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鈴木参考人 都市交通の
鈴木です。
あらかじめ
前提に御
了解をお願いしたいことば、
予定された時間十分ということに
委員長から言われましたけれども、若干この点過ぎるかと思いますので、あらかじめ御
了解をお願いしたいと思います。
制度調査会の
中間答申に対する私の
意見を申し
上げます。
私はまず
衆議院地方行政委員会が、
地方公営企業の
現状を正しく
理解し、深く憂慮されて
地方公営企業に関する小
委員会を設置し、
地方公営企業の問題に対し積極的な対策を進められていることについて心から感謝し、敬意を表するものであります。と同時に、深刻な
経営危機に直面しております
地方公営企業に対して、
窮状打開のため努力される貴
委員会に対して大きな
期待を持って見守っております。
このような
立場から私は、去る十一月七日
自治大臣に対して
答申されました
地方公営企業制度調査会の、いわゆる
中間答申であります
地方公営企業の
財政再建についてとるべき当面の
方策に関する
答申について
意見を申し
上げます。
まず第一点といたしまして、
地方公営企業制度調査会に対する
意見を申し
上げます。
地方公営企業制度調査会設置については、さきの
国会におきまして慎重に
審議されたことは御承知のとおりであります。そして
審議の結果、特に
委員の
選任については、
労働者の代表を入れてほしいということを強く要請いたしました。しかし、私
たちのこの
希望は実現できませんで、
労使関係当事者の参加を認めないいわゆる
第三者機関ということで、
学識経験者のみによる構成となりました。そして
学識経験者の人選については、何人も十分納得できる公正妥当な
第三者を
選任するということも、
国会審議の中で明らかとなりました。また、
労使関係を無視して
結論を出しても、うまくいかないことを
理解しているので、
参考人として
関係者の
意見も十分聞くということも言明されました。私
たちは、
国会におけるこのような
審議経過を見聞し、若干の不満と不安を抱きながらも、強い
期待をもって
制度調査会の
審議を注視してまいりました。そのため、
制度調査会の
委員に対しいろいろ
資料をお送りし、また
参考人として呼ばれました際も誠意を尽くして
意見を申し
上げました。ところがこの
答申は、これから
意見を申
上げますように、私
たちの
期待を裏切り、
学識経験者をもって構成する
第三者機関としての公正妥当な
答申として
理解できがたいものであることを非常に残念に思っております。このことは同時に、今後の基本問題の
審議に対しても、私
たちは大きな不安と深い疑惑を持たざるをえないことになり、非常に残念に思っておりますし、
期待が強かっただけに、その反動から不信の念を押さえることができません。
国会審議の過程でいわれましたように、
労使関係を無視して
結論を出してもうまくいかないということが正しく
理解され認識されるとするならば、この
答申はまずその面において、重大な
一つのあやまちを犯したというべきではなかろうかと思います。
次に、
答申の
内容に対する
意見でございますが、第一に申
上げたいことは、
財政再建の
方策であるというのに、
経営赤字の
原因についてほとんど究明されていないことであります。いやしくも
学識経験者をもって構成される権威ある
機関が、当面の
赤字をどうするかという
結論を出すのに、
赤字の
原因究明をないがしろにしてはたしてよいでしょうか、この点非常に疑問に思います。
地方公営企業の置かれている
現状を客観的に正しく判断し、
公営企業の持つ本来の使命である
公共的役割りを認識することなくして、
財政再建の
方策について
結論を出すことは、あたかも診断の結果を明らかにしないままに医師が病人に薬を与えるということにひとしいと思わざるを得ません。これは非常に危険なことだと思います。そこで、一体なぜこのような危険なことがあえて行なわれたのでしょうか。少しく、うがった見方をするならば、初めから
答申の
結論が用意されておったのではないかという疑いが生じてまいります。それは、
経営赤字の
原因について徹底的に追及した場合、権威ある諸先生をもってするならば、
赤字の主要な
原因が、私
たちの従来主張しておりますように、
路面の混雑による非
能率性、
地下鉄建設の
元利金償還の過重な
負担、
公共負担の
問題等に示されているように、
企業外の要因によるものであることが明らかだと思います。もしこの事実を明らかにするならば、たとえ
中間答申という性格であっても、
政府が努力すべき具体的な事項がより明確になってまいります。このことを避けるために、
赤字の
原因を追及し、明らかにすることを避けたのではないかという疑問を生じます。
私がなぜこのような疑問を持つに至ったかについてその事情をさらに明らかにするために、
一つの例を申し
上げます。
本年の春から夏にかけて、
東京都
交通局の
再建案をめぐって
労使の紛争が生じました。
中央労働委員会の
調停が行なわれまして、この
調停案において、
中央労働委員会は次のような見解を述べております。
「
都市交通事業は、
営業範囲が
陸上交通事業調整法に基づいて限定されてきたこと、
適正運賃の
決定が国の
政策によって押えられており、特に
バス料金は
昭和二十六年以来据え置かれていること、及び
公共性を理由に不
採算路線の維持が強いられていることによって、その
収入が制約されている。
さらに、最近における
路面の渋滞は、
電車及び
バスの
乗車効率を悪化せしめており、その
傾向は今後ますます著しくなるものと予想される。他方、
営業費は諸
物件費及び
人件費の
増加によって増大してきた。しかしながら、過去四ケ年における
交通局職員の
給与の
上昇率約三八%は、一般的な賃金の
上昇傾向、同期全産業三八%、
私鉄大手筋三〇%、
都一般職員三九%に比して、特に不合理であったとは
考えられない。
都市交通事業の今日における
収支のアンバランスは、
人件費を含む
営業費用の
増加、
——東京の場合過去四ケ年に四八%に対し、
営業収入の
増加−同じく二三%、なお
私鉄の場合は七七%が伴わなかったことに直接
原因しており、さらに、
地下鉄建設のため、及び
累積赤字補てんのための借入金に対する利子の急増が
財政悪化の他の
原因となっている。
したがって、
首都圏交通事業の一元化ないしは再
調整などに関する国の
交通政策、合理的な
運賃政策、
都交通事業に対する国及び都の
財政的援助、
地下鉄事業の
特別会計設置、不
採算路線の改廃などにつき適切な
措置がとられない限り、
都交通事業の
赤字問題を根本的に解決することは
期待できないであろう。
これは三十八
年度の
赤字百三十億に対し、
合理化を一〇〇%実施しても、十億から十三億になるということを指摘しておるわけであります。
今回の
答申が
合理化の徹底、特に
人件費削減を中心とする
合理化の徹底と
料金値
上げによって
調停委員会は、
都交通事業再建のためには、前記外的要因の解決が第一の要件であることをまず指摘したい。」と言っております。この例で明らかなように、まず
赤字の
原因にメスを入れ、しかる後に解決の方向を指摘しております。これはきわめて当然なことであり、常識的なことだと思います。そしてさらに
中央労働委員会は、「当局提案の
合理化案のすべてを組合が了承しかりに実施したとしても、
赤字解消のための効果は部分的かつ一時的なものしか
期待できず、全体的な
再建にはならない」と言っております。
昭和四十
年度の
赤字を解消し、進んで累積
赤字の解消をはかることが望ましいと述べていることと全く対照的であります。私は、このように対照的な見解が、いわゆる
学識経験者を主体として構成される
第三者機関によって、ほゞ同一時期に出されたところに重要な問題があると思います。そしてこのことの追及だけでも重要な
一つの問題であると
考えますが、時間の制約がありますので、ただ
一つだけ申し
上げます。それは、
労使双方の
関係者に正しい発言の場が与えられ、しかもその発言を
第三者機関が正当に取り扱うということの有無が、このような相違を招く結果になった最大の
原因であると思います。
第二の問題は、「過去の
赤字にたいする
措置」として示している対策が具体的でないということであります。先ほど
大阪の局長さんも申されましたが、
合理化と
料金値
上げについては非常に具体的であり積極的でありますが、
政府や自治体に努力をお願いする点になるときわめて抽象的であります。どうしたらいままでの累積
赤字の過重な
負担が解決できるかという、当面の切実な問題に対しても具体的な解決の方進が示されておりません。私
たちを含めた
関係者が強く要請していた累積
赤字のたな
上げ、利子補給、低利かつ長期の起債の借りかえ等について、すみやかに具体化されたいという切実な要請があいまいな形で処理されております。にもかゝわらず、
赤字企業については、
合理化と
料金値
上げの計画を誠実に実施することを条件として
融資するとか、もしその努力を払わない
企業に対しては起債を制限すべきだと言っております。
このように見てまいりますと、この
答申はどこか重大なことが欠けているように感じます。それは、
国会審議にあたって、当時の
自治大臣である早川さんが、
地方公営企業はその数及び規模が
増加拡大し、地方行政のサービス部門で重要な位置を占めていると言い、
地域住民の福祉向上に深い
関係のあることを指摘しているにもかゝわらず、
制度調査会の
審議においては、この面に対する考慮が軽視され、経済性の追及にのみ終始したのではないでしょうか。もしそうであるとするならば、
制度調査会設置の目的にも反することになると言わざるを得ません。
次にこの
答申は、
給与改定の問題について、「確実な財源の見通しのないままに、安易に
給与改訂を実施すべきではない。」と言い切っております。
地方公営企業の
職員は、地方公務員であるという理由に基づき、労働基本権の最大要件である争議権を否定されております。したがって、
給与の改善は、人事院勧告を基準にして実施されております。このような
現状にあるとき、
給与改定の財源がない場合は
改定を実施すべきでないということは、
地方公営企業の深刻な
経営事情では
給与改定を否定されたことになります。
一方では労働基本権を制約し、他方では
経営悪化を理由に賃金引き
上げを拒否するということを、私
たち地方公営企業に働く
労働者は一体どう受けとめればいいのでしょうか。物価高騰に苦しむ
現状の生活実態からして、このようなことを甘んじて受けられるでしょうか。これでは、
地方公営企業関係労働者を無理に争議行為に追い込む結果にならざるを得ないと
考えます。
いま
一つ理解できがたいことは、
財政悪化の
原因は、制度の基本そのものに根ざすものも少なくないと言いながら、
地方公営企業の
再建にあたっては、根本的な対策についても、当面の
措置についても、独立採算制の
原則でやるべきだと言っております。そしてさらに、
合理化と
料金値
上げで
昭和四十
年度の
赤字を解消する
方策を立て、進んで累積
赤字の解消にも努力せよと言っております。この三点を一体どのように結合させるのか、矛盾を感じ納得ができません。
最後に特に申し
上げたいことは、
地方公営企業の
再建にあたり、
地方公共団体の長及び議会は、
地方公営企業の最終
責任を負うべき地位であることから最大の努力が必要であるということを言っております。と同時に国も協力すべきこと。
地域住民の協力も大いに必要であることを指摘しております。この指摘については、具体性に乏しいのでその真意は十分
理解し、把握できませんが、しかしきわめて重要な問題提起であると思います。この重要な問題提起を具体的に進めて、今後地方自治体の条例等によって、
公営企業審議会を設置し積極的かつ具体的な施策を講ずる等の努力が行なわれることを強く
希望します。
公営交通を中心とする
地方公営企業再建に対する
意見を
最後に申し
上げます。基本的な対策を明確にしないままに当面の対策を述べることには問題がありますが、基本的な方向に沿って焦眉の急を要する当面の問題についていま申し
上げましたような若干の疑問もありますが、この機会に特に申し
上げたいと思います。
まず初めに、国や自治体が努力を必要とする諸問題をあいまいにしながら、
合理化と
料金値
上げのみによって
財政再建をはかろうとすることはあやまちであり、これでは
公営企業の真の
再建は
期待できないことを申し
上げます。そこで、
料金値
上げの実施や
合理化の徹底化の前に、
政府を中心に、自治体を含めて、次の事項について実施を願いたいと思います。
まず第一点として、
企業債償還期間のたな
上げもしくは延期、利子の免除もしくは引き下げ。第二といたしまして、
政府資金融資の拡大、
公営企業金融公庫に対する
政府出
資金の増額、これらの利子の引き下げと据え置き期間の延長。第三といたしまして、去る第四十三通常
国会において、
地方公営企業法改正の際、附帯決議として
決定されました
地方公営企業中、その事業の態容及び
企業経営の
現状から、
地方公共団体の
一般会計において、その
赤字の一部を
補てんすることを適当する場合等においては、国においても、その
地方公共団体に対し、必要な財務援助の
措置を講ずることの積極的な実施をはかること。第四といたしまして、
東京都議会が満場一致で
決定した
意見書に基づく首都交通の一元化を公営の
原則に基づいてすみやかに実現すること。第五といたしまして、
地下鉄建設に対する財政援助、軌道の維持補修、学生割引等、いわゆる
公共負担に対する適切な
措置。第六といたしまして、公共輸送優先の
原則で交通規制を実施すること。さらには、
地方公営企業法の改正をすすめること、この場合、
公共性を維持するたてまえに基づき第十七条の改正をすること。第二条第三項、第二十二条及び第二十三条について前向きの方向で再検討をすすめること。特に
地方公営企業法の改正については、すみやかに貴
委員会で御
審議願うことを強く
希望します。
終わりに、特にお願いしたいことは、従来から
地方公営企業について深い御論議をいただいております貴
委員会が、
制度調査会の
中間答申に対して冷静な判断と批判を行ない、権威ある
国会審議を通じて、
地域住民のための
地方公営企業が、正しい方向において
再建し得る
方策を御明示願いたいことであります。私
たちも、そのような
方策が明らかになるならば、謙虚な気持ちになって懸命に努力し、協力することを申し添えて私の
意見を終わらしていただきます。