○
菅谷参考人 両
参考人がたいへん精密な準備をしてこられたのに対して、私はさっぱり用意をしてまいりませんでしたので、まことにざっぱくな
意見を申し述べることになると思いますが、私は、当
委員会が
科学技術振興対策特別
委員会であるということを
前提にしまして、
水資源の総合
利用問題について、わが国において現存何か欠けているところはないかという点を述べてみたいと思います。
東京に限らず、現在の
日本のあらゆる部門における
水不足の問題、これは厳然たる事実でありまして、これに対していろいろな
対策、研究等がなされていることは言うまでもありません。ですが、私は、現在やられております土木工学的な技術的ないろいろな水の
利用方法といったようなものが、何か一本くぎが抜けているような感じがしてならないのであります。そういう
水不足のためにいろいろな工がなされておりますが、先ほど
新沢参考人が述べられましたように、たとえば
東京の
利根川導水工事をとってみても、五十トンもある
導水路で引いてくる水のうちの約一〇%、五トンを
ポンプアップしてそれを直接浄水場に入れて使わなければ他に転用する方法がない、これを村山、山口貯水池に入れて使えばもっとよけい使えるんだろうというような御
意見を述べられましたが、まさにそのとおりでありまして、非常にたくさんの国の金を使いながら、でき上がったいろいろな施設が非常にラフな使い方、というよりもむしろその
建設一的にそぐわないような使い方をされているという感じを受けてならないのであります。そのために多くの税のむだ使いが行なわれているばかりでありませんで、水のコストが非常に高くなってきている。しかも十分な水を使うことができないという
状態を来たしているわけであります。私は、こういう事態が起きるのは、国全体としまして、
水資源の
利用の基本方針といったようなものが確立していないためだというふうに考えております。
当面のいろいろな
計画や事業の具体的な批判はさておきまして、私はここで、先ほども申しましたように、わが国が
水資源の
利用の根本的な方策をどういうぐあいにきめたらいいかということを申し述べてみたいと思います。
技術の振興と申しましても、何でもやみくもにやったらよいというものではないはずです。科学技術と申しましても、これは人間の思考をもとにしまして実際の行動にかかわるものでありますから、何をどういうぐあいにして、どういう方法でやるのかという初めの考え方がしっかりしていなければ、間違った方向へ進むおそれは十分にあるのでございます。そういうことを具体的に取り上げますと切りがございませんが、水の総合
利用をはかることでも、多くの技術や研究の
開発が重要なことは申すまでもありません。実際にそういう水を
開発、
利用する方法、これは幾つもあると思います。
たとえば貯水をする方法を考えてみますと、一番に上中流に
ダム貯水池をつくって、ここに水をたくわえる。これはおもに、ふだんの水は川に流さなければならぬわけですから、増水のときの水を貯蔵するという方法です。
そのほかに、河口に貯水池をつくって、ふだんでも海にむだに流れていく水を抑えていって、これを
利用するという方法があります。
第三番目に、最近米国の東海岸などで考えられている方法でありますが、海域、特に湾とか入り江を海中
ダムで締め切りまして、
海水を真水と置換させてそこを貯水池にするという、海域貯水池と名前をつけておりますが、そういう貯水の方法も考えられております。
第四番目には、地下に貯水するという方法であります。地下にある
一つの水がたまる層、これを帯水層といっておりますが、その帯水層に水を圧入するなり浸透させまして、そこにたくわえて
利用するという方法でございます。この
地下水の圧入の方法、また帯水層をつくる方法にはいろいろございまして、自然の帯水層を
利用する方法もございますし、最近では地下で原爆を爆発させまして——これはきれいな原爆、水爆でありますが、爆発させまして、地下に大きな空洞、これは完全な空洞ではなくて、ポーラスな非常に空隙の多い空洞をつくって、そこに水を入れる、こういう方法も考えられて準備されております。こういう方法も結局は豊水の水を
利用するという方法でございます。
こういう四つの貯水の方法があるわけでございますが、現在客観的に
日本のやり方を見れば、私は、一の上中流に
ダムをつくってそこに水をたくわえるという方法だけがやられていて、河口貯水池、海域貯水池、地下貯水池というようなことは全く顧みられていないといっても過言でないと思います。
水資源を
利用する場合に、ためるだけでなくて、その水を実際に使うところまで引いてくるという
導水の問題もございますが、この
導水の問題も、人工的に
水路をつくって、管路、いわゆるパイプライン、開
水路を掘るとか、トンネルをつくって水を引いてくるとか、こういう人工
水路を使う方法が考えられますが、そのほかに自然の
河川をそういう
導水路に
利用するという方法もあるわけでございます。第三番目に、先ほど申しましたような地下の
一つの水脈、
地下水の流れる道筋、これを
地下水脈といっておりますが、この
地下水脈を
利用するという方法もあるわけでございます。
日本では、前の貯水法と同じように、自然の
河川を
導水路に
利用するという方法は非常に不完全でありまして、
あとで述べますように、まあ行なわれていないといっても過言でなかろうかと思います。三番目の
地下水脈の
利用などということに至っては、これは全く考えられていない。
こういう貯水法、
導水法にかかわらず、多くの土木工学的な技術があるわけですが、あまりその
一つの方法にこだわって他の方法を顧みないということになりますと、これは
水資源の総合
利用などはとうていできないことでありまして、そこらあたりに何かわが国において
一つの大きな欠陥があるような気がしてなりません。現在のように水の非常な不足に追われてまいりますと、そういう、どういう方法で水を取ったらよいかなどという。プリンシプルを考えるひまがないということを言う人がおります。ですが、どういう方法をとったならば早く、安く、豊富に水をわれわれが
利用することができるか、そういう方法のうちのどの方法が
日本の実情に、これは実情といいましても自然条件と社会条件がありますが、それに最も適した方法かという、こういうことを研究することが、私は
一つの
水資源の総合
利用の根本命題だろうと考えております。ともかく、こういうぐあいに
水不足に追われてまいりますと、プリンシプルなどを考えるひまがない、とにかく何でもやることだというようなやり方を続けている限り、私は、百年たっても
日本の
水不足は解決できないだろうと思います。そしてまた、そういう安易な水の
つくり方に終始している限り、コストは次第に高くなってまいりますし、また量の点でも、先ほど橘さんが、
利用できる二千億トンの水があると申されましたが、それにプラス千六百億トンの
洪水の水、三千六百億トンの水を持ちながら、現在そのうちの六百億トンを使っておるわけですが、それが一千億トンくらいになったら、もう従来の土木工学的な方法では水の
利用ができなくなる、そういう終局が早くくるような気がしてなりません。私は、こういう当面のいろいろな
水不足の
対策などは、それは他の
委員会や実際の当事者たちにまかせておいて、こういう
委員会ではゆっくり時間をかけて、
日本の現状に最も適した
水利用のプリンシプルを研究、決定されることを望みたいと思います。
それでは、将来の問題として、
日本の国でどういう
水利用のプリンシプルがあるかということを、御参考までに申し上げてみたいと思います。
第一には、河水の完全
利用の問題についてであります。これは先ほど数子をあげられた橘さんの
意見どおりに、われわれがいろいろな方法で
つくり出す水に比べて、天然が与えてくれる水の量というものはけた違いに多いのであります。この三千六百億トンという実際の水がわが国のいろいろな
河川を流れておりまして、たとえば
利根川にしましても、
利根川に流れている
年間百数十億という水のうち一0%未満が使われているにすぎないのでありますから、この川水を完全に
利用するということが第一の命題だろうと考えます。
これを可能にするには、まず第一に、
河川を上
水路として使うというプリンシプルをきめなければいけないと思います。現在はこの
河川に下水をどんどん放出しておりますから、私が先ほどこの
河川は不完全だと申しましたのはこのことを言ったのでありまして、この
河川の水が汚濁されましていろいろな公害問題を生じていることは、皆さんすでに御
承知のとおりだと思います。
しからば、そういう
河川を上
水路に使うためには、どういうプリンシプルをとらなければいけないかということになると思います。これは、
河川を上
水路とするためには、
河川のほかに排
水路を掘らなければいけないことは当然であります。すべての下水をこの排
水路に入れて、それを
下流に導き、一括して処理をしてこれを海に流す。そうしますと、非常にばく大な水をそのまま上水として
利用することができるわけであります。現在やられております方法で、この下水をさらに精製処理して
工業用水に使おうとするようなやり方は、私が先ほど申しましたように、
一つの大きな間違いではなかろうかというぐあいに考えております。その
意味は、結局精製上水のためにはばく大な投資を必要とするわけであります。しかも、その投資によって回収される水は非常にわずかな量で、たとえば三河島の下水の
工業用水を見ましても、わずか二十万トンの水がとれるにすぎません。ところが、そういう水を
河川に流すために、
河川ではその数十倍に相当するものが上水として使えないという事実がたくさん起きているわけであります。
第二番目に、
地下水の
利用、これをもっと考え直そう。現在行なわれております
地下水の
利用というのは、
地下水は無限にあるものだという考え方で、その略奪に終始しているといって過言でないと思います。これを
地下水の
利用そのものではなくて、
地下水の層、いわゆる帯水層の貯水能力、これを地下の貯水池として
利用することを主体にして考えるべきだというぐあいに考えております。そうしますと、その貯水池に豊水時の水をどんどん注入して、これを先ほど申しましたように池下水脈の
下流から
ポンプでくみ上げて使いますと、いわゆる
水路も要りませんし、パイプラインも要らないというわけで、非常な
有効利用ができるわけであります。そういう例は、米国のオレンジ郡で非常にじょうずにやって成功しておりまして、
世界の各国から非常にたくさんの参観人を毎年集め、実際にそれに見習った
地下水の
利用が、
世界の
水不足の各国で行なわれておることは事実でございます。
第三番目に、
海水の
利用でありますが、これは先ほど
松田参考人が申されたように、私は将来の問題だろうと考えます。その場合、わが国では、
淡水化を主体としてやるということにはまだまだ時間がかかるのでありますが、こういう科学技術
対策委員会でひとつ研究していただきたいことは、わが国の塩の需要供給の問題です。
一九六三年に工業塩が二百九十万トン、これは工業塩だけであります。そのほかの食料塩は、国産塩にわずか輸入塩を加える
程度で間に合っておりますが、工業塩だけで二百九十万トン。これが毎年ここ数
年間三、四十万トンずつ増加しているのであります。
世界の自由市場にある塩の量というのは、
日本のこの増加量をまかなうことはとうていできないのであります。一九七0年にはこの工業塩の需要が四百五十万トンになるという推定がなされております。これが一九八0年には六百七十万トン、一九九0年には一千百万トン。工業塩のほかに、いろいろな道路その他の塩の需要を考えますと、約一千五百万トンの塩の需要があるというぐあいに、これは私の推定でありますが、推定をしておるわけでございます。たとえばCIFで十二ドルで買うとしても約二億ドルの外貨支出になるわけであります。
海水の総合
利用の場合、
淡水化もさることながら、この塩の供給その他のミネラル資源の確保という点から、わが国の
海水の
淡水化並びに
海水の総合
利用というものが大きく進展していかなければならないと思います。
いずれにしても、わが国の水の総合
利用のいろいろな技術的なやり方、その他を見ておりますと、先ほど申しましたように、何か一本くぎが欠けている。何かわが国の
ほんとうのいろいろな天然条件、
河川の自然条件、天然資源としての水の
利用というものを忘れた方向に進んでいるような気がしてなりません。こういう
意味で、
水資源に対する技術研究の
一つの転換期に到来しているような感じを受けているのであります。
委員会のしかるべき御配慮をひとつお願いする次第でございます。