運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1964-06-25 第46回国会 参議院 法務委員会 第35号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十九年六月二十五日(木曜日)    午後一時四十二分開会   —————————————   委員の異動  六月十八日   辞任      補欠選任    野知 浩之君  鈴木 一司君  六月二十日   辞任      補欠選任    日高 広為君  田中 清一君    栗原 祐幸君  津島 壽一君    小宮市太郎君  大和 与一君    米田  勲君  山口 重彦君   —————————————  出席者は左のとおり。    委員長     中山 福藏君    理事            後藤 義隆君            迫水 久常君            稲葉 誠一君            和泉  覚君    委員            植木 光教君            鈴木 一司君            鈴木 万平君            田中 啓一君            坪山 徳弥君            亀田 得治君            大和 与一君            岩間 正男君            山高しげり君    発議者     山高しげり君   国務大臣    法 務 大 臣 賀屋 興宣君   政府委員    法務省民事局長 平賀 健太君   最高裁判所長官代理者    最高裁判所事務    総局民事局長  中村 治朗君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   説明員    法務省民事局参    事官      宮脇 幸彦君    中小企業庁計画    部長      井上  亮君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○売春防止法の一部を改正する法律案  (赤松常子君外一名発議) ○民事訴訟法の一部を改正する法律案  (内閣提出)   —————————————
  2. 中山福藏

    委員長中山福藏君) これより法務委員会を開会いたします。  この際、一言申し上げます。先日、議長自由民主日本社会両党の幹部にお集まりを願った際、当委員会運営に関連して次のような趣旨の御発言があったと承っております。それは、「だんだん伺うところによりますと、この紛糾の焦点は、討論省略動議を可決し、直ちに採決された点にあるようでありますが、議長といたしましては、質疑省略討論省略などということは全会一致の場合を除いては行なうべきでないと考えております。この機会に両党幹部の皆さんにこの点を申し上げ、特に御配慮を要請する次第であります。」ということでございます。つきましては、委員長といたしましても、今後この趣旨に沿って当委員会運営をいたしたいと存じます。  なお、去る十七日、稲葉君から賛成者を得て提出されました委員長不信任動議は、ただいま同君から撤回されましたので、御報告いたします。   —————————————
  3. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 次に、売春防止法の一部を改正する法律案議題とし、発議者より提案理由説明を聴取いたします。山高しげり君。
  4. 山高しげり

    ○山高しげり君 売春防止法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  売春防止法が制定されましてから八年を経過いたしましたが、関係機関団体の御努力により、法施行による成果が実を結びつつありますにもかかわらず、依然として売春助長行為等あとを断たないばかりでなく、最近においては売春助長行為等がとみに潜在化し、また、悪質化する傾向が見られることは、すでに御承知のことと存じます。このような事態は、わが国社会風紀健全化という点からまことに遺憾であるばかりでなく、本年はオリンピック東京大会が開催される年でもありますので、わが国対外信用を落とすおそれもあるのであります。  もちろん、このような事態は、売春助長行為等を根絶するために必要な諸施策や、思い切った社会改善を伴わないからでもありますが、いま一つは、現行売春防止法の不備にも大きな原因があると考えられますので、ここに売春防止法の一部を改正する法律案を提案する次第であります。  以下この法案要点につき、御説明申し上げます。  改正の第一点は、売春勧誘に応じた者等を一定の場合に処罰することに関する改正であります。  現行法は、第五条で、売春をしようとする者が、公衆の目にふれるような方法で、売春相手方となるように勧誘したり、客待ちをしたりする等の行為処罰しておりますが、これらの勧誘等に応じてその相手方となることを承諾したり、相手方となるために勧誘したりする行為は、現在は処罰対象となっていません。しかしながら、これらの行為は、売春をしようとする者の当該行為を助長するものでありますので、新たに処罰すべきものとし、一万円以下の罰金に処することといたしたのであります。  改正の第二点は、売春相手方となる目的で、売春周旋に応じ、または売春周旋を依頼した者を処罰することに関する改正であります。  現行法第六条は、売春周旋及び周旋人勧誘等行為処罰いたしておりますが、売春相手方となるため、売春周旋に応じ、または周旋を依頼する行為は、売春周旋を助長するものであるにもかかわらず、何ら処罰されておりません。よって相手方のこれらの行為も新たに処罰すべきものとし、一万円以下の罰金に処することといたしたのであります。  改正の第三点は、人に売春をさせるいわゆる「ヒモ」につきまして処罰規定を補整したことであります。  最近における売春助長行為等が潜在し、悪質化しつつある実情を顧みますと、売春婦と特殊な関係を結びまして売春行為を助長したり、あるいは売春婦に寄生いたしまして無為徒食しているいわゆる「ヒモ」の取り締まりの強化が、婦女子の人権擁護のためにもぜひ必要と考えられるのでありますが、現行法規定は、この点についてなお不十分であると思われますので、第七条第一項に改正を加えることによりまして、親族関係のみならず、業務雇用その他の特殊な関係による影響力を利用して人に売春をさせた者も処罰することができることとするとともに、第八条第二項にも同様な改正を加えて、売春をした者に対し、親族関係のみならず、業務雇用その他の特殊な関係による影響力を利用して売春の対償の全部または一部の提供を要求した者も処罰することができることといたしました。  改正の第四点は、いわゆる管理売春に関する処罰規定を補整したことであります。  現行法第十二条は、「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は、十年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。」こととなっているのでありますが、取り締まりが強化されるに従いまして、人に売春をさせることを業とする者も、コールガール制結婚紹介所制等、本条に規定するところと異なる新たな形態により、悪質な管理売春を営んでいることがうかがわれるのであります。本法案におきましては、このように法網をくぐるために次々と新たな業態を案出しまして人に売春をさせることを業とする者をすべて処罰対象とすることができるように法第十二条を改めまして、いかなる方法によるを問わず、人に売春をさせることを業とした者は、これを処罰することができることとしたのであります。  改正の第五点は、補導処分期間に関してであります。  補導処分期間は、従来の六カ月では、その実効をあげ得ない場合が多いため、二回に限りこれを更新することができることとし、最長期一年六カ月まで補導を行なうことができることといたしました。ただし、補導処分が人身の拘束を含む処分であることにかんがみまして、期間更新は、婦人補導院に収容されている者の補導処分期間が満了する場合において、その者がまだ社会生活に適応する状態に達していないとき、またはその者の更生の防げとなる心身の障害があるときに限ることとし、期間更新手続についても、婦人補導院の長の申請によって裁判所専門家意見を聞いて決定することとしてその慎重を期し、また、補導処分期間更新の決定に対しては、二週間以内に抗告することができることといたしました。  右のほか、これらの改正に伴い、所要の規定の整備を行ないました。  以上、この法案要点につき御説明申し上げました。  何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことを希望する次第であります。
  5. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 以上で説明は終わりましたが、本案の質疑は後日に譲ります。   —————————————
  6. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 次に、民事訴訟法の一部を改正する法律案議題とし、質疑を行ないます。稲葉君。
  7. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 時間の関係で、中小企業庁の方に先にお聞きして、お引き取り願いたいと思います。  手形に対する法的措置一つとして、下請代金支払遅延等防止法というのが制定されておるわけですが、これの概要といいますか、それについてちょっと御説明を願いたいと思います。
  8. 井上亮

    説明員井上亮君) 下請代金支払遅延等防止法概要を簡単に御説明申し上げます。  下請代金支払遅延等防止法は、これは、親事業者下請事業者に対しましていろいろ取引をいたしますときに、その取引関係を公正ならしめるために、特にその再者の関係規定いたしたものでございます。  この法律の第一点は、第二条の二に規定してございますが、下請代金支払期日の問題でございますが、この下請代金支払い期日につきましては、親事業者下請事業者から物品給付を受けました日から起算しまして六十日以内に代金を支払わなければいかぬということが第一点としてきめられてあります。ただ、ここで補足いたしますが、物品親事業が受け取りましてから六十日以内に代金を支払わなければならぬわけでありますが、その支払い手形でもよろしいということに相なっております。支払期日がまず第一点としてございます。  それから第二点といたしましては、三条にございますが、親事業者下請事業者に対しましていろいろ製造委託とかあるいは修理委託をするわけでございますが、そうした場合には、直ちに親事業者下請事業者に対しましてその給付内容とか下請代金の額とかあるいは支払期日を記載した書面を下請事業者に交付しなければならぬという規定がございます。  それから次に第三点としましては、第四条に、親事業者遵守事項が七項目ほど列挙的に規定してございます。これは、親事業者下請事業者に対しまして先ほど申しましたような製造委託修理委託をする、そうした場合には、まずその第一としまして、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請事業者給付受領を拒んではいけないという、受領の不当な拒否をしてはいかぬということ。第二点は、下請代金を先ほど言いました支払期日経過後なお支払わないということがあってはならないという点。それから第三点は、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を不当に減じてはならないというような、そういったような点が親事業者遵守事項として規定してございます。  それから次の点につきましては、これまた大きな問題点でございますが、遅延利息規定四条の二にうたわれております。これは、先ほど言いましたように、六十日以内に支払わなければならぬということになっておりますが、この六十日以内に支払わなかったというような場合には、その六十日を経過しました日から支払いをいたしました実際の期間、その間の遅延利息を払わなければいかぬという規定が第四条の二にございます。  あとは、これらの親事業者遵守事項に対します取締体制の問題でございますが、まず第六条で、中小企業庁長官は、親事業者遵守事項のこういったような点につきまして実情をよく調査いたしまして、もし不当な行為があれば、公正取引委員会に対してこの法律規定に照らして適当な措置をとることを請求することができるというような規定がございます。  それからなお、公正取引委員会のほうにおきましても、親事業者下請事業者等を調査いたしまして、もしも親事業者不当行為があれば、その親事業者に対しまして勧告をする。勧告を聞かないようなときには、さらにその旨を公表することができるというような規定があるわけでございます。  なお、第九条では、公正取引委員会並び中小企業庁長官両面から、親事業者並び下請事業者に対しまして報告を徴し、あるいは検査をすることができるというような規定がございます。  以上が、大体、現行下請代金支払遅延等防止法概要でございます。
  9. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの第二条の二で下請代金支払期日がきまっているわけですが、それが第四条親事業者遵守事項として下請代金をその支払期日経過後なお支払わないことはいけない、こういうふうになっているのですが、それは現金で払う場合もあるし、手形で払われる場合もあるという話ですが、それは実際はどの程度ですか。手形のほうが多いわけですか。
  10. 井上亮

    説明員井上亮君) いろいろ業種によっても実情は違いますし、あるいは親事業者経営力といいますか資金力といいますかというものによっても違いますけれども、概括的に言いますと、非常に大きな親企業、超一流の企業と申しますかあたりは手形で払います場合ももちろんありますが、零細企業に対してはほとんどが現金払いというのが普通でございます。まあそのときの経済情勢にもよりますと思うのでありますが、手形で払うのが半分、現金で払うのが半分というようなケースもございます。ただ、最近の傾向としましては、これは一般論でございますが、現金支払いが非常に減りまして、手形で支払う面が非常にふえてきておるというのが最近の一般的な傾向でございます。
  11. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 下請代金支払遅延等防止法ができて、そうしていま言った条文で下請業者が保護されているわけですが、下請業者親事業者からもらった手形ですが、手形をもらった場合に、その手形現金化するというか落ちるというか、それの確保の問題は法律としてはもうそこまではとても考えられないということになるわけですか。
  12. 井上亮

    説明員井上亮君) 下請事業者親企業から代金決済方法として手形をもらいます場合に、その確保の問題、つまり銀行で割り引いてもらうということ自体については、この法律では特別の規定はございません。ただ、この法律解釈といたしましては、親事業者下請手形で六十日以内に払います場合に、割引可能の手形でなければならないというような解釈を私どもとっております。
  13. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 割引の場合には、それで現金化するわけですけれども、割り引いたところで、それが不渡りになった場合は、それはまたあとの問題が起きてくると思うんですが、下請業者がその手形をもらって不渡りになった場合ですね、結局、そのところはもうこの法律では限界外だというか、そこまでタッチできないんだ、あと一般にその本人が裁判所なりあるいは何なりで個人的に解決すべきだ、こういうふうになるわけですか、現実の問題としては。
  14. 井上亮

    説明員井上亮君) ただいまの御質問のような事態になりました場合には、この法律では、一応対象外といいますか、範囲を一応越えた問題ではないかというふうに考えております。
  15. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、親事業者遵守事項というのが第四条できまっておって、下請代金支払期日経過後支払わないことはいけないようになっておるわけですが、これを遵守させる方法というのは、公正取引委員会があるとか、あるいは中小企業庁長官報告及び検査があるとか、この程度のことしかできないわけですね。この四条罰則はないわけですね。
  16. 井上亮

    説明員井上亮君) 四条の二号で、下請代金支払い期日経過した後において支払わないこと、そういうようなことをしてはならないというような親事業者遵守事項をうたっておりますが、これに対しましては、支払わない場合には、四条の二の遅延利息規定が一応まず動いてまいると思います。それからなお、罰則関係としましては、勧告、公表という程度に一応とどまっております。
  17. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの遅延利息規定はありますけれども、そういうような場合に遅延利息なんか請求したら、親企業のほうでは下請のほうに今度はもう発注しないというふうなことが実際に起きて、なかなか活用されにくいんじゃないですか。そういう現状ではないですか。
  18. 井上亮

    説明員井上亮君) 一般的に言って、下請事業はお説のように親事業者に対しましては現在の情勢のもとにおきましては非常に弱い立場でございますので、そういった傾向が多いわけでございますが、しかし、最近は、下請事業者も、下請組合というものの結成を私どもも非常に勧奨いたしておりますので、下請組合結成方向が盛んになってきております。そういった形を通じて親事業者に対して対等な発言ができるような形になっておりますので、この法律とあわせましてそういった運用面でできるだけ下請の利益を保護してまいるようなやり方をとっております。
  19. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形訴訟の直接の問題ではありませんから、もう一つだけお聞きしておきますが、いまこの法律改正しなくちゃいけない——いま言ったような形で法律ができておるけれども、どうも確実な保証というものがあまりないような形なので、何とかこの法律改正しようというような一つの動きがあるわけですが、これはこの前新聞の社説か何かに出ておって、経済企画庁長官もそういうことを発表しておったように思うんですが。
  20. 井上亮

    説明員井上亮君) 下請代金支払遅延等防止法につきましては、一部に確かにお説のようなこの法律につきまして不十分な点が多いのじゃないか、したがって、この法律改正について検討すべきじゃないかというような声もございますし、私どもも、聞いております。しかし、この問題は、経済実体面取引実体面といいますか、というようなものの流れを規制する問題でもございます。非常に複雑でむずかしい問題がたくさんございますので、私どもといたしましても、御承知のように、中小企業政策審議会というものが内閣に置かれておるわけでございますが、この中小企業政策審議会下部機関といたしまして下請小委員会というものを本年のたしか二月につくりまして、二月以来今日まで五、六回にわたりましてこの下請関係の問題をどう今後政策に反映していくかという検討を続けてまいっております。そういった過程でも、この法律運用について今後どう考えていくか、あるいは改正の要ありゃいなやという点もただいま検討いたしておるわけでございます。非常に複雑で困難な問題を含んでおり、簡単に申し上げますれば、企業間信用の問題についての取引関係の規制の問題になりますものですから、そういった意味でただいま慎重に私どもこの問題を検討中でございます。
  21. 中山福藏

    委員長中山福藏君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止
  22. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 速記を起こして。
  23. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 最高裁判所のほうにお伺いするのですが、昭和三十四年に最高裁判所手形小切手事件の処理に関する全国裁判官会同があって、そこで手形訴訟のことに関連をしていろいろ具体案というかいろんな意見があったということをお聞きしているわけですが、その詳細というか、ある程度のことはわかりませんか。
  24. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 詳細について御存じになりたいということでございましたら、後ほど資料を差し上げてもよろしいかと存じますけれども、ただいま私当時の会同の議事のこまかい内容は記憶しておりませんので、ここで御説明申し上げることは困難かと思います。
  25. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは法務省から出ている資料ですけれども、ここに最高裁試案というのがあるのですが、これは私のほうで連絡を十分にしておかなかったからあれですが、資料の二二ページにあるのですが、これは最高裁のほうからでなくても、法務省のほうからでもけっこうだと思いますが、この「最高裁事務総局民事局試案」というのは、いま言った三十四年の会同があったときにできたものなんですか。
  26. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) さようでございます。
  27. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、このときにできたこの「改正要綱」というのと、法務省で今度立案した法案ですね、それとの関係はどうなっているんですか。それは法務省のほうから……。
  28. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは前回も御説明申し上げたのでございますが、数年前から私ども立案に着手いたしまして、その過程におきまして最高裁判所のほうでもこういう試案をおつくりになりまして、私どものほうにも見せていただいたわけでございまして、この最高裁判所民事局でおつくりになりました試案も参考にいたしまして法務省としての案を固めた、そういういきさつでございます。
  29. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは、最高裁試案としては、十五までありますが、やけに簡単なんですけれども、それがほんとうの試案なのか、そのほかにいろいろなのがあったけれどもそれを載せないでこれを出したのか、これだけではあまり簡単なような気がするんですがね。もっと詳しいものなんですか。
  30. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) これはこのままの形を載せたものだと存じますが……。
  31. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、要綱ですけれども、これに付属した何か説明資料とかいろいろなものがあったんですか。最高裁としては当時あったわけなんですか。
  32. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 別に文書として説明資料みたいなものを用意したことはございませんが、会同でこの試案趣旨内容について説明をしたことはございます。
  33. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、法務省ですね、この最高裁改正要綱と今度つくった改正案、これとあれですか、しんしゃくしたというんですけれども、違うところがあるんですか。
  34. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 骨子は大体同じことでございます。旧民訴為替訴訟の二本建てと申しますか、非常に複雑な手続であったのを単純化したというその根本方向は同じでございまして、細部の点におきましては、たとえばこの最高裁試案でございますが、(八)の点で、「手形訴訟を許すべきでない場合、」——この点は同じでありますが、「ことに原告が適法な証拠方法をもって証拠を申し出ず、又は完全にこれを挙げない場合においては、」「訴を却下する」ということになっておりますが、これは旧民訴と同じような思想でございますが、こういう点は違っております。しかし、大体の趣旨最高裁試案と同じでございます。
  35. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形訴訟を許すべきでない場合は、これは職権で調査するわけでしょう。それで、手形訴訟を許すべきでないと見た場合には、訴えを却下することは間違いないわけですね。ただ、ほかの原告が適法な証拠方法をもって証拠を申し出なかったとか、完全にこれをあげない場合においては、被告人口頭弁論期日に出頭しないときでも訴えを却下すると。そうすると、この法務省で出した改正案では、この場合、手形訴訟を許すべきでない場合は別として、それ以外の場合は、これはどうなんですか、請求棄却になるという意味ですか。
  36. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは、旧民訴法におきましては、適法な証拠方法をもって証拠の申し出をしない、あるいは完全にその立証を尽くさないという場合には、これは特別の訴訟要件になっております関係で、それが訴えの却下の理由になっておったわけでございます。今回のいま御審議願っております法律案におきましては、この点は一般民事訴訟と同じでございまして、そういう特別の訴訟要件に付することをやめたわけでございます。したがいまして、証拠を提起しませんでも、被告のほうで全部事実を自白しておれば、それで原告勝訴になるわけでございます。ただ、原告が否認しました場合に立証が十分でないという場合には、これは請求棄却になるだけでございます。
  37. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの、原告が何か否認しているような場合と聞こえたんですけれども、私の聞き間違いだと思いますが、そんなことはあり得ないわけですからね。  そうしますと、なぜその点は最高裁の案とこれとは違うわけですか。当事者主義というものをとっているから法務省の案のほうが正しいというのか、民主的だと、こういう意味ですか。そこのところはどうなんですか。
  38. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点は、改めました理由は、御承知のとおり、現行法のもとにおきましても、手形事件では、被告が全然争わないケースが多いわけでございます。ことに欠席判決で処理される場合が多いわけでございまして、そういう場合に、証拠の申し出がございませんでも、原告勝訴現行法でもできるわけでございます。それが手形訴訟になったらかえって原告勝訴にできないということになりましては、現行法よりもさらに権利者にとって不便と申しますか不利益な結果に相なりまするので、現行制度のいいところはそのまま残していくべきではないか。この点は、旧民訴のたてまえを変えたほうがより合理的であるということで変えたわけでございます。
  39. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 「適法な証拠方法」というのがありますが、たとえば、手形訴訟の場合に、被告が欠席した。原告のほうでは手形を持っていない。手形を持っておらなくて訴訟を起こすということもできると思いますが、その場合に、手形がなくても、被告のほうが欠席しているのだから認めているんだということで原告勝訴の判決は正しいのだというわけですか、いまの法律でいけば。この最高裁の案でいけば、そういうような場合にはだめなんだと、こういうことになるわけですか。それとは違うんですか。
  40. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいまお尋ねの場合でございますが、自分はいま手形を所持していない、手形の所持人でないと、こう言ってくる原告はないと思いますけれども、かりにそういうことを訴状に書いておりまして、自分がいま手形を所持していないということを書いてきまして、かつて所持しておったのだということで訴えを起こしたということになりますれば、被告が全然争わない場合でありましても、手形上の権利者とこれは認めるわけにいきませんので、そういう場合はもちろん請求棄却になるわけでございます。
  41. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、私の言うのは、手形を所持しているということで訴えを起こしますわね。訴えを起こすけれども手形証拠として出さない場合に、相手は欠席しているという場合には、ここにいうところの適法な証拠方法をもって証拠を申し出なかったことになるのじゃないか。そういう場合に、最高裁の案でいえば訴え却下になるのじゃないか。ところが、いまの法務省の案でいえば、相手は出てこないのだから自白したものとみなされるので、結局原告勝訴になるのじゃないか。そういうふうな違いがあるのじゃないかということを聞いたわけです。
  42. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま申し上げたことはそういうことでございます。そういうふうに相なります。
  43. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形裁判の場合は、手形を持っているか持っていないかということ、手形証拠として出すということは、職権の調査事項という形にはならぬわけですか。
  44. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 私どもの今回の法律案では、職権調査事項ではないわけでございます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、最高裁の案では、それは職権調査事項だと、こういうふうになるわけですか。
  46. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 特別訴訟要件になっております関係で、職権調査事項ということになると思います。
  47. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そのほかに、この最高裁の案と違いは何かありますか。
  48. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいまの特別訴訟要件の点を除きまして、日でございますが、「訴状には、」「文書の原本又は謄本を添付しなければならない」と、これは私どもの今回の案では落としております。  それから次は四でございますが、「口頭弁論期日は、訴が提起された日から二週間以内でなければならないこと。」、これも今回の案は落としておりますが、これは裁判所運用にまかせるという趣旨でございます。  それから(六)の点でございますが、「文書の真否」——これは同じでございますが、「及び(一)の事実以外の事実」——要するに請求原因事実以外の事実でございますから、たとえば被告側で出す抗弁、原告側で出す再抗弁、そういうものにつきましては当事者尋問をも許すということになっておりますが、今度の案は、当事者尋問は、文書の真否と手形の呈示の事実だけの立証にのみ当事者尋問を例外的に許すということにいたしておりまして、その点だけが違っております。違っておりますのは、大体その点でございます。
  49. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの訴状に文書の原本または謄本を添付しなければならないというのが最高裁の案だと。これは手形訴訟の場合は添付しておるのが普通だと思いますが、これを条件としないでやってくれば、結局最初の口頭弁論のときに証拠として出すわけですね。だから、すぐそこじゃ認否できないということになって、結局またおくれるのじゃないですか。次回認否ということになるのじゃないですか。代理人だから本人に見せなければならないとかなんとかいって延びるのじゃないですか。ぼくらもよくやる手だからあれだけれども、そういうことになってくるのじゃないですか。
  50. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま仰せのように、手形事件の場合には手形の写しが訴状に添付してあるのが普通でございます。ただ、現行民訴のたてまえにおきましては、そういう写しを添付することは訴訟要件になっておりませんので、したがって、こういう内容手形を所持しておるということでこの訴えを提起してまいりました場合に、被告のほうでそれを全然争わない場合には、別に手形の原本を証拠で出しませんでも、これは判決はできるわけでございます。訴訟要件にまでする必要はないだろうということなのでございます。もちろん、被告のほうで訴状の記載だけではわからぬということになれば、弁論期日が参りまして、原本を送ってくれということで原告のほうに手形証拠として出させるという可能性は、これは十分あるわけでございます。要するに、手形の写しの添付ということを訴状の訴え提起の要件とする必要まではないだろうというだけのことでございます。
  51. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 だから、訴え提起の要件としなければ、結局、第一回の口頭弁論期日を指定したところで、そこで急に手形を出されるわけですから、しかも本人はいないわけですから、普通、代理人が出てくれば、本人に見せなければその認否ができないということで、請求の権利はあるが請求の認否に関する権利はついていないわけで、結局認否が延びていくんじゃないですか。その可能性はたくさんあるんじゃないですか。
  52. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) そういう場合には、これは延びる懸念があるわけでございまして、原告のほうとしましては普通はそういうことで延びることは本意でないわけでございますが、ほうっておきましても当然これは手形の写しをつけてくるだろう。要するに、原告に不利益になるわけでございますので、これを強制しなくても今回の改正趣旨とは矛盾しないのではないかという考え方なのでございます。
  53. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは原告のほうではつけてくるほうが自分に利益だからつけてくると思いますけれども、つけてこない場合には第一回の口頭弁論期日を延ばす口実を被告側に与えているようなものだとぼくは思いますがね、これでは。結局、実際にはそういうことになってしまうのじゃないですか。  それから口頭弁論期日は、訴えが提起されてから二週間以内でなければならないという最高裁の考え方なんですが、これは運用でやっていくことなんですが、訴状が相手方に送達されてから答弁書を提出するだけの催告期間というか、あれはあるわけですね。訴状が送達されてから何日以内に答弁書を出さなければならないというふうによく書いてあるわけですね、呼出状に。しかし、法律上の効力はない。訓示規定なんですね。ですけれども、あればどういうふうに実際は運用してやっているわけですか。届いてから二週間以内に答弁書を出しなさいというふうにやっているのではないですか。どういうふうにやっているんですか、実際の運用は。
  54. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 訴状を受理しました場合には、たいてい、ただいま申されましたように、答弁書を提出する期間を定めまして答弁書を出させるということをやっております。ただ、それは仰せのとおり訓示規定でございまして、実際にはなかなか遵守されていないというのが現状でございます。
  55. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ですから、この場合にも、口頭弁論期日訴えが提起されてから二週間以内でなければならないということは、これは現実的には無理じゃないかと思うんですけれどもね。この最高裁判所の案は二週間以内にやれといっても無理じゃないかと思うんですが、ある程度これは制限をつけていかないというとどんどん延びるんじゃないですか。これはドイツやオーストリアの民訴は、応訴期間にしろ呼出期間にしろ、全部その制限がついているんじゃないですか。
  56. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは、こういう制度ができますと、裁判所のほうでも手形事件の処理については運用の方針を定めていただきましてやっていただきたいと思っておるのでございますが、これをいつ幾日以内というふうに法律で限るのはいかがと思われるのであります。たとえば二週間以内ということになりますと、大きい都市の裁判所では無理ではないかということも考えられますし、かと申しましても、これを長くしますと、それまではいいのだというようなことにもなりかねないのでございまして、裁判所と申しましても、非常に事件数が多いところもありますし、そうでないところもありますし、これは実情に適した運用ということでまかなうのが適当ではなかろうかということで、法律案の中からはこの点は落としたわけでございます。
  57. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) ちょっと補足して御説明申し上げますか、この私どもつくりました案の口頭弁論期日を二週間以内に限ったというのは、仰せのとおり、少し短過ぎると思います。一般民事訴訟につきましては、民事訴訟規則で三十日以内に答弁書を提出しろということになっておりますので、この二週間と三十日の間の適当な時期に期日を指定するということを運用としてやってまいりたい、このように考えております。
  58. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この法案が通りますと、当然最高裁判所の規則か何かでいろいろ手形訴訟制度の運用に関してのことをきめるわけですか。もう規則は一応できているわけですか。いま言った点なんかもこの規則の中に入ってくるんですか。
  59. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 私どものほうも一応運用についての指針的な規則というものを考えております。稲葉委員が御指摘になりました訴状に手形の写しをつけるというふうなことも、訓示規定としてではございますが、つけるようにというような形で規定をしたい。それから答弁書の提出期間を定める、それから二回目以降の期日の指定期間をできるだけ短くするというような内容の規則案というものを一応考えております。
  60. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 大臣がおいでになったので、大臣は経済界のことは非常に詳しいわけですからお聞きするんですけれども、今度のは手形訴訟ですから、不渡り手形が出た場合に裁判によってこれを促進したいということが中心なわけですが、不渡り手形が現在非常にふえているということをよく言われるわけですね。これはどのようにふえているのか、これは法務省へ聞いたら一番いいんですか、大臣が一番詳しいと思いますが、どうなんでしょうか。
  61. 賀屋興宣

    ○国務大臣(賀屋興宣君) 実はあまり詳しくないのでございますが、結局いろいろ金融が非常に困難だということが主因じゃないかと考えております。
  62. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これが予算委員会なら、なぜそういうふうに金融が困難になってきたかということでやるわけですが、ここではそれをやってもあれですからやりませんが、そうすると、不渡り手形が出てきた数ですね、それは現在どういうふうになっているか、これは法務省でわかるわけですか。全国の手形交換高とか不渡り手形がどの程度出ているとか、いろいろあると思うんですが、非常にここのところふえているわけですね。ことにことしになってからの不渡り手形の増加率は、手形交換高の増加率よりも著しく高くなっている、この傾向はさらに強まる傾向にあるんだと、こう言っている人もあるわけですが、そこはどういうふうになっているんでしょうか。
  63. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 最近におきますところの不渡り手形の発生状況につきましては、昭和三十七年度までの統計は、お手元にお配りしております「関係資料。」という横長い表の中の四ページに出ております。それから最近の統計がほしいわけでありまして、三十八年、三十九年ことしに入りましてからの統計は、雑誌なんかに出ておるのがあるようでございますけれども、ただいまのところ三十八年、三十九年の正確な統計を持っていないのでございますが、実はここに「自由と正義」という雑誌がございまして、その五月号に西原寛一先生がお書きになった論文があるのでございますが、その中に若干出ておるようでございますので、一部を申し上げますと、昭和三十八年中における全国手形交換高は、二億六千五百九十三万三千枚、金額にいたしまして百十八兆九千九百八十二億円でございますが、全国の不渡り手形は、枚数にいたしまして二百八十七万八千百五枚、金額にいたしまして三千四百九十二億四千九百万円という数字が出ております。それから今年に入りまして一月中における全国の手形交換高が出ておりますが、枚数にしまして千八百九十二万枚、金額にいたしまして十兆一千七百四十六億円、それから不渡り手形は、枚数が二十二万四千枚、金額にしまして二百八十四億円でございまして、三十八年の一月に比較いたしますと、枚数で二五・五%増、それから金額にいたしまして五六・九%増という非常に大きい不渡りの増加を見ているというふうになっておるようでございます。
  64. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまのは、これだけ不渡り手形があるんですけれども、これは交換を通じたものでしょう。実際に交換を通じないで不渡りが出ているのも相当あるんだけれども、こういうようなものはわからぬわけですか。それはどの程度ですか、これと比べると割合は。これは法務省関係ないですか。
  65. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 交換所を通らない手形が相当数あると思うのでございますが、それはちょっと調査の方法がございません関係で、私ども資料を持ち合わせておりません。
  66. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これはわかりますか、大体のことは法務省のほうでわかっているんでしょうから。これだけの不渡り手形が出るわけでしょう。そのうち、一体、不渡り手形はどういうふうに処理されているわけですかね。裁判になったのはどの程度なんですか。あるいは裁判にならなくてほかの取り方もあるわけでしょう。暴力団を頼んで取るやつもあるわけだ。不渡り手形をどうやって決済するというか取り立てをするんですかね。
  67. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) それも全国的な統計はなかなか困難でちょっととれないのでございますが、先ほど申し上げました資料の一九ページでございます。これは各地の商工会議所に依頼をいたしまして調べてもらったわけでございますが、ここに「不渡手形の解決方法」ということで、業種それから資本金の規模別にパーセンテージが出ております。債務者と直接話し合いで解決した、第三者に解決を依頼した、裁判所に持ち出した、その他というふうに分類いたしまして、サンプル的な調査の結果でございますけれども、御参考になろうかと思うのでございます。
  68. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは裁判所への持ち出しが総計で二・二%、第三者に解決を依頼が一・九%ですが、第三者に解決を依頼というのは何なんですか。これは事件屋みたいな人とか、暴力団とか、そういうものに解決を依頼しているものもこの中に入っているんですか、どの程度依頼しているかはっきりしないとしても。
  69. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは私ども実情はよくわからぬのでございますが、債権取立業式のそういう事業を営んでおる人たちを介したのもあるのじゃなかろうかと思うわけでございます。この調査の結果では、第三者はどういうものがいるかということは実は出ておりませんので、私どもはっきりしたことを申し上げかねるわけでございます。
  70. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 裁判へ出たものは、大体、あれですか、九割以上も原告が勝っているわけですか。それはどこかにないですか。
  71. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 訴訟に持ち込まれました場合の解決がどうなっておるかという点につきましては……
  72. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 解決じゃなくて、勝訴の……。
  73. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 勝訴の割合でございますか。
  74. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ええ。
  75. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これはただいまの資料の一一ぺ−ジの一番上のところに、全国地方裁判所の民事第一審の通常事件と手形金事件との比較の表がございますが、原告の勝訴率が出ております。  なお、手形金事件の最終的な終局結果がどうなっておるかという点につきましては、九ページに詳しい表がついておりますので、これをごらんいただきますと、第一審訴訟になった場合にどういうふうな結着になったかということがおわかり願えるかと思うのでございます。
  76. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形金事件の場合は九割五分以上が原告が勝っておる。大体平均しているわけですね。そう見ていいわけですか。
  77. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 大体平均していると申してよかろうかと思います。
  78. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、原告が負ける場合というのはどういう場合があるんでしょうか。いろいろあるでしょうが、おもなものは。
  79. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 原告敗訴になった場合の敗訴理由についての詳細な内訳の資料を手元に持ち合わせておりませんが、考えられますところは、まず第一に、手形の成立自体が認められなかった場合、あるいは代理権の存在が認められなかった場合、これが手形債権自体の成立が結局認められなかったという場合になるかと思います。それ以上の敗訴理由といたしましては、結局、被告の出した抗弁が認められました場合、この二種類になるかと思います。その割合がどの程度になっておるかということのこまかい内訳は、いま手元の資料ではちょっと判明いたしかねます。
  80. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この二〇ページの資料ですね、「不渡手形の解決状況」という資料があるわけでしょう。そこの裁判所への持ち出しというのが、総計のところで見ると、解決が五〇・二%で未解決が四九・八%、こうなっているんですが、これはどういう標準で出したものですか。この資料は何でしょうか。
  81. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは商工会議所のほうで調べました結果でございますので、その当時すでに解決になっておるものと、まだ事件が係属中で解決していないというのも入っておりましょうし、判決は確定したけれどもまだ執行が終わっていないというのもあるのじゃないかと思うのでございます。
  82. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはしかしあまりはっきりしないな、解決とか未解決というのは。何なんですか。どこかにあるんじゃないでしょうか。一カ年以上ということなのかな。一カ年以内と分けたのかな。
  83. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) この点は必ずしもはっきりいたしておりませんが、三十八年のたしか二月の調査でございますので、大体過去一年間を基準にいたしまして、それまでに裁判所に持ち込んだ事件で判決が確定したものとそうでないものというふうな基準じゃないかと思うのでございます。ですから、まだ事件が係属中で判決があってないのが未解決ということではないかと思うのでございます。二〇ページのただいま仰せのページでございますが、その右側の欄の「訴訟で解決済のものの訴訟に要した期間」というのがございますので、解決済というのは、これは判決までにという判決までの期間じゃないかと思うのでございます。
  84. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 よくわからないんですが、裁判所への持ち出しで解決というのと未解決というのが具体的な標準がはっきりしないんですよ。一カ年以内を標準として言っているとすれば、右のほうの表でいけば、ほとんど全部一年以内で解決したということになっているんじゃないですか。
  85. 中山福藏

    委員長中山福藏君) ちょっと速記やめて。   〔速記中止
  86. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 速記を起こして。
  87. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) この表は商工会議所で任意にサンプル的にお出しになりましたので、調査の方法等の詳しいことを承知いたしておりません関係で、ただ、想像いたしますと、これは関係の業者にずっと照会を出されまして、それが過去一年以内に一体裁判所にどれだけ手形事件を持ち込んだか、現在までに解決したのが何件、また、未解決で裁判所に係属中のものは何件というような、そういう調査だったのではないかと思うのでございます。私どもとして商工会議所から出されました資料をその点あまり深く気にとめないでそのまま出しまして、ちょっと軽率でございましたけれども、せっかくこういういい資料が出てきましたので、御参考までにつけたわけでございまして、おそらくそういうことではないかと私ども想像するのでございます。
  88. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この右のほうを見ると、全部が一カ年以内で解決したようになっているのじゃないですか、右の表は。
  89. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) でありますから、過去一カ年を基準にしておりますので、これはすでにそういうふうに判決があったものだけでございますので、まだ未解決のものはここに載っていないわけでございます。過去一年ということでございますので、一年以内に解決ついたものならば出ておるわけで、一年以上かかったものはまだ未解決ということで残っておるわけでございます。これは先ほど申し上げました同じ資料の……
  90. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 一八、一九ページに説明が書いてありますね。
  91. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 一〇ページに、これは裁判所のほうでちょうだいいたしました資料第五表でございますが、これは裁判所のほうの調査に基づくものでございますが、一年以上かかっておる事件もやはりあるわけでございます。
  92. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 一年以上かかった事件もあるはずですよ。ないというのはおかしい。だから、二〇ページのほうはみんな一カ年以内に終わったようになっているんですが、そこのところがよくわからないですね、どういう資料なんだか。
  93. 中山福藏

    委員長中山福藏君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止
  94. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 速記をつけて。
  95. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) このアンケートを出します前に、私のところに一度相談に参ったわけでございます。それで、実は、こういうアンケートの出し方では、向こうも答えにくいだろうし、私どもも使いにくいので、もう少しぐあいのいいものにしてくれというふうに申し上げたわけでございますが、まあしかしそうは申しましても、答える側が法律専門家でございませんので、多少おかしい結果が出ましてもまあこの程度でがまんしてくれということでお出しになったのでございます。ですから、先ほど稲葉先生がおっしゃいましたように、一年以上かかった事件も当然あるわけでございますが、それはこの統計からははずれてまいっております。それから解決済、未解決という区別も、実はどういう解決方法がとられればほんとうに解決したかという注も必要なんでございますけれども、そういうものもなしに出しておりますので、中の数字はやや不正確なきらいもあるという点はいなめないと思います。
  96. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 「不渡手形の解決状況」というのを見ると、裁判所への持ち出しで解決するパーセンテージよりも、第三者に解決を依頼して解決するパーセンテージのほうが多いわけですね。第三者のほうが六三・〇、裁判所の解決が五〇・二となると、第三者に解決を依頼したほうが早いというか効果があるというふうなことが結果的に出てくる感じを受けるんですが、そうなんですか。裁判所へ出すよりも第三者——第三者がだれかは問題があるんですが、それのほうが早くてうまくいくということになるのじゃないですか、この数字は。
  97. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これはなるべく示談でもって任意に弁済してもらうにこしたことはないのでございまして、これはひとり手形事件に限らぬと思うのでございますが、やはり、何と申しましても、訴訟となると、時間もかかるし、費用もかかるということが大きな原因だろうと思うのでございますが、なお、そのほかに、やはり取引先でございます関係で、訴訟なんか起こしてはかどが立つ、できるだけ円満に、今後の取引にも影響することであるからというようなこともあろうかと思うのでございます。これはひとり手形事件だけの特殊性でもないと思うのでございます。
  98. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いろいろそういうふうな問題については議論があると思うんですが、前に為替訴訟というのがあって、それがやめになったわけでしょう。そのときに、たとえば今最高裁の判事をやっている松田二郎さんの書かれたものを見ると、為替訴訟を廃止したのは十分なる検討を経てなされたとは言いがたく、やや軽率の感を免れなかった、こういうようなことを松田さんは言っているわけです。何かどうもそこら辺のところが廃止した理由というのがはっきりしないのですがね。当時の民訴法改正理由書によると、「証書訴訟手続為替訴訟手続は、多年の経験に照し、その実益甚だ少く、却て訴訟関係を複雑ならしむるの弊あるを以てこれを廃止した」と、こういうふうに言っていると引用されているわけですね。そして、理由書には、「改正の主眼とする所は、現行法中訴訟遅延の原因と認むべき諸規定を改め、専らその円滑なる進捗と審理の適正とを図りたる点に存す」と、こう言っているわけです。片方で訴訟遅延の原因となるような諸規定を改めたんだ、だからそれでいいんだ、そのことの反面として為替訴訟制度を廃止した、こういうふうにとれるんですがね。そうすると、訴訟遅延の原因と認むべき諸規定を改めたというのだけれども民訴のときにどういう点を改めたのですか。その当時としては、為替訴訟はなくしても、民訴改正の中で、いま言った訴訟遅延の原因となるようなものが前にあったのだけれども、それがなくなったのだからだいじょうぶだということだったわけでしょう。だから、民訴の大正十五年の制定のときにどういう点を改めたのですか。そこら辺がはっきりしないわけですよ。結局、なぜそういうことを質問するかといえば、また同じことが出てくるんじゃないかという懸念があるからお聞きしているわけなんですがね。
  99. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは、大正十五年に新民訴を制定いたしました際に、とにかく裁判所の職権主義と申しますか、裁量権、訴訟の運用について、裁判所の主体性というものを非常に強化いたしまして、運用で十分まかなえる。ことに著しいと思いますのは、欠席判決の制度など非常に変わりまして、旧法の欠席判決と新法になってからの欠席判決と非常に手続が変わりまして、手形事件については被告欠席事件が多かったわけでございますが、そういう点では旧法当時に比較しまして非常に審理が促進されるわけでございます。そういう点もあるので、新法による運用で十分早くやれるのではないか。それから旧法の手形訴訟制度は、前回も申し上げましたように、訴訟構造が二本建てになる、手続が非常に複雑であるという、そういう弊があったわけでございますので、大きな理由といたしましてはそういう二つの理由から廃止をしたという経過だと思うのでございます。  ところが、実際に運用いたしてみますと、必ずしも当初予期しておったほどにはいかなかったと思うのでございまして、いまから考えると、多少軽率であったという批判も生まれてくるのだろうと思うのでございます。
  100. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 私の言うのは、新法といっても、大正十五年の民訴ですから、いまの民訴ですから、だったら十分やれるのではないか。訴訟遅延の原因となるようなところを改めたのだからと言っているわけでしょう。そうなれば、いま新法というものを今度は別に改正するわけじゃないですね。手形訴訟の面だけは改正をしている。そのほかの一般的な民事訴訟改正しないでいてやるわけですから、訴訟遅延というのが今度は手形訴訟のほうで幾ぶんそれがなくなるとしても、一般民訴の適用の部分においてそれがふえてくれば、結局同じことになるのじゃないか、こういう懸念も出てくるのですがね。
  101. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) まあ今回の案におきましては、その点は非常に強く証拠制限がございます。その証拠制限のもとで審理いたしまして、手形訴訟の判決がございますと、仮執行の宣言に続いて直ちに執行ができる。しかも、その執行停止にも厳重な要件をつけておりますので、執行もとまらないということで、そういう点は旧法と似ておりますけれども現行法のもとにおける他の民事訴訟手続とは非常に違うわけでありまして、その点は確かに大きな促進になるというふうに考えるわけでございます。決してもとのもくあみというようなことには相ならぬと思うのでございます。
  102. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 しかし、裁判官がふえるということであれば、これは訴訟の促進であると思うんですが、裁判官が現在と同じ人数でやっていて、そしてそれが異議があればまた一般訴訟に入るというような形でやっていけば、そこで遅延の問題も起きてくるのじゃないかと考えられるんですが、問題は、こういう法律そのものを必要だとしても、裁判官の増員そのものをもっとやらなければいかぬということになるのじゃないか。それがなければ、結局負担が重くなっちゃうのじゃないですか。
  103. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 裁判官の増員の必要も、現在の裁判所がかかえております事件の量から見ましても確かに必要なことかと思うのでございますが、こういうような形の手形訴訟の必要性は、たとい裁判官が増員されました暁におきましてもやはり必要なのではないかと思うのでございます。   〔委員長退席、理事後藤義隆君着席〕  要するに、こういう証拠制限がございませんと、被告のほうとしましては、最終的には理由のない主張でありましても抗弁を出して、その立証をするということになりますと、やはりどうしても期日が延びる、事件の解決がおくれていくことになるわけでございますので、そういう関係で、裁判官の増員の必要性とはまた別個にこういう手形の特殊性に基づく特殊の訴訟手続が必要であるというふうに考えるのでございます。
  104. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま言われた証拠方法を制限したわけでしょう。これは今度の改正案の骨子になるわけですね。そうすると、文書の真否と呈示の問題、これについては、それは書証でなければいかぬということになるわけですか。
  105. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただ、その点につきましては、当事者尋問を許すということにいたしたわけでございます。
  106. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形の真否というか成立について被告側が抗弁を出す場合には、普通はどういう抗弁を出しているわけですか。いろいろあるでしょうけれども……。
  107. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形の成立についての抗弁と申しますか、要するに手形の成立を否認するということだろうと思うのでございますが、偽造であるとか、あるいは本人の代理人ということで記名押印をした場合に、その代理権がない、すなわち無権代理行為であるということが多いのではないかと思うのでございます。   〔理事後藤義隆君退席、委員長着席〕
  108. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形を出すわけですね、証拠として。そうすると、その印影は被告のほうで否認することもできるわけですね。その印影は自分の印かどうかわからないということになる。そうした場合にはどうするんですか。
  109. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 印影が自分の印影ではないということになりますと、結局手形の成立を否認したことになるのでありますが、その場合には、原告側に、この法案のもとで許される証拠方法としましては、印影の対照——他の被告の印影のある文書があるといたしますと、それを対照の用に供するためにそれを出すとか、あるいは当事者本人尋問ということもこの法案では許されるということになるわけでございます。
  110. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形は記名捺印でいいわけですわね。ですから、いや自分は知らないんだ、だれかが勝手に自分のゴム印か何か押して判こを押したんだ、こういう抗弁が出てきた場合に、その場合に当事者を調べるだけで結論は出るわけですか。
  111. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 出る場合もありましょうし、出ない場合もあろうと思うのでございます。当事者本人尋問でわかる場合もございましょうし、わからない場合もあると思います。わからなければ、結局手形の成立の立証ができないということで原告敗訴になるというわけでございます。
  112. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 速記をとめて。   〔速記中止
  113. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 速記を起こして。  ちょっと平賀さん、私お尋ねしておきたいのですが、信託的な訴訟行為は一応禁止せられておりますが、近ごろ暴力団に手形を安く買収されて、暴力団が脅迫する。それから単なる信託的な訴訟を起こして非常に債務者をいじめておるという現実が展開されておるわけですね。そういうのがある方面にはあるわけですね。そういうことに対して何らかの規制措置を講ずるというようなことは法務省ではお考えになったことはないのですか。
  114. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは考えられるのでございますが、ただ、これは法制審議会の中でも正式には取り上げておりませんですけれども、暴力団なんかに債権の取り立てを頼むというような例は私どもちょいちょい耳にいたしまして、場合によったらこれは刑事上の犯罪になることもございましょうし、刑法でも取り締まれるかと思うのでございますが、もっとやはり訴訟の促進と、それから強制執行を簡易迅速にやれるような方法を講ずるという積極的な施策を講ずることのほうがより重要ではないかというふうに考えております。いま法制審議会におきましても強制執行制度の改正検討いたしておりますので、私どもとしましては、そういう方面からそういう暴力団なんかに債権の取り立てを依頼するというようなことを矯正していくことのほうがいいのではなかろうか。直接取り締まることももちろん必要だと思いますけれども、もっと積極的にそういう措置を講じていくというふうに考えておるわけでございます。
  115. 中山福藏

    委員長中山福藏君) ちょっと速記をやめて。   〔速記中止
  116. 中山福藏

    委員長中山福藏君) それじゃ速記を起こして。
  117. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 実際やってみて、抗弁の中で出てくるのは、これはまあいわゆる悪意の抗弁というか何というか、現在署名を要件としていないわけですね、手形の振り出しでも何でも。効力として記名捺印でいいわけでしょう。だから、権限のない者が勝手にゴム印か何か押して判こを押したんだという抗弁がどんどん出てきた場合には、この手形訴訟では結局やれなくなるのではないか。当事者尋問といったって、原告立証はできるかもしらぬけれども、そこまでは被告人側の立証ですから、否認になるのか抗弁になるのかあれですが、一応抗弁でしょうね。そうなってくると、被告側の立証ですからね。そうなれば、手形訴訟でもできないということになれば、結局手形訴訟でそういう抗弁がどんどん出てくれば、通常訴訟に移らざるを得なくなってくるのじゃないですか。そこがよくわからないんですがね。
  118. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点は、理論上は全く仰せのとおりでございまして、勝手に第三者の名前を書きまして、あり合わせのいいかげんな判を押すということで簡単に偽造ができるわけでございます。しかし、まあ実際問題としては、やはり取引をする当事者間においては、ある程度これは慎重にやるわけでございますので、実際の訴訟事件でどのくらい否認の件数があるか、私も詳細なことは存じませんけれども、否認の件数はそんなに多くないのじゃないか。一応否認いたしましても、調べると成立が認められるというケースがまだ否認の中にもあるようでございますので、実際問題としてはそれほど懸念する必要はないように思うのでございます。もし被告のほうで手形の成立を否認いたしまして書証あるいは当事者の本人尋問だけでは立証がちょっと困難だということになりますと、原告のほうはいつ何どきでもこれを通常訴訟に移すことができるのでございますので、そういう場合にはみすみす敗訴の手形訴訟の判決を受けるという道を選ばないで、通常訴訟に移行いたしましてそして十分な証拠調べをしてもらうということに運用上なると思うのでございます。
  119. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 私は、そこに一つの問題があると、こう思うんです。だから、悪い連中にかかったら、これは手形訴訟へ回せば回すほど延びちゃうわけですよ。そういう可能性があるわけだ。悪いやつにかかっちゃ何だって手がないといえばそうかもしらぬけれども、そこで、この間、宮脇さんも出ている座談会の中で、これは兼子一さんや鈴木竹雄さんが言っているのだけれども、兼子さんなんかは、「日本の手形制度の記名捺印ということが問題になってくるわけだね。」、鈴木竹雄さんは、「根本的にはそこに非常なガンがある。手形については署名でなくちゃいけないということにすれば、たしかに問題はなくなる。だから、明治三二年の署名に関する法律で妥協したため、曲がってしまったのだという人さえいますね。」、こう言っているわけですね。この明治三十二年の署名に関する法律というのは、これは何なんですか。
  120. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) それは、商法の特別法として、署名を要する場合に記名押印でよろしいということにしたわけでございますが、日本では記名押印というものが慣行として行なわれておりますために、その妥協として成立した法律でございます。それで、鈴木先生のおっしゃっていることも、外国ではすべて手形や小切手はサインでございますので、成立の否認ということはそもそもあり得ないわけでございます。ところが、日本では、記名押印が非常に行なわれるために、自分は実は知っているのだけれども、盗用だというふうな言いのがれを非常に多くされるわけでございます。しかし、お手元に差し上げてございます訴訟の統計を見ましても、手形の成立を否認しておるパーセンテージは、多い裁判所で一一、二%、少ないところでは一〇%にも満ちておりません。それで、今後あるいは手形訴訟で否認するケースが多くなるか、それともかえって少なくなるかの予測というのは、これは非常にむずかしいわけでございますが、民訴には不当否認に対する制裁として過料の規定が設けてございます。それからまた、本人尋問につきましては、現行制度では単に過料の制裁しか設けてございません。しかし、いずれにしましても、今後は、文書の成立の不当否認あるいは本人尋問におけるうその陳述につきましては、裁判所のほうでも十分にいま申し上げたような規定を活用されると私ども期待しておりますので、現在よりは改善されるのではなかろうかと存じます。  なお、こういう手形訴訟制度ができます場合に、私どもは十分なPRをするつもりでございますけれども、銀行などで割り引くにあたりましても、否認のおそれのないような手形、確実な手形というものをセレクトするようになりましょうし、実際の運用には相当な変化が生ずるのではなかろうかというような期待を持っております。
  121. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) いまの御質問に関連して、若干補足して申し上げますが、手形の成立が否認された場合のその立証というのは、確かに手形訴訟制度の問題点一つだと思います、この法律案によりますと、書証と、それから書証の成立に関する本人尋問以外の証拠方法はないわけでございます。ただ、これは古い資料でございますが、昭和三十六年におきます東京地裁及び大阪地裁における手形訴訟事件の対席判決の内容を調査したところによりますと、手形の成立が争われてその成立が認められたものは、東京地裁の事件で四百八枚ほどございますが、その中で、証人以外の証拠、つまり他の書証、それから捺印、それから弁論の全趣旨、あるいは本人尋問、そういうようなもので成立が認められたものが約八十枚ぐらいございます。それから、大阪地裁におきましては、手形の成立が否認されましてその成立が認められた七十五枚のうち、約二十七枚くらいのものがそのような証拠方法で成立が認められておりますので、現在手形の成立が否認されて争われた場合でも、今度の限られた証拠方法でもある程度手形成立が認められる場合が出てくるのじゃないか、このように考えます。
  122. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形の場合には、万国統一の一つの条約みたいなものがあるのじゃないですか。あれは小切手だけですか。
  123. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 稲葉先生の仰せのとおり、手形、小切手法につきましては万国の統一条約ができまして、それに基づきまして日本の手形法あるいは小切手法ができたわけでございます。ただ、若干のこれは留保条項がついておりまして、その留保条項に基づきまして、日本の手形法、小切手法では、署名のかわりに押印を使っていいという規定が入っておりまして、これは先ほど仰せの商法の特別法よりもさらに署名押印を自由に使っていいということになっておりますので、さらに一そう問題が出ておるというような事情にはございます。
  124. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの場合でも、向こうは全然知らないという場合もあるし、いやだれか他人がやったんだ、その他人は自分とは代理権の関係はないんだという形で出てくる場合もあると思うんです。そのときは、この訴訟ではできないわけでしょう。そういうのをどんどん出してこられたら、悪いといえば悪いかもしれぬけれども、そうやられたら、結局延びちゃうことになるのじゃないかと思うんですがね。それで、いつの世の中にもそういう者がいるから、また、あるいはそういうほんとうの場合もありますし、そこら辺のところは何かほんとうにやり方はないわけですかね。むずかしいところでしょうがね。
  125. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形の成立を否認する事件で現在裁判所で訴訟になっておるものに対する現行法運用実情でございますが、私ども承知しておるところでは、比較的少ない、一〇%前後ではないか、現在でですね。その中には、ほんとうに偽造の場合もございましょうし、先ほど最高裁民事局長からのお話がございましたように、否認したけれども成立が認められるという事件もございますし、そういう関係で、この法律案におけるように非常に制限された証拠方法でも成立が認められる場合がやはりあり得ると思うのでございます。それがむずかしければ、先ほど申し上げましたように、これは通常訴訟に移行するよりほかはないわけでございますけれども、まあ全体的に見まして成立を否認するというケースが現在でも少ないのでございますので、こういう手続ができたからといってそれが著しくふえるということはちょっと予想されないと思うのでございます。そういう関係をもちまして、やはりこの法律は相当の効果を発揮するのじゃないかというふうに考えておるわけでございます。
  126. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 民訴の三百二十六条に「私文書ハ本人又ハ其ノ代理人ノ署名又ハ捺印アルトキハ之ヲ真正ナルモノト推定ス」、こうなっておるわけでしょう。これは、あれですか、印影が真正であるというだけではいかんというんですか。
  127. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 印影が確かにたとえば被告の印を押したものであるというだけではやはりだめで、被告の意思に基づいて、義務者の意思に基づいて押されたものであるということによってはじめて本人の捺印があるということになるのではないかと思うのでございます。
  128. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 印影が真正であるということがわかれば、これはもう立証責任はもちろん転換するんだと思いますが、立証責任転換だけでなくて、被告側が自分が押したのでないということを立証しなければならぬということになるわけですね。結論的には、そうでないと負けるということになるんですか、被告が。
  129. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) たとえば、被告が、これは確かに私の印の印影であります、しかしこれはだれそれに盗用されたのであります、第三者に盗用されたのでありますという、実際そういう例があり得るわけでございます。そういう場合、確かに自分の印影ではあるが、自分が押したものではない、自分の意思に基づかないものであるという場合には、これはやはり立証せざるを得ないということになると思うのでございます。
  130. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) ちょっと私から補充さしていただきたいと思います。  稲葉先生の仰せの規定は、民訴の三百二十六条でございますが、ここで申しております「署名又ハ捺印アルトキハ」という「捺印」は、「署名」と並べて書いてございますことからおわかりになりますとおりに、判が本人のものであるということだけでなく、本人が捺印行為をしたということまで含まれているわけでございます。でございますので、単に判が同じだけではこの推定規定は働きませんで、本人の捺印行為もそこで要求される。ただ、日本で一般に行なわれております記名押印の代行の場合には、代行権限があったかどうかということが、すなわち本人の手足として手形行為をやっていいかどうかの問題でございますので、それに当たるわけでございます。ただ、実際の訴訟におきましては、判の同じであるということは比較対照などによってわかりますけれども、捺印行為が本人または本人の手足の者によって行なわれたという立証は非常にむずかしいわけでございます。で、そういった事情は、結局いろいろな状況証拠の積み重ねによって推定していかざるを得ない。これは法律上の推定ではなく、いわゆる事実上の推定になるわけでございますが、東京の地方裁判所における手形部の実情を見ましても、そういう事実上の推定、さらには訴訟における弁論の全趣旨を加えまして事実上の推定を働かしておられるケースが多いのではなかろうか。で、詳しいことは裁判所の方のほうがよく御存じのように思いますので、不足でございますれば、最高裁民事局長からなお御説明を仰ぎたいと思います。
  131. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その印影が被告のほうで自分の印影でないというふうに否認いたしますね。そうした場合の前後はどういうふうにして立証するわけですか。検真をやるわけですか、この手形訴訟でいくと。
  132. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 仰せのとおり、検真は今度の法律案でははっきり許すことにしてございます。ただ、検真をいたしますのは、結局判こが同じかどうかの点でございまして、捺印行為の点につきましては、先ほどから申し上げておりますとおり、検真だけではだめなんでございます。いろいろな取引にまつわる事情などから推定を加えて判断するというケースがおそらく多かろうと思います。
  133. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 検真をはっきり認めたというのは、これは前に連合部の判決で認めているんじゃないですか。そうでしょう。大審院時代の連合部の判決で認めたんでしょう、この検真は。
  134. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま仰せの検真は、旧法当時も認めておったように承知をいたしております。
  135. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、今度の条文ではどこにあるんですか。
  136. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは訴訟の一般的な規定民訴現行法規定の適用があるわけでございまして、三百二十七条の規定が適用になるわけでございます。その三百二十七条の適用があることを前提といたしまして、今度の改正案におきましては四百四十六条の二項でもって特則を設けているわけでございます。
  137. 中山福藏

    委員長中山福藏君) ちょっと関連してお尋ねしておくのですが、その検真の場合、判が一緒だったら、印が一緒だったら、それは立証は十分だということになるわけですか。これはなぜこういうお尋ねをしておるかというと、私が、いまから二十年ほど前に、百万円の手形があって、それでその鑑定をさしたところが、こういう鑑定をしたんですよ、非常に下品だと、印の押し方が。非常に印の押し方が下品だからというので、原告の請求を棄却して私のほうが勝った実例があるんです。だから、いわゆる心理作用が印鑑の押しぐあいにうつるらしいんですね。そういう場合はどうなんですか、どう思われますか。これは参考のためにひとつ聞いておくわけです。
  138. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま宮脇参事官からもお答え申し上げましたように、まあ判こはまさしくその本人の判こであると。しかし、他人が勝手に押すということもやっぱりあるわけでございます。判こが同じだというだけでは捺印の真正が立証されたということにはならぬわけで、ただいま仰せのような場合ですと、本人はそういう手形なんかに判を押す場合には非常に慎重に押して、乱雑な押し方はしないというようなことがございますれば、その押し方がおかしいと、これは本人が押したものではない、たとえ判こは同一のものであっても、本人が押したものではなくて、第三者が盗用したものであるというような認定がされる場合もあろうかと思います。ただいま委員長の仰せのようなケースは、まあそういう場合かどうか私よくわかりませんけれども、判の押し方などによっても、それがはたして本人がほんとうに自己の意思に基づいて押したものかどうかということの判断の資料となることはあり得ると思うのでございます。
  139. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの検真の点ははっきりされたというのだけれども、これは四百四十六条のどこですか。
  140. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま申し上げましたのは、現行法の三百二十七条で「筆跡又ハ印影ノ対照」——いわゆる検真の規定がございますが、これが手形訴訟手続においても適用があるわけでございますが、ただ、この対照物の出し方でございますが、現行法のもとにおきましては、提出命令——その所持者に対して提出命令を出すとか、あるいは送付嘱託をすることも可能であるわけでございますが、手形訴訟手続におきましては、四百四十六条の第二項におきまして、もっぱら当事者が所持しているその対照物を提出をして検真を求めるということになるという趣旨でもって四百四十六条の二項の後段の規定があるわけでございます。
  141. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは反面解釈ですか。文書の提出の命令やなんかできないのだ、「対照ノ用二供スベキ筆跡又ハ印影ヲ具フル物件二付亦同ジ」と、だから、このものについても提出命令はできないのだと、提出命令はできないかわりに、持っておるものは提出命令という形じゃなくてできるのだと、こういう意味ですか。ちょっとよくわからないのですが、条文そのものから出てこないような感じを受けるんですがね。
  142. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは、対照の用に供すべき物件を当事者本人が持っておる場合もございましょうし、あるいは相手方が持っておる場合も、提出義務のある第三者が持っておる場合もございましょう。そういう場合に、立証しようとする当事者本人が持っておるものは提出で済むわけでございます、一般論といたしましては。それから提出義務のある相手方その他の者が持っている場合におきましては、裁判所が提出命令を出すわけでございます。それから提出義務を負わない第三者が持っている場合には、その送付の嘱託を裁判所がすることになるわけでございますが、文書の証拠調べの場合と同じように、立証しようとする当事者本人が持っているものを提出するということだけに限ろうという趣旨なのでございます。提出命令を出したり、あるいは送付嘱託をいたしますと、これは訴訟がそれだけおくれるわけでございますので、訴訟促進という見地から文書自体の証拠調べの場合と同じように、こういう検真の対象物につきましても、もっぱらその立証しようとする当事者本人が所持しているものを提出して検真の手続を求めるということだけに検真手続を限定した趣旨でございます。
  143. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、前々から大審院の連合部の判決があるでしょう。それで検真ができるようになっていたわけですね。検真というのは、一種の検証だという考え方でしょう。そうじゃないですか。
  144. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 旧民事訴訟法当時は、先生の仰せのように、いわゆる検真は検証の一種であるということで許されないと考えられておったわけでございますが、大正十三年の大審院連合部判決で検真を許すようになりました。これは、お手元の資料の中にも入っております。ただ、その判例は非常に特殊なケースに関するものでございまして、同じ手形の中に書いてある裏書き間の署名を比べまして検真をやっただけのケースでございます。そういう特殊な場合でございますと、あえて検真と申さなくても、いわゆる弁論の全趣旨としてしんしゃくできるわけでございます。  ただ、そういう判例がございますけれども、あまり広く検真を認めたのではやはり困るだろうというところで、先ほど民事局長が申し上げましたとおりに、手持ちの物件の提出による、あるいはすでに裁判所にとどめ置かれておる物件同士の比較対照による検真だけを許すことにしたらどうだろう。なお、文字面だけの解釈を申し上げますが、この法案の四百四十六条一項で申しております「書証」と申しますのは、民事訴訟法の第三百十一条以下の文書の証拠調べという意味での書証の規定を全部適用いたしまして、ただ、その中から、文書の提出命令に関する部分と送付嘱託に関する部分、並びに筆跡、印影の対照物件の提出命令、送付嘱託に関する部分を適用しないというような引き算的な規定の書き方をしたわけでございます。立法技術上、こういうふうに書きませんと、ほかに方法がないために、たまたまそうなっただけでございます。
  145. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 四百四十六条の書き方がちょっとわかりにくいように思えたから出てきたんですが、そうすると、裁判所に同じ判こを押した書類が出ておれば簡単だと思うんですが、そういうものがない場合は、被告のほうで持っていても出しっこないですよ。その場合には、結局、手形訴訟でやってもらちがあかなくなるんじゃないですか。
  146. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) ただいま仰せのような場合は、そういうことになるわけでございます。要するに、手形訴訟手続のねらいというのは、はっきりした事件は早く解決させよう。非常にはっきりしておる事件におきましても、やはり債務者のほうにおきましては一日でも延ばすということは利益なものですから、最終的には結局認められないような抗弁でも出しまして引き延ばしをはかるということが現実にあるわけでございます。はっきりした事件はてきぱきとやるという精神なのでございます。
  147. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこで、最高裁のほうにお伺いしたいのは、手形事件に関してはほかの事件と取り扱いを変えて早くやるとかいうようなことをしておるらしいんですが、手形部というのがあるのは、これは東京だけですか。どういうふうになっているんでしょうか。
  148. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 手形部という特別の部が設けられておりますのは、ただいま御指摘のとおり、東京地裁のほかに、名古屋地裁と大阪地裁の二カ所でございます。東京地裁は昭和三十六年一月一日から、名古屋地裁は三十七年九月一日から、大阪地裁は本年の五月一日から発足いたしております。
  149. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形部ができてから事件の審理が早くなったとか、東京地裁にできたときは、その当座は手形事件があまりふえなかったけれども、その後になって手形部ができたということでだいぶ裁判に持ち込まれるのがふえてきたということを言っておる人があるんですが、松田二郎さんもそういうようなことを言っておられたと思いますが、手形部ができてからほかと比べて審理が早くなっておるわけですか。
  150. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) その点は、御指摘のとおりでございまして、専門部の設けられております東京地裁と名古屋地裁におきます事件の審理期間の状況を見てまいりますと、全国平均に比較いたしますと、かなり短縮されておるように見受けられます。
  151. 亀田得治

    ○亀田得治君 どのくらいか、具体的に説明してください。
  152. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 全国平均で申し上げますと、この全国平均は手形部の置かれております裁判所の事件も含まっておりますが、昭和三十七年度におきます手形事件の平均審理期間を見ますと、三カ月以内で処理されておりますのが全国平均では四九・八%、六カ月以内で処理されましたものは全部の事件の七二・一%になっておりますが、専門部の置かれております東京地裁及び名古屋地裁のこれは昭和三十八年の統計でございますが、この両裁判所における事件処理状況を見ますと、手形事件で三カ月以内に処理されましたものは、全国平均の四九・八%に対しまして六八・六%、それから六カ月以内に処理されましたものは、全国平均の七二・一%に対しまして八九・〇%という数字になっております。
  153. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 東京、大阪、名古屋というものの手形部というのは、どの程度判事さんがおるわけですか。
  154. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 東京地裁におきましては、手形部というのは二課部設けられておりまして、裁判官七名、大阪地方裁判所におきましては裁判官が三名、名古屋地方裁判所におきましては裁判官は二名となっております。
  155. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この法律がこのまま施行されても、手形部のあるところは、この手形訴訟手形部に来るわけですね。ですけれども、そうでないところでは、一般の判事さんがやられるわけですね、一般民事事件と一緒に。そうすると、手続も複雑で、かえって、ごたごたしてくるということも考えられるんですが、東京、大阪、名古屋以外のところでは特に手形事件が多いというようなことはないんでしょうか。たとえば神戸あたりとか何かにありそうにも考えられるんですけれどもね。
  156. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) もちろん、大都市の裁判所におきましては、手形事件というものは当然相当数あるわけでございます。この特別部を設けるかどうかということは、その裁判所におきます人的構成の問題、それから事件の割合、その他いろいろな裁判事件処理上の問題とからみ合わせて各裁判所においてきめておるわけでございますので、全国一律に手形部というものを置くということはもとより不可能なことでございます。ただ、私どもといたしましては、手形事件につきまして特に迅速処理の要請があるということにかんがみまして、この手形訴訟制度という新しい制度を設けられました暁に、手形部の置かれていない裁判所におきましても、手形事件は特定の裁判官に集中するような配転のぐあいを考慮したいと、こういうふうに考えております。
  157. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 法文に入る前にちょっとお聞きしておきたいのは、銀行が取引約款に基づいて割引手形の買い戻し請求権というものを持っておる場合が多い。だから、銀行の場合は、手形買い戻しの債務を負担させておいて、これで取れるんだと。結局、銀行は、手形を割り引いて、その割引手形不渡りになった場合でも、通常の場合は損害をこうむらないようにできているわけですか。
  158. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 銀行の実際の取引を見ますと、手形を割り引いた、ところがその手形不渡りになったという場合には、手形を買い戻してもらうということに一応やっておるようでございます。それから銀行取引を始めます場合には、普通は担保権を設定いたしておりますし、根抵当が非常に多いわけでございますが、そういう自衛手段を講じておる場合が非常に多いと思うのでございます。そういう関係で、訴訟まで持ち込まなくても解決できるという万全の措置を講じておるところが多いと思うのでございます。
  159. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 条文に入りまして、たとえば最初に土地管轄の問題で、提案理由説明書にもありますように、「手形の支払地の裁判所にも提起することができるものとしております。」と、こういうふうになっていますね。これは支払い地と支払い場所は違うんでしたっけ。どうなっていましたか。
  160. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形支払い地というのは、手形の必要的な記載事項になっておるわけでございます。支払い場所は、支払い地内における支払いのなされる場所、まあ銀行なんかを支払い場所にする場合が多いわけでございますが、これは手形の必要的な記載要件にはなっていない、そういうことでございます。支払い場所が記載してございますと、手形を呈示して支払いを求める場合には、その支払い場所に行かなければならないことは当然でございまして、手形法の規定の上ではただいま申し上げましたようなことになっておるわけでございます。
  161. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、支払い地というのは、普通の債権は義務履行地が普通ですわね。裁判籍は義務履行地にあるわけでしょう、普通の場合は。そうなってくると、民訴現行法の五条に「財産権上ノ訴ハ義務履行地ノ裁判所ニ之ヲ提起スルコトヲ得」と、こうあるわけです。これと、今度の法の改正で「手形の支払地の裁判所にも提起することができるものとしております。」と、こうあるんですが、義務履行地に裁判籍があるわけだから、特にこういうふうに断わるのは何か意味があるのですか。
  162. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形債務の義務履行地がどこかという問題でございますが、これにつきましては、御承知のとおり二つ見解がございまして、手形に記載されておりますところの支払い地というのは、これは手形の呈示期間内だけのもので、手形支払い呈示をする場合にはその支払い地で呈示しなきゃならぬというだけの意味のものであります。呈示期間が過ぎますと、この支払い地の記載は意味がなくなるのである、普通でございますと債務者の住所地あるいは営業所の所在地ということになるんだという見解と、そうではない、呈示期間経過いたしましても支払い地あるいは支払い場所が義務履行地であるという見解とあるわけでございます。これはどちらが正しいかということにつきましては、まだ確定した最高裁判所の判例もございませんし、判例は確立していないように思うのでございますが、私ども承知いたしておりますところでは、やはり手形というのは、要するに、満期日またはその後の取引日内であるいわゆる支払い呈示期間中は非常に流通力を持っておるものでございまして、その関係でやはり支払い地というものは呈示期間との関連において意味があるのではないか。呈示期間経過いたしますと、これは義務履行地ではないというふうに解釈するのが正しいのじゃないかと思いますけれども、これは私どもがそう思うだけでございまして、判例はございません。そういう解釈上の疑義もございますし、ことに手形上の手形金の支払い義務者、すなわち、為替手形の引受人でございますとか、約束手形あるいは小切手の振出人なんかに対します場合は、かりに支払い地が呈示期間経過後も意味があるとしますと、その関係はいいのでございますが、遡求権を行使します場合に、遡求義務者の関係では、やはり手形支払い地というものの裁判籍を認めることが十分意味があるのではないかと思うのでございます。  そういう関係もありまして、この点は、旧民訴にならいまして、あるいはドイツ民訴もそうでございますが、ならいまして、手形支払い地というものの裁判籍を認めたわけでございます。
  163. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形は、普通の場合は、振出人の住所と、支払い地は一緒の場合が多いのじゃないですか、約手でいけば。
  164. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) そういう場合が多いかと思いますが、取引銀行が必ずしも住所地内にないものもございます。ことに東京なんかにおきましては他の県にあるということもございまして、必ずしも一致しない場合があると思いますが、普通の場合は、やはり仰せのように大体住所地即支払い地である場合が多いのではなかろうかと思います。
  165. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 遡求義務者を訴えるという場合は、それは遡求義務者を単独で訴える場合は別ですが、振出人が、共同債務者ですかそういう形で訴えれば、牽連裁判籍で、民訴の二十一条ですか、あれでいけるんだから、振出人の住所ですか支払い地で一緒に訴えを起こせるのではないですか。二十一条の解釈は疑問があるんですか。
  166. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 二十一条の解釈は、ただいま仰せのとおりで、本来の義務者のほかに、遡求義務者のだれでもいい、だれか一人の裁判籍のあるところの住所に全部をまとめて訴えることができるわけでございます。それから手形に記載されております支払い地で訴えることももちろんできるわけでございますが、そのほかに、ただいま仰せのように、義務者のだれか一人の住所地の裁判所にも訴えるということができるわけでございます。
  167. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形の所持人が手形訴えをする場合には、自分の都合のいいところに訴えることができなくて、そうして支払い地というのは遠いところの場合もありますね、流通してくるのだから。遠いところで訴えを起こさなければならぬということが結論として出てくる場合が相当あるんじゃないですか。
  168. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは、権利者の自分の都合のいいところというのは、やはり被告に対して非常に権衡を失するのではないかと思うのでございます。商工会議所なんかの陳情でも、手形所持人——権利者の住所地を裁判所の管轄と認めろという意見もございましたけれども、所持人というものは、手形というものは転々とする関係で、どんな人のところに手形が渡るかわかりませんので、手形上の義務者としてはとんでもないところに訴えられるというおそれがやはりあるわけでございまして、民事訴訟の大原則といたしましては、やはり被告の住所というものを普通裁判籍としてそこを原則としておるという、そういう精神からいきましても、原告の住所地というのは少し行き過ぎだろうというふうに考えるわけでございます。
  169. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そこはいろいろ議論のあるところで、大原則をくずすことができるかできないか、いろいろ問題があると思うんですが、不渡り手形になってしまった場合には、それだけの制裁というものを与えてもいいんじゃないかという気がするんですけれどもね。ですから、不渡り手形などがあった場合に、実際に手形でやると、支払い地が別のところだからというので、そこまで原告というか所持人が行けないわけですよ。しょうがないものですから、流通している場合は別ですが、流通していない場合などは、しょうがないから、手形があっても手形でやらないで、売掛金の訴えで起こすわけです。義務履行地は、売掛金ですと持参債務になるのだから、原告の所在地になるでしょう。だから、それでもって原告は普通やるわけですよ。それでなければとてもかなわぬ。手形をもらったのはいいけれども、とんでもないとこ覇に行って裁判をやらなければならないから、とてもできっこないからというので、所持人があきらめちゃったりするということがあるんですね。ですから、商工会議所が言ったことがいいか悪いかは別として、相当議論があるのじゃないですかね。
  170. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形の所持人といたしましてはとんでもないところというそういう御懸念もありますので、手形支払い地の裁判所というものの管轄を認めたわけでございますので、支払い地というものは当然知った上で手形を取得するわけでございますので、とんでもないところに訴えを提起される、ということにはならぬと思うのでございます。  そういう関係をもちまして原告の住所地というのは避けたのでございますが、なお、たとえばその手形の授受の原因関係が売買である。そういう原因関係が売買だということになりますと、その売買代金の請求でございますので、これは普通は一つの持参債務でございますので、その売買代金請求ということで訴えれば、もちろん原告の住所地でも訴えることができるわけでございます。ところが、この手形訴訟のたてまえから、そういう現金関係が切り離されますと、手形の無因性ということを基礎にいたしております関係で、原因関係は売買であって、その原告の住所地の管轄での裁判を認めよということは、どうもこの手形訴訟制度を認めた趣旨とはマッチしないのではないかというふうに考えるわけでございます。
  171. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは、旧手形訴訟の制度でもそうだったのですか、土地管轄の点は。全く同じですか。
  172. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 管轄の点は、旧手形訴訟と同じことでございます。
  173. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 だから、いまの点を批判して、旧手形訴訟とさっぱり違わないじゃないかということを言う人もあるわけですね。これは見方の違いかと思いますけれども不渡り手形を出した人ならば、しかも手形が転々として流通するということも考えられるのですから、当然その所持人の裁判所訴えられてもいたし方がないというだけの制裁を加えてもいいのじゃないかと思うんですがね。そこまでは酷だということならば、それも一つの考え方ですし、議論のあるところだとは思いますがね。
  174. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) これは手形の所持人が手形が転々と流通するということを考えておかなくてはなりませんので、手形上の義務者が全く予想もしないところに訴えを提起される、ことに民訴の二十一条があります関係手形上の義務者が全部そこに引っ張り込まれるというようなことになっては、これはやはり被告にとって酷ではないかというふうに考えるわけでございます。
  175. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 しかし、それは同じじゃないですか。売掛金でもそれから普通の債権でも、やっていってどんどん譲渡してしまえば、それが持参債務だということになれば、東京に原告がいたって、売掛金をどんどん譲渡しちゃって、大阪や九州に行ってしまえば、持参債務だから、そこへ訴えを起こせるわけでしょう。
  176. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) そういう考え方もできるかと思いますが、不渡りを出したやつがけしからぬやつだからどこに訴えられても文句に言えまいという考え方もできぬことはないと思います。しかしながら、他の取立債務なんかにつきましても、やはり相手方に債務不履行があるんだから、債務を不履行するのはけしからぬ、取立債務なんだから原告の住所地で訴えられてもやむを得ないということにもやっぱりなろうかと思うのでございます。これはほかのケースとの権衡から見ましても、手形だから特にその点被告に不利益を課してもいいということにはちょっとならぬのではなかろうかというふうに思うわけでございます。
  177. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それはいろいろ一利一害があるところであって、むずかしい問題だとは思いますがね。非常に検討を要するところだと思うのですが、しかし、普通の場合の売掛金なら売掛金を債権として譲渡してしまう、指名債権として。甲という債権者が乙という債権者に譲渡した。乙は全然別の遠い所にいるという場合に、そこへ訴えを起こせるでしょう、一般債権の場合は。そこはどうですか。起こせないのかな。
  178. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) これは管轄の一般規定の立て方ないし原則の問題になると思うのでございますが、日本の民事訴訟の管轄の定めは、諸外国の例を見ましても、わりとゆるやかなほうでございます。大正十五年の立法者の意思は、民訴の三十一条の裁量移送の規定がございますが、これを一つのクッションといたしまして非常に広い管轄を認めたことによってあるいは被告が非常に受けるかもしれない不利益を救ってやろうという態度なんでございます。それで、稲葉先生の御説は、結局もっと原告に有利な管轄を認めてやれということになるわけでございますが、しかしながら、あまり原告に有利な管轄を認めますと、結局逆に被告はそれだけ不利益を受ける。それで、そこのバランスの問題が管轄の規定の上では非常に重要な問題になってくるわけでございます。原告に有利であれば被告に不利益になる。被告に利益であれば原告に不利益になるということで、中間の線が非常に引きにくい。その調節をいま申し上げた民訴三十一条ではかろうというのが大正十五年の立法者の意思でございます。  そこで、先ほど局長が申し上げたことも私がこれから申し上げることも同じでございますが、特に中間にはさまれます遡求義務者にとりましては、所持人の住所地で訴えを起こされたのでは困る。手形に書いてある支払い地ならば、こういう規定のもとで当然訴えを起こされることを予期しているから、まあまあいいのだろうと思います。多少そこで予測可能性というものも考慮に入れまして、支払い地を認めるぐらいのところがせいぜい中間として、いい線ではなかろうかというふうに私どもは考えたわけでございます。
  179. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは議論のあるところで、遡求義務者とそれから振出人なら振出人と分けて考えてもいいということが一つの議論としては私はあるのじゃないか、こう思いますが、これは議論の問題であって、一応そういうふうな何といいますか改正案が出ていますから、これ以上議論しても、あとは立法論になると思うんですが、どうもそこら辺のところがもっと何か考えられてもいいのじゃないかと考えるんですがね。
  180. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) それじゃ、一点だけ補足させていただきます。  なお、単名の手形の場合には、合意管轄の規定を活用することができるわけでございます。ただ、現実にはどれだけ活用されておるかわかりませんけれども、判例上も、手形の振出人が所持人の住所地で起こされてもいいという記載をした事件につきまして大審院の判定が現にございます。これはお手元の資料に差し上げた中に入っておりまして、それを活用してもらえば、これは予測可能性の範囲に入りますので、それほど弊害もなかろうと存じます。
  181. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 その合意管轄は、手形の券面上にあらわれなくちゃいけないのですか。
  182. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 従来の大審院の判例にあらわれておるケースは、いずれも手形券面に書いておるケースでございますが、別に法律上は手形の券面に書かなくてもいいわけでございます。
  183. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それから仮差押の場合に、手形、ことに不渡り手形が出たということの場合に、疎明は、不渡り手形の下のほうに何か銀行でつけますね、あれをつけただけで疎明は十分だというように考えておるわけですか。今度の改正案では、そういう点は特に触れていないわけですか。
  184. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 仮差押の改正は、これに引き続いて行なう予定の強制執行法の改正で実は予定しておりまして、今回は全然手直ししてございません。それで、これは中村民事局長からほんとうはお答えすべきことでございましょうが、手形不渡りの場合には、不渡り理由を付せんに書きまして持出銀行に帰ってまいります。それで、現実の扱いとしますと、取引なし、あるいは取引解約後、預金不足というような理由の場合には、裁判官によりますと、無保証で仮差押を許しておる方もあるやに承っておりますし、かりに保証金を立てますにしても、非常にわずかでございます。で、たしかこれは衆議院のほうでも無保証の仮差押を許せというふうな御意見が出たのでございますが、それにつきましては、やはり制度を改正いたしませんとぐあいの悪い面もございまして、法律改正の際にはそういう御意見を十分にくみまして何らかの方策を立てたいというふうに予想してございます。ただ、まだ現在法制審議会の議も経ておりませんので、具体的な立法論は申し上げかねるわけでございます。
  185. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 無保証による仮差押というのは、何も法律改正しなくても、現在でもできるのじゃないですか。
  186. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 理論上はまさに仰せのとおりでございますが、先ほど指摘されました例の場合で申し上げますと、裁判官によっては、先ほど宮脇参事官が言われましたような見解のもとに、無保証で仮差押を認めておる方もございます。しかし、これは結局被保全権利及び保全の必要性の判断をどこでやるかということでございますので、裁判官によっては、なおそれでは足りないという見解のもとに処理されておる方もおられるわけで、全部が全部無保証というわけには参らないように考えております。
  187. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この法律の結局争いになってくるのは、訴訟物の範囲が争いになってくる可能性ということがあるわけですね。これは、どういう点が訴訟物の範囲として争いになってくるか、そこはどういうふうにお考えですか。何が訴訟物の中に入るか入らぬか、これはなかなかむずかしいのじゃないですか。
  188. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 手形訴訟の訴訟物の範囲につきましては、私は非常に争いがあるというふうには承知していないのでございますが、旧民訴当時も訴訟物の範囲についてはそう争いはないのでございます。この法律案で考えております訴訟物の範囲は、字句の表現は旧法とは若干違っておりますけれども、要するに、手形金の請求と小切手金の請求、たとえば為替手形の引受人、約束手形、小切手の振出人に対する手形金、小切手金の請求、それから遡求義務者に対する遡求金額の請求、それからなお、旧法では、これは解釈上そういう解釈になっておると思うのでございますが、この案では四百四十四条でございますが、手形による金銭の請求に付帯する法定利率による損害賠償の請求、この三種類の請求が訴訟物の範囲に入るわけでございます。この点につきましては、旧法のもとにおきましても争いがあったようには私は承知いたしておりません。
  189. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは、法務省はそれで済んじゃうわけですけれども裁判所は現実にそれをやらなければならないのだから、なかなか困るわけじゃないですか。だから、旧民訴の場合には、商法に規定してある手形による請求、こういう書き方をしていたわけでしょう。ドイツ民訴の場合には、手形法所定の手形から生ずる請求、こういう書き方をしてあるわけですが、それに比べますと、今度の改正案は、訴訟物の範囲はそれらの既定のそれよりも非常に狭くなるんだ、こういうふうに現職の判事が書いておる。鈴木重信という判事がそういうことを言っているんですが、これはどうなんですか。
  190. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点につきましては、旧法より狭くなるとは私ども考えておりませんので、要するに、手形法の関係では、手形上の請求と手形法上の請求ということばが使われるわけでございますが、手形法のそういう講学上の用語に従いますと、手形上の請求という趣旨なのでございます。  現実的に具体的に問題になりますのは、利得償還請求権、これは一体手形訴訟の訴訟物になるかどうかということが具体的に考えられるわけでございますが、旧法におきましても、利得償還請求はこれは手形訴訟の訴訟物には入らないということで、手形法の学者は、これは手形法上の権利ではあるが、手形上の権利ではない、手形上の請求権ではないというふうなことを言っておるわけでございます。この法律案のもとにおきましても、利得償還請求権は手形訴訟の訴訟物に入らないという解釈なのでございます。で、旧法とその点は変わっておりませんが、旧法に比べますと、「金銭ノ支払ノ」というような字句が入っておりまして、字句の上では狭いようでございますが解釈論といたしましては、旧民訴もこの案も同じであるように私は理解いたしております。
  191. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 何か旧為替訴訟では訴訟物となったのだけれども今度の手形訴訟では訴訟物にならないものがあるんだと、まあたいしたものではないけれども、そう言っている人もあるわけですね。そういうのはあるんですか。
  192. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 私どもの一条一条検討した結果によりますと、旧法と全然変わらないと理解はいたしておりますが、ただ、「金銭ノ支払ノ請求」と書きました関係で、手形法には規定してございます手形の引渡請求権は、これは完全にはずれてまいります。その点は違いますかと思いますが、手形上の権利、しかもその中の金銭債権に関して申しますれば、旧法と全く同様でございます。  なお、先ほど局長が申し上げました利得償還請求でございますけれども、これは、旧法当時は、民法の不当利得の返還請求と理解されておったわけでございます。ただ、手形法では、これは手形法の中に規定するということで入っておりますけれども、あくまでも民法の不当利得の返還請求の特則というふうに私どもも理解しております。この点はほぼ学説の争いのないところだと思います。それで「手形ニ因ル金銭ノ支払ノ請求」といいますと、それも入るという解釈をする方が一部にあるかもしれませんけれども、旧法当時においてもこれは入らないということが定説でございまして、表現もそれにならいました関係上、解釈上それほど異議が出る余地はないと確信をいたしております。
  193. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまあなたの言われたと同じかもしれませんが、たとえば手形法六十六条一項なり六十八条一項のものは旧手形訴訟では訴訟物となり得たのだけれども、今度の手形訴訟では訴訟物となり得なくなったことは明らかだ、こう言っているんですがね。いまあなたが言われたことと同じだな、あとのほうは。
  194. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) これは、先ほど申し上げたとおり、手形の原本、謄本の引渡請求権でございまして、これは金銭債権に限るという明文の規定でございますから、入りません。
  195. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、いまのものは、商法に規定してある手形の請求権は旧法にあったんだから旧法に入っていたんだけれども、この関係には入らない、この点が違う、しかしたいした違いはないのだ、こういうふうに承っていいんですか。
  196. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) そういうことになろうかと思いますが、ただ、旧法の解釈にいたしましても、ただいま仰せのような手形の複本の引渡請求などが旧法に規定してある為替訴訟のいう「手形ニ因ル請求」の中に入るかどうかという点につきましては、どうも判例なんかもございませんで、この点ははっきりしていないのでございますが、解釈のしかたによってはそういうものは入らないのだという解釈も立ち得ると思うのでございまして、現実の問題といたしましては、いずれにしても現実の訴訟ではそういうことが問題になることはほとんどございませんので、先ほど私が申し上げましたのは非常に実際的に申し上げたのでございますけれども、旧法の四百九十四条解釈につきましては、あるいは稲葉委員の仰せのような六十六条に相当するようなこういう複本の引渡請求などというものは入るというというような解釈もあるいは立ち得るかと思うのでございます。
  197. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 利得償還請求は、これは大体不当利得だとぼくらも習ったわけだけれども、このごろだんだん変わってきたんじゃないですか。ドイツなんかは考え方が違ってきたということを盛んに言われておりますね。統一手形法ですかなんかの中では違ってきたんじゃないですか。
  198. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) ドイツの学説は、稲葉先生のお説のように、利得償還請求がドイツでは為替訴訟に乗るという学説もございます。しかし、ドイツの大審院の判例は消極説に固まっておりまして、私の承知いたします限りではその後変更になったということはないと思いますが、ただ、なぜドイツでは利得償還請求を為替訴訟に乗していいという学説が出てまいったかという根拠は、ドイツでは証書訴訟でございますね、証書の訴えが認められておりまして、為替訴訟には乗らなくても、その証書の訴えのほうには乗るわけでございます。それで、為替訴訟は結局証書の訴えのモディファイした訴訟形態でございまして、違うところといえば、管轄の定めとか、応訴期間の定めとか、あるいは若干の本人の尋問を許すとか、わずかな相違でございまして、どちらに乗せたところでたいして違いがないというところからそういう学説が出てきたのだろうと思います。しかし、なおドイツにおきましても学説上これは分かれておりまして、おそらく数をとりましたらば、どちらが優勢というふうにも判定できないのじゃないかと思います。
  199. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 前の法律為替訴訟、証書訴訟とあったわけですが、今度の場合にはそれが俗に言う手形訴訟という形になってきているんですが、それは何か意味があるんですか。
  200. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 名前を変えた理由でございますか。
  201. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いや、証書訴訟というものはなくなったわけですね。前の場合にはあったわけですが、今度の場合にそういうことは全然考慮の余地がなくなったわけですか。これはどういうわけなんですか。
  202. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) これは、旧民訴当時におきましても、証書訴訟というのはきわめてわずかしか利用されていなかったわけでございます。それで、前に民事局長からお答えしたと思いますが、旧民訴廃止当時におきましても、大体四万件前後の為替訴訟がございましたけれども、証書訴訟は非常に少なかったわけでございます。それで、今回証書訴訟も一緒に復活してはどうかという意見がなかったわけではございませんけれども、そう利用価値がないものは置かないほうがいいし、必要性がないというところで見合わせたわけでございます。実体は同じような法制でございます。ドイツあるいはオーストリアにおいても同様のようでございまして、証書訴訟では留保判決をされることが多いのですが、留保判決というのは一種の解除条件付の判決でございまして、いつ解除条件が満たされて結論がひっくり返るかわからぬような訴訟は使いたくないという気持ちがあるために非常に証書訴訟は利用度が低いといわれております。私どもそういった事情をいろいろ考えまして、これは必要ないと考えて入れなかったわけでございます。
  203. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 期限後裏書きの手形を取得した場合はどうなんですか。手形訴訟対象には——期限後裏書きは指名債権の譲渡の効力しかないわけですね。
  204. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 期限後裏書きにつきましては、やはりこれは呈示期間後でも、裏書きでもって手形の譲渡ができるわけで、その効果は多少呈示期間経過前の通常の裏書きとは違いますけれども、裏書きであることに変わりありません。そういう関係でもって手形上の請求と言って差しつかえないと思うのでございます。期限後裏書きによって手形を取得した所持人の請求は、手形上の請求というふうに考えております。
  205. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 ちょっとはっきり聞こえなかったんですが、期限後裏書きによって取得したことが明らかになった場合でも手形訴訟を認めていいという考え方ですか。
  206. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) さようでございます。
  207. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 それは最高裁側もその考え方でいいんですか。そこまで統一したものができているんですか。それはちょっとおかしいんじゃないかと思うんですがね。
  208. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) その点については、法務省側と特に解釈を打ち合わせしたというようなことはございません。
  209. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 解釈を打ち合わせしたことはないことはわかりますが、いまのような解釈でいいんでしょうか。期限後裏書きの場合は、一般の指名債権の譲渡の効力しか持たないわけですね、普通の場合。それを特に手形訴訟で厳格な証拠制限をやることによって裁判所側としてそれでいいというのは、それは統一的研究ができているのか。できていないというならいいんですが、まだその段階までいっていないというならいいんですが、いまの法務省のように言い切っちゃっていいかどうか疑問なんですがね。
  210. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) その点は、おそらくこの法律が成立して施行されました暁におきまして、訴訟事件が問題になるかと存じます。解釈論としていま稲葉委員の仰せられましたような解釈をとる可能性は私はあると存じますが、しかし、どちらの解釈が正しい、またどちらの解釈に統一されていくかということにつきましては、自後の状況を見てまいらないとわからないと思います。
  211. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いま私は期限後裏書きの場合の法務省の答弁を聞いていて、そういう答弁が出るとは思っていなかった。法務省側からそれでもできるのだという考え方が出てきたから、これは裁判所側としてもどうも違うんじゃないかというふうに考えたんですが、それは統一した見解で裁判所側が出すことがいいのか悪いのか、これは裁判官自分で判断することでありますから、それ以上言ってもあれですから言いませんが、私は問題があると思うんです。  もう一つ、裏書きの連続を欠いている手形の場合、これはどうするという考え方なんですか、法務省側では。
  212. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 裏書きの連続を欠く手形の所持人が手形金を請求する場合ですとかあるいは遡求権を行使する場合、やはりこの手形訴訟でいけるという考え方でございます。ただいまの期限後裏書きの場合と同じというように私どもは考えております。
  213. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) ちょっと補充さしていただきます。  裏書きの連続を欠いております場合と、期限後裏書きの場合は、普通の裏書きの場合と効果においてどこが違うかと申しますと、人的抗弁が切断されないということだけでございます。人的抗弁が切断されないということは、手形授受の直接当事者の間においてはまさに当然なことでありまして、もし手形訴訟から期限後裏書きの場合をはずし、あるいは裏書きの連続を欠いておって実質的な権利移転が証明された場合もはずすということになりますと、手形授受の直接当事者の間の訴訟も手形訴訟ではやれないということにせざるを得ないわけであります。ですから、そういった見地に立って、学説上もこれらはいずれも手形上の権利であることには変わりないと申しておりますので、特に明文の規定を置いて手形訴訟からはずさない以上は、これらはすべて手形訴訟に乗るという解釈にならざるを得ないであろうと存じます。先ほど民事局長もそういう前提でお答えになったのだと思います。
  214. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 裏書きの連続を欠く手形の所持人の場合にはいろいろ議論があるので、積極的に解する人もあるし、消極的に解釈する人もあるわけです、今度の手形訴訟の中で。今の最高裁の判事の松田二郎さんのものを読むと、「裏書の連続を欠く手形については、通常訴訟によってその権利を行使せしめれば足りるのであって、裏書連続の欠けた場合には、実質的承継関係ありや否やについて、為替訴訟における如く単に書証のみによるのでなく、すべての証拠によって、これを判断することを妥当とするのである。」というふうなことを言われている。結局、「裏書連続という本来の手形法的方法によって移転した場合についてのみ、為替訴訟によらしめれば足るものと考えるのである。」と、こういうように松田二郎判事は言っているのですが、これはいま言っていることとあなたの言われていることとあるいは違わないかもしれませんし、違っているのかもしれないし、ちょっとそこのところがよくわからないんですが、ここはどういうふうになっているんですか。
  215. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) この法律案におきまする「手形ニ因ル金銭ノ支払ノ請求」というのは、まさしく手形から直接生ずる権利の実現、いわゆる手形金の請求、あるいは遡求権の請求ということなのでございまして、裏書きの連続を欠く手形の所持人がその手形金の請求をする場合、あるいはさっきの期限後裏書きの場合も同じでございますが、請求しているのは、あくまで手形金または遡求権の請求なのでございます。解釈としては当然入ると考えるわけでありますが、ただ、裏書きの連続を欠いておりますと、連続を欠いているところは手形上は権利の連続はギャップがあるわけでございます。そのギャップを埋めるために立証しなければいけない。その立証が、場合によりましては、これはこの法律のもとでは訴訟だけに限られますので、訴訟だけでは立証できないという場合もあり得るかもわかりません。しかし、たとえば相続の場合、会社の合併によって連続を欠くというような場合もあり得るわけでございます。こういう場合には、戸籍謄本なり登記簿謄本によってすぐ立証できるわけであります。立証の難易では関係ございましょう。しかし、実現を求めている請求それ自体は、あくまでこれは手形上の権利の実現であるわけでありまして、解釈としては私どもとしては当然これは為替訴訟の訴訟物の中に入ると考えていいのではないかと思うのでございます。
  216. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 いまの相続の場合と会社の合併の場合、両方ともまあ一般承継でしょうけれども、相続の場合と会社の承継の場合はおのずから違うわけですね。片っ方は純粋な一般承継の場合、会社の承継なんかは人為的にもできるし、そこにいろいろのものがまじってやる場合もありますから、これは一般承継と一緒に論ずのはおかしいのではないかという気がするんですが、裏書き連続の場合は特定承継の場合と同じですから、それと一緒にしての議論はおかしいと思うんですが、あれですか、この立証の場合、難易の問題があるからということで、理論的には当然この訴訟物に入るんだ、ただ、証拠制限しているから、それで立証できない場合があるんだ、運用面で問題が出てくる場合があるんだというふうな法務省側の解釈、こういうふうに聞いているわけですが、最高裁のほうは、いまのような法務省解釈で、裏書きの連続を欠く手形の場合でもこれで手形訴訟をやれるんだと、こういうふうに解釈されているんですか。そこら辺のところはどうでしょうか。
  217. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) 何ぶん、法律が施行されました後に事件になって各裁判所で各裁判官が解釈を示されるわけで、私どものほうからこれが私ども民事局としての解釈だということは申し上げられないと思います。ただ、先ほど法務省のほうで御説明になりました解釈、これも十分成り立ち得る解釈で、おそらくはそういう解釈になるのかもしれないと推察はいたしますけれども、しかし、先ほど御紹介になりました松田判事の解釈も当然出てくる余地はあるとは存じますが、先ほど私が申し上げました説明もそういう趣旨で申し上げたわけでございますから、御了承願います。
  218. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 一つだけ補足させていただきます。  判例に登場いたします裏書きの連続が欠けているかどうかの問題には、二通りあるわけであります。現実に債権譲渡の方法によって移転する場合は実は少ないのでございまして、氏名の同一性が問題になっているケースのほうがむしろ多いようでございます。たとえだ、被裏書人が、株式会社であるのに、株式会社何々商会と書かずに、単に何々商会と書く、それから今度はその被裏書人が裏書きする場合に、ちゃんと記名判を使いまして株式会社何々商会と書いた場合でも、これはやはり裏書き連続は欠けておるわけであります。そういったような氏名の同一性、あるいは会社名の同一性の争われているケースと、それからほんとうに債権譲渡の方法で移転された場合とがごっちゃになりまして、いずれも裏書き連続の問題として考えられておるわけでございます。しかも、判例に登場しました事件の大部分は、氏名あるいは会社名の同一性の問題でございまして、そういう場合には名前に多少の誤記などがございましても、裏書きの連続がむしろあると言ってもいいのじゃないか。しかし、やかましく言えばやはり裏書きの連続は欠けておるわけでありますが、そういったケースが多いということをひとつお含みの上でお考えいただければ、これを手形訴訟に乗せてもいいという結論に私は一そうなり得るのではないかと存ずるわけでございます。
  219. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 会社の合併とか相続の問題とかそういうふうな場合は、これは戸籍謄本とか登記簿謄本によって簡単に同一性というか立証できるわけですから、これは問題がないと思うんですが、一般の裏書きの連続が欠けている場合にまでそれを拡大していいかどうか、これは議論があると思うんですが、これは裁判所側が実際に裁判のときに運用してみなければわからぬし、裁判官は各自独立ですから、その判断でやるべきであって、統一的な解釈を下せないと、こう言われるわけですから、それ以上あれしてもあれですが、この法案が直接に適用されるのは、法務省が適用するわけではないので、裁判所側が実際適用するわけですね。現実には裁判官が適用するわけですから、何か裁判所側と法務省側とで何か考え方がある程度の違い方があるのじゃないかという印象を受けるんです、訴訟物の範囲の問題で。しかも、この訴訟で一番問題になるのは、手形訴訟の訴訟物に入るか入らないかということでごたごたする場合も生ずるんじゃないかと思うんですが、何かそこら辺が違う印象を与えるのですが、これは議論しても始まらぬことですが、要するに、あなたのほうでは、期限後の裏書きもそれから裏書きの連続を欠いている場合でも、これは入るのだと、こういう解釈だと、こう承っていいわけですね、結論的にね。
  220. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 私どもとしては、そういう考えのもとで立案をいたしたわけでございます。
  221. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 この法案を立案するときに、一体どことどこと話し合いというか、なにしたわけですか。
  222. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 立案の過程におきましては、法制審議会で要綱をおきめいただいたわけでございますが、その要綱案の立案にあたりましては、最高裁判所の事務総局民事局の皆さん、それから私どもが幹事ということで原案をつくりまして、そして法制審議会の商法部会、民事訴訟法部会、強制執行法部会の合同部会でもって御審議をいただいて、そして総会できめていただいたのでございます。訴訟法学者も入っていられますし、商法学者も入っていられますし、それから実務家、弁護士、裁判官なんかも入っておられるわけでございます。
  223. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これは、訴え給付の訴訟でなければならぬわけですね。給付訴訟でなければいかぬでしょう。確認の訴えの場合は絶対いかんですか、これは。
  224. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 給付訴訟に限る、金銭の給付を求める、金銭の支払いを求める訴えだけに限るということであります。この点は、旧法では必ずしもその点は明文で明らかになっておりませんけれども、旧法もそういう解釈であったように承知いたしております。
  225. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、争いのある破産債権確定のためにはこれはやれないということになるわけですか。
  226. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 稲葉先生の仰せのとおりでございまして、破産における債権確定訴訟は、ある届出債権に対して破産管財人あるいは他の債権者から異議が出た場合に、自分の債権は確かにあるのだという確定訴訟でございまして、でございますので、通常の場合は破産管財人が異議を出すよりも、ほかの債権者から異議が出る場合が多いわけでございます。そうしますと、いわば債権者同士のけんかでございまして、とてもそういうものまで手形訴訟などに乗るわけではございません。それで、一般的に申し上げますれば、破産、和議、更正手続などの場合におきましては、この手形訴訟は全然適用されないというふうに御理解願ってよろしいと思います。
  227. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうしますと、手形訴訟をやっている間に破産が開始したという場合にはどうなんです。
  228. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) その場合には、結局手形所持人と手形債務者との間の訴訟が手形訴訟として継続していたわけでございますから、破産管財人がもう認めてもいいということならばそれで相済みになるわけでございます。もし破産管財人がどうしてもこれは認めてやれないという場合には、手形訴訟を通常の訴訟に直しまして、しかも破産債権確定訴訟に訴えを変更して続行するということになります。そして、被告側は破産管財人が承継するわけでございます。
  229. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、手形訴訟をやっているときに破産が開始されても、破産管財人がそのまま給付の訴訟を続けることもあり得るわけですか。
  230. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) さようでございます。ただ、先ほど申し上げましたとおり、破産管財人がその訴訟を受継し、原告のほうは破産債権確定訴訟に変えざるを得ないということでございます。
  231. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 そうすると、結局、手形訴訟ではやれなくなる、こういうことになるわけですか。
  232. 宮脇幸彦

    説明員(宮脇幸彦君) 稲葉先生の仰せのとおりでございます。
  233. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 手形訴訟が、これがまあ復活する、そういうことによって手形の信用が回復するのじゃないかということを言う意見もあるわけですね。ところが、実際の場合は、手形訴訟制度でやっても、それが一体不渡りの防止に役立つかどうかという点はどうなんですか。それはまた関係ないわけですか。
  234. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 不渡りの発生防止に直接役立つということはまあ言えぬだろうと思うのでございます。ただ、こういう簡易迅速な手続ができますと、へたをしたらひどい目にあうということで、手形を振り出す場合にはよほど慎重にやらなくちゃいかぬというようなことにはなろうかと思うのでございます。全然影響はないとは言えないと思いますけれども、この法律ができたからといって不渡りの発生が直ちに減るということには相ならぬだろうと私どもも思っております。
  235. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 裁判をやってこれで早く片がついても、債務名義を得るだけのことであって、実際の執行ができなければ意味がないわけですね。その点は執行が確実にできるような形での法体系というものはできないわけですか。
  236. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点につきましては、この法律案におきましても、現行法では担保を積めば実際の運用として執行がとまる場合が非常に多いというのが現在の運用実情でございますので、執行停止の要件を厳重にいたしまして、簡単に執行停止にならないようにという手当てだけはこの法律案でもいたしたわけであります。しかし、この執行がうまくいかなければ、せっかく判決をもらってもどうにもしようがないというようなことはまさしく仰せのとおりでございまして、その点につきましては、目下法制審議会におきまして強制執行制度の全面的改正問題を取り上げておりますが、他の一般の債務名義による強制執行の場合にも共通の問題でございますので、そちらのほうでひとつ手当てをいたしたいということで、特に手形訴訟判決、手形事件の判決に限って強制執行の特例を設けるということはいたさなかったわけであります。
  237. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これはまあ債権者は平等ですから、仮差押したって、判決で勝ったって、どんどん配当加入者が出てくるわけでしょう。そうすると、平等ですから、みんなに分けなければならない。結局取り分がなくなってしまって、その配当加入のときに、にせの債権でもないけれども、ほんとうにあるかないかわからない債権をつくってきて配当加入をされれば、実際に配当債権を否認しようとしても、なかなかたいへんなことであって、取り分がなくなってしまうのじゃないですか、いまのやり方では。
  238. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点に、確かに稲葉委員の仰せのとおり問題があるわけであります。ひとり仮差押の場合だけでなくて、本差押の場合でありましても、債権者平等主義がはたしていいかどうか、非常に批判のあるところでもございますので、その点は強制執行制度の改正につきまして十分検討をいたしたいと思っておる次第でございます。
  239. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 これで私の質問は終わりますが、各地の商工会議所からいろいろ要望が出ておりますね。その要望がそのままいいかどうか、それは議論があると思うんですが、その要望の中で法務省が取り入れなかったものが相当あるわけですね。取り入れなかったものにどういうものがあるか、それはどういう理由で取り入れなかったのか、ちょっと説明をしていただきたいと思うんです。この資料にあるでしょう、そのおしまいのところに。
  240. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) 要望の中で取り上げませんでしたのは、手形上の権利者の住所地の裁判籍を認めよという要望があったわけでありますが、その点は取り上げなかったのでございます。先ほどるる申し上げましたような理由によりまして取り上げませんでした。しかし、その他の点におきましては、大体商工会議所の要望はこの法律案の中に実現いたされておるように思うのでございます。
  241. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 たとえば神戸の商工会議所の出したものを見ると、「何人も事実に反して手形の成立を否認することを得ず。」という条文を入れろということになっておる。「これに反したるものは、十万円以下の過料に処す。」のだというようなことが入っているんですが、こういうようなのはどうですか。
  242. 平賀健太

    政府委員平賀健太君) その点につきましては、現行民事訴訟法に実は規定がございまして、三百三十一条の規定があるわけでございます。で、まあ過料五千円以下ということでございまして、これではたしていいかどうかという問題もございますけれども、一応正当の事由なくして文書の成立を否認したという場合の制裁は現行法にございます。  なお、この規定は、私は詳細は存じませんけれども運用の実際においては必ずしも活用されておらないように聞いておるのでございますが、今後この規定の活用の必要と同時に、またこの規定自体もはたしてこういうことでいいかどうか、これはひとり手形訴訟だけの問題ではなくして、他の種類の訴訟におきましてもこの規定はやはり十分検討する必要があろうかと思っておるのでございます。
  243. 稲葉誠一

    稲葉誠一君 私は、この法律ができて、直ちにというか、手形裁判が早く済むかどうかということは、現在の状況のもとでは相当疑問があると、こう私は思うんですが、これは裁判官の数もふえない段階でこれをやって、さあそんなにうまくいくかどうかはなかなか議論があるし、それからいろいろのほかの問題もあると、こう思うんですが、これは通るか通らないかは別として、通ればあなたのほうで実施して、その後の結果というものを私どももよく見て、それから正すべきものはあくまで正すという行き方を私はとりたいと、こういうふうに思うわけです。  それから実際にはこれは法務省が立案して出しても、裁判所関係する法律ですから、むしろこれは裁判所が提案するというのがいまのたてまえとしてできないとしても、裁判所側の意見というものを非常に強く出していかないというと、法務省はこういうふうに説明しても、裁判所はいまの期限後裏書きの問題でも、裏書きの連続を欠く問題でも、どんどん違った形でやってくれば、なんだ、法務省の言っておることと違っているじゃないかというふうになってくるわけですから、まあ統一をとるということはいろいろ議論のあるところだし、司法権の独立の問題にもなるわけですけれども、これはもっと十分な連携をとってこういうものはやるべきなんだ、むしろ裁判所側が主としてもっともっと立案なり研究なりに当たるべきじゃないかということを考えるのですが、これは私の意見として言うだけで、私の質問はこれで終わります。
  244. 亀田得治

    ○亀田得治君 一問だけ。これは経過だけちょっと聞きますが、私たち要請を受けているのは、商工団体というようなところから受けているわけです。そうすると、裁判所自体としては、何かこういうものをつくったほうがいいんだといったようなことが部内であったのかどうか、また、そういう点が法務省がおつくりになるのならそういうものもいいだろうというふうなことなのか、ちょっと経過だけおっしゃってもらいたい。
  245. 中村治朗

    最高裁判所長官代理者中村治朗君) この手形訴訟の制度の新設につきましては、裁判所のほうでもこの必要性があるのじゃないかということを感じまして、昭和三十四年及び三十五年の二回にわたる民事の裁判官会同におきましてこの問題を議論したわけでございます。裁判所の大勢は、そういう制度をつくるべきであるという意見が強かったわけでございまして、その意見に基づきまして、冒頭に稲葉委員からお示しのありました「要綱試案」というものを作成しまして、法務省のほうにも御参考までに送付して、立法について積極的に協力するからひとつ促進してほしいということの申し出はしてあるわけでございます。そういう意味におきまして、手形訴訟制定の新設ということにつきましては、裁判所としてももちろん心からこの成立を希望しておるわけでございます。  なお、一点、先ほど稲葉委員の御質問に関運しましてつけ加えさしていただきたいのですが、先ほどの期限後裏書きの場合の手形訴訟を起こせるかどうかという問題につきましては、この立案に私どもも事務局といたしまして関係いたしましたが、その際には、法務省のほうの御説明のような、解釈という前提のもとで私どものほうは理解しております。ただ、その実施された暁にどういう解釈になるかということについては、他の違う解釈になる可能性があるということを申し上げたわけでございますので、その点は御了承願いたいと思います。
  246. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 他に御発言もなければ、これにて質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  247. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 御異議ないと認め、これより討論に入ります。御意見のおありの方は賛否を明らかにしてお述べを願います。——別に御意見もないようですから、討論はないものと認めて御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  248. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 御異議ないと認め、これより採決に入ります。  民事訴訟法の一部を改正する法律案を問題に供します。本案に賛成の方の挙手を願います。   〔賛成者挙手〕
  249. 中山福藏

    委員長中山福藏君) 挙手多数でございます。よって本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、本会議における口頭報告議長に提出すべき報告書の作成等は、先例によりこれを委員長に御一任願いたいと存じます。  それでは、本日はこれをもって散会いたします。   午後四時五十七分散会    ————・————