○大河原一次君 私は、社会党を代表いたしまして、ただいま
農林大臣より
趣旨説明のありました
漁業災害補償法案に対し、池田
総理並びに
関係各大臣に若干の
質問をいたしたいと思います。
わが国の沿岸漁業は、年とともに行き詰まり、漁民の
生活はそれに伴って窮迫の度を加えている現状であります。
政府は、口を開けば、
日本は世界第一の水産国であり、あるいは
日本漁業の
生産性は世界有数であるなどと強調されております。しかし、その反面、沿岸漁業等がいかにみじめな地位に追い込まれているか、いかに低い
生産性のもとにあえいでいるかは、さきに
政府が報告されました漁業年次報告によっても明らかであります。これは、歴代
政府が大
資本漁業偏重におちいり、沿岸漁業等を軽視し来たった当然の結果であると言わなければなりません。
総理は、最近中小企業や農林漁業に対しては革命的な施策を講ずる旨をしばしば強調されているようであります。また、自由民主党も、昨年の衆議院の選挙にあたりまして、
漁業災害補償法案の提出を公約しております。ところが、ただいま赤城
農林大臣が提案理由を説明された法案の中には、名称こそ
補償法案となっておりまするが、実質は、あとで申し上げるように、単なる共済法案にすぎず、災害補償法としての実体を何ら持っていないということであります。
そこで、池田
総理並びに赤城
農林大臣にお
伺いいたしますが、一体、
政府は、沿岸漁業の今日の窮状と、そのよって来たった
原因を、どのように認識されているかということでございます。また、
政府の水産
政策に社会
政策的な要素を加味しなくても、沿岸漁業等の振興は可能だとの確信を持っておられるかどうか。確信しておられるとするならば、その根拠について率直にお聞かせ願いたいと思うのであります。
次に、法案の内容に即して若干の御
質問を申し上げます。
第一点は、単に相互共済
制度を規定したにすぎないこの法案を、 なぜ
漁業災害補償法案としたかについてでございます。この法案が、真に災害
補償法案の名に値するためには、少なくとも、国の再保険、共済掛け金及び事務費の国庫負担に聞ける規定を内容として含んでおらなければならぬのであります。しかるに、この法案は、最も肝心な国の再保険に関する規定を含んでいないばかりか、掛け金負担についても少額の補助を行なうにとどまり、事務費の負担に至っては、法案にその影すらとどめていないのであります。申し上げるまでもなく、漁業は
農業と同じく、先ほど
農林大臣も言われたように、自然の脅威を受けることの最も多い産業であることは、先般の衆議院本
会議におけるわが党の角屋議員の
質問に答えた池田
総理の答弁の中にも明確にされているのであります。漁業こそ真に災害補償
制度を最も強く要求されているものであります。今日、
農業においてさえ、国の再保険、掛け金及び事務費の国庫負担を中心とする
農業災害補償
制度が、
昭和二十二年以来今日まで引き続き実施されているのであります。しかるに、漁業においては、単なる相互共済を内容とする法案をかろうじて今日提出されたことは、
政府の漁業軽視を示す以外の何ものでもないと言わなければなりません。
総理によってさえ、
農業よりもさらに自然条件に支配されることの大きいといわれるこの漁業において、漁民の期待と要望を踏みにじり、
農業災害補償法からはるかに後退した内容のかかる法案を提出した真意は、一体どこにあるのか。かかる内容の法案をなぜ災害
補償法案の名において提案したかの二点について、池田
総理及び赤城
農林大臣から卒直なる御答弁を願いたいのであります。
また、いやしくも漁民の利益を代表すべき
農林大臣が、このような、いわゆる羊頭を掲げて狗肉を売るがごとき法案を提案せざるを得なかった裏には、大蔵当局の強い発言があったと聞いておりまするが、田中大蔵大臣がこの法案に
補償法案としての実質を盛り込むことに反対した理由を承りたいのであります。
第二に、この法案には、漁民が強く、要望しておりまする国の再保険が規定されていないことは、先ほど申し上げたとおりであります。しからば一定期間、たとえば三年なら三年の後に、国の再保険を実現するための用意があるかについても、 この法案の中には、どこにもそうした規定が見当たらぬのであります。附則第二条の
検討条項も、革に共済掛け金率、共済責任の負担区分等に関して
検討を加えることをうたっているのみであり、国の再保険実現の方向で
検討を進めるとの意味は全くくみ取れないものでございます。
政府は、衆議院本
会議における
質問に対して、 今日までの試験実施によって得た資料によっては、国の再保険を行なうための前提となる異常災害と通常災害とを区別することは不可能だということを、再保険拒否の理由としてあげておるのであります。しかし、 去る三十八年の四月に、水産庁長官の諮問機関として設けられた漁業共済
制度研究会の答申の中には、異常災害
部分と通常災害
部分とは明確に分けることが可能であり、異常災害
部分については国の再保険を行なうことが望ましいと述べているのであります。再保険を行なうことができるかいなかは、
政府が主張するように、資料が
不足しているかいなかの問題ではなく、
政府に再保険を行なう意思があるかどうか、災害補償
制度の確立に
政府がどれだけの予算をさく決意を固めているかどうかにかかっていると言わなければなりません。そこで、池田
総理にお
伺いいたしまするが、沿岸漁民の
所得を倍増させ、沿岸漁業等の革命的な
発展をはかるための有効な施策の
一つとして、少なくとも今後三年間くらいの間には
政府の再保険を実現するよう、
農林大臣を督励する御意思があるかどうか、お聞きしたいのであります。さらに、
農林大臣は、水産庁長官の諮問機関として設けられておりまする漁業共済
制度研究会の答申を尊重し、国の再保険を実現するため、閣内における
努力をする決意があるかどうかを明らかにしていただきたいと思うのであります。
第三は、掛け金及び事務費に関する国の負担に関してであります。
政府案によれば、わずかに掛け金に対して低率の補助が規定されているのみでありまして、事務費に関しましては、さきに述べたように、全く規定されていないのであります。しかも
政府は、危険の分散をはかるため加入の促進に
努力することを当面の
目標とすると述べているのであります。このようなわずかな掛け金補助によっては、漁業者を大量に加入せしめることはとうてい困難でございましょう。したがって、この法案が最大の対象とすべき抵抗力の弱い沿岸漁民をこの法案によって救うことは、とうてい考えられないのであります。そこで、
農林大臣にさらにお
伺いいたしますが、沿岸漁業等の
実態に即するように掛け金及び事務費に関する国の負担率を高め、かつ、事務的に対する国の負担について法文に明記する意思はないかどうか。もしそれができないとするならば、その理由が何であるかについてもあわせて御答弁願いたいのであります。また、その場合、積極的に予算措置を講ずる用意がおありかどうか、大蔵大臣の見解を承っておきたいのであります。
第四に、共済資金の
資本金についてであります。
まず、これは第二、第三の
質問に
関連するわけでありまするが、
政府の再保険事業を予定した場合においてさえ、わずか五億円の
資本金では、この運用に困難を生ずることは当然であり、これは少なくとも共済事業の何たるかをわきまえているものの常識であろうと存じます。しかも、
政府案には、国の再保険がない
関係で、異常災害
部分をもこの
資本金によってまかなわなければならぬのであります。したがって、この
程度の
資本金をもってしては、とうてい円滑な運用を期することは不可能であると言わなければなりません。しかも、
政府案によれば、五億円の
資本金で
不足を生じた場合の措置が何ら規定されていないのであります。たとえば昨年から今年にかけてのノリの被害
一つを見ましても、八十億から九十億にのぼるものと見られているのであります。万一、このような異常災害が発生した場合、国の再保険がないままに、わずか五億円の
資本金をもってしては、一体どれだけ働き得ることが期待できるでありましょう。結局、削減規定を発動して、支払うべき共済金額や減額する等の措置を講ぜざるを得ないでありましょう。これでは漁民は信頼して漁業共済に加入することはできないでありましょう。このような
事態が十分予想されるにもかかわらず、なぜ
資本金を五億円と定めたか。もしこれで十分やっていけるとするならば、その根拠を明らかにしていただきたいのであります。
次に、
総理大臣にお尋ねいたしまするが、このような危険に備え、少なくともこうした
事態に立ち至った場合、共済基金は
政府から必要資金の借入れができるように改めさせる御意思があるかどうか。また、改めることができないとするならば、その場合の措置と危険分散の方法について明確な御答弁を願いたいのであります。
第五に、
政府は加入者をふやすことによって危険分散をはかりたいと主張されているようでありまするが、これは単なる願望ではなく、具体的にこの
制度を漁民にとって魅力あるものとする
努力をなぜ払わなかったかということであります。もともとこの種
制度の理想というものは、安い掛け金で、有事の際、多くの保険金がもらえるようにすることによって、加入率を高め、それを通じて危険分散をはかることであります。しかるに、
政府案は、肝心の限度額を低く抑え、しかも魚価修正、引き上げ特約条項等についてはもちろん、無事戻し
制度及び不漁準備積み立て金
制度のごとく、むしろ安定した漁業の加入促進に必要な条項を何ら採用しておりません。これらの点は、不漁準備積み立て金
制度を除いて、いずれも漁業共済
制度研究会の答申において示されているところでございます。
さらに、
農林大臣にお尋ねいたしまするが、研究会の答申が述べた、また、
全国漁民がひとしお切望してやまないこれらの規定を、あえて法案に盛らなかった理由は何であるかを明らかにするとともに、先ほど角屋議員より述べられた社会党案の魅力ある、かつ、現実的な
制度内容を取り入れるベきではないかと考えております。この点についても、
総理大臣並びに
農林大臣の御
所見を承りたいのであります。
次に、大蔵大臣にお尋ねをいたしますが、漁業のように
所得変動の大きい産業を対象とする共済
制度においては、不漁準備積み立て金
制度を取り入れることを積極的に認められるべきだと思うが、大蔵大臣がこれに対して不可とする理論的な根拠を明らかにしていただきたいのであります。
以上、数点にわたって
質問いたしましたが、総じて
政府案は、沿岸漁業等の現状及びそのよってきたるところの
原因に対する透徹した認識を欠き、漁民の期待と要望を踏みにじったものと言って過言ではありません、池田
総理をはじめ
関係各大臣が、少なくとも漁業者の立場に立って、国会の審議を通じ、法案の画期的な前進をはかる決意をもって、誠意ある答弁をされるよう強く御要望申し上げまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕