○安田敏雄君 私は
日本社会党を代表して、おもに
政府提出の
林業基本法案に対して
質問を申し上げます。
昭和三十五年に林業の基本
対策が答申せられてから、すでに足かけ五年の長きを費やし、今日ようやく基
本法案が国会へ提出されたとは申せ、この間、林業をめぐる諸条件は急速に変化していることは、周知のとおりであります。
政府はこれに対し、鋭意、基本
対策と具体的方策を講ずべきであったにもかかわらず、怠慢というか意識的と言おうか、今日まで放置していた態度は、まことに遺憾なことであります。しかも池田
内閣の大資本本位の
高度経済成長政策は、林業において紙パルプ資本や大山林地主等の
利益を野放しにしたままに、零細な林業従事者や山村農民にとっては、純朴な環境は俗化された上、低
所得と高
物価で、その生活はますます苦しく、忍び難いものになっております。まさに、見たら見流し、聞いたら聞き流しをしてきた
政府の政治的責任を占わなければなりません。あえてその反省を促すものであります。
質問の第一は、
土地の
利用区分についてであります。わが国の林野面積は約二千五百万ヘクタールで、国土総面積の六七%を占め、また農耕地面積は約六百十万ヘクタールで、国土総面積の一六%を占めております。この林野の中には、農
用地として開発
利用の可能な適地が数百万ヘクタールも含まれておりますことは、農林省の調査によって示すでに明らかにされております。また、その逆に、農耕地の中には、もともと農業
利用に適せず、山林として
利用したほうが適当なものもあります。そこで、いまや必要なことは、全国土を科学的に調査し、農業に、あるいはまた林業に、それぞれ適する
土地の
利用区分を定めることが、国土高度
利用の出発点であると私は確信するのであります。
政府は、さきに農業基
本法を制定し、いままた林業についても基
本法を制定するにあたり、全国土の調査と
土地利用区分の画定を断行すべき時期であると考えますが、
総理にその意思があるのかどうか、
見解をお伺いいたします。
また、それに伴い、各地の大山林地主は、
土地台帳に記載登録せられた面積よりも、実際には、はるかに大きい面積の山林を保有しているという隠し財産の実態が見られるのでありますが、これにつきましても、調査によってその実態を明らかにいたさねばなりません。徴税の面からいたしましても、行政
措置として当然なことでありますが、
総理の御
見解をお尋ね申し上げます。これは
大蔵大臣でしたが、おりませんから……。
質問の第二は、林業政策の前提として、森林というものの機能をどう見るかという問題であります。森林には、一つは、国土を保全して災害を防止し、水源を涵養し、
国民の保健や福祉を増進するという公益的機能があります。もう一つは、
産業としての林業生産力を高め、木材等の林魔物を安定的に供給し、あわせて林業従事者の
所得と生活を向上せしめ、もって
国民経済に貢献するという経済的機能であります。この二つの機能は、その一つでも欠けるときは、国の林政は乱れ、正しい国土開発と国土
利用は達成されないことになるのであります。
昭和三十年以降、いわゆる
日本経済の高度成長が進むにつれて、紙パルプ原料として、
建設資材として、木材の
需要が急増するに従い、
政府の林政の
方向は森林の代採を強化する
方向へ著しく傾斜してきております。すなわち、第三次池田
内閣の河野
農林大臣が、
昭和三十六年八月に、国有林、民有林を通ずる増伐
計画を打ち出したこと。
昭和三十七年の森林法
改正によって森林伐採の許可制が届け出制に変わったことなどが、その具体的なあらわれであります。もしこのままに進むならば、森林の経済的機能だけが重視され、公益的機能がきわめて軽視されるおそれがあります。
政府案の第一条、第二条、第三条を見ても、森林の公益的機能が軽視されているとの印象を禁じ得ないのでありますが、森林の機能について、どのような基本的な認識を持っておられるのか、
総理の
見解をお尋ね申し上げます。
第三は、国有林野のあり方についてであります。膨大な組織
機構と巨額の資金を持つ国有林は、林野面積ではわが国の山林の約三分の一、森林の蓄積では約二分の一を有しておりますが、最近、保安林を除いて国有林を地元へ解放せよという運動が激しく行なわれ、しかも自民党の国
会議員がその先頭に立ち、国有林を未墾地並みに安く
取得でき得るよう、議員立法で今国会へ提出すると伝えられております。もしこの運動にまかせて安易に解放が行なわれるならば、民主化のいまだ不十分の山村地帯の
状況では、それは、何ら地元農林業者の
利益や山村の近代化に資することなく、一部の利権的の食いものにされてしまうのではないかと憂慮されるばかりでなく、国有林の任務そのものが果たし得なくなるでありましょう。私は、国有林野のうち、地元の
産業経済の発展のために
利用すべき適地は、これを地元農林業者の民主的共同組織に対して解放し、もしくは
利用権を設定させることを主張するものであります。その反面、現在の民有林のうち、国で所有し経営するのが必要かつ適当と認められるものは、これを国が買収して、国有林に組み込むことが必要であると考えるものであります。
政府の基
本法案には、国有林を民間に払い下げるようにはなっておりますが、その逆に、民有林を国有林に組み込むことに対してどう考え、対処するのか、
総理の所見をお伺いする次第であります。
また、現在、国有林は、国の林政の推進役としての公共的
役割りを果たしながら、同時に、特別会計としての
企業性をも追求しなければならぬ
立場に置かれております。
公共性と
企業性の
関係がきわめてあいまいであります。むしろ、
公共性の名のもとに、保安林その他、林政協力費を、国有林特別会計の収益から
一般会計へ拠出することが要請されており、
企業的にはその収益をあげねばならぬという至上命令から、木材市場
価格の変動に応じて、立木処分や伐採
計画がそのつど主義で操作され、また、
合理化のしわが国有林労働者へ寄せられております。これが国有林経営の現在の姿であります。このような
状態を根本的に改め、また、複雑な国有林特別会計の経理を明らかにするために、私は国有林特別会計は、
企業的業務の勘定と行政的業務の勘定を区分して、それぞれの経理を明らかにし、そうして、行政的業務の勘定においては、その必要経費を
一般会計から繰り入れ、
企業的業務の勘定においては、その収益を再び国有林の森林資源の培養に還元していくべきであると考えるものであります。
政府の基
本法案には、こうした国有林特別会計の問題に触れられておりませんが、一体、この問題を
政府はどう考えるのか。
大蔵大臣がおりませんから、
農林大臣でも、
総理大臣でもけっこうでございますので、お答えを願いたいと思います。
質問の第四は、林業構造改善の問題であります。
政府案の十一条、十四条には、小
規模林業経営の
規模を拡大し、林業構造の改善を進めるとの考えが示されておりますが、まさに小
規模林業経営の分解促進政策にほかなりません。
政府案には、「林地の
取得の円滑化」ということばがありますが、一体だれのための林地をだれが
取得するのか、
農林大臣の御
説明を求めます。
また、入会権にかかる林野についての権利
関係の近代化を進めると言っておりますが、入会権があるのかないのかという紛争が各地で見られ、たとえば岩手県の小繋事件、山梨県北富士の恩賜林問題のように、世間の注目を集めております。そこで、私は、入会権の近代化という以前に、入会権の有無をめぐって争われている山林についての
関係農林業者の権利をどのような
基準に基づいて確定する方針なのか、
農林大臣の明確な所見を承りたいのであります。
また、
関係農林業者の入会権の存在が確立している山林について、その権利
関係を近代化するという場合、どのような
手続で行なうのか。また、近代化された権利
関係を小
規模林業経営の
規模拡大のためにどのようにしようとするのか。これらに関する入会権
整備特別措置法案が用意されているということを聞くが、いつごろ国会へ提出されるのか。あわせて、
農林大臣の御答弁を承りたいのであります。
私の判断では、
政府の基
本法案に示されている林業構造の改善の政策は、明らかに、小
規模の山林所有者をして山林を売却させて、この山林を一定水準以上の
規模を持つ林業者に
取得させ、大
規模もしくは中
規模の林業者を育成しようとする、まさに小
規模林業者の首切り政策と受け取られるのであります。そこで、こうした中
規模以上の林業者を育成する場合、
政府は家族労働による家族経営的林業の育成を目ざすのか。それとも、雇用労働による
企業経営的林業の育成を目ざすのか。基本目標として、どちらであるのか。さきに
昭和三十五年の「林業の基本問題と基本
対策」の答申案の中では、家族経営的林業の育成が答申の中心思想となっていたのでありますが、このたびの基
本法案においては、家族経営的林業ということばすら示されていないのはどうしたことか、
農林大臣の御
説明を承りたいのであります。
次に、
政府案が林業構造改善を進めて、林業経営の
規模を拡大しようとするにあたり、零細山林所有者の山林を取り上げることばかり考えて、大山林地主が独占して遊ばせている山林を
利用することに全く触れていないのは、まことに不合理と言わざるを得ないのであります。国土の高度
利用という
立場に立つならば、当然、私有大山林地主の山林にメスを加えるべきであると判断するものであります。正しい農林業の構造改善や山林の開発のためには、国有林、民有林の区別なく、有効
利用をはかるべきであると思いますが、
農林大臣の明確な方針をお示し願いたいと思います。
なお、林業構造改善について、わが党は、基本方針として、林業経営の零細性を打ち破るには、零細経営の分解促進の道でなく、経営の共同化を援助促進し、共同経営によって経営としての単位
規模を拡大しながら、しかも個々の零細山林所有者が共同経営のワクの中で自分の生きる道を与えられ、そして
所得も生産性も高められるという方法、これこそが真の正しい構造改善であると確信いたすものであります。
政府はこうした共同経営の方法を導入される考えはないのかどうか。
政府案の第十二条の協業の助長というようなごまかしでなく、本格的な経営兵同化への道についての
農林大臣の明確なる
見解をお示し願いたいのであります。
質問の第五は、木材
価格と林業のあり方についてであります。
この数年来、建築用材としての外材の輸入は、
昭和三十三年度四百万立方メートルから、三十七年度には一千百万立方メートルと、三倍近くも増加し、国内
需要量の五千五百万立方メートルの二割に達しております。これは需給上の
関係もありますが、外材が、運賃、関税等諸費を含めても内材に比して格安であるからであります。今後、開放経済の進行の中では、関税の一括引き下げ等により外材は、さらに格安となることは明らかであります。したがって、内材がこれと競合する場合、その
価格はますます安くならざるを得ないのであります。また一面において、従来低過ぎた林業
関係運賃は、どうしても高めなければならないとき、林業にもたらす打撃は深刻なものとなります。おそらく中小製材業者の多くは倒産に瀕するという場合もあり得るでしょう。一体、
政府はこれらの問題に対して、林業のあり方というか、基本方策をどういうように位置づけていくのか、
農林大臣の答弁を求める次第であります。
質問の第六は、林業従事者の福祉向上の問題であります。製材工も含めて林業労働者は、その雇用
関係が不安定で、労働のきびしいわりに賃金が低く、また、
社会保障
制度の
適用もきわめて立ちおくれております。まだ、山村僻地の住民は、
交通、通信、教育、文化等の諸条件は、全く不利な環境の中で生活することを余儀なくされております。場所によっては、電力の高圧送電線が通っていても、自分たちの使う電灯さえ導入されていない所もあります。かかる環境から、いまや山村では挙家離村が増加しているという実態であります。いやしくも同じ
法律や
制度のもとに置かれている同じ
国民が、
産業、地域の格差によって、このような不
利益の
状態のままで放置されてよいのでしょうか。まさに歴代保守党
政府の政治の貧困と言わなければなりません。したがって、
政府が林業基
本法の制定をしようとするならば、まず林業労働者や山村僻地の住民の生活水準を飛躍的に引き上げるということこそ、政策の第一目標でなければならないのであります。ところが、
政府案の第十八条の規定は、あまりにも簡単で抽象的であるという不安を感ぜざるを得ないのであります。また、
政府案には山村僻地の生活環境の改善を進めるという規定がないのはどうしたことか、以上について
農林大臣の所見を承りたいのであります。
私ども
社会党は、国有林労働者の雇用安定法案を今国会に提出することになっております。それによって国有林労働者の雇用条件を改善し、その
所得水準を引き上げ、さらには、国有林労働者の水準を他の民間林業
関係の労働者にも及ぼそうとする考えであります。