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公述人(
渡辺武君) ただいま御紹介いただきました
渡辺でございますが、私は
貿易、
国際収支についてお話を申し上げるようにということでございますから、
国際収支の問題につきましていろいろ違った
意見が言われておりますが、これについて考えます際に、やはり
長期の
見通しと当面の問題とを分けて考える必要があるかと思います。当面の問題は
あとにいたしまして、とりあえず
長期の
見通しとして、一体
日本が
開放経済下において
対外競争力を維持し、
国際収支の上におきまして大きなマイナスを生ずることなしにやっていけるかどうかということを考えてみたいと思うのでございます。
この国際的な
競争をいたします上で第一に必要なことは、豊富であり、かつ質のいい
労働力を持つことだと思うのでありますが、この点におきまして、ほかの
欧米あるいはそれ以外の国との比較におきまして、
日本は恵まれた地位にあると思うのでございます。
日本の四千八百万の
労働人口というものは、その量におきましても、ほかの
欧米諸国から見ますと、まだ
ゆとりのずいぶんあるものだと思います。
日本でも
人手不足ということもだんだんと顕著になってまいっておりますけれども、
ヨーロッパに参りますと、非常に
人手が足りない。極端な例では、たとえばスイスに参りますと、
労働人口の三分の一が
外国人であります。ドイツに参りましても、八十何万かの
外国人労働者が入っております。イギリスでも
西インド諸島その他から
外国人労働者が入っております。
フランスでも
労働不足で賃金が上がっておるという
状態であります。また、
アメリカの場合には多少事情が違って、
失業者が一方にありますけれども、これは私の考えますところでは、一方におきまして非常な高度の
合理化が行なわれた結果、それによって生じた、
機械によって置きかえられた
労働力というものが失業しているという面もありますので、これは単に
国内の
景気調整だけで解決できる問題でなくて、たとえば
職場転換のための
教育その他を伴ってなければならないのであります。
機械を動かす
人たちは
アメリカにおいても非常に
不足をしておるわけであります。
外国人がよく
日本に参りまして、
日本は
人手不足だというけれども、非常にまだ
ゆとりがあるじゃないか、デパートへ行ってみれば、エスカレーターの下で女の子がおじぎをしているような、ああいう余分の人を使っている間は、
日本の
人手不足というのもまだそれほど深刻なものではないではないかということを申しますが、確かにまだ、相対的に申しまして、
欧米その他に比べては
ゆとりがあると思います。もちろん
後進地域と比較いたしますると、
後進地域にたくさん
人手はありますけれども、今度は質の点におきまして、
日本のような
教育の行き届いた、また器用な能力を持った
労働力というものではありませんで、そういう点におきましても、
日本が
労働の質及び量あわせて
一般の国に対して強味を持っていると思うのであります。
また、
日本の
生産性の問題から見ますと、これは確かにほかの国の
生産性はかなり高い。たとえば
アメリカの
生活水準は
日本よりも五、六倍も高いし、また、
ヨーロッパを比較いたしますと、
日本の倍ぐらいの
生活水準を持っておりますけれども、その高い
生活水準でもって
日本の製品と
競争しているということは、それだけ彼らのほうが
生産性が高いということも言えるわけであります。逆に申せば、
日本はまだ
生産性を伸ばす
余地のある国であるということが言えると思うのであります。この
生産性を伸ばすために
日本としてもますます
努力をしなければならないわけであります。
これまでの
実績を見ますと、
日本の
民間の
設備投資は非常に高い率になっておりまして、国民総
生産中の
民間設備投資の率というものは、ほかのどの国に比べましても一番高いというような
状態であります。このことは、ある場合には、
行き過ぎによって
国際収支の当面の困難を生じまするけれども、長い目で見ますと、これはやはり
日本がそれだけの
合理化のための
努力を続けておるという証拠であります。私は
日本の
生産性の
向上については
努力を要しまするけれども、これまでのような
日本人のそういう意欲というものを続けて持ちましたならば、決してほかの国に負けるものではないと思っております。
もう一つ、
対外競争力の面で重要なことは
経済の安定であります。この点につきましても、もちろんいろいろ問題はありますけれども、
日本の
財政が、戦後、比較的健全な
状態を続けてきております。
あとは
経済政策において、健全な
政策を機動的にとり得るかどうかというところにもっぱらかかっているわけであります。国によりますと、
財政上の大きな
インフレを生じておる国が
相当にありまして、
財政が
原因となって
インフレを生じている国におきましては、これを解決するのに非常に時間がかかりますし、抵抗が多いわけでありますが、
金融面で処理できるということは、ほかの国に比べて、
わが国においては有利な点であろうかと思います。
かように、私は
長期的な
見通しから申しますると、
日本がいま
IMFの八条国になり、また、OECDの完全なメンバーとなりまして、いわゆる
開放経済下に置かれましても、
競争していく力はあると思います。
競争力があるということは、そういう
開放経済下に入ることがむしろ
日本にとって有利な面が多い、不利の面よりも有利な面が多いというふうに判断をしておるわけであります。それは
外国から物が入ってまいりますれば、
日本としてそれによる
影響を受けますけれども、しかし逆に、
世界全体が、もし
自由化の
方向を進めていきますならば、
競争力のある国は、大きなマーケットに対してさらに伸びていく力を持つわけでありますので、そういう
意味で、私は
長期的に見れば、
日本の
国際収支は楽観していいというふうに思うのでございます。ただ、当面の問題をながめてみますと、そこにいろいろ問題があることは事実であります。
御
承知のように、最近の
実情は、
貿易の上におきましては、
輸出が昨年をとってみますと、暦年で見まして約一一%ふえましたのに対して、
輸入が二二%もふえておりまして、その結果、
貿易上の
赤字が出て、その上に
貿易外の
赤字がありまして、これを
長期及び短期の
資本の収入の超過によってまかなっておるというのが
実情であります。
こういう点につきまして、一体どういうことが問題であろうかということを次に考えてみたいと思うのであります。最初に
貿易の
赤字でありますが、そのうちで
輸入がふえたということが、最近で一番の
問題点ですが、これは大まかに申しまして三つの
原因からきているように思うのであります。
その第一は、一時的な
原因とでも申しますか、食糧の
緊急輸入、
砂糖の値上がりとか、運賃が一時的に上がっているというようなこと、そういうような
原因でありまして、これは確かに昨年の
国際収支の上に悪い
影響を与えましたけれども、一時的なものでありますので、また変わり得る要素だと思うのであります。
第二には、これは
日本の
生産の
規模が
拡大し、
成長を遂げた結果、それに伴う
輸入の
増加であります。これは全体の中で、やはり約三分の一くらいはそういう理由だというふうに大まかに申せるかと思うのでありますが、これがもし
行き過ぎでないならば、
経済が
成長している段階においてやむを得ないものだと思います。
生産がふえる場合に、その原料の
輸入がふえることは当然でありますし、これを必ずしも問題視する必要はないと思うのであります。ただ短期的に見た場合に、原材料の
輸入の積み
増しをあまりよけいやるというようなことがあれば、これは確かにそのときに不当に
国際収支を
圧迫すると思いますが、現在のところ多少そういう傾向がありましても、あまり顕著なそういう事情は見受けられないように思うのであります。
第三の
輸入増加の要素は、これは国民の
生活水準の
向上に伴います
消費水準の
向上といいますか、こういうのがその
原因であろうと思います。これは一方におきましては、
自由化の
影響でもありますが、
日本の場合には、ことに長い間、為替制限その他の制限が続いておりました
あとで門戸が開けましたので、
外国品に飛びつくというような傾向も確かにあったと思いますが、
一般的に国民
生活水準が高くなり、いろいろの需要がふえたことに伴う
輸入の
増加というものがあるわけであります。これは確かに問題を含んだ点でありまして、これについて
行き過ぎを是正するような措置はとられなければならないと思うのであります。いまのような
輸入の
増加に対して、それではどういう対策を考えるべきか、これは抽象的でありますが、一つには金融
政策の機動性を持つということが必要だろうと思います。従来のような為替制限、
貿易制限のできましたときにおきましては、国際収入が悪くなったときに、そういう手段に訴えて、これを緊急に是正することができたわけでありますが、
開放経済下においては、こういう措置がとれないわけであります。したがって、その場合に全体の需要に対する調整を行なうのが金融
政策の使命であろうと思うのであります。もちろん
財政政策も大切でありますが、短期的に見た場合には、金融
政策が機動的に動くことが非常に必要であろうと思います。そのためには時期を失せずに措置をとるということが必要なことだと考えるのであります。
第二に、いまの
輸入増加に対する対策として考えられますことは、先ほど申し上げましたように、
日本では、ともしますと、
外国品について非常に、同じいい製品が
国内にありましても、
外国品を好む人があるわでありまして、そういうような
行き過ぎを是正するためには、ある程度の国産愛用という精神を涵養する必要があるように思うのであります。これは私は極端な国産愛用運動ということは好ましいことではないと思います。あらゆる国が、たとえばバイ・
アメリカン、バイ・ブリティッシュというようなことをやりますことは、これはほかの国に
影響を与えることでありますから、
日本の場合には同じような質を持った、またいい製品が安く
国内で手に入るにかかわらず、
外国品に手を出したがるという傾向がありますので、そういう点については是正をしていく必要があるように思うのであります。いまのような
輸入の
増加がある程度続くことはこれはやむを得ないことだと思いますし、また、
経済の
拡大の上において、これなしにやっていくことはできないと思うのでありますが、それを可能ならしめるためには、一方において
輸出を
増加していく必要があるわけであります。先ほど申しましたように、昨、暦年におきまして、約一一%の
輸出がふえたわけであります。これをさらに伸ばすことが必要なことは申すまでもないわけであります。そのための対策といたしまして、第一は申すまでもないことでありますが、
経済外交の強化ということが必要だと思うのであります。私は海外におきまして、いろいろの機会に、国際会議でありますとか、いろいろな国際的な集まりに出た機会がございますが、どうも
日本は現在の国力から考えまして発言力が弱いように思うのであります。いま
日本のGNP総額を見ますと、共産圏については統計がはっきりわかりませんのでこれを除外いたしますと、
アメリカ、ドイツ、イギリス、
フランスに次いで
日本が
経済の
規模としては大きいわけであります。イタリアよりも大きいわけであります。一人当たりにしますと、イタリアよりも下になりますけれども、
経済の
規模全体といたしましては、
世界の中で非常に大きなウエートを持った
経済だと思うのであります。これだけの
経済力を持っておる
日本といたしましては、
世界においてもっと強い発言権を持っていいと思うのでありますが、それがとかく
日本としては、まあほかの国のひそみにならう、あるいは黙って、自分の国の問題になったときだけ発言をするけれども、
世界全体の
経済をどうするかということについて
意見を持ち、またこれを主張し、ほかの国を引っぱっていくだけの力が弱いように思うのであります。そういう点で、これは人材の養成も必要でありましょうし、いろいろの
施策が必要であると思いますが、いずれにいたしましても発言権を強化して、
経済外交を強力に推進することが
輸出増加の根本であろうと思うのであります。また、
経済的に申しますならば、申すまでもないことでありますが、
合理化を一そう促進していくことが必要であります。この
合理化については、
企業の内部の運営の
合理化については、
日本国内でも最近ずいぶんいろいろ議論をされ、また研究されておるのでありますけれども、私は単に
企業の内部だけでなく、社会全体についてむだを排除した合理的な社会をつくることに心がける必要があるのではないかと思うのであります。
外国に生活しておりまして、
日本に帰ってまいりまして非常に感じますことは、非常に無益なことで忙しい国だという感じがいたすのであります。一応たとえば規則がきまっておりましても、あらゆることについて頼みごと、頼まれごとというようなことが非常に多い、こういうようなことはやはり社会全体の大きなむだでありますし、これが結局コストにかかってくると思うのであります。また、
政府の公共投資というような面におきましても、これによってコストを下げるということが可能であります。いままでトラックで三往復できたところが交通が混雑して二往復しかできないということは、これはやはり
日本の
対外競争力の上で
影響するわけであります。公共投資を
民間の
努力の裏打ちとしてさらに強化していく必要があるように思うのであります。
いま
貿易の面について申し上げました。もう一つの
国際収支上の問題は、
貿易外取引の
赤字であります。この
貿易外の取引についての問題は、大まかに分けまして三つあると思いますが、一つは、海運保険その他の
貿易の、いわゆる普通経費の
増加であります。第二は、投資収益と特許料というような種類の対外支払いであります。第三は、海外旅行によるものであります。
この第一の海運保険その他につきましては、もうすでにいろいろの機会に御議論が出ておることであり、私から重ねて申すこともないと思いますが、要するに、船腹の
増強、積み取り比率の
向上というような面を通じて海運収支における
日本の
赤字を減らしていくということが必要であり、これは
努力をすれば、いま直ちにその効果は得られませんけれども、数年のうちに、その効果をあげることは可能であろうと思うのであります。
第二の投資収益と特許料の支払いというようなものが、これが
相当固定的な対外支払いであることは間違いないところでありますけれども、これはある程度やむを得ないところだと思います。これは
日本が、
経済成長をいたしますために、
外国の新しい技術を取り入れて、また、
外国の
資本をある程度取り入れていく場合に必要な経費でありまして、これについては、あまりこれが不利な条件でもって契約をすることは確かに困りますけれども、適当な条件であります限りにおきまして、こういう数字がふえていくことは、一方における
日本の利益を考えますと、それほど心配するには当たらないように思うのであります。
第三の海外旅行でありますが、これは現在まで、
日本人が為替管理のために自由に海外に参れませんために、
自由化によってどっと海外に人が行くのじゃないか。また、従来の例を見ましても、あまり役にも立たないような旅行をする人々が多かったというようなことがいわれておりますが、
日本の観光収支を、収入と支出と両方を考えてみますと、従来、おおまかに申しましてとんとんでありました。しかも、その総額は、
ヨーロッパ諸国の金額から比べるとはるかに小さい。そういうことを考えますと、私は、それほどこれは、神経質に考える必要のない問題だというふうに思っております。
外国と
日本との接触を深めるということは、これは
日本のような違った文化の中で発達をいたしてきまして、いま、
開放経済下で
外国と緊密な関係を持っていかなければならない場合に、あまり、こういうことで神経質に考える必要はないと思います。海外に出た人の中で、あるいは適当でない行動をする人もあるかもしれません。
外貨のむだ使いをする人もあるかもしれませんが、しかし、これはある程度は、そういうことを経て初めて中で効果をあげる人が出てくるわけでありまして、水に入らなければ水泳は覚えられない。水泳の達人が出るためには、多くの人が水に入る必要があるわけでありまして、そういう
意味で、私はあまり窮屈に考えたくない。むしろ、この点で大切なことは、
外国人をもっと
日本に入れるような
努力をすることだと思います。そのためには、豪華なホテルをつくることももちろん悪いことではありませんが、もっと安く
日本に
外国人が来られるようにして、大ぜいの人が来る。たとえば
外国の青少年が三等で、船でやってきて、
日本で気持ちよく観光できるような設備というものが今後必要ではないかと思うのであります。これは
ヨーロッパの観光事業などと比べまして、そういう点を特に強く感じるわけであります。
いま
貿易と
貿易外について申し上げましたが、この
貿易及び
貿易外が現在までのところ、
赤字になっておりますのを、
資本収支の黒字によってカバーしているというのが現状であるわけであります。昨年の
資本収入は、一昨年に比べますと六四%もふえております。非常に黒字が多かった、収入が多かった、こういう
資本収入が一体今後どうなるであろうか、また、どうあるべきであろうということを考えてみたいと思うのであります。先ほど
上枝さんから、
借金するばかりが能ではないというようなお話もございました。確かにそういう面があると思いますけれども、これは私は分けて考える必要があるように思うのであります。
長期の
資本の導入、短期の
資本の導入というものは
相当性質が違うと、
日本の場合に、
日本が
高度成長をしていきます上におきまして、まだ
長期の
資本を入れる必要はあると思いますし、それは必ずしも弊害のないことだと思います。これは私が
世界銀行の
理事をしておりましたときにも、よく問題が出たのでありますが、
日本のような国は、
長期資本を借りましたり、これによって
日本の将来の
外貨獲得能力をふやす力のある国だというふうに考えられておるのでありまして、そういう
意味で、私はこれを無限にやっていいという
意味ではございませんけれども、
長期資本については、なお導入をはかることは、決して
日本にとって不利なことではない。むしろ
成長のためにある程度必要なことだというふうに思うのであります。ところが、この点につきまして、昨年は御
承知のように、
アメリカの利子平衡税が提案をされました結果、いわゆる外債という形で入ってまいります
長期資本が、昨年の半ば以降において急速に減ったわけであります。外債だけをとってみますと、昨年の前半は一億二千百万ドル入りましたのに対して、後半は約半分の六千六百万ドルということになっております。そのかわりと申しますか、一方におきまして、いわゆる借り入れ金が
相当ふえておるわけであります。この借り入れ金も二年とか三年とかいうような借り入れ金は、統計の上では
長期の借り入れの中に入っているようでありますけれども、私はあまり
日本が、たとえば
外国の商業銀行等から借り入れをすることは好ましい方策ではないと思います。これはやはりほとんど短期に近いものでありまして、
国内では商業銀行から金を借りまして、それを三年たてばまたもう一度更新するというふうにして、これを
長期に使っておるケースが非常に多いのでありますが、
外国の場合、そういうことは必ずしも期待できない。三年たった場合に、
日本の将来について多少でも不安を持つところ、あるいは銀行の都合から考えて資金を必要とする場合には、これを打ち切る場合があるわけでありまして、こういうような不安定な
借金をあまりすることは、私好ましくないと思いまして、むしろ
長期の外債その他による資金を獲得することに重点を置くべきだと思うのであります。いまの利子平衡税でありますが、これは私は
アメリカの
政策として間違った
政策だと思っております。これは
日本の
政府もいろいろこのために交渉をしておられるわけでありまして、その
努力は多とするところでありますけれども、先般の共同声明を見ますと、
日本の
国際収支が非常に悪くなった場合には考えてもいいということになっておりますが、
国際収支がそんなに恐くなった場合には、利子平衡税を免除してくれまして本
借金はできないわけであります。これは私は
意味のないことだと思います。また、これは
長期的に見ますと、
アメリカの
国際収支から見ても、必ずしも賢明な方策とは思えません。
アメリカは、対外投資によって一方で元利の償還を受けておるわけでありまして、長い目で見ますと、
アメリカは決してマイナスではないのであります。当面の
国際収支をよくするために、新たに出ていく金を押えればよくなることは確かでありますけれども、長い目で見て、
アメリカの
国際収支のためにも必ずしもいいこととは思えない。その上に、
世界全体が
自由化の
方向に向かって、
資本の移動につきましてもできる限り自由にしようというその大きな
方向に反しておることでありますし、また国によって差別待遇をするというような点も好ましいこととは思えません。しかし、これは
見通しの問題といたしまして、
アメリカの議会を通過するという可能性は
相当あると思います。そういう
状態のもとにおきまして、一体
日本としてどうすべきか。その場合に一つ考えられますことは、
アメリカ以外の欧州において、できるだけ
長期の資金の調達をするということが考えられるわけであります。これは、ことしの初めに私がドイツに参りまして大阪の府市債の募集のお手伝いをいたしました。ドイツにおきましては
外貨が非常にたくさんだまっておりまして、ドイツ
政府の
経済政策としては、こういう
外国からの投資がむしろふえて、非常に
外貨がふえているような
状態は好ましくないと考えておるわけでありまして、むしろ
資本輸出をすることがドイツの
経済政策としては好ましいと考えておるのであります。こういう金を
日本に取り入れることは適当なことだと思います。また、先般
政府がスイスにおいて一千万ドルの借款をいたしましたし、その他
ヨーロッパにおいてドル建ての起債が幾つか行なわれておりますが、こういうことは
長期の借款であり、条件が不当でない限り、私は今後も
努力を続けていくべきだと思います。ただ、考えられますことは、
ヨーロッパの起債市場というのは、
アメリカと違いまして、まだ非常に限られたものでありまして、金額的に見てそれほど大きなものを期待できないように思うのであります。この暦年中に一億から一億五千万ドルも借りられればいいほうでありまして、
アメリカの市場で従来調達していた金を全部
ヨーロッパに振りかえるということは、現状においては望み得ないところであります。
もう一つの
長期資本の調達の問題として考えられますことは、いわゆる直接投資、株に対する投資であります。これはいろいろ問題を含んでおることでありますけれども、これは利子平衡税もかかりませんことでありますし、また、
日本に対してその
成長を買っておる
外国人は、
日本と提携して仕事をしたいという希望は非常にふえてきております。そういう
意味で、
外国から
日本と合弁で仕事をするような提案というものは今後
相当ふえていくと思います。これに対して、一体
日本はどういう態度をとるべきか。もちろんいろいろの風俗、習慣、法制の違います
日本の場合に、たとえば
アメリカとイギリスの会社が合弁して仕事をする場合よりも、非常にむずかしい問題をいろいろ含んでいることは申すまでもないことでありますが、しかし、
外国の
資本が入ってくることをそれほどおそれる必要はないように思うのです。
日本が
相当の
競争力を持ち、また技術を持ち、今日のような発展を遂げております際に、
外国人が来た場合、これを受け入れて共同で仕事をやっていくというようなことについて、それほどこれを制限するような考えを持つ必要はないように思います。いまは
長期資本のことについて申し上げましたが、短期の
資本も
相当昨年中ふえております。たとえば昨年中に一億七千五百万ドル短期
資本の
増加がありました。このうち、たとえば
輸入の
増加に伴います
輸入ユーザンスがふえるというようなことは、これは大勢によって生ずるところでやむを得ないのであります。それ以外にいまのような短期の借りあさりをすることは、私は
日本のため好ましくないことと思うのであります。今般
政府は国際通貨基金から金を借りることにいたしました。これは私はけっこうなことと思います。この前、
日本が
IMFから金を借りますときに、その前に
アメリカの
民間の銀行から金を借りたわけでありますが、私は、そういう措置をとらずに、直ちに
IMFから金を借りることに今回されたことは、非常に適当なことだと思うのであります。第一、そのコストがずっと安くなります。それにそういう国際機関の一定のルールのもとに金を借りるということのほうが、
民間から金を借りるよりか好ましいことであることは申すまでもないところであります。いまの
資本勘定の最後の問題といたしまして、
日本は一方におきまして外資を入れる必要がありますが、同時に、今後は
日本から対外投資をしてほしい、また対外援助をしてほしいという要請が
相当強くなると思うのであります。これは、私はある程度はこれに応じていかざるを得ないというふうに思うのです。たとえば、国際機関に対して
日本がいろいろな出資をしておりますが、そういう金額も今後ふやしてほしいという要求がありましょうし、また、
日本品を海外に売る場合に、これを延べ払いで
輸出してほしいというようなこともありましょうし、さらにもっと積極的な援助をする必要も出てくると思うのであります。ただ私は、
日本は現在、
資本について
外国から
相当の
輸入をしている
状態でありますから、あまり大きな金を対外的に使う力はないと思います。しかし、そうかといって、私は
日本が後進国のため何もできないんだということではないと思います。たとえば
日本の明治維新以来の経験というものは、後進国にとっては非常に魅力のある一つの経験でありまして、これにならいたいという気分が非常に強いわけでありまして、
日本において発達をいたしましたいろいろな技術というようなものを後進国のため役立てるということは、十分できることだと思うのであります。そういう
意味で、技術援助というようなことを中心にして、後進国のために役立つような人を海外に送るということは必要だと思います。たとえば、従来移住ということは、
日本の人口が過剰であるために、海外に頼んで人を引き取ってもらうという考えでありましたけれども、私は、今後の移住というものはそうでなくて、むしろ後進国に役立つような人を海外にどんどん出していくということだと思うのであります。また、これは
日本の
国内にとっても、そういう青年が夢を持って海外に出て行き後進国のために貢献するということは、非常に好ましいことと思うのであります。
いろいろのことを申し上げましたが、
日本の
国際収支につきまして、私は短期的にはいろいろ問題がありますし、これについてなお
努力を要すると思いますが、
長期的には、私は、
日本は十分やっていくだけの実力を持っているというふうに思うわけでございます。
これをもって私の
公述を終わります。
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