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政府委員(泉
美之松君) ただいま議題となっておりまする
税理士法の一部を改正する
法律案につきましては、さきに提案の理由を申し上げておるのでございますが、補足して御
説明申し上げたいと存じます。
現行の税理士
制度は、御
承知のように、
昭和二十六年に公布施行されました
税理士法に基づいておるのでありますが、この
法律の施行後十数年間を経ております。その間社会経済情勢及び税制の上に著しい変化が加えられておるのでございます。これらの社会情勢の推移及び税制の変更に即応した税理士の
制度を確立する必要があると認められるに至ったのであります。このため、
政府といたしましては、さきに
昭和三十六年に
税理士法の一部改正の際の国会における
附帯決議の御趣旨を尊重いたしまして、税理士
制度各般にわたり根本的な再検討を加えることといたしまして、三十七年に設けられました税制
調査会におきまして税理士
制度につきまして鋭意検討を加えてまいりましたが、昨年末同
調査会から税理士
制度に関する答申を受けました。
政府は、この答申を尊重しつつさらに検討を加えた結果、ここにこうした内容の
法律案を提出することになった次第でございます。
この
法律案の内容を申し上げますと、改正の第一は、税理士の職務が、中正な
立場におきまして、納税義務者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現に資するという重要な意義を有していることにかんがみまして、税理士の地位の向上とその業務運営の適正化をはかり、もって納税義務者から信頼されるりっぱな税理士として納税義務者の援助を一そう充実することになるよう、所要の改正を加えたことでございます。
すなわち、その第一点は、税理士の業務につきまして、その範囲を拡大することとした点であります。税理士業務の対象となる租税の種類につきましては、現在、所得税、法人税、相続税、贈与税、癖業税、市町村民税、固定資産税などの税目に限定されておりますが、これは
昭和三十七年に物品税等間接税が申告納税
制度に移る前に定められたものでございまして、現在の租税
制度から
考えますと、これは適当でないと
考えられますので、今回登録税、印紙税及び
地方税のうち法定外普通税、それから関税、とん税及び特別とん税といった特殊例外的なものを除きましては、広く国税及び
地方税の全般を税理士業務の対象税目とすることといたしておるのでございます。
次に第二点は、税理士業務に新たに二つの
制度を加え、納税者の信頼に一そうこたえることができるようにしたことでございます。
その一つは、税務書類の審査に関する書面添付
制度の創設であります。すなわち、納税者の作成した租税の課税標準等を記載した申告書につきまして、納税者から相談を受けてこれを審査し、その中告訴が適正に作成されていると判断しました場合には、その旨を記載した書面を申告井に添付することができる
制度を設けたのでございまして、これによって表明された税理士の専門的な
意見を尊重するため、こうした書面の添付のある申告井につきましては、税務官公署において更正しようとする場合には、あらかじめ当該税理士の
意見を徴しなければならないことといたしておるのでございます。
その二は、会計業務に関する規定の新設でございまして、税理士の業務は会計業務を基礎とするものが多いのでありますが、従来この点に関する税理士の地位が明確を欠いておりましたので、今回、税理士は、付随業務として、税理士の名称を用いて財務書類の調整、財務に関する相談等の会計業務を行なうことができる旨を明らかにいたしておるのでございます。
次に、第三点は、納税者が税理士に税務代理を委任した場合、税務
調査に際しまして税理士が立ち会うことが納税者にとって望ましいわけでありまして、このために現在税理士に対する
調査の事前通知の
制度がございますが、今回、この通知の対象となる申告書の範囲につきまして、先ほど申し上げましたように、所得税、法人税、相続税及び贈与税の場合に限定されている点を改めまして、業務対象範囲が拡大されることに応じまして、すべての税目の申告書にこれを拡大することとし、納税者に一そうの信頼感を与えることといたしておるのでございます。
なお、計算事項等を記載した書面の添付
制度の対象となる申告書の範囲につきましても、現行の所得税、法人税、相続税及び贈与税の確定申告書等に限定されている点を改め、申告納税
制度による税目の申告書に拡大することといたしております。
次に、第四点は、いわゆるにせ税理士行為の発生を防止して、税理士業務の運営の適正化に資するため、税理士事務所の設置を一人一カ所に限定する原則を一そう徹底させることといたしますとともに、税理士事務所につき統一的な名称を付することといたしました。また、税理士の使用人に対する監督義務に関する規定を新設するなどの改正を行なうこととしておるのであります。
次に、第五点は、税法がしばしば改正されることとも関連いたしまして、税理士業務の適正な遂行に誤りなきを期するとともに、税理士の資質の一そうの向上をはかるため、日本税理士会連合会の統一的な管理のもとに、税理士に対し定期的に所要の研修を行なうこととするための改正をいたしておるのでございます。
なお、このこととも関連いたしまして、税理士業務に関する行政監督は、できるだけ税理士会の自主的運営を尊重しつつこれをはかっていくというあり方を一そう推進するために、まず、税理士業務に関する報酬につきましては、現在国税庁長官がこれを定めることとなっておりますのを改めまして、税理士会の会則においてこれを定めることとし、また、いわゆる通知弁護士につきましても、新たに税理士会に入会し得る道を開くことといたしております。
次に、第六点は、税務職員から税理士となった者に対し、税理士業務の一そうの適正化をはかるための改正を行なっている点であります。すなわち、現在は、税務職員であった者は、離職後一年間、離職前一年内に占めていた職の所掌に属すべき事件については税理士業務を行なってはならないとされておるのでありますが、今回この制限期間を離職後二年間に延長いたしますとともに、現在は国税庁長官の承認を受けた場合はこの禁止の例外
措置が設けられておるのでありますが、この承認の基準が明確でありませんので、これを
法律上明確にすることといたしております。
次に、第七点は、税理士に対する懲戒処分について、運営の適正化に資するための改正でございます。すなわち、懲戒処分の手続を一そう慎重にするため、新たに国税庁に学識経験者二名、税理士二名、国税及び
地方税の職員二名の合計六名からなる懲戒審査会を設け、国税庁長官が懲戒処分を行なうに際しましては、あらかじめこの審査会の
意見を徴することにいたしておるのでございますが、なお、この点につきましては、先ほど御
説明がございましたとおり、衆議院におきまして、国税庁長官が懲戒処分を行なう場合には、懲戒審査会の議決に基づいてこれを行なうように修正されております。なお、懲戒処分の効力の発生につきましては、従来必ずしも明確でございませんでしたので、今回懲戒処分を知ったときから効果が発生することを明らかにいたしております。
次に、第八点は、税理士の自覚と自主性を一そう高めるための改正でございます。すなわち、税理士の職務につきましては、現在税理士の職責として第一条に規定されておりますが、これを「税理士の使命」として規定することといたしますほか、税理士が税理士業務に関して備えつける帳簿につきまして、記載事項を簡素合理化するとともに、その義務違反に対する刑事罰の規定につきましては、これを廃止することといたしておるのでございます。
次に、改正の第二の大きな眼目は、税理士業務の定義につきまして、誠実な納税運動の推進に支障のないよう配意しつつ所要の改正を行なうこととした点であります。すなわち、税理士業務は、税務代理、税務書類の作成及び税務相談の三つからなっておりますが、現行規定には必ずしも明確でない点がございますので、税理士の独占業務としての税理士業務の範囲に明確さが欠けておるのであります。そのために、業務の取り締まり及び納税者団体等による誠実な納税運動の推進に支障を来たしておるように見受けられますので、これら両者の調整をはかりつつ、規定の整備を行なうことといたしておるのであります。これによりまして、税務代理には代理及び代行を含むこと、税務書類には通常の決算書類は含まれないこと、また税務相談には申告に際しての個別相談をいうことなどを明らかにいたしておるのでございます。
次に、改正の第三の大きな眼目は、税理士となる資格についての改正であります。
現行の
制度では、弁護士及び公認会計士のほかは、税理士試験を経て税理士の資格を与えることといたしておるのでありますが、税理士試験は、
一般試験と特別試験とに区分されて行なわれております。
一般試験は、まず受験資格を、一定範囲に限定した上、税法と会計学につき行なうものであります。また、特別試験は、一定の実務経験を有する税務職員等について、実務を主とした事項につき行なうものでございます。
このような現行の税理士試験のうち、
一般試験につきましては、本試験一本で、しかも科目別に合格を判定することとなっており、かつまた、数多くの一部科目の免除
制度がありますために、
制度が複雑となっておるほか、受験者の数もきわめて多く、勢いその試験問題もいたずらに暗記力にたよるむずかしい試験になりやすく、反面、実務応用能力を十分に反映しがたい欠陥がありまして、職業専門家としての資格を判定する試験
方法としては、必ずしも適切でない面が見受けられるのであります。そこで今回、他の立法例をも参考としつつ、まず
一般試験についてその整備改善をはかることといたしました。
すなわち、まず、税理士試験につきましては、受験資格の制限を廃止いたしました。これを予備試験及び本試験に分け、予備試験は本試験を受けるのに
相当な
一般的教養を有するかどうかを判定することを目的とし、国語及び社会について短答式によってこれを行なうことといたしております。もっとも、この場合、大学卒業者等一定の資格を有する者につきましては、その試験を免除することとし、また一度予備試験に合格した者につきましては、その後予備試験を免除することといたしておるのであります。
次に、本試験でございますが、本試験は、税理士となるのに必要な専門的知識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的としておるのでありますが、この場合実務応用能力の判定に重きを置くこととするため、まず、基礎的な素養の判定を、国税
一般、
地方税
一般、
税理士法、民法及び商法並びに会計学の五科目について短答式よってこれを行なうこととし、この合格者に対しまして、所得税法、法人税法の二科目と、相続税法、酒税法、物品税法、国税徴収法、
地方税法のうち道府県民税及び市町村民税に関する部分、
地方税法のうち事業税に関する部分、
地方税法のうち固定資産税に関する部分の各税法並びに簿記及び財務諸表論のうち受験者のあらかじめ選択する三科目の合計五科目につきまして、試験場に税法を備えつけた上、実務応用問題による試験を行なうこととしておるのであります。なお、一度短答式による試験に合格した者は、その後五年間は、短答式試験を受けることなく、実務応用問題による試験のみを受ければいいことといたしております。
この改正案による税理士試験は、準備の都合もあり、
昭和四十年から実施することといたしておりますが、従来の試験による一部科目の合格者等に対する既得権を十分尊重するとともに、この試験
制度の改正により受験者に与える影響を緩和する趣旨から、経過
措置として、まず
昭和三十九年十二月三十一日現在においてすでに改正前の税理士試験の試験科目の一部科目に合格している者及び改正前の
税理士法において一部科目を免除されることとなっている者に対しましては、新税理士試験施行後五年間は、本試験のうちの実務応用問題についての試験のみを受ければよいこととするとともに、その受験すべき科目は、旧税理士試験の試験科目によることといたしております。なお、この場合、すでに合格しまたは免除されている科目については、その試験を免除することといたしております。さらに、この点につきましては、先ほど衆議院の修正がございます。ことを御報告されておりますが、十二月三十一日現在大学院に在学いたしておりまして、
昭和四十一年三月三十一日までの間に、
法律学、財政学または商学に関する研究によりまして学位を授与された者につきましては、試験科目免除
措置として扱うように修正を加えられておるのであります。さらに、新税理士試験施行後三年間は、本試験のうち実務応用問題についての試験の合格者の決定
方法は、新たな受験者をも含め従来どおりの科目別判定の
制度によることいたしております。
次に、税務実務経験者に対する資格付与のあり方に関する改正であります。
税理士の業務は、先ほど申し上げましたように、会計業務が基礎になっておるのでありますが、税務官公署との税務折衝という点に特色を有する専門実務家としての業務でありますので、わが国の他の職業専門家に関する立法例や外国の税理士
制度を
考えてみますと、行政庁に対する事務折衝を中心とする職業専門家の場合におきましては、通常の試験
制度のほか、当該行政庁において一定の実務経験を積んだものを資格者の中に含めている例が多いのであります。また、現在の税理士
制度におきましても、勤続十年ないし十五年の税務職員に対しましては、
一般試験において税法の試験を免除することといたしております。またさらに、勤続三十年
——地方税職員の場合には二十五年でありますが、勤続二十年以上の税務職員に対しましては、
一般試験にかえて、会計に関する実務を中心とした特別税理士試験のみを行なうことといたしておるのであります。
そこで、今回、右のような試験免除に関する現行の特例等を整理いたしますとともに、職業専門家に関する他の立法例を参考として、行政庁における専門的実務経験を重視した改正を行なうことが適当であると
考えたのであります。しかし、同時に、この場合、税理士業務の性質にもかんがみまして、その資格はかなりきびしく限定するのが適当であると
考えられます。このような趣旨から、税務官公署における国税事務にもっぱら従事した期間が通算して二十年以上、または
地方税事務にもっぱら従事した期間が通算して二十五年以上になる者であって、かつ、当該事務を管理監督する一定の責任のある地位にあった期間が通算して五年以上となる者のうち、税理士試験審査会により主として簿記に関する実務につきその必要と認める口頭試問によって税理士試験合格者と同等以上の学識を有する旨の認定を受けた者につきましては、税理士となる資格を付与することといたしておるのでございます。
そのほか、税理士試験の実施機関として、従来、税理士試験
委員となっておりましたが、今回税理士試験審査会の
制度に改めることなど、所要の規定の整備改善をはかっておるのでございます。
以上、
税理士法の一部を改正する
法律案につきまして、
補足説明を申し上げた次第でございます。