○
国務大臣(田中角榮君)
昭和三十九年度予算の提出にあたり、その大綱を御説明いたしますとともに、
財政金融政策の
基本的
考え方について、所信を申し述べたいと存じます。
本年は、
わが国が
OECD加盟、
IMF八条国移行に伴い、名実ともに国際
経済社会の有力な一員となる本格的な
開放体制移行の年であります。
貿易なくしては
経済を営み得ず、
貿易の伸長なくしては
経済の
拡大を期しがたい
わが国にとりまして、
開放体制への移行こそは、
日本経済が、常に前進する国際
経済社会の中にあって、さらに大きな
発展の機会を見出していくために、みずからが選んだ
発展への道であります。すなわち、これによりまして、
わが国は、諸外国との
経済交流を
緊密化し、国際分業の利益を一そう享受するとともに、
輸出市場をさらに
拡大し得ることとなるのであります。
しかし、同時に、
わが国経済が国際
経済の
動向から来る影響をより面接的に受け、また、国際
経済上の要請に一段と積極機敏に応じていくべきこととなるのも明かなところであります。われわれは、この新しい段階に進むに際し、
わが国経済の前途に自信と
希望を持つべきではありますが、同時に、
わが国経済の
運営が複雑さを加え、その国際的責任が重さを増す事実に思いをいたし、
決意と工夫を新たにするのでなければならないと
考えます。
近時、
世界経済は、国際
協調を通じ、
貿易並びに資本交流の自由化をはかるごとによって、
拡大均衡を
実現する
方向に進みつつあり、当時の景況も、
米国景気の引き続く上昇、西欧
経済の持続的堅調を
中心に、総じて上昇
傾向にあると判断されるのであります。しかしながら、
米国のドル防衛の
強化、国際流動性の
確保、EECをめぐる域内域外の利害の調整等、なお幾多の複雑な問題が存することもいなめない事実であれ、まして、
わが国経済をめぐる
国際環境は、必ずしも容易なものではないと認められるのであります。
さて、
わが国経済が、ここ数カ年にわたる急速な
成長の
成果として、
産業構造の嘉慶化、完全雇用への接近、
国民生活水準の
向上並びに
所得格差の縮小等、顕著な進歩の実績をあげ得ましたことは、周知のとおりであります。この急速な
成長の過程を通じて、
農業、
中小企業等、相対的に立ちおくれた部門の
近代化、
合理化の緊要性、若年
労働力を
中心とする
労働需給の逼迫等の問題が生じてきており、着実な
成長を保ちつつ地道にこれらの
解決をはかることが今後の重要な
課題となっておるのであります。また、後に述べますように、昨年来、
輸出の
伸びを上回る
輸入の
増加と
貿易外収支の赤字幅の
増大から、経常収支の逆調が続いており、
国際収支の
改善に一そうつとめる必要が生じておるのであります。
わが国経済が国際
経済からの影響を受けやすくなっている現在、この問題には従来以上に慎重な
態度で対処いたしますとともに、その根本的な
解決にあたっては、
長期的、総合的な
見地に立って、建設的な
努力を傾けるべきであると
考えるのであります。
以上、要するに、今後、
わが国経済が
開放体制下に堅実な
発展を続けてまいりますためには、
日本経済に内在する
成長力を、
世界経済の
動向、
国際収支、物価の
動き等、内外諸要因の推移に即応しつつ適切かつ弾力的に調整し、もって、調和のとれた適度な
成長を
実現するとともに、
経済、
社会の各部面において所要の体質
強化を着実に進め、
国民経済全体としての
生産性を一段と高めることが
基本的に肝要であります。
政府は、このような
見地に立ち、
昭和三十九年度予算の編成にあたりましては、
国際収支の
改善と物価の安定を主眼とし、いやしくも
財政が景気に対し刺激的な要因となることを避けるため、健全
均衡財政の
方針を堅持することといたしておるのであります。支出内容におきましても、将来にわたる国力
発展の
基盤を
充実し、
経済各部門の
均衡ある
発展に資するための重要
施策に対しまして、資金を効率的、重点的に配分し、その着実な推進を期しておるのであります。また、税制面におきましては、
国民負担の軽減、
合理化をはかり、あわせて
企業資本の
充実等、所要の体質
強化を進めるため、画期的な大幅減税を行なうことといたしておるのであります。さらに、
財政と
金融とは、
もとより相補い、相助け、両者一体となって
運営さるべきものでありまして、今後の
金融政策の
運用にあたりましても、
財政上の諸
施策と相まって、
経済の安定的
成長とその体質
強化を期してまいる
所存であります。
以下、今回提出いたしました
昭和三十九年度予算について御説明いたします。
一般会計予算の総額は、歳入、歳出とも、三兆三千五百五十四億円でありまして、
昭和三十八年度当初予算に対し、四千五十四億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しては、二千八百十二億円の
増加となっておるのであります。
また、
財政投融資計画の総額は、一兆三千四百二億円でありまして、
昭和三十八年度当初計画に対し、二千三百五億円の
増加となっておるのであります。
政府が特に重点を置きました重要
施策につき、その概要を申し述べますと、まず、中央、地方を通ずる減税を
中心とする税制の改正であります。
昭和三十九年度におきましては、最近の
国民負担の現状及び
経済情勢の推移にかえりみ、中小
所得者に重点を置いて
所得税の負担を軽減すること、資本の
充実と
設備の更新に資するとともに
中小企業の負担軽減をはかるため、
企業課税の軽減を行なうほか、
産業の国際競争力の
強化など所要の特別
措置をあわせ講ずること、市町村民税負担の不
均衡を是正すること等、平年度二千百八十億円に及ぶ大幅な減税を行なうことといたしております。
すなわち、
所得税におきましては、
国民生活の安定に資するため、広く
基礎控除、配偶者控除、扶養控除を引き上げるとともに、専従者控除及び給与
所得控除の改正、譲渡
所得課税の適正
合理化、その他所要の改正を行なうことといたしております。この結果、たとえば、夫婦及び子供三人の給与
所得者の場合、
所得税を課されない限度は、現在の約四十二万八千円から約四十八万五千円に引き上げられることとなり、中小
所得者の
所得税の負担は著しく軽減されることになるのであります。
法人税におきましては、開放
経済への移行に備えて、
企業の
経営基盤の
強化をはかるため、機械
設備を
中心に、固定資産の耐用年数を平均一五%程度短縮するとともに、
中小企業の負担の軽減をはかるため、軽減税率の適用
所得限度額及び同族会社の留保
所得課税控除額の引き上げを行なうことといたしました。さらに、
企業の国際競争力の
強化、
科学技術の
振興、
企業資本の
充実等、当面要請される諸
施策に即応ずる特別
措置をあわせ講ずることといたしております。また、
地方税におきましては、
昭和二十九年度における地方
財政の実情を考慮しつつ、市町村民税の負担の不
均衡を是正するため、その制度の
合理化をはかるとともに、固定資産税の負担の調整、電気ガス税の引き下げ、法人
事業税の軽減等の
措置を講ずることといたしております。さらに、最近の道路輸送
需要の
増大に対処し、その
整備財源の拡充をはかるため、道路
整備計画の改定と見合って、揮発油税、地方道路税及び軽油引取税の税率をそれぞれ引きあげることといたしております。なお、関税率につきましては、
経済の諸
情勢に応じ、所要の調整を行なうことといたしておりますほか、とん税及び特別とん税につきましても、
国際収支の
改善に資するため、その税率をそれぞれ引き上げることといたしておるのであります。次は、農林
漁業の
近代化であります。農林
漁業につきましては、
農業構造改善事業、
農業基盤整備事業等、
農業基本法の定める
方向に沿いつつ、
成長農産物の選択的
拡大、
生産性の
向上、
経営の安定
強化に資するための諸
施策を総合的に推進いたしますとともに、農林水産物の
価格安定と
流通機構の
改善合理化をはかるため、所要の予算
措置を講じておるのであります。また、農林
漁業金融公庫の新規貸付計画額を、
昭和三十八年度の八百七十億円から一千七十億円へと
拡大するとともに、融資条件の
改善を行なうこととし、
農業近代化資金、
農業改良資金の
融資ワク拡大とあわせ、農林
漁業金融の飛躍的拡充、
改善を期することといたしておるのであります。
次に、
中小企業の
近代化、高度化であります。
中小企業につきましては、
昭和三十八年度に確立された
基本的
政策に基づき、
設備の
近代化、構造の高度化を通じて、
経営基盤の安定
強化に資するため、
中小企業同慶化資
金融通特別会計への繰り入れを飛躍的に増額いたしますとともに、
設備近代化補助、小
規模事業対策等の諸
施策を引き続き拡充、
強化することといたしておるのであります。また、税制面におきましても、前に述べましたとおり、法人税軽減税率の適用限度の引き上げ等、国税、
地方税を通じて、
中小企業に対し平年度六百億円を上回る減税を行なうことといたしております。
中小企業金権対策といたしましては、
中小企業信用保険公庫に対する出資を格段に増額して信用保証協会の資金を
充実し、保証
機能の
強化、なかんずく、手形割引保証の拡充をはかりますとともに、
財政投融資計画におきましても、
国民金融公庫、
中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫の貸し付けワクの
拡大と商工組合中央金庫の貸し出し利率の引き下げのため、巨額の
財政資金を投入するほか、新たに、
中小企業金融公庫に債権の発行を認める等の
措置を講じ、民間
金融機関の
協力と相まって、
中小企業金融の拡充円滑化に資することといたしておるのであります。
わが国の
社会保障制度は、年々
充実の一途をたどってまいったのでありますが、
昭和三十九年度予算におきましても、
経済の
発展に応じた
国民生活の
均衡ある
向上と、
社会福祉の増進に資するため、引き続き、
社会保障関係の諸
施策にわたっての
改善充実をはかることといたしておるのであります。
すなわち、
生活保護基準の大幅な引き上げを行ないますとともに、
国民健康保険の世帯員に対する療養給付率を四カ年計画で七割に引き上げ、医療保険の
充実に資することといたしておるのであります。また、
福祉年金につきましては、他の公的年金との併給限度額の引き上げ、
所得制限の
緩和等の
改善措置を講ずることといたしたのであります。
雇用対策につきましても、
産業構造、雇用構造の変化に即応して、
労働力移動の一そうの円滑化をはかることといたしておるのであります。
以上、
社会保障関係費の総額は四千三百七億円でありまして、
昭和三十八年度当初予算に対して、六百九十二億円の
増加となる次第であります。
次に、住宅の建設及び
生活環境施設の
整備であります。
住宅につきましては、
昭和四十五年度における一世帯一住宅の
実現を
目標に、公営住宅建設のための予算を増額するほか、
政府資金、民間資金を活用して、住宅
金融公庫、住宅公団等の資金を
充実し、三十一万七千戸に及ぶ
政府施策住宅を建設いたしますとともに、民間自力建設の推進に資するため、固定資産税、不動産取得税の減税及び新築貸し象住宅の特別償却制度の拡充を行なうことといたしました。また、上下水道、
し尿処理施設等生活環境施設につきましても、その
整備が、
経済の
成長と
生活水準の
向上に立ちおくれている現状にかんがみ、予算及び
財政投融資計画を画期的に増額し、その積極的
整備を促進することといたしておるのであります。
文教を刷新して健全な
青少年の育成につとめ、
科学技術を
振興して現下の要請にこたえることは、
政府の重大な責務であり、従来とも最も意を用いてきたところであります。
これがため、
昭和三十九年度におきましては、教育
水準の
向上と教育
環境の
整備改善に格段の配慮を行ない、小、中学校における教職員数の
充実と、教室等施設の
整備を一そう推進することといたしたのであります。特に、国立学校につきましては、その管理
運営の円滑化、なかんずく、施設
設備の飛躍的
整備をはかるため、新たに国立学校特別会計を設け、国立高等専門学校及び理工系学部、学科の増設等を積極的に行ない、
産業の
発展、高度化に伴う
技術者の養成に遺憾なきを期しておるのであります。
また、教育の機会均等を
確保するための育英奨学、僻地教育の
振興、私立学校の助成、学校給食の
改善等につきましても、特段の配慮を加えましたほか、義務教育教科書の無償給与制度の伸展をはかることといたしたのであります。
科学技術の
振興につきましても、宇宙開発推進本部を新設する等、各省試験研究機関の研究
体制を
強化し、原子力の平和利用、国産新
技術の開発、防災
科学等の重要研究を推進することといたしたのであります。
以上、文教及び
科学振興費の総額は四千百三十六億円でありまして、
昭和三十八年度当初予算に対し三百九十億円の
増加となっておるのであります。
次は、
社会資本の
充実、
産業基盤の
強化であります。
まず、道路の
整備につきましては、新たな五カ年計画を策定し、
昭和三十九年度以降五カ年間に、総額四兆一千億円の資金を投入し、もって、道路輸送
需要の
増大、地域開発の展開等、現行計画策定後の
情勢変化に対処することとし、このため、揮発油税及び地方道路税の税率を引き上げる等の
措置を講じて、必要な財源の
確保をはかることといたしております。
昭和三十九年度におきましては、この新計画の初年度といたしまして、予算及び
財政投融資計画を通じ、大幅な資金の
確保につとめておるものであります。
港湾につきましては、その重点的
整備を促進するため、道路
整備と並んで予算の著増をはかりますとともに、港湾貨物の
増大、地域開発の
進展等、最近の変化に対応して、
昭和三十九年度を初年度とする新五カ年計画を策定することといたしております。
また、
日本国有鉄道につきましては、東海道新幹線の完成を期するとともに、安全輸送の
確保と輸送力の増強をはかるため、改良工事を大いに拡充することとし、また、
日本電信電話公社につきましても、電信電話施設の
整備拡充をはかることといたしました。
なお、
増大する
産業用地、用水
需要に対処するため、土地造成と水資源の総合的開発を推進するほか、新
産業都市の建設等、地域開発を促進するため必要な資金につきましても、予算及び
財政投融資計画を通じて、その
確保につとめる
所存であります。
ざらに、治山治水
事業につきましても、その大幅な推進をはかるため必要な予算を計上いたしまして、災害復旧等
事業の進捗と相まち、国土保全に万全を期することといたしました。以上、公共
事業関係費の総額は、災害復旧等
事業費及び高潮対策
事業費を除き、五千三百七十七億円に達し、
昭和三十八年度当初予算に対し九百三十九億円の
増加となっております。
次に、
輸出の
振興につきましては、
日本貿易振興会等による海外市場調査、国際見本市、広報宣伝等の海外活動を積極的に行ないますとともに、
日本輸出入銀行に対する
財政資金を増額して貸し付け
規模を
拡大するほか、税制面におきましても、
企業の国際競争力を
強化する等のための減税を行なうことといたしたのであります。
また、引き続き、対外
経済協力を推進するほか、
貿易外収支の
改善に資するため、海運業の体質
改善と
外航船腹の拡充、国際航空
事業の育成
強化につきましても、所要の
措置を講ずることといたしております。
地方
財政の内容は、幸いにして、良好な状況で推移しておりますが、
昭和三十九年度におきましては、市町村民税及び電気ガス税の減税を行なう一方、市町村民税臨時減税補てん債の発行及び市町村たばこ消費税の税率引き上げによって、地方
財政の
運営に遺憾なきを期しているのであります。
そのほか、
地方税及び地方交付税の著しい増収等により、地方
財政の
基盤はますます
強化されますので、地方における行政内容と住民
福祉は、一そうの
向上が期待される次第であります。
財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目においても触れましたところでございますが、計画の策定にあたりましては、農林
漁業及び
中小企業関係金融の
充実、住宅の建設及び
生活環境施設の
整備に重点を置くとともに、
輸出の
振興、道路、鉄道等
社会資本の
強化及び地域開発の推進に特に配意いたしておるのであります。
なお、この際、
昭和三十八年度補正予算第三号について一言申し述べます。
公務員の給与
改善、災害の復旧等につきましては、さきに、補正予算第二号をもって対処いたしたのでありますが、今回、さらに、
産業投資特別会計及び同特別会計資金への繰り入れ、義務教育費国庫負担金等義務的経費の不足補てん、地方交付税交付金の増額等を内容として、総額八百二十六億円の補正予算第三号を提出いたしました。
産業投資特別会計への繰り入れは、
輸出振興の
重要性にかんがみ、
日本輸出入銀行に対して行ないます同特別会計の追加出資に必要な財源を繰り入れるものであり、また、同特別会計資金への繰り入れは、
経済基盤の
強化、
企業の体質
改善を強力に推進する等のため、出資
需要がますます
増大しておりますので、この際、その資金を
充実することが急務と
考え、これを行なうものであります。
このほか、
日本国有鉄道におきましても、改良工事を促進し、鉄道輸送の安全
確保に資するため、改良費を追加することとし、所要の予算
措置を講ずることといたしました。
また、これらに関連いたしまして、
財政投融資計画におきましても、
日本輸出入銀行及び
日本国有鉄道につき、それぞれ所要の追加を行なった次第であります。
次に、
金融政策並びに資本市場育成の問題について申し述べます。
最近における
国際収支の推移、
生産及び物価の
動向、
金融機関貸し出しの趨勢等にかんがみ、昨年十二月、
日本銀行においては、準備預金の率を引き上げたのでありまして、
企業の資金
需要及び
金融機関貸し出しの増勢は、鎮静に向かうものと期待しておりますが、今後とも、
経済の
動向を慎重に見守りながら、機に応じて適切な
施策が実施せられ、資金需給の調整を通じて、
経済活動が適正に保たれるよう意を用いてまいる
考えであります。
もとより、
金融の調整にあたりましては、
近代化、
合理化により、新たな
発展への道を求めつつある
中小企業等の真剣な
努力が、いやしくもこれによって阻害されることのないよう、細心の留意をいたしてまいる
所存であります。
次に、
わが国が開放
経済への移行に即応し、
わが国経済の
体制を
整備してまいるにあたりまして、
金融界の果たすべき
役割は、いよいよ重きを加えつつあると認められるのであります。したがいまして、この際、各
金融機関は、その公共的
社会的責任について一段と自覚を深め、みずからの
経営態勢の刷新
合理化をはかるとともに、特に、融資にあたっては、いたずらに過当な競争に走ることなく、広く
国民経済的視野に立って節度ある
態度を堅持し、
金融機関としての責務の達成につとめられるよう切に期待する次第であります。
さらに、
わが国企業におきましても、その
基盤を
充実するため、戦前及び諸外国に比してきわめて悪化している自己資本比率の
向上をはかり、
長期安定資金の
確保につとめることが、この際、特に必要と思われるのであります。
このような
見地から、
政府といたしましては、今回、
企業、投資家及び証券業者に対する一連の税制上の
施策を実施することといたしておりますが、今後とも、資本市場の健全な
発展をはかるため、各般の
施策を着実に推進してまいりたいと存じております。
もとより、資本市場の安定した
運営と
発展の
基礎は、堅実な大衆投資家の支持と
信頼を得ることにあるのでありまして、この点にかんがみ、証券業者におかれては、
経営の健全化と投資勧誘
態度の適正化に一段と
努力されるよう、強く要望いたす次第であります。
わが国は、近く、
OECDへ正式に
加盟し、
世界の主要先進
諸国との
協力関係を一そう
緊密化するとともに、四月一日を
目途とする
IMF八条国への移行に伴い、
わが国の円は、交換可能通貨として、広く
世界の
諸国から認められることとなるのであります。
このような新しい事態に対処するための
努力の一環として、
わが国がかねて強力に進めてまいりました対外取引の自由化につきましては、本年において、外貨予算制度の廃止、渡航制限の
緩和等を行ない、経常取引に対する為替制限の撤廃を一応終了いたしたいものと
考えております。
もとより、このような自由化
措置は、国際分業を通じ、
経済活動の効率を高めるためのものであり、外貨の放漫な使用を許容し、乱費を奨励するものではないのでありまして、
国民がそれぞれの立場において、外貨の合理的、効果的な使用につとめ、
国際収支の安定に
寄与することが、強く要望されているのであります。
近時、国際
金融協力の必要性は、とみに高まりつつあります。これに即応し、昨年十月、
日本銀行は、
米国連邦準備制度と主要国中央銀行間のスワップ取りきめ網に参加し、国際的な通貨安定対策の一翼をになうこととなりましたが、さらに、
わが国は、
IMF借り入れ取りきめ参加十カ国蔵相
会議の一員として、国際流動性
確保のための対策の検討に積極的に参加しております。なお、このような気運が高まりつつある際に、本年秋の
IMF、世銀等の
総会が、わが
東京で開催されることとなりましたことは、まことに意義深いものがあります。
また、
世界の大勢は、為替の自由化から関税障壁の除去に向かっており、ガットにおいては、関税の一括引き下げ
交渉が引き続き行なわれております。さらに、低開発国問題につきましても、
経済援助の
強化に加え、新たに、ガットや国際連合において、これらの
諸国に対し、特恵関税を許与する等、その
貿易拡大のための方途が検討されるに至っております。
政府といたしましては、これらの
動きに積極的に対処しつつ、今後の関税
政策を進めて参る
所存でありますが、この際、
わが国産業が、かかる
動向に即応する
体制をできるだけすみやかに
整備することが、要望されているのであります。
最近の
国際収支の推移を見ますと、
輸出は、主として
わが国産業の国際競争力の
強化、海外
環境の好調を反映し、順調な伸長を示しておりますものの、
輸入が、国際商品
価格の高騰等、一時的な要因もさることながら、
生産の大幅な上昇から顕著な
増加を見せ、海運その他の
貿易外収支における赤字幅の
拡大と相まって、経常収支は、昨年年初来一貫してかなりの逆調を呈するに至っております。この間、総合収支は、資本収支の黒字によって、
均衡を維持してまいったのでありますが、欧米
諸国における資本市場の
動向にかんがみ、今後、外資の流入に大きく期待することは、必ずしも容易でありません。したがいまして、
財政金融政策等、各般の
施策において万全を期しつつ、
貿易収支の
均衡回復と
貿易外収支の赤字
基調是正につとめてまいる
所存であります。
国際収支につきましては、経常収支を
均衡させることが望ましいのでありますが、当面、国内資本の不足を補い、
国際収支の波動に対処する準備を手厚くするためには、引き続き優良な安定外資の秩序ある導入をはかることが必要であると存じます。
一方、対外投融資につきましては、
わが国の海外市場を
確保し、あるいは低開発
諸国を援助するためのみならず、対外債務の見合いともなって、
わが国国際収支の
長期的安定に資するものでありますので、
政府といたしましては、今後とも、国際間の
協調を念頭に置きつつ、国力の許す範囲内において、堅実な対外投融資を積極的に進めていく
所存であります。
以上、
財政金融政策の
基本的な
考え方と予算の大綱について御説明いたしました。
私は、
開放体制への本格的な移行というまことに意義深い年に臨み、全く新しい気持をもって、この予算を編成いたしたのでありますが、この機会に、私が日ごろ痛感いたしておりますところを、率直に申し上げてみたいと存じます。
まず、予算は、
国民すべてのものであるということを強調いたしたいのであります。
国民の委託を受け、予算の執行に当たる
政府、地方公共団体等におきましては、予算の執行に適正を期することはもちろん、さらに進んで、地方の実情等、
国民生活の実態を十分わきまえ、効率的にこれを使用するよう工夫しなければなりません。しかし、このことは、
国民各位の
理解と
協力がなければ、はなはだ困難であります。予算が、人つくり、国づくり等を通じて、われわれの今日の営みにつながり、明日の
繁栄を築くためのものであることを十分
理解せられ、
政府の
施策に
協力を寄せられたいのであります。
次に、資本の蓄積と貯蓄の増強の
重要性について、重ねて強調いたしたいのであります。
戦後十八年、
国民のたゆまぬ建設的
努力により、
わが国の国力は、飛躍的に
向上してきたのでありますが、国際
経済に本格的に仲間入りしていくに際し、さらに一段と
経済力を
強化するため、従来にも増して、資本蓄積と貯蓄増強につとめねばならないと思うのであります。
企業におきましては、あくまで自己責任の原則に立ち、慎重かつ合理的な
経営を通じて、資本内容を
充実し、
設備を効果的に高度化し、もって、内外のきびしい
環境にも耐え得る力をつちかうことが肝要であると存じます。また、
家庭生活にありましても、この際、心を新たにして、むだを省き、健全な消費
生活を営み、貯蓄につとめられることが望ましいのであります。このような
意味におきまして、このたびの大幅な減税を、
企業及び家計において、資本の蓄積と貯蓄の増強に役立てられることを念願いたしておるのであります。
私は、
日本国民の勤勉と良識によって、
わが国の
経済が将来ますます
発展し、より豊かな
国民生活が築き上げられるとともに、この上に立って、
わが国が
世界の自由と平和の建設に大いに貢献してまいることを
国民各位とともに信じて疑わないものであります。(
拍手)