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1964-01-21 第46回国会 参議院 本会議 第3号 公式Web版

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  1. 本日の会議に付した案件 (会議録情報)

    昭和三十九年一月二十一日(火曜日)    午後四時五十一分開議   ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第二号   昭和三十九年一月二十一日    午後四時三十分開議  第一 国務大臣演説に関する件   ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  一、請暇の件  一、日程第一 国務大臣演説に関   する件   ━━━━━━━━━━━━━
  2. 議長(重宗雄三君)(重宗雄三)

    議長(重宗雄三君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします    ————————
  3. 議長(重宗雄三君)(重宗雄三)

    議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。  この際、おはかりいたします。田中清一君から病気のため十四日間、野村吉三郎から病気のため二十九日間、西田信一君から海外旅行のため二十三日間、平島敏夫君から海外旅行のため十八日間、吉江勝保君から海外旅行のため十六日間、それぞれ請暇の申し出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 議長(重宗雄三君)(重宗雄三)

    議長(重宗雄三君) 御異議ないと認めます。よって、いずれも許可することに決しました。    ————————
  5. 議長(重宗雄三君)(重宗雄三)

    議長(重宗雄三君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を辞します。池田内閣総理大臣。    〔国務大臣池田勇人登壇拍手
  6. 国務大臣(池田勇人君)(池田勇人)

    国務大臣池田勇人君) 国民の一人一人が働く意思とすぐれた創造力を自由に避憾なく発揮し、豊かで平和な生活を営み得る社会をつくることば、政治の究極の目標であります。  このためには、疾病、失業、老齢を原因とする貧困と不幸に対し、社会保障が確立され、この基礎の上に、民族的創造力が躍動し、不断に遊歩と成長が約束される国の実現が必要であります。  ここでは、個人の尊厳と自由が守られつつも、社会連帯の意識、公共奉仕の精神が横溢していなければなりません。個人個人の心に関する問題、すなわち、道徳や宗教がその支柱であります。また、議会民主政治は、国民大衆の希望の達成と苦悩の除去に敏速果敢であり、ことに、暴力の排除と平和の実現に対して、最も積極的でなければなりません。これが高度福祉国家の真の姿であります。  ここに至る道は決して平たんではなく、多くの困難が予想されます。しかし、国民の団結と信頼を背景に、外交も、文教も、治安も、経済も、政治のすべてがここに集中するならば、必ずや輝かしい将来が約束されるものと確信いたします。これは、一内閣の目標たるにとどまりません。私は、この信念のもと、みずからを省み、今後の精進を誓うものであります。  昨年は、部分的核実験禁止条約の成立に見られるとおり、世界の緊張緩和に一歩を踏み出した年でありました。その背後には、キューバの危機が、東西両陣営を通じて核戦争回避の契機となったこと、安保体制下にあるわが国を含め自由諸国の確固たる防衛努力のあったことを忘れてはなりません。一方、冷戦の意識から解放された各国が、それぞれ自国の利益を主張し、多元化の方向にあることも事実であります。この新しい動画に対処して、われわれは、共存の精神を基礎としつつ、世界の平和と人数の繁栄のため、冷静な判断のもと、英知と勇気をもって、わが国の置かれた環境と地位にふさわしい役割を、積極的に果たすよう心がけねばなりません。  今後変転を予想される国際情勢に応じて、私は、自由諸国との接触を、ますます幅広く、かつ、多角的に進めていく考えであります。特に、自由諸国との協力のもと、世界経済発展のために積極的な寄与をいたす所存であります。そのためにも、わが国としては、開放経済体制を整備拡充するよう一段の努力を必要とするのであります。本年は、OECDへの正式加盟、ガットにおける関税一括引き下げ交渉本格化、さらに、国連貿易開発会議への参加等を控え、わが国対外的経済活動の真価を問われる年であります。私は、わが国がよくこの使命を果たすことによって、輝かしい国際的地位を確保し得るものと信じておるのであります。  東西関係緊張緩和に向かいつつあるとき、アジアの情勢は依然として不安と動揺を続けております。地域全体に対する共産勢力膨張潜在的危険性、諸国民の強い民族主義的対立、さらには各国に内在する政治的、経済的、社会的困難等、そのよってくるところは根深く、かつ、複雑であります。このような錯綜する不安定の根源を一朝にして除去することは、もとより不可能であります。私は、アジアの安定と繁栄を期するため最も肝要なことは、アジアとこれに隣接する西太平洋の諸国が一体となって進み得るよう、連帯関係の素地を育成強化することにあると信じます。それには、アジア諸国相互間の信頼関係が何よりも大切でありましょう。わが国としては、アジア西太平洋諸国の間に国際正義と寛容の精神に基づく融和と協調が促進されるよう努力を惜しんではならないと考えます。この間にあって、わが国が、強固で品位ある民主主義国家として発展を続けることこそ、アジアの安定と繁栄に有形無形の貢献をなすものと確信いたします。  発展途上にある世界の諸国、なかんずくアジア諸国に対し、政府は、今後とも他の自由諸国と協調しつつ、各種の経済技術協力を行なうつもりであります。また、技術を身につけた青少年が、東南アジア等の新興国へおもむき、相手国の青少年と生活と労働をともにしつつ、互いに理解を深めることを重要と考え、その準備を進めておるのであります。  日韓国交正常化の交渉は、両国当事者の忍耐強い努力にもかかわらず、いまだ妥結を見るに至っておりません。しかし、漁業をはじめ残された諸問題の解決は、大局的な見地に立って、相互に熱意と良識をもってすれば、決して困難ではないと思います。隣合った両国が一口も早く正常な国交を持つことが、両国国民大多数の共通の願望であることは、もはや疑いをいれる余地のないところであります。政府は、この輿望にこたえて、諸懸案の合理的な解決のため、さらに積極的な努力を傾ける考えであります。  伝統的に親善関係にある中華民国政府との間に、最近紛議を生じたことは、まことに遺憾であります。中華民国政府とは友好的な外交関係を維持しつつ、中国大陸との間には、政経分離のもとに、民間ベースによる通常の貿易を行なうことが、われわれの方針であることも、すでに明らかであります。私は、中華民国政府が、一口も早くわが国の真意を了解することを希望してやまないものであります。  中国大陸が、わが国と一衣帯水の地にあり、広大な国土に六億余の民を擁しておることは厳然たる事実であり、一方、中共政権に関する問題は、国連等の場における世界的な問題であります。私は、これらの認識のもとに、国民諸君とともに、現実的な政策を慎重に展開していきたいと思います。  ILO八十七号条約につきましては、できる限り早期にその批准を行なう基本方針に変わりはありません。すでに開会冒頭関係法案とともに提出しておりますが、政府は、今国会において関係案件が成立し、同条約の批准が実現されることを切望するものであります。  さて、国家民族の繁栄をはかり、世界諸国民との協力提携を深めようとするわれわれの努力は、次代をになう青少年に受け継がれることによって一そうその成果が高められます。商い知性、豊かな情操、たくましい意志を身につけ、それぞれその能力と個性を生かし、進んで国家の繁栄と人類の福祉に奉仕せんとする気概は、宵少年みずからがこれを養わなければなりません。青少年がかかる努力をなし得るよう環境を整備し、適切な指導を行なうことこそ、人つくり政策の基本であり、かねて政府が努力を傾けているところであります。  最近、経済の繁栄に対して心の再建の必要を指摘する声は高まっております。善悪を判断できない社会は、いわば、人間の存在しない荒れ地であります。われわれにとって、民族の伝統に根ざす正しい価値観を確立することがきわめて大切であります。かくて初めて、われわれの創造的活力は、単に経済のみにとどまらず、政治、社会、文化、科学などあらゆる分野に偉大な働きをなし得るものと考えます。私は、この観点に立って、道徳教育家庭教育充実強化、文化、科学の振興を一段と進め、家庭、学校、社会のあらゆる場において人間性の涵養をはかり得るよう配慮したいと存じます。  国家的、民族的なものを通じて、世界的、国際的なものに達するという考え方を、新しい意味で再発見すべきでありましょう。人種、宗教、政治の別なく、世界の人が一覧に集まり、平和と親善の実をあげるというオリンピックの精神もまたここにあるものと信じます。東京大会を迎えるにあたり、私は、青少年はもちろん、国民諸君のすべてがかかる精神を高揚し、大会を意義あらしめるよう衷心より願うものであります。  また、暴力の否定と法律等社会的秩序の確立の上にこそ、真の自由と平和が保障されるのであり、小暴力といえどもこれを看過してはなりません。政府は、法を無視し暴力を行使するものには、警察力の強化と法の厳正な適用により対処する方針であります。国民諸君暴力排除の気風を確立し、身近なところから人間尊重の機運が醸成されるよう期待してやまないものであります。  本年中に憲法調査会の八年にわたる審議の結果が報告される予定であります。私は、この機会に国家と民族の基本について国民諸君の理解が一そう深まることを期待すると同時に、世論の動向を十分に尊重し慎重に対処いたしたいと考えます。  行政制度についても、現在臨時行政調査会において検討を進められており、遠からず答申があるはずであります。行政制度とその運営が社会の進展に応じた効率的で前向きのものであることは、私の願うところであり、その改善に大きな希望を抱くものであります。  わが田経済は、昭和三十七年十月に引き締め政策が解除されてから、回復基調に転じました。三十八年に入ってからも予想以上の拡大を続け、三十八年度の経済成長率は、実質八%をこえ、鉱工業生産は対前年度比で十三%の増加となる見込みであります。  このような経済の上昇は、個人消費財政支出等が引き続き堅調に伸びたのに加え、在庫投資の増大、設備投資の回復が見られ、総需要が全体として増大したことによるところが大きいのであります。輸出もまた、拡大された経済の基盤の上に予想を上回る傾向を示しております。また、過去の設備投資の結果、生産能力が大幅に増大し、企業が金融によって操業度を、高く維持しようとしていることも、生産が高水準を続けている原因であります。  これら需要、供給両面の事情を反映して、輸入の伸びは輸出の増加を上回りつつあります。このような経済の拡大は、設備投資または在庫投資の行き過ぎにより、国際収支の危機を招いた過去二回の場合とその様相を異にしており、個々の需給面の要素で特に行き過ぎた増大が見られるわけではありません。しかし、国際収支は、輸入の増加が輸出の伸びを上回っている上、米国の利子平衡税法案等の影響もあって問題を生じており、また、農水産物、対個人サービス中小企業製品等の値上がりによる消費者物価の騰勢が弱まっていないことも見のがしてはならないことであります。  したがって、今後とるべき施策としては、絶えず国際収支及び消費者物価の動向に注意しつつ、総需要が適正な水準をこえないよう経済を引き締め基調で運用する必要がありますが、一方、近代化の立ちおくれている農業、中小企業生産性の向上をはかることも重要な課題であります。私は、政府民間相協力して努力するならば、三十九年度のわが国経済は実質七%程度の安定した成長を達成し、この間に、農業、中小企業の格差は縮小し、国際収支は途次均衡化の方向へ向かい、消費者物価の動きも必ず安定基調を取り戻すものと確信いたします。(拍手)  IMF八条国への移行やOECDへの正式加盟を目前に控え、わが国は、いよいよ本格的な開放体制へ移行するきびしい局面を迎えております。わが国経済がこの新しい国際環境に適応しつつ安定成長を確保していくためには、長期にわたる国際収支の均衡をはかることが最も肝要であります。特に最近における国際収支の悪化は、運賃支払い増加等貿易外収支によるところが大きく、しかもこの傾向は、貿易規模の増大につれて拡大するおそれがあります。  政府は、国際競争力強化のため、経済の質的強化を通じ、輸出の振興をはかるとともに、外航船腹の増強、観光事業の振興等、長期的視野に立った構造改善を積極的に推進して、国際収支の安定をはかる決意であります。なお、当面の国際収支の赤字に対しては、長期健全な外資の導入を促進するつもりであります。国民各位におかれても、国難品の愛用、不用不急物資の輸入の自制等を通じて政府の施策に協力されることを期待いたします。  消費者物価については、政府は、三十九年度中に安定基調を回復することを目途に、強い決意をもってあらゆる施策を結集してまいる考えであります。公共料金その他政府の規制し得る範囲のものについては、本年中は値上げを行なわない方針を堅持いたします。また、財政金融政策の適切な運用、農業、中小企業サービス業等近代化流通機構改善等をはかるほか、労働力の流動化、公正な価格決定を阻害する要因の排除、供給不足物資の増産、輸入政策の弾力的な運用等の施策を一段と強化し、これらの総合的な推進により消費者物価の安定を期する決意であります。  なお、物価水準を長期にわたって安定させていくためには、生産性向上の成果が、労使の力関係企業利潤、賃金のみに分配せられることなく、国民経済的な見地から、価格の引き下げ等により消費者にも適正に均てんされるよう、合理的な解決を期待するものであります。  農業の生産性農業従事者の所得は、順調に向上しておりますが、農業は自然的・経済的・社会的制約が強いため、他産業の成長におくれがちであります。このおくれを取り戻すには、生産基盤の整備と技術の進歩が最も大切であります。  政府は、農業基本法に示されました方向に従い、農地の流動化促進等による経営規模の拡大、土地改良など生産基盤の整備を推進するとともに、機械化をはじめ技術の革新を着実に推し進めて農業構造の改善をはかり、生産性の向上と総生産の増大を実現いたしたいと存じます。また、需要の強い生鮮食料品生産増加のため必要な措置を拡充することはもとより、中央卸売り市場の整備、食料品総合小売市場の設置等、流通機構合理化をはかることといたしました。さらに農林漁業金融公庫資金農業近代化資金については、融資ワクを大幅に広げ、公庫資金の利率など貸し付け条件の改善、簡素化等の措置をとるほか、無利子の改良資金貸し付けワクを飛躍的に増額することとしております。  中小企業近代化の目標は、人・技術・設備を三位一体とした総合的な経営力を養い、欧米先進諸国中小企業に劣らず少ない人手で高い生産性をあげ得る企業に発展させることであります。  政府は、中小企業基本法に示されました方向に従い、設備の近代化、事業の共同化技術水準の向上、流通経路簡素化小規模企業経営改善等につき、画期的な施策を講ずることにいたしました。なかんずく設備の近代化については、低利かつ充実した財政資金の確保、信用補完制度の拡充等の措置をとるほか、中小企業金融全般について、質・量両面から必要資金の確保に配慮いたしました。近代化のおくれておる商業部門を中心に、商店街ぐるみ近代化をはじめとして、店舗等の集団化、事業か共同化等の施策を積極的に行ない、人手不足に対処する経営の合理化と規模の拡大をはかってまいりたいと考えます。  社会保障は、西欧諸国の水準を目標に逐年努力を重ねております。政府は、この際、厚生年金保険国民健康保険等の給付の改善に着手するとともに、生活保護や、老人、児童、母子、心身障害者等、各種の福祉対策の一そうの充実をはかることといたします。また、租税負担については、所得税、住民税を中心に、国税、地方税を通じ、平年度総額二千百八十億円に及ぶ従来にない画期的な減税を行なうことといたしました。さらに、立ちおくれの日立つ道路、鉄道、港湾、通信等の産業関連施設、住宅、下水道、し尿処理施設等生活環境施設を中心とする社会資本の充実に格段の努力を傾注することとしております。  最後に一言いたしたいと思います。  新しい年は、国際的にも国内的にも解決をまつ多くの問題をかかえております。これらの課題の克服の上にわが国の飛躍と発展が築き上げられることは言うをまちません。  日韓会談OECDへの加盟、ILO条約批准等、対外的諸懸案を解決して、自主的な国民外交を展開し、わが国の進路を確定することがその第一であります。経済の運営を誤らず倍増計画国民生活に定着させることがその第二であります。内閣の基礎をなすわが自由民主党の近代化を推進し、公党の倫理性を高めるとともに、政治の基盤をなす選挙制度についても合理的な改正を行ない、議会政治に対する国民諸君の信頼にこたえるととが第三の問題であります。  オリンピックIMF総会の開催など世界の関心が日本に集まるただ中で、これらの問題を解決するわれわれの責務は、きわめて重大と言わねばなりません。  以上の三つは、私が真剣に取り組まなければならぬ当面の課題であります。私は、世論を背景に、勇断をもって事に当たる覚悟であります。国民諸君とともに歩む道が、前進する歴史の法則にかなうものであることを、心から願うものであります。(拍手)   —————————————
  7. 議長(重宗雄三君)(重宗雄三)

  8. 国務大臣(大平正芳君)(大平正芳)

    国務大臣大平正芳君) 昨年は、部分的核実験禁止条約をはじめとして、東西周における政治的交渉ないし接触が、頻繁かつ穏健となり、東西貿易もまた、拡大方向をたどり、いわゆる緊張緩和が、世界の人心に一条の安堵と希望を与え始めた年でありました。この間にありまして、主導的な役割を演じたケネディ米国大統領の不慮の死は、全世界に大きい悲しみと衝撃を与えましたが、そのあとを継いだジョンソン大統領は、直ちにケネディ政策踏襲方針決意を明らかにする一方、フルシチョフ首相をはじめ世界の多くの指導者も、これを歓迎する態度に出ることによりまして、東西間の緊張緩和への主流的な動きは、一応そこなわれることなく、新たな年を迎えたのであります。    〔議長退席、副議長着席〕  部分的核実験禁止条約の締結は、冷戦の緩和に向かっての第一歩を意味するものではありましたが、ドイツベルリン問題、北大西洋、ワルソー両条約機構の不可侵問題、奇襲防止を含む軍縮問題等東西間に横たわる問題につきましては、今なお交渉進展の目途が立つに至っておりません。また、われわれは、部分的核停条約と、これに象徴される緊張緩和に対する評価はいまだ帰一せず、また、東西間の交渉ないし接触にも消極的な見解が存することを、忘れてはならないと存じます。しかし、われわれは、道はいかにはるけくとも、平和への希望は一瞬もこれを捨てることなく、緊張緩和と、これを裏づけるための着実な努力を、忍耐強く続けていくべきであると考えます。  われわれ自由陣営に属する国々が、自掛を守るという共通の目的をもつて、あらゆる分野における協力を進めているのは、決して異なる体制のもとにある諸国との対立激化を目的とするものではなく、ましてやそれらの諸国に対する挑発を意味するものでもありません。あくまでも自由の体制を擁護し、みずからの安全を保ちつつ、世界の平和と繁栄に寄与しようとするのが、われわれの念願にほかならないのであります。わが国外交ないし防衛政策基調は、申すまでもなく、まさにそこに存するのであります。幸いにして、この自由陣営側決意と団結を前にして、共産陣営の内部においても、核戦争の人類に及ぼすべき破滅的な災害を回避せんとする、イデオロギーを越えた共通の願望が芽ばえましたところに、今日のいわゆる緊張緩和の素地が生まれたものと思います。したがって、この緊張緩和の状態をもって、直ちにわが国外交ないし防衛政策基調を変えてよいということにならないばかりか、むしろ一そう固い決意をもって、自由陣営の一員としての立場に立ち、世界の平和と繁栄に対するみずからの責任を果たしてまいらなければならないと考えます。  昨年の国連第十八回総会は、かような世界の空気を反映して、新しい協調的雰囲気のうちに推移し、核兵器等大量破壊兵器の軌道打ち上げ禁止決議採択等、数多くの成果をおさめたのであります。また、各加盟国間は、いたずらに宣伝を事としたり、非難の応酬を繰り返えすがごときことなく、植民地独立人種差別撤廃あるいは機構改革等の問題につきましても、比較的穏健かつ建設的な態度を見せ、全体として和解と協議の精神の中に、地道ながらも国際協力の実をあげることができたのであります。このことは、各加盟国国連の機能を強めようという自覚のもとに、忍耐強い努力を払った結果にほかならないと思います。わが国連代表間もまた、その建設的な役割を通じて、国連の機能の伸長に相当の寄与をなし得たものと信じております。いまや百十三の加盟国を擁し、世界平和維持機構としてますます重要性を加えつつある国連の将来の発展のため、わが国といたしましては、一そう努力を傾けてまいる所存であります。  わが国自由諸国との協力関係は、昨年来順調な進展を遂げております。米国との関係はますます緊密の度を加えつつあります。昨年ケネディ大統領の突然の死により中止のやむなきに至りました両国閣僚による第三回貿易経済合同委員会も、近く東京において開催される運びとなりました。また、昨年末、日米両国政府協議の結果、在日米軍の一部について、その配置調整が行なわれることとなりました。これは、米軍の世界的配置調整の一環として、わが国自衛能力向上米国軍事力近代化に即応してとられた措置であって、日米安全保障条約により米国が負う防衛義務と、面倒が共同してわが国の安全を確保する防衛能力に、何らの変改を加えるものではありません。  西欧諸国との間におきましては、昨年英仏独の三国と、外務大臣レベルでの定期的な協議を開始し、本年はその第二回目の定期協議を行なう予定であり、相互に関心のある諸問題につき率直な意見の交換を行ない、一そうの信頼と理解を深めてまいりたいと考えております。また、本年は、さきにデンマークのヘッケルプ外相の来訪をうけ、さらに現在ベルギー国王御夫妻を国賓として迎え、近くスウェーデンのニールソン外相の辛口が予定される等、わが国とこれら諸国との協力関係は一段と緊密さを加えております。  戦後アジアにおきましては、東西対立関係を背景といたしまして、新興諸国が当然に直面せざるを得ない国内的諸問題に加えて、一部のアジア諸国間におきましては、民族的宗教的対立関係も存在し、アジアが全体として、安定した調和ある発展を遂げるためには、なお相当の年月と幾多の困難が予想されるのであります。  わが国アジア諸国との歴史的地理的なつながり、さらに今後ますます緊密化を予想される、これら諸国との政治的経済的関係に思いをいたすとき、アジアの安定と繁栄が、直ちにわが国自体の安全と繁栄に連なることは申すまでもありません。のみならず、アジアにおける不安と対立は、常に世界全体の平和に対する脅威となる危険をも包蔵しているのであります。この意味におきまして、わが国が、アジアの情勢にいかに対処するかは、日本外交の最大の課題であることは申すまでもありません。  思うに、わが国は、かつて約百年前鎖国から開国への大きな国内変革を経て、自助の精神をもって、営々として政治、法制、経済等近代化につとめ、見るべき実績を達成してまいりました。戦後のアジア諸国は、まさにわが国明治時代にそうであったように、急速に経済開発を推進し、政治的安定を達成しようと懸命の努力を続けております。したがって、わが国は、これら隣接諸国の願望や、その直面する困難を正しく理解し、友情に基づいた率直な助言と適切な援助を与え得る立場にあると信ずるのであります。  このようなわが国アジア諸国に対する、特有の立場と独自の役割を考えますとき、わが国アジア諸国との協力関係は、単に経済技術的な見地にとどまることなく、アジア全体の調和ある発展を志向し、政治経済、文化のあらゆる分野にまたがり、しかも永続的な基盤の上に発展せしめていかなければならないと信じます。  しかしながら、われわれが、そのような至難な国際的協力を提供せんとするならば、その前提として、わが国自体がどのような姿勢をとり、どのような条件が具備されなければならぬかを、真剣に検討しなければならないと考えます。戦後わが国が、目ざましい経済の進歩を遂げましたことは、何人も認めるところであります。しかしながら、もしわが国民が、ただ単に経済進歩の高さを誇り、経済繁栄の中に安住することをもって事足れりとするならば、それはアジア諸国民の信頼と共感をかちとるゆえんでないと思います。わが国は戦後自由と民主主義の体制確立に努力してまいりました。今後もこの体制をますます品位あらしめ、かつ、豊かならしめるよう努力してこそ、初めてアジア諸国の信頼を高め得るのであります。また、他のアジア諸国民の苦難をみずからの苦難と感ずるとともに、みずからの繁栄アジア諸国民と分かち合う決意で、進まなければならないと思います。  日韓交渉につきましては、その根幹をなす請求権問題の解決方式につき、一昨年末、大筋の合意が成立し、以来交渉の局面は、漁業問題に移っております。漁業問題は、日韓面国民にとりまして最も関心の深い問題であり、目下これを国際慣行にのっとった、公正かつ合理的内容をもって解決すべく鋭意努力を重ねております。韓国におきましては、昨年十二月民政移管が実現し、その内政に新らしい方向づけが行なわれたことにより、日韓会談の促進にとりましても、好ましい環境が整えられたわけであります。政府といたしましては、諸懸案を国民の十分納得し得る形で一新解決し、すみやかに両国の国交正常化をもたらすべく、目下せっかく努力を傾けております。  日華親善関係の維持は、アジアの平和と繁栄にとりまして、ゆるがせにできないところであります。最近両国の間に、友好関係を妨害する空気が発生いたしましたことは遺憾であります。政府は今後誠意をもって、意思の疎通を通じて相互の理解を深め、両国の国交改善のため努力する所存であります。  中華民国政府との間に正規の外交関係を維持しつつ、中田大陸との間には、政経分離の原則のもとに、貿易をはじめとする民間べースの接触を保っていくことが、わが国既定の方針であります。最近、中共政権との間に新たな外交関係を設定せんとする国際的働きが見られますが、わが国としては、アジア、ひいては世界の平和維持の観点から、事態の推移と国際世論の動向を見きわめつつ、慎重に対処する考えであります。  沖繩につきましては、近く協議委員会及び技術委員会が設置されることとなっておりますので、沖繩同胞の安堵と福祉の増進のための日米協力関係は、一そう促進されることになるものと信じます。  この一年間、世界経済は紆余曲折はありましたが、全般的に繁栄の道をたどり、本年もほぼ順調な発展が予想されております。  わが国の貿易額は昨年約百二十二億ドルに達するものと見込まれ、一昨年に比し一八%の増加を示しました。特にEEC諸国に対する輸出は約二五%の大幅な増加が見込まれ、また、わが国にとり最大の輸出市場である米国に対する輸出も引き続き着実な増加を示しております。このことは、わが国経済世界経済との相互依存性がますます増大し、わが国経済発展が、世界全体の協調繁栄の中に、その道を見出さなければならないことを物語るものであります。  昨夏交渉を妥結し、本国会にその承認を求めております経済協力開発機構(OECD)への正式加盟は、わが国が国際的協力に積極的に貢献する第一歩として、きわめて重要な意義を有するものであります。すでに参加中のガットにおける関税一括引き下げ交渉に対しましても、留易立国日本の立場において、その成功のためできる限りの貢献をいたしたいと考えております。  昨年は日英通商航海条約の締結をはじめとし、主要諸国との間のガット第三十五条援用撤回の交渉がはかどり、ほぼその目的を達成することができました。残された差別的対日輸入制限の撤廃については、今後とも一そうの努力を払う所存でありますが、来たるべきIMF八条国への移行と、それと並行するわが国の貿易。為替の自由化、すなわち開放経済体制の推進は、わが国の国際信州の向上と相まって、今後の交渉におけるわが国の立場を、一そう強化するものと確信いたします。  わが国の対共産圏貿易は、年を追うて順調な伸びを見せております。また、世界的に東西貿易拡大の雰囲気が、醸成されつつありますことも事実であります。政府は、今後も商業ベースによる対共産圏貿易は、従来どおりこれを進めてまいる所存であります。しかし他方、共産諸国側の外貨事情、輸出能力等が、その貿易拡大の制約となっている事情もあり、これに過大の期待をかけることはできないものと考えております。  最近、低開発国の経済発展の問題は、いわゆる南北問題として、単に経済問題にとどまらず、調和ある世界平和の維持にとりましても、きわめて重要な意義を持つに至りました。この問題解決のため、すでに国際連合、ガット、OECDなどの場において種々の試みがなされております。今春開かれまする国連貿易開発会議は、この意味におきまして、きわめて重要な政治的、経済的意義を持つものでありまして、わが国も、世界的要請にこたえ、わが国経済構造との関連を調整しつつ、応分の貢献をしなければならないものと考えております。  今後アジア並びに中近東アフリカ諸国経済開発に対する協力を推進するにあたりましては、供与する資金と技術を、最も有効に使用するよう心がけねばならないことは当然であります。他方、発展途上にある諸国、特にアジア諸国経済開発計画を効果的に推進していくためには、内外からの資金調達とともに、その受け入れ体制が整備ざれることが不可欠であることは申すまでもありません。すなわち、国民全般の教育水準の向上、なかんずく行政能力の充実、労働力の質の改善、さらには社会的組織力の強化が必要となってまいります。資金供与とともに、わが国が有効に果たし得る役割りは、との分野での協力を拡充強化することであります。けだし、このような協力は、さきに述べたような、わが国アジア諸国に対する特殊な関係から、独自の意義を持っておるものと考えるものであります。  わが国技術協力は、昭和二十九年コロンボ計画に加盟して以来、着実にその規模を拡大し、現在までにアジア諸国に対し派遣した専門家は約五百名、また、これらの諸国から受け入れた研修比は、四千名をこえんとしております。アジア諸国からの要請にこたえるためには、この規模はさらに拡大していくことが必要であります。また、このため来年度においては、コロンボ計画による研修虫の増員のほか、青年奉仕隊派遣のための調査、及び器材供与による技術協力方式の導入等、新たな措置を計画中であります。これらは技術協力の拡充、特にその質的強化への重要な布石になるものと考えます。  中南米諸国との伝統的親善関係は、政治経済、文化の面にわたりますます緊密の度を加えております。その重要な背景として、長年月にわたる日本人移住の歴史があることは、御承知のとおりであります。海外移住は、二面において、国民特に青少年に対し、進取の気象と海外発展の夢を与えるとともに、移住先の国々に対し、有能な人材を送ることにより、その経済開発に寄与し得るのであります。政府はこのような見地から、昨年発足した海外移住事業団を通じ、国の内外に一貫した施策を講ずることにより、移住の促進に努力する考えであります。  今秋はいよいよオリンピック東京大会が開かれます。オリンピックの目的は、その憲章にうたわれておりますとおり、世界の若人を友好的な競技会に参集きせることによって、諸国民間の愛と平和の維持に貢献することにあります。私はすべての民族が、互いに理解と認識を深め、さらに高いヒューマニティの立場から互いに尊敬し合うことこそ、世界の平和とその調和ある進歩とをはかるゆえんであると考えます。この音加味において、オリンピック大会が東京で開かれることは、まことに慶賀すべきことであり、その成果に大きな期待を寄せるものであります。  東京大会には全世界から多数の訪問客の参集が期待されます。この機会こそ、わが国の、ありのままの姿や、すぐれた伝統に根ざす日本文化を、広く世界の人々に紹介することのできる絶好の機会であると考えます。遠来の客がわが国における滞在を楽しく過ごし、わが国に対する認識を深めることができるよう、国民諸君がこぞって協力されることを願ってやみません。  近年における交通、通信網の飛躍的発展は、この地球をますます狭いものとするとともに、諸民族の運命をいよいよ一体化するに至りました。われわれは国際社会の中で、もはや、「われひとりよし」として、孤高のからに閉じこもることはできなくなりました。外交もすでに全国民の日常生活の一部となってまいりました。私は国民各位が、政府外交方針に深い理解と強い支援を賜わりますよ、切望してやみません。(拍手)   —————————————
  9. 副議長(重政庸徳君)(重政庸徳)

    ○副議長(重政庸徳君) 田中大蔵大臣。   〔国務大臣田中角榮君登壇拍手
  10. 国務大臣(田中角榮君)(田中角榮)

    国務大臣(田中角榮君) 昭和三十九年度予算の提出にあたり、その大綱を御説明いたしますとともに、財政金融政策基本的考え方について、所信を申し述べたいと存じます。  本年は、わが国OECD加盟、IMF八条国移行に伴い、名実ともに国際経済社会の有力な一員となる本格的な開放体制移行の年であります。貿易なくしては経済を営み得ず、貿易の伸長なくしては経済の拡大を期しがたいわが国にとりまして、開放体制への移行こそは、日本経済が、常に前進する国際経済社会の中にあって、さらに大きな発展の機会を見出していくために、みずからが選んだ発展への道であります。すなわち、これによりまして、わが国は、諸外国との経済交流を緊密化し、国際分業の利益を一そう享受するとともに、輸出市場をさらに拡大し得ることとなるのであります。  しかし、同時に、わが国経済が国際経済の動向から来る影響をより面接的に受け、また、国際経済上の要請に一段と積極機敏に応じていくべきこととなるのも明かなところであります。われわれは、この新しい段階に進むに際し、わが国経済の前途に自信と希望を持つべきではありますが、同時に、わが国経済の運営が複雑さを加え、その国際的責任が重さを増す事実に思いをいたし、決意と工夫を新たにするのでなければならないと考えます。  近時、世界経済は、国際協調を通じ、貿易並びに資本交流の自由化をはかるごとによって、拡大均衡を実現する方向に進みつつあり、当時の景況も、米国景気の引き続く上昇、西欧経済の持続的堅調を中心に、総じて上昇傾向にあると判断されるのであります。しかしながら、米国のドル防衛の強化、国際流動性の確保、EECをめぐる域内域外の利害の調整等、なお幾多の複雑な問題が存することもいなめない事実であれ、まして、わが国経済をめぐる国際環境は、必ずしも容易なものではないと認められるのであります。  さて、わが国経済が、ここ数カ年にわたる急速な成長の成果として、産業構造の嘉慶化、完全雇用への接近、国民生活水準の向上並びに所得格差の縮小等、顕著な進歩の実績をあげ得ましたことは、周知のとおりであります。この急速な成長の過程を通じて、農業中小企業等、相対的に立ちおくれた部門の近代化合理化の緊要性、若年労働力を中心とする労働需給の逼迫等の問題が生じてきており、着実な成長を保ちつつ地道にこれらの解決をはかることが今後の重要な課題となっておるのであります。また、後に述べますように、昨年来、輸出の伸びを上回る輸入の増加と貿易外収支の赤字幅の増大から、経常収支の逆調が続いており、国際収支改善に一そうつとめる必要が生じておるのであります。わが国経済が国際経済からの影響を受けやすくなっている現在、この問題には従来以上に慎重な態度で対処いたしますとともに、その根本的な解決にあたっては、長期的、総合的な見地に立って、建設的な努力を傾けるべきであると考えるのであります。  以上、要するに、今後、わが国経済開放体制下に堅実な発展を続けてまいりますためには、日本経済に内在する成長力を、世界経済の動向、国際収支、物価の動き等、内外諸要因の推移に即応しつつ適切かつ弾力的に調整し、もって、調和のとれた適度な成長を実現するとともに、経済社会の各部面において所要の体質強化を着実に進め、国民経済全体としての生産性を一段と高めることが基本的に肝要であります。  政府は、このような見地に立ち、昭和三十九年度予算の編成にあたりましては、国際収支改善と物価の安定を主眼とし、いやしくも財政が景気に対し刺激的な要因となることを避けるため、健全均衡財政の方針を堅持することといたしておるのであります。支出内容におきましても、将来にわたる国力発展の基盤を充実し、経済各部門の均衡ある発展に資するための重要施策に対しまして、資金を効率的、重点的に配分し、その着実な推進を期しておるのであります。また、税制面におきましては、国民負担の軽減、合理化をはかり、あわせて企業資本の充実等、所要の体質強化を進めるため、画期的な大幅減税を行なうことといたしておるのであります。さらに、財政と金融とは、もとより相補い、相助け、両者一体となって運営さるべきものでありまして、今後の金融政策の運用にあたりましても、財政上の諸施策と相まって、経済の安定的成長とその体質強化を期してまいる所存であります。  以下、今回提出いたしました昭和三十九年度予算について御説明いたします。  一般会計予算の総額は、歳入、歳出とも、三兆三千五百五十四億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対し、四千五十四億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しては、二千八百十二億円の増加となっておるのであります。  また、財政投融資計画の総額は、一兆三千四百二億円でありまして、昭和三十八年度当初計画に対し、二千三百五億円の増加となっておるのであります。  政府が特に重点を置きました重要施策につき、その概要を申し述べますと、まず、中央、地方を通ずる減税を中心とする税制の改正であります。昭和三十九年度におきましては、最近の国民負担の現状及び経済情勢の推移にかえりみ、中小所得者に重点を置いて所得税の負担を軽減すること、資本の充実と設備の更新に資するとともに中小企業の負担軽減をはかるため、企業課税の軽減を行なうほか、産業の国際競争力の強化など所要の特別措置をあわせ講ずること、市町村民税負担の不均衡を是正すること等、平年度二千百八十億円に及ぶ大幅な減税を行なうことといたしております。  すなわち、所得税におきましては、国民生活の安定に資するため、広く基礎控除、配偶者控除、扶養控除を引き上げるとともに、専従者控除及び給与所得控除の改正、譲渡所得課税の適正合理化、その他所要の改正を行なうことといたしております。この結果、たとえば、夫婦及び子供三人の給与所得者の場合、所得税を課されない限度は、現在の約四十二万八千円から約四十八万五千円に引き上げられることとなり、中小所得者の所得税の負担は著しく軽減されることになるのであります。  法人税におきましては、開放経済への移行に備えて、企業の経営基盤の強化をはかるため、機械設備を中心に、固定資産の耐用年数を平均一五%程度短縮するとともに、中小企業の負担の軽減をはかるため、軽減税率の適用所得限度額及び同族会社の留保所得課税控除額の引き上げを行なうことといたしました。さらに、企業の国際競争力の強化、科学技術の振興、企業資本の充実等、当面要請される諸施策に即応ずる特別措置をあわせ講ずることといたしております。また、地方税におきましては、昭和二十九年度における地方財政の実情を考慮しつつ、市町村民税の負担の不均衡を是正するため、その制度の合理化をはかるとともに、固定資産税の負担の調整、電気ガス税の引き下げ、法人事業税の軽減等の措置を講ずることといたしております。さらに、最近の道路輸送需要の増大に対処し、その整備財源の拡充をはかるため、道路整備計画の改定と見合って、揮発油税、地方道路税及び軽油引取税の税率をそれぞれ引きあげることといたしております。なお、関税率につきましては、経済の諸情勢に応じ、所要の調整を行なうことといたしておりますほか、とん税及び特別とん税につきましても、国際収支改善に資するため、その税率をそれぞれ引き上げることといたしておるのであります。次は、農林漁業の近代化であります。農林漁業につきましては、農業構造改善事業、農業基盤整備事業等、農業基本法の定める方向に沿いつつ、成長農産物の選択的拡大、生産性の向上、経営の安定強化に資するための諸施策を総合的に推進いたしますとともに、農林水産物の価格安定と流通機構改善合理化をはかるため、所要の予算措置を講じておるのであります。また、農林漁業金融公庫の新規貸付計画額を、昭和三十八年度の八百七十億円から一千七十億円へと拡大するとともに、融資条件の改善を行なうこととし、農業近代化資金農業改良資金の融資ワク拡大とあわせ、農林漁業金融の飛躍的拡充、改善を期することといたしておるのであります。  次に、中小企業近代化、高度化であります。中小企業につきましては、昭和三十八年度に確立された基本政策に基づき、設備の近代化、構造の高度化を通じて、経営基盤の安定強化に資するため、中小企業同慶化資金融通特別会計への繰り入れを飛躍的に増額いたしますとともに、設備近代化補助、小規模事業対策等の諸施策を引き続き拡充、強化することといたしておるのであります。また、税制面におきましても、前に述べましたとおり、法人税軽減税率の適用限度の引き上げ等、国税、地方税を通じて、中小企業に対し平年度六百億円を上回る減税を行なうことといたしております。中小企業金権対策といたしましては、中小企業信用保険公庫に対する出資を格段に増額して信用保証協会の資金を充実し、保証機能の強化、なかんずく、手形割引保証の拡充をはかりますとともに、財政投融資計画におきましても、国民金融公庫、中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫の貸し付けワクの拡大と商工組合中央金庫の貸し出し利率の引き下げのため、巨額の財政資金を投入するほか、新たに、中小企業金融公庫に債権の発行を認める等の措置を講じ、民間金融機関の協力と相まって、中小企業金融の拡充円滑化に資することといたしておるのであります。  わが国社会保障制度は、年々充実の一途をたどってまいったのでありますが、昭和三十九年度予算におきましても、経済発展に応じた国民生活の均衡ある向上と、社会福祉の増進に資するため、引き続き、社会保障関係の諸施策にわたっての改善充実をはかることといたしておるのであります。  すなわち、生活保護基準の大幅な引き上げを行ないますとともに、国民健康保険の世帯員に対する療養給付率を四カ年計画で七割に引き上げ、医療保険の充実に資することといたしておるのであります。また、福祉年金につきましては、他の公的年金との併給限度額の引き上げ、所得制限の緩和等の改善措置を講ずることといたしたのであります。  雇用対策につきましても、産業構造、雇用構造の変化に即応して、労働力移動の一そうの円滑化をはかることといたしておるのであります。  以上、社会保障関係費の総額は四千三百七億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対して、六百九十二億円の増加となる次第であります。  次に、住宅の建設及び生活環境施設の整備であります。  住宅につきましては、昭和四十五年度における一世帯一住宅の実現を目標に、公営住宅建設のための予算を増額するほか、政府資金、民間資金を活用して、住宅金融公庫、住宅公団等の資金を充実し、三十一万七千戸に及ぶ政府施策住宅を建設いたしますとともに、民間自力建設の推進に資するため、固定資産税、不動産取得税の減税及び新築貸し象住宅の特別償却制度の拡充を行なうことといたしました。また、上下水道、し尿処理施設等生活環境施設につきましても、その整備が、経済成長と生活水準の向上に立ちおくれている現状にかんがみ、予算及び財政投融資計画を画期的に増額し、その積極的整備を促進することといたしておるのであります。  文教を刷新して健全な青少年の育成につとめ、科学技術を振興して現下の要請にこたえることは、政府の重大な責務であり、従来とも最も意を用いてきたところであります。  これがため、昭和三十九年度におきましては、教育水準の向上と教育環境の整備改善に格段の配慮を行ない、小、中学校における教職員数の充実と、教室等施設の整備を一そう推進することといたしたのであります。特に、国立学校につきましては、その管理運営の円滑化、なかんずく、施設設備の飛躍的整備をはかるため、新たに国立学校特別会計を設け、国立高等専門学校及び理工系学部、学科の増設等を積極的に行ない、産業の発展、高度化に伴う技術者の養成に遺憾なきを期しておるのであります。  また、教育の機会均等を確保するための育英奨学、僻地教育の振興、私立学校の助成、学校給食の改善等につきましても、特段の配慮を加えましたほか、義務教育教科書の無償給与制度の伸展をはかることといたしたのであります。  科学技術の振興につきましても、宇宙開発推進本部を新設する等、各省試験研究機関の研究体制を強化し、原子力の平和利用、国産新技術の開発、防災科学等の重要研究を推進することといたしたのであります。  以上、文教及び科学振興費の総額は四千百三十六億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対し三百九十億円の増加となっておるのであります。  次は、社会資本の充実、産業基盤の強化であります。  まず、道路の整備につきましては、新たな五カ年計画を策定し、昭和三十九年度以降五カ年間に、総額四兆一千億円の資金を投入し、もって、道路輸送需要の増大、地域開発の展開等、現行計画策定後の情勢変化に対処することとし、このため、揮発油税及び地方道路税の税率を引き上げる等の措置を講じて、必要な財源の確保をはかることといたしております。昭和三十九年度におきましては、この新計画の初年度といたしまして、予算及び財政投融資計画を通じ、大幅な資金の確保につとめておるものであります。  港湾につきましては、その重点的整備を促進するため、道路整備と並んで予算の著増をはかりますとともに、港湾貨物の増大、地域開発の進展等、最近の変化に対応して、昭和三十九年度を初年度とする新五カ年計画を策定することといたしております。  また、日本国有鉄道につきましては、東海道新幹線の完成を期するとともに、安全輸送の確保と輸送力の増強をはかるため、改良工事を大いに拡充することとし、また、日本電信電話公社につきましても、電信電話施設の整備拡充をはかることといたしました。  なお、増大する産業用地、用水需要に対処するため、土地造成と水資源の総合的開発を推進するほか、新産業都市の建設等、地域開発を促進するため必要な資金につきましても、予算及び財政投融資計画を通じて、その確保につとめる所存であります。  ざらに、治山治水事業につきましても、その大幅な推進をはかるため必要な予算を計上いたしまして、災害復旧等事業の進捗と相まち、国土保全に万全を期することといたしました。以上、公共事業関係費の総額は、災害復旧等事業費及び高潮対策事業費を除き、五千三百七十七億円に達し、昭和三十八年度当初予算に対し九百三十九億円の増加となっております。  次に、輸出の振興につきましては、日本貿易振興会等による海外市場調査、国際見本市、広報宣伝等の海外活動を積極的に行ないますとともに、日本輸出入銀行に対する財政資金を増額して貸し付け規模を拡大するほか、税制面におきましても、企業の国際競争力を強化する等のための減税を行なうことといたしたのであります。  また、引き続き、対外経済協力を推進するほか、貿易外収支の改善に資するため、海運業の体質改善外航船腹の拡充、国際航空事業の育成強化につきましても、所要の措置を講ずることといたしております。  地方財政の内容は、幸いにして、良好な状況で推移しておりますが、昭和三十九年度におきましては、市町村民税及び電気ガス税の減税を行なう一方、市町村民税臨時減税補てん債の発行及び市町村たばこ消費税の税率引き上げによって、地方財政の運営に遺憾なきを期しているのであります。  そのほか、地方税及び地方交付税の著しい増収等により、地方財政の基盤はますます強化されますので、地方における行政内容と住民福祉は、一そうの向上が期待される次第であります。  財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目においても触れましたところでございますが、計画の策定にあたりましては、農林漁業及び中小企業関係金融の充実、住宅の建設及び生活環境施設の整備に重点を置くとともに、輸出の振興、道路、鉄道等社会資本の強化及び地域開発の推進に特に配意いたしておるのであります。  なお、この際、昭和三十八年度補正予算第三号について一言申し述べます。  公務員の給与改善、災害の復旧等につきましては、さきに、補正予算第二号をもって対処いたしたのでありますが、今回、さらに、産業投資特別会計及び同特別会計資金への繰り入れ、義務教育費国庫負担金等義務的経費の不足補てん、地方交付税交付金の増額等を内容として、総額八百二十六億円の補正予算第三号を提出いたしました。  産業投資特別会計への繰り入れは、輸出振興の重要性にかんがみ、日本輸出入銀行に対して行ないます同特別会計の追加出資に必要な財源を繰り入れるものであり、また、同特別会計資金への繰り入れは、経済基盤の強化、企業の体質改善を強力に推進する等のため、出資需要がますます増大しておりますので、この際、その資金を充実することが急務と考え、これを行なうものであります。  このほか、日本国有鉄道におきましても、改良工事を促進し、鉄道輸送の安全確保に資するため、改良費を追加することとし、所要の予算措置を講ずることといたしました。  また、これらに関連いたしまして、財政投融資計画におきましても、日本輸出入銀行及び日本国有鉄道につき、それぞれ所要の追加を行なった次第であります。  次に、金融政策並びに資本市場育成の問題について申し述べます。  最近における国際収支の推移、生産及び物価の動向、金融機関貸し出しの趨勢等にかんがみ、昨年十二月、日本銀行においては、準備預金の率を引き上げたのでありまして、企業の資金需要及び金融機関貸し出しの増勢は、鎮静に向かうものと期待しておりますが、今後とも、経済の動向を慎重に見守りながら、機に応じて適切な施策が実施せられ、資金需給の調整を通じて、経済活動が適正に保たれるよう意を用いてまいる考えであります。  もとより、金融の調整にあたりましては、近代化合理化により、新たな発展への道を求めつつある中小企業等の真剣な努力が、いやしくもこれによって阻害されることのないよう、細心の留意をいたしてまいる所存であります。  次に、わが国が開放経済への移行に即応し、わが国経済の体制を整備してまいるにあたりまして、金融界の果たすべき役割は、いよいよ重きを加えつつあると認められるのであります。したがいまして、この際、各金融機関は、その公共的社会的責任について一段と自覚を深め、みずからの経営態勢の刷新合理化をはかるとともに、特に、融資にあたっては、いたずらに過当な競争に走ることなく、広く国民経済的視野に立って節度ある態度を堅持し、金融機関としての責務の達成につとめられるよう切に期待する次第であります。  さらに、わが国企業におきましても、その基盤を充実するため、戦前及び諸外国に比してきわめて悪化している自己資本比率の向上をはかり、長期安定資金の確保につとめることが、この際、特に必要と思われるのであります。  このような見地から、政府といたしましては、今回、企業、投資家及び証券業者に対する一連の税制上の施策を実施することといたしておりますが、今後とも、資本市場の健全な発展をはかるため、各般の施策を着実に推進してまいりたいと存じております。もとより、資本市場の安定した運営と発展の基礎は、堅実な大衆投資家の支持と信頼を得ることにあるのでありまして、この点にかんがみ、証券業者におかれては、経営の健全化と投資勧誘態度の適正化に一段と努力されるよう、強く要望いたす次第であります。  わが国は、近く、OECDへ正式に加盟し、世界の主要先進諸国との協力関係を一そう緊密化するとともに、四月一日を目途とするIMF八条国への移行に伴い、わが国の円は、交換可能通貨として、広く世界諸国から認められることとなるのであります。  このような新しい事態に対処するための努力の一環として、わが国がかねて強力に進めてまいりました対外取引の自由化につきましては、本年において、外貨予算制度の廃止、渡航制限の緩和等を行ない、経常取引に対する為替制限の撤廃を一応終了いたしたいものと考えております。もとより、このような自由化措置は、国際分業を通じ、経済活動の効率を高めるためのものであり、外貨の放漫な使用を許容し、乱費を奨励するものではないのでありまして、国民がそれぞれの立場において、外貨の合理的、効果的な使用につとめ、国際収支の安定に寄与することが、強く要望されているのであります。  近時、国際金融協力の必要性は、とみに高まりつつあります。これに即応し、昨年十月、日本銀行は、米国連邦準備制度と主要国中央銀行間のスワップ取りきめ網に参加し、国際的な通貨安定対策の一翼をになうこととなりましたが、さらに、わが国は、IMF借り入れ取りきめ参加十カ国蔵相会議の一員として、国際流動性確保のための対策の検討に積極的に参加しております。なお、このような気運が高まりつつある際に、本年秋のIMF、世銀等の総会が、わが東京で開催されることとなりましたことは、まことに意義深いものがあります。  また、世界の大勢は、為替の自由化から関税障壁の除去に向かっており、ガットにおいては、関税の一括引き下げ交渉が引き続き行なわれております。さらに、低開発国問題につきましても、経済援助の強化に加え、新たに、ガットや国際連合において、これらの諸国に対し、特恵関税を許与する等、その貿易拡大のための方途が検討されるに至っております。  政府といたしましては、これらの動きに積極的に対処しつつ、今後の関税政策を進めて参る所存でありますが、この際、わが国産業が、かかる動向に即応する体制をできるだけすみやかに整備することが、要望されているのであります。  最近の国際収支の推移を見ますと、輸出は、主としてわが国産業の国際競争力の強化、海外環境の好調を反映し、順調な伸長を示しておりますものの、輸入が、国際商品価格の高騰等、一時的な要因もさることながら、生産の大幅な上昇から顕著な増加を見せ、海運その他の貿易外収支における赤字幅の拡大と相まって、経常収支は、昨年年初来一貫してかなりの逆調を呈するに至っております。この間、総合収支は、資本収支の黒字によって、均衡を維持してまいったのでありますが、欧米諸国における資本市場の動向にかんがみ、今後、外資の流入に大きく期待することは、必ずしも容易でありません。したがいまして、財政金融政策等、各般の施策において万全を期しつつ、貿易収支の均衡回復と貿易外収支の赤字基調是正につとめてまいる所存であります。  国際収支につきましては、経常収支を均衡させることが望ましいのでありますが、当面、国内資本の不足を補い、国際収支の波動に対処する準備を手厚くするためには、引き続き優良な安定外資の秩序ある導入をはかることが必要であると存じます。  一方、対外投融資につきましては、わが国の海外市場を確保し、あるいは低開発諸国を援助するためのみならず、対外債務の見合いともなって、わが国国際収支の長期的安定に資するものでありますので、政府といたしましては、今後とも、国際間の協調を念頭に置きつつ、国力の許す範囲内において、堅実な対外投融資を積極的に進めていく所存であります。  以上、財政金融政策基本的な考え方と予算の大綱について御説明いたしました。  私は、開放体制への本格的な移行というまことに意義深い年に臨み、全く新しい気持をもって、この予算を編成いたしたのでありますが、この機会に、私が日ごろ痛感いたしておりますところを、率直に申し上げてみたいと存じます。  まず、予算は、国民すべてのものであるということを強調いたしたいのであります。国民の委託を受け、予算の執行に当たる政府、地方公共団体等におきましては、予算の執行に適正を期することはもちろん、さらに進んで、地方の実情等、国民生活の実態を十分わきまえ、効率的にこれを使用するよう工夫しなければなりません。しかし、このことは、国民各位の理解と協力がなければ、はなはだ困難であります。予算が、人つくり、国づくり等を通じて、われわれの今日の営みにつながり、明日の繁栄を築くためのものであることを十分理解せられ、政府施策協力を寄せられたいのであります。  次に、資本の蓄積と貯蓄の増強の重要性について、重ねて強調いたしたいのであります。  戦後十八年、国民のたゆまぬ建設的努力により、わが国の国力は、飛躍的に向上してきたのでありますが、国際経済に本格的に仲間入りしていくに際し、さらに一段と経済力を強化するため、従来にも増して、資本蓄積と貯蓄増強につとめねばならないと思うのであります。  企業におきましては、あくまで自己責任の原則に立ち、慎重かつ合理的な経営を通じて、資本内容を充実し、設備を効果的に高度化し、もって、内外のきびしい環境にも耐え得る力をつちかうことが肝要であると存じます。また、家庭生活にありましても、この際、心を新たにして、むだを省き、健全な消費生活を営み、貯蓄につとめられることが望ましいのであります。このような意味におきまして、このたびの大幅な減税を、企業及び家計において、資本の蓄積と貯蓄の増強に役立てられることを念願いたしておるのであります。  私は、日本国民の勤勉と良識によって、わが国経済が将来ますます発展し、より豊かな国民生活が築き上げられるとともに、この上に立って、わが国世界の自由と平和の建設に大いに貢献してまいることを国民各位とともに信じて疑わないものであります。(拍手)
  11. 副議長(重政庸徳君)(重政庸徳)

    ○副議長(重政庸徳君) ただいまの演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  12. 副議長(重政庸徳君)(重政庸徳)

    ○副議長(重政庸徳君) 御異議ないと認めます。  次会の議事日程ば、決定次第、公報をもって御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後六時十一分散会    ————————