○五島
委員 私は、
日本社会党を
代表いたしまして、ただいま上程されました
政府の
昭和三十九年度補正予算、すなわち第1号、特第1号及び機器1号に対し、反対の討輪を行ないます。
私は、まず本補正予算案に対する反対の理由を申し上げる前に、何よりもその背景となっている
わが国経済がいかなる
事情のもとに置かれているかを指摘しなければならないと思います。
現在
わが国経済を取り巻く情勢はきわめてきびしいものがあります。インフレと借金
政策を柱とした所得倍増
政策はいまや完全に破綻し、高度成長の結果もたらされた見せかけの繁栄は、その矛盾が爆発的にあらわれており、単なるひずみ是正ではどうにもならないところに追い込まれているのであります。不況の中での過剰生産要因の増大、物価の高騰、中小企業の倒産、農業の荒廃、事故や災害の頻発、産業公害や都市公害、住宅難等々、その矛盾は社会生活のあらゆる分野に拡大しております。とりわけ物価の高騰は、
政府の消極性と無能を暴露しているのであります。消費者物価は
昭和三十五年から三十八年までに平均二一%も上昇し、本年度も
政府のいうところの四・二%の値上げに押えることはとうてい困難であるのであります。しかも、これは平均数字の詣でありまして、値上がりの実態をつぶさに検討するならば、低所得層にいけばいくほど値上がりの影響は大きく、かつきびしく響いているのであります。さらには、開放体制への移行と金融引き締め
政策の中で中小企業切り捨て
政策が浸透してまいりました。近代化の立ちおくれた中小企業を一そう圧迫し、倒産件数は、その負債額一千万円以上を取り上げてみましても、本年四月に戦後最高の記録を記録いたしましたけれ
ども、その後毎月これを書きかえてまいりました。十一月には倒産件数は何と五百十八件、その負債額は五百九十億円と急増してまいりました。一月以降の総倒産件数は実に三千六百十六件に及んでおります。これはまさに中小企業の危機といわなければなりません。また、農業におきましても、構造改善
政策は勤労農民を犠牲にいたしました。出かせぎ農民は急増の一路をたどっております。農業もまた危機に瀕しているといわなければなりません。
現在の政治の急務は、いわゆる倍増計画によってもたらされたところの
経済のひずみと、
国民生活の困窮を緊急に是正するための責任ある措置をとるとともに、それらを打開するために、
経済政策の根本的な転換を行なわなければならない時期に到達しているのではありますまいか。しかるに
政府は、
経済危機を打開して
政策を転換するだけの能力も決断力もなしに、あまつさえ消費者米価の一四・八%の値上げ、さらには医療費、公共料金、国鉄運賃など、大衆生活に直結し、
経済に重大な影響を与えることが明らかである各種料金等を次々に値上げしようといたしております。
日本経済をあずかる者としてまさに無責任きわまりないものであると断ぜざるを得ません。
さて、今回の補正予算は、補正を要する歳出追加所要額合計一千六十四億円、修正減少額は二百十四億円、その差し引き予算規模は八百五十億円であり、そのおもな項目は人事院勧告に伴う公務員給与の改定、災害復旧費、食糧管理特別会計への繰り入れ、地方交付税交付金等の八項目となっております。しかし、その内容は、どれ
一つをとりましても、その無原則と無責任ぶりは目をおおわしめるものがあるのであります。
まず第一点は、公務員給与についてでありますが、去る八月十二日人事院は公務員給与に関する勧告を行ない、民間給与との格差を是正するために給与改定を五月一日から実施するよう勧告し、すみやかに適切なる措置をとるように切望したのであります。この勧告は、物価
政策の破綻の中で民間給与との格差を是正するための最小限度の措置でありました。しかるに
政府は、勧告を、尊重する
立場から例年によりも一ヵ月繰り上げて本年は九月から実施すると、まるで鬼の首をとったかのごとく宣伝し、あるいは恩典がましく説明してまいったのでありますが、このことはいかに
政府が人事院勧告を尊重していないかの証左となっただけであります。勧告無視もはなはだしいと言わなければなりません。むしろ九月にさかのぼらざるを得なかったその最大の理由は、もはや例年の十月実施では公務員の不満を押え切れなくなった、それがおもなる原因であったと言わなければなりません。
さらに今回の給与改定が地方財政の欠乏と弾力性に欠ける実態の中で、地方財源に十分な財源措置を行なうことなしに実施されていることは重視すべきことであります。
政府は、当初地方公務員の給与引き上げ分は自主財源でまかなうべきだと官房長官談話を発表いたしました。ところが、これに対して全国知事会などは猛烈なる反発をいたしました。これは皆さんの御
承知のとおりであります。しかしながら、本予算案においてもこの
方針は変わっていないのであります。確かに財源の約百五十億円は地方交付税及び譲与税配付金特別会計に一括借り入れをするという措置がとられているのでありますが、これらの措置は、交付税の先食いのほか何ものでもありません。地方公務員の給与改定に要する財源は、国が地方公共団体に対して全額交付すべきが当然であるということをわれわれは主張いたします。
第二に、災害対策に対する取り組みと、その予算措置についてであります。ことしもまた新潟地震に始まり、山陰、北陸の豪雨、台風十四号と二十号、北海道や青森の冷害等の引き続いた災害は、これからの寒さの中で深刻な
事情を引き越こしております。とりわけ
政府の災害復旧事業が遅々として進まない。そういう災害から二ヵ月以上も経過した今日、ようやく予算化され、その予算額の金額もわずかに百八十八億円にすぎないのであります。申すまでもなく、今日の災害は、いかに台風
日本、災害国
日本とはいえ、あまりにも多発的であり、その被害もまた甚大であります。とりわけ
わが国の災害は、単に天災というにはあまりにも政治行政の措置が立ちおくれておりはしませんか。人災そのものであるということが言えると思うのです。この際すみやかに災害復旧と被害者の生活救済のための抜本的措置をとるとともに、融資等につきましても、原資の確保、災害に応じた貸し付け条件の改善、あるいは過年度繰り越しの固定負債の整理の措置等をすみやかにとるべきが至当ではありませんか。とりわけ個人災害は、現行法では救済できないのであります。災害の悲惨の中で、生活に落伍をしていく例も決して少なくなしとしません。罹災者援護法の制定など、総合的な災害対策を急がれなければなりません。
第三の点は、医療費値上げについてであります。現在の医療の実態から見まして、中央医療協議会の答申を尊重し、当面十一月一日より来年の三月三十一日までの間、医療費を八%引き上げることは必要とわれわれも認めます。しかしながら、これは最近の物価動向から見まして、また
国民負担の
立場から見て、国庫負担を増額して、患者負担の増大を防ぎ、医療保険料を据え置きにして、さらに低所得層の医療費負担を軽減できるように措置を講ずべきでありました。この措置と並行して、明年四月一日以降に診療報酬支払い体係の抜本的改定を実現できるように、中央医療協議会をはじめとする社会保険
関係諮問機関の審議を経て措置を決定すべきであります。しかるに
政府は、これらのことを何ら考慮することなしに、保険主義による低医療費
政策の矛盾をたな上げにいたしまして、診療報酬を九・五%引き上げ、その負担を患者にしわ寄せしようとする
態度は、医療行政と
国民の健康管理を放棄するものでありまして、これは許し得ざる問題であります。
第四に、食管会計への繰り入れの措置についてでございます。
政府は、
内閣改造のごたごたに便乗いたしまして、十一月九日、突如として
池田内閣最後の持ち回り
閣議で、消費者米価を平均一四・八%引き上げることを決定しました。
佐藤新
総理は、物価安定に慎重に対処するという
施政演説もいまだその舌の根のかわかないうちに、組閣最初の仕事として、消費者米価引き上げがお年玉であったことは、まことに皮肉であるといわなければなりません。この補正予算を通じて、
佐藤薪
内閣の本質を暴露したものであるといわなければならないと思います。消費者米価の値上げが、他の諸物価の値上げに口実を与えまして、物価高騰の重大な契機となることはもはや否定し得ないところであります。かつて
昭和三十七年の消費者米価値上げが、その後の半年間に五%も消費者物価値上げをもたらした事実を想起するに、今度の値上げはまさに物価上昇に重大な転機をつくったというべきでありましょう。とりわけ消費者米価は、
国民の主食であり、食糧管理法第四条第二項の趣旨からいっても、
国民生活の基本を守るためにこれを管理統制するのは国の義務であり、
政府の義務であります。いわゆる逆ざや現象は、それ自体が社会
政策費としての要素を持つものであります。
政府は、さきの
閣議決定をすみやかに撤回されまして、消費者米価を据え置くとともに、食管会計の赤字については、行政費及び社会
政策費として一般会計から補てんすべきであるということを主張するものであります。
さらに公営バス料金等につきましても、これを据え置きにし、累積赤字は地方自治体の一般会計から漸次補てんをいたしまして、これに該当する金額は
政府が地方自治体に対して交付すべきであります。
政府が声を大にして物価値上げ抑制を百万べん叫ぶことよりも、以上のような措置をとりまして、まず
政府みずからが値上げを行なわないことによって、所得倍増計画の破綻の結果として再び燃え上がろうとする物価上昇の火の手を鎮静せしめなければならないということを、声を大にして主張をいたしておきます。
第五に、深刻なる倒産に見舞われている中小企業対策に何らの措置がとられていないことであります。冷酷な中小雰細企業の切り捨て
政策によって、中小企業の倒産は急速に、かつ底知れず拡大しております。高度成長
政策のしわ寄せによりましてもたらされた中小企業の未曽有の倒産、不渡りを救済し、年末融資の資金の需要にこたえるために、財政投融資の大幅な拡大、ことに零細企業に対する配慮など、緊急に措置しなければなりません。また、中小企業信用保険公庫に対するところの出資追加の措置が強く要請されるのであります。しかるに、
政府はこれらの点に関して熱意を見せておりません。このような状態を放置するならば、単に中小零細企業の危機と切り捨ての進行のみならず、
日本経済を重大な恐慌に巻き込む情勢をつくり出していることを知るべきではないでしょうか。
最後に、財源措置について一言触れます。補正財源の中心は勤労所得税の自然増収にその中心を置いていることであります。今回の租税の自然増収性、勤労者に対する課税が生計費にまで食い込んで行なわれている実態の中で、物価高による名目賃金の上昇に伴いまして、擬制的に所得が向上した結果生じた増収であります。勤労者の生活の実態からははるかに遊離した税の取り過ぎであると言わなければなりません。財源難を云々される中で、勤労者の税金のみが相変わらず高額課税されるということは、基本的には防衛費や大企業の産業基盤づくりに奉仕するところの公共投資、物件費等の増大と、
政府みずからが招いた物価高によって、皮肉にも財政そのものが圧迫されてきているという、それ自体がおもなる原因になっているのであります。これらの費用こそ徹底的に削減することによって財源を捻出すべきではなかったか。それが当然ではなかったかと思います。この
意味で、本年度の自然増収についても実態に即した再検討を行なうべきであるということを強く主張いたすものであります。
以上六点にわたって本補正予算案には致命的なる欠陥のあることをここに明らかにいたしたのでありまするが、
政府がこのような欠陥を有する補正を選出しなければならなかったその怠慢と無責任を強く指摘いたしまして、本補正予算案に対する反対討論を終わるものであります。(拍手)