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渡辺勘吉君 ではこの問題はこれで打ち切ります。
じゃ大臣にお伺いをいたしますが、
政府からこの国会に御提案になっておる
中小漁業融資保証法の一部を改正する
法律案でございますが、この
法律案を審議するには、かねて三十七年の三月に
水産庁から報告されております漁家負債調査報告書、これが非常に私は貴重な
資料だと
考えておるわけであります。この約一年にわたって
政府が御調査になったこの
資料は、その紹介にもありますように、大学から農林中金等の
金融機関、
学識経験者及び
政府の担当者を網羅して、十九名の責任ある分担をして精力的に調査をされた
資料であります。私からそういうことを紹介的に申し上げる必要もないことでありますが、したがって、非常に客観的な事実の
実態の調査をなさったわけであります。しかし、この報告書の目的には、現行の系統
金融及び
制度金融は、中小
漁業の比較的上層部分に集中する傾向があり、
沿岸漁家に対する
金融は、必ずしも円滑に行なわれがたいといわれている、したがって不健全負債に依存する度合いも強いと思われるので、これらの
実態を明らかにし、あわせて安定漁家として育成するため、系統
金融の
円滑化並び
中小漁業融資保証制度の整備改善等、長期低利の
融資制度の確立をはかるために必要な
資料とする、こういう目的でこの調査が行なわれたわけであります。しかるに、ただいままで審議をした過程では、この漁家の負債の
実態というものを踏まえて、
融資保証制度というものが一部改正の内容になっていないと断定せざるを得ないような、審議の経過では内容が明らかにされておるわけであります。いやしくも現状の矛盾を新しい
法律の改正の中にどう取り組んでいくかということなしには、私は科学的な前進の方向というものは、出てこないと思うのであります。したがって、ごくその中で重要であると思われる部分を拾いながら、大臣のこれに対する御所信を承りたいと思います。ここに取り上げられております第一章には、漁家生産と前期的商業資本との結びつきの現状分析をいたしております。抜粋をしていただいた
資料を、重要個所をさらに抜粋して、よく読んでみましても、その二ページの最初にあるように、「漁場には、所有権も占有権もない場合には同一漁場で競合が熾烈である。他に先んじて生産力を向上させたものは、時にはその資本投下に見合う以上の利潤さえ確保できる場合はある。この反面、新たな資本投下の源泉を求め得ない生産者は、生産場裡から駆逐されてゆく場合もありうる。」、「このように、生産力を向上させるためにはより多量の資本を要し、この新たな投下資本は常にそれに見合うたけの利潤をもたらさない。したがって、この新たな投資に対する
金融の途は、市中銀行などの
一般的な
金融機関には求め難い。いきおい新たな所要資本は、
漁業生産物の価値実現を司る問屋業(商業)資本ないしは高利貸などに求めざるをえない。この場合の
金融が、いわゆる「前貸」、「仕込」と呼ばれるものである。これら「前貸」、「仕込」の本質は、
漁業生産物の価値実現を問屋(商業)資本の恣意にねだねるという契約のもとに、
一般的な利子率を大巾に上まわる高率な利子率による貸付金である。こういう「前貸」、「仕込」による
金融は、たとえそのための生産力の向上、したがって生産量の増大があったとしても、生産者とは無縁の存在である。生産力の増大による利潤の増高も、生産者の懐へは入らないで、前貸資本に対する高率の利子として商業(問屋)資本などに帰属してしまうからである。こういう場合には、産業利潤から商業利潤が分割されるのではなく、利潤そのものは問掛(商業)資本がまったく掌握している。ここに前期的商業資本といわれるゆえんが存在する。」ということで、歴史的な経過を書いて流通過程についても触れております。しかし戦後におけるこれらの前近代的な
関係が、逐次近代的な資本によって移りつつあるし、また
漁業協同組合を通じて共販等の措置によって、これが前向きに前進している経過も触れておるのでありますけれども、そういう経過をここでは触れておりますが、この抜粋の九ページの下段にもあるように「しかし、今までこのようなことをしばしば」——ということは、この商業資本が前近代的にまだ
漁村を支配しているということであります。そういうことを繰り返し何回も述べているのは、「
漁業主席にはその生産過程、流通過程の特殊性によって規制されるがために、いまみてきたような
性格が残存し易いからである。」——いまだそういう前近代的な資本に零細な
漁村漁家が支配されているということを、この章では結びにしておるわけ、であります。現存しておる。こういうことをまず第一章ではうたっておる。そうして時間の
関係上私は要約をいたしますが、この抜粋の三八ページの下段のところには、「漁家負債のなかで、とくに固定化率の高いものは、
個人および買掛
関係のもので、系統負債および銀行
関係のそれは、相対的に流動的である。つまり負債の返済には、
漁協および銀行が優先し、
個人および買掛
関係のものにしわ寄せが行なわれている」というふうに分析をしておるわけであります。この中で私は特にこの
資料そのままを率直に活用して、
政府にお伺いをしたいのは、これらの負債の中できめられた期日までに返せるものと、きめられた期日までには返せないというものと、返す見込みがないものと、こういう三分類をしておるのでありますが、この三九ページにある第三表を見ましても、返す見込みがないもののうち、
個人及び買い掛けが全体の約半分を占めております。返す見込みのないものを、この調査報告書では固定負債と称しておりますが、私は、これは
政府の報告書でありますから、固定負債と定義づけることも、まあそれなりにわかるつもりでありますけれども、これは返す見込みがないということは、完全な焦げつき債務だということであります。固定負債以上のこれは悪質な負債である。返す見込みがない、それが全体の負債の幾らを占めているかということを見ますと、五三ページにありますように全体の約一割三分を占めておる。五三ページの合計欄を見ても明らかなように、全体の債務のこれが一割三分を占めておる、こういう
実態であります。なお、約定期限までに返せないものも、これはかなり——その中にはさらに返す見込みがないという
性格に転位する要素の債務も多く存在しておるのでありましょう。こういう
関係が
政府の調査の中に明らかに出ておる。ここの、五六ページのまん中辺で
政府が述べておることを見ますと、「しかもここで注意を要することは、各借入先別に負債種類を調査した調査様式のため、これらの固定負債」——、返す見込みのないものであります。これは「同一経営体が重複していることである。いいかえれば、
漁協に固定負債をもつものは、銀行にも、
個人にも買掛にも固定負債をもつ場合がきわめて大きい、ということである。この点を考慮に入れれば、固定負債が、一部の経営体にきわめて多く集中している、ということは、第五表の数字以上に強調できるだろう。」、こういうふうに取り上げておるわけであります。したがって、一二・八%、さらにこれは比率が増していくということの分類をしておる。
七〇ページの下段を見ますと、「漁船
漁業の諸階層の負債の特徴は、
漁協関係のそれが大きいことにある。そしてその比重は、無動力→動力三トン未満→動力三〜五トン→動力五〜十トンと、階層が上になるほど、系統への依存率は高くなっている。」ということをここでいうております。そこでこの七二ページを見ますと、上のほうにこういうふうに要約しております。「つまり漁家の行なう漁船
漁業では銀行
融資の対象となることは至難であるように思われる。もう一つここで注目したいのは、
個人関係の負債である。ここでは階層が上に傾くほどその負債は相対的な地位を減じている。このことは漁船
漁業を行なう漁家では、その下層ほど、系統からも市中
金融機関からも見放され、必然的に
個人的な
融資に頼らざるをえない現状をはっきりと認識させている。」、こういう現状分析を調査のデータの中からいたしておられるわけであります。
で、八二ページでは一応要約して次のようにいうております。「負債が流動しているか、固定しているかによって」——まあ流動しているかというのは、この調査の場合は、期限が来ても返せないというもののうち流動負債部分と固定負債部分があるという分析の上に立っておるようであります。それによって「各
漁業階層の諸問題を論ずる場合三つのタイプに分けられる。第一のそれは養殖階層でその負債はきわめて流動的で、固定化しているものは例外的な存在である。」、これはわりあいに
信用度が高いということであります。「第三のタイプは、動力漁船
漁業階層で、負債の固定率は一〇%以下、流動率は四〇%以上で、養殖階層に劣るとはいえ、その負債は比較的流動的である。といえる。」、まあ中間層であります。「第三のタイプに属するものは、小型定置階層および無動力船階層である。このタイプでは負債流動率は三〇%以下、固定率は二〇%以上で、その負債はきわめて固定化している、こういうふうにまあ取り上げておるわけであります。
なお、抜粋外の各章にもさらに具体的な分析をやっておられるのでありますけれども、私はここで大臣にお伺いをしたいのは、こういう分析は、三十六年の
実態で、七千七百戸の調査対象漁家を
中心として零細な漁家を調べて出された数字でありますから、こういう
実態は、その後年次を経過いたしまして、その動向値を見るわけにはまいりませんが、同じ状態に置かれておると見てもあやまちはないのではないかと思います。また、その後における現時点までのこれら漁船漁家の漁獲高、所得の伸びというものと、これは
漁業の年次報告によりましても、たとえば多獲性大衆魚はこの五年間に、その金額と比率は五年前に比べて八割二分
程度にむしろ価格が下落をしておる、値下がりをしておるということが年次報告にも明らかに示されておる数字であります。したがって見ますと、この零細な
沿岸漁船漁家の立場からいたしますと、いまのソーセージの話でもありませんけれども、諸物価は軒並みにはね上がっておる。ここ三年の間で二割以上の消費者物価が値上がりがいたしておる。その多獲性大衆魚の値下がりは一割三分
程度も値下がりを来たしておる。こういう状態の中では、現時点をとってこの対象漁家を調べますと、おそらくこの調査時点における負債の重圧以上の重苦しい数字に押しつぶされておることが想像されるわけであります。それでまず、こういう点を
融資保証法の中では、そういう
実態を通じていかにお取り上げになられたのか、またなる御方針があるのか、大局的な立場からまず御所信のほどを伺いたいと思います。