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国務大臣(古池信三君) それでは、この機会に、簡単にいままでの経過なり、あるいは
考え方を申し上げてみたいと思います。
ことしの秋に
東京でオリンピックの大会が開かれるということは、アジアにおける
最初のことでもあり、日本にとりましても、まさに歴史的な行事であろうと存じます。したがって、このオリンピックの実況を、しかも最近においてこの実験に成功することができた宇宙通信衛星を利用して、アメリカ並びにヨーロッパその他の各地に送って、世界各
国民の皆さんに見ていただくということができるならば非常に喜ばしいことではなかろうか、こういうような
考えから出発いたしまして、何とか成功するようにならぬものか、こういうふうに
考えておった次第でございます。ところが、日本の力におきましては、通信衛生も持っておりませんし、また、これを打ち上げる設備ないしは資金もないという次第でありますから、どうしてもこれをやり遂げるには、アメリカに十分理解をしてもらって、これは絶対にアメリカの協力がなければできない仕事でございます。
そこで、ちょうどこの一月に、日米貿易経済合同
委員会が開かれました際に、ラスク国務長官が来られました。そこで私は、その閣僚のメンバーではありませんでしたが、特に外務
大臣にお願いをしまして、その
委員会の際にラスク長官に協力をお願いしてほしいということを申し入れたわけであります。そこで、外務
大臣からラスク国務長官にその話をしてもらいました。ところが、趣旨においては賛成である、まあ技術面その他の詳しいことは
自分もよくわからない、もしできるならば、そういう日本の要望にも沿いたい、というふうな意味の話があったそうでございます。
そこで、私
どもとしては、昨年十一月二十三日に、アメリカから日本に送られてきたのをキャッチして国内の皆さまにお目にかけた、あの受信の実験において非常な成功をおさめましたが、それ以前からアメリカにおいて実際この仕事をやっておりまするNASA、いわゆる航空宇宙局とは常に連絡がございますので、郵政
大臣名をもって、NASAの長官にあてて特に依頼をいたしたわけであります。NASAのほうでも非常に好意的にこれを受け取って、種々検討をしてもらっておったわけでありまするが、三月の上旬に参りました向こうの電報によると、大体三つのことがございました。その
一つは、今日NASAとしては、このオリンピックを中継してアメリカに送るという実験をいたすだけの
予算がない、その点は、
予算上NASAとしては非常に困難であるということが
一つ。それからその次には、この問題の資金の調達について、目下アメリカにおける
関係諸機関の間で積極的に協議が続けられておるということ、それから第三としましては、それらの問題が解決するならば、技術的にはNASAは積極的に協力をしたい、こういう、およそ三つの項目が重点でありましたが、そういう返事が参りました。そこで、私のほうとしましては、折り返し、ぜひその線で御協力を願いたいということをさらに要請をいたした次第でございます。
その後、いろいろ非公式の情報は受け取っておりますけれ
ども、NASAからの公文としては、それ以上のものはまだ来ておりません。現在は、そういうふうな
事情でありますが、そこで、この利用できる衛星として、現在上がっているリレー二号、あるいはテルスターは利用できるかといいますと、技術者の意見によりますと、ちょうど十月ごろは、軌道の状況が非常に悪くて、オリンピックの実況を送るには非常に不適当な位置にある、こういう話であります。また、シンコム衛星は、現在大西洋上に上がっておりますが、太平洋のほうには予定の
計画はあるとは聞いておりまするけれ
ども、まだそれをオリンピックの中継のために利用し得るやいなやということは不確定な状態にあります。したがって、今後
考えられることは、新たに、そのときにちょうど適当な軌道にめぐってくるようなリレーまたはテルスターを、新しく上げてもらうか、あるいはまた、近く上げられるであろうと予想されるシンコムを、ちょうど適当な位置に打ち上げてもらって、これを利用するか、かようなことが技術的には
考えられると思います。まあ、それらについては、いずれも多額の経費を要するわけでありまするから、もしもそのうちの経費の一部でも日本に
負担したらどうかというような話でもあれば、そういう話に基づいて、こちらも検討してみたいと思いますが、いまのところ、何らそういうふうな具体的な経費分担の話は来ておりませんので、こちらとしても、ちょっと
考えようがないという
段階でございます。
さらに、昨晩もちょっと話をしておいたのですが、リレー及びテルスターは、地球に比較的近いのでありますけれ
ども、そのために、映像も、昨晩ごらんいただいたように、相当鮮明に、音声とともに出るわけでありますが、ただ、中継する時間が非常に短い、まあ十五分とか二十分とかいう、きわめて限られた時間でございます。さらに、アメリカと日本の時間を比較してみましても、ちょうど昨晩九時三十二分にこちらから送りましたのが、ワシントンでは朝の七時三十二分である、こういうことで、その時差の
関係が、やはりオリンピックの問題についても大きな影響を持つであろうと
考えます。かれこれ
考えてみますると、結局、シンコム衛星を使えば、これは静止の状態に大体ありますから、比較的長い時間利用できるのじゃなかろうか、こういうふうに
考えております。ところが、シンコムにも難点があるようでありまして、これは、リレー並びにテルスターよりは、よほど地球から離れて高度のところに打ち上げられまするために、そこへ電波を送る時間がやはり多少よけいかかる、またその映像も、リレーあるいはテルスターに比べますると、どうしても不鮮明になるであろうと、こういうことを技術者の諸君が言っておられます。
大体今日は、さような状況でございまして、何とか、たとい短時間でも、実況を送ることができるということになれば、
一つの記念すべき事柄として、やはり歴史に残ることであろうと
考えますが、その費用の分担というような問題も将来出てくるでありましょうから、かれこれにらみ合わせながら善処してまいりたいと、こう
考えている次第であります。