○薄井
参考人 私は
那珂湊市長薄井与兵衛です。
私は、次の四点の
理由をもって
水戸射
爆撃場の
返還を訴えて今日に至っております。
その第一点は、あまりにも被害が大きいことであります。
終戦の結果、
昭和二十一年六月、旧
水戸飛行場が
米軍の射
爆場に接収されて以来、
事故の頻発は
想像に及ばないほどひどいことにびっくりした次第でございます。特に
飛行機の誤射によってとうとい人命が、当市だけから奪われた者が六名ございます。家族とともに畑作業中、一家の大黒柱であり、部落の青年団長までつとめた模範青年が一瞬のうちに愛する家族の目の前で
米軍機の流れだまで前途ある一生を、イモ畑の中に苦悶の表情も悲しく見るに忍びない無残な
最後を遂げました。
また、夏休みの一日を喜々として海水浴場の片すみに遊び戯れていた小学校の女の子が、機銃弾で友だちの見ている前、しかも打ち寄せるさざなみをまっ赤な血潮に染めて小さな一生を閉ざしてしまいました。近所の人たちの話によりますと、その後残された母親は、近所のお嫁さんを見るたびに、うちの娘も生きていたなら今ごろはあのような美しい花嫁姿を見せてくれたであろうにと涙を流すそうです。
こういう悲しい数々の話を聞いただけでも、もうこれ以上胸が一ぱいになって申し上げられません。
那珂湊市だけでも五百カ所以上の誤弾のあとがあります。確認されないものを加えますと、おそらくこの倍になることだと思います。いつ自分が被害者になるのかと不安な気持ちで毎日を送っておりますが、ことに
F105が昨年六月移駐してから、多い日には一日四百六十回も
市民の頭の上を大きな金属音を出し、しかも百雷がとどろくような
騒音で幼稚園の園児たちをびっくりさせ、泣き出す騒ぎ。学校には防音装置のあるところもありますが、それでも
F105が飛んでくると授業を中止せざるを得ない。病院の患者はノイローゼを訴え、豚の発育まで悪く、テレビの画像はくしゃくしゃになり、長
距離電話は
騒音にじゃまされて話ができなくなり、商売用の通話に重大な被害をこうむって、最近では基本的人権に関する問題であると叫ばれ、この公害を一日も早く取り除くことこそ市当局の
市民に対する第一のサービスではないかと毎日のように文句を言われておる次第であります。
第二は、土地の効率化を考えてほしいと言いたい。
御
承知のとおり、約四四百万坪の広大な、しかも平たんな射
爆場。久慈川と水量豊富な那珂川
勝田工業団地、
東海村の
原子力地帯と当市との間にはさまれていて、そしてここにでんと射
爆場が控えております。交通の幹線であります常盤線と六号国道と
那珂湊市との間を断ち切っており、一部那珂川沿いを除いて、ほかは一帯の水田
地帯で遮断されているがために、経済文化の交流に重大な支障を来たしており、陸の孤島という運命に立たされ、発展から見放された状態に置かれております。
日立、
勝田の工業団地にはさまれている当市としては、何をおいてもどの広大な、単にたまを打ち込むだけに使われている土地を最も有利に使う方法がないか。しかも、りっぱな平たんな地形、そして余裕のある貴重な労力を提供し、これをもって重工業化をはかろう、そして町の発展に大きく寄与しよう、こう考えてその
実現に
努力してきましたが、いまもって
返還の曙光すら見出すことができません。
この
水戸射
爆場があるために発展を阻害されている当
那珂湊市としては、苦しい財政の中から国と県の援助を受けて外海に漁港を新設し、道路を
整備し、生きるための悪戦苦闘を続けております。
当市の発展を阻害している射
爆場あるがための基地交付金はわづかに二百万円の少額で、基地の
返還及び誤弾あるたびに
東京に抗議に参ります。それから
市民の人心宣撫のために使う金にも足りない始末を何としたらいいことでしょう。
第三には、隣接して
原子力地帯があり、原研、原燃、原発などが密集しているばかりでなく、仄聞するところによりますと、廃棄燃料の再
処理場も建設されるとか。しかも、これがほんとうであったとしたなら、
原子力施設にさらに死の灰の格納庫を設けることになり、万々が一にも
原子力施設の上に誤弾でも起きたなら、ひとり
周辺地帯だけでなく、風向きによっては
人口稠密な関東一円の方々に大きな被害を及ぼすことを考えるとりつ然たるものを覚えます。
なお、これらの過密
原子力施設から放出される排水のため必ず海水は汚染され、漁業に重大な損害を与えることをおそれます。そればかりでなく、再
処理場か地下格納も考えられるとのうわさも立っておりますが、当市の水道の水源池が久慈川の下をくぐり、
東海村から射
爆場を経て当市に至り、海岸は水面上一メートルないし水面下十五メートルの白亜紀層の岩盤で遮断されて、絶好の貯水池の様相を示しておりますので、地下貯蔵によって地下水が汚染されることになったら
住民の衛生健康に重大なことになることを、この際警告しておきたいと存じます。
第四には、私たちは
日本人です、国民として祖国の繁栄を願うため犠牲に耐え忍ぶことは当然です。しかし、私たち射
爆場周辺の十万の
住民だけが苦痛を二十年の長きにわたってがまんしなくてはならないということがわからぬ。もうこの辺で射
爆場あるがゆえの犠牲を解除していただきたいと叫びたい。乏しきを憂えずひとしからざるを憂うということばがありますが、祖国
日本の防衛には一億国民全部で当たるべきであるのに、なぜわれわれだけがこの苦痛を背負っていかなくてはならないのかという疑問が私たちの頭の中に残ります。
たとえば第二の国民をつくるところの義務教育の場である中小学校でも、
飛行機の
騒音で勉強ができない。では防音工事をしてやろう。防音工事をしてくれることになりますが、それでも
地元負担金というものを出さなくてはならない。しかも、その防音工事というものが遅々として進まない。何年たったらこの工事が完成するのか見当がつかない。
反面、横須賀、岩国等の
米軍駐とん地の基地交付金は、億をもって数えるばく大な金を受けております。それに比較してわれわれはどうでしょう。スズメの涙くらい。落ちる金と誤
投下のたまばかり。しかも、この
委員会に出席方依頼の通知を受け取った二十九日、当市阿字ケ浦町で人家からわずか五メートルくらいのところに二メートルの穴をあけて模擬
爆弾が
投下された。幸い人畜に被害はございませんでしたが、これでは
市民ばかりでなく、豚までも
F105の誤弾と
騒音にやせ細っていくことになりはしませんでしょうか。
もうこれ以上がまんができません。乏しきを憂えずひとしからざるを憂うともう一度叫んで、私の
意見発表を終わらせていただきます。(拍手)