつつありますので、一九五五年、五六年ごろを
ピークとして次第にその
汚染は薄くなってまいっておりますけれども、また一方には、それだけのものが
北太平洋全域にわたって拡散しておりますので、その結果としてどのような
影響を海の
生成物に与えるかということについては、今後注目すべきことではないかと思います。水平的にはそのように数年間の間に
かなり薄まりを見せましたけれども、これを海の垂直的、鉛直的と申しますか、深さによって考えてみますと、もうすでに六千メートルから七千くらいまで
放射性物質の
汚染が広がっております。それでございますから、今後海における
放射能汚染の問題は、特に
水産国である
日本といたしましては非常に大きい関心を持たなければならぬのではないかと思います。各国ともこの十年ないし十四、五年にわたってこの種の
研究をしてまいりましたけれども、何と申しましても非常に広い、いわゆる
地球的な
規模を持った
汚染でありまして、これを一国の手によって調べるということは非常にむずかしいことでございます。
それからまた、先ほど申し上げましたような生物に対する
影響、
人間に対する
影響。
人間に対する
影響も
二つありまして、いわゆるその人が生きている間に起きる
影響と、その人の今後の子孫に及ぼす
影響、遺伝的な
影響とあります。が、これらにつきましては、まだ科学的に解明されてない問題がたくさんありまして、これは、どうしても
世界じゅうの科学者が協力してこれらの問題に当たらなければ、とうてい解決がつかない問題ではないかと思います。
それで、
日本におきましては、
原子力局を中心としまして、各官庁でこの種の試験
研究調査が行なわれてまいりましたが、一方、文部省のほうでも、
放射能研究に対して、いままで特別の御援助をいただいて、十年間
研究をしてまいりましたけれども、まだこれとて非常に不十分でありまして、今後の
研究が必要ではないかと思うのであります。特にこの
研究は、物理学、化学ばかりではなくて、先ほど申し上げました生物医学といったような非常に広い範囲にわたっておりまして、どの
一つの部門だけでこれを
研究することはできないという特徴を持っております。それだけに、この
研究に対しては国家からの
相当の御奨励がなければやっていけない問題ではないかと考える次第でございます。
また一方、国際的な問題でございますが、これは一九五五年にユネスコの総会において
日本の代表が、その前年に起きました
ビキニ事件の
影響について警告いたしまして、国際的な
規模でこの問題を
研究すべきではないかということを提唱したのでありますが、そのようなことがきっかけとなって、一九五五年に国際連合の決議によって、国際連合の原子放射線の
影響に関する
委員会というのができまして、これは通称国連科学
委員会といっておりますが、それが一九五六年に発足して、当時まだ
日本は国連に加盟しておりませんでしたけれども、特別にその
委員会の委員国として参加して、今日までいろいろ貢献してまいっております。しかし、先ほど申し上げましたように、いまのところ大型の
爆弾の
実験は、一応いわゆる
核実験部分停止条約によって中止はされておりますけれども、もうすでに蓄積されているものが
相当多量にのぼっておりまして、また
成層圏に残っておりますものも
相当たくさんございまして、今後の推移は十分に注意して見守っていかなければならない
状況でありますので、何とかして
世界じゅう全体の大きい
規模において観測網、
研究網をしく必要があるのではないかと思うのであります。
特にアジア地域におきましては、この
研究をやっておりますのはほとんど
日本だけであります。
日本だけと申してはほかの国に失礼に
当たりますけれども、もちろんインド、フィリピンその他の国々にあっても行なわれてはおりますけれども、
かなりの成果をあげているのは
日本であります。御承知のように、アジアの場合にはヨーロッパや
アメリカと違いまして、たとえば食習慣におきましても非常な差がございます。たとえば先ほど申し上げました国連の科学
委員会でも、
アメリカ、ヨーロッパの学者たちは、
ストロンチウム九〇の
人体摂取の問題はほとんど牛乳を
指標として片がつくというようなことを申しまして、実際にそのような
報告をつくっておるわけです。ところが、
日本及びその他のアジアの諸国においては、牛乳のような
食品にはいまのところほとんど重要性がないのでありまして、大部分の
人体の
汚染は穀物とかあるいは野菜類を通してきておるのであります。それでありますから、国連科学
委員会の出しましたいろいろな
報告が必ずしもすぐアジアの人民に当てはまるとは言えないのでありまして、早急に
日本をはじめとするアジア諸国においてこの問題の
研究が必要ではないかと考えられます。特にアフリカ諸国においてはほとんど
研究の成果があがってないというような実情でございます。
大体現在の
汚染の
状況を申し上げたのでございますが、最近
一つ問題になっておりますのは、この雑誌の表紙にさし絵になっておりますが、これはいわゆる放射性のジャイアント・
パーティクルといっております。ジャイアント・
パーティクルといっても、実は非常に小さいのでありまして、十ミクロン程度のものでありますけれども、普通の放射性のちりは一ミクロンあるいはそれ以下でありますから、それに対してこれをジャイアント・
パーティクルといっておりますか、これは一粒で数万カウントくらいの
放射能を持っておるわけです。こういうものがほらばら上から降ってくるという
現象が一九六二年の
ソ連の大型の
水爆実験の際に
全国で認められまして、それ以来着目されております。これは実はスウェーデン、インド、それから
日本等でもそれ以前にも発見されていて、私がたしか国連の科学
委員会に出ましたときにもその問題についての警告をいたしたのでありますけれども、まだその当時はそれほど大きい問題になっていなくて、国連の科学
委員会の
報告でもその点にはあまり触れておりませんが、最近になりまして各国でこういうようなジャイアント・
パーティクルの落下の問題について注目が払われまして、だんだんと
研究が進んでまいっておるようであります。このような非常に強い
放射能を持った微粒子が
人体のどこかの部分に落ちる、あるいはそれを吸い込んでそれが肺に到達する、あるいはのみ込んでそれが消化器官に到達するといった場合に、どのような
影響を与えるかということについては、今後大いに
研究を進めていかなければならないのではないかと思われます。
いろいろまだ
研究すべき問題がたくさんございまして、まだ
研究が始まってわずか十年くらい、実際に本格的な
研究は各国ともまだこの五年くらいでありまして、学問技術としてはごく初歩の
段階にあるものであります。特に今後
中共の
実験がどのような推移をもって行なわれるかということにもわれわれとしては関心を持っております。
一つの国が
核実験を始めました場合には、たいていそれが水爆の完成に至るまではやめないというのがいままでの歴史的な事実であります。でありますから、
中共も今後どのように推移するかということは、これは
日本ばかりではなくて、各国の注目の的ではないかと思うのでありますが、一方フランスも、おそらく今年中には
太平洋において
水爆実験を行なうのではないかと考えられておりますので、まだまだフォールアウトのほうの脅威からもわれわれはのがれてはいないわけであります。
ところで、一方、われわれ人類にとって最も大切な
原子力の平和利用の場合においても、この
放射能汚染というものは
原子力の平和利用の積極的な面に対して必ず
汚染という消極的な面がございまして、この
二つの面が同等の努力によって解決されない限り今後の
原子力の平和利用というものは発展しないという、これがほとんどすべての科学者の考えておるところでございます。そういう点から申しましても、われわれといたしましては、兵器によるフォールアウトの監視をすることは科学者としては少しもおもしろいことではないのでありまして、これは国民あるいは大きく言って人類をそのような脅威から守るためにやむを得ずやっている仕事なのであります。実は今後
原子力の平和利用を進めて人数の福祉を増進するということのほうが科学者としての元来の任務である、しかしそこには
汚染という点につきましてはやはり同じような問題が出てくるのでありまして、そういう点につきまして皆さま方の御関心を賜わりたいと存ずる次第でございます。
どうもありがとうございました。