○三橋
参考人 私鉄総連の三橋でございます。
私は、すでに三月三日の当小
委員会におきまして、当面する
中小私鉄の
経営難を打開し、従業員の生活不安、
労働不安を解消し、
交通事業に課せられた公益性を実現するために必要な
国家助成策についての私
どもの一般的見解を申し上げましたが、今回重ねて
参考意見を述べさせていただく機会を得ましたことを深く感謝いたすのであります。
その際の私
どもの見解に対しましては、当日
経営者側の
参考人からも、ほとんど大部分が全く同
意見であるという趣旨の表明がされておりますし、今日聞きましたところによりましても、大体同じような状態でございます。
そこで、もともとこの種の
経営問題は
経営者側の責任
範囲に属する問題でございますので、重複を避けまして、この点については全部省略申し上げたいと思います。ただ、せっかくの機会を得ましたので、この際、私
ども交通労働者の
立場からいたしまして、ぜひとも強調しておきたい原則的な諸問題について、二、三
参考的な御
意見を申し上げたいと思います。
それを申し上げる前に、すでに
経営者側の
参考人からも明らかにされておりますし、また先日肥田
先生からも御指摘がありましたけれ
ども、今日、
中小私鉄という名前あるいは概念というものが、ごく限られた一部の専業
会社、これは非常に少ないわけでございまして、大部分は
バスを兼業いたしておるわけであります。したがって、
中小私鉄という観点や概念から見ますと、実は
性格が把握できがたい、そう思っておりますし、また
バス事業自体も最近は非常な過当
競争の中に置かれまして、赤字
会社に転落していくという状態がふえておるということを考えていただきました場合に、これらについてはやはり一本のものとして
行政的な指導なりあるいは今後の
振興策について御討論をぜひ賜わりたいと思うわけであります。
それではまず、私
どもがこの種の問題に取りかかります前の原則的な諸問題について申し上げたいと思いますが、その第一は、前回すなわち三月十日の当小
委員会におきまして、きわめて明瞭に明るみに出ましたところの今日の
運輸行政や
交通政策の貧困という問題であります。すなわち今日の
運輸行政は自由
競争による
サービスの向上、一見非常に耳ざわりのよい口実ではありますが、実は
国鉄経営のあり方をもとに、公営や民営各
交通企業体相互の無秩序、無制限な、まるで百鬼夜行の過当
競争があおり立てられておるというのが実態でありまして、このことにつきましては、すでに前回、
中小私鉄各社の各
参考人から数々の具体的な事例が述べられ、まことに驚くべき事実さえ報告されました上に、勝浦
先生からも鋭く御指摘のあったところでありますから、重ねて多く申し上げる必要もないと存じます。
ただ一言申し上げておきたいと思うのは、このような無秩序な過当
競争をあおり立て、あるいは放任しておりますところの今日の
運輸行政が、いかにばく大な社会的な損失を伴う過剰投資を生み、あるいはまた弱小
企業を
経営危機に追い込んで、その結果、私
ども交通労働者の賃金や
労働条件の無差別な切り下げあるいは劣悪化をもたらし、また
利用者である国民の
立場や利害を無視した
運賃値上げとかあるいは路線の
廃止をはじめ、単なるもうけ本位の経堂に走らしめて、
交通事業本来の公益性を破壊しているという事実であります。このような
運輸行政、
交通改築の貧困は、いやしくも
国家の政策としてあるまじき反社会的、反国民的な役割りさえ果たしていると申し上げても過言ではないと思います。このような
運輸行政や
交通政策の貧困を再
検討し、これに対して抜本的な政策を樹立し、無秩序あるいは無制限な弱肉強食の過当
競争に対する
国家的な
調整と規制
措置を講ずることを抜きにしては、
中小私鉄・
バス経営へのいかなる
助成策も意味をなさないと思うのであります。したがって、私
どもは、この際、早急に
国家としての正しい
交通政策のビジョンを各
地方の実態に即して具体的に示していただきまして、その中で
国鉄、
私鉄、
バス、都市
交通などの冬
輸送分野を明確化されるよう是非とも御
努力を願いたいと思うのであります。
第二番目に申し上げたいと思いますことは、大手
私鉄の系列化が
中小私鉄・
バス経営の
経営難を打開してその近代化を促進し、公益性実現に役に立っているかどうかという問題であります。これにつきましては、前回私
どものほうから「大手
私鉄の系列化が
中小私鉄の
経営および
労働条件等におよぼしている影響」と題する簡単な資料をお手元に提出しておきましたが、その資料は、単に「大手
私鉄の系列化が
中小私鉄の
経営や
労働条件などにどのような変化を及ぼしているか」という観点から、最近大手
私鉄の系列下に入りました
中小私鉄の実態につきまして、当該
労働組合から若干の具体例をそのまま集録したにすぎません。したがって、私
ども私鉄総連としての見解は特に付してないわけでございます。しかしながら、私
どもの
立場からこの問題を考える場合、何を申し上げましても、賞金や
労働条件にどういう影響を及ぼしているかということが大前提になるのでありまして、この観点から各
組合の報告を調べてみますと、当初、従業員は系列化やあるいは大手の
資本を導入することによりまして賃金や
労働条件が改善され、向上するのではないかという大きな期待を抱きまして、たとえば定山渓
鉄道の報告にもありますように、いまによくなるから、という
会社のことばを信じ、当面の賃金や
労働条件の劣悪さをがまんしてきたものでありますが、この期待が完全に裏切られているというのが各社共通の実態であります。また、
経営者側
参考人から提出されました資料を拝見いたしましても、「系列化は
中小私鉄振興または救済の本道ではない」と明記されておるところでありまして、大手は再建と
振興の見通しのない
中小私鉄や、利潤が上がらないような
中小私鉄を系列下に入れるものとは全く思われない、こういうふうに書かれております。これは、あくまでも大手
私鉄資本の利潤追求の目的から系列化や導入を行なうものがありまして、独占集中化の姿そのものと断定せざるを得ません。ましてや、それによって賃金や
労働条件の向上が期待できないばかりか、定山渓、上田丸子、常総筑波の各実態報告にありますように、かえって大きく悪化の傾向を深め、あるいは
組合既得権のはく奪、
労働条件の切り下げを含む全面的な
労働協約改定案の提示すら行なわれているという事実に照らしましても、私
どもはこの際、大手
私鉄の系列化を促進することによって、
中小私鉄、あるいは
バス経営を
振興し、その近代化をはかられるということは絶対に誤りであり、今日の
交通矛盾をむしろ上塗りするだけであるということを強調したいと思うのであります。
また、公益性を実現するという上からいたしましても、私
どもは大手
私鉄の利潤追求本位の系列化の結果、不採算路線は沿線
利用者の
立場や利害を無視してまでこれを撤去したり、あるいは荒廃、老朽化するままに放置しておきなから、もうかるところだけに
資本投下をはかっていく、そういうやり方が行なわれております事実を数多く指摘することかできるのでありまして、これでは全く、あるべき
交通政策を求めるという当面の課題に逆行しているものと断ぜざるを得ないと思うのであります。
第三番目に申し上げておきたいと思いますことは、
国家がその
交通政策上、
中小私鉄や
バス経営に対しまして、
振興助成のためのしかるべき
経済的
補助を行なう場合、これに従事する
交通労働者の生活安定、
労働不安をまず第一に考慮に入れ、これを保障することを出発点としていただきたいということであります。ただいま
経営者協会からの御指摘にありましたように、たとえばアメリカやフランスやその他ヨーロッパ諸国におきまして、
国家か赤字を補てんしたり、あるいは
公共負担分を補てんしておるという、こういう事実はあるわけてありますけれ
ども、それはすべて
労働者の最低条件を考慮に入れておる。たとえば、フランスの場合には、全国一律最賃の上に
産業別の最低賃金が獲得されたり、あるいは熟練度別の最低賃率が保障されておる。こういう上にこれらの保障なりあるいは補てんが行なわれているという事実であります。特に私
どもが従事しておりますところの
交通事業は、とうとい人命
輸送、それも大量に、迅速に、安全にという不可欠な条件を付した人命
輸送であります。今日私
どもの仲間の中には人身事故の責任を問われて獄中につながれておる者も現実におるのでありまして、私
どもはその一人一人が、日々このようなきびしい刑事上の責任を問われ、単なる不注意のみによって犯罪人にされてしまうような、きわめて重大な社会的使命と責任を負わされた
労働に携わっているのであります。この労協が長時間にわたるきわめて高い緊張の持続をしいられる仕事でありますことは、当小
委員会に私
どもの先輩が数多くおられて、現実に体験してまいられたところからもお察しいただけるものと確信をするのであります。
ところが、このような重大な使命と責任を負わされている私
ども交通労働者の置かれている
経済的、社会的地位、とりわけ、その賃金や
労働条件はどうでございましょうか。私は、先回、
中小私鉄・
バス労働者の賃金、
労働条件がいかに劣悪であり、世間並み以下のいかにみじめな状態に置かれているかを幾つかの事実に基づいて御
説明申し上げました。また、
経営者側からも、世間並みの賃金や
労働条件を保障しなければ、今日の
労働市場の売り手傾向からいたしまして必要な
労働力の確保が困難であり、熟練
労働者はどんどん他
産業に流れていっておる。これは黒字倒産とか赤字倒産ではなしに、いわゆる労務倒産といわれるような状態が今日
私鉄の中に起こりつつある。これは今日、もうすでに
私鉄・
バスのあらゆる職場が非常な人手不足に悩んでおりまして、それが極限に近いまでの非常な
労働強化をもたらし、これが事故の主要な
原因になっておるのでありまして、このことは
交通労働者に対する、その使命と責任度にふさわしい世間並みの賃金や
労働条件の保障が、いかに
交通事業の公益性実現にとって大切であるかという立証にもなるかと存ずるのであります。何のために
助成をするのかという目的に照らして、
中小私鉄・
バス事業の公益性実現と結びつかない
助成、したがって、その根幹でありますところの
中小私鉄・
バス労働者の生活安定、
労働安全と結びつかない
助成は、あたかもざるの中に水を注ぐようなものでありまして、百害あって一利なしと言わなければならぬと思います。その意味で、世間並みの賃金や
労働条例の保障は、当然
中小私鉄・
バス経営における必要
経費でありまして、
国家が一定の
助成を行なわれるにあたっても、標準営業費の算定あるいは赤字算定の場合に当然保障されるべき前提条件でなければならぬと思うのであります。同時にこのことを法的制約をもって
助成基準の基礎に据えることによって、賃金・
労働条件の無差別な切り下げの上に立つ過当
競争を防止することができると思うのでありまして、いずれにいたしましても、私
どもは世間並みの賃金や
労働条件の保障なしの無定見な
国家助成には絶対に賛成いたすわけにはまいらないわけであります。強くこの
立場を申し上げまして、本日の私の基本的な態度に立つ陳述を終わりたいと思います。