○
政府委員(田中重五君)
政府提案の
林業基本法案につきまして、若干補足説明を申し上げます。
まず、この
法律立案の
基本的な
考えかたについてでございます。申すまでもなく、
林業の出産基盤としての
森林は、同時に
国土の
保全等、
公益的機能をも有するものでありまして、このため、今後とも
治山事業等を推進していくことが必要でありますが、今日、
林業が直面しております問題を解決していくためには、新たな見地から経済
政策としての
林業政策を確立することが必要であります。
林業基本法は、このような新しい
林業政策の
基本的ありかたを明らかにしようとするものでございます。また、今後これによって
林業の
発展がはかられるならば、ひいては
国土の
保全等にも寄与し得るとともに、さらに、
林業が
産業構造上重要な地位を占めている
山村地域の
産業振興のためにも貢献し得るものと
考えるのであります。
次に、この
法案の
内容につきまして補足して御説明いたします。
この
法案の全体の構成につきましては、
総則、
林業生産の
増進及び
林業構造の
改善、林魔物の
需給及び
価格の
安定等、
林業従事者、
林業行政機関及び
林業団体、
林政審議会の六章からなっております。
まず、第一章
総則でございますが、第一条及び第二条では、この
法律の
目的と国の
林業に関する
政策の
目標を定め、第三条におきましては、第二条の
目標を達成するために国が講ずべき
施策について
規定しております。
第三条第一項各について御説明いたしますと、第一号では、
林業生産の
増進のため、
拡大造林を中心として
林野の
林業的利用の
高度化をはかることを
規定しております。
第二号では、
林業構造の
改善をはかることを
規定しております。
わが国林業の特質としましては、
林業経営についてみますと、一方では
零細規模のものが多数存在し、他方ではごく少数の大
規模のものもみられるのでありますが、いずれの場合にあっても、一般にはその
経営意欲が低調なのが
現状であります。これを
改善するため、
林業経営の
規模等による
経営形態の差異を考慮しながら、林地保有、
林業経営の
あり方を
近代化し、もって
林業経営の健全な
発展をはかろうとするのが、この
趣旨であります。
以上申し上げましたような
生産の
増進、構造の
改善をはかる上に、
林業技術の
向上は不可欠の要件であります。また、特に
林業におきましては、
技術が立ちおくれているとも言われますので、第三号では、その
向上をはかるべきことを
規定しております。
さらに、
林業生産、
林業構造に関する
施策が講ぜられましても、
需給及び
価格の安定と
流通および
加工の
合理化がはかられなければ、
国民経済の要請にこたえて、
林業の安定的な
発展をはかることは困難であります。よって、第四号では、これらに必要な
施策について
規定しております。
第五号および第六号では、
林業をになう主体としての人の問題について
規定しております。これは
林業経営の
近代化のためには、
林業経営及び
林業技術を担当する者に高い知識能力が要求されますとともに、特に最近におきましては、就業構造の
変化によって、
林業にこれらの人を
確保していくことが次第に困難を加えてきているからであります。
また、
林業労働に従事する者についても同様であります。
なお、以上申し述べました
施策は、当然のことながら、
地域の自然、経済、社会の各般にわたる諸
条件の相違を考慮して講じなければならないものが少なくありませんので第二項にその旨を
規定しております。
第四条におきましては、
国有林野事業について
規定しております。まず、第一項におきましては、この
事業と前条の国の
施策との
関係及びその
方向づけを明らかにしております。すなわち、国は、前条第一項の
施策を講ずるに当たりまして、
国有林野事業の企業的
運営に十分考慮を払いながら、その適切な
運営を通じて、重要な
林産物の
需給と
価格の安定、奥地未
開発林野の
開発、
林業構造改善のための活用等の
施策の遂行に資するようにするものとしているのであります。
ところで、
国有林野の
役割りとしては、国の
施策の遂行に資する面のみでなく、
国土の
保全その他
公益的機能の
確保をはかることや、
地元の
農業構造の
改善等のために積極的にその活用をはかることもまた重要なものでありますから、第一項によって
施策の遂行に資する場合にも、このことについて十分配慮していかなければならない旨を第二項におきまして特に
規定しているのであります。
次に第五条におきましては、
地方公共団体が国の
施策に準じて
施策を講ずるよう努めるべき旨を
規定するとともに、第六条におきましては、
政府は、第三条の
施策を実施するため必要な
法制上及び
財政上の
措置等を講じなければならない旨を
規定しております。さらに、第七条におきましては、
林業従業者等の努力の助長に関する
規定を、第八条におきましては、
林業の
動向に関する
年次報告等に関する
規定を設けております。
次に第二章は、
林業生産の
増進及び
林業構造の
改善についてでございます。
まず、
林業は、その
生産期間がきわめて長く、
需要の
動向に即応し
生産を行なうためには、
長期にわたる
適確な
見通しを必要とすることにかんがみまして、現在、
森林法にこのような
長期の
見通しを立てるべき旨の
規定が設けられておりますものを、今回、この第九条に
規定することとしております。
次に第十条におきましては、
林業生産の
増進をはかる
施策としまして、前条の
長期の
見通しを参酌して、
林道事業の拡充、
造林の推進、機械の導入等の
施策を講ずることとするとともに、
災害による損失の合理的補てん等必要な
施策についても
規定しております。なお、
災害の防止につきましては、
治山事業等
国土保全政策の推進にも期待しなければならないことはもちろんであります。
第十一条におきましては、
林業経営を
近代化してその健全な
発展をはかることとしております。すなわち現在のように
林業経営の基盤が脆弱でありますと、そのままで
林業生産を円滑に行なうことは困難でありますから、それに対処して、
林業経営の
近代化のために必要な
施策を講ずるとともに、
経営規模につきましても、継続的な
林業生産を行ない、それによって
計画的に
林業所得を
確保していくことができるような
規模まで
拡大していこうとするものであります。
また第十二条におきましては、協業の助長について
規定しております。
林業経営の
脆弱性を是正してその
発展をはかっていく上に、個別
経営のみでは高度の出産手段や
技術を有することには限度があると
考えられ、個別
経営を補うものとして、あるいはさらに個別
経営と並んで
生産行程の協業がぜひとも必要であり、それがまた個別の
林業経営を
発展させるゆえんであると
考えるからであります。
次に第十三条におきましては、
林業技術の
向上について
規定しております。
林業の
生産性を高め、
林業経営の
近代化をはかるため、個々の
生産技術及び
経営技術を高めるとともに、その体系化を行ない、その成果をすみやかに現実の
経営の中に導入することが肝要だからであります。
第二章の最後といたしまして第十四条は、
林業構造改善事業の助成等について
規定しております。
小規模林業経営の
規模の
拡大その他
林業経営の基盤の
整備及び拡充、近代的な
林業施設の導入等
林業構造の
改善に関し必要な
事業は、それぞれ個別に行なわれましても、それなりの成果があることは当然でありますが、
林業構造の
改善をはかる上で一層の効果をあげるためには、これらの
事業が、一定の
地域において、統一的に樹立せられた
計画に従い、有機的連関をもって、総合的に実施されることが望ましいからであります。
続く第三章は、
林産物の
需給及び
価格の安定と
流通及び
加工の
合理化について
規定しております。
まず、第十五条は、
需給及び
価格に関する
施策についてであります。すでに申し上げましたように、
木材等重要な
林産物について、
長期的には、
需要の
増大に応ずるように、今後
林業生産を
増進していくこととするのでありますが、ここではさらに短期的にもその
需給及び
価格の安定をはかるため、
国有林材の
長期安定的な
供給及び必要な場合に応じた緊急の
供給、
民有林材の円滑な
供給をはかるとともに、
木材の
需給事情からみまして、当分の間、外材の
輸入もまた必要と
考えられるので、それが
需給及び
価格の安定の見地から望ましい姿で行なわれますよう、その
適正円滑化等の
施策を講ずることとしております。
次に第十六条におきましては、
林産物の
流通及び
加工に関する
施策について
規定しております。
生産者から需用者にいたる
林産物の
流通過程を
合理化するとともに、
加工行程を
近代化し、
利用を
高度化してその経済的
供給をはかることとしております。
第四章におきましては、
林業従事者について
規定してございます。
まず第十七条におきましては、教育、研究及び普及の
事業の充実等について
規定しております。
林業経営の
近代化といい、
林業の
生産性の
向上といいましても、要はそれをになう人の問題でありますので、これによって
林業経営者及び
技術者の
養成確保をはかろうとするのであります。
次に第十八条は、
林業労働に関する
施策についてであります。
林業労働に従事する者の養成及び
確保をはかることもまた前条と同様の
趣旨から強く要請され、またその
福祉の
向上をはかることが必要でありまして、そのための
施策を
規定しております。
第五章におきましては、
施策主体である
林業行政機関及びその活動が期待される
林業団体について
規定してございます。
最後に、以上の諸
施策を講ずるに当たりましては、
政府は
責任をもってこれに臨むのは当然でありますが、さらに広く
学識経験者の
意見を徴し、その調査
審議の結果を取り入れることも必要でありますから、第六章におきまして
林政審議会を設けることといたしたのであります。これに伴いまして、附則で、
森林法及び総理府設置法の一部を改正することとしております。
以上が
林業基本法案の
概要でございますが、この
法律の施行は、
林政審議会に関する
部分にあっては昭和四十年四月一日から、その他の
部分にあっては公布の日からといたしております。
なお、この
法律案につきましては、衆議院におきまして数項目の修正が行なわれましたので、その修正項目につきまして、便宜私から御説明申し上げます。
修正の第一点は、第一条の
法律の
目的と第三条第二項の国の
施策の講じ方について、
森林資源の
確保と
国土の
保全の観点をつけ加えた点であります。
修正の第二点は、第三条第一項第六号及び第十八条の
林業労働に従事する者について、その
福祉の
向上を強調するとともに、
施策の
内容をより
整備することとして、所要の改正をした点であります。
修正の第三点は、
林野の
所有者等の責務を、第七条の次に一条を設けて
規定した点であります。
修正の第四点は、第九条におきまして、特に
森林資源につきましては、「
見通し」ではなく、「
基本計画」を立てることとして、より明確に
森林資源の
長期的
確保をはかるべぎこととした点であります。
修正の第五点は、第十条において、「
造林の推進」という文言を明示した点であります。
最後の点は、第十二条におきまして、協業の「助長」とあるのを「促進」という文言に修正した点であります。
なお、以上の修正に伴いまして、第八条以下の条文を一条ずつ繰り下げる等所要の
関係条文の整理をいたしたのであります。
なお、お手元にお配りしております、「
林業基本法案参考資料」、これにつきまして、ごくかいつまんで御説明申し上げますと、この中身は、「総括」、「
生産」、「
流通」、「構造」、「
国有林野事業」、この五項目にわたって整理をされておりますが、まず二ページをごらんになっていただきますと、「所有
形態別
森林資源の現況」というのがございますが、これによりますと、表の一番下の欄で、
森林面積が約二千五百万ヘクタール、そのうち、次の欄で、人工林が七百八万七千ヘクタール。そこで全
森林面積の、人工林面積は三割に満たない、こういうような
状況になっております。
それから六ページをごらんになっていただきます。六ページは
木材の
需給量の
見通しが掲げてございます。これによりますと、「実数」と「指数」ということになっておりますが、
需要量の推移が、三十五
年度――この数値は三十四
年度、三十五
年度、三十六
年度の平均でございますが、――を一〇〇といたしまして、漸次ふえてまいりまして、約四十年後の昭和七十七年には約二倍半にふえるという
見通しを示したものでございます。
それから八ページをごらんになっていただきますと、ここに
木材輸入の著しい
拡大が表になっております。それで、この
木材の
輸入につきましては、昭和三十八
年度で約千四百万立方メートル――最後の欄でございますか、総
需要量の約二割を占めておる。まあそれだけに、次の表の九ページでは、
木材の
輸入題が三十八
年度では約四億ドル、他の品目に比べまして非常に高い額を示しておるということになっております。
それから一六ページをごらんになっていただきますと、まあ今後、いまの
木材供給を積極的に推進していくための
造林面積の
拡大の
見通しの表でございますが、現在、先ほど申し上げましたように、この二八ページでは、
造林面積の全部が約七百万ヘクタール、これを四十年後には約千三百万ヘクタール。でございますから、全
森林面積のほぼ半分まで
造林面積を
拡大しようという
見通しの表でございます。
それから二三ページをごらんになっていただきますと、
木材価格の推移を掲げた表でございます。この表にございますように、昭和二十七年を一〇〇にいたしますと、一般の卸売物価の平均はほとんど横ばい。これに対して、次の欄の「素材」は、二倍になっておる。こういうふうに
価格の異常な高騰を示した表でございます。
その次は二八ページでございます。二八ページは「
山林保有
規模別
経営指標」。そこで
日本の
山林保有状態がいかに上零細であるかということを示しておるわけでございまして、「保有林家数比率」、「保有面積比率」、この二欄をごらんになっていただきますと、一反歩ないし五町歩未満の比率を出しますと、五町歩未満の
山林保有者は、全
山林保有者の九割にも及ぶ。ところが、その保有している面積は、次の欄でこれを出しますと、三八%であるというような状態でございます。保有
規模の、
零細性を示したわけでございます。
次に、三〇ページをごらんになっていただきたいと思います。三〇ページは、この「構造」の中に整理をしておりますが、
森林組合の推移を示したものでございまして、
森林組合が大型化するにつれて数は減る。三十一年に約五千あったのが約千減りまして、三十七年には四千になったという表でございます。
それから三七ページをごらんになっていただきますと、
山林労務者の減少ということに対応する賃金の増。これか、たとえばこの表によりますと、伐木と集運で、全体の平均賃金が三十年を一〇〇といたしまして、伐木が八割四分増し、集運で七割四分増し、そういうふうに賃金の高騰を示しておるわけでございます。
なお、以下
林業労働に従事する者の社会保障の
現状等を掲げてございますが、最後に、
国有林野事業の整理の欄では、この
国有林野事業の伐採量なり、あるいは
林道、貯木場等の施設なり、それの一覧表、あるいは機械の保有台数、
地元施設、そういうものを掲げておる表でございます。
以上でございます。