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公述人(高松和男君) ただいま御紹介にあずかりました高松でございます。
昭和三十九
年度の
予算案につきまして
意見を述べるようにとのことでございますので、
財政一般につきまして、一学究としての立場から、忌憚のない
意見を述べさしていただきます。
まず第一の点は、
昭和三十九
年度予算案の
規模が、わが国の当面重要な問題となっております物価にどのような
影響を与えるのであろうかという問題でございます。いまさら申し上げるまでもございませんが、
予算の持つ
財政政策的
意味を考えてみましたときに、
予算は、第一に経済構造の全般的な長期的な問題を考えると同時に、また、当面する応急
対策としての短期的な問題、その二つをあわせて考慮した上で編成していかなければならないといわれております。この二つの観点から、国家の経済活動を通じまして国民経済の発展と国民生活の安定をはかっていくところに
予算の
財政政策としての意義があると考えます。
ところで、わが国経済は、高度成長の
影響を受けまして、物価の上昇によりまして
かなり国民生活が圧迫されてきております。
政府の経済の見通しによりますと、
昭和三十九
年度には消費者物価は四・二%上昇するであろうと言われております。しかし、経済専門家の総合的な
意見を考えますと、もう少し高く、少なくとも七%ぐらいは上昇するのではないかと予想されております。したがいまして、このような物価上昇の予想がありまする限りにおきましては、
予算の編成におきまして物価上昇の悪
影響を除去し、
景気対策を十分に盛り込んだ
予算でなければならないということは当然のことであると思います。ところが
昭和三十九
年度の
予算案を見ますと、必ずしもそのような配慮が十分になされているとは思えない節がございます。たとえば
景気刺激の効果が非常に大きい
公共事業費の
伸びが前
年度を
かなり上回っております。また、
財政投融資も三十八
年度当初
予算に対しまして二〇・八%と、異常とも言えるような大きな
伸びを見せております。このような
予算規模の拡大と投資的経費の
増大が、
景気を刺激するであろうと考えることは、決して否定できないと思います。もしも物価の上昇を押えようとするならば、あるいは物価の上昇を現在水準にとどめようとするならば、
財政支出を本
年度と少なくとも同じ
規模程度にするか、あるいはさらに積極的に
財政支出を小さくしていく緊縮
予算が望ましいことは、もちろん言うまでもございません。しかも、経済の
成長率と
予算の
伸び率とを比較してみました場合に、
予算の
伸び率が経済
成長率を上回るということになりますれば、これは大きな問題でございます。このような観点から考えました場合に、三十九
年度予算案は
膨張予算であって、必ずしも物価の安定に効果的に作用しない
予算ではなかろうかと、そういう批判があるのは、当然のことと思います。
このように、
財政の面から物価を押えることができないといたしますれば、結局はこれからの金融政策に、より大きな比重をかけられざるを得ないと思います。本来、
財政政策と金融政策は、ともに同じ目的に向かって働くべき性格のものであります。ところが、一方において
財政政策面で
かなり大きい支出があり、それをカバーするために金融の引き締めを行なうということになりますれば、それはいろいろな面で弊害が出たくると思います。特に企業の側から見ました場合には、やがて資金繰りに困り、倒産、そういう結果になる企業もやがて出てくるのではないか、また、そういう
傾向が金融引き締めによって、
かなり表面化しつつある段階でもございますので、
予算の編成におきましては、このようなわが国の物価のあり方というものを十分に考慮した
景気対策としての
予算、これを十分に考えていかなければならない問題ではないかというふうに考える次第でございます。
次に、
歳入の問題につきまして申し上げます。三十九
年度予算案の全体を見まして感じますことは、新規
財源が二千億
程度しかないのに
歳出が
かなり増加しているということでございます。特にその
中心となっておりますのは、いわゆる当然
増加の経費が非常に多く、
予算全体といたしましては二千五百億円を上回っていることが指摘されております。それをまかなうためには、
一般会計のワクでは不十分でございますので、結局これが
財政投融資へのしわ寄せとなってあらわれていることは、否定できません。
一般会計自身といたしましても、
税収の一部を
地方に譲ったり、あるいは特別会計を新設したりいたしまして、形の上では均衡の姿をとっておりますが、
実質的には自然
増加の経費、あるいは後
年度に
負担がかけられる措置がいろいろとられておりますので、やがて
予算編成が
かなり困難な時期が来るのではないか、少なくとも三十九
年度予算におきましては、もはや身動きのつかない
予算となってしまったのではないか、このような懸念がございます。したがって、この辺で
予算のあり方を、もう一度根本的に考え直す時期に来ているのではないかと考える次第でございます。
歳入面で問題になりますことの
一つは、いわゆる
減税補てん債を新設したことであります。これは言うまでもなく、
住民税減税の補てん策といたしまして、
地方自治体に国庫が元利補給の形で
地方債の発行を認めたものでございますが、これは
実質的に
公債発行の道を開いたものと考えることができます。したがって、やがてこれが
財政難を理由に
公債の発行、すなわち
赤字公債の発行ということにつながってゆくとすれば、これは大いに警戒しなければならない問題であると思います。
それからもう
一つは、いわゆる
自然増収でございますが、経済成長に従いまして税の
伸びがあることは当然でございますが、
自然増収は特に三十九
年度予算におきまして、史上最大といわれるくらいの大きな
規模の
増収が見積もられております。
財政の観点から考えますと、
国民所得が一単位
伸びれば、それに応じて
自然増収の形で税の
伸びが一・五あるといわれております。そういたしますと、経済の成長に見合った租税の徴収すなわち一対一の比率を保つことが、国民の税
負担の均衡という点から望ましいわけであります。そう考えますと、
自然増収のうち、少なくとも一・五のうちの〇・五の部分
——三分の一の部分は、
減税に回すべきであるという主張が出てくるわけであります。三十九
年度予算案におきまして、
自然増収六千八百億円のうち、三分の一に当たります二千三百億円をさらに
減税しまして、国民の税
負担を緩和し、税
負担率を高めない措置をとることが望ましいという
意見が、そこに出てくるわけでございます。
なお、先ほどの
減税補てん債につきましては、
地方財政の見地から、
財源難という強い要望があったことと思いますが、ひとつその問題を解決する場合には、国政と
地方行政との再
配分という問題、特に
地方自治体におきましては、新
産業都市の建設をはじめといたしまして、さまざまな
財政的要求が強くなってきておりますときでございますから、この際、国政と
地方行政の事務の再
配分の問題を、さらに一そう検討し、実施してゆくことによって、
かなり大きな部分の問題が解決できると考えられます。
第三に、税制について、申し上げます。三十九
年度の税制
改正によりまして、
国税、
地方税を合わせまして、平
年度二千百五十三億円という、一応二千億
減税の形が成立いたしました。しかし一方におきましては、揮発油税あるいは
地方道路税の引き上げがございますので、その
増収分を
差し引きますと、
実質減税額は平
年度千八百九十八億円、初
年度千二百十億円となり、二千億
減税は必ずしも看板どおりではないという批判が出ておることは御
承知のとおりでございます。国民にとりまして重要なことは、租税
負担率でございます。すでに指摘されておりますように、
国民所得に対する税
負担率は、明らかに三十九
年度におきましては二一・五%から二二・五%へとはね上がる計算になっております。この税
負担率を横ばいにとどめるだけでも、先ど申し上げましたさらに二千億円
程度の
減税が必要であるといわれておりますように、現在行なわれておりますこの
減税は、決して税
負担の軽減ということよりも、むしろ税金がさらに高くなるのを調整する性格のものであると考えられるものでございます。また、消費者物価の上昇が依然として考えられますので、
所得税につきましては、
減税が行なわれた上でありますが、もし三十九
年度中に名目
所得一〇%上がることによって、いままで課税免除されていた階層の人々が、
かなり課税対象になることが予想されます。いわゆる物価の上昇につれて、大衆課税が三十九
年度はより一そう
強化されるのではないかというおそれがございます。特に国民が健康で文化的な生活を営むためには、少なくとも国民の最低生活費を割る課税は、ぜひとも何とか改善していただきたいと思うものでございます。
なお、租税特別措置について一言申し上げます。
昭和三十九
年度におきましては、国際競争力の
強化を
中心といたしまして、輸出特別償却制度であるとか、あるいは技術輸出
所得控除など、いろいろな特別措置の拡充が行なわれるわけでございますが、こうした
減税政策のほかに、さらに積極的に企業そのものの経営基盤の
強化のための強力な措置を要望したいのであります。現在わが国が当面しておりまする問題といたしましては、国際収支の改善という観点もございますので、輸出を振興して、経済の拡大発展をはかることが急務でございます。そのためには輸出
産業はもちろんのこと、国内
産業の経営基盤の
強化充実が、何よりも先決問題であるといわなければなりません。御
承知のようにわが国の企業は、経営の近代化のために設備投資を強く要求されておりまして、その資金は銀行からの借り入れをもってまかない、その重い金利
負担に悩んでおります。こうした現状を改善するためには、企業にもっと大
規模な減価償却を許し、資本蓄積を促進させるとともに、資本構成の是正をはかっていくことが必要であると思います。租税特別措置が、このような企業の資本蓄積に役立つものでありますれば、その存在理由はりっぱに認められると思います。それに対しまして、そのような政策目的のない特別措置は、租税
負担の公平という観点から、全面的に再検討の上整理することが望ましいと考えます。資本蓄積と申しましても、実はそれは一朝一夕にできるものではございません。したがいまして、租税特別措置に見られますように、短期間の臨時的な措置としてだけではなく、むしろより継続的、より長期的な問題といたしまして、減価償却の拡大と、十分な資本蓄積ができるような制度的措置を講ずることをお願いしたいと思う次第でございます。
第四に、
歳出について申し上げます。
歳出の具体的な問題につきましては、他の
公述人の方からお話があると思いますので、総括的に申し述べたいと思います。
歳出面を通覧して気づきますことは、
歳出の重点が、必ずしも明確でないということであります。これは
歳出の内容が、直接間接に国民の生活に結びついておりますために、異なる立場にある国民から、それぞれ自己の立場に立つ
予算増額が要求せられた結果、調整的な
予算編成とならざるを得なかったという事情によるものと考えられますが、一体、どこに焦点があり、どういう効果をねらって
歳出が編成せられておるかということが、
歳出を考えていく場合に最も重要な問題であると思います。
予算が一カ年の国家の経済活動を
金額的に表現したものであり、いわば国がこれから実施しようとする政策の一覧表としての性質を持つものである限りにおきましては、国家のなすべき経済活動の目標なりあるいは意図なりが、
歳出にはっきりあらわれることが望ましいと考えます。たとえば農業改善事業にいたしましても、どのような問題をどのように処理していけば農業改善ができるであろうか、農業の体質改善ができるであろうか、また選択的拡大が達成できるであろうか、そのような具体的なビジョンが見失われているように考えられます。したがって、ただ
予算さえふやせばいいという問題ではなく、むしろ
予算以前の政策的な方向づけが、一そう大切であると考えます。そのように考えていった場合に、三十九
年度予算案が政策的な裏づけの弱い
予算ではないかと、そのような批判を強く受けるゆえんがあるわけです。
予算の焦点の
一つに、中小企業、農業
対策がございますが、これも融資面の量的な
増大が、その
中心に置かれているように考えられますが、それだけで、はたして中小企業、農業の期待できるような体質改善、成長を果たすことができるであろうかということを考えた場合に、もっと重点的、集中的に
予算の
配分をする余地があるのではないかと考えられます。中小企業の中におきましても、特に従業員九人以下のいわゆる小
規模企業、零細企業が圧倒的に多く、製造業では七一%を占めております。また農業におきましても、二ヘクタール以下の階層が九五%を占めております。漁業におきましても零細沿岸漁家が八九%にのぼっております。これらの人々が新
予算におきまして一体どれほど救われるであろうか。そうした観点が、
予算に十分に盛り込まれていないという点が
一つ指摘できると思います。
もし、そのように国民大衆の福祉向上を実現するという観点が、少なくとも具体的な問題として表現されていないとすれば、結局は国家的な観点からの保障の充実によって、それをカバーしていくしか他に方法はございません。新
予算は、社会保障の
強化に
かなり力を入れているわけでありますが、しかしその内容を見ますと、その水準は必ずしも理想的な水準に達しているとは言い得ないと思います。たとえば生活保護について考えてみますと、その標準世帯であります四人家族を例に、生活保護費はどのくらい引き上げられたかを考えますと、七大都市で一万四千二百八十九円から一万六千百四十七円に引き上げられたとはいいますけれども、これを一人当たりの食費に換算いたしますと、八十六円八十銭に過ぎません。町村ではさらに低く、六十三円四十五銭というみじめさであります。わが国の社会保障制度は、一応制度として整備はされておりますが、その実際運用面は、まだまだ不備であると申しても過言ではありません。したがいまして、
予算の編成におきまして、国民大衆の福祉向上という観点から、さらに一そうの御努力をお願いしたいと存じます。
また、新
予算の最大重点施策と考えられております
公共事業につきましても、全般的に言えることは、
一般的総花的な
増額よりも、むしろ、重点的集中的な
予算配分が強く要望されるところでございます。特に
予算の使途をはっきりさせて、むだな使用を規制するよう、内部牽制制度を十分に確立し、いわゆる官庁機構の合理化、
補助金の再検討を行なって、その投資効果を
増大するよう配慮をお願いしたいと思います。
最後に
予算制度について簡単に申し上げます。
現在の
財政制度の
中心になっておりますのが、
予算制度でございますが、実は、
予算制度そのものにも、いろいろな点で矛盾あるいは欠陥が見出されるところでございます。まず第一に、
予算が非常にわかりにくいということでございます。
予算は、国民経済の発展に伴いまして、
かなり複雑多岐にわたることはやむを得ないと思いますが、国民としての立場から考えてみますと、
予算書を一覧しただけでは、とうていその全貌をつかむことができないといううらみがございます。これはぜひ、国民のだれが見てもわかるような、明瞭な
予算書に改善ができるならば、まことに幸いだと思います。
次に、
予算の執行につきましても、幾つかの問題があります。
予算がまず編成せられましてから、それぞれ各省の局部に
配分されて、実際に
予算が末端に流れるまでに相当時間がかかります。このため
予算執行の時期が狂ってしまったり、また、その
実質的な効果をあげることができないような場合がしばしば見られるところであります。また、
予算の
配分も、少数の上級グループによって独裁的に行なわれたり、あるいはその
予算の執行も、一部のごく少数の人の手に独占的に握られておったり、さらには相当無理な
予算消化が強行されたり、その使い方に、
かなりのむだがあると考えられます。
さらに、現在の
予算制度に対しまして、もっと
決算制度を重視すべきではないか、このように考えます。
予算の持つ
財政的、経済的効果に着目いたしますと、
予算の執行によって、国民経済及び国民生活が、どのような
影響を受けたか、その
予算の効果を審査し、測定し、
財政政策の妥当性を吟味することが重要であります。それを行なうのが
決算制度でありまするから、
決算制度をさらに
強化し、
予算使用の成果を測定、吟味し、次の
予算編成の資料として、それは役立てていくといういき方が望ましいと考えます。これに関連いたしまして、現行の監査制度につきましても、再検討が必要であると思います。会計検査院の
決算報告を拝見いたしますと、三十七
年度の不当事項、不正事項は六百五十一件にも達し、批准
金額はついに二十億円をこえております。その内容は実に広範囲に及んでおりますが、とりわけ例年やかましく言われておりまするほぼ同じタイプの不当、不正行為が、またあらわれているということは、まことに遺憾なことだと思います。特に
補助金の交付と、その使用の乱脈は、今日では
行政上のガンとも言えるほどの大きさとなっております。このような欠陥は、現在の会計検査が、もっぱら
予算執行の結果についての監査であり、いわゆる期末監査であるというところに
一つの原因があると考えられます。
予算執行の効果を高め、不正や誤謬をなくしていくためには、むしろ期中監査にもっと力を入れるべきであると思います。すなわち、従来の監査は、
財政年度が終わってしまってから、その支出が、はたして適法であったかどうかという、いわゆる不正摘発的な監査でありましたが、これを改めまして、
年度内に
予算が効果的に使われつつあるかどうか、それを確かめ、
予算の使い方を指導していく、いわゆる能率監査の方向を
強化することが監査制度の本来のあり方でなければならないと考えるのであります。
以上、非常に大きな問題でございましたが、五つの点を
中心に私の
意見を申し上げました。時間ですので、これで
公述を終わらしていただきます。