○柴谷要君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されました租税二法に対し、
総理大臣並びに大蔵大臣に対し
質問をいたさんとするものであります。
まず最初にお伺いいたします点は、このたびの減税案は公約の違反ではないかということであります。
政府は、さきの総選挙で、特に物価問題と並んで減税を重点施策に取り上げ、所得、地方、企業の減税を重点に、二千億円減税のスローガンを掲げました。ところが、ふたをあけてみると、表面的には、国税で平年度千三百七十六億円、初年度千三億円、地方税と合計いたしますと、平年度二千百五十二億円、初年度千四百二十五億円と、公約を果たしたかのようにつじつまを合わせておりますが、
現実は、ガソリン税及び軽油引取税の増徴等により、実質減税規模は、来年度国税で七百八十八億円、地方税と合わせても千二百十億円にすぎないのであります。しかも、これは、一方では、税制調査会の答申には全然あらわれていない十三件の大企業優遇の租税特別措置を含めての話であります。二千億減税に
拍手を送った勤労者に対する所得税減税は、初年度わずかに六百四十九億円に削られたのであります。この結果、
国民所得に対する租税負担率は、三十八年度の二一・五%かつ一挙に二二・二%にはね上がったのであります。減税どころか、逆に増税ではありませんか。これは明らかに公約の違反であると同時に、税の不公平をますます拡大するものであると思うのでありまするが、
総理大臣の御
所見を承りたいのであります。
第二に、今回の税制改正案は一体どのような方針で行なわれたのでありましょうか。何ら一貫性がないのであります。このことは、改正案が作成される過程を見ていきますと明らかでございます。すなわち、
政府は、当初、企業減税を中心に一千億円減税の方向をとっていたのでありますが、その後、所得減税を
主張する税制調査会との
意見の対立をおそれて、所得税、地方税の減税を中心とするよう変わってまいったのであります。臨時
国会では、選挙対策上の見地から二千億円減税を打ち出し、今回の改正案は、その実質的切り下げを行なうなど、二転三転しているのでございます。そこには、
政府として何ら一貫した財政政策を発見することができないのであります。そこにあるものは、開放経済体制に備えて企業の国際競争力を増すためには、税の不公平などの理論は言っておられないということだけでありましょう。
申すまでもなく、現在、
国民が減税を希望しておりますのは、何より
国民の税負担が、大衆所得について見る限り、戦前に比べても
外国に比べても絶対的に重い。国税、地方税、さらには、所得間、地域間を通じて、負担が著しく不均衡であることでございます。物価高に伴う名
目的所得増による実質増税が放置されているという
現実に根ざしているのであります。このような観点から、今回の減税は何より所得税を中心に置くべきではないかと思うのであります。
さらに、来年度は、前年の当初予算に対し、六千八百二十六億円という史上最大の自然増収を見込んでいることであります。これは、予算の自然増、選挙政策のあと始末などのための財源難から、ぎりぎり一ぱいに歳入を見積った結果でありましょう。この自然増収というのは、真に
国民の所得が向上したから生じた増収ではなく、物価高騰に伴う名目所得の増加に基づく税金の取り過ぎ分であります。
国民生活の実態からは遊離した増収であります。これを限度一ぱいまで見込み、減税に回す分を極力抑え、残りを全額歳入増に細み込むことは、さなきだに、これまでの積極財政、オーバー・ローン政策の行き過ぎから経済危機を招いているときだけに、ますますインフレ的傾向を助長するものであると言わなければなりません。自然増収は、これを全部
国民に返すのが当然であり、この際思い切って所租税減税を実施すべきであると思うが、大蔵大臣の御
所見を承りたいのでございます。
さらに、税制調査会の答申を
政府はどのように受けとめているか、お伺いいたしたいのであります。単なる目安にすぎないのかどうか、お答えをいただきたいのであります。
第三に、所得税の課税最低限についてお伺いをいたします。
本改正案によりますと、夫婦子供三人の標準世帯のサラリーマンの課税最低限は、三十九年度四十七万一千三百七十七円、独身者では十七万二千九百三十五円となっているのでありますが、これは、三十五年に比べまして約三〇%減税になっております。しかしこれは、昨年度において税制調査会から、特に物価値上がりによる実質増税の調整の
必要性が強調され、三十八年度は約三〇%の実質増税になるので、この分だけは調整すべきだと、わざわざ「調整」と断わって答申したにもかかわらず、
政府は、財源難を理由に、これを半分に削り、かえってその分を利子配当課税の軽減に回して、批判を浴びたことも、記憶に新しいところであります。そのため、昨年来の物価高騰、そしてさらに三十八年度において実績見込み七・二%、三十九年度四・二%の上昇が見込まれ、勤労者の税負担が増加の一途をたどっていることを考え合わせますと、今回の
政府の減税は、単に、昨年改正すべき分の穴埋めとしての税法上の減税にすぎないのであります。
国民負担は一向に下がらないのであります。しかも、今回の課税最低限の基礎となっております計算は、税制調査会の資料によりますと、成年男子一日当たりの食費百五十円四銭を基礎としたマーケット・バスケット
方式により計算されているのであります。一体、一日百五十円で生活できるというのでありましょうか。この結果、最低生計費には課税すべからずという税制上の大原則は無視され、継続的物価上昇に伴い、税金が最低生活費に食い込んでいるのであります。
そこでお伺いしたい点は、所得税における課税最低限は、税金をかけてもいいぎりぎりの線ではなく、税金をかけてはならない絶対の線であり、少しぐらい物価上昇にも耐えられるものでなければならないと思うのでありまするが、大蔵大臣はいかようにお考えでございましょうか、お伺いいたしたいのであります。
また、三十九年度における課税最低限は、
アメリカの百二十万円、西ドイツの八十三万円などを考え合わせても、標準世帯最低六十万円までは無税とすべきではないかと思うのでありますが、この御
見解についても承りたいのであります。戦前の課税最低限が八十万円程度になっていたことを考え合わせますと、それよりもなおはるかに低い水準なのであります。
さらにお伺いしておきたいことは、物価上昇に伴って生ずるいわゆる税法上の調整減税は、当然、実質減税と区別して取り扱うべき性質のものでありまするが、三十九年度の場合、調整減税すら行なわれていないのではないか。一体、所得税における減税は、物価値上がり調整のための減税がどのくらいで、実質減税がどのくらいか、その割合だけでも示していただきたいのであります。
さらに、今回の課税最低限は、税調の答申を下回るものとなった理由として、給与所得控除の切り下げが行なわれているのでありますが、切り下げの
根拠をお示し願いたいのであります。
第四に、租税特別措置につきましては、これまでたびたび整理改廃が論議され、税制調査会でもこれまで整理を
主張しているのであります。昨年十月四日に出された基礎問題小
委員会中間報告におきましても、この問題を取り上げ、「租税特別措置は、負担公平原則や、租税の中立性を阻害をし、総合累進税率構造を弱め、納税者のモラルに悪影響を及ぼすなど、多くの欠点があるから縮小すべきである」と述べ、さらに「現行特別措置のうち最も弊害が大きいものは、利子配当課税の
特例、有価証券譲渡所得の非課税等、資産所得に対するものであり、これらの特別措置が貯蓄性向に及ぼした有効性も実証しがたいから廃止すべきである」と述べているのであります。しかるに、
政府は、この方向と逆行し、輸出所得控除の廃止にかわる輸出振興のための政策減税など、税制調査会の答申にはない新しい措置をも加えて十六項目に及んでいるのであります。ここで特に問題にしなければならない点は、配当軽課と投資信託分配金の源泉分離課税化であります。配当分離課税につきましては、証券業界の強い突き上げによって、
政府の態度は動揺し続けてまいりましたが、大蔵大臣は、今後配当分離課税は行なわないと言明されておられますが、なお一歩前進して、利子配当などの優遇措置をもあわせて改廃に力を注ぐべきではないかと思うのでありますが、御
所見を伺いたいのであります。
これらの大企業資産所得偏重の特別措置による減税は、三十八年度国税で千九百九十六億円、三十九年度二千九十八億円とふくれ上がり、二十五年以降の累計は、国税だけでも一兆四千億円をこえているのであります。しかも、これらの措置により、独占企業の実効税率は二〇%ないし二五%程度にも低くなっているのであります。これらの特別措置につきまして重要なことは、その政策効果そのものよりも、その制度自体が固定化し、既得権化し、拡大の一途をたどっているということであります。さらには、このことが総合累進税制を後退させ、税体系をずたずたにしてしまっておるのであります。格差をますます拡大させる結果となっている事実を見のがすことはできません。特別措置は、シャウプ勧告以後の激動期の
日本経済を強めるために、臨時的
性格をもってスタートしたものであります。期限がくれば当然廃止させねばならないものであります。しかも、このように不合理きわまる特別措置はこれを廃止するという原則に立って、大胆に整理すべきが当然でありましょう。特に投資信託配当分離課税などを改め、負担公平の原則に立って、総合課税の確立をはかるお考えがあるかどうか、明らかにしていただきたいのであります。資産所得に厚く、勤労所得に薄い減税というアンバランスは、きっぱりやめていただきたいのであります。
第五に、今回の改正は、物価高の中で逆進的傾向の強い間接税の減税は全く無視されているという点であります。
政府は公共料金値上げ一年ストップをきめながら、かえってバス料金など公共料金の引き上げにはね返ることが必至と見られるガソリン税や軽油引取税の引き上げによる増税の方向をとっていることであります。これでは
政府みずからが物価上昇ムードをあおる結果となることは明らかでありましょう。物価値上がりを押えて、
政府は進んで値下げに先鞭をつけるとともに、減税から取り残された広範な低所得者層に対する減税効果を期待するならば、大衆生活必需物資の間接税の引き下げを強力に推進をし、その結果を末端消費者価格の引き下げに反映させることが必要でありましょう。このような立場から、いまこそ
政府は大衆生活必需品には税金をかけないという原則に立って、酒、たばこ、砂糖を初め、物品税、入場税などの大衆減税を行なう意思があるかどうか、お尋ねをいたしたいのであります。
最後に、私は、
政府の税制改正に対する根本的方針及び税制調査会に対する
政府の態度につきましてお尋ねをいたしたいのであります。
現在の税制は申すまでもなく所得再分配の機能を期待しているということであります。特に、現在のように大企業中心の高度成長政策の結果、重大なるひずみが生じておりますときは、とりわけ社会的観点からの税制改正が最も重要と思われるのであります。しかるに
政府は、相変わらず不労所得、資産所得優遇の税制をとり続け、むしろ格差を拡大させているという事実を見のがすことはできないのであります。単に小手先だけの改正では、大衆課税の解消は困難なところに追い込まれており、逆にかえって格差の拡大、税体系の混乱を導く結果となっていると思うのであります。
政府はこうした事実にかんがみ、「大衆に安く、公平に、わかりやすく」の三原則に立って、税体系をこの際抜本的に再編成する意思がおありかどうか、お伺いをいたします。また、税制調査会はこうした
意味合いから設置されてきたにもかかわらず、
政府は、税制調査会の答申のうち、都合の悪いものは削り、新たなものを加えるなど、税調を隠れみのとしているきらいがないでありましょうか。
政府は、税制調査会をどのような認識をもって臨んでいかれるのか、明らかにしていただきたいのであります。
私の
質問の要旨は、
総理大臣に対し三点の御回答をいただきたい。大蔵大臣には以上十一点についての御
質問を申し上げまして、私の
質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕