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大谷藤之助君 私は、自由民主党を代表して、
昭和三十九年度予算三案に対し、賛成の意を表明せんとするものであります。
申すまでもなく、本年は、わが国がOECD加盟、IMF八条国移行に伴い、名実ともに国際経済社会の有力な一員となる画期的な年であります。かかる
情勢に対処し、
昭和三十九年度においてわが国経済に負わされた課題は、
国際収支の改善と物価の安定をはかりつつ過去数年間の経済成長の基盤の上に経済各分野の質的強化につとめ、もってわが国経済の長期にわたる安定的成長と均衡ある発展の基礎を固めることであります。私は、
政府提出にかかる予算三案が、この課題に十分こたえるものと思うのであります。この予算案に対し、野党の諸君から、あるいは本
委員会の審議を通じ、あるいはただいまの反対討論を通じて、的はずれとも思われるような批判なり、あるいは誤解に基づくと思われるような意見なり、特に誇張的と見られるような意見が行なわれましたことは、まここに遺憾であり、私は、この
機会に、そのおもなるものに対し反論を加えることにより、
政府原案に対する賛成の趣旨をさらに明らかにしたいと思うものであります。
その第一は、
所得倍増計画が物価と格差を倍増し、
国際収支の悪化をもたらし、結局破綻と失敗に終わったという野党諸君の言であります。過去十数年にわたるわが国経済の急速な発展成長ぶりについては、いまさら繰り返すまでもありませんが、特に
所得倍増計画の発足以後の目ざましい成長の成果は、まことに驚くべきものがあると言わざるを得ません。一人当たり
国民所得の増大と
国民生活の向上、所得格差の縮小、完全雇用への接近、産業構造の高度化と産業の国際競争力の強化等の高度成長による著しい進歩の実績は、世界各国によって高く評価されているところであります。
このようなわが国経済の高度成長は、もとより
国民の勤勉と努力の結晶でありますが、
所得倍増計画は
国民の力強い希望と目標を与え、民族の若々しい創造力と活力を十二分に引き出すのに大いにあずかっており、また、わが国経済に拡大と近代化をもたらし、経済社会の発展の推進力としてきわめて大きな役割を果たしつつあるのであります。したがいまして、野党諸君のような議論は、世界が認めているわが国の高度経済成長の実績から故意に目をそらすものであって、すなおに
国民各位とともに
所得倍増計画の意義と成果を認めることが妥当であり至当であると信ずるものであります。
ただ、近年、以上のような急速な成長の
過程を通じて、農業、中小企業等、相対的に立ちおくれた部門の近代化が必要となる等、若干のいわゆるひずみを生じているのを看過することはできません。これらのひずみは、もとより
所得倍増計画の全体としてのたてまえなり、その光を打ち消すものではなく、当然直面し、
解決しなければならぬ課題が早目に顕在化して、その
解決を促しているのにすぎないのであります。これらのひずみをすみやかに解消し、
所得倍増計画の基本線に沿って高度安定成長をはかり、高度福祉国家の建設を一日も早く達成したい。また達成することは十分可能であると考えておる次第であります。
第二は、物価政策が完全に失敗し、物価倍増をもたらしたという攻撃であります。もちろん、わが国経済が高度の成長を遂げた反面、卸売り物価の安定にもかかわらず、
消費者物価がひとり上昇基調を示してきたことはゆるがせにできない問題であります。このため、
政府において、三十九年度中に安定基調を回復することを目途に、公共料金の値上げ抑制、財政金融政策の適切な運用、農業、中小企業、サービス業の近代化、流通機構の改善、公正な価格決定を阻害する要因の排除、輸入政策の弾力的な運用、供給不足物資の増産等あらゆる施策を結集してまいり、また今後も実施していくとしておる点に、特に賛意を表するものであります。
しかして、最近の
消費者物価の動向を見ますと、三十八年四月以降落ちついた動きとなっており、おおむね安定基調が確保されておると見ることができるのであります。すなわち、全都市で三十九年二月の対前年同月比は三・三%の上昇にとどまっており、特に三十八年度中の推移は四月の一二〇・二に対し、三十九年二月の実績は一二二・三と、この間わずかに一・七%の上昇にすぎず、物価安定は早目に効を奏しつつあると言えるのであります。これは
政府の強力な
消費者物価対策のたまものであることは申すまでもないところであって、私どもまことに御同慶にたえないところであります。
もとより、物価水準を長期にわたって安定させていくためには、今後においても適切な物価対策を推進していくことが必要であることは、論を待ちません。
政府が今後さらに物価安定のための施策を強力に実行することを期待するものでありますが、この際特に一言しておかなければならないのは、せっかく安定しつつある物価の基調を破壊せんとする動きであります。すなわち、春季闘争においては全国画一的な賃金引き上げをねらい、スケジュール闘争を予定しているようでありますが、生産性向上以上の賃金の引き上げが長期にわたって継続するならば、
消費者物価の上昇、さらにそれを理由とする賃金引き上げが行なわれ、結局いわゆる賃金
——物価の悪循環が招来されることは自明の理であります。そのような賃金
——物価の悪循環は、実質的な所得の向上を阻害するのみならず、さらに賃金コストの上昇から卸売物価の上昇を招き、国際競争力に悪影響を及ぼし、
国際収支の悪化をもたらすことにもなると考えられるのであります。開放体制への移行を控え、わが国経済の当面の最大の緊急課題である物価の安定と
国際収支の均衡回復を妨げるような不合理な賃上げ要求には、
国民経済的見地に立った十分な反省が必要であると信ずるものであります。
その第三は、
政府が
国際収支の見通しを甘く見過ぎて誤っていたといういわれなき批判であります。
国際収支の均衡は、開放体制下にあって最も重要な課題であり、これについていたずらな楽観が許されないことは申すまでもありませんが、さりとて悲観にのみ走って現下の
情勢について危機感をあおり立てるがごとき所論もまた断じて許されないものであります。
最近の
国際収支の推移を見ますと、輸出はわが国産業の国際競争力強化等により順調な伸びをしているのでありますが、輸入が、国際商品価格の高騰等一時的要因のほかに、生産の大幅な上昇から、顕著な増加を見せ、貿易外収支の赤字幅の拡大と相まって、経常収支はかなりの逆調を呈するに至ったのでありますが、この間総合収支は資本収支の黒字によって均衡を維持してまいりました。当面の
国際収支の対策といたしましては、貿易収支の均衡回復と貿易外収支の赤字基調是正が基本的に肝要であることは当然であります。今後、国際競争力の強化等により輸出の振興を強力に推進するとともに、外航船腹の増強、観光事業の振興等長期的視野に立った貿易外収支の改善を積極的にはかるならば、
国際収支の均衡を逐次実現されるものと確信いたすものであります。
なお、先ごろ行なわれた日銀公定歩合の引き上げは、開放体制への移行に際して、わが国経済の調整をはかり、
国際収支の基調を強固ならしめ、戦後初めて国際通貨としての交換性を持つ
日本円の国際的価値を確保するとともに、経済の一そう堅実な発展を期するために行なわれたものであって、まことに時宜を得た措置であると考えます。
その第四は、三十九年度予算及び財政投融資計画が大型予算、積極財政であって、現下のきびしい経済
情勢に対する配慮が欠けておるという誤れる非難であります。
三十九年度
一般会計予算は、御案内のように、三兆二千五百五十四億円であって、前年度当初予算に対し四千五十四億円、一四・二%の増となっておりますが、これは、三十六年度の二四・四%、三十七年度の二四・三%をはるかに下回っていることはもちろん、前三十八年度の一七・四%をもかなり下回っているのでありまして、これが景気に対して刺激的であるとはとうてい考えられないのであります。
また、これを
国民総生産との関連において見ますと、三十九年度の
国民総生産の見込み額は二十四兆七百億円でありまして、三十八年度当初見込みの二十兆三千九百億円に比し一八%の伸びを示しておりますが、
一般会計予算の伸び率一四・二%はこれを相当下回っておるわけであります。
一般会計予算の伸びが
国民総生産の伸びを下回るということは、
昭和三十五年度以来のことでありまして、この点から見ても、三十九年度予算は積極予算どころか、むしろ引き締まりぎみの予算と言うべきものであります。
財政投融資計画一兆三千四百二億円も、当年度に見込まれる原資をもって運用計画を立てており、また、その対前年度増加率二〇・八%は、三十八年度の二二・六%を下回るものでありまして、
一般会計予算と同じく、健全性が維持されており、景気に対して刺激的であるとは認めがたいのであります。
その第五は、租税の自然増収に比較して減税額が少な過ぎるとか、あるいは租税負担率が前年度より高くなったから実質的には増税になっておるという野党諸君の
主張であります。
わが党は、昨年行なわれました総選挙におきまして、二千億円にのぼる画期的な大幅減税を唱えましたが、
政府においては三十九年度予算におきましてこの公約を実現した次第であります。この減税額が、歳入総予算額の前年度に対する増加財源中に占める比率で見ますと一七・一%に当たり、
昭和三十二年度以降最大の比率を示しており、この点からもこの減税が大幅な減税であることは明瞭であります。
また、
国民所得に対する租税負担率は、
国民の租税負担の
程度をはかる
一つの尺度ではありますが、租税負担の軽重は、
国民一人当たり所得水準、財政支出を通じて
国民に還元される公共サービスとの関連など、広
範囲にわたる視野において総合的に判断すべきものであります。開放体制への移行を控えて、旺盛なる財政需要の中で、
政府がかかる大幅な減税を断行した英断こそ、称賛されるべきものでありまして、その結果においてもなお租税負担率に若干の増加が示されたことをもって増税と称することが当を得ないことは、過ぐる衆議院の審議段階において社会党より
提出された組みかえ動議にかかる予算案においては、租税負担率が
政府案よりもさらに上回っていることを見ても、明らかであります。
最後に、
政府が重点施策として取り上げた農業、中小企業の近代化施策について、内容が乏しく、一向に革新的ではないという批判に対し、反論を加えたいと存じます。
まず、
農林漁業に対する施策について見ますと、御
承知のように、三十八年産米の生産者価格の大幅な引き上げ等により、三十九年度においては、
一般会計から食糧管理勘定への繰り入れが巨額にのぼりますため、他の諸施策に向け得べき財源の捻出は困難な
事情にありましたにもかかわらず、
農林漁業の近代化を推進することは広く
国民経済の均衡ある発展をはかるためにも緊要であるとの観点から、物に重点が置かれているのでありまして、
農林関係予算としては、三十八年度当初予算を実に三二・八%も上回る総額三千三百六十億円を計上されているのであります。しかして、施策が革新的であるかどうかは、
一般会計予算に計上された経費のワクだけで判断すべきものではありません。ワクよりも、むしろその経費配分の重点がどこに置かれるかということを、財政投融費等を含めた総体について、内容に即しつつ考察すベきであります。すなわち、
一般会計予算については、農業基盤整備事業と農業構造改善事業を中核とする近代化事業の強力な推進が期待されるのでありますが、さらにこれを金融面からバック・アップするため、
農林漁業金融公庫の新規貸し付け計画額の大幅な拡充、金利等融資条件の簡素合理化、農業近代化資金及び無利子の農業改良資金の融資ワクの大幅な拡大等、革新的な措置が講ぜられることとなっておるのであります。
次に、中小企業対策費といたしましては、百六十六億円が計上されております。これは、三十八年度予算額に対し、三九・八%の増加に相当いたします。
その内容を見まするに、中小企業高度化資金融通特別会計への繰り入れ額の倍増をはじめ、中小企業近代化のための経費が大幅に増額されておりまして、中小企業の集団化、協業化等、近代化のための諸施策の充実がはかられております。
中小企業対策といたしましては、ただいま申し述べました
一般会計予算もさることながら、財政投融資計画及び減税におきましてより一そう深い配慮が払われているのであります。すなわち、まず財政投融資計画におきましては、中小企業金融公庫等の三機関の貸し付け額を大幅に拡充するほか、新たに中小企業金融公庫につき債券発行による資金調達の方途が講ぜられ、また商工組合中央金庫については、貸し出し金利引き下げの措置が講ぜられることと相なっております。
次に、税制面におきましては、中小企業者に対し平年度六百億円をこえる減税が行なわれることとなっておりまして、これら歳出予算、財政投融資計画並びに税制各面での諸施策により、中小企業の近代化は画期的な総合的展開を期待し得るものと信ずるのであります。
なお、今回の日銀公定歩合の引き上げに関連して、これら引き締め措置のしわが中小企業に寄せられることを未然に防止するため、中小企業金融について敏速にして手厚い措置がとられることになりましたのは、まことに時宜を得た英断でありまして、
政府の決意に特に賛意を表するものであります。
このほか、社会保障の充実、住宅・生活環境施設の整備、文教の刷新、輸出の振興、社会資本の整備強化、地方財政の確立等の各種の重要施策につきましても、
昭和三十九年度の予算及び財政投融資を通じて周到な配慮が払われていることを認めるものでありますが、この際、特に触れている余裕がありませんので、省略させていただきます。ただ、このように種々の旺盛な財政需要を、大幅減税と並行させつつ、対前年度比一四・二%増の予算規模の中に適切に盛り込み、健全均衡財政の
方針を堅持した
政府の努力と熱意に対し、あらためて敬意を表するものであります。
しかしながら、本年の経済環境は、内外ともに微妙な動きを示すとも考えられますので、今後の財政執行にあたっては、適切にして機敏な金融政策と相まって、よく時宜に適した弾力的な運営が行なわれ、本予算案に包含されている各種の政策効果が十二分に発揮されますことを心から期待して、私の賛成討論を終わります。
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