○基政七君 私は、民社党を代表いたしまして、ただいま提案になりました
厚生年金保険法の一部を
改正する
法律案について
質問をいたすものであります。
国民の
老後生活に対する
保障としての
年金制度は、
昭和三十六年より
国民皆
年金となりましたが、
各種公的年金制度は、依然としてその
支給内容や
要件がばらばらのまま乱立しており、その
水準もきわめて低いまま放置されているのであります。こうした中にあって、いま
老後保障の中核である
厚生年金保険法の抜本的
改正が行なわれることは、今後のわが国の
社会保障制度の
水準とその方向を指示するものであり、きわめて重要な問題を含んでいると言わねばなりません。この意味において、私はまず
改正の時期と
年金額の関連についてお伺いいたしたいのであります。
政府は、今回の
改正について、本年が
保険料率再
計算の時期でもあるから、この
機会に二十九年以来の大幅
改正をはかることが適当であると
説明されているが、まさにそのとおりであると思います。しかし、同時に、
年金は、その性格にかんがみ、いま直ちに実効を発するというよりも、将来にわたる
年金の
支給に、より大きなウエートがあるわけであります。したがって、
年金額については、今日の経済的、社会的諸条件を勘案するのみならず、今後の見通しについても十二分の配慮を必要とするわけでありますが、御
承知のように、最近は物価は高騰を続け、
国民生活はきわめて不安定であり、今日の百円はあすの百円として通用しがたい状態にあるわけであります。こうした中にあって将来の
国民生活の基準を定めるという場合、
政府原案の
年金額は、はなはだ低きに失すると言わねばなりません。この点について
総理はどのようにお考えになりますか、お伺いいたしたいのであります。
第二点は、
年金額に関する技術的な面についてであります。
政府は一万円
年金を公言しておりますが、原案によりますれば、一万円
年金を受給するためには、
平均標準報酬月額が二万五千円であることが必要であります。しかるに、
昭和十九年以来今日まで二十年間の
標準報酬月額の最高の報酬額を例にとったといたしましても、
平均標準報酬月額は二万円に満たないのであります。これが平均二万五千円の
水準に達するまでには、非常な長時日を要します。したがいまして、一万円
年金を受けることは、今日の段階では法律上の空文であって、ほとんどの被
保険者にとっておよそ不可能なことであると言わねばなりません。一万円
年金が額面どおり通用するのは、今日現在
支給されるときにおいて初めて言えるのであって、十年先、十五年先においては、およそナンセンスと言わねばなりません。したがって、一万円
年金を額面どおり
保障するためには、
年金額算出方法の合理的な設定とともに、経済
情勢や
国民所得の伸びに対応する
スライド制を確立することが絶対に必要な
要件であると思いますが、
政府案はその点についてはなはだあいまいであります。
政府は
年金額の算出方法と
スライド制についてどう考えておられるか、お伺いしたいのであります。
また、一万円
年金を
政府が公に宣伝する以上、本年
支給される受給権者にも、これまでの
保険料、
標準報酬のいかんを問わず一万円
年金を
支給する考えがあるのかどうかお伺いいたしたいのであります。
次は、今後の経済
情勢の変化に対応させながら
年金制度をどう維持していくかという問題についてであります。十五年、あるいは二十年、三十年の長期にわたる被
保険者期間において、特に底の浅いわが国経済においては、インフレ等の事態も予想しなければなりません。
政府はこの対応策としてどのように考えておられるか、お聞かせ願いたいのであります。私たちが
年金制度の確立をこいねがうゆえんは、急増する老齢人口の中にあって、一人一人の老人が安心して
老後の
生活を営むことができる
年金額を
支給されるということであります。このためには、
保険料負担の増額もある程度はやむを得ないことでありましょうが、
修正積み立て方式をとっている
政府案のもとで、膨大な
積み立て金をかかえていても、一たん経済
変動の嵐に直面すれば、
積み立て金をもって所要の
年金原資をまかなうことは、とうていできない相談であると言わねばなりません。したがって、この際、
修正積み立て方式に固執することは、
保険料の
負担と
給付額とをアンバランスにする危険をはらんでおりますし、それをもとにした
保険料の
計算をもってしては、今日手にする
年金に比していたずらに
保険料が高率となり、
国民の納得を得がたいわけであります。このような点について、
政府はどんな対応策をお考えになっておるのか、明らかにしていただきたいのであります。また、修正賦課
方式を採用する考えはないのか、
政府の
見解をお伺いいたしたいのであります。
第四点としては、女子の
脱退手当金についてであります。女子の被
保険者については、現在の
厚生年金法では、資格
期間、開始年齢、
保険料等、いろいろその条件が男子よりも優遇されているかに見えるのでありますが、被
保険者の
期間がきわめて短いという女子
労働者にとっては、
現行制度の優遇措置は空文にひとしくなっているのであります。
年金は五十五歳あるいは六十歳にならなければ
支給されないのでありますが、五十五歳まで勤務するという女子
労働者はきわめて少ないし、
保険料を低額にしたからといっても、それは永年勤務して初めて効果が出るということであります。被
保険者の
期間が短
期間である
一般女子
労働者には通用しないものであると言わねばなりません。もちろん、
国民皆
年金制度で厚年の被
保険者期間が通算されることにはなるのでありますが、二十年あるいは三十数年の被
保険者期間の中で、わずか二、三年の
厚生年金の
保険料がどれだけ
老後の
保障額として生かされるかは、きわめて疑問であると言わねばなりません。特に、女子
労働者の厚年からの
脱退は、その多くが結婚という不可避の理由によるものであります。いかに皆
年金といっても、現在の
国民年金法では、妻としての
年金加入は任意
制度になっているのでありまするから、
年金の適用を受けない者も数多くいるわけであります。こうした女子
労働者の実情を見るときに、現在の
厚生年金制度では何ら救われていないのであります。したがって、もう少し実態に即した
年金制度をつくる必要があります。それは、女子
労働者に対する
脱退手当金
制度を適切に定めることであります。
国民年金にも一時金の
支給が認められているのでありまするが、
厚生年金についても、実情に即した女子
脱退一時金
制度を設け、希望者に対してこれを
支給すべきであると思いますが、
政府の所信をお伺いいたしたいのであります。
最後に、
企業年金との
調整についてお尋ねいたします。
今回の
改正案の
中心の一つは、
企業年金との
調整にあると言われているのであります。これは
厚生年金の一部を
企業年金に肩がわりさせ、これを退職一時金
制度等と関連させようというところに問題があるようでありますが、
厚生年金は
公的年金であり、
企業年金は私的
年金であります。両者の混合は、
厚生年金、いわゆる公的
年金制度の基本に触れる問題であって、単に
労使のいずれが損か得かの問題ではありません。この意味において、
社会保険審議会における
労働者側の
答申は、「
調整年金に関しては、厚年法の
制度の基本に触れる問題であって、今後さらに慎重に検討することとする」と言っているのであります。これはまことに当を得たものと言わねばなりません。
企業年金との
調整問題は、本
法案にも
規定しているように、
労働者側の
承認がなければ
調整を行なうことができないことになっているのでありまするが、いま申しましたように、当の
労働者を代表する組合は、全部が
一致して、今後さらに慎重に検討することという態度をとっているのであります。
政府は、このような
情勢の中において、なぜ、こういう重大な問題を検討不十分のまま急がねばならないのか、お伺いいたしたいのであります。公的
年金制度において、その一部であろうと、使用者の
承認を受けなければならないとか、あるいは
労働者の
承認を得なければならないとか、複雑な手続を設けてまで、私的
年金に肩がわりさせねばならない理由と
政府の腹づもりは、一体どこにあるのか。しかも、それが今回の本
改正案の一番大きな問題点とされているところに、まことに奇怪なものを感ずるのであります。この点について、
政府の偽りない所信をお聞かせ願いたい。
公的
年金制度は、わが国の今後の
社会保障の中核であります。医療
保険等と異なり、長期
保障制度でありまして、短期にたびたび
改正を伴うものではありません。したがって、その
基本方針と
制度は、大地にしっかりと根をおろしたものでなければなりません。特に急増する老齢人口と急激な老齢化現象は、国際
水準以上のりっぱな
年金制度を必要としているのであります。今回の
改正は、わが国
年金制度の基準を示すものとして、実に大きな意義を有するものと思うのでありますが、この際、
改正実施される新厚年法を軸として、各種
年金制度の
総合調整はすみやかに行なわれなければならないと思うのでありますが、
政府の
改正案に示された
内容には多くの疑問がありまするので、以上、どのように考えておられるか
政府の所信をお伺いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕