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麻生良方君 私は、
民主社会党を代表いたしまして、
政府提案の
昭和三十九
年度予算補正三案に対しまして、
反対の意向を表明したいと思います。(
拍手)
まず、この
予算案の
内容の是非を検討する前に、私
たち国会議員はもちろんですが、
政府は、この年末を前にして、
国民が何に苦しみ、何を求めているかを真剣に
考えてみなければなりません。毎日あちこちの会場ではさまざまな団体が
集会を開き、
予算の獲得や
陣情を行なっていることは、各位の御承知のとおりであります。それらの要求はいずれももっともなことばかりです。しかし、その中でも特に私
たちだれの耳にも最も強く、切実に響いてくるのは、
家庭の台所を預かる
主婦たちの
物価値上げ反対の声でございましょう。私は、党の
役目柄、この種の
集会にたびたび出向くのですけれ
ども、いずれもこの不景気の年末を前にして、これ以上
物価を上げられたのではやり切れないといった痛切な叫びがこもっております。私の
家内も、届けられた大根の
値段を見まして、「またこんなに上がったの」と配達の
店員さんをなじったりしますが、彼はまるで
自分が悪いように頭を下げてあやまるばかりです。何も
店員さんが悪いわけではございますまい。
政府がいち早く
公共料金の
値上げをして
物価値上げムードをあおり、その結果
中小企業者だって背に腹はかえられません、
サービス料金や
小売り値段を上げなければ
暮らしが成り立たない。だから、もとはといえば、みな
政府が悪い結果であります。せんじ詰めれば、この
店員さんは
佐藤総理大臣にかわって私の
家内にあやまっているといっても言い過ぎではないでありましょう。このように、
池田内閣以来の
政策のしわ寄せは、
家庭の
主婦と
中小商店の
店員という、やり場のない末端まで及んでおります。それでも、まだ
賃上げ闘争をして年末
資金を幾らかでも獲得できる大
企業や
公共企業体に働く
人々はまだしもであります。
中小企業や
農業によって
生活をささえる
人々にとっては、本年はまさに
地上最大の悪年でありましょう。しかも、その悪年を迎える
人々の数は
国民の大多数を占めております。相次ぐ
倒産旋風の中で、
事業主も
従業員も、いつそのあらしに見舞われるかと戦々恐々のありさまであります。
佐藤総理は、先日の
予算委員会の
答弁の中で、
中小企業の
倒産もさることながら、一方においては
完全雇用も実現されようとしているのだから、
高度成長政策も見捨てたものではないという意味の御
答弁をされておりましたが、とんでもない話であります。なるほど
一つの
企業がつぶれても、
人手不足のおりから
従業員の行き場は幾らもございましょう。けれ
ども、彼らの行くところは、やはり同じようにいつつぶれるかもわからない不安定な
企業でしかないのです。
中小企業に集まる若い
根っこたちの悲しみを、
総理もそれこそ人間として味わうべきでありましょう。(
拍手)
総理は、いま農村から
都市に流れているこのような流転の
生活者がどのくらいあるか御存じですか。秋田県だけで、
都市に出かせぎに出て、居どころの不明の父親が一万をこえるといわれております。一家の働き手を失った、留守を守る母親や
子供たちは、不安におののきながら毎日親さがしに懸命です。このような実態に目をおおって、ただ
数字にだけあらわれる
雇用率を見て、
完全雇用が実現されつつあると
考えるなら、
総理の目はガラスのレンズにしかすぎぬと酷評されてもいたし方ないではございませんか。(
拍手)それとも、失業問題の伴わない
中小企業の
倒産などは社会問題にならないから、いまのうちに整理するものはしてしまえというお
考えですか。それならそれと、はっきり言い切ったらいかがでしょう。それは確かに弱肉強食をたてまえとする
資本主義を貫く明快な理論なのでございます。ある
倒産した
中小企業の
経営者は、しみじみと、
自分たちは
政府の
計画倒産の犠牲になったのだとくやしがっておりました。彼はいままでれっきとした
政府。与党の支持者であったことを、大臣各位は心に銘記していただきたいと思う。このままでいくと、あなた方は
企業倒産によって
家庭と職場を失った
人々の怨嗟の声にさいなまされてその生涯を終えなければならないかもしれません。(
拍手)
私は、何も
高度成長政策のすべてが悪いとは
考えておりません。戦後二十年、かつて壊滅に瀕した
日本経済を立て直し、
日本の大
企業をして先進諸国のそれをしのぐほどの生産設備と技術水準を備えるに至ったことは、私もまた
国民の一人として高くこれを評価するものであります。けれ
ども、
総理もしばしば指摘されるように、取り残された
中小企業、農村
企業とのひずみの傷口は、もはや一刻の猶予もできないほど化膿しているのです。
私は、池田前
総理にかわって
佐藤内閣が実現したとき、党派を越えて大きな期待をかけずにはいられませんでした。それは、あなたがかつて
池田内閣の
経済政策を手きびしく批判され、敢然として公選によってその筋と主張とを通そうとしたからです。同じ
自民党の人といいながら、党も
政府も結局は人によって運営されます。過日の某新聞の世論調査にあらわれた
佐藤内閣に対する
国民の期待は、一にかかってこの一点にあることを
総理は忘れてはならないはずであります。本
会議や委員会の
総理の
答弁のまずさや、外交問題に対する
関係閣僚の意見の食い違いもさることながら、私は、私をも含めての
国民の期待が具体的にこの
補正予算の中にどうあらわれるかを注視していたのであります。ところがどうでしょうか。正直のところ、私はこの
補正予算の説明を聞きながら暗然とせざるを得ませんでした。
まず第一に、この
国民の
物価値上げ反対の叫びをよそに、
消費者米価の
引き上げをおくめんもなく計上し、その上、
ケース・バイ・
ケースの名のもとに
公共料金の
引き上げを公言してはばかりません。まさに平清盛の故事ではありませんが、法衣のもとによろいを見たりといった印象でございます。特に、
消費者米価を
引き上げることは
国民の食
生活の基本問題に触れることです。おそらく、このような
措置を是認した本案が国会を通過すれば、
たちどころに諸
物価の
引き上げに有力な口実を与え、
政府の
物価安定政策は、すべてその効力にもかかわらず水泡に帰することになるでありましょう。かつて大正七年、お米が五十五銭に
値上げされ、米騒動を誘発し、社会不安をあおり立てた苦い歴史的経験を思い起こしていただきたい。
さらにまた、あまりにも無定見な
財源かき集めを露呈していることです。
既定経費のうち、
人件費を除いて手当たり次第に当初
予算の三%節減をしています。これは、結局実質六%以上の節減になると思いますが、それは施設費、補助金までも含むわけですから、そのしわ寄せは当然地方自治体に及び、やりかけの事業をいずれも中途はんぱのまま放置する結果になる。またまたお役所の無
責任事業がここから生まれます。迷惑を受けるのは、結局
国民一人一人です。また、別の見方をすれば、かつて
政府・与党が多数をもって可決した本
年度予算は、年半ばにして、全体の約六%を節減できるほどの水ぶくれ部分があったことを、
政府みずから認めることにもなるのであります。わが党が、成立当初に、行政事務
経費の一・五%として、約四百八十億円を節減せよと組みかえ要求した正しさを、皮肉にも
政府みずから認める結果にもなるのであります。
その他、
地方交付税交付金
財源として、新たに
資金運用部資金の融資を充当するなど、
賛成しがたい点がたくさんありますが、特に私が最も遺憾に思うのは、先ほどから私が申し述べてきた
中小企業倒産に対処する緊急対策費を何
一つ計上していないという驚くべき事実であります。
一体、
総理は、不況のあらしの吹きまくるこの年末を、
中小企業者が平常並みの短期年末融資程度で切り抜けられると思っておいでですか。そんな短い、しかもスズメの涙ほどの金は、借りれば借りるほどかえってその返済のために苦しみ、
企業はますますどろ沼に入り込んでいくばかりであります。彼らがいまおぼれかけたどろ沼の中で叫んでいることは、
政府の抜本的な、しかも温情ある救いの手であります。
政府は、この要望にこたえるために、少なくとも
中小企業の関連
倒産を防止、
救済するための手形融資の金を、
一般会計歳出補正として最低五百億円は見込むべきでございましょう。
政府は、過日のわが党今澄勇氏の質問に答えてか、不況にあえぐ株式市場
救済のために、日銀をして
日本共同証券に一千億円の直接融資を行なわしめると聞いております。まことに大勇断でございます。しからば、なぜかくのごとき大勇断が
中小企業関係に対してとれないのでございますか。(
拍手)結局、その理由は、大
企業の強さに弱く、中小零細
企業には冷淡な
政府・与党の本質の中にあるといわざるを得ないではありませんか。
以上の諸点を指摘するだけでも、本案がいかに
国民の切実な要求を満たし得ない無定見な、場当たり的
補正予算案であるかが立証せられたと思います。
以上、私は、民社党を代表して、ここに本案に対する
反対の理由を公にいたしました。いまからでもおそくはございません。どうか
政府・与党の皆さんももう一度私の申し上げたことを御検討いただき、本案に
反対のお立場をとられんことを切望いたしまして、私の
討論を終わることにいたします。(
拍手)