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参考人(
佐久洋君) 本日、
石炭関係で、かねがね慎重な御
検討をいただいているのでありますが、特にまた本日、われわれ
参考人としてお呼びいただいて、
意見を述べる機会を与えられましたことを厚くお礼を申し上げます。
石炭の最近の
状況は、すでに御
承知と思いますが、本年の夏から第二回目の
石炭鉱業調査団というものが編成されて、今後の
石炭のあり方について、昨日その
答申が行なわれました。第一回の
調査団というのは、一昨年の春から秋にかけて編成され、
対策を出したのでありますが、それが一年半足らずで今日の状態に至った理由は一体どこにあるのだろうか、こういう点を申し上げてみたいと思います。
それは、こういう
調査団の計画あるいは役所の計画というものは、すべての点について理想的な条件を前提にしてつくられるものであります。それはそれなりにやむを得ないと思うのでありますが、現実のあらわれ方は必ずしも
考えられた前提どおりにあらわれていない。つまり描いた姿と現実の姿というものは食い違ってくるわけであります。しかも、それがしばしば悪い食い違いを起こしているというその結果が、今度、第二次
調査団の編成を余儀なくされた理由だと思います。
で、具体的に若干その食い違いを申し上げますと、かりに三十八
年度の
出炭だけを見ましても、
調査団の
予定では、これは大手だけについて申し上げます。三千八百三十八万三千トンという
予定でありましたが、実績は三千五百二十九万三千トンにとまったわけであります。損益についても、純損益で見まして、
調査団の
予定では、トン当たり三百七十円の損失というのが、実績は二百八十三円の損失にとまった。それから、したがって、原価についても、
調査団の
答申予定よりもこれは下がっております。そこで、三十八
年度だけを貝まして、しかもそれを純損益だけを見ますと、いかにも好転したように見えるのでありますが、この
出炭が非常に減ったという
関係で、それは
予定外に閉山を非常によけいいたしました。
数字で申しますと、閉山の三十八
年度の
予定が三百二十六万トンでありましたが、実績は五百五十五万トンほどの整理をした。その結果、退職者が
予定では一万人余りであるのが、実績は三万五千人に近い
数字になった。それだけ退職金の支払いもふえる。また、閉山によって生ずる諸費用の
負担がふえておる。これが三十八
年度だけの
出炭の
収支を見ますと、非常にいいのでありますが、将来、非常に大きな
負担となる。
そこで、このままに放置いたしますると、第一次の
調査団で
考えられました昭和四十二
年度にほぼ自立し得る状態になるであろうという予想が全然くずれまして、その予想が立たないという結果になったのであります。なお、この
調査団の
予定と実績の狂いをかりに設備資金について申しますと、三十八
年度では
予定が大手だけで二百七十四億の設備投資をやる
予定にいたしておりました。ところが実績は二百十八億というふうに相当落ちておるのであります。ところがこの内容について見ますと、
政府資金はそのうちで百六十三億の
政府資金が出るという
予定が、実際に出ましたのは八十二億であります。したがって、総体の
予定よりも設備投資は減りましたけれ
ども、自己調達の分は
予定よりもふやさなければこれだけの投資ができなかった。その自己調達を
予定よりもふやした、こういうところにまたいろいろの
負担が、
影響が及んでいる。こういう現象で、これは一例を
数字について申し上げたのでありますが、要するに、
調査団が
予定したものと現実の姿が非常に食い違ったということであります。
そこで、最近の
状況を申しますと、累積される赤字がざっと八百億をこえておる。借り入れ金も一千八百億をこえるというような、企業としては将来どうにも
負担し切れないという
状況になったわけでございます。この累積赤字八百億というのは、最近の五年間で年間平均百億ずつの赤字がふえていく、それが累積される、こういう形であります。借金のほうも年々二百億ずつふえていくという
状況であります。そこで、私
どもよくこの最近の
出炭状況から、五千五百万トンの目標というものは一体達成されるのかどうかということを問われるのでありますが、もしこの五千五百万トンというものは全然不可能だということであれば、これはもう根本的に
考え方を変えなくちゃいかぬ性質のものだと思います。この五千五百万トンができるかできないかというその見方は、いろいろの方面から見なくちゃいかぬと思いますが、自然条件あるいは埋蔵量の
関係からいってそれが不可能かといいますと、これは問題ありません。可能であります。一面、今度は技術的に
日本の炭鉱というものは非常に賦存
状況が諸外国の炭鉱と比べてむずかしいのでありますが、技術的に不可能かということについては、これも問題がない。不可能ではない。それから人員不足の点からいって今後五千五百万トンは掘れないのじゃないかという問題もあります。現状のままではどんどん一種の離山ムードと申しますか、労務者が去っていく、しかも働き盛りの若い人が去っていく、新しい人はなかなか入らないという
状況でありますから、労務上問題はあろうと思いますが、その離山ムードあるいは若い人が入ってこないというのは、結局、
石炭企業に対する将来性に不安があるからそういう結果になるのであって、もしこの
石炭企業というものがペイする企業ということになれば、その問題もおのずから解消されるというふうに思われるのであります。もちろんこの今後の
石炭について、坑内構造を改善するとか、あるいはさらに機械化する、つまり人力から機械力へ依存するという、そういう方向は
合理化の態度としてとらなくちゃならぬと思いますが、そのもとに横たわ
、やはり資金の問題であり、それは収益の問題だというふうに
考えまして、
石炭企業に対する今度の
調査団の
調査の重点は、やはり現在の
石炭企業の経理の改善にあるのだ、その点を十分にえぐり出して、それに対する
対策を十分に
考えてほしい。こういう要望をいたしたのであります。
そこで、それでは
収支改善を幾らに見ればいいのかという問題でありますが、われわれとしてはトン当たり五百円の収入増になるような
対策を
考えてほしい。その五百円をどういう方法でやるか、これはわれわれとしては実は名案がないんでありまして、
調査団の
先生方に十分御
検討をいただきたいという形で要請を申し上げたわけであります。まあこの
収支改善の方法としては、きわめて端的に割り切って
考えれば、
消費者に
負担していただくということは単価を上げるということであります。それでなければ国民の
負担において解決をしていただくということは、補給金という形で解決策を見出すということであります。あるいはそれを組み合わせた形の解決策、まあ大きく分けて
考えれば、その三つしか私はないと思いますが、その私
どもの概略の
考え方も、実は
調査団の
先生方には申し上げたわけであります。なおその際に、われわれの要望としては、固定資産税あるいは鉱産税の
負担が一般製造業に比べて非常に重い。これを一般製造業並みに
考えて、おおよそ
負担を半減してほしいという要望もいたしましたし、さらに、
負担の軽減方法としては国鉄運賃の問題についても触れて要請をいたしました。そのほか公害
対策についても要望いたしましたが、昨日の
答申を拝見いたしまして、われわれ感ずる点は、非常に熱心な討議
検討の結果、多岐にわたって詳細にしかも具体的に
答申がされた。この点はわれわれとして非常に感謝をしておるところであります。ただ、いろいろの制約のもとで
対策を
考えるんでありますから、もちろんわれわれの要望そのままを実現はされておりません。一例を申しますれば、五百円の収益増加をはかってほしいという、その額には今度の
答申においては達しておりません。あるいはいま申しました固定資産税とか、鉱産税というような地方税の問題についても、今度の
答申には掲げられておりませんが、まあ諸制約のもとでは、まあまあこの
程度の
答申でやむを得ないじゃないかという
感じがしております。もちろん十分な満足というわけではありませんけれ
ども、いままで常に
石炭企業が置かれた環境から満足を得られたためしはないんでありまして、その環境と申しますのは、すべての
消費者あるいは国の
立場から見て、
石炭はぜがひでも相当の無理をしてでも保持しなければならぬというまでの機運というものはないのであります。一、二の人のことばを借りて申しますると、
石炭は実はやっかいものだ。あるいはいまごろ
石炭などということはもう時代おくれなんで、すでに石油の時代も去らんとしつつあるのだ。早く
石炭なんというものから足を洗ったほうがいいというような言い方の人もありますし、中には、なまじ
石炭があるということはかえって災いだという表現をする人さえある。そういう環境の中で
石炭業界から見て、これでもう満足だという
答申、回答を得ようということ自体が私は無理だと思いますので、今度の
答申はまあまあやむを得ないというふうに思うわけであります。ただわれわれ
石炭業界としては、これに満足か不満足かというようなことを言ってみても始まらぬ話でありまして、与えられた条件下で最善の
努力を払って今後の
出炭を確保する。現に去年もことしも
電力に対しては
約束の
石炭供給ができない
状況でありまして、これはまことに申しわけないことでありまして、今後そういうことのないようにあらゆる
努力を払いたい、かように思っている次第であります。