○三橋
参考人 三橋でございます。私は、
中小私鉄の
従業員が主体となってつくっております労働
組合の上部団体の
私鉄総連を代表いたしまして、今日の
中小私鉄の経常難が
従業員の労働条件の劣悪化をもたらしておる、したがってそれが現在及び将来にわたっての生活不安あるいは労働不安をもたらしておる、そういう実態に基づきまして、これらの
中小私鉄経営の振興をはかるために要する国家
助成について
意見を申し上げたいと思います。
さて私どもが今日の
中小私鉄の
経営難の原因について考えてみますと、およそ次のようなことがあげられると思います。
その第一は、
国鉄経営と
中小私鉄経営上との立地条件の根本的な相違があると思います。一口に申し上げまして、
国鉄経営は
ローカル線の
赤字をも主要幹線とかあるいは
都市近郊線の黒字によってカバーできる全国的規模の統一された巨大な
経営体であるわけでありますが、これに反しまして、
私鉄経営は相互に孤立した
経営体でありますとともに、
大手私鉄が
都市及びその近郊という最良の立地条件に依存した
経営でありますのに対し、
中小私鉄は、
国鉄の場合
赤字が常識とされておるような
ローカル線、それと大同小異の恵まれない立地条件に依存した
経営であることであります。これは客貨の
輸送による
企業的採算を度外視しまして、たとえば沿線における地主の利権とかあるいは特定
産業の便宜、そういう他
目的によって敷設されたケースが非常に多かったということ、つまり
企業の成立動機に最も大きく原因を発していると考えるのであります。にもかかわらず、それが私
企業として成立をしてきましたわけは、何よりもまず
戦前の国家が、
地方産業や
地方の経済の発展、国民生活の安定という国家的見地に立っての手厚い経済的援助を施してきたからだということは、いま
私鉄経営者協会の
方々が申されたとおりであります。この
国鉄経営とは条件を全く異にする
中小私鉄経営の国家的見地に立っての経済的援助というものが戦後は全く断ち切られたということにあります。
第二番目には、わが国の地勢が災害、特に風水害や地震、こういうものによりまして多発の条件を持っておるのに引きかえまして、これが災害防止のための国家施策が実に不十分である。しかもこれらの災害は通例局地的に起こるものでありますが、一たび
中小私鉄がその被害をこうむりますと、そのために固定資産の大部分を失いまして、再建不能の
状態になってしまう、こういうことがしばしばあります。この点すでに述べました理由によりまして、
国鉄の場合には災害をこうむる危険率が非常に分散をされておるわけでありますが、
中小私鉄にあっては全く
事情を異にしておりますから、一そうその
経営難の深刻化という問題が起こってくるわけであります。
第三番目には、本来
鉄道業には
線路や車両など多額の固定資産があるわけであります。しかもこれらの資産の物理的な耐用年数が非常に長いという関係から償却期間は長期にわたります。これがために資本の回収がおそくなる。そうすると、その間に設備の陳腐化という問題が生じまして、技術革新による生産性の向上という点でいかにしてもその限界があるわけであります。そういうことから
中小私鉄では、最少の
輸送力を予定して単線の
鉄道として敷設したケースが通例でありますけれども、その場合でさえ
輸送需要ははるかに輸出力を下回り、設備が十分に稼働しないという関係から、客貨単位の
輸送費が割高になるということは避けられない
状態であります。この点は
ローカル線における同様な
事情を無視して、全国同一賃率を採用できる
国鉄との
運賃決定上の重要な相違であるとも考えられるわけであります。
反面、しかし
地方における経済的負担力の劣弱さに強く制約されておりますために、割高な
輸送費を割高な
運賃にそのまま反映することが必ずしもできないということが、
中小私鉄経営の困難さをますます深くしていると考えられるのであります。
第四は、以上に申し上げましたような
中小私鉄の本来的な要素、そしてそれなるがゆえに国家的見地から当然にも施されてきたところの経済的な援助が、戦後は全く断ち切られたという
事情に加えまして、もう
一つ戦後における
中小私鉄の
経営難を深刻化させた決定的原因として発生したのが、申し上げるまでもなく道路
輸送の飛躍的発達であります。これがために
中小私鉄の地域的独占性は大きく失われつつあるのでありますが、にもかかわらず安全に迅速にしかも大量に
輸送するという
鉄道業本来の任務は、依然として
地方産業の発達、
地方の国民生活の安定向上のために、
中小私鉄に負わされておる課題は非常に大きいということを強調しなければならぬのであります。
さて、今日におきます
中小私鉄の
経営難の原因は
一般的にいって以上のようなものでありますが、この
現状を打開し、格別の国家的援助を復活するなどによる
助成策を講じて、
中小私鉄経営を働者の
立場から申し上げますと次のとおりであります。
第一に、冒頭に申し上げましたとおり、今日の
中小私鉄百三十一社に働く労働者の総数は三万二千余名であります。これらの
中小私鉄労働者の賃金、労働条件は、その
経営難のしわ寄せを受けまして、
大手私鉄や
公営に比べてあまりにも劣悪であります。たとえば三十九年十一月分実績による
大手の一人平均基準賃金を見ますと、東急の場合には二万七千三百七十四円、小田急は三万三百四十五円、京阪神は三万九百十二円、阪神は三万二千四百五十円という水準に達しておるわけでありますが、
中小私鉄の例を申し上げますと、たとえば
北海道の寿都
鉄道、これは一万六千五百七十五円という平均賃金であります。また青森県の弘前電鉄は一万七千五百八十四円でありまして、秋田県の代表的な
民間交通機関であります秋田中央
交通を見ましても、一万七千六百十円という
状態であります。こういった
状態を見てみますと、
大手と
中小私鉄の賃金に大きな
格差があるということはおわかり願えると思いますが、さらに労働時間の問題についても、たとえば
大手につきましては戦後いち早く拘束八時間、実働七時間制をとって、今日ではさらに一日二十分短縮をして、一週実働四十時間制をやろうということで労使が相談をするというような段階にまで至っているのに引きかえまして、
中小私鉄の場合におきましては、いま述べましたような低賃金に加えて依然として非常な長時間労働が行なわれております。
これも一例でありますけれども、たとえば
北海道の旭川電軌では最長拘束時間が十一時間、同じく
北海道の夕張
鉄道では列車乗務員の昼間の最長実働時間が十二時間、先ほど述べましたような
状態を考えてみました場合に、こういう低賃金と長時間労働というものは今日
中小私鉄には非常に多いわけであります。したがって、
中小私鉄労働者の経済生活をはじめとする家庭生活は不安定の極に達しておりますのに加えまして、
企業経営の危機的な様相のゆえに現在及び将来にわたっての各種の不安がとみに増大している
実情であります。
第一に、今日の時点での低賃金なるがゆえの経済生活上の不安あるいは長時間かつ変則的な勤務なるがゆえの私生活上の不安定、これらがともに原因となる子弟教育上の不安。第二に保安設備の補修や
改善が十分になされていないということから発生する労働災害への不安、これと関連して人命
輸送をあずかる者としての
交通事故に対する責任上の不安、また低賃金と労働市場の需給関係から招来いたしまして人手不足のために生まれるこれらの不安の倍化。そして第三には、
経営危機が深まるにつれてますます表面化しつつあります
路線廃止とその後の就業や生活がどうなるかという問題に結びつく不安であります。特に
路線廃止に結びつく将来への不安は、最低賃金制や失業保険
制度あるいは職業再訓練
制度などの社会保障がきわめて不備な今日、非常に深刻なものとなっているのであります。
中小私鉄労働者のこのような切実な生活不安や労働不安を解消し、人手不足を解消して大量の人命
輸送をあずかるに足る
鉄道本来の社会的
使命を全うするためには、この際ぜひとも抜本的な国家
助成策が講じられなければならないと考えるのであります。
第二は、
中小私鉄における今日の
経営危機を必然化せしめましたところの、先ほど申し上げました創業以来の種々の
事情にもかかわらず、結果において
中小私鉄の敷設とその今日までの
営業は、沿線
産業や文化の開発をもたらし、あるいは沿線住民の利益を著しく増進してまいりました今日といえども、その存在がこうした地域社会の利益とか発展と離れがたく結びついていること、特に通勤や通学については言うに及ばず、沿線の低所得階層の住民にとっては欠くべからざる
交通機関であることは何人といえども否定できないと思うのであります。まして、さきにも触れましたように、戦後道路
交通がいかに発達したと申しましょうとも、わが国の地勢その他種々の関係に制約されまして、それは必ず一定の限界に逢着し、安全、迅速、大量の人命、
貨物の
輸送という
使命は依然として
鉄道業本来のものであることを御明察いただきたいと思うのであります。
以上のような原因に基づきまして、私は今日の
中小私鉄における
経営難を打開して、その振興をはかるに要する国家的
助成策につきまして
参考意見を申し上げたいと思います。
第一に、現行
地方鉄道軌道整備法についてでありますが、その法の
助成の対象となる
地方鉄道軌道の認定または承認はすべて運輸大臣が直接その権限をもってこれを行なうこととなっており、またその運用は
中小地方鉄
軌道の実態に照らして余りにきびし過ぎるために、実際上は空文化している
状態であります。したがってこの際社会的富でありますところの
中小私鉄を存続、振興させるという観点からいたしまして、この法は根本的に改正をし、既存の
中小私鉄につきましてはすべてこれを
助成の対象とし、その運用にあたりましては従来の条件を全面的に緩和させる
立場に立ちまして、しかるべき標準
営業費を設定し、それと
収入との差額は国家がこれを補償することにされたいのであります。
同時に、このような運用にあたりましては、
経営者、学識経験者あるいは
中小私鉄に働く
従業員の代表者あるいはまた通勤などのために
中小私鉄を常時利用している沿線住民の代表者を含めました民主的な審議機関を設置していただきまして、その答申に基づいてこれを行なうというような運営をぜひはかられたいと思います。
第二に、固定資産税や事業税などの諸税減免についてでありますが、現行でも
地方税法第六条によって「公益等に因る課税免税及び不均一課税」なる法的
措置はあるのでありますけれども、実際上は各
地方自治体の財政との関係におきまして、大災害をこうむるなどの特殊な場合を除いては、ほとんど適用されておりません。この際
中小私鉄が自治体住民の生活に占める少なからざる役割に照らしまして、右のような法的
措置が大幅に適用されるような
措置を早急に講じていただきたいと思うのであります。
第三に、
中小私鉄の
運賃決定についてでありますが、さきにも触れましたように、本来
中小私鉄、あえていえば、
私鉄そのものの
運賃決定にあたって考慮されるべき
事情は、
国鉄のそれとは全く
事情を異にしておるわけであります。にもかかわらず、今日までの
運賃値上げの実態を考えてみますと、
私鉄そのものの条件からは離れて、
国鉄の
運賃政策に従属して政治的に
中小私鉄の
運賃がきめられてきた、こういう点が私どもは非常に不満に思うわけであります。これらの点につきましては、
私鉄の
経営の矛盾とかあるいは原因とかあるいは実態等を十分にひとつ勘案をしていただきまして、第一に考慮に入れなければならないのは、沿線住民の生活上の必要性との関係であると考えますが、今日のように全国単一の
国鉄運賃率に従属させて、これに若干私
企業としての採算な加味したような見地からの決定、こういう非民主的決定につきましては、ぜひ排除していただいて、さきに申し上げましたように、第一には民主的に決定をしていただくこと、第二には、
私鉄企業の実態に即して
運賃が決定されるような
制度にぜひ改めていただきたいと思うわけであります。
第四番目に、
運賃の公共負担分の国家補償の問題であります。危機にある
中小私鉄経営に対して、何らの国家的な
助成がなされないままに、本来国家が補償すべき社会政策上の見地からの通勤とか通学などにおける高率な
運賃割引が、私
企業に義務づけられ、過重な公共負担を課せられているということは、全く不合理だと思うのであります。その意味で、私どもは直ちに通勤の問題について云々するというようなことについては、国家か
企業かいろいろな問題があろうと思いますのでこれは避けますが、当面少なくとも
中小私鉄における通学
運賃の割引分については、これはもっぱら教育政策上の公共負担分であることは明らかでありますから、国または
地方自治体の教育予算にぜひ計上していただいて、これを補償するよう汁
措置が早急に講ぜられるべきものだと考えるわけであります。
また、道路
交通の発達に伴いまして、もはや
鉄道業として地域住民の生活の実態から遊離して、採算がとれない、したがっていちはやく
バスに転換したいけれども、それがための転換資金がない。こういうものにつきましては、ぜひ早急にこれらの資金を国家から
融資し、かつ採算が可能になるまでは利子補給等の方途を講じまして、私どもが
バスヘの転換を容認する最低条件としては、少なくとも労働条件に影響がない、こういう
状態を確保した上でこういった条件を確保してもらいたいと思うのであります。以上、
参考意見として申し上げました諸点につきましては、よろしく御審議の上、早急に
中小私鉄振興のための国家
助成を実現していただけるよう
お願い申し上げまして、私の
意見を終わりたいと思います。