○
平田参考人 私は先ほど公述されました北陸
鉄道の
柴野社長の
関係にあります
労働組合の書記長であります。私の公述申し上げる資料がお
手元にありますので、御参照の上、お聞き取りを願いたいと思います。
先ほど
柴野社長が申しましたように、北陸
鉄道は
地方鉄道軌道
自動車運送を主たる事業とした
石川県下における主要な
交通会社で、
従業員数は三千六百五十名であります。私たち
北陸鉄道労働組合は、部課長など非
組合員を除いて
従業員三千五百七十一名をもって組織しております。
そして
北陸鉄道労働組合の主たる目的は、北陸
鉄道の全
従業員の職場と生活の安定、労働条件の維持改善、
交通労働者としての安全
輸送の確保の
使命達成にあります。
ところで、私どもは、その目的達成の活動は、何といっても北陸
鉄道の企業
経営の動向と関連なしには何
一つ考えられないのであります。したがって、私ども北鉄労組は、常に北陸
鉄道の企業
経営の綿密な研究と実態の正確な把握につとめてきております。このような
立場から北鉄労組がながめている北陸
鉄道の企業
経営の実態について、まず述べさしていただきます。
まず、収支実績について御検討賜わりたいと思いますが、一ページの第一表は、
昭和三十七年度から
昭和三十九年度の収支実績であります。もちろん、この数字は
会社から提示された資料でありますが、私どもの調査
内容とさして狂いのないことを付言申し上げておきます。
第一表を御検討賜われば御理解いただけるとおり、全
従業員がせっせとかせぎながら、三十九年度の
決算だけでも三億一千百万の
赤字、前年度よりの繰り越し
赤字二億二千三百万円を加えますと、三十九年度における累積
赤字は五億三千四百万円となっております。これに三十九年度
償却不足累計八億四千八百万円を合わせ考えますと、異常な企業
経営と言わざるを得ないのであります。
それでは、これまで、このような実態でどのようにして企業活動を続けてきたかという
会社からの
意見を聞きますと、まず、負債
状況でありますが、二ページの第二表は、三十八年度から四十年の一月末までの実績を示すものであります。
第二表を御検討賜われば御理解いただけると思いますが、四十年一月末で、負債総額が二十一億七千百万円からになります。北陸
鉄道の
経営者は、現
柴野社長まで戦後八回も更迭をしておりますが、このような
経営実態ですから、
経営陣の更迭の際、どの
経営者からも、企業
経営難を理由に、その犠牲はすべて全
従業員の労働条件の切り下げや人減らしに転嫁されてきたのであります。そのため、そのつど労使間の激突がたびたび起きてきたのであります。しかし、そのつど北鉄労組側が、
会社に対し条件を譲らされざるを得ない結果になってきております。
さて、企業
経営のこのような実態が、
従業員の労働条件や諸待遇に与えている影響について、これから述べさしていただきます。
現在、北陸
鉄道では、労働時間だけは他の
労働組合並みの拘束八時間制は実施しておりますが、賃金については、三十五年には、他社解決千五百円アップの半分以下で解決させられています。三十八年では、他社解決二千二百円アップを百六十円を下回る二千四十円で、三十九年では、他社解決三千三百円アップを百五十円下回る三千百五十円で解決させられているのであります。その結果は、三ページの第三表を御参照賜わりたいのですが、北陸
鉄道の
従業員の賃金は、
全国的に最も底辺にあるといわれている繊維
産業を除けば、
石川県下の下位に位するといっても過言ではないと思います。
次に、北陸
鉄道の福利厚生面でありますが、一ページの第一表の中の厚生費を御参照賜われば御理解いただけると思いますが、各年度とも、わずかに一億円前後でありまして、各年度の総支出の三%
程度にしかならないと思います。しかも、そのほとんどは
従業員の法定福利費、すなわち社会保険料だけでも七千万円から八千万円になっております。その他の問題は業務上必要欠かせざる費用でありまして、
従業員の厚生事業費や厚生施設費は皆無にひとしい
状態であります。たとえば
従業員の寮にいたしましても、三千六百五十名の
従業員割りに、わずかに三十名
程度の収容力しかない単身寮なるものがたった二つあるだけであります。ふろ場にいたしましても、本社周辺の
従業員の利用するもので、最も大きくて一度に二十名前後収容可能なものがありますだけで、せいぜい二、三人入れば満員といったふろ場が、
自動車の百名から三百名近い
従業員の在籍する職場に限ってある
程度で、
鉄道線においてはいずれも皆無であります。さらに
鉄道線においては、飲料水の井戸、水道もないというのも珍しくありません。給食施設にいたしましても、市内電車
従業員詰所に一カ所あるだけでありまして、また
従業員の休憩所にいたしましても、市内電車職場、
自動車職場では設備はあるけれども、近年の急激な
路線の増強による人員増にその施設が伴わず、文字どおりイモの子をたるに詰め込んだも同様の始末であります。
鉄道線に至っては、保線、検車・電路職場にはありますけれども、
運輸職場には休憩所は皆無であります。また
鉄道、
自動車を問わず、乗務員の勤務明けあるいは勤務前の仮泊設備などは皆無にひとしい
状態でありますが、一昼夜交代勤務者の宿泊設備はあるとはいえ、極端な場合二畳に三人の
従業員が就寝しているというところさえあります。これだけ申し上げても御想像賜わると思いますが、こういう
状態ですから、もちろん女子
従業員の育児施設もなければ、教養施設、娯楽施設設備も全く皆無の
状態であります。
さらに、三十九年十月に至りまして、
会社は、
政府の金融引き締め政策による資金難を理由に、
昭和三十九年六月、私どもが
私鉄総連の統一闘争の中で協定した
年間臨時給の各季分の支給について、その支払い期日の延期と支払い額の分割、すなわち年内五割、
昭和四十年四月までに五割支払いするという申し入れをしてまいっております。
組合は直ちにこれに反対し、支払い期日のおくれはしかたないとしても、年内一括支給はまげるわけにはいかないということで、最大の努力をさせて、やっと十二月二十二日になって八割の支給をいたしました。しかし、そのあとの二割に相当する五千万円については、
組合が労金の融資を受けて支払わざるを得ないという結果になったのであります。しかも、
会社は、いまだにこのあとの二割の支給を行なっていないというのが
現状であります。
ここまで御説明申し上げたついでに、さらに第二表を御参照賜わりたいと思いますが、負債
状況の中のその他の欄にあります四十年一月、六億八千二百万円の中身は、社内預金四億円、
組合立てかえ七千万円、そのほか、いま申し上げました一時金の立てかえ五千万円を加えますと、
会社の運用資金として、
従業員が五億二千万円余りも拠出をしているということに結果としてなるわけであります。
これでも、
会社は
経営危機を叫びながら、
昭和三十九年十月末、三ページから十五ページに記載しております第四表を御参照願いたいと思いますが、十一項目にわたる
合理化案を
組合に提示してまいっております。第四表の第三項以降は、まだ具体的提案がありませんが、第一項の
鉄道片山津線二・七キロは、全部
廃止して
バスに転換する、そしてこの線に働いている
従業員十九名の配置転換をしたいということであります。第二項の
鉄道能登線については、貨物取り扱いの
廃止と駅員のいる駅を無配置駅にしたい、そして十五名の人員の配置転換をしたいということであります。これらの問題は、現在労使間において協議中でありますが、十六ページの第五表を参照願えれば御理解いただけるとおり、北陸
鉄道の
鉄軌道全線はすべて
赤字経営でありますから、
会社もすでに
ことばの上で漏らしておりますが、想像されることは、こうなると、全線にわたって
路線廃止あるいは駅員無配置駅という
合理化案の提案をすることは必至であると思います。また、いま具体的提案のある片山津線、能登線の
合理化で浮き出す人員については、現在のところ三十四名
程度でありますから、
会社は終始、首切りはしないと強調していますけれども、今後における
合理化を考える場合、首切りなしに
合理化をするどのような手があるのか、全
従業員のきわめて大きな不安になっているところであります。
以上述べましただけでも御推察賜わると思いますが、このままの
状態が続く限り、三千六百五十名の全
従業員とその家族の働く条件の低下と生活水準の低下、労働不安、不満の累積は、労働者の生活を圧迫するだけではなく、
交通労働者の
使命である安全
輸送の確保の面から見ても、はなはだ危惧を感じさせられるものであります。その上、雇用条件の低下と施設設備の不備、企業の不安定から
全国的に新中卒の求人難のおり、それに輪をかけるように大量の退職者があっても新規採用にこと欠くという結果を招いてきており、そのため欠員の多い職場では二重、三重の労働強化を課せられる結果になっているのであります。
そもそも北陸
鉄道は、戦時中、
地方交通機関統合の国家的要請に基づき、
北陸鉄道株式会社ほか
鉄道会社八つ、
自動車業者十九の統合合併
会社で構成されてきたものでありまして、各
鉄道路線の
営業キロは最長のもので
石川総線が五十・二キロ、最短のものでは片山津線の二・七キロであります。そしてこれをささえる
株主は
沿線のきわめて零細な
株主であり、したがって戦後の
輸送の近代化の急速な
発展に資金面からも技術面からも即応できなくなったことと、
大手の
地方進出のテンポの
進展の当然の帰結として、
昭和三十六年以降名鉄資本の系列に入ることになりました。しかし名鉄資本は資本投下はしたとしても、余分に資金投下は行ないません。むしろ企業の独算制を至上命令とした
合理化の促進以外にはありません。それでは利潤追求のみの
経営にとらわれるのではないか、利用者の利便や公益性が完全にそこなわれることになり、
従業員の犠牲もまたますます増大していくことは明らかであります。そこで私たちは、今日の北陸
鉄道の企業
経営難の
原因について、私たちの側から
意見を述べさしていただきたいと思います。
さきにも若干触れましたように、北陸
鉄道は、戦時中、
地方交通機関統合の国家要請に基づく零細企業の統合合併
会社であります。そして
鉄道の各
路線はいずれも個々に分断され、相互の連係を欠いており、かつ
国鉄の培養的性格が強く、その効率はきわめて悪く、加えて
石川県の立地条件及び
人口の動態の悪条件が重なっていたのです。したがって戦後の
輸送の近代化に即応した
経営政策がとらるべきであったにもかかわらず、資金面や技術面も伴なわなかったとはいえ、この重要な時期に
経営陣が八回も更迭しているという事実が示しているように、およそ
私鉄経営に縁の遠い政治家や古役人などによって無責任、無
方針のまま、悪くいえば寄生的
経営者が多年にわたって企業
経営に追随して矛盾と無策を押し隠し、企業の根底をむしばんできたと言えます。そしてそのことは、企業の好転の時期を完全に逸してきたといっても過言ではないと思います。その結果が十六ページの第五表に示すように、今日
鉄道線の全面的な不
採算をかもし出すことになった
一つの要因としてあげられると思います。
さて、そのことよりも北陸
鉄道不
採算の最も大きな要因は、北陸
鉄道の
鉄道路線はすべてが客貨の
輸送による企業的
採算を予想して敷設したものではありません。
採算を度外視して敷設されてきたものでありますから、敷設当時から企業
採算がとれなく、すべて国家の経済的援助を得てきたものと聞いています。その
補助が戦後打ち切られてから、
鉄道線の
経営が決定的な打撃になっていることはいなめない事実であると思います。
次に、北陸
鉄道当局と、県市町村との
関係でありますが、近年、
沿線市町村における学校の統廃合と、工場、事業所等の経済活動の活発化、集団化と、県下随一を誇る北陸
鉄道の
交通政策との有機的な関連と結合が見られず、従来
鉄道線利用の
通勤通学客が
バスに移行し、
鉄道利用度が
減少し、
鉄道各線の
経営難を引き起こしていると同時に、朝夕
ラッシュ時における
通勤通学の
輸送は、スクール
バスの運行や通学
通勤バスの増発などで車両の運用効率を大きく低下させておるのであります。また、県市からは何
一つ経営に対する援助策がないことを指摘しておきたいと思います。
次に、
私鉄に課せられている公共負担もまた北陸
鉄道の企業
経営を悪化している要因であることを指摘したいのであります。十六ページの第六表は、
昭和三十五年から三十八年までの
鉄道の
定期客と
定期外の客の推移をグラフで示したものであります。同じく十六ページの第七表は、
定期客と
定期外の
輸送人員と
収入をそれぞれグラフで示したものでありますが、これは、
輸送人員については、
定期客が六一%とはるかに
定期外旅客三九%を上回っているにもかかわらず、
収入面で見ますと、逆に
定期客の
収入が三六%で、
定期外の
収入六四%をはるかに下回っておるのであります。その
原因は、
鉄道の場合でありますが、
通勤定期客については最高七割、通学
定期客については最高八・二一割の割引率が設定されておるのでありまして、これらは当然公共負担ともいうべきでありますが、
私鉄企業
経営にこれが課せられ、この不合理がまた北陸
鉄道の企業
経営を圧迫しているとも言えるのではないかと思います。
最後に、私は、
交通機関の過当競争が北陸
鉄道に与えている影響について述べさせてもらいたいと思います。もちろん北陸
鉄道は、
石川県下における独占的企業という条件のもとに、独占にあぐらをかいた
経営政策が長年とられてまいったことについては、過去の
経営陣に対し責任を追及したいのでありますが、それよりも県下における唯一の
大量輸送機関を一手にあずかっている北陸
鉄道の実態は、
鉄軌道線については、先ほどの第五表で示したとおり、全線にわたって不
採算経営であります。さらに
自動車路線については、総数百三十
路線のうち、不
採算路線が百一
路線で七八%といわれており、わずかに二十九
路線二二%で補っているのが
現状であります。しかるに企業競争の結果として、関西
大手会社をバックとした
自動車専業の
バス会社及び
国鉄バスの競願競合で常に北陸
鉄道の企業
経営を脅かしてきております。しかもその競願競合の
免許申請路線は、北陸
鉄道の
採算路線といわれる中でも最もドル箱
路線をねらってきていると聞いております。常に場当たり的な
経営を続けてきた北陸
鉄道の
経営者は、そのつど資金的な裏づけも顧みることなく、余裕もないまま、致命的な競願競合を防止するため、ダイヤの増強、
路線の新免を行ない、大量に車両を購入する、その結果は、ますます負債を拡大し、その返済と金利支払いの負担を増大してきていると言ってよいと思います。
以上、北陸
鉄道の企業
経営の実態、
従業員の労働条件、企業
経営難の
原因について概要を述べさせていただきましたが、以上の
現状を十分参酌賜わり、さきに
私鉄総連本部から提出しております
地方鉄軌道整備法の改正と
中小私鉄の助成、同党資産税、事業税など諸税の減免、民主的
運賃決定制度の設置、公共負担、特に
運賃の通学割引分の国家補償、
バス事業への転換に要する資金融資などの要求事項について十分御
審議の上、今日の
中小私鉄救助の適切な措置をとっていただくよう強く御要請申し上げまして、私の公述を終わらせていただきます。